路車間通信システム及び方法とこれに用いる車載装置
【課題】 ダウンリンク光の照射領域が通常よりも上流側に広がっている場合でも、車両側から無駄なアップリンク光が送信されないようにする。
【解決手段】 本発明は、光ビーコン4のビーコンヘッド8との間で、光信号による双方向通信を行う車両Cの車載装置2に関する。この車載装置2は、ビーコンヘッド8が道路Rに向けて照射するダウンリンク光DOを受光する受光素子19と、道路Rに対する実際のダウンリンク光DOの照射領域IAのうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光DOが受光素子19に入射するのを制限する制限部材41とを備える。
【解決手段】 本発明は、光ビーコン4のビーコンヘッド8との間で、光信号による双方向通信を行う車両Cの車載装置2に関する。この車載装置2は、ビーコンヘッド8が道路Rに向けて照射するダウンリンク光DOを受光する受光素子19と、道路Rに対する実際のダウンリンク光DOの照射領域IAのうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光DOが受光素子19に入射するのを制限する制限部材41とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路側に設置した光ビーコンと、車両に搭載された車載装置との間で光信号による双方向通信を行う、路車間通信システム及び方法とこれに用いる車載装置に関する。
【背景技術】
【0002】
路車間通信システムを利用した交通情報サービスとして、光ビーコン、電波ビーコン又はFM多重放送を用いたいわゆるVICS(Vehicle Information and Communication System:(財)道路交通情報通信システムセンターの登録商標)が既に展開されている。
このうち、光ビーコンは、近赤外線を通信媒体とした光通信を採用しており、車載装置との双方通信が可能となっている。具体的には、車両の保持するビーコン間の旅行時間情報等を含むアップリンク情報が車載装置からインフラ側の光ビーコンに送信され、逆に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報及び車線通知情報等を含むダウンリンク情報が光ビーコンから車載装置に送信されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記光ビーコンは、車載装置との間で双方向通信を行う投受光器(ビーコンヘッド)を備えており、この投受光器には、道路側に向けてダウンリンク光を照射する発光ダイオード(LED)等よりなる発光素子と、車両側からのアップリンク光を受光するフォトダイオード(PD)等よりなる受光素子とが搭載されている。
また、車載装置にも、ビーコンヘッドとの間で光信号による双方向通信を行うために、上記発光素子と受光素子を有する投受光器(車載ヘッド)が搭載されている。
【0004】
ここで、例えば図3に示すように、光ビーコン4のビーコンヘッド8では、規格上、その直下よりも車両進行方向の上流側よりに通信領域Aが設定されることになっている。
この規格上の通信領域Aは、アップリンク情報を受信可能なアップリンク領域UA(点線のハッチングで示す範囲)と、ダウンリンク情報を送信するダウンリンク領域DA(実線のハッチングで示す範囲)とからなる。この各領域UA,DAの車両進行方向長さや位置は、光ビーコン(光学式車両感知器)の「近赤外線式インタフェース規格」によって規定されている。
【0005】
上記規格によれば、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図3の右側部分)と重複しており、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端は互いに一致するものとされている。
また、ダウンリンク領域DAの車両進行方向長さは通信領域Aの同方向長さと一致するものとされている。
【0006】
上記路車間通信システムの通信領域Aにおいて、光ビーコン4と車載装置2との間では次のような通信が行われる。
すなわち、まず、光ビーコン4のビーコンヘッド8は、第1の情報として車線通知情報(車両ID、車線番号無し)を含む第1のダウンリンク情報(ダウンリンク光DO)を道路のダウンリンク領域DAに所定の送信周期で常時送信している。
【0007】
次に、車両Cの車載ヘッド27がダウンリンク領域DAに進入すると、その車載ヘッド27は第1のダウンリンク情報を受信する。これをトリガーとして、車載装置2は自己の車両IDを格納したアップリンク情報(アップリンク光UO)の送信を開始する。
ビーコンヘッド8が上記アップリンク情報を受信すると、ダウンリンクの切り替えを行い、車載ヘッド27に対して、車両IDと車線情報とを含む第2のダウンリンク情報(ダウンリンク光DO)の送信を開始し、この第2のダウンリンク情報の送信を所定時間内において可能な限り繰り返す。
【0008】
車載装置2は、第2のダウンリンク情報に、自己の車両IDが格納されていることを確認すると、当該第1のダウンリンク情報が自身に対して送信されていると認識し、当該第2のダウンリンク情報から必要な情報を得ることができる。
また、車載装置2は、第2のダウンリンク情報に、自己の車両IDが格納されていることを確認するまで、アップリンク情報を繰り返し送信する。
【特許文献1】特開2005−268925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の路車間通信システムにおいて、実際に運用されている光ビーコン4のビーコンヘッド8では、例えば図14に示すように、車載装置2による第1のダウンリンク情報の検出精度を上げるため、道路に対して実際に照射されるダウンリンク光DOの領域(以下、「照射領域」という。)IAが、インタフェース規格による規格上のダウンリンク領域DA(通信領域Aと同じ範囲)の車両進行方向の寸法範囲よりも上流側に広がっている場合がある。
従って、この場合、上記照射領域IAは、アップリンク領域UAよりも上流側に広がったはみ出し領域RAを有することになる。
【0010】
しかし、前述の通り、光ビーコン4の路車間通信では、車載ヘッド27での最初のダウンリンク光DOの受光を契機としてアップリンク光UOを返すようになっているので、ダウンリンク光DOの照射領域IAが上流側に広がっているために、アップリンク領域UAの上流側に上記はみ出し領域RAがある場合には、当該はみ出し領域RAにおいて、車載ヘッド27の発光素子が無駄なアップリンク光UOを送出してしまうという問題がある。
すなわち、はみ出し領域RAに位置する車載ヘッド27からアップリンク光UOを照射しても、この時は車載ヘッド27が未だアップリンク領域UAに至っていないので、ビーコンヘッド8がアップリンク光UOを受信することができず、当該アップリンク光UOが無駄打ちとなる。
【0011】
このように、はみ出し領域RAで照射されたアップリンク光UOは、送信タイミングが早過ぎるためにビーコンヘッド8には届かないので、はみ出し領域RAを有する光ビーコン4を車載ヘッド27が通過するごとに、無駄なアップリンク光UOの照射が発生することになり、車載C側の発光素子の寿命が短くなるという問題がある。
特に、渋滞等の原因により、車載ヘッド27がはみ出し領域RAにある状態で車両Cが停止すると、この停止時に無駄なアップリンク光UOが多数回に渡って送出され続けることになり、発光素子の短寿命化がよりいっそう顕著となる。
【0012】
一方、発光素子の長寿命化対策として、アップリンク光UOの送信回数を制限する制御処理を車載装置2が実行する場合がある。
しかし、この場合、はみ出し領域RAに照射されたダウンリンク光DOの検出に基づいて送出される、無駄なアップリンク光UOによって回数制限を超えてしまい、車載ヘッド27がアップリンク領域UAに到達した頃にはアップリンク光UOを送信できなくなって、結局、アップリンク光UOがビーコンヘッド8に届かず通信が成立しないということもあり得る。
【0013】
本発明は、このような実情に鑑み、ダウンリンク光の照射領域が通常よりも上流側に広がっている場合でも、車両側から無駄なアップリンク光が送信されないようにして、車両側の発光素子の寿命低下を抑制できる路車間通信システム及び方法と、これに用いる車載装置と提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の車載装置(請求項1)は、光ビーコンのビーコンヘッドとの間で、光信号による双方向通信を行う車両の車載装置であって、前記ビーコンヘッドが道路に向けて照射するダウンリンク光を受光する受光素子と、前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光が前記受光素子に入射するのを制限する制限部材とを備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明の車載装置によれば、上記制限部材が、道路に対する実際のダウンリンク光の照射領域のうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光が受光素子に入射するのを制限するので、車両側の受光素子が照射領域の上流側部分を通過する間は、その受光素子によるダウンリンク光の受光が妨げられる。
このため、道路に対して実際に照射されるダウンリンク光の領域である上記照射領域の上流側部分がアップリンク領域よりも広がったはみ出し領域である場合に、このはみ出し領域に照射されたダウンリンク光を車両側の受光素子が受光しなくなり、車載装置による無駄なアップリンク光の送信が防止される。従って、発光素子が必要以上にアップリンク光を発光することに伴う、発光素子の寿命の低下を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の車載装置によれば、はみ出し領域でのアップリンク光の送信が防止されるので、アップリンク光の送信回数を制限する制御機能を有する車載装置の場合には、その回数制限の範囲内で適切にアップリンク光を送信することができ、路車間通信をより確実に行えるようになる。
本発明の車載装置において、前記制限部材は、例えば、前記受光素子の前方に配置された遮蔽部材により構成することができる。かかる遮蔽部材としては、具体的には、前記受光素子に対する入射角度が所定値以上である前記ダウンリンク光の入射を許容し、その入射角度が所定値未満の前記ダウンリンク光を遮蔽する構造を有するものを採用することができる(請求項2)。
【0017】
また、本発明の車載装置は、前記ビーコンヘッドに向けてアップリンク光を発光する発光素子と、前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始を契機として、前記発光素子に前記アップリンク光を送信させる通信制御部とを備える(請求項3)。
この場合、遮蔽部材が入射を許容するダウンリンク光の受信開始時点では、車両側の受光素子は照射領域の上流側部分を既に通過している。このため、照射領域の上流側部分がはみ出し領域になっていても、このはみ出し領域で無駄なアップリンク光が送信されることがない。
【0018】
一方、本発明の車載装置において、照射領域の車両進行方向長さが個々のビーコンヘッドごとに相違していても、上記遮蔽部材が入射を許容するダウンリンク光の受信開始時点における入射角度は、当該遮蔽部材に設定された制限角度(所定値)とほぼ一致する。
このため、上記ダウンリンク光の受信開始時点での車両側の受光素子は、遮蔽部材に設定した制限角度に対応する正接相当の距離だけビーコンヘッドの直下位置より上流側に位置すると見なすことができ、これにより、ダウンリンク光の受信開始時点の車両の自車位置をほぼ正確に特定可能となる。
【0019】
そこで、本発明の車載装置において、前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係に基づいて、前記車両の自車位置を特定する位置特定部を備えていることが好ましい(請求項4)。
この場合、当該位置特定部により、ダウンリンク光を利用した自車位置の特定を、車両側において自律的かつ正確に行えるようになる。
【0020】
なお、本発明の車載装置において、ダウンリンク光の受信開始時点を特定する方法としては、次の2つの方法が考えられる。
(1) 遮蔽部材が入射を許容するダウンリンク光の受光強度に基づいて、当該ダウンリンク光の受信開始時点を特定する。
(2) 遮蔽部材が入射を許容するダウンリンク光に含まれるデジタル信号を検出した時点を、当該ダウンリンク光の受信開始時点とする。
【0021】
本発明の車載装置において、前記制限部材は、前記遮蔽部材の他に更に第2の遮蔽部材を有していてもよい。
この場合、前記第2の遮蔽部材は、前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその下流側部分に照射される前記ダウンリンク光が前記受光素子に入射するのを遮蔽するものを採用することができる(請求項5)。
【0022】
また、前記第2の遮蔽部材が、前記車両の搭乗室内に入射した前記ダウンリンク光の乱反射光が前記受光素子に入射しないように、当該受光素子の上方を覆う形状に形成されておれば(請求項6)、その乱反射光を受光素子が検出することに伴うダウンリンク光の誤検出を防止することができる。
このため、搭乗室で生じた乱反射光によって通信制御部が誤った送信タイミングでアップリンク光を送信するのを未然に防止することができる。
【0023】
更に、上記2種類の遮蔽部材を設ける場合には、この2種類の前記遮蔽部材の双方が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点及び受信終了時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係に基づいて、前記車両の自車位置を特定する位置特定部とすることが好ましい(請求項7)。
この場合、ダウンリンク光の受信開始時点におけるビーコンヘッドに対する相対位置関係の信頼性を、受信終了時点におけるビーコンヘッドに対する相対位置関係を利用して判定することができ、これにより、自車位置の特定精度を向上することができる。
【0024】
