路面けがき板
【課題】道路の路面に描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する回転式円板型の路面けがき板において、描画が見やすく、定着性のよい路面けがき板を提供する。
【解決手段】LED用封止樹脂の主剤30重量%、同硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を撹拌混練した後、金型に注入して硬化させてけがき板本体66を製造する。120℃の高温炉で90分硬化させることで、十分な強度が得られる。拌混練の後、脱泡を行うことで、製品が気泡を内包することがない。金型への注入の前に混練物を撹拌することで、比重の大きい粉状酸化チタンの沈殿を防止する。硬化後、金型ごと、冷却してから製品を取出すことで、取出す際の製品の割れを防止することができる。金型を非密閉状態とすることにより、冷却凝固時の製品の割れを防止することができる。製造されるけがき板の円板の一方の端面を上部大気開放することにより、製品が均質に冷却凝固する。
【解決手段】LED用封止樹脂の主剤30重量%、同硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を撹拌混練した後、金型に注入して硬化させてけがき板本体66を製造する。120℃の高温炉で90分硬化させることで、十分な強度が得られる。拌混練の後、脱泡を行うことで、製品が気泡を内包することがない。金型への注入の前に混練物を撹拌することで、比重の大きい粉状酸化チタンの沈殿を防止する。硬化後、金型ごと、冷却してから製品を取出すことで、取出す際の製品の割れを防止することができる。金型を非密閉状態とすることにより、冷却凝固時の製品の割れを防止することができる。製造されるけがき板の円板の一方の端面を上部大気開放することにより、製品が均質に冷却凝固する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の路面に線や図柄を描画するための路面けがき板に関するものであり、特に塗装前の所謂墨入れを行うのに好適な車両型路面描画装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、道路の路面に描かれているレーンマーカや路面標示は、墨入れと呼ばれる下書きを行ってから塗装を行って表示されている。そこで、下記特許文献1では、小型トラックに道路標示塗布システムを搭載し、この小型トラックで道路標示塗布システムを搬送しながら、塗布装置に設けられた左右一列の塗料吐出孔をパターンに応じて開閉し、路面に道路標示を描画する技術が開示されている。また、下記特許文献2には、無線操縦式道路区画線施工機を無線操作によって走行させながら塗料を路面に吐出することにより、作業者の安全を確保する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平7−34414号公報
【特許文献2】特開平5−214711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1によれば、極めて正確な小型トラックの運転と、その小型トラックの移動状態にリンクした極めて高精度な塗料吐出を行うことを前提として、下書きすることなく、直接、路面に塗料を吐出する路面描画の自動化が可能となるが、極めて正確な小型トラックの運転そのものが困難であるし、それにリンクした極めて高精度な塗料吐出も困難であることからして、どちらの前提も現実的でない。一方、前記特許文献2では、無線操縦式道路区画線施工機を無線によって遠隔操作するため、作業者の安全は確保されるが、前述した墨入れと呼ばれる下書きは、依然として作業者が行わなければならない。実は、レーンマーカや路面標示などの路面描画で最も作業時間と経験を必要とするのは、墨入れと呼ばれる下書きであり、路面描画作業の全作業時間の実に4割〜4.5割以上を占める。しかしながら、この路面描画の墨入れと呼ばれる下書き作業を効率化する方法は全く開発されていない。
【0004】
このような諸問題に対し、本出願人は、路面描画の墨入れと呼ばれる下書き作業を著しく効率化することが可能な自走式車両型路面描画装置を開発した。この路面描画装置は、2つの駆動輪と、1つの従動輪と、2つの駆動輪の中間部に設けられたマーキング装置とを備える。マーキング装置の位置を、路面描画装置全体平面視の重心点近傍とし、2つの駆動輪を同期回転させたり、互いに逆方向に回転させたりすることで、マーキング装置を路面上で自在に移動させ、このマーキング装置の移動軌跡を墨入れ相当に設定することで路面描画の下書き作業を行うことができる。
【0005】
この路面描画装置では、円板型のけがき板を周方向に回転させ、その周方向端部を路面に当接することで自身が削れ、その削り粉で路面に描画される。描画装置の開発当初、この回転式円板型けがき板は、アルミニウムなどの金属製円板がよいとしていたが、描画が見にくいことや、定着性がよくないことから、けがき板の更なる改良が望まれていた。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、描画が見やすく、定着性のよい路面けがき板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記諸問題を解決するため、本発明の路面けがき板は、道路の路面に線や図柄を描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する回転式円板型の路面けがき板であって、LED用封止樹脂の主剤を30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤を20重量%、粉状酸化チタンを50重量%含有し、LED用封止樹脂の主剤及び硬化剤に粉状酸化チタンを撹拌混練した後、金型に注入して硬化したことを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の路面けがき板の製造方法は、道路の路面に線や図柄を描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する回転式円板型の路面けがき板の製造方法であって、LED用封止樹脂の主剤30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を撹拌混練した後、混練物を金型に注入して硬化することを特徴とするものである。
また、前記硬化は、120℃の高温炉で90分行うことを特徴とするものである。
また、前記撹拌混練の後、脱泡を行うことを特徴とするものである。
【0008】
また、前記金型への注入の前に、混練物を撹拌することを特徴とするものである。
また、前記硬化後、金型ごと、冷却してから製品を取出すことを特徴とするものである。
また、前記金型を非密閉状態とすることを特徴とするものである。
また、前記金型は、製造されるけがき板の円板の一方の端面を上部大気開放していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
而して、本発明の路面けがき板及び路面けがき板の製造方法によれば、LED用封止樹脂の主剤30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を撹拌混練した後、金型に注入して硬化することとしたため、描画が見やすく、定着性がよい。また、適正な強度が得られ、使用限界までの耐用時間も十分に得られる。
また、120℃の高温炉で90分硬化させることで、十分な強度が得られる。
また、拌混練の後、脱泡を行うことにより、製品が気泡を内包することがなく、十分な強度が得られると共に、描画が見やすい。
【0010】
また、金型への注入の前に混練物を撹拌することにより、比重の大きい粉状酸化チタンの沈殿を防止し、均質な製品を得ることができる。
また、硬化後、金型ごと、冷却してから製品を取出すことにより、取出す際の製品の割れを防止することができる。
また、金型を非密閉状態とすることにより、冷却凝固時の製品の割れを防止することができる。
また、金型は、製造されるけがき板の円板の一方の端面を上部大気開放することにより、製品が均質に冷却凝固する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の路面描画装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の路面描画装置のスケルトン図である。
【図3】図1の路面描画装置の冷却風の流れの説明図である。
【図4】図1の路面描画装置の制御装置のブロック図である。
【図5】図4の制御装置の機能部を示すブロック図である。
【図6】曲線描画の説明図である。
【図7】車体方向算出及び矯正の説明図である。
【図8】マーキング装置の他の例を示す図である。
【図9】モールディングされた路面けがき板の詳細図である。
【図10】金型の斜視図である。
【図11】金型の平面図及び正面図である。
【図12】金型及び路面けがき板の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の路面描画装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の路面描画装置の全体構成図であり、(a)は平面図、(b)は左側面図、(c)は正面図を示している。また、図2は、図1の路面描画装置のスケルトン図であり、(a)は平面図、(b)は左側面図を示している。本実施形態の路面描画装置は、国際出願を経て日本国内に出願された特願2009−539027に記載のものと同等である。本実施形態の路面描画装置は、自走可能な車両型であり、主要な構成は車体1の内部に配設され、それらの構成は配線接続管2を介して外部のリモートコントローラに接続されている。なお、車体1の内部構成には、外部電源から配線接続管を介して給電される。
