説明

身体能力判定装置及び身体能力判定方法

【課題】被験者の身体能力を効率的に判定する。
【解決手段】運動特徴量観測部110が、被験者の身体の動きを検出する身体状態計測センサ191から供給されるセンシング情報に基づいて、被験者の身体の動きの特徴を示す運動特徴量を算出し、身体能力判定部120が、基準情報格納部130に格納されている運動特徴量と身体能力の評価値との対応を特定するための基準情報に基づいて、被験者の運動特徴量から、被験者の身体能力を示す評価値を特定する。また、運動特徴量から得られるリャプノフ指数と身体能力の評価値との対応が基準情報に記載されており、身体能力判定部が、力学系の計算技術を用いて被験者の運動特徴量の発散性を示す値(リャプノフ指数)を算出し、算出されたリャプノフ指数に対応する評価値を特定することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の身体能力を評価する身体能力判定装置及び身体能力判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロコモティブシンドローム(運動器症候群)は、メタボリックシンドローム(代謝症候群)や認知症と並び、健康寿命の短縮や寝たきり状態又は要介護状態を誘発する3大要因の1つとして注目されており、この施策が急務とされている。
【0003】
身体能力の低下には、筋力の低下や骨格の劣化と共に、脳機能の劣化という要因も存在する。筋力や骨格の強化に関しては整形外科の知識を必要とする一方、脳機能の劣化に関しては脳科学の知識が必要となり、整形外科及び脳科学の両方の観点から横断的に評価(診断)及び施術指導を行う必要がある。
【0004】
身体の状態を測定する技術として、身体重心動揺や歩行運動のゆらぎを計測する技術などが存在する。例えば、非特許文献1では、下顎位の変化がヒトの直立姿勢時の身体重心動揺のゆらぎや筋肉の活動にどのような影響を及ぼすのかについて検討がなされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「下顎位の変化による身体重心動揺のゆらぎ解析」岐阜歯科学会35巻3号167〜181、2009年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術においては、整形外科及び脳科学の両方の観点から、人間の身体能力を効率的に判定するシステム、例えば、脳機能劣化と整形劣化を同時計測でき、かつ低コストで簡便であるシステムは確立されていない。
【0007】
上記の問題を解決するため、本発明は、身体能力を効率的に判定するための身体能力判定装置及び身体能力判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の身体能力判定装置は、被験者の身体の状態を判定する身体能力判定装置であって、
前記被験者の身体の動きを計測する身体状態計測センサから供給されるセンシング情報に基づいて、前記被験者の身体の動きの特徴を示す運動特徴量を算出する運動特徴量観測部と、
前記運動特徴量と身体能力の評価値との対応を特定するための基準情報を格納する基準情報格納部と、
前記基準情報格納部に格納されている前記基準情報に基づいて、前記運動特徴量観測部で算出された前記被験者の運動特徴量から、前記被験者の身体能力を示す評価値を特定する身体能力判定部とを、
有している。
【0009】
また、上記の目的を達成するため、本発明の身体能力判定方法は、被験者の身体の状態を判定する身体能力判定方法であって、
前記被験者の身体の動きを計測する身体状態計測センサから供給されるセンシング情報に基づいて、前記被験者の身体の動きの特徴を示す運動特徴量を算出する運動特徴量観測ステップと、
前記運動特徴量と身体能力の評価値との対応を特定するための基準情報に基づいて、前記運動特徴量観測ステップで算出された前記被験者の運動特徴量から、前記被験者の身体能力を示す評価値を特定する身体能力判定ステップとを、