ところで、実際の道路を走行中の車両は、道路の凹凸状態、荷物や搭乗者の荷重及び加減速の状況等により、必ずしも道路の走行面と平行には走行しておらず、約±5度の変動範囲でピッチ方向の傾きを変化させながら道路を走行している。
このため、車両に搭載された前記遮蔽部材に生じるピッチ方向の傾きの変化を考慮しないと、位置特定部が特定する自車位置に誤差が生じる。
そこで、本発明の車載装置は、前記車両のピッチ方向の傾きを検出する傾き検出部を更に備えていることが好ましく、この場合、前記位置特定部は、前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点又は受信終了時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係を、検出された前記ピッチ方向の傾きによって補正することが好ましい(請求項8)。
【0025】
本発明の路車間通信システム(請求項9)は、本発明の車載装置(請求項1)を用いた路車間通信システムであり、当該車載装置(請求項1)と同じ作用効果を奏する。
また、本発明の路車間通信方法(請求項10)は、本発明の車載装置(請求項1)を用いて行われる路車間通信方法であって、当該車載装置(請求項1)と同じ作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0026】
以上の通り、本発明によれば、ダウンリンク光の照射領域が通常よりも上流側に広がっている場合であっても、車両側から無駄なアップリンク光が送信されないので、車両側に搭載された発光素子の寿命が低下するのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明の路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、この路車間通信システムは、インフラ側の交通管制システム1と、道路Rを走行する各車両Cに搭載された車載装置2とから構成されている。
交通管制システム1は、管制室に設けられた中央装置3と、道路Rの各所に多数設置された光ビーコン(光学式車両感知器)4とから構成されており、光ビーコン4は、近赤外線を通信媒体とした光通信によって車載装置2との間で双方向通信を行う。なお、中央装置3は交通管制室に設けられている。
【0028】
〔光ビーコンの構成〕
光ビーコン4は、電話回線等の通信回線5を介して中央装置3と接続された通信インタフェースである通信部6と、この通信部6が接続されたビーコン制御機7と、この制御機7のセンサ用インタフェースに接続された複数(図例では4つ)のビーコンヘッド(投受光器)8とを備えている。
各ビーコンヘッド8は、発光ダイオード(LED)等よりなる発光素子10と、フォトダイオード等よりなる受光素子11を、筐体9の内部に収納することによって構成されている(図3参照)。このうち、発光素子10は、近赤外線よりなるダウンリンク光DOを道路R側に向けて照射し、受光素子11は、車載装置2からの近赤外線よりなるアップリンク光UOを受光する。
【0029】
図2は、上記光ビーコン4の平面図である。
図2に示すように、本実施形態の光ビーコン4は、同じ方向の複数(図例では4つ)の車線R1〜R4を有する道路Rに設置されており、各車線R1〜R4に対応して設けられた前記複数のビーコンヘッド8と、これらのヘッド8を一括制御する制御部である一台の前記ビーコン制御機7とを備えている。
上記ビーコン制御機7は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、通信部6による中央装置3との双方向通信と、各投受光器8による車載装置2との路車間通信の制御を行う通信制御部としての機能を有する。なお、このビーコン制御機7による路車間通信の内容については後述する。
【0030】
ビーコン制御機7は、道路脇に立設した支柱12に設置されており、各ビーコンヘッド8は、支柱12から道路R側に水平に架設した架設バー13に取り付けられ、道路Rの各車線R1〜R4の直上に配置されている。
各ビーコンヘッド8の発光素子10は、各車線R1〜R4の直下よりも上流側に向けて近赤外線を発光しており、これにより、車載装置2との間で路車間通信を行うための通信領域Aが当該ビーコンヘッド8の上流側(図2の右側)に設定されている。
【0031】
図3は、光ビーコン4の規格上の通信領域Aを示すための道路Rの側面図である。
図3に示すように、この規格上の通信領域Aは、後述する車載装置2の車載ヘッド(投受光器)20がダウンリンク情報を受信することができるダウンリンク領域(図3において実線のハッチングを設けた領域)DAと、光ビーコン4のビーコンヘッド8がアップリンク情報を受信することができるアップリンク領域(図3において破線のハッチングを設けた領域)UAとからなる。
【0032】
光ビーコン(光学式車両感知器)4の「近赤外線式インタフェース規格」では、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図3の右側部分)と重複しており、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端cは互いに一致している。
従って、ダウンリンク領域DAの車両進行方向長さは、規格上では、通信領域A全体の同方向長さと一致する。
【0033】
また、上記規格では、一般道向けの光ビーコン4の場合で、ダウンリンク領域DAの下流端aは、投受光器8の直下の1.0〜1.3m上流側に位置し、ダウンリンク領域DAの下流端aからアップリンク領域UAの下流端bまでの距離は2.1mと規定され、アップリンク領域UAの下流端bから同領域UAの上流端cまでの距離は1.6mと規定されている。この場合、通信領域Aの車両進行方向の全長は3.7mとなる。
【0034】
もっとも、上記各領域DA,UAの車両進行方向長さは、規格通りの上記各数値に限定されるものではない。
また、図3に仮想線で示すように、実際に運用されている光ビーコン4のビーコンヘッド8では、例えばダウンリンク情報の検出精度を向上させるために、道路Rに対して実際に照射されるダウンリンク光DOの領域(照射領域)IAの上流端c’ を、アップリンク領域UAの上流端cよりも更に上流側(図3の右側)に位置させてある場合もある。この場合、実際のダウンリンク光DOの照射領域IAは、アップリンク領域UAよりも上流側に広がったはみ出し領域RAを有することになる。
【0035】
〔車載装置及び車両の構成〕
図4は、光ビーコン4と路車間通信する前記車載装置2と、この車載装置2が搭載された車両Cの概略構成図である。
図4に示すように、この車両Cは、ドライバの搭乗席(図示せず)を有する車体21と、この車体21に搭載された前記車載装置2と、車両Cの各部を統合制御する電子制御装置(ECU)22と、車体21を駆動するエンジン23と、車体21を制動するブレーキ装置24と、車両Cの現時の速度を常時検出している速度検出器25とを備えている。
【0036】
このうち、ECU22は、ドライバのアクセル操作に基づくエンジン23の駆動制御や、ブレーキ操作に基づく制動制御等、車両Cに対する各種の制御を行う。
車載装置2は、車載コンピュータ26と、このコンピュータ26のセンサ用インタフェースに接続された車載ヘッド(投受光器)27と、搭乗席のドライバに対するヒューマンインタフェースとしてのディスプレイ28及びスピーカ装置29とを備えている。
【0037】
上記車載ヘッド27は、ビーコンヘッド8の場合と同様に、発光ダイオード(LED)等よりなる発光素子18と、フォトダイオード(PD)等よりなる受光素子19とを備えている。
この車載ヘッド27の発光素子18は、近赤外線よりなるアップリンク光UO(アップリンク情報35)を発光し、受光素子19は、ビーコンヘッド8で発光された近赤外線よりなるダウンリンク光DO(ダウンリンク情報34,36)を受光する。
【0038】
車載コンピュータ26は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、車載ヘッド27による光ビーコン4との路車間通信の制御処理を行う。
また、車載コンピュータ26は、所定の各機能を実行するプログラムを記憶装置に格納しており、このプログラムが実行する機能部として、路車間通信のための通信制御部30と、自車位置の特定のための位置特定部31とを備えている。なお、これらの各機能部30,31の処理内容については後述する。
【0039】
また、車載装置2は、車両Cのピッチ方向の傾きを検出する傾き検出器(傾き検出部)33を備えており、この傾き検出器33は、ジャイロセンサ、Gセンサ又は加速度センサを利用して水平面に対する車両Cのピッチ方向の傾斜度合いを常時監視する。
ジャイロセンサは、物体の角速度を測定するセンサであり、その検出信号を積分すれば角度(傾き)が求まる。Gセンサは、物体の加速度を測定するセンサであり、このGセンサでは重力加速度も加算される。他方、加速度センサは、Gセンサと同義とする場合も多いが、本明細書では、周波数特性を持つ加速度成分だけを感知し、静的な加速度(重力加速度)を感知しないものを加速度センサと呼ぶ。
【0040】
図13は、上記センサで実施可能な車両Cの傾きの検出原理を示す説明図である。
このうち、図13(a)は、3軸Gセンサと3軸加速度センサを組み合わせた傾き検出器33の検出原理を示している。
物体が水平面上に置かれている場合には、3Gセンサの出力は、gz=G(G:重力加速度)、gx=gy=0になるが、物体が水平面から傾いている場合には、gz<Gで、かつ、gx≠0 or gy≠0となる。従って、3Gセンサの3つの出力のうち、gzとその他のgx,gyとの比を用いることにより、水平面に対する物体の傾きを算出できる。
【0041】
しかし、車両Cが加速している場合などのように、物体に動的加速度が発生していると、gx,gy,gzにはその動的加速度が重畳される。そこで、重力加速度(静的加速度)を検出しない3軸加速度センサを同時に使用する。
すなわち、3軸加速度センサの各方向の出力をそれぞれax,ay,azとすれば、この出力成分を各方向で差し引き、(gx−ax),(gy−ay),(gz−az)の比を用いた次の式(1)により、水平面に対する物体のピッチ方向の傾きの絶対値を算出できる。
【0042】
【数1】
【0043】
そして、ピッチ方向の傾きの向きについては、(gy−ay)の正負により、車両Cの前方が水平面に対して上向きか下向きかを判断することができる。
なお、1軸Gセンサと1軸加速度センサを用い、(gz−az)の値だけで簡易的にピッチ方向の傾きの絶対値を求めることもできる。
【0044】
図13(b)は、1軸ジャイロセンサと1軸ないし3軸加速度センサを組み合わせた傾き検出器33の検出原理を示している。
1軸ジャイロセンサが、水平面を基点として図13(b)の矢印の方向の角速度を検出するものとすると、この角速度を積分すれば、水平面に対する物体のピッチ方向の傾きを検出することができる。しかし、その積分値は時間の経過とともに誤差が蓄積するので、定期的にゼロ点補正を行う必要がある。
【0045】
そこで、1軸、2軸又は3軸Gセンサを同時に使用する。すなわち、この場合、Gセンサの出力を監視しておき、その出力がgz=G(さらにgx=gy=0)となって値が安定したときに物体が水平状態で安定したと判断し、ジャイロセンサの出力のゼロ点を補正するようにすればよい。
なお、傾き検出器33の他の例としては、道路Rを撮像する車載カメラと、撮像された画像データを分析して道路Rに対する相対的な傾きを求める画像処理装置とから構成することもできる。
【0046】
〔路車間通信:通信制御部の処理内容〕
図5は、ビーコンヘッド8と車載ヘッド27との間で行われる双方向の路車間通信の手順を示している。以下、図5を参照しつつ、本実施形態の路車間通信の内容を説明する。
まず、光ビーコン4のビーコン制御機7は、各車線R1〜R4に対応するビーコンヘッド8から、ダウンリンクの切り替え前の第1情報として、車線通知情報を含む第1のダウンリンク情報34を所定の送信周期で常に送信し続けている(図5のF1)。なお、この段階では、車線通知情報には未だ車両IDは格納されていない。
【0047】
その後、車両Cの車載ヘッド27がダウンリンク光DOの照射領域IAに進入すると、車載ヘッド27の受光素子19が、車線通知情報(車両ID無し)を含む第1のダウンリンク情報34を受信する。
このさい、車載コンピュータ26の通信制御部30は、当該車両Cがビーコンヘッド8と通信可能な領域に到達したことを認識する。その後、通信制御部30は、車載ヘッド27の発光素子18にアップリンク情報35の送信を開始させ(図5のF2)、このアップリンク情報35をビーコンヘッド8に対して所定の送信周期(アップリンク送信周期)で送信する(図5のF3)。
【0048】
車載コンピュータ26の通信制御部30は、車両Cに特定の車両IDを上記アップリンク情報35に格納して当該アップリンク情報35を送信し、ビーコン間の旅行時間情報を有している場合には、この情報もアップリンク情報35に含ませる。
また、通信制御部30は、光ビーコン4のビーコン制御機7がダウンリンクの切り替えを行ったことを認識するまで、当該アップリンク情報35を発光素子18から送信させ続ける。
【0049】
一方、ビーコンヘッド8の受光素子11がアップリンク情報35受信すると(図5のF4)、ビーコン制御機7は、ダウンリンクの切り替えを行った上で、第2情報として、車両ID情報を有する車線通知情報を含む第2のダウンリンク情報36の送信を、発光素子10に開始させる(図5のF5)。このダウンリンク情報36の送信は、所定時間内において可能な限り繰り返される(図5のF6)。
上記車線通知情報には、車線R1〜R4(図2)ごとに車両IDを格納するフィールドがあり、各車両IDに対して車線番号を付与することができる。
【0050】
このため、異なる車線R1〜R4を走行する各車両Cの車載コンピュータ26は、その格納フィールド内のいずれに自車両の車両IDが含まれるかを判断することにより、自車両がどの車線R1〜R4を走行しているかを認識できる。
第2のダウンリンク情報36には、車両IDを含む車線通知情報の他に、渋滞情報、区間旅行時間情報及び事象規制情報が含まれている。なお、当該第2のダウンリンク情報36に、光ビーコン4より下流側の信号機の灯色が変わるタイミング情報である信号情報を含ませることもできる。
【0051】
