説明

超高強度コンクリート組成物およびその製造方法

【課題】高強度であって、且つ施工性に優れ、硬化遅延を効果的に抑制した超高強度コンクリート組成物の提供。
【解決手段】シリカフュームを含むセメントと、マレイン酸系界面活性剤を、前記シリカフュームを含むセメント100質量部に対し固形分換算で0.2〜3.5質量部含有し、亜硝酸カルシウムを前記マレイン酸系界面活性剤の固形分に対し質量比で20〜40%含む水溶液と、を含有することを特徴とする超高強度コンクリート組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超高強度コンクリート組成物およびその製造方法、特には、高強度(例えば、100N/mm以上の強度を有する超高強度)であって、且つ施工性に優れ、硬化遅延を効果的に抑制した超高強度コンクリート組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造建築物の部材断面を顕著に縮小することを目的として、粒径1μm以下のシリカフュームを乾式混合したセメントを、練り混ぜ水と質量比で10〜25%で混合した超高強度コンクリート、およびこれに直径1mm以下の鋼繊維を混入した鋼繊維補強超高強度コンクリートが知られている。当該コンクリートでは、i)施工性および製品の品質を確保するために要するセメントおよび水の、構成材料中における均質な分散性を得るために界面活性剤の使用量が嵩む、ii)セメントの硬化遅延を誘発し、工程の遅延を伴う、iii)最終的な水和を促進するためには、加熱・加圧・加湿等の特殊養生を要する、等の欠点を有する。
【0003】
また、練り混ぜに要する時間が短いこと、流動性の経時的低下(スランプロス)が小さいこと、粘性が低いこと、得られる硬化体の自己収縮が小さいこと、得られる硬化体が所望通りの高強度を発現すること、との複数の性能を同時に充足することを目的として、以下の界面活性剤を用いる例が示されている。該界面活性剤として、非水系で無水マレイン酸と特定のアリルエーテル単量体とを所定割合で含有するラジカル重合性単量体混合物のラジカル共重合反応を、重合転化率が50〜90%となる反応途中で停止し、生成した共重合体と残存する単量体とを含有する反応混合物を部分または完全中和した界面活性剤を用いる方法である(例えば、特許文献1参照)。
しかし、高強度であると共に、施工性に優れ、硬化遅延を効果的に抑制した、とのいずれの性能をも満足する超高強度コンクリート組成物は得られておらず、更なる改良が望まれていた。
【特許文献1】特開2005−132670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高強度であって、且つ施工性に優れ、硬化遅延を効果的に抑制した超高強度コンクリート組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。
即ち、本発明の構成は以下の通りである。
<1> シリカフュームを含むセメントと、マレイン酸系界面活性剤を、前記シリカフュームを含むセメント100質量部に対し固形分換算で0.2〜3.5質量部含有し、且つ亜硝酸カルシウムを前記マレイン酸系界面活性剤の固形分に対し質量比で20〜40%含む水溶液と、を含有することを特徴とする超高強度コンクリート組成物である。
【0006】
<2> 水セメント比が質量比で10〜25%であることを特徴とする前記<1>に記載の超高強度コンクリート組成物である。
【0007】
<3> シリカフュームを含むセメントと、マレイン酸系界面活性剤を、前記シリカフュームを含むセメント100質量部に対し固形分換算で0.2〜3.5質量部含有し、且つ亜硝酸カルシウムを前記マレイン酸系界面活性剤の固形分に対し質量比で20〜40%含む水溶液と、を含有する超高強度コンクリート組成物の製造方法であって、前記亜硝酸カルシウムと、前記マレイン酸系界面活性剤と、該マレイン酸系界面活性剤におけるマレイン酸を完全中和するのに要する量の苛性ソーダと、を混合して混合液を調製する第1工程と、第1工程にて得られた混合液、水、および前記シリカフュームを含むセメントを混合する第2工程と、を有することを特徴とする超高強度コンクリート組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高強度であって、且つ施工性に優れ、硬化遅延を効果的に抑制した超高強度コンクリート組成物およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の超高強度コンクリート組成物は、シリカフュームを含むセメントと、マレイン酸系界面活性剤を、前記シリカフュームを含むセメント100質量部に対し固形分換算で0.2〜3.5質量部含有し、且つ亜硝酸カルシウム(Ca(NO)を前記マレイン酸系界面活性剤の固形分に対し質量比で20〜40%含む水溶液と、を含有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の超高強度コンクリート組成物の製造方法は、上記本発明の超高強度コンクリート組成物を製造する方法であって、前記亜硝酸カルシウムと、前記マレイン酸系界面活性剤と、前記マレイン酸系界面活性剤におけるマレイン酸を完全中和するのに要する量の苛性ソーダと、を混合して混合液を調製する第1工程と、第1工程にて得られた混合液、水、および前記シリカフュームを含むセメントを混合する第2工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
ここで、本発明の作用は、必ずしも明確ではないが以下のように推察される。
