説明

跡穴処理栓の製造方法及び跡穴処理栓

【課題】インサート部材を取り外した後のコンクリート打設面に残された略円錐台状の跡穴を埋めるのに使用され、装着性が良好で簡便に製造することのできる跡穴処理栓を提供する。
【解決手段】跡穴処理栓の適用対象であるインサート部材10は、一端側に向けて先細状に形成された本体の外周面に粗ネジ部を備えるとともに、他端側の端面にはネジ孔13が開口した構成である。このインサート部材10を液状のシリコーンゴム1に浸漬し(a)、その硬化を待って取外し工具16により取り外すと、シリコーンゴムの硬化体1Aにはインサート部材10と同一形状の凹部2が形成され(d)、これが成形型となる。そして、この成形型1Aに適宜配合のモルタル組成物3を注入充填し、このモルタル組成物3が初期硬化状態のモルタル成形物3Aとなった後(f)、成形型1Aから脱型して養生させることにより跡穴処理栓が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰返し使用が可能なインサート部材をコンクリート構造物から取り外した後、そのコンクリート構造物表面に残された当該インサート部材による跡穴を埋めるための跡穴処理栓の製造方法と、その方法により得られる跡穴処理栓に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ブラケット等の仮設材をコンクリート構造物に支持させるためのインサート部材として、図5に示すアンカースクリュー(商品名)と称される繰返し使用可能な金具10が利用されている(特許文献1)。このインサート部材10の構成は、一端側(挿入方向側)に向かって先細状に形成された金属製の本体11の外周面にピッチの粗い雄ネジ部12を備えるとともに、大径側である他端側(露出面側)の端面にネジ孔13が開口したものである。さらに、コンクリート表面に露出したブラケット等を取り付けるためのボルトを受け入れる前記ネジ孔13には、本体11の長手方向に沿った複数の縦溝14が、周方向に等間隔で設けられている。これらの縦溝14は、前記仮設材の撤去後にインサート部材10を回収する場合において、適宜の取外し用工具を係合させるのに使われる。すなわち、図6に示したように、コンクリート構造物15の表面部に埋設されたインサート部材10に対して、取外し用工具16をネジ孔13の縦溝14に嵌合させ、本体11の外周面に形成された雄ネジ部12の緩み方向にインサート部材10を回転する。この場合、当該雄ネジ部12が全体としてテーパーネジ状であって、しかもそのピッチが粗く形成されているので、インサート部材10はネジ山に従って円滑に回転し、金具自体あるいはコンクリート構造物を損傷することなく簡単にコンクリート構造物15から離脱する。そして、斯かる形状のインサート部材10を除去した後のコンクリート構造物15の表面には、内面に螺旋状の溝18が形成された略円錐台状の跡穴17が残る。
【0003】
そこで、除去後に残ったこれらの跡穴17に対しては、コンクリート構造物の防水及び美観などの理由から、穴埋め処理が施されることになる。なお、全体を回収することができる上記種類のような形式のインサート部材に限らず、インサート部材の一部をコンクリート構造物中に残す形式のものであっても同様に穴埋め処理が必要である(特許文献2)。従来、これらの処理方法としては、未硬化状態のモルタルを注入充填するのが一般的であるが、モルタルの充填作業は手間がかかるという問題があり、特に高所での作業においてはなおさら面倒であった。
【特許文献1】特公平5−40098号公報
【特許文献2】特開2006−299628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、これら従来技術の問題点に鑑みなされたもので、インサート部材を取り外した後にコンクリート構造物の表面部に形成される跡穴を、簡単かつ確実に閉塞することのできる跡穴処理栓の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、一端側に向けて先細状に形成された本体の外周面に粗ネジ部を備えるとともに、他端側の端面にはネジ孔が開口し、該ネジ孔を表面に露出した状態でコンクリート内に埋設され、前記粗ネジ部を利用してコンクリート表面部から除去されるインサート部材によるコンクリート表面部の跡穴に挿入するモルタル製の跡穴処理栓の製造方法であって、前記インサート部材で型取りした成形型の内部にモルタルを充填し、その後、該モルタルが初期硬化状態した後に前記成形型から脱型して養生するという技術手段を採用したことを特徴としている。成形型としては、シリコーンゴムなどの弾性高分子材料で形成すると好都合である。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る跡穴処理栓は、インサート部材で型取りした成形型の内部にモルタルを充填し、これをモルタルが初期硬化状態した後に速やかに前記成形型から脱型するので、成形型による拘束状態から解放されたモルタル成形物がその後の養生(乾燥)によって全体的に収縮する。