【0013】
図中の符号3L,3Rは、図1b或いは図2bの左側面図において、車体1内のやや右側に配設された左右駆動輪である。この左駆動輪3L及び右駆動輪3Rは、同一の車軸上に配設されており、夫々、左駆動輪駆動用モータ4L及び右駆動輪駆動用モータ4Rによって駆動される。左駆動輪駆動用モータ4L及び右駆動輪駆動用モータ4Rの回転軸には駆動プーリ5L,5Rが取付けられ、左駆動輪3L及び右駆動輪3Rの車軸には従動プーリ6L,6Rが取付けられ、夫々、駆動プーリ5L,5Rと従動プーリ6L,6Rにベルト7L,7Rが巻回されている。左駆動輪駆動用モータ4L及び右駆動輪駆動用モータ4Rは、何れもステップモータであり、入力されるステップ数分だけ、何れの方向にも回転可能である。従って、左駆動輪3L及び右駆動輪3Rは、互いに同方向にも逆方向にも回転可能である。
【0014】
なお、左駆動輪駆動用モータ4Lの回転軸及び駆動プーリ5L及び従動プーリ6L及びベルト7Lは左駆動ケース8L内にほぼ気密状態に収納されており、左駆動ケース8Lの内部は左駆動輪3Lの車軸部分だけが外部に連通している。また、同様に、右駆動輪駆動用モータ4Rの回転軸及び駆動プーリ5R及び従動プーリ6R及びベルト7Rは右駆動ケース8R内にほぼ気密状態に収納されており、右駆動ケース8Rの内部は右駆動輪3Rの車軸部分だけが外部に連通している。また、左駆動輪3L及び右駆動輪3Rの外周には、ゴム製ベルトからなる滑り止め9が施されている。
【0015】
前記左駆動輪3Lと右駆動輪3Rの中間部にあって、それらの車軸と直交する方向に1つの従動輪10が配設されている。この従動輪10は、路面に対して何れの方向にも自在に回転する自在輪であることが要件であり、本実施形態では、球で構成されている。自在輪としては、例えば周知のキャスターが考えられるが、本実施形態では、左駆動輪3Lと右駆動輪3Rとを逆方向に回転したり、同方向に回転したりを繰り返すため、例えば両駆動輪3L,3Rを同方向に回転している状態から逆方向に回転する場合、キャスターの車体取付点がキャスターの車軸からずれている分、車体1に余分な挙動が生じる。その点、従動輪10を球で構成すれば、球は、理論上、常に路面と点接触であり且つ回転慣性が抑えられている限り、いつでも、どの方向にも回転可能である。ちなみに、球からなる従動輪10は、3つのボールで車体1に回転自在に支持されている。
【0016】
前記左駆動輪3Lと右駆動輪3Rの中間部にはマーキング装置11が配設され、ちょうど両駆動輪3L,3Rの真ん中に、路面にマーキングするための路面けがき板12が配設されている。この路面けがき板12は、後述するように、粉状酸化チタンを樹脂で円板状にモールディングしたものであり、路面けがき板回転用モータ13によって円周方向に回転される。路面けがき板回転モータ13の回転軸には駆動プーリ14が取付けられ、路面けがき板12の回転軸には従動プーリ15が取付けられ、駆動プーリ14と従動プーリ15とにベルト16が巻回されている。この路面けがき板12を回転させながら路面に当接すると、路面けがき板12が削れて粉状酸化チタンが路面に付着する。本実施形態は、粉状酸化チタンによって路面に線や図柄を描画する。なお、路面けがき板回転用モータ13の回転軸及び駆動プーリ14及び従動プーリ15及びベルト16は描画機構ケース17内にほぼ気密状態に収納されており、描画機構ケース17の内部は路面けがき板12の回転軸部分だけが外部に連通している。
【0017】
描画機構ケース17は、従動輪10側に配設された揺動軸18を介して、上下方向に揺動可能なるように車体1に取付けられている。一方、描画機構ケース17を挟んで揺動軸18の反対側には描画機構昇降用モータ19が配設され、その回転軸にクランクアーム20が取付けられ、そのクランクアーム20は描画機構ケース17の下面を支持している。従って、描画機構昇降用モータ19を回転してクランクアーム20により描画機構ケース17の下面を上方に押し上げれば描画機構ケース17が揺動軸18回りに上方に回転して路面けがき板12は路面から離間し、描画機構昇降用モータ19を逆回転してクランクアーム20による描画機構ケース17の支持を開放すれば描画機構ケース17が揺動軸18回りに下方に回転して路面けがき板12は路面に当接する。即ち、本実施形態の路面描画装置によって路面に描画しないときには描画機構昇降用モータ19を回転して路面けがき板12を路面から離間しておき、描画するときだけ描画機構昇降用モータ19を逆回転して路面けがき板12を路面に当接させる。なお、描画機構ケース17の揺動軸18には、回転角センサ21が取付けられている。
【0018】
車体1内にあって、左駆動ケース8L、右駆動ケース8R、従動輪10、マーキング装置11の上方には気密な制御ケース22が配設され、内部には、CPUを搭載するメインボード23、インタフェースやドライバを備えたI/Oボード24、記憶装置を搭載するメモリボード25などが配設されている。制御ケース22の下方には、送風機用モータ26で回転駆動される送風機27が配設され、送風機27と制御ケース22とはフレキシブルダクト28で接続されている。また、制御ケース22と左駆動ケース8L及び右駆動ケース8Rとはフレキシブルダクト29で接続され、制御ケース22と描画機構ケース17とはフレキシブルダクト30で接続されている。
【0019】
従って、図3に示すように、送風機27から制御ケース22内に送給された冷却風は、当該制御ケース22内を冷却した後、左駆動ケース8L及び右駆動ケース8R及び描画機構ケース17内に送給され、左駆動ケース8L内の駆動系を冷却した後、左駆動輪3Lの車軸から外部に噴出し、右駆動ケース8R内の駆動系を冷却した後、右駆動輪3Rの車軸から外部に噴出し、描画機構ケース17内の駆動系を冷却した後、路面けがき板12の回転軸から外部に噴出する。前述のように、本実施形態では路面けがき板12の粉状酸化チタンで路面に描画するため、その粉が装置の近傍に舞い上がる可能性がある。また、道路の路面には塵埃が漂っている。本実施形態では、前述のように装置の冷却風を駆動輪3L,3Rの車軸並びに路面けがき板12の回転軸から外部に噴出させているので、これらの塵芥が駆動系内に侵入するのを抑制防止することができる。
【0020】
また、車体1の平面視四隅には、例えば圧電素子や接触スイッチなどで構成される接触センサ31が取付けられている。本実施形態では、左右駆動輪3L,3Rの駆動状態、具体的には左右駆動輪駆動用モータ4L,4Rの駆動状態から自車の位置情報を求めるので、路面描画装置が何かに接触したり、何かが路面描画装置に接触したりして左右駆動輪3L,3Rの駆動状態と路面描画装置の移動状態とがズレてしまうと正しい位置情報が得られず、結果的に正確な路面描画ができなくなってしまう。そのため、接触センサ31により外部からの接触が検出されたら描画を一旦中止させるようにしている。
【0021】
そして、本実施形態では、装置全体の重心が、図2aに示す平面視で、左右駆動輪3L,3Rの中間部から従動輪10側に所定距離だけ離れた位置(図の白黒の○)になるように重量バランスしている。本実施形態の路面描画装置では、マーキング装置11の路面けがき板12を回転させながら路面に当接した状態で、例えば左右駆動輪3L,3Rを僅かな速度差で逆方向に回転させれば、極めて径の小さな円弧を路面に描くこともできるし、左右駆動輪3L,3Rを同期させて同方向に回転させれば、ほぼ完璧な直線を路面に描くこともできる。また、左右駆動輪3L,3Rに位相差をつけて同方向に回転させれば、曲率の小さな、即ち曲率半径の大きな円弧を描くことも可能である。また、それらの組合せによって所定の図柄を路面に描くことも可能である。例えば、速度規制のための数字の路面標示や、進行方向を規制する矢印の路面標示は、法規によってサイズが決まっている。これらの図柄のサイズに応じた走行軌跡、具体的には左右駆動輪3L,3Rの駆動状態を予め記憶しておき、その駆動状態通りに左右駆動輪3L,3R、つまり左右駆動輪駆動用モータ4L,4Rを駆動すれば、所定の図柄を路面に描くことが可能となる。
【0022】
2つの左右駆動輪3L,3Rと1つの従動輪10で路面に追従するためには、それらの車輪の接触点を結ぶ三角形の内側に重心があることが必須である。しかしながら、装置全体の重心が従動輪10側に寄りすぎてしまうと、従動輪10の荷重が大きくなりすぎてしまう。本実施形態の従動輪10は球であり、路面の何れの方向にも転がりやすくしてあるものの、従動輪10の荷重が大きくなりすぎると摩擦抵抗が増大するため、例えば左右駆動輪3L,3Rに位相差を付けて回転させる場合や逆方向に回転させる場合、従動輪10の摩擦抵抗によって車体1の挙動が阻害され、マーキング装置11によるマーキングが阻害される恐れがある。一方、装置全体の重心を左右駆動輪3L,3Rの車軸側に寄せすぎてしまうと、例えば左右駆動輪3L,3R側が下になる坂道で従動輪10の荷重が抜けてしまい、路面に正確に追従できなくなる。そこで、装置全体の重心を、平面視で、左右駆動輪3L,3Rの中間部から従動輪10側に所定距離だけ離れた位置とした。
【0023】
制御ケース22内に配設されたメインボード23、I/Oボード24、メモリボード25によって本実施形態の路面描画装置の制御装置が構成される。制御装置の概要を図4のブロック図に示す。制御装置32は、演算処理を司るCPU33、各種センサやデータの入出力を適合化するインタフェース34、各種プログラムや演算処理の結果を記憶する記憶装置35、CPU33からの制御信号をアクチュエータの駆動信号に変換するドライバ36L,36R,37〜39を備えて構成される。また、ステップモータで構成される左右駆動輪駆動用モータ4L,4Rの駆動状態は駆動状態センサ40L,40Rによってモニタされる。なお、データ入力部101、データ出力部102、表示部103は、リモートコントローラに設けられている。