マレイン酸系界面活性剤に亜硝酸カルシウムを配合することにより、セメントに含まれる硫酸イオンにカルシウムイオンが選択吸着して、セメントペースト中の硫酸イオン濃度が低減され、マレイン酸系界面活性剤が効果的にセメントに吸着することによってセメントの分散性が向上する。分散性の向上によってコンクリート組成物の流動性が向上し、コンクリートの打設が容易となる点等の施工性の向上が図られるものと推察される。
【0012】
また、亜硝酸カルシウムをコンクリート中に効果的に分散させるため、前述の通り水溶液として混入するが、マレイン酸系界面活性剤と一液化した状態で、大気中で長期間保存し、該水溶液のpHが7未満になると、亜硝酸カルシウムから有害な窒素酸化物(NO)を生じることから、マレイン酸系界面活性剤におけるマレイン酸を完全中和するのに要する量の苛性ソーダを添加することが好ましい。尚、マレイン酸を完全中和し、長期的に安定保存するのに要する苛性ソーダの量としては、マレイン酸のモル数に対して2倍の量を推奨する。
尚、一般に、苛性ソーダを添加すると、未硬化時の施工性の低下速度が早くなる。そのため、施工性の向上における本発明の作用は、モル数が少ない界面活性剤、または、所定の可塑性を得るための含有量が少ない界面活性剤、を用いることによってより効果的に得られるものである。
【0013】
但し、亜硝酸カルシウムの配合量がマレイン酸系界面活性剤に対する質量比で40%を超えると、高強度コンクリート組成物の流動性を低下させ、施工性を低下させる。また、亜硝酸カルシウムの配合量がマレイン酸系界面活性剤に対する質量比で20%未満となると、コンクリート組成物の品質変動の影響により、特に界面活性剤の使用量が少なくなるほどコンクリート工学的に有意差が認められなくなる。
【0014】
また、亜硝酸カルシウムは、カルシウムイオンとゲル中のナトリウムイオンのイオン交換によって、フレッシュコンクリートのpHを低減し、セメントからの水酸化カルシウムの溶出を促進することで、カルシウムイオン濃度のピーク到達材齢を早め、初期の水和を促進するものと推察される。水和の促進によって、硬化遅延が抑制され、低温環境での施工や、塔状構造物の連続施工、打設から脱型までのタイムスパンが短いプレキャストコンクリート工場での施工等において、工期が短縮され施工が合理化される。
【0015】
また特に、水セメント比が質量比で10〜25%である超高強度コンクリート組成物(例えば、100N/mm以上の圧縮強度を示すコンクリート組成物)は、構造体の一軸圧縮強度(JIS A 1132、1108に準拠)に関して、材齢1週で長期材齢の約9割の圧縮強度が発現する。そのため、主に初期の水和を促進する亜硝酸カルシウムを最適量混入した場合、必ずしも長期強度は低下せず、むしろ、増加する場合を生じる。
【0016】
また更に、本発明の超高強度コンクリート組成物は、鋼繊維を混入した場合にも、好ましい効果が得られる。
鋼繊維を混入したコンクリート組成物では一般にモルタルによって表層を被覆するが、モルタルとコンクリートとの付着は不完全で耐用年数は短く、モルタルの浮き・剥離・剥落を生じることがある。これに対し、亜硝酸カルシウムを含有することにより、モルタルの浮き等が生じた部位においても、亜硝酸カルシウムが防錆剤として作用し、発錆を予防することができる。
【0017】
<超高強度コンクリート組成物>
次いで、本発明の超高強度コンクリート組成物を構成する各材料ついてより詳細に説明する。
【0018】
・亜硝酸カルシウム(Ca(NO
本発明の超高強度コンクリート組成物では、マレイン酸系界面活性剤と亜硝酸カルシウムとを含む水溶液が含有される。
尚、亜硝酸カルシウムは界面活性剤の固形分に対する含有量が質量比で40%を超えると、高強度コンクリート組成物の流動性を低下させ、施工性を低下させる。また20%未満となると、コンクリート組成物の品質変動の影響により、特に界面活性剤の使用量が少なくなるほどコンクリート工学的に有意差が認められなくなる。
尚、亜硝酸カルシウムの界面活性剤に対する最適な配合量は、水セメント比や雰囲気温度等の他の要因によっても異なり、例えば、雰囲気温度2℃においては、水セメント比が14質量%の調合では質量比で20%程度、水セメント比が20質量%では40%程度になる。また、雰囲気温度がより高くなると、亜硝酸カルシウムの配合量を減じてもよいが、実施工において、硬化遅延が問題となる事例も減るため、前述した品質変動の影響も鑑みて、配合量を定めるのが望ましい。
【0019】
・マレイン酸系界面活性剤
上記マレイン酸系界面活性剤は、後述のシリカフュームを含むセメント100質量部に対し固形分換算で0.2〜3.5質量部となる量を用いることを必須の要件とする。尚、上記使用量は、更に1.0〜2.5質量部であることがより好ましい。
上記マレイン酸系界面活性剤の使用量が、上記下限値未満である場合、(1)必要な可塑性が得られず、未硬化時の施工性が劣り、硬化後の品質が低下すること、(2)亜硝酸カルシウムを含む全材料に関して、必要な攪拌混合が行えず、均一な品質が確保できないこと等の欠点がある。一方、上記上限値を超える場合、(1)材料分離抵抗性が得られず、未硬化時の施工性が劣り、硬化後の品質が低下すること、(2)セメントの硬化遅延を誘発するため、所定の性能を得るのに必要な亜硝酸カルシウムの混入量が増えること等の欠点がある。
【0020】
上記マレイン酸系界面活性剤は、超高強度コンクリートの製造時に最も多用されているポリカルボン酸系界面活性剤に分類されるものである。
【0021】
中でも、特定のマレイン酸系界面活性剤は、カルボキシル基の含有率が高く、側鎖長が長いため、硫酸イオンの影響を受けにくく、分散性に特化して、亜硝酸カルシウムの使用量を最小限に抑制することができるとの観点から、好ましく用いられる。