したがって、このような方法で製造された跡穴処理栓は、僅かではあるが、インサート部材の大きさよりも確実に小さくなるので、インサート部材除去後のコンクリート表面部の跡穴に対して、適度なクリアランスを確保し、回転操作のみで簡単かつ確実に挿入して固定することができる。さらに、コンクリート構造物に残る跡穴の内部では、インサート部材によって内周面に形成された螺旋状の溝に対して、跡穴処理栓の外周面に存在する螺旋状の突条が係合するので、跡穴から脱落することがない。また、これらの溝と突条との関係が、テーパーネジ状であって、かつ粗ネジ状であるから、少ない回転数で挿入することができ、装着作業性もきわめて良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係るモルタル製の跡穴処理栓の製造方法では、対象となるインサート部材で成形型を型取りするとともに、該成形型内に注入充填したモルタルが初期硬化状態した後に成形型から取り出す点に大きな特徴がある。モルタルの初期硬化状態とは、通常、始発が2〜2.5時間、終結が3.5〜4時間程度とされている。初期硬化に至る時間は、モルタルの性状、成形型への注入時の気温等を考慮しながら、適宜設定すればよい。本発明においては、初期硬化後という時間を厳密に管理する必要はなく、成形型からモルタル成形物を取り出したときに形が崩れない程度に固化していればよい。モルタル成形物の収縮との関係から、できるだけ速やかに脱型するほうが好都合である。なお、使用する成形型は、インサート部材の形状からして割型のほうが好ましいが、一体型にしてもよい。この場合には、モルタル成形物を回転させながら抜き出すことになる。
【0008】
セメントの種類としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、あるいは高炉セメント、フライアッシュセメントなどが挙げられるが、特段の限定はない。また、成形物の圧縮強度を向上させる目的で、シリカフューム、シリカダスト、高炉スラグ、シリカゾル、沈降シリカの微粉末を配合することができる。シリカフュームの配合量は、効果とコストを考慮して、セメント100質量部に対し5〜20質量部が望ましい。さらに、各種減水剤の添加も効果的である。減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、あるいはAE剤などが挙げられる。
【0009】
本発明による跡穴処理栓は、固定手段としてのネジ状部分を本体の一部に備えることから、基本的には跡穴に対してそのまま装着すればよいが、特に防水性が要求される場合には、装着にあたり適宜のシーリング剤や接着剤を栓本体の外周面に塗布してもよい。以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明するが、実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術思想内での種々の変更実施はもちろん可能である。
【0010】
図1(a)〜(f)は、それぞれ本発明による跡穴処理栓の製造方法を工程順に示した概略説明図である。まず、容器内に入れられた液体状態のシリコーンゴム1に対して、対象となるインサート部材10(図5参照)をネジ孔13側の端面が液面と一致するように浸漬し、シリコーンゴム1の硬化を待つ(a)。シリコーンゴムが硬化体1Aとなった後、取外し用工具16をネジ孔13の縦溝14に嵌合させる(b)。そして、取外し用工具16をネジが緩む方向に回転させ(c)、インサート部材10をシリコーンゴムの硬化体1Aから抜き取ると、この硬化体1Aには、インサート部材10と同一形状の凹部2が形成され、これが跡穴処理栓の成形型となる(d)。次いで、この成形型1Aの凹部2に対して、適宜配合のモルタル組成物3を注入充填し(e)、モルタル組成物の硬化が進んで初期硬化状態のモルタル成形物3Aとなるのを待つ(f)。その後、図示は省略するが、成形型1Aからモルタル成形物3Aを抜き取り、適宜の時間をかけて養生(乾燥)させることにより、本発明に係る跡穴処理栓3Bとなる(図2)。なお、図1では説明の便宜を図るため、1個の跡穴処理栓を製造する場合について示しているが、生産性を考慮すれば一度に多数の跡穴処理栓が得られるような複数の凹部2を設けた成形型1Aにすることは当然のことである。また、割型または一体型のいずれでもよい。
【0011】
図2(a)、(b)は、それぞれ上記製造方法によって得られる跡穴処理栓の正面図と右側面図である。図から明らかなように、本発明に係る跡穴処理栓3Bは、適用対象とするインサート部材10で型取りしているから、相似形として形成され、モルタル製の本体31の外周面には螺旋状の突条32が存在する。ただし、ネジ孔は不要であるので、大径側の端面33は平坦面となっている。このように、モルタル成形物3Aを初期硬化の段階で成形型1Aから抜き出し、その後は拘束状態を解いて自由な状態で乾燥させるので、全体的に収縮して各部の寸法がインサート部材10よりも僅かに小さいものとなる。