【0024】
実際には、プログラムに従った演算処理で制御装置32内に構築される機能部を図6にブロック図化して示す。本実施形態では、制御装置32内に、機能部として、直線描画部41、曲線描画部42、図柄描画部45、左駆動輪駆動状態算出部47、右駆動輪駆動状態算出部48、路面けがき板状態算出部49を備え、曲線描画部42内には、データ入力曲線描画部43と円弧補間曲線描画部44とが構築され、図柄描画部45内には、自車方向算出矯正部46が構築されている。直線描画部41は、例えば直線を描画する方向に自車が向いている状態で、左右駆動輪3L,3Rを同期して同方向に回転駆動することで路面に直線を描画する。
【0025】
曲線描画部42内のデータ入力曲線描画部43は、データ入力部101から入力された道路の曲率又は曲率半径に応じて、路面に円弧曲線を描画する。具体的には、例えば図6aに示すように、道路端から所定の距離の位置に外側線を構成するレーンマーカを塗装する場合、その下書きである墨入れ時に、直線路から曲線路への移行位置にあって且つ描くべき円弧曲線の描画開始方向、即ち円弧曲線の接線方向に車体1が向いている状態で、データ入力部101から、例えば円弧の内側における道路端の円弧曲率半径を入力すると、それに、外側線の離すべき距離を加算した半径でマーキング装置11の路面けがき板12が移動する軌跡を設定し、その軌跡を移動するために必要な左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡を設定する。
【0026】
曲線描画部42内の円弧補間曲線描画部は、リモートコントローラで装置そのものを移動することにより入力された3点の位置データを円弧補間し、そこから描くべき円弧曲線の曲率又は曲率半径を算出して、路面に円弧曲線を描画する。具体的には、例えば図6bに示すように、道路端から所定の距離の位置に外側線を構成するレーンマーカを塗装する場合、その下書きである墨入れ時に、下書き用円弧曲線の開始点に車体1をリモートコントローラで移動して、その位置を記憶させ、次いで下書き用円弧曲線の中間点(開始点及び終了点を除いて、どの位置でも構わない)に車体1をリモートコントローラで移動して、その位置を記憶させ、次いで下書き用円弧曲線の終了点に車体1をリモートコントローラで移動して、その位置を記憶させる。その間、車体1はどちらに向いていても良い。制御装置32内では、左右駆動輪駆動用モータ4L,4Rの駆動状態を駆動状態センサ40L,40Rでモニタしているので、車体1がどちらに向いているかもモニタでき、その分を差し引いて、インプットされた3点の位置データだけを抽出することが可能となる。この3点の位置データを抽出したら、円弧曲線の開始点、中間点、終了点を通る円弧が1つだけ決まるので、その円弧曲線の曲率又は曲率半径でマーキング装置11の路面けがき板12が移動する軌跡を設定し、その軌跡を移動するために必要な左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡を設定する。
【0027】
図柄描画部45は、前述したように法規で定められたサイズの道路標示については、その道路標示を描画するために必要な左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡を予め記憶しておく。また、サイズの決められていない道路標示については、その道路標示のサイズをインプットすると、その道路標示そのものがマーキング装置11の路面けがき板12の移動軌跡になるので、その軌跡を移動するために必要な左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡を設定する。
【0028】
このように図柄を描画するための左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡が設定されても、実際の道路路面上に図柄を正しく描画するためには、自車が、図柄を描画するために必要な方向に向いている必要がある。そこで、図柄描画部45内に設けられた自車方向算出矯正部46は、例えば以下のようにして自車の方向を算出し、その方向を矯正する。即ち、例えば図7cに二点鎖線で示す道路標示を直線道路の道路端に対して平行に描画する場合にあって描画開始点を通る当該道路端と平行な基準線と平行な方向に自車が向いている必要がある場合には、自車が描画開始点の近傍ではあっても描画開始点にはなく、且つ基準線と平行な方向に向いていない状態で1点をマーキングし、自車が向いている方向に向けて距離L0直線移動動してその地点にもマーキングする。例えば、道路の幅方向をX軸、長手方向をY軸としたとき、描画基準点と最初にマーキングした地点のX軸座標X1及びY軸座標Y1を測定してインプットし、次に基準線(又は描画開始点)と2点目のマーキング地点のX軸座標X2を測定してインプットする。これらの座標が分かれば、基準線に対する自車の方向が分かるし、例えば最初の1点目のマーキング位置と描画開始点とのズレも分かるので、それらから自車両の位置を描画開始点とし且つ向きを基準線方向に矯正することができる。
【0029】
左駆動輪駆動状態算出部47及び右駆動輪駆動状態算出部48では、前記直線描画部41、曲線描画部42、図柄描画部45で設定された左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡を達成ために必要な左右駆動輪3L,3Rの駆動状態を算出設定し、駆動状態センサ40L,40Rで左右駆動輪駆動用モータ4L,4Rの駆動状態をモニタしながら、制御信号をドライバ36L,36Rに出力する。なお、車体1の上部に、水平方向及び垂直方向に首振り可能なレーザ距離センサを設け、例えば描画に対して所定の位置に設けられた2本のポールまでの距離をレーザ距離センサで検出し、それらポールの位置を座標系の基点として認識し、その基点に対して、自車両がどの位置にあるかを随時検出しながら描画を行うようにしてもよい。ちなみに、レーザ距離センサを垂直方向にも首振り可能とするのは、路面の傾斜によってポールを見失うことがないようにするためである。また、自車両内に傾斜センサを設け、その傾斜センサと連動して、レーザ距離センサを垂直方向に首振りするようにしてもよい。
【0030】
路面けがき板状態算出部49では、描画機構ケース17の揺動軸18に設けられた回転角センサ21に基づいて、路面けがき板12の摩耗状態を算出する。本実施形態では、前述のように、路面けがき板12の削り粉である粉状酸化チタンで描画するので、路面けがき板12は次第に径が小さくなる。路面けがき板12の径が次第に小さくなると、当該路面けがき板12の外周が路面に当接しているときの描画機構ケース17は次第に下向きになり、揺動軸18回りの描画機構ケース17の回転角が変化する。そこで、路面けがき板状態算出部49では、前記回転角センサ21で検出される路面けがき板12路面当接時の描画機構ケース17の回転角から路面けがき板12の外径を求めて、その摩耗状態を算出する。
【0031】
そして、算出された路面けがき板12の摩耗状態、つまり外径変化に応じ、マーキング時の路面けがき板12の外周速が常時一定になるようにドライバ37に制御信号を出力して路面けがき板回転用モータ13の駆動状態を制御する。また、算出された路面けがき板12の摩耗状態が限界又は限界に近い状態になったら、その旨をデータ出力部102に出力し、表示部103に表示する。
【0032】
なお、前記実施形態では、路面けがき板12を回転させる路面けがき板回転用モータと描画機構ケース17を昇降する描画機構昇降用モータを個別に設けた例について説明したが、以下のようにすれば2つのモータを1つのモータで兼用できる。即ち、図8に示すように、描画機構ケース17を上下に揺動させる揺動軸21を当該描画機構ケース17内に貫通し、揺動軸と描画機構ケース17との間に、描画機構ケース17を上方に回転するときにだけ、つまりステップモータで構成される描画機構用モータ52が図8bで反時計方向に回転するときにだけ締結するワンウエイクラッチ51を介装する。揺動軸21は、プーリ53やベルト54により描画機構用モータ52で正逆方向に回転可能とし、揺動軸21と路面けがき板12の回転軸とをプーリ55やベルト56で連結する。描画機構ケース17の上方回転限界位置には近接スイッチ57を配設する。
【0033】
例えば図8bで描画機構用モータ52を時計方向に回転すると揺動軸21が同方向に回転して描画機構ケース17が下方に回転するが、図8dのように路面けがき板12が路面に当接するとワンウエイクラッチ51が締結しなくなって描画機構ケース17はそれ以上下方に回転せず、一方、路面けがき板12は描画機構用モータ52に連結されているので回転し続けるので、路面に描画することができる。この状態から、描画機構用モータ52を反時計方向に回転すると揺動軸21が同方向に回転し、ワンウエイクラッチ51が締結して描画機構ケース17も上方に回転する。描画機構ケース17が上方回転限界位置に達すると近接スイッチ57が作動するので、その作動をもって描画機構用モータ52を停止する。
【0034】
この場合、前記実施形態と同様に、揺動軸51の付近に回転角センサを配設し、描画機構ケース17の回転角から路面けがき板12の摩耗状態を検出しても良いが、例えば描画機構用モータ52を反時計方向に回転させ始めるとすぐに描画機構ケース17が上方に回転し始めることから、ステップモータからなる描画機構用モータ52を反時計方向に回転させ始めたときから近接スイッチ57の作動によって描画機構用モータ52を停止するまでのステップ数を用いれば、描画機構ケース17の回転角を求めることができ、その回転角から路面けがき板12の摩耗状態を検出することができる。この場合も、結果的に、路面けがき板12が路面に接触している状態から当該路面けがき板12の摩耗状態を検出することになる。