有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記の構成又は処理を有しており、被験者の身体能力を効率的に判定するために脳機能劣化と整形劣化を同時計測(記録)可能とし、かつ、低コストで簡便なシステムを構築できるという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】本発明の実施の形態における身体能力判定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図1B】本発明の実施の形態における身体能力判定装置の身体能力判定部の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における運動特徴量の計測処理の一例を示すフローチャートである。
【図3A】本発明の実施の形態における運動能力の判定処理の一例を示すフローチャートである。
【図3B】本発明の実施の形態におけるゆらぎ解析処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態における身体能力判定処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態におけるゆらぎ解析処理の具体的な一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態において、被験者の身体の状態を計測するための身体状態計測センサ及び計測結果の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態において、被験者の身体能力を評価するための基準情報の一例を示す図である。
【図8】本発明の別の実施の形態における身体能力判定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図9】本発明の別の実施の形態において、被験者の身体能力を評価するための基準情報の一例を示す図である。
【図10】本発明の別の実施の形態において、被験者の身体能力を評価するための基準情報の別の一例を示す図である。
【図11】本発明に係る実験において、時系列データを空間ベクトルPとして、良好なアトラクタを再構成するためのパラメータを探索し、空間ベクトルPをプロットすることでアトラクタを描画した一例を示すイメージ図である。
【図12】本発明に係る実験において、埋め込み次元数を4、埋め込み遅延時間を30(s)とした場合に、再構成されたアトラクタをある平面上に投影した写像(六角形状)の一例を示す図である。
【図13】本発明に係る実験において、6人の被験者に係る重心位置データに基づいて、埋め込み次元数を4、埋め込み遅延時間を30(s)とした場合に、再構成されたアトラクタをある平面上に投影した写像(六角形状)の一例を示す図である。
【図14】本発明に係る実験において、アトラクタ重畳時の写像空間における時系列の点軌跡を、d1からd3の超球サイズ範囲内で軌道を描く運動のみを対象に軌道離散を計算する様子を示すイメージ図である。
【図15】本発明に係る実験において、超球サイズを0.1、近傍点数を20、発展時間係数を30としてSano-Sawada法を用いて計算されたリャプノフ指数の値を縦軸とし、被験者の年齢を横軸としたグラフの一例を示す図である。
【図16】本発明に係る実験において、各年代の5人の被験者に係る重心位置データに基づいて、埋め込み次元数を4、埋め込み遅延時間を8(s)とした場合に、再構成されたアトラクタをある平面上に投影した写像(蝶型)の一例を示す図である。
【図17】本発明に係る実験において、超球サイズを0.08、近傍点数を20、発展時間係数を30としてSano-Sawada法を用いて計算されたリャプノフ指数の値を縦軸とし、被験者の年齢を横軸としたグラフの一例を示す図である。
【図18】本発明に係る実験において、再構成されたアトラクタの安定性の指標としてDFAにより算出したスケーリング指数を縦軸とし、被験者の年齢を横軸としたグラフの一例を示す図である。
【図19】本発明において、リャプノフ指数、DFAのスケーリング指数、アトラクタの形状やリャプノフ指数などから得られる評価値(脳機能年齢)をリアルタイムに1画面に表示した場合の表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本発明は、被験者の身体能力を判定することで、被験者の現在の身体能力の評価を行うことが可能な身体能力判定装置及び身体能力判定方法を提供する。なお、本発明は、簡素な構成によって実現可能であるよう構成されており、また、被験者にとって負担にならない簡単な方法で被験者の身体能力の脳機能劣化と整形劣化を同時計測(記録)可能としし、被験者の身体能力を判定することが可能である。
