説明

踏切障害物検知装置

【課題】物体が移動していること、及び、それが同一物体であることを判断し得る物体追跡機能を有する踏切障害物検知装置を提供する。
【解決手段】送受信器は、踏切道を含む領域内に電波を送信し、領域内に存在する物体からの反射波を受信して電気信号に変換する。信号処理部は、送受信器から電気信号が供給され、電気信号に基づき、送受信器から物体までの距離を、所定の検知周期毎に算出し、連続する2つの検知周期において、今回の検知周期T2で算出された距離L2と、前回の検知周期T1で算出された距離L0が予め定められた差ΔL内にあることを、同一の物体と判断するための条件とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、踏切道内に取り残された障害物をミリ波などの電波により検知する踏切障害物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波によって踏切道内に取り残された障害物を検知する踏切障害物検知装置が開発されている。このミリ波式踏切障害物検知装置は、例えば特許文献1に開示されており、天候などの外部条件に影響されにくいという優れた特性を有する。
【0003】
ミリ波式踏切障害物検知装置の優れた特性は、他にもある。従来の光式踏切障害物検知装置は、障害物がセンサ装置の光を遮断することにより障害物を検知するから、光軸同士の間隔に入り込める人間や車椅子などの小さい障害物を検知しにくいという問題があった。
【0004】
これに対して、ミリ波式踏切障害物検知装置は、ミリ波を監視領域に送出し、障害物からの反射波により検知を行うから、小さい障害物でも確実に検知することができる。もちろん、自動車のような大きな障害物も、同様に検知することができる。しかも、ミリ波式踏切障害物検知装置においては、踏切道の全領域を覆うようにミリ波を送出し、障害異物を面検知するのであるから、従来の光式の踏切障害物検知装置と異なって、光軸監視領域に光軸外死角を生じることがない。
【0005】
このように、ミリ波式踏切障害物検知装置は、優れた特性を有するのであるが、検知の対象となる物体は、自動車、自転車、人などの移動物体であるから、移動物体であるか否かを検知しなければならない。移動物体であるか否かを検知するためには、物体が移動していること、及び、それが同一物体であることが判断できなければならない。特許文献1には、そのような手段は開示されていない。
【特許文献1】特開2005−234813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、物体が移動していること、及び、それが同一物体であることを判断し得る物体追跡機能を有する踏切障害物検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明に係る踏切障害物検知装置は、送受信器と、信号処理部とを含む。前記送受信器は、踏切道を含む領域内に電波を送信し、前記領域内に存在する物体からの反射波を受信して電気信号に変換する。前記信号処理部は、前記送受信器から前記電気信号が供給され、前記電気信号に基づき、前記送受信器から前記物体までの距離を、所定の検知周期毎に算出し、連続する2つの検知周期において、今回の検知周期で算出された距離と、前回の検知周期で算出された距離が予め定められた差内にあることを、同一の物体と判断するための条件とする。
【0008】
上述したように、本発明において、信号処理部は、送受信器から供給された電気信号に基づき、送受信器から物体までの距離を、所定の検知周期毎に算出するから、障害物となりえる物体が移動していると判定することができる。周期毎に算出された距離が同じなら、障害物は停止していると判定される。
【0009】
しかも、信号処理部は、連続する2つの検知周期において、今回の検知周期で算出された距離と、前回の検知周期で算出された距離が予め定められた差内にあることを、同一物体と判断するための条件とするから、物体が移動していることを検知すると同時に、それが同一の物体であると判定することができる。
【0010】
更に、今回の検知周期で算出された距離と、前回の検知周期で算出された距離の2つのデータを用いて障害物となりえる物体の移動、及び、同一物判定を行うので、電波障害による誤検知を回避することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明によれば、物体が移動していること、及び、それが同一物体であることを判断し得る物体追跡機能を有する踏切障害物検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る踏切障害物検知装置の一実施形態を概要的に示す図である。