【0035】
前記路面けがき板12には、試行錯誤の結果、現状でも墨入れに用いられている酸化チタンの粉を採用することとした。例えば、アルミニウム円板を路面に当接した状態で回転させて発生するアルミニウム粉は、視認性がよくない、つまり見にくく、路面安定性もよくない。一方、粉状酸化チタンは、視認性がよい、つまり見やすく、路面安定性にも優れる。この粉状酸化チタンを円板状に形成するために、粉状酸化チタンを樹脂に混連し、金型に注入して硬化させる、つまりモールディングすることとした。
【0036】
図9は、モールディングされた路面けがき板12の詳細図である。図中の符号65は、路面けがき板12を描画機構ケース17に取付けるためのフランジであり、符号66は、円板状のけがき板本体である。図10は、金型67の斜視図、図11は、金型67の平面図及び正面図、図12は、金型67及び路面けがき板12の縦断面図である。金型67は、ほぼ方形の金属製基板68、基板68上に搭載される2つ割りの金属製金型本体69、2つ割りの金型本体69を連結するファスナー70で構成される。ファスナー70には、例えばタキゲン製のアジャストファスナー(商品名)が使用される。
【0037】
2つ割りの金型本体69の上端面には、それらをファスナー70で締結した状態で、けがき板本体66が収納される金型凹部71が形成されており、その上端面、即ちけがき板本体66の円板体の一方の端面は大気開放されている。即ち、この金型67は非密閉状態である。この金型67は、2つ割りの金型本体69をファスナー70で締結し、それを基板68に搭載する。金型本体69の中央部には、フランジ凹部72が形成されているので、このフランジ凹部72内にフランジ65を装入し、当該フランジ65の上方に押さえピン73を搭載して、当該押さえピン73の下端部の凸部74をフランジ65の内部に装入する。更に、押さえピン73の中央部に開設されている貫通孔75にボルト76を差し込み、基板68に設けられているネジ穴77にボルト76のネジ部を螺合し締め付けて、それらを固定する。
【0038】
この状態では、金型凹部71内は空間なので、この金型凹部71内に、粉状酸化チタンを混連した樹脂を注入し、硬化させてけがき板本体66を製造する。粉状酸化チタンを混練する樹脂には、種々の樹脂を用いてみた。例えば、主剤エポキシ樹脂、硬化剤変性脂肪族ポリアミンの組合せからなる樹脂、主剤変性ポリアミドアミン、硬化剤変性ポリアミドアミンの組合せからなる樹脂、主剤FRP用ポリエステル樹脂、硬化剤FRP用ポリエステル樹脂の組合せからなる樹脂などを粉状酸化チタン混連用樹脂として用いてみたが、何れも強度が不足し、特に高温で溶けてしまうという問題があった。
【0039】
こうしたトライアルの結果、LED用封止樹脂を主剤及び硬化剤とする樹脂の組合せが強度に優れ、特に高温でも溶けにくいことを見出した。このLED用封止樹脂の主剤としては、例えばペルノックスME−514B(千代三洋工業株式会社製)、LED用封止樹脂の硬化剤としては、例えばペルノックスME−514(千代三洋工業株式会社製)を用いることができる。樹脂及び粉状酸化チタンの配分比や混練方法についても、数多くのトライアルを必要とした。その結果、LED用封止樹脂の主剤30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を混連し、この混練物を前記金型67の金型凹部71内に注入し、硬化させてけがき板本体66を製造する。このようにして製造された路面けがき板12は、量産性に優れ、路面に下書きした際、視認性と安定性に優れる。撹拌・混練時間は5〜7分程度でよい。また、樹脂の主剤:硬化剤=6:4とすると、後述する割れを防止することができる。
【0040】
硬化に際しては、120℃の高温炉で90分硬化させるとよい。これは、主剤:硬化剤=6:4としたためであり、主剤:硬化剤=5:5の場合には、30分程度短くてよい。しかしながら、前述した量産性、視認性、安定性、割れの問題から、主剤:硬化剤の比を6:4とするのが望ましく、その場合には、硬化時間は90分程度となる。なお、本実施形態では、金型凹部71の上面、即ちけがき板本体66の一方の端面を上部大気開放して、非密閉としている。混連した樹脂は、硬化中に、一旦膨張してから収縮する。金型凹部71を密閉すると、この収縮工程で、けがき板本体66に割れが生じる。金型67を非密閉とすることが肝要である。
【0041】
撹拌・混練の後は、脱泡が重要である。脱泡は真空炉で約20分行う。当初、樹脂と粉状酸化チタンを撹拌・混合すると、気泡が発生し、脱泡しても、それがなくならずに、製品の中に多数の気泡が生じてしまい、製品になりにくかった。そこで、樹脂や粉状酸化チタンの混合比を種々に変更してトライアルを重ねた結果、上記の混合比で撹拌・混練し、脱泡することによって、製品中の気泡をなくすことができた。
脱泡後は、2分程度、撹拌するとよい。樹脂の比重が1.16〜1.18であるのに対し、粉状酸化チタンの比重は3.8〜4.1であり、真空炉で脱泡すると、粉状酸化チタンが樹脂の中で沈殿してしまう。そこで、泡立たないように、2分程度、混練物を撹拌する。
【0042】
硬化後は、送風によって、けがき板本体66を金型67ごと、30〜40分程度冷却し、その後、ボルト76や押さえピン73を外し、2つ割りの金型本体69を分割して、路面けがき板12を取出す。取出し後、製品のエッジなどのバリをとって完成する。
このように本実施形態の路面けがき板では、LED用封止樹脂の主剤30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を撹拌混練した後、金型に注入して硬化することとしたため、描画が見やすく、定着性がよい。また、量産性にも優れる。また、適正な強度が得られ、使用限界までの耐用時間も十分に得られる。
【0043】
また、120℃の高温炉で90分硬化させることで、十分な強度が得られる。
また、拌混練の後、脱泡を行うことにより、製品が気泡を内包することがなく、十分な強度が得られると共に、描画が見やすい。
また、金型への注入の前に混練物を撹拌することにより、比重の大きい粉状酸化チタンの沈殿を防止し、均質な製品を得ることができる。
【0044】
また、硬化後、金型ごと、冷却してから製品を取出すことにより、取出す際の製品の割れを防止することができる。
また、金型を非密閉状態とすることにより、冷却凝固時の製品の割れを防止することができる。
また、金型は、製造されるけがき板の円板の一方の端面を上部大気開放することにより、製品が均質に冷却凝固する。
【符号の説明】
【0045】
1は車体、3L,3Rは左右駆動輪、4L,4Rは左右駆動輪駆動用モータ、8L,8Rは左右駆動ケース、9は滑り止め、10は従動輪、11はマーキング装置、12は路面けがき板、13は路面けがき板回転用モータ、17は描画機構ケース、18は揺動軸、19は描画機構昇降用モータ、20はクランク、21は回転角センサ、22は制御ケース、25は送風機用モータ、26は送風機、27〜30はフレキシブルダクト、31は接触センサ、32は制御装置、33はCPU、34はインタフェース、35は記憶装置、36L、36R、37〜39はドライバ、40L,40Rは駆動状態センサ、41は直線描画部、42は曲線描画部、43はデータ入力曲線描画部、44は円弧補間曲線描画部、45は図柄描画部、46は自車方向算出補正部、47は左駆動輪駆動状態算出部、48は右駆動輪駆動状態算出部、49は路面けがき板状態算出部、65はフランジ、66はけがき板本体、67は金型、68は金属製基板、69は金型本体、70はファスナー、71は金型凹部、72はフランジ凹部、73は押さえピン、74は凸部、75は貫通孔、76はボルト、77はネジ穴
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の路面に線や図柄を描画するための路面けがき板に関するものであり、特に塗装前の所謂墨入れを行うのに好適な車両型路面描画装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、道路の路面に描かれているレーンマーカや路面標示は、墨入れと呼ばれる下書きを行ってから塗装を行って表示されている。そこで、下記特許文献1では、小型トラックに道路標示塗布システムを搭載し、この小型トラックで道路標示塗布システムを搬送しながら、塗布装置に設けられた左右一列の塗料吐出孔をパターンに応じて開閉し、路面に道路標示を描画する技術が開示されている。また、下記特許文献2には、無線操縦式道路区画線施工機を無線操作によって走行させながら塗料を路面に吐出することにより、作業者の安全を確保する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平7−34414号公報
【特許文献2】特開平5−214711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1によれば、極めて正確な小型トラックの運転と、その小型トラックの移動状態にリンクした極めて高精度な塗料吐出を行うことを前提として、下書きすることなく、直接、路面に塗料を吐出する路面描画の自動化が可能となるが、極めて正確な小型トラックの運転そのものが困難であるし、それにリンクした極めて高精度な塗料吐出も困難であることからして、どちらの前提も現実的でない。一方、前記特許文献2では、無線操縦式道路区画線施工機を無線によって遠隔操作するため、作業者の安全は確保されるが、前述した墨入れと呼ばれる下書きは、依然として作業者が行わなければならない。実は、レーンマーカや路面標示などの路面描画で最も作業時間と経験を必要とするのは、墨入れと呼ばれる下書きであり、路面描画作業の全作業時間の実に4割〜4.5割以上を占める。しかしながら、この路面描画の墨入れと呼ばれる下書き作業を効率化する方法は全く開発されていない。