図5に示すように、第2のダウンリンク情報36は、単一又は複数の最小フレーム37で構成されている。前記「近赤外線式インタフェース規格」によれば、この最小フレーム37のデータ量は合計128バイトと規定され、ヘッダ部38に5バイト、実データ部39に123バイトが割り当てられている。
前記規格によれば、第2のダウンリンク情報36は、1〜80個の最小フレーム37で構成することができ、送信可能時間は250msに設定されている。また、このダウンリンク情報36は送信すべき情報量に対応した任意数の最小フレーム37で構成され、上記送信可能時間の範囲内で繰り返し送信される。
【0052】
最小フレーム37の送信周期は約1msである。従って、例えば、3つの最小フレーム37で一つのダウンリンク情報36を構成する場合には、ダウンリンク情報36の送信周期は約3msになるので、当該ダウンリンク情報36は所定の送信可能時間(250ms)の間に約80回繰り返して送信されることになる。
車載装置2の車載コンピュータ26は、第2のダウンリンク情報36を受信した時点(図5のF7)で光ビーコン4でのダウンリンクの切り替えを認識し、この時点でアップリンク情報35の送信を停止する。
【0053】
〔制限部材による入射制限〕
本実施形態の車載装置2は、道路Rに対して実際に照射されるダウンリンク光DOの領域である照射領域IAのうちで、その上流側部分に照射されるダウンリンク光DOが、車載ヘッド27の受光素子19に入射するのを制限する制限部材41を備えている。
図6は、この制限部材41の構成例を示す側面図である。
図6に示すように、本実施形態の制限部材41は、車載ヘッド27の受光素子19の前方に配置された板状の遮蔽部材42よりなる。
【0054】
この遮蔽部材42は、後上がりに傾斜した状態で受光素子19の前方に立設された板材よりなり、この遮蔽部材42の上端縁と受光素子19の車両進行方向の上流端縁とで成す角により、ダウンリンク光DOの入射制限のための制限角度α(図例では、α=45°)が設定されている。
従って、ビーコンヘッド8から照射される、入射角度θが相違するダウンリンク光DOのうち、受光素子19に対する入射角度θが制限角度α未満のダウンリンク光DOは、遮蔽部材42によって遮蔽され、入射角度θが制限角度α以上であるダウンリンク光DOのみが、受光素子19に対して入射可能となっている。
【0055】
なお、遮蔽部材42の側面形状その他の構造は、上記制限角度αを固定的に設定できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば図6の下部に示すように、水平板形状のものや、側面視逆L字形状のものであってもよく、或いは、側面視円弧状のものであってもよい。
また、上記遮蔽部材42の制限角度αは、ビーコンヘッド8の発光素子10とアップリンク領域UAの上流端cとを結ぶ線分の傾斜角度θu(図3及び図7参照:以下、アップリンク上流傾斜角という。)と、ほぼ一致する値に設定されている。
【0056】
図7は、単一の遮蔽部材42よりなる上記制限部材41の作用説明図である。
図7に示す例では、実線で囲まれた領域が実際のダウンリンク光DOの照射領域IAであり、この領域IAは、規格上の通信領域Aよりも上流側に広範囲となっている。また、破線で囲まれた部分はアップリンク領域UAである。
従って、この場合の照射領域IAでは、その上流側の端部がアップリンク領域UAよりも上流側に広がったはみ出し領域RAになっている。
【0057】
ここで、図7(a)に示すように、車両C側の受光素子19が照射領域IAのはみ出し領域RAに突入すると、本来ならば、その車両C側の受光素子19は、はみ出し領域RAに照射されたダウンリンク光DOを受光する。
しかし、本実施形態では、受光素子19に対する入射角度θが制限角度α未満のダウンリンク光DOについては、遮蔽部材42で遮蔽されるようになっており、その制限角度αはアップリンク上流側傾斜角θuとほぼ同値である。従って、車両C側の受光素子19は、はみ出し領域RAを通過する間はダウンリンク光DOを受光しない。
【0058】
その後、図7(b)に示すように、車両C側の受光素子19がアップリンク領域UAへの突入を開始すると、受光素子19に対するダウンリンク光DOの入射角度θが制限角度α(=θu)以上となって、受光素子19がダウンリンク光DOの受光を開始する。
このため、図7(c)に示すように、車両C側の受光素子19は、アップリンク領域UAの上流端よりも下流側に照射されたダウンリンク光DOを前記第1のダウンリンク情報34として受光し、この受光を契機としてビーコン側との路車間通信が行われる。
【0059】
このように、本実施形態の車載装置2によれば、上記遮蔽部材42が、実際のダウンリンク光DOの照射領域IAの上流側部分に向けて照射されたダウンリンク光DOが受光素子19に入射するのを制限する。
このため、図7に示すような、照射領域IAがはみ出し領域RAを含んでいる場合でも、車両C側の受光素子19が当該はみ出し領域RAを通過するまでは、受光素子19によるダウンリンク光DOの受光が妨げられる。
【0060】
従って、図5に示す路車間通信において、車載コンピュータ26の通信制御部30が、はみ出し領域RAに照射されたダウンリンク光DOを検知してアップリンク情報35の送信を開始(図5のF2)することはなく、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DO(入射角度θが制限角度α以上のダウンリンク光DO)を検出して初めて、アップリンク情報35の送信を開始(図5のF2)することになる。
すなわち、本実施形態の通信制御部30は、ビーコンヘッド8との間で行う路車間通信において、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始を契機として、発光素子18にアップリンク光UOの発光を開始させる。
【0061】
従って、車載装置2の発光素子18がはみ出し領域RAにおいて無駄なアップリンク光UOを発光するのが有効に防止され、これにより、発光素子18がアップリンク光UOを必要以上に発光することに伴う、発光素子18の寿命の低下が抑制される。
また、例えば、渋滞等の原因により、発光素子18がはみ出し領域RAにある状態で車両Cが停止すると、発光素子18が無駄なアップリンク光UOを多数回に渡って送信し続け、発光素子18の短命化がよりいっそう助長されることになるが、本実施形態では、このようなアップリンク光UOの無駄打ちも、未然に防止することができる。
【0062】
一方、上記のようなアップリンク光UOの無駄打ちは、アップリンク光UOの送信回数の制限機能を車載コンピュータ26に設定することによっても実行可能である。しかし、この制限方法では、はみ出し領域RAに照射されたダウンリンク光DOを検出したために、無駄なアップリンク光UOの送信回数が嵩むと、この送信回数だけで制限回数を超えることがある。
そして、この場合には、車載ヘッド27がアップリンク領域UAに到達した頃にはアップリンク光UOを送信できなくなるので、結局、アップリンク光UOがビーコンヘッド8に届かず通信が成立しないことになる。
【0063】
この点、本実施形態の車載装置2によれば、はみ出し領域RAにおけるアップリンク光UOの送信が規制されるので、予め設定された制限回数の範囲内で適切にアップリンク光UOを送信することができる。
従って、アップリンク光UOの送信回数の制限によってビーコンヘッド8へのアップリンク光UOの未達が発生するのが防止され、路車間通信をより確実に行うことができる。
【0064】
〔位置特定部の処理内容〕
次に、前記車載コンピュータ26の位置特定部31の処理内容を説明する。
ここで、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始時点(図7(b))の入射角度θは、照射領域IAの車両進行方向長さの相違に関係なく、当該遮蔽部材42に予め設定された制限角度αとほぼ一致する筈である。
従って、図7(b)に示すように、ダウンリンク光DOの受信開始時点における車両C側の受光素子19は、遮蔽部材42の制限角度αに対応する正接相当の距離L1だけ、ビーコンヘッド8の直下位置よりも上流側に位置する。
【0065】
すなわち、図7(b)において、ビーコンヘッド8の直下位置から受光素子19までの距離をL1、ビーコンヘッド8の設置高さをH0、受光素子19の設置高さをH1とすると、次の式(2)が成立する。
L1=(H0−H1)×tan(90−α) ……(2)
そして、上記式(2)において、制限角度αと設置高さH0,H1はいずれも一定であるから、ダウンリンク光DOの受信開始時点に成立する上記式(2)に基づく距離L1もほぼ一定値となる。
【0066】
そこで、本実施形態の位置特定部31は、ダウンリンク光DOの受信開始時点におけるビーコンヘッド8に対する上記相対位置関係(式(2))に基づき、車両Cの自車位置を特定する。
すなわち、位置特定部31は、距離L1とその方位角とから、ビーコンヘッド8の直下からダウンリンク光DOの受信開始地点までの座標変化量(Δx1,Δy1)を算出し、この変化量(Δx1,Δy1)をビーコンヘッド8の直下の位置座標(x0,y0)に加算することにより、ダウンリンク光DOの受信開始時点における車両Cの自車位置(x0+Δx1,y0+Δy1)を算出する。
【0067】
かかる自車位置(x0+Δx1,y0+Δy1)は、例えばGPS受信機で得られる座標よりも正確であるから、位置特定部31で特定した自車位置でGPS座標を補正するようにすれば、自車位置の評定精度を向上することができる。
また、交差点信号の切り替えタイミングに関する信号情報を車載装置2が取得している場合には、その信号情報と、位置特定部31で特定された自車位置から下流側の交差点位置までの距離に基づいて、車両Cの制動をドライバに促したり、車両Cを強制的に減速させたりする安全運転のための支援制御を行うこともできる。
【0068】
なお、上記ビーコン直下の位置座標(x0,y0)は、予め車載装置2の記憶装置に記憶させておいてもよいし、ビーコン側からのダウンリンク情報34,36に含ませて車載装置2に通知することにしてもよい。
【0069】
〔受信開始時点の特定方法〕
前記通信制御部30と位置特定部31の処理では、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始時点を、車載コンピュータ26において特定する必要があるが、この受信開始時点の特定方法としては次の2つが考えられる。
図8は、受光素子19の車両進行方向位置と受光強度との関係を示すグラフの一例である。この図8に示すように、受光素子19の受光強度は、ダウンリンク光DOの受信開始位置において急激に上昇し、その後、最大値が暫く続いてから、ビーコン直下に向かうに従って次第に低下する。
【0070】
そこで、車載コンピュータ26において受光素子19の受光強度をモニタリングしておき、その受光強度が急激に上昇した時点を、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光の受信開始時点として特定することができる。
もっとも、車載コンピュータ26は、通信領域Aでの路車間通信において、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOに含まれるデジタル信号を抽出するから、このデジタル信号を車載コンピュータ26が検出した時点をもって、当該ダウンリンク光DOの受信開始時点とすることにしてもよい。
【0071】
〔制限部材の変形例〕
図9は、制限部材41の変形例を示す側面図である。
図9に示すように、この変形例の制限部材41は、受光素子19に対する入射角度θが所定値未満のダウンリンク光DOを遮蔽する第1の前記遮蔽部材42に加えて、受光素子19に対する入射角度θが別の所定値を超えるダウンリンク光DOを遮蔽する第2の遮蔽部材43を備えている。
【0072】
この2種類の遮蔽部材42,43のうち、第1の遮蔽部材42は、ほぼ直立した状態で受光素子19の前方に立設された板材よりなり、第2の遮蔽部材43は、第1の遮蔽部材42の上方に所定寸法の隙間をあけて配置された、ほぼ直立した板材よりなる。
そして、第2の遮蔽部材43には、その下端縁と受光素子19の車両進行方向の下流端縁とで成す角により、ダウンリンク光DOの入射制限のための制限角度β(図例では、β=75°)が設定されている。
【0073】
従って、2種類の遮蔽部材42,43の間の隙間から入射するダウンリンク光DOの、受光素子19に対する入射角度θは、α≦θ≦βの範囲に制限されており、入射角度θがこの範囲を外れるダウンリンクDOについては、各遮蔽部材42,43によって遮蔽されるようになっている。
なお、各遮蔽部材42,43の側面形状その他の構造は、上記制限範囲α≦θ≦βを固定的に設定できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば図9の下部に示すように、第2の遮蔽部材43が水平に延びる平板状であってもよく、各遮蔽部材42,43が側面視円弧状のものであってもよい。また、図9では、第1及び第2の遮蔽部材42,43の遮蔽機能を表すために両者を別体に描写しているが、これらの遮蔽部材42,43を実質的に単一の部材で一体形成することもできる。
【0074】
図9の下部に示す第2の遮蔽部材43の場合には、受光素子19の上方を覆う形状及び配置になっているので、車両Cの搭乗室内に入射した前記ダウンリンク光DOの乱反射光が受光素子19に入射しないようになっている。
このため、乱反射光を受光素子19が検出することに伴うダウンリンク光DOの誤検出が防止され、乱反射光によって通信制御部30が誤った送信タイミングでアップリンク光UOを送信するのを未然に防止することができる。
【0075】
図10は、2種類の遮蔽部材42,43よりなる上記制限部材41の作用説明図である。
図10に示す例では、実線で囲まれた領域が実際のダウンリンク光DOの照射領域IAであり、この領域IAは、規格上の通信領域Aよりも上流側及び下流側の双方で広範囲となっている。また、破線で囲まれた部分は、前記インタフェース規格通りのダウンリンク領域DA(通信領域Aと同じ範囲)である。
従って、この場合の照射領域IAは、規格上のダウンリンク領域DAよりも上流側に広がったはみ出し領域RA1と、規格上のダウンリンク領域DAよりも下流側に広がったはみ出し領域RA2とを有する。
【0076】