以下に好適に用いられる、マレイン酸系界面活性剤の構成と、同界面活性剤の製造工程の概要を示す。
【0022】
1)下記の工程(A)と工程(B)とを経て得られる反応混合物(界面活性剤)
2)更に下記の工程(C)を経て得られる該反応混合物の部分または完全中和処理物
以上の1)および2)から選ばれる一種または二種以上。
【0023】
工程(A):非水系にて、非水系ラジカル重合開始剤の存在下に、無水マレイン酸と下記一般式(I)で示される単量体とを合計で97モル%以上含有し且つ無水マレイン酸/下記一般式(I)で示される単量体=50/50〜70/30(モル比)の割合で含有するラジカル重合性単量体混合物のラジカル共重合反応を開始する工程。
【0024】
工程(B):工程(A)で開始したラジカル共重合反応を、下記式(i)で示される重合転化率が50〜90%となる反応途中で、その反応系に水を加えて停止し、生成した共重合体と残存する単量体とを含有する反応混合物(界面活性剤)を得る工程。
【0025】
工程(C):工程(B)で得た反応混合物を、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物およびアミン類から選ばれる一つまたは二つ以上で部分または完全中和処理して、該反応混合物の部分または完全中和処理物を得る工程。
【0026】
一般式(I)
CH=CH−CH−O−A−O−R
【0027】
一般式(I)において、
R:メチル基、アセチル基または水素原子
A:1〜150個のオキシエチレン単位または合計2〜150個のオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成された(ポリ)オキシアルキレン基を有する(ポリ)アルキレングリコールから全ての水酸基を除いた残基
【0028】
式(i)
重合転化率:{(TM−UM)/TM}×100
【0029】
式(i)において、
TM:工程(A)においてラジカル共重合反応を開始するときのラジカル重合性単量体混合物の総質量
UM:工程(B)においてラジカル共重合反応を停止したときの残存する単量体の総質量
【0030】
工程(A)は、非水系にて、非水系ラジカル重合開始剤の存在下に、ラジカル重合性単量体混合物のラジカル共重合反応を開始する工程である。ラジカル重合性単量体混合物としては、無水マレイン酸と一般式(I)で示される単量体とを合計で97モル%以上、好ましくは100モル%含有し且つ無水マレイン酸/一般式(I)で示される単量体=50/50〜70/30(モル比)の割合、好ましくは55/45〜65/35(モル比)の割合で含有するものを用いる。
【0031】
一般式(I)で示される単量体において、一般式(I)中のRとしては、メチル基、アセチル基または水素原子が挙げられるが、中でもメチル基、アセチル基が好ましい。
【0032】
また一般式(I)で示される単量体において、一般式(I)中のAとしては、1)分子中にオキシエチレン単位のみで構成された(ポリ)オキシエチレン基を有する(ポリ)エチレングリコールから全ての水酸基を除いた残基、2)分子中にオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とで構成された(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン基を有する(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールから全ての水酸基を除いた残基が挙げられるが、1)の場合が好ましい。2)の場合には、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位との結合様式は、ランダム結合、ブロック結合のいずれでもよいが、ランダム結合が好ましい。Aを構成するオキシエチレン単位等のオキシアルキレン単位の繰り返し数は1〜150とするが、15〜90とするのが好ましい。
【0033】
したがって、一般式(I)で示される単量体としては、一般式(I)中のRがメチル基またはアセチル基であり、またAが15〜90個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するポリエチレングリコールから全ての水酸基を除いた残基である場合のものがより好ましい。
【0034】
以上説明した一般式(I)で示される単量体の具体例としては、1)α−アリル−ω−メトキシ−(ポリ)オキシエチレン、2)α−アリル−ω−メトキシ−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、3)α−アリル−ω−アセチル−(ポリ)オキシエチレン、4)α−アリル−ω−アセチル−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン、5)α−アリル−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン、6)α−アリル−ω−ヒドロキシ−(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレンが挙げられる。
【0035】
工程(A)で用いるラジカル重合性単量体混合物は、無水マレイン酸と一般式(I)で示される単量体とを合計で97モル%以上、好ましくは100モル%含有するものであり、言い換えれば、他のラジカル重合性単量体を3モル%以下の範囲内で含有することができるものである。かかる他のラジカル重合性単量体としては、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸塩、アクリル酸アルキル、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸塩等が挙げられる。