【0012】
次に、上記跡穴処理栓3Bの使用方法について、図3(a)〜(c)を参照しながら説明する。図3(a)は、図6(d)で説明したインサート部材10をコンクリート構造物15から除去した状態であり、跡穴17がコンクリート構造物15の表面に開口している。この跡穴17に対して、跡穴処理栓3Bを回転させながら挿入し(b)、その大径側の端面33がコンクリート構造物15の表面とほぼ一致するまで挿入する(c)。なお、本実施形態による跡穴処理栓3Bでは、前記端面33が平面状に形成され、回転のための工具との引っ掛り部分が存在しない。このため、図示はしないが、跡穴処理栓3Bを回転させるための工具として、適宜のゴム製の吸盤等を端面33に押し当て、その摩擦力を利用して回転させることができる。跡穴処理栓3Bは、外周面に形成された螺旋状の突条32がテーパーネジ状であって、しかもそのピッチが大きい粗ネジ状となっていることから、簡単かつ確実に跡穴17に装着することができ、突条32と跡穴17の内部の溝16との係合によって跡穴17から脱落することもない。跡穴処理栓3Bは、取外し可能であるため、場合によってはインサート部材10を再度挿入して利用することも可能である。さらに、必要に応じて適宜のシーリング剤や接着剤を併用すれば、防水性をより高めることができる。
【0013】
図4(a)〜(c)は、それぞれ上記製造方法を利用した跡穴処理栓の右側面図である。これらは、大径側の端面に工具を係合するための凹部を設けた点で前記実施形態とは異なる。すなわち、(a)に記載の跡穴処理栓4Bでは十字状の係合凹部41が形成され、(b)に記載の跡穴処理栓5Bでは正方形状の係合凹部51が形成され、それぞれ端面が十字状あるいは正方形状の先端部分を有する工具で回転させることができる。これらを製造する場合には、モルタル組成物3を成形型1Aに注入充填した後、モルタル組成物3が硬化しない状態のときに、それぞれ上方から十字状または正方形状の部材を上部に押し込むことにより形成することができる。なお、本発明に係る跡穴処理栓は、上記のようなネジ形状を採用することにより、小さな力で回転させることができるので、これら係合凹部41,51の深さをできるだけ小さくし、装着後に目立たないようにすることができる。また、(c)に記載の跡穴処理栓6Bでは、凹部に代えてナット61が埋設され、このナット61を利用して回転させるものである。
【0014】
上記各実施形態の跡穴処理栓では、インサート部材外周面のネジ形状に合わせて断面が台形状の突条となっているが、もちろんこれに限定されるものではなく、インサート部材のネジ形状に合わせて適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による跡穴処理栓の製造方法の概略説明図である。
【図2】図1に示す方法で製造される跡穴処理栓の正面図と右側面図である。
【図3】図2に示す跡穴処理栓の使用方法を示した説明図である。
【図4】本発明による方法で製造される跡穴処理栓の他の実施形態を示した右側面図である。
【図5】本発明の跡穴処理栓が対象とするインサート部材の部分縦断正面図と右側面図である。
【図6】図5のインサート部材の使用方法を示した説明図である。
【符号の説明】
【0016】
1…シリコーンゴム、1A…成形型、2…凹部、3…モルタル組成物、3A…モルタル成形物、3B,4B,5B,6B…跡穴処理栓、10…インサート部材、12…雄ネジ部、13…ネジ孔、14…縦溝、15…コンクリート構造物、16…取外し工具、17…跡穴、18…溝、32…突条、41,51…係合凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側に向けて先細状に形成された本体の外周面に粗ネジ部を備えるとともに、他端側の端面にはネジ孔が開口し、該ネジ孔を表面に露出した状態でコンクリート内に埋設され、前記粗ネジ部を利用してコンクリート表面部から除去されるインサート部材によるコンクリート表面部の跡穴に挿入するモルタル製の跡穴処理栓の製造方法であって、前記インサート部材で型取りした成形型の内部にモルタルを充填し、その後、該モルタルが初期硬化状態した後に前記成形型から脱型して養生することを特徴とする跡穴処理栓の製造方法。
【請求項2】
前記成形型が、弾性高分子材料からなることを特徴とする請求項1に記載の跡穴処理栓の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で製造される跡穴処理栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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