そして、図9に示す制限部材41では、ビーコンヘッド8から照射されるダウンリンク光DOの受光素子19に対する入射角度θの範囲が、2種類の遮蔽部材42,43によってα≦θ≦βの範囲に絞られている。
従って、車両C側の受光素子19が、上流側のはみ出し領域RA1や下流側のはみ出し領域RA2を通過する間は、ダウンリンク光DOの入射が制限され、ダウンリンク領域DAを通過する間だけ、ダウンリンク光DOの入射が許容される。
このため、図10に示すように、上流側と下流側にそれぞれはみ出し領域RA1,RA2が含まれている場合であっても、これらの領域RA1,RA2を除いた車両進行方向の範囲内だけで路車間通信を行うことができる。
【0077】
〔2種類の遮蔽部材がある場合の位置特定部の処理内容〕
上記のように、2種類の遮蔽部材42,43を設けた場合、ダウンリンク光DOの受信開始時点(図10(a))の入射角度θは、第1の遮蔽部材42に予め設定された制限角度αとほぼ一致する。また、ダウンリンク光DOの受信終了時点(図10(b))の入射角度θは、第2の遮蔽部材43に予め設定された制限角度βとほぼ一致する。
【0078】
そして、ダウンリンク光DOの受信開始時点(図10(a))における車両C側の受光素子19は、第1の遮蔽部材42の制限角度αに対応する正接相当の距離L1だけ、ビーコンヘッド8の直下位置より上流側に位置するが、この距離L1は、次の式(2)で算出することができる。
L1=(H0−H1)×tan(90−α) ……(2)
【0079】
また、ダウンリンク光DOの受信終了時点(図10(b))における車両C側の受光素子19は、第2の遮蔽部材43の制限角度βに対応する正接相当の距離L2だけ、ビーコンヘッド8の直下位置より上流側に位置するが、この距離L2は、次の式(3)で算出することができる。
L2=(H0−H1)×tan(90−β) ……(3)
【0080】
一方、ダウンリンク光DOの受信開始時点をt1、その受信終了時点をt2、これらの時間差をΔt(=t2−t1)、この間の車両速度をVとすると、ダウンリンク光DOの受信開始時点(図10(a))から受信終了時点(図10(b))までの間の車両Cの走行距離ΔLは、次の式(4)で表すことができる。
L=V×Δt ……(4)
そして、この走行距離Lは、理論的には、式(2)及び式(3)で得られる距離差ΔL(=L1−L2)と一致する筈である。
【0081】
しかし、例えば、ダウンリンク光DOの受信開始時点t1の検出遅れが生じたような場合には、前記式(2)の関係が成立しなくなるので、当該式(2)に基づく距離L1の算出が不適切になる。
そこで、本実施形態の位置特定部31は、距離差ΔL(=L1−L2)が式(4)の走行距離Lとほぼ同じか否かにより、受信開始時点t1の信頼性を判定する。具体的には、位置特定部31は、式(2)に基づく自車位置の特定に先立ち、まず、式(4)で得られる走行距離Lと、式(2)及び式(3)で得られる距離差ΔL(=L1−L2)との差が所定の閾値内であるか否かを判定する。
【0082】
上記判定結果が閾値内である場合には、ダウンリンク光DOの受信開始時点t1が適正に検出されたものと見なせるので、位置特定部31は、ダウンリンク光DOの受信開始時点t1におけるビーコンヘッド8に対する相対位置関係(式(2))に基づいて、その受信開始時点t1における車両Cの自車位置(x0+Δx1,y0+Δy1)を算出する。
このように、本実施形態の位置特定部31は、受信終了時点t2におけるビーコンヘッド8に対する相対位置関係(式(3))から得られる距離L2を用いて、受信開始時点t1の信頼性を判定し、その上で、受信開始時点t1におけるビーコンヘッド8に対する相対位置関係(式(2))を用いて自車位置を特定するので、不正な受信開始時点t1を用いた自車位置の特定が行われるのを防止でき、この点で、自車位置の特定精度を向上することができる。
【0083】
〔受信終了時点の特定方法〕
上記位置特定部31の処理では、2種類の遮蔽部材42,43で入射角度θが絞られたダウンリンク光DOの受信開始時点t1だけでなく、そのダウンリンク光DOの受信終了時点t2を車載コンピュータ26において特定する必要があるが、この受信終了時点t2については、受光素子19の受光強度によって特定することができる。
図11は、制限部材41が2種類の遮蔽部材42,43で構成されている場合の、受光素子19の車両進行方向位置と受光強度との関係を示すグラフの一例である。
【0084】
この図11に示すように、受光素子19の受光強度は、ダウンリンク光DOの受信開始位置において急激に上昇し、その後、最大値を経て、ビーコン直下に至る手前で急激に下降し、受光強度が0に戻る。
そこで、車載コンピュータ26において、受光強度が急激に上昇した時点を、各遮蔽部材42,43が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始時点t1として特定するとともに、受光強度が0に戻った時点を、ダウンリンク光DOの受信終了時点t2として特定することができる。
【0085】
〔ピッチ方向の傾きによる補正処理〕
ところで、実際の道路Rを走行中の車両Cは、道路の凹凸状態、荷物や搭乗者の荷重及び加減速の状況等により、必ずしも道路Rの走行面と平行には走行しておらず、約±5度の変動範囲でピッチ方向の傾きを動的に変化させながら道路Rを走行している。
このため、車両Cに搭載された遮蔽部材42に生じるピッチ方向の傾きの変化を考慮しないと、位置特定部31が特定する自車位置にも誤差が生じることになる。
【0086】
図12は、ピッチ方向の傾きを考慮した自車位置の特定方法を示す作用説明図である。
図12に示すように、ここでの車両Cには、アップリンク領域UAへの突入時に、前下がりのピッチ方向の傾きφが生じているものとする。
この場合、車両Cに搭載されている第1の遮蔽部材42は、車両Cが水平方向に走行している場合に比べて、ピッチ方向の傾きφ分だけ前下がりに傾斜しているので、第1の遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始時点の入射角度θは、第1の遮蔽部材42に予め設定された制限角度αに対して、ピッチ方向の傾きφ(前上がりの場合は負の数)の分だけ加えたものとなる。
【0087】
従って、図12示すように、ダウンリンク光DOの受信開始時点における車両C側の受光素子19は、第1の遮蔽部材42の制限角度αに傾きφを加えた角度に対応する正接相当の距離L3だけ、ビーコンヘッド8の直下位置より上流側に位置する。
すなわち、図12において、ビーコンヘッド8の直下位置から受光素子19までの距離をL3、ビーコンヘッド8の設置高さをH0、受光素子19の設置高さをH1とすると、次の式(5)が成立する。
L3=(H0−H1)×tan(90−α−φ) ……(5)
【0088】
そこで、本実施形態の位置特定部31は、前記傾き検出器33からピッチ方向の傾きφを常時取得しており、ダウンリンク光DOの受光開始時点での傾きφを上記式(5)に代入することにより、ダウンリンク光DOの受信開始時点におけるビーコンヘッド8に対する距離L3を求め、この距離L3に基づいて車両Cの自車位置を特定する。
このように、本実施形態の位置特定部31は、第1の遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始時点におけるビーコンヘッド8に対する相対位置関係を、その受信開始時点におけるたピッチ方向の傾きφによって補正するので、距離L3の把握が正確になり、自車位置の特定精度を向上することができる。
【0089】
なお、本実施形態の位置特定部31は、図示は省略するが、上記と同様の方法で、第2の遮蔽部材43が入射を許容したダウンリンク光DOの受信終了時点におけるビーコンヘッド8に対する相対位置関係を、その受信終了時点におけるピッチ方向の傾きφによって補正することもできる。
すなわち、本実施形態の位置特定部31において、ダウンリンク光DOの受光終了時点での傾きφを次の式(6)に代入して、ダウンリンク光DOの受信終了時点でのビーコンヘッド8に対する距離L4を求めることにより、ダウンリンク光DOの受信終了時点でのビーコンヘッド8に対する相対位置関係(前記式(3)の距離L2)を補正することができる。
L4=(H0−H1)×tan(90−β−φ) ……(6)
【0090】
〔その他の変形例〕
これまで開示した実施形態はすべて例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の構成と均等の範囲内のすべての変更が本発明に含まれる。
【0091】
例えば、上記実施形態では、制限部材41を板状の遮蔽部材42,43で構成しているが、当該制限部材41を、所定範囲内の入射角度の光だけを透過する性質を有するルーバーフィルムで構成することもできる。このルーバーフィルムの場合には、受光素子19の表面に貼り付けるだけで入射制限効果を発揮するので、制限部材41を簡単に製作及び設置できるという利点がある。
また、上記実施形態において、車載コンピュータ26の各機能部30,31を、車両Cの電子制御装置(ECU)22に組み込むこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】光ビーコンの平面図である。
【図3】光ビーコンの規格上の通信領域を示すための道路の側面図である。
【図4】車載装置とこの車載装置が搭載された車両の概略構成図である。
【図5】路車間通信の手順とデータ内容を示す概念図である。
【図6】制限部材の構成例を示す側面図である。
【図7】制限部材の作用説明図であり、(a)ははみ出し領域への突入時、(b)はアップリンク領域への突入時、(c)はアップリンク領域の通過中をそれぞれ示している。
【図8】受光素子の車両進行方向位置と受光強度との関係を示すグラフである。
【図9】制限部材の変形例を示す側面図である。
【図10】2種類の遮蔽部材よりなる制限部材の作用説明図であり、(a)は規格領域への突入時、(b)は規格領域からの退出時をそれぞれ示している。
【図11】受光素子の車両進行方向位置と受光強度との関係を示すグラフである。
【図12】ピッチ方向の傾きを考慮した自車位置の特定方法を示す作用説明図である。
【図13】車両の傾きの検出原理を示す説明図である。
【図14】はみ出し領域の課題を示すための道路の側面図である。
【符号の説明】
【0093】
4 光ビーコン
7 ビーコン制御機
8 ビーコンヘッド
10 発光素子(ビーコン側)
11 受光素子(ビーコン側)
18 発光素子(車両側)
19 受光素子(車両側)
30 通信制御部
31 位置特定部
33 傾き検出器(傾き検出部)
34 第1のダウンリンク情報
35 アップリンク情報
36 第2のダウンリンク情報
41 制限部材
42 第1の遮蔽部材
43 第2の遮蔽部材
A 通信領域
C 車両
R 道路
IA 照射領域
UA アップリンク領域
DA ダウンリンク領域
RA はみ出し領域
UO アップリンク光
DO ダウンリンク光
【技術分野】
【0001】
本発明は、路側に設置した光ビーコンと、車両に搭載された車載装置との間で光信号による双方向通信を行う、路車間通信システム及び方法とこれに用いる車載装置に関する。
【背景技術】
【0002】
路車間通信システムを利用した交通情報サービスとして、光ビーコン、電波ビーコン又はFM多重放送を用いたいわゆるVICS(Vehicle Information and Communication System:(財)道路交通情報通信システムセンターの登録商標)が既に展開されている。
このうち、光ビーコンは、近赤外線を通信媒体とした光通信を採用しており、車載装置との双方通信が可能となっている。具体的には、車両の保持するビーコン間の旅行時間情報等を含むアップリンク情報が車載装置からインフラ側の光ビーコンに送信され、逆に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報及び車線通知情報等を含むダウンリンク情報が光ビーコンから車載装置に送信されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記光ビーコンは、車載装置との間で双方向通信を行う投受光器(ビーコンヘッド)を備えており、この投受光器には、道路側に向けてダウンリンク光を照射する発光ダイオード(LED)等よりなる発光素子と、車両側からのアップリンク光を受光するフォトダイオード(PD)等よりなる受光素子とが搭載されている。
また、車載装置にも、ビーコンヘッドとの間で光信号による双方向通信を行うために、上記発光素子と受光素子を有する投受光器(車載ヘッド)が搭載されている。
【0004】
ここで、例えば図3に示すように、光ビーコン4のビーコンヘッド8では、規格上、その直下よりも車両進行方向の上流側よりに通信領域Aが設定されることになっている。
この規格上の通信領域Aは、アップリンク情報を受信可能なアップリンク領域UA(点線のハッチングで示す範囲)と、ダウンリンク情報を送信するダウンリンク領域DA(実線のハッチングで示す範囲)とからなる。この各領域UA,DAの車両進行方向長さや位置は、光ビーコン(光学式車両感知器)の「近赤外線式インタフェース規格」によって規定されている。
【0005】
上記規格によれば、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図3の右側部分)と重複しており、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端は互いに一致するものとされている。
また、ダウンリンク領域DAの車両進行方向長さは通信領域Aの同方向長さと一致するものとされている。
【0006】
上記路車間通信システムの通信領域Aにおいて、光ビーコン4と車載装置2との間では次のような通信が行われる。
すなわち、まず、光ビーコン4のビーコンヘッド8は、第1の情報として車線通知情報(車両ID、車線番号無し)を含む第1のダウンリンク情報(ダウンリンク光DO)を道路のダウンリンク領域DAに所定の送信周期で常時送信している。
【0007】
次に、車両Cの車載ヘッド27がダウンリンク領域DAに進入すると、その車載ヘッド27は第1のダウンリンク情報を受信する。これをトリガーとして、車載装置2は自己の車両IDを格納したアップリンク情報(アップリンク光UO)の送信を開始する。