【0036】
工程(A)は、以上説明したラジカル重合性単量体混合物に非水系ラジカル重合開始剤を加え、非水系にてラジカル共重合反応を開始する工程である。非水系にてラジカル共重合反応を開始する方法には、1)溶剤を用いないで、ラジカル重合性単量体混合物のラジカル共重合反応を開始する方法、2)ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、ジオキサン等の非水系溶剤を用い、かかる非水系溶剤にラジカル重合性単量体混合物を溶解してラジカル共重合反応を開始する方法が挙げられるが、1)の方法が好ましい。1)の方法では例えば、ラジカル重合性単量体混合物を反応缶に仕込み、これに窒素雰囲気下で非水系ラジカル重合開始剤を加え、40〜60℃に加温してラジカル共重合反応を開始させる。工程(A)で用いる非水系ラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0037】
工程(B)は、工程(A)で開始したラジカル共重合反応を、式(i)で示される重合転化率が50〜90%となる反応途中で、その反応系に水を加えて停止し、生成した共重合体と残存する単量体とを含有する反応混合物を得る工程である。工程(B)では、工程(A)で開始したラジカル共重合反応を、式(i)で示される重合転化率が50〜90%、好ましくは65〜85%となる反応途中で停止する。ラジカル共重合反応を、式(i)で示される重合転化率が50〜90%、好ましくは65〜85%となる反応途中で停止する方法としては、1)反応系から反応混合物の一部を一定時間ごとに採取し、GPCや高速液体クロマトグラフィー等の迅速分析法で生成した共重合体と残存する単量体の割合を求め、求めた数値を用いて重合転化率を算出して、ラジカル共重合反応を停止する時間を決定する方法、2)予め反応系に用いる攪拌機のトルクと重合転化率との関係を求めておき、その関係を基に所望の重合転化率に相当するトルクとなる時間で、ラジカル共重合反応を停止する方法、3)予めラジカル共重合反応の時間と重合転化率との関係を求めておき、その関係を基に所望の重合転化率に相当する時間で、ラジカル共重合反応を停止する方法等が挙げられるが、装置の自由度や簡便さ等から前記3)の方法が好ましい。式(i)で示される重合転化率が50〜90%の範囲となる反応途中でラジカル共重合反応を停止したものを界面活性剤として用いることにより、前記したような複数の性能を同時に充足する超高強度コンクリート組成物をより効率的に調製することができる。
【0038】
工程(A)でラジカル共重合反応を開始するときの温度、また工程(B)でラジカル共重合反応を途中で停止するまで続けるときの温度は、特に制限されないが、60〜90℃とするのが好ましい。また工程(B)において、ラジカル共重合反応を途中で停止するために加える水の量は、特に制限されないが、原料の無水マレイン酸1モルに対して2〜10モルとするのが好ましい。
【0039】
かくして工程(B)では、生成した共重合体と残存する単量体とを含有する反応混合物を得る。反応混合物中に含まれてくる生成した共重合体は、工程(A)のラジカル共重合反応に供したラジカル重合性単量体混合物からすれば、分子中に少なくとも無水マレイン酸から形成された構成単位と一般式(I)で示される単量体から形成された構成単位とを有するものとなるが、工程(B)で該ラジカル共重合反応をその反応途中で水を加えて停止するため、結果として、無水マレイン酸から形成された構成単位はそれが加水分解された形のマレイン酸から形成された構成単位となる。同様に、反応混合物中に含まれてくる残存する単量体は、工程(A)のラジカル共重合反応に供したラジカル重合性単量体混合物からすれば、少なくとも無水マレイン酸および/または一般式(I)で示される単量体を含有するものとなるが、工程(B)で該ラジカル共重合反応をその反応途中で水を加えて停止するため、結果として、無水マレイン酸はそれが加水分解された形のマレイン酸となる。
【0040】
工程(B)において、反応混合物中に含まれてくる前記したような共重合体は、その分子量が特に制限されるというものではないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCという)による重量平均分子量の測定において、ピークトップのプルラン換算した重量平均分子量(以下、単に重量平均分子量という)で30000〜45000の範囲内にあるものとするのが好ましい。かかる重量平均分子量の調節は、工程(A)で用いる非水系ラジカル重合開始剤の種類および使用量、また工程(A)や工程(B)で必要に応じて加えるラジカル連鎖移動剤の種類および使用量、更に工程(A)から工程(B)におけるラジカル共重合反応時の温度および時間等を適宜選択することによりなし得る。
【0041】
工程(C)は、工程(B)で得た反応混合物を、塩基性化合物で部分または完全中和処理して、該反応混合物の部分または完全中和処理物を得る工程である。かかる塩基性化合物としては、1)水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、2)水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、3)アンモニア、トリエタノールアミン等のアミン類が挙げられるが、アルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0042】
このうち、好ましく用いられるものとしては、以下の工程を経て得られる下記混和剤(A−1)(A−2)(A−3)である。