【0014】
まず、本発明の実施の形態における身体能力判定装置の構成について説明する。図1Aは、本発明の実施の形態における身体能力判定装置の構成の一例を示すブロック図であり、図1Bは、本発明の実施の形態における身体能力判定装置の身体能力判定部の構成の一例を示すブロック図る。図1Aに図示されている身体能力判定装置100は、運動特徴量観測部110、身体能力判定部120、基準情報格納部130を有している。なお、図1A及び図1Bには、各機能がブロックによって図示されているが、これらの各機能は、ハードウェア及び/又は(プログラムをコンピュータによって実行可能なプログラム)によって実現可能である。
【0015】
運動特徴量観測部110は、被験者の身体の状態(被験者の身体の動き)に係る情報から、被験者の運動特徴量を計測する機能を有している。運動特徴量観測部110は、例えば、身体状態計測センサ191から供給される被験者の身体の状態を検出したセンシング情報に基づいて、被験者の運動特徴量を算出することが可能である。また、運動特徴量観測部110は、力学系の技術を用いた場合には、被験者の運動特徴量をアトラクタ化する(例えば、後述する図2の処理を行う)ことも可能である。
【0016】
なお、身体状態計測センサ191として、被験者の身体における筋肉運動を数値として計測する任意のセンサが利用可能である。例えば、荷重・加速度センサを使って被験者の直立姿勢時の重心運動(重心動揺)を検出する方法や、被験者が歩行運動を行う際の身体の動きや歩調を検出する方法を利用することが可能である。また、ビデオカメラなどによるモーションキャプチャから体の特徴点の軌道をセンシングして被験者の直立姿勢時の重心運動(重心動揺)を検出する方法や、被験者が歩行運動を行う際の身体の動きや歩調を検出する方法を利用することが可能である。図6は、本発明の実施の形態において、被験者の歩行運動に伴って検出されるセンシング情報の一例を示す図である。図6(A)に図示されているように、筋活動電位、3軸加速度変化、温度変化を計測することが可能なワイアレス生体センサ600を被験者に装着してもらい(図6(A)では、頭部、腰部、両膝部に装着)、被験者に歩行運動を行ってもらうことによって歩行運動に伴った被験者の動きを計測する。この計測によって、例えば図6(B)に図示されているように、歩行時の被験者の頭部、腰部、両膝部の位置の変動、被験者の重心運動、被験者の歩調などが計測可能である。なお、ここでは、主に、被験者に歩行運動を行ってもらう場合を一例として説明を行うが、例えば、図6(C)に図示されているように、被験者を直立させて被験者の重心運動(垂直重心動揺)を荷重センサ700によって計測することも可能である。
【0017】
また、身体能力判定部120は、運動特徴量観測部110で計測された被験者の運動特徴量に基づいて、被験者の身体能力を判定する機能を有している。身体能力判定部120は、例えば、被験者の運動特徴量から得られる数値(例えば、後述のリャプノフ指数)と、基準情報格納部130に格納されている基準情報とを比較することで、被験者の運動特徴量がどのレベルに位置するかを特定することが可能である。なお、身体能力判定部120による判定結果は、例えば評価値としてモニタ/スピーカ192などの出力装置から出力可能である。
【0018】
身体能力判定部120は、図1Bに図示されているように、脳機能判定部121及び整形判定部122を有している。脳機能判定部121は、本発明の実施の形態において説明する動作(運動特徴量から身体能力の評価を行う動作)を実行する機能を有しており、一方、整形判定部122は、骨格劣化・筋力劣化を整形外科の観点で観測する機能を有している。例えば骨格劣化に関しては、右足・左足の足踏み運動の劣化を観測することで、背骨の歪みを観測することが可能である。
【0019】
また、基準情報格納部130は、身体能力判定部120による判定の際に参照される基準情報を事前に格納する機能を有している。基準情報としては、例えば、被験者の運動特徴量から得られる数値(例えば、後述のリャプノフ指数)に対応する評価値(例えば、後述の脳機能年齢)を規定した対応表などを用いることが可能である。また、例えばアトラクタ群(アトラクタ行列)の各パターンを保持し、当該各パターンに対応する評価値を規定しておいてもよい。
【0020】