ビーコンヘッド8が上記アップリンク情報を受信すると、ダウンリンクの切り替えを行い、車載ヘッド27に対して、車両IDと車線情報とを含む第2のダウンリンク情報(ダウンリンク光DO)の送信を開始し、この第2のダウンリンク情報の送信を所定時間内において可能な限り繰り返す。
【0008】
車載装置2は、第2のダウンリンク情報に、自己の車両IDが格納されていることを確認すると、当該第1のダウンリンク情報が自身に対して送信されていると認識し、当該第2のダウンリンク情報から必要な情報を得ることができる。
また、車載装置2は、第2のダウンリンク情報に、自己の車両IDが格納されていることを確認するまで、アップリンク情報を繰り返し送信する。
【特許文献1】特開2005−268925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の路車間通信システムにおいて、実際に運用されている光ビーコン4のビーコンヘッド8では、例えば図14に示すように、車載装置2による第1のダウンリンク情報の検出精度を上げるため、道路に対して実際に照射されるダウンリンク光DOの領域(以下、「照射領域」という。)IAが、インタフェース規格による規格上のダウンリンク領域DA(通信領域Aと同じ範囲)の車両進行方向の寸法範囲よりも上流側に広がっている場合がある。
従って、この場合、上記照射領域IAは、アップリンク領域UAよりも上流側に広がったはみ出し領域RAを有することになる。
【0010】
しかし、前述の通り、光ビーコン4の路車間通信では、車載ヘッド27での最初のダウンリンク光DOの受光を契機としてアップリンク光UOを返すようになっているので、ダウンリンク光DOの照射領域IAが上流側に広がっているために、アップリンク領域UAの上流側に上記はみ出し領域RAがある場合には、当該はみ出し領域RAにおいて、車載ヘッド27の発光素子が無駄なアップリンク光UOを送出してしまうという問題がある。
すなわち、はみ出し領域RAに位置する車載ヘッド27からアップリンク光UOを照射しても、この時は車載ヘッド27が未だアップリンク領域UAに至っていないので、ビーコンヘッド8がアップリンク光UOを受信することができず、当該アップリンク光UOが無駄打ちとなる。
【0011】
このように、はみ出し領域RAで照射されたアップリンク光UOは、送信タイミングが早過ぎるためにビーコンヘッド8には届かないので、はみ出し領域RAを有する光ビーコン4を車載ヘッド27が通過するごとに、無駄なアップリンク光UOの照射が発生することになり、車載C側の発光素子の寿命が短くなるという問題がある。
特に、渋滞等の原因により、車載ヘッド27がはみ出し領域RAにある状態で車両Cが停止すると、この停止時に無駄なアップリンク光UOが多数回に渡って送出され続けることになり、発光素子の短寿命化がよりいっそう顕著となる。
【0012】
一方、発光素子の長寿命化対策として、アップリンク光UOの送信回数を制限する制御処理を車載装置2が実行する場合がある。
しかし、この場合、はみ出し領域RAに照射されたダウンリンク光DOの検出に基づいて送出される、無駄なアップリンク光UOによって回数制限を超えてしまい、車載ヘッド27がアップリンク領域UAに到達した頃にはアップリンク光UOを送信できなくなって、結局、アップリンク光UOがビーコンヘッド8に届かず通信が成立しないということもあり得る。
【0013】
本発明は、このような実情に鑑み、ダウンリンク光の照射領域が通常よりも上流側に広がっている場合でも、車両側から無駄なアップリンク光が送信されないようにして、車両側の発光素子の寿命低下を抑制できる路車間通信システム及び方法と、これに用いる車載装置と提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の車載装置(請求項1)は、光ビーコンのビーコンヘッドとの間で、光信号による双方向通信を行う車両の車載装置であって、前記ビーコンヘッドが道路に向けて照射するダウンリンク光を受光する受光素子と、前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光が前記受光素子に入射するのを制限する制限部材とを備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明の車載装置によれば、上記制限部材が、道路に対する実際のダウンリンク光の照射領域のうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光が受光素子に入射するのを制限するので、車両側の受光素子が照射領域の上流側部分を通過する間は、その受光素子によるダウンリンク光の受光が妨げられる。
このため、道路に対して実際に照射されるダウンリンク光の領域である上記照射領域の上流側部分がアップリンク領域よりも広がったはみ出し領域である場合に、このはみ出し領域に照射されたダウンリンク光を車両側の受光素子が受光しなくなり、車載装置による無駄なアップリンク光の送信が防止される。従って、発光素子が必要以上にアップリンク光を発光することに伴う、発光素子の寿命の低下を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の車載装置によれば、はみ出し領域でのアップリンク光の送信が防止されるので、アップリンク光の送信回数を制限する制御機能を有する車載装置の場合には、その回数制限の範囲内で適切にアップリンク光を送信することができ、路車間通信をより確実に行えるようになる。
本発明の車載装置において、前記制限部材は、例えば、前記受光素子の前方に配置された遮蔽部材により構成することができる。かかる遮蔽部材としては、具体的には、前記受光素子に対する入射角度が所定値以上である前記ダウンリンク光の入射を許容し、その入射角度が所定値未満の前記ダウンリンク光を遮蔽する構造を有するものを採用することができる(請求項2)。
【0017】
また、本発明の車載装置は、前記ビーコンヘッドに向けてアップリンク光を発光する発光素子と、前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始を契機として、前記発光素子に前記アップリンク光を送信させる通信制御部とを備える(請求項3)。
この場合、遮蔽部材が入射を許容するダウンリンク光の受信開始時点では、車両側の受光素子は照射領域の上流側部分を既に通過している。このため、照射領域の上流側部分がはみ出し領域になっていても、このはみ出し領域で無駄なアップリンク光が送信されることがない。
【0018】
一方、本発明の車載装置において、照射領域の車両進行方向長さが個々のビーコンヘッドごとに相違していても、上記遮蔽部材が入射を許容するダウンリンク光の受信開始時点における入射角度は、当該遮蔽部材に設定された制限角度(所定値)とほぼ一致する。
このため、上記ダウンリンク光の受信開始時点での車両側の受光素子は、遮蔽部材に設定した制限角度に対応する正接相当の距離だけビーコンヘッドの直下位置より上流側に位置すると見なすことができ、これにより、ダウンリンク光の受信開始時点の車両の自車位置をほぼ正確に特定可能となる。
【0019】
そこで、本発明の車載装置において、前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係に基づいて、前記車両の自車位置を特定する位置特定部を備えていることが好ましい(請求項4)。
この場合、当該位置特定部により、ダウンリンク光を利用した自車位置の特定を、車両側において自律的かつ正確に行えるようになる。
【0020】
なお、本発明の車載装置において、ダウンリンク光の受信開始時点を特定する方法としては、次の2つの方法が考えられる。
(1) 遮蔽部材が入射を許容するダウンリンク光の受光強度に基づいて、当該ダウンリンク光の受信開始時点を特定する。
(2) 遮蔽部材が入射を許容するダウンリンク光に含まれるデジタル信号を検出した時点を、当該ダウンリンク光の受信開始時点とする。
【0021】
本発明の車載装置において、前記制限部材は、前記遮蔽部材の他に更に第2の遮蔽部材を有していてもよい。
この場合、前記第2の遮蔽部材は、前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその下流側部分に照射される前記ダウンリンク光が前記受光素子に入射するのを遮蔽するものを採用することができる(請求項5)。
【0022】
また、前記第2の遮蔽部材が、前記車両の搭乗室内に入射した前記ダウンリンク光の乱反射光が前記受光素子に入射しないように、当該受光素子の上方を覆う形状に形成されておれば(請求項6)、その乱反射光を受光素子が検出することに伴うダウンリンク光の誤検出を防止することができる。
このため、搭乗室で生じた乱反射光によって通信制御部が誤った送信タイミングでアップリンク光を送信するのを未然に防止することができる。
【0023】
更に、上記2種類の遮蔽部材を設ける場合には、この2種類の前記遮蔽部材の双方が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点及び受信終了時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係に基づいて、前記車両の自車位置を特定する位置特定部とすることが好ましい(請求項7)。
この場合、ダウンリンク光の受信開始時点におけるビーコンヘッドに対する相対位置関係の信頼性を、受信終了時点におけるビーコンヘッドに対する相対位置関係を利用して判定することができ、これにより、自車位置の特定精度を向上することができる。
【0024】
ところで、実際の道路を走行中の車両は、道路の凹凸状態、荷物や搭乗者の荷重及び加減速の状況等により、必ずしも道路の走行面と平行には走行しておらず、約±5度の変動範囲でピッチ方向の傾きを変化させながら道路を走行している。
このため、車両に搭載された前記遮蔽部材に生じるピッチ方向の傾きの変化を考慮しないと、位置特定部が特定する自車位置に誤差が生じる。
そこで、本発明の車載装置は、前記車両のピッチ方向の傾きを検出する傾き検出部を更に備えていることが好ましく、この場合、前記位置特定部は、前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点又は受信終了時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係を、検出された前記ピッチ方向の傾きによって補正することが好ましい(請求項8)。
【0025】
本発明の路車間通信システム(請求項9)は、本発明の車載装置(請求項1)を用いた路車間通信システムであり、当該車載装置(請求項1)と同じ作用効果を奏する。
また、本発明の路車間通信方法(請求項10)は、本発明の車載装置(請求項1)を用いて行われる路車間通信方法であって、当該車載装置(請求項1)と同じ作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0026】
以上の通り、本発明によれば、ダウンリンク光の照射領域が通常よりも上流側に広がっている場合であっても、車両側から無駄なアップリンク光が送信されないので、車両側に搭載された発光素子の寿命が低下するのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明の路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、この路車間通信システムは、インフラ側の交通管制システム1と、道路Rを走行する各車両Cに搭載された車載装置2とから構成されている。
交通管制システム1は、管制室に設けられた中央装置3と、道路Rの各所に多数設置された光ビーコン(光学式車両感知器)4とから構成されており、光ビーコン4は、近赤外線を通信媒体とした光通信によって車載装置2との間で双方向通信を行う。なお、中央装置3は交通管制室に設けられている。
【0028】
〔光ビーコンの構成〕
光ビーコン4は、電話回線等の通信回線5を介して中央装置3と接続された通信インタフェースである通信部6と、この通信部6が接続されたビーコン制御機7と、この制御機7のセンサ用インタフェースに接続された複数(図例では4つ)のビーコンヘッド(投受光器)8とを備えている。
各ビーコンヘッド8は、発光ダイオード(LED)等よりなる発光素子10と、フォトダイオード等よりなる受光素子11を、筐体9の内部に収納することによって構成されている(図3参照)。このうち、発光素子10は、近赤外線よりなるダウンリンク光DOを道路R側に向けて照射し、受光素子11は、車載装置2からの近赤外線よりなるアップリンク光UOを受光する。
【0029】
図2は、上記光ビーコン4の平面図である。
図2に示すように、本実施形態の光ビーコン4は、同じ方向の複数(図例では4つ)の車線R1〜R4を有する道路Rに設置されており、各車線R1〜R4に対応して設けられた前記複数のビーコンヘッド8と、これらのヘッド8を一括制御する制御部である一台の前記ビーコン制御機7とを備えている。
上記ビーコン制御機7は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、通信部6による中央装置3との双方向通信と、各投受光器8による車載装置2との路車間通信の制御を行う通信制御部としての機能を有する。なお、このビーコン制御機7による路車間通信の内容については後述する。
【0030】
ビーコン制御機7は、道路脇に立設した支柱12に設置されており、各ビーコンヘッド8は、支柱12から道路R側に水平に架設した架設バー13に取り付けられ、道路Rの各車線R1〜R4の直上に配置されている。
各ビーコンヘッド8の発光素子10は、各車線R1〜R4の直下よりも上流側に向けて近赤外線を発光しており、これにより、車載装置2との間で路車間通信を行うための通信領域Aが当該ビーコンヘッド8の上流側(図2の右側)に設定されている。
【0031】
図3は、光ビーコン4の規格上の通信領域Aを示すための道路Rの側面図である。
図3に示すように、この規格上の通信領域Aは、後述する車載装置2の車載ヘッド(投受光器)20がダウンリンク情報を受信することができるダウンリンク領域(図3において実線のハッチングを設けた領域)DAと、光ビーコン4のビーコンヘッド8がアップリンク情報を受信することができるアップリンク領域(図3において破線のハッチングを設けた領域)UAとからなる。