・混和剤(A−1):下記の第1工程及び第2工程を経て得られる反応混合物。
第1工程:非水系にて、溶剤を用いることなく、アゾビスイソブチロニトリルの存在下に、無水マレイン酸とα−アリル−ω−メチル−ポリ(オキシエチレン単位のモル数33、以下n=33という)オキシエチレンとからなり且つ無水マレイン酸/α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=33)オキシエチレン=60/40(モル比)の割合で含有するラジカル重合性単量体混合物のラジカル共重合反応を開始する工程。
第2工程:第1工程で開始したラジカル共重合反応を、式(i)で示される重合転化率が83%となる反応途中で、その反応系に水を加えて停止し、生成した重量平均分子量38000の共重合体と、残存する単量体としてマレイン酸及びα−アリル−ω−メチル−ポリ(n=33)オキシエチレンとを含有する反応混合物を得る工程。
【0043】
・混和剤(A−2):下記の第1工程及び第2工程を経て得られる反応混合物。
第1工程:非水系にて、溶剤を用いることなく、アゾビスイソブチロニトリルの存在下に、無水マレイン酸とα−アリル−ω−メチル−ポリ(n=68)オキシエチレンとからなり且つ無水マレイン酸/α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=68)オキシエチレン=60/40(モル比)の割合で含有するラジカル重合性単量体混合物のラジカル共重合反応を開始する工程。
第2工程:第1工程で開始したラジカル共重合反応を、式(i)で示される重合転化率が78%となる反応途中で、その反応系に水を加えて停止し、生成した重量平均分子量40300の共重合体と、残存する単量体としてマレイン酸及びα−アリル−ω−メチル−ポリ(n=68)オキシエチレンとを含有する反応混合物を得る工程。
【0044】
・混和剤(A−3):下記の第1工程及び第2工程を経て得られる反応混合物。
第1工程:非水系にて、溶剤を用いることなく、アゾビスイソブチロニトリルの存在下に、無水マレイン酸とα−アリル−ω−メチル−ポリ(n=80)オキシエチレン−ポリ(オキシプロピレン単位のモル数5、以下m=5という)オキシプロピレンとからなり且つ無水マレイン酸/α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=80)オキシエチレン−ポリ(m=5)オキシプロピレン=55/45(モル比)の割合で含有するラジカル重合性単量体混合物のラジカル共重合反応を開始する工程。
第2工程:第1工程で開始したラジカル共重合反応を、式(i)で示される重合転化率が68%となる反応途中で、その反応系に水を加えて停止し、生成した重量平均分子量34000の共重合体と、残存する単量体としてマレイン酸及びα−アリル−ω−メチル−ポリ(n=80)オキシエチレン−ポリ(m=5)オキシプロピレンとを含有する反応混合物を得る工程。
【0045】
・シリカフューム
本発明の超高強度コンクリート組成物では、シリカフュームを含むセメントが含有される。
好適に用いられるシリカフュームとしては、粉体状または顆粒状のどちらの形態でも用いることができる。また、シリカフュームは、二酸化ケイ素を質量比で80%以上含有し、且つBET法による比表面積が15〜25m/gのものが好適である。
二酸化ケイ素の含有量が80質量%を下回ると、ポゾラン反応性が低下し、強度発現が劣る場合がある。また、比表面積が上記範囲を外れると、増減の別なく、流動性および混練性が低下する場合がある。従って、所定の物性を得るのに適した材料構成、特に界面活性剤の所要量が変わり、必ずしも、実用に適したコンクリート組成物が得られない。
【0046】
・セメント
セメントとしては、上記のシリカフュームを低熱系ポルトランドセメントと乾式で混合したセメント(製品の具体例としては、例えばシリカフュームセメント(三菱マテリアル(株)製))が好ましい。
また、(1)攪拌混合時間を延長すること、(2)界面活性剤の使用量を増すこと、(3)上記シリカフュームをセメント75〜95質量部に対して5〜25質量部(即ちセメントと混合後に100質量部となる量)ミキサにおいて湿式で混合することを条件として、低熱系ポルトランドセメントも利用することができる。
ただし、所定の物性を得るのに適した材料構成、特に界面活性剤の所要量が変わり、必ずしも、実用に適したコンクリート組成物が得られないことから、前者のシリカフュームを低熱系ポルトランドセメントと乾式で混合したセメントがより好ましい。
【0047】
・混合
シリカフュームをセメントに混合する方法としては、従来公知の方法を適宜用いることができ、例えば、特開平8−91885に記載の方法に準拠して行うことができる。
【0048】
・水セメント比
水セメント比とは、上記超高強度コンクリート組成物において、添加されるセメントの総量に対する水の総量の比率を表す。ここに、上記シリカフュームはセメントの質量部に含まれるものとして扱う。
本発明の超高強度コンクリート組成物においては、水セメント比が質量比で10〜25%であることが好ましく、更には10〜15%であることがより好ましい。水セメント比が質量比で10%以上であることにより、コンクリート製造のための攪拌時の、各構成材料の分散性が保持されるとの利点が得られる。一方、25%以下であることにより、実用時に、硬化遅延が問題となる事例が増加し、亜硝酸カルシウムを配合するメリットが具体化する利点がある。
【0049】
・その他の構成材料
また、本発明の超高強度コンクリート組成物に添加しうるその他の構成材料としては、鋼繊維、細骨材、粗骨材、消泡剤、有機繊維等が挙げられる。
【0050】
