説明

身体発汗モニター装置

【課題】従来のような空気流を用いることなく、皮膚表面の発汗現象を記録する。その際、装置は小型、軽量、身体装着式で、被測定者の行動を阻害せず、長時間にわたり使用可能なことを実現する。また消耗品を用いず長時間(長期間)の連続使用を可能とする。
【解決手段】温湿度センサーと、水蒸気の流動を阻害する遮蔽板と、センサー感度を最適化する水分流入出孔面積と容積を有するケースを組み合わせた装置を用いて、湿度変化データから基線動揺を自動的に検出し差し引くことで発汗現象を記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚からの発汗現象を経時的に測定・記録するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住環境や衣服環境の研究、ストレスなど精神性現象の研究、スポーツや様々な疾患時の心身状況モニター、さらには新生児や集中治療室患者のバイタルサインモニターにおいて発汗計は有用な装置である。
【0003】
従来の発汗測定では、皮膚に定常的な空気流を当て、その流れの上流側と下流側に湿度センサーを配し、両センサーの湿度差から計量する方法が取られている(下記「特許文献1、2」参照)。原理的にこの方法で測定は可能であるが、実用上、三つの問題を抱える。
【0004】
一つは、定常空気流を作り出すことが難しく、測定精度はその定常性に依存し、またポンプなどの機構部品が必要なために構造上、装置の小型・携帯型化が図りにくい。二つ目の問題は、運動時発汗のように多量の水分が蒸散する場合、湿度センサーが飽和し、測定精度の低下あるいは測定不能となることである。三つめは人工的に空気流を作りだし強制的に水蒸気を持ち去るメカニズムであるから、自然な水分蒸散現象とは懸け離れていることである。
【0005】
一方、多量の水分蒸散に対し、下記特許文献3のようにヒーターで湿潤空気を加熱してある程度蒸発させる対処法も考えられるが、応答が遅く、またヒーター制御の搭載により大きさの制限や価格の上昇の問題も生じる。
【0006】
上記の問題を解決するために、既に乾燥剤を搭載した水分蒸散量測定装置を考案している(特願2010−73544)。しかし、この装置では多量の乾燥剤を必要とし、日常の行動を束縛せずに連続測定する携帯型の場合は、その測定時間が乾燥剤量に依存することになる。また毎回の乾燥剤交換の手間も掛かる。
【先行技術文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2001−190502号公報
【0008】
【特許文献2】 特許3711521号公報
【0009】
【特許文献3】 特許2600113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の発汗計や水分蒸散計が解決できなかった五つの課題、即ち、
(1)ポンプ等の機構部分を無くし小型・軽量・省電力にすることで長時間の無拘束計測を行うこと、
(2)多量の水分蒸散に対しても精度が落ちることなく計測できること、
(3)人工的な空気流を使わず出来る限り自然な蒸散状態で測定すること、
(4)乾燥剤等の消耗品を使用しないこと
(5)発汗(生理学的にはパルス的に汗が発せられることが分かっている)の正確なタイミングと大きさ(量的なレベル)を検出できること
を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
「発明が解決しようとする課題」に挙げた(1)〜(3)については、既に特願2010−73544において解決済みである.すなわち、皮膚接触面に穴を開けた容器に温湿度センサと乾燥剤(シリカゲル等)を内蔵させる方法である.
【0012】
しかし、この方法では充填する乾燥剤の量により使用可能な時間が制限されてしまう。そこで乾燥剤を装填しない代わりに、容器に適当な穴を開け、水蒸気を逃がす方法を考案した。この場合、任意の穴ではなく、容器体積、皮膚側穴面積、ケース上面穴面積の関係から求められるものである。
【0013】
またパルス状発汗のタイミングの検出に対しては、湿度データの基線の揺れを捕らえ、これを差し引く解析法で対処する方法を考案した。
【発明の効果】
【0014】
機械機構が無く湿度センサーの電子回路を中心に構成できるため小型化が可能で、身体に付けたまま普段の生活の中で発汗データを収集するなど、利用範囲が広がる。また従来の装置に比べ極めて安価に製造でき、可動部分が無いため故障率も低い。
【0015】
特願2010−73544の考案のような消耗品(乾燥剤)の交換を必要とせず、継続測定時間の制限がないため、集中治療室など長時間の連続モニターの必要な場面で使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は測定装置の原理を説明するためのものである。
【図2】図2は実際に製作可能な装置の構成を示したものである。
【図3】図3は図2の装置を新生児肌着内に装着して得た発汗現象と解析方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
皮膚発汗測定においては衣服内に装着可能な大きさに小型化するために、従来の一定空気流による測定方式を避け、図1に示すように温湿度センサー(2)を中心に実現する。
【0018】
ケース(1)の皮膚接触面と上面に、水蒸気(汗)の流入・流出バランスを考慮した面積の穴(4および5)を開ける。また水蒸気を一定時間滞留させるために、ケース内に遮蔽板(3)を配置する。
【0019】