【0004】
このような諸問題に対し、本出願人は、路面描画の墨入れと呼ばれる下書き作業を著しく効率化することが可能な自走式車両型路面描画装置を開発した。この路面描画装置は、2つの駆動輪と、1つの従動輪と、2つの駆動輪の中間部に設けられたマーキング装置とを備える。マーキング装置の位置を、路面描画装置全体平面視の重心点近傍とし、2つの駆動輪を同期回転させたり、互いに逆方向に回転させたりすることで、マーキング装置を路面上で自在に移動させ、このマーキング装置の移動軌跡を墨入れ相当に設定することで路面描画の下書き作業を行うことができる。
【0005】
この路面描画装置では、円板型のけがき板を周方向に回転させ、その周方向端部を路面に当接することで自身が削れ、その削り粉で路面に描画される。描画装置の開発当初、この回転式円板型けがき板は、アルミニウムなどの金属製円板がよいとしていたが、描画が見にくいことや、定着性がよくないことから、けがき板の更なる改良が望まれていた。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、描画が見やすく、定着性のよい路面けがき板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記諸問題を解決するため、本発明の路面けがき板は、道路の路面に線や図柄を描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する回転式円板型の路面けがき板であって、LED用封止樹脂の主剤を30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤を20重量%、粉状酸化チタンを50重量%含有し、LED用封止樹脂の主剤及び硬化剤に粉状酸化チタンを撹拌混練した後、金型に注入して硬化したことを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の路面けがき板の製造方法は、道路の路面に線や図柄を描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する回転式円板型の路面けがき板の製造方法であって、LED用封止樹脂の主剤30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を撹拌混練した後、混練物を金型に注入して硬化することを特徴とするものである。
また、前記硬化は、120℃の高温炉で90分行うことを特徴とするものである。
また、前記撹拌混練の後、脱泡を行うことを特徴とするものである。
【0008】
また、前記金型への注入の前に、混練物を撹拌することを特徴とするものである。
また、前記硬化後、金型ごと、冷却してから製品を取出すことを特徴とするものである。
また、前記金型を非密閉状態とすることを特徴とするものである。
また、前記金型は、製造されるけがき板の円板の一方の端面を上部大気開放していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
而して、本発明の路面けがき板及び路面けがき板の製造方法によれば、LED用封止樹脂の主剤30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を撹拌混練した後、金型に注入して硬化することとしたため、描画が見やすく、定着性がよい。また、適正な強度が得られ、使用限界までの耐用時間も十分に得られる。
また、120℃の高温炉で90分硬化させることで、十分な強度が得られる。
また、拌混練の後、脱泡を行うことにより、製品が気泡を内包することがなく、十分な強度が得られると共に、描画が見やすい。
【0010】
また、金型への注入の前に混練物を撹拌することにより、比重の大きい粉状酸化チタンの沈殿を防止し、均質な製品を得ることができる。
また、硬化後、金型ごと、冷却してから製品を取出すことにより、取出す際の製品の割れを防止することができる。
また、金型を非密閉状態とすることにより、冷却凝固時の製品の割れを防止することができる。
また、金型は、製造されるけがき板の円板の一方の端面を上部大気開放することにより、製品が均質に冷却凝固する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の路面描画装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の路面描画装置のスケルトン図である。
【図3】図1の路面描画装置の冷却風の流れの説明図である。
【図4】図1の路面描画装置の制御装置のブロック図である。
【図5】図4の制御装置の機能部を示すブロック図である。
【図6】曲線描画の説明図である。
【図7】車体方向算出及び矯正の説明図である。
【図8】マーキング装置の他の例を示す図である。
【図9】モールディングされた路面けがき板の詳細図である。
【図10】金型の斜視図である。
【図11】金型の平面図及び正面図である。
【図12】金型及び路面けがき板の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の路面描画装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の路面描画装置の全体構成図であり、(a)は平面図、(b)は左側面図、(c)は正面図を示している。また、図2は、図1の路面描画装置のスケルトン図であり、(a)は平面図、(b)は左側面図を示している。本実施形態の路面描画装置は、国際出願を経て日本国内に出願された特願2009−539027に記載のものと同等である。本実施形態の路面描画装置は、自走可能な車両型であり、主要な構成は車体1の内部に配設され、それらの構成は配線接続管2を介して外部のリモートコントローラに接続されている。なお、車体1の内部構成には、外部電源から配線接続管を介して給電される。
【0013】
図中の符号3L,3Rは、図1b或いは図2bの左側面図において、車体1内のやや右側に配設された左右駆動輪である。この左駆動輪3L及び右駆動輪3Rは、同一の車軸上に配設されており、夫々、左駆動輪駆動用モータ4L及び右駆動輪駆動用モータ4Rによって駆動される。左駆動輪駆動用モータ4L及び右駆動輪駆動用モータ4Rの回転軸には駆動プーリ5L,5Rが取付けられ、左駆動輪3L及び右駆動輪3Rの車軸には従動プーリ6L,6Rが取付けられ、夫々、駆動プーリ5L,5Rと従動プーリ6L,6Rにベルト7L,7Rが巻回されている。左駆動輪駆動用モータ4L及び右駆動輪駆動用モータ4Rは、何れもステップモータであり、入力されるステップ数分だけ、何れの方向にも回転可能である。従って、左駆動輪3L及び右駆動輪3Rは、互いに同方向にも逆方向にも回転可能である。
【0014】
なお、左駆動輪駆動用モータ4Lの回転軸及び駆動プーリ5L及び従動プーリ6L及びベルト7Lは左駆動ケース8L内にほぼ気密状態に収納されており、左駆動ケース8Lの内部は左駆動輪3Lの車軸部分だけが外部に連通している。また、同様に、右駆動輪駆動用モータ4Rの回転軸及び駆動プーリ5R及び従動プーリ6R及びベルト7Rは右駆動ケース8R内にほぼ気密状態に収納されており、右駆動ケース8Rの内部は右駆動輪3Rの車軸部分だけが外部に連通している。また、左駆動輪3L及び右駆動輪3Rの外周には、ゴム製ベルトからなる滑り止め9が施されている。
【0015】
前記左駆動輪3Lと右駆動輪3Rの中間部にあって、それらの車軸と直交する方向に1つの従動輪10が配設されている。この従動輪10は、路面に対して何れの方向にも自在に回転する自在輪であることが要件であり、本実施形態では、球で構成されている。自在輪としては、例えば周知のキャスターが考えられるが、本実施形態では、左駆動輪3Lと右駆動輪3Rとを逆方向に回転したり、同方向に回転したりを繰り返すため、例えば両駆動輪3L,3Rを同方向に回転している状態から逆方向に回転する場合、キャスターの車体取付点がキャスターの車軸からずれている分、車体1に余分な挙動が生じる。その点、従動輪10を球で構成すれば、球は、理論上、常に路面と点接触であり且つ回転慣性が抑えられている限り、いつでも、どの方向にも回転可能である。ちなみに、球からなる従動輪10は、3つのボールで車体1に回転自在に支持されている。
【0016】
前記左駆動輪3Lと右駆動輪3Rの中間部にはマーキング装置11が配設され、ちょうど両駆動輪3L,3Rの真ん中に、路面にマーキングするための路面けがき板12が配設されている。この路面けがき板12は、後述するように、粉状酸化チタンを樹脂で円板状にモールディングしたものであり、路面けがき板回転用モータ13によって円周方向に回転される。路面けがき板回転モータ13の回転軸には駆動プーリ14が取付けられ、路面けがき板12の回転軸には従動プーリ15が取付けられ、駆動プーリ14と従動プーリ15とにベルト16が巻回されている。この路面けがき板12を回転させながら路面に当接すると、路面けがき板12が削れて粉状酸化チタンが路面に付着する。本実施形態は、粉状酸化チタンによって路面に線や図柄を描画する。なお、路面けがき板回転用モータ13の回転軸及び駆動プーリ14及び従動プーリ15及びベルト16は描画機構ケース17内にほぼ気密状態に収納されており、描画機構ケース17の内部は路面けがき板12の回転軸部分だけが外部に連通している。
【0017】