次に、図1A及び図1Bに図示されている身体能力判定装置100の構成に基づき、本発明に係る処理について説明する。
【0021】
図2は、本発明の実施の形態における運動特徴量の計測処理の一例を示すフローチャートである。なお、図2に図示されている運動特徴量の計測処理は、図1Aに図示されている運動特徴量観測部110によって、ミリ秒オーダ(ミリ秒単位)で実行される処理である。
【0022】
図2において、運動特徴量観測部110は、重心運動の計測値を取得し(ステップS201)、歩調の計測値を取得し(ステップS202)、3軸加速度変化の計測値(3次元空間における加速度の値)を取得する(ステップS203)。これらのステップS201〜S203の各センシング情報は、身体状態計測センサ191から、例えばミリ秒単位で運動特徴量観測部110へ供給される。なお、ステップS201〜S203の各処理は並列処理である。また、本発明の実施の形態では、重心運動、歩調、3軸加速度変化を計測する場合について説明するが、これらの計測値のうちのいずれか1つ又は複数(あるいはすべて)を利用してもよく、また、その他のセンシング情報を利用してもよい。
【0023】
ここで、運動特徴量観測部110は、身体状態計測センサ191から供給される計測値をアトラクタ化する。運動特徴量観測部110は、例えば、重心運動の計測値をアトラクタ化し(ステップS204)、歩調の計測値をアトラクタ化し(ステップS205)、3軸加速度変化の計測値をアトラクタ化する(ステップS206)。
【0024】
以上の処理のように、運動特徴量観測部110は、ミリ秒オーダで、被験者の運動特徴量を計測してアトラクタ化することが可能である。
【0025】
また、図3Aは、本発明の実施の形態における身体能力の判定処理の一例を示すフローチャートである。なお、図3Aに図示されている身体能力の判定処理は、図1A及び図1Bに図示されている身体能力判定部120によって、数秒〜1分オーダ(数秒〜1分単位)で実行される処理である。
【0026】
図3Aにおいて、身体能力判定部120は、直近の被験者の運動特徴量を運動特徴量観測部110から取得する(ステップS310)。なお、ステップS310において取得する被験者の運動特徴量は、図2に図示されているステップS204〜S206で算出された結果(各運動特徴量がアトラクタされたもの)である。次に、身体能力判定部120は、取得した被験者の運動特徴量のゆらぎ解析処理を行う(ステップS330)。なお、ステップS330におけるゆらぎ解析処理において、身体能力判定部120は、例えば、各運動特徴量からリャプノフ指数を算出する処理を行う。ステップS330におけるゆらぎ解析処理の詳細については、図3Bを参照しながら後述する。そして、身体能力判定部120は、ステップS330におけるゆらぎ解析処理の処理結果(具体的には、算出されたリャプノフ指数)の遷移をログとして蓄積(ロギング)する(ステップS350)。
【0027】
また、図3Bは、本発明の実施の形態におけるゆらぎ解析処理の一例を示すフローチャートである。なお、図3Bに図示されているゆらぎ解析処理は、上述のように、図3AのステップS330におけるゆらぎ解析処理の詳細を説明するものである。
【0028】
図3Bにおいて、身体能力判定部120は、重心運動のアトラクタ群(アトラクタ行列)を取得して(ステップS3311)、重心運動のリャプノフ指数を算定し(ステップS3312)、過去のアトラクタ群からリャプノフ指数の安定傾向を解析する(ステップS3313)。
【0029】
また、身体能力判定部120は、歩調のアトラクタ群(アトラクタ行列)を取得して(ステップS3321)、歩調のリャプノフ指数を算定し(ステップS3322)、過去のアトラクタ群からリャプノフ指数の安定傾向を解析する(ステップS3323)。
【0030】
また、身体能力判定部120は、3軸加速度変化の計測値のアトラクタ群(アトラクタ行列)を取得して(ステップS3331)、3軸加速度変化の計測値のリャプノフ指数を算定し(ステップS3332)、過去のアトラクタ群からリャプノフ指数の安定傾向を解析する(ステップS3333)。
【0031】