本発明の超高強度コンクリート組成物では、鋼繊維を混入することができる。尚、鋼繊維を混入したコンクリートでは、該鋼繊維による発錆を生じる懸念があるが、亜硝酸カルシウムを含有した本発明の超高強度コンクリート組成物では、該発錆を好適に予防することができる。
前記鋼繊維としては、例えば、特開平5−262544号公報等に記載の鋼繊維が好適に用いられる。
【0051】
前記細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、砕砂、珪砂、軽量骨材のうち1種または2種以上の混合品が挙げられ、粗骨材としては、川砂利、砂利、砕石、軽量骨材のうち1種または2種以上の混合品が挙げられる。
より効果的に高強度のコンクリートを得るためには、岩種、粒度、粒径、線膨張係数、絶乾密度、吸水率、反応性を最適化した砕砂、砕石を選定する必要がある。
特に骨材を厳選しない場合、所定の圧縮強度を得るための材料構成が変わるため、硬化が遅延する可能性があること、および、硬化遅延を改善した際も、実際の工程で有意性が認められない場合を生じる可能性がある。
【0052】
また前記消泡剤としては、脂肪族ポリエーテル系消泡剤、ポリエーテル変性シリコーン系消泡剤等が挙げられるが、なかでも安価で且つ少量の使用量で消泡効果のある脂肪族ポリエーテル系消泡剤が好ましい。かかる脂肪族ポリエーテル系消泡剤としては、炭素数が16〜20の脂肪族アルコールにエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを付加して得られるポリオキシアルキレングリコールモノアルキル(又はアルケニル)エーテルが挙げられる。
【0053】
前記有機繊維としては、ポリプロピレン、ビニロンなどの合成繊維が挙げられる。形状は、フラットヤーン、チョップド、ストランド、モノフィラメント等の短繊維とし、寸法は直径12〜200μm、長さ5〜20mmの範囲で選択する。
【0054】
<超高強度コンクリート組成物の製造方法>
次いで、前述の本発明の超高強度コンクリート組成物を製造する方法として好適な、本発明の超高強度コンクリート組成物の製造方法についてより詳細に説明する。
【0055】
(第1工程)
まず第1工程では、亜硝酸カルシウムと、マレイン酸系界面活性剤と、該マレイン酸系界面活性剤におけるマレイン酸を完全中和するのに要する量の苛性ソーダと、を混合して混合液を調製する。
尚、第1工程で用いられる亜硝酸カルシウムは、前記マレイン酸系界面活性剤に対し質量比で20〜40%となる量が用いられる。また、第1工程で用いられるマレイン酸系界面活性剤は、第2工程で混合されるシリカフュームを含むセメント100質量部に対して0.2〜3.5質量部となる量が用いられる。
【0056】
・苛性ソーダ
上記第1工程では、亜硝酸カルシウムによる有害な窒素酸化物(NO)の発生を効果的に抑制する観点から苛性ソーダを混合する。尚、マレイン酸を完全中和し、長期的に安定保存するのに要する該苛性ソーダの量としては、マレイン酸のモル数に対して2倍の量を推奨する。
【0057】
(第2工程)
次いで第2工程では、得られた混合液を水で希釈した後、前記したシリカフュームを含むセメントとその他の構成材料を添加し、混合して本発明の超高強度コンクリート組成物が得られる。
尚、上記製造方法においては前述の「水セメント比」の範囲を満たす量となるように、水の添加量を調整することが好ましい。ここで、上記製造方法における「水の添加量」とは、第1工程においてマレイン酸系界面活性剤を混合する際に該マレイン酸系界面活性剤の希釈用に添加される水(W1)の量と、第2工程において添加される前述の水(W2)の量との総和を表す。
【0058】
尚、前述のその他の構成材料は上記第2工程で添加することができる。また必ずしも第2工程で混入する必要はなく、例えば、亜硝酸カルシウム、苛性ソーダを配合した界面活性剤、水、セメント、細骨材、粗骨材を混合攪拌して得られたコンクリート組成物を、移動式のミキサー等に排出した後に、別途混入することも可能である。但し、コンクリート組成物の可塑性が持続する時間を事前に確認することが好ましい。
【0059】
<超高強度コンクリート組成物によるコンクリート部材の製造>
前述の本発明の超高強度コンクリート組成物を用いることにより、従来公知の方法によって超高強度の鉄筋コンクリート部材を製造することができる。鉄筋コンクリート部材を製造する方法としては、特に限定されるものではないが、例えばプレキャスト鉄筋コンクリート部材の製造に好適に適用可能である。
【0060】
プレキャスト鉄筋コンクリート部材の製造方法としては、例えば「建築工事標準仕様書・同解説 JASS10 プレキャスト鉄筋コンクリート工事2003(日本建築学会)」等に示されている方法が好適に適用される。
プレキャスト鉄筋コンクリート部材の製造方法では、例えば、以下の手順により鉄筋コンクリート部材が製造される。
(1)部材製造用型枠の製作または組立
コンクリートを打ち込んで部材を製造するための型枠を組み立てる。
【0061】
(2)鉄筋組み込み
鉄筋・鋼材、溶接金網等の組み込みを行い、更には先付け部品などがある場合には該部品の取付を行う。
(3)コンクリート打ち込み
型枠内に、本発明の超高強度コンクリート組成物を打ち込む。尚、型枠内に均質且つ密実に打ち込むことが重要であり、振動機などを用いて、先付け部品などに損傷を生じないように行う。
尚、必要によりはけ引き仕上げ、金ごて・木ごて押え等の方法によって、打ち込み面の仕上げを行うことができる。
【0062】
(4)養生
コンクリートが混練されてから所要強度に達するまでの期間は、適度な温度と湿度を保ち、有害な振動や衝撃などから保護して養生を施す。
(5)脱型および吊り上げ