【0032】
光ビーコン(光学式車両感知器)4の「近赤外線式インタフェース規格」では、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図3の右側部分)と重複しており、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端cは互いに一致している。
従って、ダウンリンク領域DAの車両進行方向長さは、規格上では、通信領域A全体の同方向長さと一致する。
【0033】
また、上記規格では、一般道向けの光ビーコン4の場合で、ダウンリンク領域DAの下流端aは、投受光器8の直下の1.0〜1.3m上流側に位置し、ダウンリンク領域DAの下流端aからアップリンク領域UAの下流端bまでの距離は2.1mと規定され、アップリンク領域UAの下流端bから同領域UAの上流端cまでの距離は1.6mと規定されている。この場合、通信領域Aの車両進行方向の全長は3.7mとなる。
【0034】
もっとも、上記各領域DA,UAの車両進行方向長さは、規格通りの上記各数値に限定されるものではない。
また、図3に仮想線で示すように、実際に運用されている光ビーコン4のビーコンヘッド8では、例えばダウンリンク情報の検出精度を向上させるために、道路Rに対して実際に照射されるダウンリンク光DOの領域(照射領域)IAの上流端c’ を、アップリンク領域UAの上流端cよりも更に上流側(図3の右側)に位置させてある場合もある。この場合、実際のダウンリンク光DOの照射領域IAは、アップリンク領域UAよりも上流側に広がったはみ出し領域RAを有することになる。
【0035】
〔車載装置及び車両の構成〕
図4は、光ビーコン4と路車間通信する前記車載装置2と、この車載装置2が搭載された車両Cの概略構成図である。
図4に示すように、この車両Cは、ドライバの搭乗席(図示せず)を有する車体21と、この車体21に搭載された前記車載装置2と、車両Cの各部を統合制御する電子制御装置(ECU)22と、車体21を駆動するエンジン23と、車体21を制動するブレーキ装置24と、車両Cの現時の速度を常時検出している速度検出器25とを備えている。
【0036】
このうち、ECU22は、ドライバのアクセル操作に基づくエンジン23の駆動制御や、ブレーキ操作に基づく制動制御等、車両Cに対する各種の制御を行う。
車載装置2は、車載コンピュータ26と、このコンピュータ26のセンサ用インタフェースに接続された車載ヘッド(投受光器)27と、搭乗席のドライバに対するヒューマンインタフェースとしてのディスプレイ28及びスピーカ装置29とを備えている。
【0037】
上記車載ヘッド27は、ビーコンヘッド8の場合と同様に、発光ダイオード(LED)等よりなる発光素子18と、フォトダイオード(PD)等よりなる受光素子19とを備えている。
この車載ヘッド27の発光素子18は、近赤外線よりなるアップリンク光UO(アップリンク情報35)を発光し、受光素子19は、ビーコンヘッド8で発光された近赤外線よりなるダウンリンク光DO(ダウンリンク情報34,36)を受光する。
【0038】
車載コンピュータ26は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、車載ヘッド27による光ビーコン4との路車間通信の制御処理を行う。
また、車載コンピュータ26は、所定の各機能を実行するプログラムを記憶装置に格納しており、このプログラムが実行する機能部として、路車間通信のための通信制御部30と、自車位置の特定のための位置特定部31とを備えている。なお、これらの各機能部30,31の処理内容については後述する。
【0039】
また、車載装置2は、車両Cのピッチ方向の傾きを検出する傾き検出器(傾き検出部)33を備えており、この傾き検出器33は、ジャイロセンサ、Gセンサ又は加速度センサを利用して水平面に対する車両Cのピッチ方向の傾斜度合いを常時監視する。
ジャイロセンサは、物体の角速度を測定するセンサであり、その検出信号を積分すれば角度(傾き)が求まる。Gセンサは、物体の加速度を測定するセンサであり、このGセンサでは重力加速度も加算される。他方、加速度センサは、Gセンサと同義とする場合も多いが、本明細書では、周波数特性を持つ加速度成分だけを感知し、静的な加速度(重力加速度)を感知しないものを加速度センサと呼ぶ。
【0040】
図13は、上記センサで実施可能な車両Cの傾きの検出原理を示す説明図である。
このうち、図13(a)は、3軸Gセンサと3軸加速度センサを組み合わせた傾き検出器33の検出原理を示している。
物体が水平面上に置かれている場合には、3Gセンサの出力は、gz=G(G:重力加速度)、gx=gy=0になるが、物体が水平面から傾いている場合には、gz<Gで、かつ、gx≠0 or gy≠0となる。従って、3Gセンサの3つの出力のうち、gzとその他のgx,gyとの比を用いることにより、水平面に対する物体の傾きを算出できる。
【0041】
しかし、車両Cが加速している場合などのように、物体に動的加速度が発生していると、gx,gy,gzにはその動的加速度が重畳される。そこで、重力加速度(静的加速度)を検出しない3軸加速度センサを同時に使用する。
すなわち、3軸加速度センサの各方向の出力をそれぞれax,ay,azとすれば、この出力成分を各方向で差し引き、(gx−ax),(gy−ay),(gz−az)の比を用いた次の式(1)により、水平面に対する物体のピッチ方向の傾きの絶対値を算出できる。
【0042】
【数1】
【0043】
そして、ピッチ方向の傾きの向きについては、(gy−ay)の正負により、車両Cの前方が水平面に対して上向きか下向きかを判断することができる。
なお、1軸Gセンサと1軸加速度センサを用い、(gz−az)の値だけで簡易的にピッチ方向の傾きの絶対値を求めることもできる。
【0044】
図13(b)は、1軸ジャイロセンサと1軸ないし3軸加速度センサを組み合わせた傾き検出器33の検出原理を示している。
1軸ジャイロセンサが、水平面を基点として図13(b)の矢印の方向の角速度を検出するものとすると、この角速度を積分すれば、水平面に対する物体のピッチ方向の傾きを検出することができる。しかし、その積分値は時間の経過とともに誤差が蓄積するので、定期的にゼロ点補正を行う必要がある。
【0045】
そこで、1軸、2軸又は3軸Gセンサを同時に使用する。すなわち、この場合、Gセンサの出力を監視しておき、その出力がgz=G(さらにgx=gy=0)となって値が安定したときに物体が水平状態で安定したと判断し、ジャイロセンサの出力のゼロ点を補正するようにすればよい。
なお、傾き検出器33の他の例としては、道路Rを撮像する車載カメラと、撮像された画像データを分析して道路Rに対する相対的な傾きを求める画像処理装置とから構成することもできる。
【0046】
〔路車間通信:通信制御部の処理内容〕
図5は、ビーコンヘッド8と車載ヘッド27との間で行われる双方向の路車間通信の手順を示している。以下、図5を参照しつつ、本実施形態の路車間通信の内容を説明する。
まず、光ビーコン4のビーコン制御機7は、各車線R1〜R4に対応するビーコンヘッド8から、ダウンリンクの切り替え前の第1情報として、車線通知情報を含む第1のダウンリンク情報34を所定の送信周期で常に送信し続けている(図5のF1)。なお、この段階では、車線通知情報には未だ車両IDは格納されていない。
【0047】
その後、車両Cの車載ヘッド27がダウンリンク光DOの照射領域IAに進入すると、車載ヘッド27の受光素子19が、車線通知情報(車両ID無し)を含む第1のダウンリンク情報34を受信する。
このさい、車載コンピュータ26の通信制御部30は、当該車両Cがビーコンヘッド8と通信可能な領域に到達したことを認識する。その後、通信制御部30は、車載ヘッド27の発光素子18にアップリンク情報35の送信を開始させ(図5のF2)、このアップリンク情報35をビーコンヘッド8に対して所定の送信周期(アップリンク送信周期)で送信する(図5のF3)。
【0048】
車載コンピュータ26の通信制御部30は、車両Cに特定の車両IDを上記アップリンク情報35に格納して当該アップリンク情報35を送信し、ビーコン間の旅行時間情報を有している場合には、この情報もアップリンク情報35に含ませる。
また、通信制御部30は、光ビーコン4のビーコン制御機7がダウンリンクの切り替えを行ったことを認識するまで、当該アップリンク情報35を発光素子18から送信させ続ける。
【0049】
一方、ビーコンヘッド8の受光素子11がアップリンク情報35受信すると(図5のF4)、ビーコン制御機7は、ダウンリンクの切り替えを行った上で、第2情報として、車両ID情報を有する車線通知情報を含む第2のダウンリンク情報36の送信を、発光素子10に開始させる(図5のF5)。このダウンリンク情報36の送信は、所定時間内において可能な限り繰り返される(図5のF6)。
上記車線通知情報には、車線R1〜R4(図2)ごとに車両IDを格納するフィールドがあり、各車両IDに対して車線番号を付与することができる。
【0050】
このため、異なる車線R1〜R4を走行する各車両Cの車載コンピュータ26は、その格納フィールド内のいずれに自車両の車両IDが含まれるかを判断することにより、自車両がどの車線R1〜R4を走行しているかを認識できる。
第2のダウンリンク情報36には、車両IDを含む車線通知情報の他に、渋滞情報、区間旅行時間情報及び事象規制情報が含まれている。なお、当該第2のダウンリンク情報36に、光ビーコン4より下流側の信号機の灯色が変わるタイミング情報である信号情報を含ませることもできる。
【0051】
図5に示すように、第2のダウンリンク情報36は、単一又は複数の最小フレーム37で構成されている。前記「近赤外線式インタフェース規格」によれば、この最小フレーム37のデータ量は合計128バイトと規定され、ヘッダ部38に5バイト、実データ部39に123バイトが割り当てられている。
前記規格によれば、第2のダウンリンク情報36は、1〜80個の最小フレーム37で構成することができ、送信可能時間は250msに設定されている。また、このダウンリンク情報36は送信すべき情報量に対応した任意数の最小フレーム37で構成され、上記送信可能時間の範囲内で繰り返し送信される。
【0052】
最小フレーム37の送信周期は約1msである。従って、例えば、3つの最小フレーム37で一つのダウンリンク情報36を構成する場合には、ダウンリンク情報36の送信周期は約3msになるので、当該ダウンリンク情報36は所定の送信可能時間(250ms)の間に約80回繰り返して送信されることになる。
車載装置2の車載コンピュータ26は、第2のダウンリンク情報36を受信した時点(図5のF7)で光ビーコン4でのダウンリンクの切り替えを認識し、この時点でアップリンク情報35の送信を停止する。
【0053】
〔制限部材による入射制限〕
本実施形態の車載装置2は、道路Rに対して実際に照射されるダウンリンク光DOの領域である照射領域IAのうちで、その上流側部分に照射されるダウンリンク光DOが、車載ヘッド27の受光素子19に入射するのを制限する制限部材41を備えている。
図6は、この制限部材41の構成例を示す側面図である。
図6に示すように、本実施形態の制限部材41は、車載ヘッド27の受光素子19の前方に配置された板状の遮蔽部材42よりなる。
【0054】
この遮蔽部材42は、後上がりに傾斜した状態で受光素子19の前方に立設された板材よりなり、この遮蔽部材42の上端縁と受光素子19の車両進行方向の上流端縁とで成す角により、ダウンリンク光DOの入射制限のための制限角度α(図例では、α=45°)が設定されている。
従って、ビーコンヘッド8から照射される、入射角度θが相違するダウンリンク光DOのうち、受光素子19に対する入射角度θが制限角度α未満のダウンリンク光DOは、遮蔽部材42によって遮蔽され、入射角度θが制限角度α以上であるダウンリンク光DOのみが、受光素子19に対して入射可能となっている。
【0055】
なお、遮蔽部材42の側面形状その他の構造は、上記制限角度αを固定的に設定できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば図6の下部に示すように、水平板形状のものや、側面視逆L字形状のものであってもよく、或いは、側面視円弧状のものであってもよい。
また、上記遮蔽部材42の制限角度αは、ビーコンヘッド8の発光素子10とアップリンク領域UAの上流端cとを結ぶ線分の傾斜角度θu(図3及び図7参照:以下、アップリンク上流傾斜角という。)と、ほぼ一致する値に設定されている。
【0056】
図7は、単一の遮蔽部材42よりなる上記制限部材41の作用説明図である。
図7に示す例では、実線で囲まれた領域が実際のダウンリンク光DOの照射領域IAであり、この領域IAは、規格上の通信領域Aよりも上流側に広範囲となっている。また、破線で囲まれた部分はアップリンク領域UAである。
従って、この場合の照射領域IAでは、その上流側の端部がアップリンク領域UAよりも上流側に広がったはみ出し領域RAになっている。
【0057】
ここで、図7(a)に示すように、車両C側の受光素子19が照射領域IAのはみ出し領域RAに突入すると、本来ならば、その車両C側の受光素子19は、はみ出し領域RAに照射されたダウンリンク光DOを受光する。
しかし、本実施形態では、受光素子19に対する入射角度θが制限角度α未満のダウンリンク光DOについては、遮蔽部材42で遮蔽されるようになっており、その制限角度αはアップリンク上流側傾斜角θuとほぼ同値である。従って、車両C側の受光素子19は、はみ出し領域RAを通過する間はダウンリンク光DOを受光しない。
【0058】
その後、図7(b)に示すように、車両C側の受光素子19がアップリンク領域UAへの突入を開始すると、受光素子19に対するダウンリンク光DOの入射角度θが制限角度α(=θu)以上となって、受光素子19がダウンリンク光DOの受光を開始する。
このため、図7(c)に示すように、車両C側の受光素子19は、アップリンク領域UAの上流端よりも下流側に照射されたダウンリンク光DOを前記第1のダウンリンク情報34として受光し、この受光を契機としてビーコン側との路車間通信が行われる。
【0059】
このように、本実施形態の車載装置2によれば、上記遮蔽部材42が、実際のダウンリンク光DOの照射領域IAの上流側部分に向けて照射されたダウンリンク光DOが受光素子19に入射するのを制限する。