なお、本発明の実施の形態におけるゆらぎ解析処理の具体的な計算については、例えば、図5に図示されているように実行することが可能である。図5は、本発明の実施の形態におけるゆらぎ解析処理の具体的な計算方法の一例を示す図である。なお、ゆらぎ解析処理の計算方法は、図5に図示されているものに限定されるものではない。複雑系の解析方法については、様々な研究が行われており、現在及び今後確立される任意の解析方法を本発明に適用することが可能である(例えば、此処まで来た複雑系解析ツール、http://www.ieice.org/cs/csbn/program/papers/04_1_miao.pdfを参照)。
【0032】
本発明の実施の形態では、例えば、重心運動、歩調、3軸加速度変化などの各計測値を取得する(図2のステップS201〜S203)。こうした計測値(センシングデータ)は、例えば図5(A)に図示されているように、時間軸に対して変動する曲線として取得され、被験者の身体の状態の特徴を表す運動特徴量として取り扱うことが可能である。
【0033】
ここで、例えば、所定の微小ウィンドウ(時間幅τ)の範囲をずらしながら、微小ウィンドウ内における運動特徴量の局所的な傾向(ローカルトレンド)のアトラクタ(軌道)を取得することで、運動特徴量のアトラクタ群(アトラクタ行列)を取得し(図3BのS3311、S3321、S3331、図5(B))、このようにして得られたアトラクタ群(アトラクタ行列)からリャプノフ指数を算定することが可能である(図3BのS3312、S3322、S3332、図5(C))。なお、このとき、算定されるリャプノフ指数は1つのみであるが、所定の微小ウィンドウ(時間幅τ)を複数個含むウィンドウ(メタウィンドウ)をずらすことによって、リャプノフ指数の時系列データ(時間的に異なる複数個のリャプノフ指数)を得ることができる。
【0034】
なお、身体能力判定部120は、判定に用いる運動特徴量として、上述のようにリャプノフ指数(あるいは、リャプノフ指数の時系列データ)を出力してもよく、また、アトラクタ群(アトラクタ行列)そのものを出力してもよい。例えば、基準情報として、被験者の運動特徴量から得られる数値(例えば、リャプノフ指数)に対応する評価値を規定した対応表を用いる場合には、判定に用いる運動特徴量としてリャプノフ指数を出力し、また、評価値に対応するアトラクタ群(アトラクタ行列)の各パターンを保持している場合には、アトラクタ群(アトラクタ行列)そのものを出力してもよい。
【0035】
また、図4は、本発明の実施の形態における身体能力判定処理の一例を示すフローチャートである。なお、図4に図示されている身体能力判定処理は、図1A及び図1Bに図示されている身体能力判定部120によって、ゆらぎ解析処理の解析結果(図3AのステップS330の処理結果)が取得されるたびに実行されてもよく、あるいは、数十秒から数分のオーダで被験者の運動特徴量を計測した後に実行されてもよい。
【0036】
図4において、身体能力判定部120は、基準情報格納部130に格納されている基準情報を取得するとともに(ステップS401)、身体能力判定部120によって算出された判定に用いる運動特徴量(例えば、運動特徴量に基づくリャプノフ指数によって表される)を取得する(ステップS402)。なお、ステップS401において取得する基準情報は、基準情報格納部130に格納されているリャプノフ指数と評価値との対応表や、評価値に対応するアトラクタ群(アトラクタ行列)の各パターンなどである。また、ステップS402において取得する運動特徴量は、図3AのステップS330のゆらぎ解析処理の解析結果(図3AのステップS330の処理結果)であり、具体的には、各運動特徴量から取得されるアトラクタ群や各運動特徴量から算出されたリャプノフ指数である。
【0037】
身体能力判定部120は、身体能力判定部120によって算出された判定に用いる運動特徴量と基準情報とに基づいて、被験者の身体能力の評価値を特定する(ステップS403)。具体的には、身体能力判定部120は、身体能力判定部120によって算出された判定に用いる運動特徴量が、基準情報においてどのレベルに対応するものであるかを判定する。この判定では、被験者の運動特徴量から得られる数値(例えば、リャプノフ指数)に対応する評価値(例えば、後述の脳機能年齢)を規定した対応表を用いる場合には、被験者の運動特徴量から得られるリャプノフ指数に対応する評価値を特定し、また、評価値に対応するアトラクタ群(アトラクタ行列)の各パターンを用いる場合には、被験者の運動特徴量から得られるアトラクタ群のパターンを解析して、どの評価値に対応するアトラクタ群(アトラクタ行列)のパターンに類似しているかを特定する。また、パターンの類似を調べる場合には、アトラクタの特定の局所領域の広がり幅や曲面形状などを、基準となる評価値に対応するアトラクタの形状と比較してもよい。