この装置を用いて湿度データを取得後、湿度変化の基線動揺を求め、これを元データから差し引くことで、発汗タイミングを検出できる。
【実施例】
【0020】
模式図1において、水蒸気(汗)はケース皮膚側の穴(4)から流入し、まずセンサー(2)で検知される。その後、水蒸気は遮蔽板(3)によって流れが阻害され、容器内に一定時間滞留するが、最後は周辺の隙間を通り、上蓋の流出孔(5)より排出される。
【0021】
このとき発汗量w(t)[g/m^3]はセンサが検出する絶対湿度x(t)[g/m^3]と外気湿度H[g/m^3]を用いて以下の式で表される(tは時間)。
w(t)=ケース内変化分+外気への流出分(自然拡散を仮定)
=(V/A1)(Δx/Δt)+(D/L2)(A2/A1){x(t)−H} …▲1▼
ここで各定数は以下の通りである。
V :ケース体積[m^3]
A1:皮膚接触側の穴面積[m^2]
A2:上面の穴面積[m^2]
L1:仮想的発汗源〜センサユニット間の拡散距離[m]
L2:ケース〜外気間の想定拡散距離[m]
D :水蒸気の空気中拡散係数[m^2/s]
但し、上式▲1▼が成立するのは外気湿度Hが一定の場合で、実際には着衣や寝具の中など比較的一定の湿度に保たれる環境での測定を想定している。
【0022】
上式▲1▼から分かるように、ケース内の変化分が発汗量に占める割合は係数V/A1の大きさに依存し、一方、ケースから外気へ流出する部分は係数A2/A1に依存する。即ち、両係数は各変化に対する感度を表すことになる。
【0023】
感度V/A1、A2/A1を上げるためには面積A1を小さくすればよいが、実際には流入蒸気量が減り精度が落ちる。またA2を大きくすると流出が早いため、センサーの感度(応答)が追いつかない。さらにVを大きくした場合、ケース内の湿度が一様に安定するまでに時間が掛かり、やはり精度に影響する。
【0024】
これらの条件および遮蔽板面積を調節し、皮膚に直接装着し行動を阻害しない装置全体サイズから逆算して設計する。具体的には、内径25mmのケースに対し、およそV/A1=75、A2/A1=1.5、遮蔽板直径21mmで安定した計測が行えた(後述の測定例)。
【0025】
実際の装置(図2)では、マイクロコンピューター、メモリ、電池を搭載し、測定実施場面で発汗を計算する。計算はマイクロコンピューター内で行い内蔵メモリに蓄積しても良いし、外部にコンピューターを接続した場合はそれを用いて計算しリアルタイム表示しても良い。また既に述べたように水蒸気の流動を阻害する遮蔽板も重要な要素であるが、図2では、電子回路基板(7)がその役割を担っている。
【0026】
図2の装置を用いて実際の皮膚データ(新生児;肌着を着用し薄い掛け布団を掛けた状態)を記録した例が図3[A−1]である。同図はケース内センサーが検出する発汗による絶対湿度変化の記録で、この大きな変化の中にパルス状の発汗現象が埋もれている。そこでケースの大きさや湿度センサーの応答特性に起因する遅れのために動揺する基線を、ピーク解析によって求める。実際には「負のピーク」即ちボトムラインの解析であるが、慣用に従ってピーク解析と呼ぶ。
【0027】
ピーク解析によって求めた基線動揺が図3[A−2]であり、これを元データから差し引くと、パルス状の発汗現象を捕らえることができる(図3[B])。これにより発汗のタイミングと、発汗レベルの大小比較ができる。
【0028】
ピーク解析は、全データ取得後(即ち測定完了後)に波形全体について行っても良いし、測定現場でリアルタイムにモニターする場合は、ある程度まとまった数のデータ(10個以上が好ましい)が収集された時点で部分的に順次行っても良い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
長時間の屋外作業時、車や電車の運転および機器操作中の生理学的検査、発汗を伴う運動時の衣服や器具の開発、入浴時の生理学研究など、従来測定が難しかった実場面での無拘束計測分野への利用が期待できる。そのため健康産業、化粧品、運動機器、衣服、寝具、生活環境等のあらゆる商品開発の基礎データを提供できる。
【0029】
医療、歯科治療においては、手術中や集中治療中の患者モニターとして有用である。特に図3に示した新生児の例のように、動きを阻害しない(即ち、配線や配管、大がかりな留め具の無い簡便な)バイタルサイン記録として活用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 ケース
2 温湿度センサー
3 遮蔽板
4 流入孔
5 流出孔
6 上蓋
7 電子回路基板
8 温湿度センサー
9 ケース(枠)
10 底板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気を導入する複数の穴を有するケース内に、湿度センサーと温度センサー、および水蒸気の移動を阻害する遮蔽板を配置し、センサーの信号を処理する電子回路をケース内に内蔵または外部に置き、処理したデータを保存するとともに、演算を施すことによって身体の発汗を経時的に得て、結果を記録する装置において、水蒸気流入孔面積、流出孔面積、ケース容積の比率、および遮蔽板/ケース内径比率を測定感度と応答速度が最適になるように設計した発汗モニター装置。
【請求項2】
装置内部または外部にコンピューターを配置し、湿度センサーデータから基線動揺を差し引く演算処理により、自動的に発汗現象を記録する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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