【図2】本発明に係る踏切障害物検知装置における送受信器及び信号処理部の動作を示す図で、図2(A)は送受信器の動作を示し、図2(B)、(C)は信号処理部の動作を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に図示された踏切障害物検知装置は、踏切道4に入った障害物となりえる物体10の有無を検知するもので、送受信器1、2と、反射板11〜13、21〜23と、信号処理部3とを備える。踏切道4は、列車61の走行する線路51(上り方向)及び列車62の走行する線路52(下り方向)と、同一平面上で交差しており、その出入り口に当たる両側に、遮断機71、81によって昇降駆動される遮断棹72、82が設けられている。図示の線路51、52の線形は、一例であって、これに限定されるものではない。物体10には、人、車椅子、自転車又は自動車等が含まれる。
【0014】
送受信器1、2は、遮断機71、81の遮断棹72、82の内側で、且、踏切道4の外側にあって、踏切道4を挟んで、対角位置に配置されている。送受信器1、2には、それぞれ担当する放射領域(S11〜S13)、(S21〜S23)が割り当てられており、これら放射領域(S11〜S13)、(S21〜S23)に対して、電波を周期的に送信し、踏切道4内の物体10からの反射波を受信する。電波は、好ましくは、ミリ波帯の電波を用いる。ミリ波は、周知のように、周波数が30〜300GHz(波長10〜1mm)の電波であり、極めて狭い指向性を持つ。
【0015】
送受信器1は、遮断機71のある側の隅部近傍に配置してある。送受信器1の担当する放射領域(S11〜S13)は、遮断機71の内側から、送受信器2の放射領域(S21〜S23)と隣接するまでの領域である。送受信器1の担当する放射領域(S11〜S13)は、空間的な空白領域が生じないように連続させる。
【0016】
送受信器2は、遮断機81のある側の隅部近傍に配置してある。送受信器2の担当する放射領域(S21〜S23)は、放射領域(S11〜S13)と隣接する領域から、遮断機81の内側までの領域である。送受信器2の担当する放射領域(S21〜S23)も、空間的な空白領域が生じないように連続させる。
【0017】
反射板11〜13は、踏切道4を挟んで送受信器1と対向するように設けられる。これらの反射板11〜13は、送受信器1から放射された電波を、送受信器1に向けて反射するものである。もう一組の反射板21〜23は、踏切道4を挟んで送受信器2と対向するように設けられる。この反射板21〜23は、送受信器2から放射された電波を、送受信器2に向けて反射する。反射板11〜13、21〜23からの反射波が検知されないとき、送受信器1、2が故障状態であると判定する。この判定は、信号処理部3によって行われる。
【0018】
信号処理部3は、送受信器1、2に接続され、外部から供給される動作条件信号S1に基づき、送受信器1、2の動作を制御すると共に、送受信器1、2において受信した反射波の電気信号を用いて、物体10の有無を判定する。また、反射板11〜13、21〜23で反射された反射波の受信情報に基づいて、送受信器1、2の診断を行う自己診断機能を備える。この信号処理部3は、送受信器1、2の近傍又は所定の電気機器室等に設けられる。信号処理部3は、CPU又はマイクロプロセッサ(MPU)によって構成することができる。信号処理部3から出力される物体10の有無判定結果及び自己診断結果の検知信号S2は、例えば鉄道交通システムの運行制御を行う図示しない地上制御装置へ送出され、踏切道の遮断機の開閉や列車の運行停止等の制御に用いられる。
【0019】
信号処理部3は、送受信器1、2から電気信号が供給され、電気信号に基づき、送受信器1、2から物体10までの距離を算出し、連続する2つの検知周期(検知時間)において、今回算出された距離と、前回算出された距離が予め定められた差内にあることを、同一の物体10と判断するための条件とする。次に、この点について、図2を参照して説明する。
【0020】
まず、送受信器1、2のうち、送受信器1について代表的に示すと、図2(A)に図示するように、送受信器1は、自己の担当する放射領域(S11〜S13)において、空間的な空白領域が生じないように電波を放射し、その反射波を受信する動作を周期的に繰り返す。受信された反射波は、送受信器1において、電気信号に変換され、信号処理部3に供給される。
【0021】
信号処理部3では、同一の物体10と判断するための条件となる距離情報(同一物判定距離という)ΔLを、例えば、メモリなどに格納してある。この同一物判定距離ΔLは、検知周期T(h)と、検知を保障する物体10の速度V(m/h)とから、