このため、図7に示すような、照射領域IAがはみ出し領域RAを含んでいる場合でも、車両C側の受光素子19が当該はみ出し領域RAを通過するまでは、受光素子19によるダウンリンク光DOの受光が妨げられる。
【0060】
従って、図5に示す路車間通信において、車載コンピュータ26の通信制御部30が、はみ出し領域RAに照射されたダウンリンク光DOを検知してアップリンク情報35の送信を開始(図5のF2)することはなく、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DO(入射角度θが制限角度α以上のダウンリンク光DO)を検出して初めて、アップリンク情報35の送信を開始(図5のF2)することになる。
すなわち、本実施形態の通信制御部30は、ビーコンヘッド8との間で行う路車間通信において、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始を契機として、発光素子18にアップリンク光UOの発光を開始させる。
【0061】
従って、車載装置2の発光素子18がはみ出し領域RAにおいて無駄なアップリンク光UOを発光するのが有効に防止され、これにより、発光素子18がアップリンク光UOを必要以上に発光することに伴う、発光素子18の寿命の低下が抑制される。
また、例えば、渋滞等の原因により、発光素子18がはみ出し領域RAにある状態で車両Cが停止すると、発光素子18が無駄なアップリンク光UOを多数回に渡って送信し続け、発光素子18の短命化がよりいっそう助長されることになるが、本実施形態では、このようなアップリンク光UOの無駄打ちも、未然に防止することができる。
【0062】
一方、上記のようなアップリンク光UOの無駄打ちは、アップリンク光UOの送信回数の制限機能を車載コンピュータ26に設定することによっても実行可能である。しかし、この制限方法では、はみ出し領域RAに照射されたダウンリンク光DOを検出したために、無駄なアップリンク光UOの送信回数が嵩むと、この送信回数だけで制限回数を超えることがある。
そして、この場合には、車載ヘッド27がアップリンク領域UAに到達した頃にはアップリンク光UOを送信できなくなるので、結局、アップリンク光UOがビーコンヘッド8に届かず通信が成立しないことになる。
【0063】
この点、本実施形態の車載装置2によれば、はみ出し領域RAにおけるアップリンク光UOの送信が規制されるので、予め設定された制限回数の範囲内で適切にアップリンク光UOを送信することができる。
従って、アップリンク光UOの送信回数の制限によってビーコンヘッド8へのアップリンク光UOの未達が発生するのが防止され、路車間通信をより確実に行うことができる。
【0064】
〔位置特定部の処理内容〕
次に、前記車載コンピュータ26の位置特定部31の処理内容を説明する。
ここで、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始時点(図7(b))の入射角度θは、照射領域IAの車両進行方向長さの相違に関係なく、当該遮蔽部材42に予め設定された制限角度αとほぼ一致する筈である。
従って、図7(b)に示すように、ダウンリンク光DOの受信開始時点における車両C側の受光素子19は、遮蔽部材42の制限角度αに対応する正接相当の距離L1だけ、ビーコンヘッド8の直下位置よりも上流側に位置する。
【0065】
すなわち、図7(b)において、ビーコンヘッド8の直下位置から受光素子19までの距離をL1、ビーコンヘッド8の設置高さをH0、受光素子19の設置高さをH1とすると、次の式(2)が成立する。
L1=(H0−H1)×tan(90−α) ……(2)
そして、上記式(2)において、制限角度αと設置高さH0,H1はいずれも一定であるから、ダウンリンク光DOの受信開始時点に成立する上記式(2)に基づく距離L1もほぼ一定値となる。
【0066】
そこで、本実施形態の位置特定部31は、ダウンリンク光DOの受信開始時点におけるビーコンヘッド8に対する上記相対位置関係(式(2))に基づき、車両Cの自車位置を特定する。
すなわち、位置特定部31は、距離L1とその方位角とから、ビーコンヘッド8の直下からダウンリンク光DOの受信開始地点までの座標変化量(Δx1,Δy1)を算出し、この変化量(Δx1,Δy1)をビーコンヘッド8の直下の位置座標(x0,y0)に加算することにより、ダウンリンク光DOの受信開始時点における車両Cの自車位置(x0+Δx1,y0+Δy1)を算出する。
【0067】
かかる自車位置(x0+Δx1,y0+Δy1)は、例えばGPS受信機で得られる座標よりも正確であるから、位置特定部31で特定した自車位置でGPS座標を補正するようにすれば、自車位置の評定精度を向上することができる。
また、交差点信号の切り替えタイミングに関する信号情報を車載装置2が取得している場合には、その信号情報と、位置特定部31で特定された自車位置から下流側の交差点位置までの距離に基づいて、車両Cの制動をドライバに促したり、車両Cを強制的に減速させたりする安全運転のための支援制御を行うこともできる。
【0068】
なお、上記ビーコン直下の位置座標(x0,y0)は、予め車載装置2の記憶装置に記憶させておいてもよいし、ビーコン側からのダウンリンク情報34,36に含ませて車載装置2に通知することにしてもよい。
【0069】
〔受信開始時点の特定方法〕
前記通信制御部30と位置特定部31の処理では、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始時点を、車載コンピュータ26において特定する必要があるが、この受信開始時点の特定方法としては次の2つが考えられる。
図8は、受光素子19の車両進行方向位置と受光強度との関係を示すグラフの一例である。この図8に示すように、受光素子19の受光強度は、ダウンリンク光DOの受信開始位置において急激に上昇し、その後、最大値が暫く続いてから、ビーコン直下に向かうに従って次第に低下する。
【0070】
そこで、車載コンピュータ26において受光素子19の受光強度をモニタリングしておき、その受光強度が急激に上昇した時点を、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光の受信開始時点として特定することができる。
もっとも、車載コンピュータ26は、通信領域Aでの路車間通信において、遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOに含まれるデジタル信号を抽出するから、このデジタル信号を車載コンピュータ26が検出した時点をもって、当該ダウンリンク光DOの受信開始時点とすることにしてもよい。
【0071】
〔制限部材の変形例〕
図9は、制限部材41の変形例を示す側面図である。
図9に示すように、この変形例の制限部材41は、受光素子19に対する入射角度θが所定値未満のダウンリンク光DOを遮蔽する第1の前記遮蔽部材42に加えて、受光素子19に対する入射角度θが別の所定値を超えるダウンリンク光DOを遮蔽する第2の遮蔽部材43を備えている。
【0072】
この2種類の遮蔽部材42,43のうち、第1の遮蔽部材42は、ほぼ直立した状態で受光素子19の前方に立設された板材よりなり、第2の遮蔽部材43は、第1の遮蔽部材42の上方に所定寸法の隙間をあけて配置された、ほぼ直立した板材よりなる。
そして、第2の遮蔽部材43には、その下端縁と受光素子19の車両進行方向の下流端縁とで成す角により、ダウンリンク光DOの入射制限のための制限角度β(図例では、β=75°)が設定されている。
【0073】
従って、2種類の遮蔽部材42,43の間の隙間から入射するダウンリンク光DOの、受光素子19に対する入射角度θは、α≦θ≦βの範囲に制限されており、入射角度θがこの範囲を外れるダウンリンクDOについては、各遮蔽部材42,43によって遮蔽されるようになっている。
なお、各遮蔽部材42,43の側面形状その他の構造は、上記制限範囲α≦θ≦βを固定的に設定できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば図9の下部に示すように、第2の遮蔽部材43が水平に延びる平板状であってもよく、各遮蔽部材42,43が側面視円弧状のものであってもよい。また、図9では、第1及び第2の遮蔽部材42,43の遮蔽機能を表すために両者を別体に描写しているが、これらの遮蔽部材42,43を実質的に単一の部材で一体形成することもできる。
【0074】
図9の下部に示す第2の遮蔽部材43の場合には、受光素子19の上方を覆う形状及び配置になっているので、車両Cの搭乗室内に入射した前記ダウンリンク光DOの乱反射光が受光素子19に入射しないようになっている。
このため、乱反射光を受光素子19が検出することに伴うダウンリンク光DOの誤検出が防止され、乱反射光によって通信制御部30が誤った送信タイミングでアップリンク光UOを送信するのを未然に防止することができる。
【0075】
図10は、2種類の遮蔽部材42,43よりなる上記制限部材41の作用説明図である。
図10に示す例では、実線で囲まれた領域が実際のダウンリンク光DOの照射領域IAであり、この領域IAは、規格上の通信領域Aよりも上流側及び下流側の双方で広範囲となっている。また、破線で囲まれた部分は、前記インタフェース規格通りのダウンリンク領域DA(通信領域Aと同じ範囲)である。
従って、この場合の照射領域IAは、規格上のダウンリンク領域DAよりも上流側に広がったはみ出し領域RA1と、規格上のダウンリンク領域DAよりも下流側に広がったはみ出し領域RA2とを有する。
【0076】
そして、図9に示す制限部材41では、ビーコンヘッド8から照射されるダウンリンク光DOの受光素子19に対する入射角度θの範囲が、2種類の遮蔽部材42,43によってα≦θ≦βの範囲に絞られている。
従って、車両C側の受光素子19が、上流側のはみ出し領域RA1や下流側のはみ出し領域RA2を通過する間は、ダウンリンク光DOの入射が制限され、ダウンリンク領域DAを通過する間だけ、ダウンリンク光DOの入射が許容される。
このため、図10に示すように、上流側と下流側にそれぞれはみ出し領域RA1,RA2が含まれている場合であっても、これらの領域RA1,RA2を除いた車両進行方向の範囲内だけで路車間通信を行うことができる。
【0077】
〔2種類の遮蔽部材がある場合の位置特定部の処理内容〕
上記のように、2種類の遮蔽部材42,43を設けた場合、ダウンリンク光DOの受信開始時点(図10(a))の入射角度θは、第1の遮蔽部材42に予め設定された制限角度αとほぼ一致する。また、ダウンリンク光DOの受信終了時点(図10(b))の入射角度θは、第2の遮蔽部材43に予め設定された制限角度βとほぼ一致する。
【0078】
そして、ダウンリンク光DOの受信開始時点(図10(a))における車両C側の受光素子19は、第1の遮蔽部材42の制限角度αに対応する正接相当の距離L1だけ、ビーコンヘッド8の直下位置より上流側に位置するが、この距離L1は、次の式(2)で算出することができる。
L1=(H0−H1)×tan(90−α) ……(2)
【0079】
また、ダウンリンク光DOの受信終了時点(図10(b))における車両C側の受光素子19は、第2の遮蔽部材43の制限角度βに対応する正接相当の距離L2だけ、ビーコンヘッド8の直下位置より上流側に位置するが、この距離L2は、次の式(3)で算出することができる。
L2=(H0−H1)×tan(90−β) ……(3)
【0080】
一方、ダウンリンク光DOの受信開始時点をt1、その受信終了時点をt2、これらの時間差をΔt(=t2−t1)、この間の車両速度をVとすると、ダウンリンク光DOの受信開始時点(図10(a))から受信終了時点(図10(b))までの間の車両Cの走行距離ΔLは、次の式(4)で表すことができる。
L=V×Δt ……(4)
そして、この走行距離Lは、理論的には、式(2)及び式(3)で得られる距離差ΔL(=L1−L2)と一致する筈である。
【0081】
しかし、例えば、ダウンリンク光DOの受信開始時点t1の検出遅れが生じたような場合には、前記式(2)の関係が成立しなくなるので、当該式(2)に基づく距離L1の算出が不適切になる。
そこで、本実施形態の位置特定部31は、距離差ΔL(=L1−L2)が式(4)の走行距離Lとほぼ同じか否かにより、受信開始時点t1の信頼性を判定する。具体的には、位置特定部31は、式(2)に基づく自車位置の特定に先立ち、まず、式(4)で得られる走行距離Lと、式(2)及び式(3)で得られる距離差ΔL(=L1−L2)との差が所定の閾値内であるか否かを判定する。
【0082】
上記判定結果が閾値内である場合には、ダウンリンク光DOの受信開始時点t1が適正に検出されたものと見なせるので、位置特定部31は、ダウンリンク光DOの受信開始時点t1におけるビーコンヘッド8に対する相対位置関係(式(2))に基づいて、その受信開始時点t1における車両Cの自車位置(x0+Δx1,y0+Δy1)を算出する。
このように、本実施形態の位置特定部31は、受信終了時点t2におけるビーコンヘッド8に対する相対位置関係(式(3))から得られる距離L2を用いて、受信開始時点t1の信頼性を判定し、その上で、受信開始時点t1におけるビーコンヘッド8に対する相対位置関係(式(2))を用いて自車位置を特定するので、不正な受信開始時点t1を用いた自車位置の特定が行われるのを防止でき、この点で、自車位置の特定精度を向上することができる。
【0083】
〔受信終了時点の特定方法〕
上記位置特定部31の処理では、2種類の遮蔽部材42,43で入射角度θが絞られたダウンリンク光DOの受信開始時点t1だけでなく、そのダウンリンク光DOの受信終了時点t2を車載コンピュータ26において特定する必要があるが、この受信終了時点t2については、受光素子19の受光強度によって特定することができる。
図11は、制限部材41が2種類の遮蔽部材42,43で構成されている場合の、受光素子19の車両進行方向位置と受光強度との関係を示すグラフの一例である。
【0084】
この図11に示すように、受光素子19の受光強度は、ダウンリンク光DOの受信開始位置において急激に上昇し、その後、最大値を経て、ビーコン直下に至る手前で急激に下降し、受光強度が0に戻る。