描画機構ケース17は、従動輪10側に配設された揺動軸18を介して、上下方向に揺動可能なるように車体1に取付けられている。一方、描画機構ケース17を挟んで揺動軸18の反対側には描画機構昇降用モータ19が配設され、その回転軸にクランクアーム20が取付けられ、そのクランクアーム20は描画機構ケース17の下面を支持している。従って、描画機構昇降用モータ19を回転してクランクアーム20により描画機構ケース17の下面を上方に押し上げれば描画機構ケース17が揺動軸18回りに上方に回転して路面けがき板12は路面から離間し、描画機構昇降用モータ19を逆回転してクランクアーム20による描画機構ケース17の支持を開放すれば描画機構ケース17が揺動軸18回りに下方に回転して路面けがき板12は路面に当接する。即ち、本実施形態の路面描画装置によって路面に描画しないときには描画機構昇降用モータ19を回転して路面けがき板12を路面から離間しておき、描画するときだけ描画機構昇降用モータ19を逆回転して路面けがき板12を路面に当接させる。なお、描画機構ケース17の揺動軸18には、回転角センサ21が取付けられている。
【0018】
車体1内にあって、左駆動ケース8L、右駆動ケース8R、従動輪10、マーキング装置11の上方には気密な制御ケース22が配設され、内部には、CPUを搭載するメインボード23、インタフェースやドライバを備えたI/Oボード24、記憶装置を搭載するメモリボード25などが配設されている。制御ケース22の下方には、送風機用モータ26で回転駆動される送風機27が配設され、送風機27と制御ケース22とはフレキシブルダクト28で接続されている。また、制御ケース22と左駆動ケース8L及び右駆動ケース8Rとはフレキシブルダクト29で接続され、制御ケース22と描画機構ケース17とはフレキシブルダクト30で接続されている。
【0019】
従って、図3に示すように、送風機27から制御ケース22内に送給された冷却風は、当該制御ケース22内を冷却した後、左駆動ケース8L及び右駆動ケース8R及び描画機構ケース17内に送給され、左駆動ケース8L内の駆動系を冷却した後、左駆動輪3Lの車軸から外部に噴出し、右駆動ケース8R内の駆動系を冷却した後、右駆動輪3Rの車軸から外部に噴出し、描画機構ケース17内の駆動系を冷却した後、路面けがき板12の回転軸から外部に噴出する。前述のように、本実施形態では路面けがき板12の粉状酸化チタンで路面に描画するため、その粉が装置の近傍に舞い上がる可能性がある。また、道路の路面には塵埃が漂っている。本実施形態では、前述のように装置の冷却風を駆動輪3L,3Rの車軸並びに路面けがき板12の回転軸から外部に噴出させているので、これらの塵芥が駆動系内に侵入するのを抑制防止することができる。
【0020】
また、車体1の平面視四隅には、例えば圧電素子や接触スイッチなどで構成される接触センサ31が取付けられている。本実施形態では、左右駆動輪3L,3Rの駆動状態、具体的には左右駆動輪駆動用モータ4L,4Rの駆動状態から自車の位置情報を求めるので、路面描画装置が何かに接触したり、何かが路面描画装置に接触したりして左右駆動輪3L,3Rの駆動状態と路面描画装置の移動状態とがズレてしまうと正しい位置情報が得られず、結果的に正確な路面描画ができなくなってしまう。そのため、接触センサ31により外部からの接触が検出されたら描画を一旦中止させるようにしている。
【0021】
そして、本実施形態では、装置全体の重心が、図2aに示す平面視で、左右駆動輪3L,3Rの中間部から従動輪10側に所定距離だけ離れた位置(図の白黒の○)になるように重量バランスしている。本実施形態の路面描画装置では、マーキング装置11の路面けがき板12を回転させながら路面に当接した状態で、例えば左右駆動輪3L,3Rを僅かな速度差で逆方向に回転させれば、極めて径の小さな円弧を路面に描くこともできるし、左右駆動輪3L,3Rを同期させて同方向に回転させれば、ほぼ完璧な直線を路面に描くこともできる。また、左右駆動輪3L,3Rに位相差をつけて同方向に回転させれば、曲率の小さな、即ち曲率半径の大きな円弧を描くことも可能である。また、それらの組合せによって所定の図柄を路面に描くことも可能である。例えば、速度規制のための数字の路面標示や、進行方向を規制する矢印の路面標示は、法規によってサイズが決まっている。これらの図柄のサイズに応じた走行軌跡、具体的には左右駆動輪3L,3Rの駆動状態を予め記憶しておき、その駆動状態通りに左右駆動輪3L,3R、つまり左右駆動輪駆動用モータ4L,4Rを駆動すれば、所定の図柄を路面に描くことが可能となる。
【0022】
2つの左右駆動輪3L,3Rと1つの従動輪10で路面に追従するためには、それらの車輪の接触点を結ぶ三角形の内側に重心があることが必須である。しかしながら、装置全体の重心が従動輪10側に寄りすぎてしまうと、従動輪10の荷重が大きくなりすぎてしまう。本実施形態の従動輪10は球であり、路面の何れの方向にも転がりやすくしてあるものの、従動輪10の荷重が大きくなりすぎると摩擦抵抗が増大するため、例えば左右駆動輪3L,3Rに位相差を付けて回転させる場合や逆方向に回転させる場合、従動輪10の摩擦抵抗によって車体1の挙動が阻害され、マーキング装置11によるマーキングが阻害される恐れがある。一方、装置全体の重心を左右駆動輪3L,3Rの車軸側に寄せすぎてしまうと、例えば左右駆動輪3L,3R側が下になる坂道で従動輪10の荷重が抜けてしまい、路面に正確に追従できなくなる。そこで、装置全体の重心を、平面視で、左右駆動輪3L,3Rの中間部から従動輪10側に所定距離だけ離れた位置とした。
【0023】
制御ケース22内に配設されたメインボード23、I/Oボード24、メモリボード25によって本実施形態の路面描画装置の制御装置が構成される。制御装置の概要を図4のブロック図に示す。制御装置32は、演算処理を司るCPU33、各種センサやデータの入出力を適合化するインタフェース34、各種プログラムや演算処理の結果を記憶する記憶装置35、CPU33からの制御信号をアクチュエータの駆動信号に変換するドライバ36L,36R,37〜39を備えて構成される。また、ステップモータで構成される左右駆動輪駆動用モータ4L,4Rの駆動状態は駆動状態センサ40L,40Rによってモニタされる。なお、データ入力部101、データ出力部102、表示部103は、リモートコントローラに設けられている。
【0024】
実際には、プログラムに従った演算処理で制御装置32内に構築される機能部を図6にブロック図化して示す。本実施形態では、制御装置32内に、機能部として、直線描画部41、曲線描画部42、図柄描画部45、左駆動輪駆動状態算出部47、右駆動輪駆動状態算出部48、路面けがき板状態算出部49を備え、曲線描画部42内には、データ入力曲線描画部43と円弧補間曲線描画部44とが構築され、図柄描画部45内には、自車方向算出矯正部46が構築されている。直線描画部41は、例えば直線を描画する方向に自車が向いている状態で、左右駆動輪3L,3Rを同期して同方向に回転駆動することで路面に直線を描画する。
【0025】
曲線描画部42内のデータ入力曲線描画部43は、データ入力部101から入力された道路の曲率又は曲率半径に応じて、路面に円弧曲線を描画する。具体的には、例えば図6aに示すように、道路端から所定の距離の位置に外側線を構成するレーンマーカを塗装する場合、その下書きである墨入れ時に、直線路から曲線路への移行位置にあって且つ描くべき円弧曲線の描画開始方向、即ち円弧曲線の接線方向に車体1が向いている状態で、データ入力部101から、例えば円弧の内側における道路端の円弧曲率半径を入力すると、それに、外側線の離すべき距離を加算した半径でマーキング装置11の路面けがき板12が移動する軌跡を設定し、その軌跡を移動するために必要な左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡を設定する。
【0026】
曲線描画部42内の円弧補間曲線描画部は、リモートコントローラで装置そのものを移動することにより入力された3点の位置データを円弧補間し、そこから描くべき円弧曲線の曲率又は曲率半径を算出して、路面に円弧曲線を描画する。具体的には、例えば図6bに示すように、道路端から所定の距離の位置に外側線を構成するレーンマーカを塗装する場合、その下書きである墨入れ時に、下書き用円弧曲線の開始点に車体1をリモートコントローラで移動して、その位置を記憶させ、次いで下書き用円弧曲線の中間点(開始点及び終了点を除いて、どの位置でも構わない)に車体1をリモートコントローラで移動して、その位置を記憶させ、次いで下書き用円弧曲線の終了点に車体1をリモートコントローラで移動して、その位置を記憶させる。その間、車体1はどちらに向いていても良い。制御装置32内では、左右駆動輪駆動用モータ4L,4Rの駆動状態を駆動状態センサ40L,40Rでモニタしているので、車体1がどちらに向いているかもモニタでき、その分を差し引いて、インプットされた3点の位置データだけを抽出することが可能となる。この3点の位置データを抽出したら、円弧曲線の開始点、中間点、終了点を通る円弧が1つだけ決まるので、その円弧曲線の曲率又は曲率半径でマーキング装置11の路面けがき板12が移動する軌跡を設定し、その軌跡を移動するために必要な左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡を設定する。
【0027】
図柄描画部45は、前述したように法規で定められたサイズの道路標示については、その道路標示を描画するために必要な左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡を予め記憶しておく。また、サイズの決められていない道路標示については、その道路標示のサイズをインプットすると、その道路標示そのものがマーキング装置11の路面けがき板12の移動軌跡になるので、その軌跡を移動するために必要な左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡を設定する。