ΔL(m)=V(m/h)・T(h)
として求められる。単に、説明を具体化して、発明理解に資するための一例であるが、検知周期T=1.5秒、移動速度V(m/h)=1200(m/h)とすると、
ΔL(m)=1200(m/h)・(1.5/3600)(h)
=0.5(m)
となる。以下、この条件にしたがって、具体的に説明する。
【0022】
信号処理部3は、与えられた検知周期T内において、同一物判定距離ΔL=0.5m刻みで、距離-反射レベルの関係をサンプリングする。物体10が、距離L0=18mの位置にある図2(A)から物体検知が開始されたとすると、最初の検知周期T1では、図2(B)に示すように、距離L0=18mの位置で最大反射レベル(電圧)Rpが得られる。そこで、図2(C)に示すように、最初の検知周期T1では、距離L0=18mの位置に物体10あり(○印)と判定する。本発明において、信号処理部3は、同一物判定距離ΔL=0.5mの範囲において、同一の物体10ありと判断するため、距離L0=18mの位置から、同一物判定距離ΔL=0.5mの範囲内にある距離L2=18.5mの位置においても、物体10あり(○印)と判定する。
【0023】
最初の検知周期T1内において、検知最大距離L=32mまで、同一物判定距離ΔL=0.5m刻みで、距離-反射レベルの関係をサンプリングした後、次の検知周期T2に移る。検知周期T2においても、同様に、距離-反射レベルの関係をサンプリングする。上述したように、検知周期T1は、1.5秒であり、この検知周期T1=1.5秒内に、物体10が、矢印F1の方向に、同一物判定距離ΔL=0.5mだけ移動すると想定した。したがって、検知周期T1において、距離L0=18mの位置にあった物体10は、検知周期T2では、同一物判定距離ΔL=0.5mだけ進んだ距離L2=18.5mの位置に移動することになり、距離L2=18.5mの位置で最大反射レベルRpとなる。そこで、距離L2=18.5mを、送受信器1から物体10までの距離とし、図2(C)に示すように、検知周期T2では、距離L2=18.5mの位置に物体10あり(○印)と判定する。本発明において、信号処理部3は、同一物判定距離ΔL=0.5mの範囲において、同一の物体10ありと判断するため、距離L2=18.5mの位置から、同一物判定距離ΔL=0.5mの範囲内にある距離L2=19mの位置においても、物体10あり(○印)と判定する。
【0024】
以下、検知周期T3、T4、・・・Tnにおいても、同様の処理を繰り返す。これにより、距離0の位置から、最大検知距離Lm=32mに到るまで、物体10の移動を追跡することができる。
【0025】
しかも、信号処理部は、検知周期T1〜Tnのうち、連続する2つの検知周期(T1、T2)、(T2、T3)、・・・(Tn-1、Tn)における距離の差が、予め定められた差同一物判定距離ΔL内にあるとき、物体10が移動していることを検知すると同時に、それが同一の物体10であると判定することができる。
【0026】
更に、今周期で算出された距離と、前周期で算出された距離の2つのデータを用いて物体10の移動、及び、同一物判定を行うので、電波障害による誤検知を回避することができる。
【0027】
説明は省略するが、物体10が、矢印F1とは逆方向に、例えば、距離L0の位置から距離L1の方向に移動した場合にも、同様の物体追跡処理が実行される。また、上述した動作は、送受信器12でも同様に行われる。なお、送受信器1、2による測距機能や、信号処理部3の信号処理方式は、特許文献1などで既に知られている技術をそのまま適用できる。
【符号の説明】
【0028】
1、2 送受信器
3 信号処理部
10 物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信器と、信号処理部とを含む踏切障害物検知装置であって、
前記送受信器は、踏切道を含む領域内に電波を送信し、前記領域内に存在する物体からの反射波を受信して電気信号に変換するものであり、
前記信号処理部は、前記送受信器から前記電気信号が供給され、前記電気信号に基づき、前記送受信器から前記物体までの距離を、所定の検知周期毎に算出し、連続する2つの検知周期において、今回の検知周期で算出された距離と、前回の検知周期で算出された距離が予め定められた差内にあることを、同一の物体と判断するための条件とする、
踏切障害物検知装置。

【図1】
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【図2】
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