部材にひび割れや破損が生じないよう脱型を行い、次いで吊り上げ治具等によって部材の吊り上げを行う。その後、必要に応じて製品検査等を経て、コンクリート部材が製造される。
(6)型枠清掃と剥離剤の塗布
コンクリート部材を脱型した型枠を転用するために十分に清掃し、型枠とコンクリート部材の接触面に、脱型を円滑に行うための剥離剤を塗布する。
【0063】
プレキャスト工場においては、上記(1)〜(6)の工程を、同一製造ライン上で反復する工程を採用する事例が多く、この場合、コンクリート打ち込み後、脱型するまでの養生期間を短縮することで、設備の単位面積あたりの生産性が向上する。
ただし、一般的な強度のコンクリートでは、上記(4)の養生工程において、加熱による硬化促進養生を採用することを前提として、打ち込み後、数時間で脱型可能な強度に達するため、硬化遅延が問題となる事例は少ない。
一方、超高強度コンクリートでは、第一に、界面活性剤の大量使用により、硬化が顕著に遅延すること、第二に、初期に加熱を行うと長期強度が著しく低下するため、加熱による硬化促進養生を採用できないことから、翌日昼間の労働時間内に所定の強度に達する場合を生じ、上記した生産性の向上効果が顕在化するものである。
【実施例】
【0064】
次いで、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0065】
〔実施例1〕
(界面活性剤1の調製)
界面活性剤1として、前述の混和剤A−1を調製した。
【0066】
(亜硝酸カルシウム配合界面活性剤2の調製)
前記界面活性剤1に対する割合を下記表1に記載する含有量とした亜硝酸カルシウムと、界面活性剤1におけるマレイン酸のモル数の2倍のモル数となる苛性ソーダと、を水溶液状にした上で混合し、界面活性剤2を調製した。
界面活性剤の含有量は、超高強度コンクリートの全構成材料を混合後に、所定の可塑性が得られる量を定めて計量した。所定の可塑性としては、JIS A 1150で得られるスランプフローが65±10cmとなる範囲と定めた。
【0067】
・シリカフュームプレミックスセメント
(商品名:シリカフュームセメント、(株)三菱マテリアル製)
・骨材(砕石2005および砕砂、大泉砕石(株)製)
(尚、下記表1に示す骨材の質量はJIS A 0203に定義される表面乾燥
飽水状態での質量である)
・有機繊維
(商品名:ダイワボウポリプロ(17dtex,L=10mm)、ダイワボウポリテック(株)社製)
【0068】
表1に示す界面活性剤を含有する水溶液に、上記材料を表1に記載の量にて攪拌混合し、コンクリート組成物を得た。下記表1に「水セメント比、亜硝酸カルシウムの含有量、界面活性剤の含有量、空気量、各材料の含有量」を記載する。
試料は、冬期の施工条件を想定して雰囲気温度を調整した試験室内で、容量100lの強制二軸型のテストミキサを用いて作製した。攪拌時間は、下記表1に示す水セメント比が14質量%のものは「空練で30秒、モルタルで150秒、粗骨材投入後90秒、繊維投入後60秒」である。また、下記表1に示す水セメント比が20質量%のものは「空練で30秒、モルタルで90秒、粗骨材投入後90秒、繊維投入後60秒」である。
【0069】
〔実施例2〜5、比較例1〜2〕
実施例1において、「水セメント比、亜硝酸カルシウムの含有量、界面活性剤の種類、界面活性剤の含有量、空気量、各材料の含有量」が下記表1に記載のものとなるよう変更した以外は、実施例1に記載の方法によりコンクリート組成物を得た。
【0070】
−評価方法−
・スランプフロー(Xave)
JIS A 1150に準拠して、スランプフローを測定した。
・50cmフロー到達時間(t50)
JIS A 1150に準拠して、50cmフロー到達時間を測定した。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に記載した実験結果において、全ての実施例および比較例で、スランプフローが65±10cmとなる範囲に収まっており、また、実施例1および2における界面活性剤の含有量は、比較例1より0.1〜0.15質量部少なく、また実施例3〜5における界面活性剤の含有量は、比較例2より0.1〜0.2質量部少ないことが分かる。
一般に、本強度領域では、界面活性剤0.1質量部の添加が、同スランプフローを10cm程度増す際の所要量に相当するとされており、この経験則によると、実施例1および2における界面活性剤の含有量は、それぞれ、比較例1より10〜15cm程度小さいスランプフローが得られる含有量である。また同様に、実施例3〜5における界面活性剤の含有量は、それぞれ、比較例2より10〜20cm程度小さいスランプフローが得られる含有量である。
然るに、界面活性剤の含有量が0.1〜0.2質量部少ない場合も、同等のスランプフローが得られており、界面活性剤の固形分100質量部に対して、亜硝酸カルシウムの含有量が20〜40質量部という広い範囲で配合した場合も施工性が向上することは、逆説的であるが、明らかである。
【0073】
〔実施例6〕
・シリカフュームプレミックスセメント
(商品名:シリカフュームセメント、(株)三菱マテリアル製)
・骨材(砕石2005および砕砂、大泉砕石(株)製)
(尚、下記表2に示す骨材の質量はJIS A 0203に定義される表面乾燥飽水
状態での質量である)
・有機繊維
(商品名:ダイワボウポリプロ(17dtex,L=10mm)、ダイワボウポリテック(株)社製)
【0074】
表2に示す界面活性剤を含有する水溶液に、上記材料を表2に記載の量にて攪拌混合し、コンクリート組成物を得た。下記表2に「水セメント比、亜硝酸カルシウムの含有量、界面活性剤の種類、界面活性剤の含有量、空気量、各材料の含有量」を記載する。