そこで、車載コンピュータ26において、受光強度が急激に上昇した時点を、各遮蔽部材42,43が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始時点t1として特定するとともに、受光強度が0に戻った時点を、ダウンリンク光DOの受信終了時点t2として特定することができる。
【0085】
〔ピッチ方向の傾きによる補正処理〕
ところで、実際の道路Rを走行中の車両Cは、道路の凹凸状態、荷物や搭乗者の荷重及び加減速の状況等により、必ずしも道路Rの走行面と平行には走行しておらず、約±5度の変動範囲でピッチ方向の傾きを動的に変化させながら道路Rを走行している。
このため、車両Cに搭載された遮蔽部材42に生じるピッチ方向の傾きの変化を考慮しないと、位置特定部31が特定する自車位置にも誤差が生じることになる。
【0086】
図12は、ピッチ方向の傾きを考慮した自車位置の特定方法を示す作用説明図である。
図12に示すように、ここでの車両Cには、アップリンク領域UAへの突入時に、前下がりのピッチ方向の傾きφが生じているものとする。
この場合、車両Cに搭載されている第1の遮蔽部材42は、車両Cが水平方向に走行している場合に比べて、ピッチ方向の傾きφ分だけ前下がりに傾斜しているので、第1の遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始時点の入射角度θは、第1の遮蔽部材42に予め設定された制限角度αに対して、ピッチ方向の傾きφ(前上がりの場合は負の数)の分だけ加えたものとなる。
【0087】
従って、図12示すように、ダウンリンク光DOの受信開始時点における車両C側の受光素子19は、第1の遮蔽部材42の制限角度αに傾きφを加えた角度に対応する正接相当の距離L3だけ、ビーコンヘッド8の直下位置より上流側に位置する。
すなわち、図12において、ビーコンヘッド8の直下位置から受光素子19までの距離をL3、ビーコンヘッド8の設置高さをH0、受光素子19の設置高さをH1とすると、次の式(5)が成立する。
L3=(H0−H1)×tan(90−α−φ) ……(5)
【0088】
そこで、本実施形態の位置特定部31は、前記傾き検出器33からピッチ方向の傾きφを常時取得しており、ダウンリンク光DOの受光開始時点での傾きφを上記式(5)に代入することにより、ダウンリンク光DOの受信開始時点におけるビーコンヘッド8に対する距離L3を求め、この距離L3に基づいて車両Cの自車位置を特定する。
このように、本実施形態の位置特定部31は、第1の遮蔽部材42が入射を許容するダウンリンク光DOの受信開始時点におけるビーコンヘッド8に対する相対位置関係を、その受信開始時点におけるたピッチ方向の傾きφによって補正するので、距離L3の把握が正確になり、自車位置の特定精度を向上することができる。
【0089】
なお、本実施形態の位置特定部31は、図示は省略するが、上記と同様の方法で、第2の遮蔽部材43が入射を許容したダウンリンク光DOの受信終了時点におけるビーコンヘッド8に対する相対位置関係を、その受信終了時点におけるピッチ方向の傾きφによって補正することもできる。
すなわち、本実施形態の位置特定部31において、ダウンリンク光DOの受光終了時点での傾きφを次の式(6)に代入して、ダウンリンク光DOの受信終了時点でのビーコンヘッド8に対する距離L4を求めることにより、ダウンリンク光DOの受信終了時点でのビーコンヘッド8に対する相対位置関係(前記式(3)の距離L2)を補正することができる。
L4=(H0−H1)×tan(90−β−φ) ……(6)
【0090】
〔その他の変形例〕
これまで開示した実施形態はすべて例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の構成と均等の範囲内のすべての変更が本発明に含まれる。
【0091】
例えば、上記実施形態では、制限部材41を板状の遮蔽部材42,43で構成しているが、当該制限部材41を、所定範囲内の入射角度の光だけを透過する性質を有するルーバーフィルムで構成することもできる。このルーバーフィルムの場合には、受光素子19の表面に貼り付けるだけで入射制限効果を発揮するので、制限部材41を簡単に製作及び設置できるという利点がある。
また、上記実施形態において、車載コンピュータ26の各機能部30,31を、車両Cの電子制御装置(ECU)22に組み込むこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】光ビーコンの平面図である。
【図3】光ビーコンの規格上の通信領域を示すための道路の側面図である。
【図4】車載装置とこの車載装置が搭載された車両の概略構成図である。
【図5】路車間通信の手順とデータ内容を示す概念図である。
【図6】制限部材の構成例を示す側面図である。
【図7】制限部材の作用説明図であり、(a)ははみ出し領域への突入時、(b)はアップリンク領域への突入時、(c)はアップリンク領域の通過中をそれぞれ示している。
【図8】受光素子の車両進行方向位置と受光強度との関係を示すグラフである。
【図9】制限部材の変形例を示す側面図である。
【図10】2種類の遮蔽部材よりなる制限部材の作用説明図であり、(a)は規格領域への突入時、(b)は規格領域からの退出時をそれぞれ示している。
【図11】受光素子の車両進行方向位置と受光強度との関係を示すグラフである。
【図12】ピッチ方向の傾きを考慮した自車位置の特定方法を示す作用説明図である。
【図13】車両の傾きの検出原理を示す説明図である。
【図14】はみ出し領域の課題を示すための道路の側面図である。
【符号の説明】
【0093】
4 光ビーコン
7 ビーコン制御機
8 ビーコンヘッド
10 発光素子(ビーコン側)
11 受光素子(ビーコン側)
18 発光素子(車両側)
19 受光素子(車両側)
30 通信制御部
31 位置特定部
33 傾き検出器(傾き検出部)
34 第1のダウンリンク情報
35 アップリンク情報
36 第2のダウンリンク情報
41 制限部材
42 第1の遮蔽部材
43 第2の遮蔽部材
A 通信領域
C 車両
R 道路
IA 照射領域
UA アップリンク領域
DA ダウンリンク領域
RA はみ出し領域
UO アップリンク光
DO ダウンリンク光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビーコンのビーコンヘッドとの間で、光信号による双方向通信を行う車両の車載装置であって、
前記ビーコンヘッドが道路に向けて照射するダウンリンク光を受光する受光素子と、
前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光が前記受光素子に入射するのを制限する制限部材とを備えていることを特徴とする車載装置。
【請求項2】
前記制限部材は、前記受光素子の前方に配置された遮蔽部材よりなり、
前記遮蔽部材は、前記受光素子に対する入射角度が所定値以上である前記ダウンリンク光の入射を許容し、その入射角度が所定値未満の前記ダウンリンク光を遮蔽する構造を有する請求項1に記載の車載装置。
【請求項3】
前記ビーコンヘッドに向けてアップリンク光を照射する発光素子と、
前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始を契機として、前記発光素子に前記アップリンク光を照射させる通信制御部とを備えている請求項2に記載の車載装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係に基づいて、前記車両の自車位置を特定する位置特定部を備えている請求項2又は3に記載の車載装置。
【請求項5】
前記制限部材は、前記遮蔽部材の他に更に第2の遮蔽部材を有しており、
前記第2の遮蔽部材は、前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその下流側部分に照射される前記ダウンリンク光が前記受光素子に入射するのを遮蔽する請求項2に記載の車載装置。
【請求項6】
前記第2の遮蔽部材は、前記車両の搭乗室内に入射した前記ダウンリンク光の乱反射光が前記受光素子に入射しないように、当該受光素子の上方を覆う形状に形成されている請求項5に記載の車載装置。
【請求項7】
2種類の前記遮蔽部材の双方が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点及び受信終了時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係に基づいて、前記車両の自車位置を特定する位置特定部を備えている請求項5又は6に記載の車載装置。
【請求項8】
前記車両のピッチ方向の傾きを検出する傾き検出部を更に備えており、
前記位置特定部は、前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点又は受信終了時点若しくはこれら双方の時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係を、検出された前記ピッチ方向の傾きによって補正する請求項4又は7に記載の車載装置。
【請求項9】
道路を走行する車両の車載装置と、ビーコンヘッドを有する光ビーコンとを備え、前記車載装置と前記ビーコンヘッドとの間で光信号による双方向通信を行う路車間通信システムであって、
前記車載装置は、
前記ビーコンヘッドが前記道路に向けて照射するダウンリンク光を受光する受光素子と、
前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光が前記受光素子に入射するのを制限する制限部材とを有することを特徴とする路車間通信システム。
【請求項10】
道路を走行する車両の車載装置と、光ビーコンのビーコンヘッドとの間でダウンリンク光とアップリンク光よりなる光信号による双方向通信を行う路車間通信方法であって、
前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光の入射を制限し、この制限をクリアした当該ダウンリンク光を用いて前記双方向通信を行うことを特徴とする路車間通信方法。
【請求項1】
光ビーコンのビーコンヘッドとの間で、光信号による双方向通信を行う車両の車載装置であって、
前記ビーコンヘッドが道路に向けて照射するダウンリンク光を受光する受光素子と、
前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光が前記受光素子に入射するのを制限する制限部材とを備えていることを特徴とする車載装置。
【請求項2】
前記制限部材は、前記受光素子の前方に配置された遮蔽部材よりなり、
前記遮蔽部材は、前記受光素子に対する入射角度が所定値以上である前記ダウンリンク光の入射を許容し、その入射角度が所定値未満の前記ダウンリンク光を遮蔽する構造を有する請求項1に記載の車載装置。
【請求項3】
前記ビーコンヘッドに向けてアップリンク光を照射する発光素子と、
前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始を契機として、前記発光素子に前記アップリンク光を照射させる通信制御部とを備えている請求項2に記載の車載装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係に基づいて、前記車両の自車位置を特定する位置特定部を備えている請求項2又は3に記載の車載装置。
【請求項5】
前記制限部材は、前記遮蔽部材の他に更に第2の遮蔽部材を有しており、
前記第2の遮蔽部材は、前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその下流側部分に照射される前記ダウンリンク光が前記受光素子に入射するのを遮蔽する請求項2に記載の車載装置。
【請求項6】
前記第2の遮蔽部材は、前記車両の搭乗室内に入射した前記ダウンリンク光の乱反射光が前記受光素子に入射しないように、当該受光素子の上方を覆う形状に形成されている請求項5に記載の車載装置。
【請求項7】
2種類の前記遮蔽部材の双方が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点及び受信終了時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係に基づいて、前記車両の自車位置を特定する位置特定部を備えている請求項5又は6に記載の車載装置。
【請求項8】
前記車両のピッチ方向の傾きを検出する傾き検出部を更に備えており、
前記位置特定部は、前記遮蔽部材が入射を許容する前記ダウンリンク光の受信開始時点又は受信終了時点若しくはこれら双方の時点における前記ビーコンヘッドに対する相対位置関係を、検出された前記ピッチ方向の傾きによって補正する請求項4又は7に記載の車載装置。
【請求項9】
道路を走行する車両の車載装置と、ビーコンヘッドを有する光ビーコンとを備え、前記車載装置と前記ビーコンヘッドとの間で光信号による双方向通信を行う路車間通信システムであって、
前記車載装置は、
前記ビーコンヘッドが前記道路に向けて照射するダウンリンク光を受光する受光素子と、
前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光が前記受光素子に入射するのを制限する制限部材とを有することを特徴とする路車間通信システム。
【請求項10】
道路を走行する車両の車載装置と、光ビーコンのビーコンヘッドとの間でダウンリンク光とアップリンク光よりなる光信号による双方向通信を行う路車間通信方法であって、
前記道路に対する実際の前記ダウンリンク光の照射領域のうちでその上流側部分に照射される当該ダウンリンク光の入射を制限し、この制限をクリアした当該ダウンリンク光を用いて前記双方向通信を行うことを特徴とする路車間通信方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−26897(P2010−26897A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189448(P2008−189448)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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