【0028】
このように図柄を描画するための左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡が設定されても、実際の道路路面上に図柄を正しく描画するためには、自車が、図柄を描画するために必要な方向に向いている必要がある。そこで、図柄描画部45内に設けられた自車方向算出矯正部46は、例えば以下のようにして自車の方向を算出し、その方向を矯正する。即ち、例えば図7cに二点鎖線で示す道路標示を直線道路の道路端に対して平行に描画する場合にあって描画開始点を通る当該道路端と平行な基準線と平行な方向に自車が向いている必要がある場合には、自車が描画開始点の近傍ではあっても描画開始点にはなく、且つ基準線と平行な方向に向いていない状態で1点をマーキングし、自車が向いている方向に向けて距離L0直線移動動してその地点にもマーキングする。例えば、道路の幅方向をX軸、長手方向をY軸としたとき、描画基準点と最初にマーキングした地点のX軸座標X1及びY軸座標Y1を測定してインプットし、次に基準線(又は描画開始点)と2点目のマーキング地点のX軸座標X2を測定してインプットする。これらの座標が分かれば、基準線に対する自車の方向が分かるし、例えば最初の1点目のマーキング位置と描画開始点とのズレも分かるので、それらから自車両の位置を描画開始点とし且つ向きを基準線方向に矯正することができる。
【0029】
左駆動輪駆動状態算出部47及び右駆動輪駆動状態算出部48では、前記直線描画部41、曲線描画部42、図柄描画部45で設定された左右駆動輪3L,3Rの移動軌跡を達成ために必要な左右駆動輪3L,3Rの駆動状態を算出設定し、駆動状態センサ40L,40Rで左右駆動輪駆動用モータ4L,4Rの駆動状態をモニタしながら、制御信号をドライバ36L,36Rに出力する。なお、車体1の上部に、水平方向及び垂直方向に首振り可能なレーザ距離センサを設け、例えば描画に対して所定の位置に設けられた2本のポールまでの距離をレーザ距離センサで検出し、それらポールの位置を座標系の基点として認識し、その基点に対して、自車両がどの位置にあるかを随時検出しながら描画を行うようにしてもよい。ちなみに、レーザ距離センサを垂直方向にも首振り可能とするのは、路面の傾斜によってポールを見失うことがないようにするためである。また、自車両内に傾斜センサを設け、その傾斜センサと連動して、レーザ距離センサを垂直方向に首振りするようにしてもよい。
【0030】
路面けがき板状態算出部49では、描画機構ケース17の揺動軸18に設けられた回転角センサ21に基づいて、路面けがき板12の摩耗状態を算出する。本実施形態では、前述のように、路面けがき板12の削り粉である粉状酸化チタンで描画するので、路面けがき板12は次第に径が小さくなる。路面けがき板12の径が次第に小さくなると、当該路面けがき板12の外周が路面に当接しているときの描画機構ケース17は次第に下向きになり、揺動軸18回りの描画機構ケース17の回転角が変化する。そこで、路面けがき板状態算出部49では、前記回転角センサ21で検出される路面けがき板12路面当接時の描画機構ケース17の回転角から路面けがき板12の外径を求めて、その摩耗状態を算出する。
【0031】
そして、算出された路面けがき板12の摩耗状態、つまり外径変化に応じ、マーキング時の路面けがき板12の外周速が常時一定になるようにドライバ37に制御信号を出力して路面けがき板回転用モータ13の駆動状態を制御する。また、算出された路面けがき板12の摩耗状態が限界又は限界に近い状態になったら、その旨をデータ出力部102に出力し、表示部103に表示する。
【0032】
なお、前記実施形態では、路面けがき板12を回転させる路面けがき板回転用モータと描画機構ケース17を昇降する描画機構昇降用モータを個別に設けた例について説明したが、以下のようにすれば2つのモータを1つのモータで兼用できる。即ち、図8に示すように、描画機構ケース17を上下に揺動させる揺動軸21を当該描画機構ケース17内に貫通し、揺動軸と描画機構ケース17との間に、描画機構ケース17を上方に回転するときにだけ、つまりステップモータで構成される描画機構用モータ52が図8bで反時計方向に回転するときにだけ締結するワンウエイクラッチ51を介装する。揺動軸21は、プーリ53やベルト54により描画機構用モータ52で正逆方向に回転可能とし、揺動軸21と路面けがき板12の回転軸とをプーリ55やベルト56で連結する。描画機構ケース17の上方回転限界位置には近接スイッチ57を配設する。
【0033】
例えば図8bで描画機構用モータ52を時計方向に回転すると揺動軸21が同方向に回転して描画機構ケース17が下方に回転するが、図8dのように路面けがき板12が路面に当接するとワンウエイクラッチ51が締結しなくなって描画機構ケース17はそれ以上下方に回転せず、一方、路面けがき板12は描画機構用モータ52に連結されているので回転し続けるので、路面に描画することができる。この状態から、描画機構用モータ52を反時計方向に回転すると揺動軸21が同方向に回転し、ワンウエイクラッチ51が締結して描画機構ケース17も上方に回転する。描画機構ケース17が上方回転限界位置に達すると近接スイッチ57が作動するので、その作動をもって描画機構用モータ52を停止する。
【0034】
この場合、前記実施形態と同様に、揺動軸51の付近に回転角センサを配設し、描画機構ケース17の回転角から路面けがき板12の摩耗状態を検出しても良いが、例えば描画機構用モータ52を反時計方向に回転させ始めるとすぐに描画機構ケース17が上方に回転し始めることから、ステップモータからなる描画機構用モータ52を反時計方向に回転させ始めたときから近接スイッチ57の作動によって描画機構用モータ52を停止するまでのステップ数を用いれば、描画機構ケース17の回転角を求めることができ、その回転角から路面けがき板12の摩耗状態を検出することができる。この場合も、結果的に、路面けがき板12が路面に接触している状態から当該路面けがき板12の摩耗状態を検出することになる。
【0035】
前記路面けがき板12には、試行錯誤の結果、現状でも墨入れに用いられている酸化チタンの粉を採用することとした。例えば、アルミニウム円板を路面に当接した状態で回転させて発生するアルミニウム粉は、視認性がよくない、つまり見にくく、路面安定性もよくない。一方、粉状酸化チタンは、視認性がよい、つまり見やすく、路面安定性にも優れる。この粉状酸化チタンを円板状に形成するために、粉状酸化チタンを樹脂に混連し、金型に注入して硬化させる、つまりモールディングすることとした。
【0036】
図9は、モールディングされた路面けがき板12の詳細図である。図中の符号65は、路面けがき板12を描画機構ケース17に取付けるためのフランジであり、符号66は、円板状のけがき板本体である。図10は、金型67の斜視図、図11は、金型67の平面図及び正面図、図12は、金型67及び路面けがき板12の縦断面図である。金型67は、ほぼ方形の金属製基板68、基板68上に搭載される2つ割りの金属製金型本体69、2つ割りの金型本体69を連結するファスナー70で構成される。ファスナー70には、例えばタキゲン製のアジャストファスナー(商品名)が使用される。
【0037】
2つ割りの金型本体69の上端面には、それらをファスナー70で締結した状態で、けがき板本体66が収納される金型凹部71が形成されており、その上端面、即ちけがき板本体66の円板体の一方の端面は大気開放されている。即ち、この金型67は非密閉状態である。この金型67は、2つ割りの金型本体69をファスナー70で締結し、それを基板68に搭載する。金型本体69の中央部には、フランジ凹部72が形成されているので、このフランジ凹部72内にフランジ65を装入し、当該フランジ65の上方に押さえピン73を搭載して、当該押さえピン73の下端部の凸部74をフランジ65の内部に装入する。更に、押さえピン73の中央部に開設されている貫通孔75にボルト76を差し込み、基板68に設けられているネジ穴77にボルト76のネジ部を螺合し締め付けて、それらを固定する。
【0038】
この状態では、金型凹部71内は空間なので、この金型凹部71内に、粉状酸化チタンを混連した樹脂を注入し、硬化させてけがき板本体66を製造する。粉状酸化チタンを混練する樹脂には、種々の樹脂を用いてみた。例えば、主剤エポキシ樹脂、硬化剤変性脂肪族ポリアミンの組合せからなる樹脂、主剤変性ポリアミドアミン、硬化剤変性ポリアミドアミンの組合せからなる樹脂、主剤FRP用ポリエステル樹脂、硬化剤FRP用ポリエステル樹脂の組合せからなる樹脂などを粉状酸化チタン混連用樹脂として用いてみたが、何れも強度が不足し、特に高温で溶けてしまうという問題があった。
【0039】
こうしたトライアルの結果、LED用封止樹脂を主剤及び硬化剤とする樹脂の組合せが強度に優れ、特に高温でも溶けにくいことを見出した。このLED用封止樹脂の主剤としては、例えばペルノックスME−514B(千代三洋工業株式会社製)、LED用封止樹脂の硬化剤としては、例えばペルノックスME−514(千代三洋工業株式会社製)を用いることができる。樹脂及び粉状酸化チタンの配分比や混練方法についても、数多くのトライアルを必要とした。その結果、LED用封止樹脂の主剤30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を混連し、この混練物を前記金型67の金型凹部71内に注入し、硬化させてけがき板本体66を製造する。このようにして製造された路面けがき板12は、量産性に優れ、路面に下書きした際、視認性と安定性に優れる。撹拌・混練時間は5〜7分程度でよい。また、樹脂の主剤:硬化剤=6:4とすると、後述する割れを防止することができる。