試料は、冬期の施工条件を想定して雰囲気温度を調整した試験室内で、容量100lの強制二軸型のテストミキサを用いて作製した。攪拌時間は、空練で30秒、モルタルで150秒、粗骨材投入後90秒、繊維投入後60秒である。
上記コンクリート組成物は、直径100mm、高さ200mmの円筒状に成形し、JASS5T−705−2005に準拠して、表2に記載の材齢まで簡易断熱養生を施した上で、圧縮強度の比較に供した。
【0075】
〔実施例7〜12、比較例3〜9〕
実施例7〜12は、実施例6に記載の方法によりコンクリート組成物を得たものである。
また、比較例3〜9は、実施例6において、「界面活性剤の種類、界面活性剤の含有量」が下記表2に記載のものとなるよう変更した以外は、実施例6に記載の方法によりコンクリート組成物を得たものである。
【0076】
−評価方法−
・圧縮強度
一軸圧縮強度をJIS A 1108に準拠して、評価した。
・材齢
材齢は、コンクリートの練混ぜ開始から、強度試験開始までの時間によって、供試体毎に時間単位で定めた。有効数字は小数点以下1位までとした。
(尚、ここでの「Maturity」とはコンクリートの内部温度の積算値であり、起点は−10℃である)
【0077】
【表2】

【0078】
表2中に示した、材齢、Maturityと圧縮強度との相関を図1および図2に示す。
【0079】
亜硝酸カルシウムを含有する界面活性剤を用いたいずれの場合も、界面活性剤1を用いた場合に比して、圧縮強度が高く、硬化促進効果が確認された。
【0080】
〔実施例13〕
・シリカフュームプレミックスセメント
(商品名:シリカフュームセメント、(株)三菱マテリアル製)
・骨材(砕石2005および砕砂、(株)杉山コンテック製)
(尚、下記表3に示す骨材の質量はJIS A 0203に定義される表面乾燥
飽水状態での質量である)
・有機繊維
(商品名:RCP17dtex(l=10mm)、宇部日東化成製)
・鋼繊維(商品名:SFR2−0.6−30、神鋼建材工業(株)製)
【0081】
表3に示す界面活性剤を含有する水溶液に、上記材料を表3に記載の量にて攪拌混合し、コンクリート組成物を得た。下記表3に「水セメント比、亜硝酸カルシウムの含有量、界面活性剤の種類、界面活性剤の含有量、空気量、各材料の含有量」を記載する。
試料は、中部地方内陸に位置する工場において、常設される実機を用いて冬期および標準期に作製した。ミキサは強制二軸式で、容量は1mである。攪拌時間は、モルタルで90秒、粗骨材投入後90秒、繊維投入後60秒であり、コンクリートとしての攪拌時間は150秒である。
【0082】
上記コンクリート組成物は、直径100mm、高さ200mmの円筒状に成形し、20℃水中養生を91日間施した場合(表3における「標準」)と、簡易断熱養生を91日間施した場合(表3における「簡易断熱」)について圧縮強度を比較した。具体的には、冬期および標準期の外気中で、作製した試料をJIS A 1132に準拠して20℃水中養生を91日間施した場合と、JASS5T−705−2005に準拠して簡易断熱養生を91日間施した場合である。
【0083】
〔実施例14〜16、比較例10〜13〕
実施例13において、「環境(冬期、標準期)、養生方法、界面活性剤の種類、界面活性剤の含有量」が下記表3に記載のものとなるよう変更した以外は、実施例13に記載の方法によりコンクリート組成物を得た。
【0084】
−評価方法−
・圧縮強度
一軸圧縮強度をJIS A 1108に準拠して、評価した。
【0085】
【表3】

【0086】
冬期および標準期に作製した試料の長期材齢における試験において、養生方法に拠らず、亜硝酸カルシウムを配合した場合に、より高い圧縮強度が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施例における材齢と圧縮強度との相関を示すグラフである。
【図2】実施例におけるMaturityと圧縮強度との相関を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカフュームを含むセメントと、
マレイン酸系界面活性剤を、前記シリカフュームを含むセメント100質量部に対し固形分換算で0.2〜3.5質量部含有し、且つ亜硝酸カルシウムを前記マレイン酸系界面活性剤の固形分に対し質量比で20〜40%含む水溶液と、
を含有することを特徴とする超高強度コンクリート組成物。
【請求項2】
水セメント比が質量比で10〜25%であることを特徴とする請求項1に記載の超高強度コンクリート組成物。
【請求項3】
シリカフュームを含むセメントと、マレイン酸系界面活性剤を、前記シリカフュームを含むセメント100質量部に対し固形分換算で0.2〜3.5質量部含有し、且つ亜硝酸カルシウムを前記マレイン酸系界面活性剤の固形分に対し質量比で20〜40%含む水溶液と、を含有する超高強度コンクリート組成物の製造方法であって、
前記亜硝酸カルシウムと、前記マレイン酸系界面活性剤と、該マレイン酸系界面活性剤におけるマレイン酸を完全中和するのに要する量の苛性ソーダと、を混合して混合液を調製する第1工程と、
第1工程にて得られた混合液、水、および前記シリカフュームを含むセメントを混合する第2工程と、を有することを特徴とする超高強度コンクリート組成物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−298624(P2009−298624A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153212(P2008−153212)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】