【0040】
硬化に際しては、120℃の高温炉で90分硬化させるとよい。これは、主剤:硬化剤=6:4としたためであり、主剤:硬化剤=5:5の場合には、30分程度短くてよい。しかしながら、前述した量産性、視認性、安定性、割れの問題から、主剤:硬化剤の比を6:4とするのが望ましく、その場合には、硬化時間は90分程度となる。なお、本実施形態では、金型凹部71の上面、即ちけがき板本体66の一方の端面を上部大気開放して、非密閉としている。混連した樹脂は、硬化中に、一旦膨張してから収縮する。金型凹部71を密閉すると、この収縮工程で、けがき板本体66に割れが生じる。金型67を非密閉とすることが肝要である。
【0041】
撹拌・混練の後は、脱泡が重要である。脱泡は真空炉で約20分行う。当初、樹脂と粉状酸化チタンを撹拌・混合すると、気泡が発生し、脱泡しても、それがなくならずに、製品の中に多数の気泡が生じてしまい、製品になりにくかった。そこで、樹脂や粉状酸化チタンの混合比を種々に変更してトライアルを重ねた結果、上記の混合比で撹拌・混練し、脱泡することによって、製品中の気泡をなくすことができた。
脱泡後は、2分程度、撹拌するとよい。樹脂の比重が1.16〜1.18であるのに対し、粉状酸化チタンの比重は3.8〜4.1であり、真空炉で脱泡すると、粉状酸化チタンが樹脂の中で沈殿してしまう。そこで、泡立たないように、2分程度、混練物を撹拌する。
【0042】
硬化後は、送風によって、けがき板本体66を金型67ごと、30〜40分程度冷却し、その後、ボルト76や押さえピン73を外し、2つ割りの金型本体69を分割して、路面けがき板12を取出す。取出し後、製品のエッジなどのバリをとって完成する。
このように本実施形態の路面けがき板では、LED用封止樹脂の主剤30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を撹拌混練した後、金型に注入して硬化することとしたため、描画が見やすく、定着性がよい。また、量産性にも優れる。また、適正な強度が得られ、使用限界までの耐用時間も十分に得られる。
【0043】
また、120℃の高温炉で90分硬化させることで、十分な強度が得られる。
また、拌混練の後、脱泡を行うことにより、製品が気泡を内包することがなく、十分な強度が得られると共に、描画が見やすい。
また、金型への注入の前に混練物を撹拌することにより、比重の大きい粉状酸化チタンの沈殿を防止し、均質な製品を得ることができる。
【0044】
また、硬化後、金型ごと、冷却してから製品を取出すことにより、取出す際の製品の割れを防止することができる。
また、金型を非密閉状態とすることにより、冷却凝固時の製品の割れを防止することができる。
また、金型は、製造されるけがき板の円板の一方の端面を上部大気開放することにより、製品が均質に冷却凝固する。
【符号の説明】
【0045】
1は車体、3L,3Rは左右駆動輪、4L,4Rは左右駆動輪駆動用モータ、8L,8Rは左右駆動ケース、9は滑り止め、10は従動輪、11はマーキング装置、12は路面けがき板、13は路面けがき板回転用モータ、17は描画機構ケース、18は揺動軸、19は描画機構昇降用モータ、20はクランク、21は回転角センサ、22は制御ケース、25は送風機用モータ、26は送風機、27〜30はフレキシブルダクト、31は接触センサ、32は制御装置、33はCPU、34はインタフェース、35は記憶装置、36L、36R、37〜39はドライバ、40L,40Rは駆動状態センサ、41は直線描画部、42は曲線描画部、43はデータ入力曲線描画部、44は円弧補間曲線描画部、45は図柄描画部、46は自車方向算出補正部、47は左駆動輪駆動状態算出部、48は右駆動輪駆動状態算出部、49は路面けがき板状態算出部、65はフランジ、66はけがき板本体、67は金型、68は金属製基板、69は金型本体、70はファスナー、71は金型凹部、72はフランジ凹部、73は押さえピン、74は凸部、75は貫通孔、76はボルト、77はネジ穴
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路の路面に線や図柄を描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する回転式円板型の路面けがき板であって、LED用封止樹脂の主剤を30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤を20重量%、粉状酸化チタンを50重量%含有し、LED用封止樹脂の主剤及び硬化剤に粉状酸化チタンを撹拌混練した後、金型に注入して硬化したことを特徴とする路面けがき板。
【請求項2】
道路の路面に線や図柄を描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する回転式円板型の路面けがき板の製造方法であって、LED用封止樹脂の主剤30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を撹拌混練した後、混練物を金型に注入して硬化することを特徴とする路面けがき板の製造方法。
【請求項3】
前記硬化は、120℃の高温炉で90分行うことを特徴とする請求項2に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項4】
前記撹拌混練の後、脱泡を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項5】
前記金型への注入の前に、混練物を撹拌することを特徴とする請求項2乃至4の何れか一項に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項6】
前記硬化後、金型ごと、冷却してから製品を取出すことを特徴とする請求項2乃至5の何れか一項に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項7】
前記金型を非密閉状態とすることを特徴とする請求項2乃至6の何れか一項に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項8】
前記金型は、製造されるけがき板の円板の一方の端面を上部大気開放していることを特徴とする請求項7に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項9】
道路の路面に線や図柄を描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する固形化した回転式円板型の路面けがき板。
【請求項1】
道路の路面に線や図柄を描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する回転式円板型の路面けがき板であって、LED用封止樹脂の主剤を30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤を20重量%、粉状酸化チタンを50重量%含有し、LED用封止樹脂の主剤及び硬化剤に粉状酸化チタンを撹拌混練した後、金型に注入して硬化したことを特徴とする路面けがき板。
【請求項2】
道路の路面に線や図柄を描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する回転式円板型の路面けがき板の製造方法であって、LED用封止樹脂の主剤30重量%、LED用封止樹脂の硬化剤20重量%、粉状酸化チタン50重量%を撹拌混練した後、混練物を金型に注入して硬化することを特徴とする路面けがき板の製造方法。
【請求項3】
前記硬化は、120℃の高温炉で90分行うことを特徴とする請求項2に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項4】
前記撹拌混練の後、脱泡を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項5】
前記金型への注入の前に、混練物を撹拌することを特徴とする請求項2乃至4の何れか一項に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項6】
前記硬化後、金型ごと、冷却してから製品を取出すことを特徴とする請求項2乃至5の何れか一項に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項7】
前記金型を非密閉状態とすることを特徴とする請求項2乃至6の何れか一項に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項8】
前記金型は、製造されるけがき板の円板の一方の端面を上部大気開放していることを特徴とする請求項7に記載の路面けがき板の製造方法。
【請求項9】
道路の路面に線や図柄を描画するための車両型路面描画装置に取付けて使用する固形化した回転式円板型の路面けがき板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−140789(P2011−140789A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1489(P2010−1489)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(501252216)株式会社技工社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(501252216)株式会社技工社 (3)
【Fターム(参考)】
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