【0038】
図7には、リャプノフ指数に対応する評価値(ここでは、脳機能年齢と記載)を規定した対応表(基準情報の一例)が図示されている。なお、一般的に、リャプノフ指数の値が大きいほど、身体能力を制御する脳の機能は活性化されており、リャプノフ指数の値が小さいほど、身体能力を制御する脳の機能は低減している傾向にあるが、後述のように(別の実施の形態として説明)、被験者の年齢(年代)に応じて利用する対応表を適宜選択することで、より精度の高い評価値を出力することが可能である。
【0039】
身体能力判定部120は、例えば図7に図示されている対応表を用いて、リャプノフ指数に対応する評価値(脳機能年齢)を特定し、この評価値(脳機能年齢)を、モニタ/スピーカ192などから出力したり、通信部(図1Aには不図示)を介して配信先(サーバなど)へ送信したりすることが可能である。また、被験者の登録(ユーザ登録)を行うことで被験者の評価値を逐次蓄積し、被験者の脳機能の状態をトレースしたり、被験者による整形外科施術(リハビリテーションなど)の進行状況などの把握に活用したりすることも可能である。
【0040】
次に、本発明の別の実施の形態について説明する。この実施の形態によれば、DFA(Detrended Fluctuation Analysis:トレンド除去変動解析法)解析を用いて推定した被験者の年齢(年代)を反映させることで、被験者の身体能力をより詳細に評価できるようになる。なお、上述のように、リャプノフ指数の値が大きいほど身体能力を制御する脳の機能は活性化されており、リャプノフ指数の値が小さいほど身体能力を制御する脳の機能は低減している傾向にあるが、被験者の年齢(年代)によって、リャプノフ指数の値に対応する評価値は異なっている。従って、被験者の年齢(年代)に応じた基準情報を選択することが有用である。
【0041】
図8は、本発明の別の実施の形態における身体能力判定装置の構成の一例を示すブロック図である。図7に図示されている身体能力判定装置100は、運動特徴量観測部110、身体能力判定部120、基準情報格納部130、DFA解析部140を有している。なお、図8には、各機能がブロックによって図示されているが、これらの各機能は、ハードウェア及び/又は(プログラムをコンピュータによって実行可能なプログラム)によって実現可能である。
【0042】
図8に図示されている身体能力判定装置100は、図1Aに図示されている構成と比較して、DFA解析部140を更に有している。また、身体能力判定部120に機能が追加され、さらに、基準情報格納部130には、より詳細な評価を可能とする基準情報が格納される。以下、主に、本発明の別の実施の形態に特徴的な機能及び動作について説明する。
【0043】
DFA解析部140は、被験者の身体の状態(被験者の身体の動き)に係る情報(例えば、身体状態計測センサ191からのセンシング情報)に基づいてDFA解析を行い、そのDFA解析結果(スケーリング指数α)を出力する機能を有している。なお、DFA解析は、非定常的な時系列データの長期相関特性を解析する手法であり、広く知られている技術なので、ここでは詳細な説明は省略する。DFA解析は、入力データを積分することで作成した新たな時系列データを長さnのボックスに分割し、各ボックスにおいて最小自乗法による近似直線を計算してローカルトレンドを求め、信号からトレンドを除去してから分散を平均した値(F(n))を算出するものである。このDFA解析によって求められるF(n)は、F(n)∝nαによって表すことが可能であり、スケーリング指数αによって特徴付けられる。
【0044】
本発明の発明者は、DFA解析によって得られるスケーリング指数が被験者の年齢(年代)の推測に有用であり、推測された被験者の年齢(年代)に基づいて被験者の身体能力の判定を行うことが有用であることを発見した。具体的には、例えばα=0.8を閾値として、α≧0.8とα<0.8とで年代を分けることが可能である。以下では、α≧0.8と算出された場合を若年層、α<0.8と算出された場合を老年層と呼ぶ。なお、ここでは一例として、1つの閾値(例えば、α=0.8)によって年代を2つに分けているが(若年層と老年層の2つのカテゴリに分類)、閾値として設定される値や閾値の個数及び分類するカテゴリ数は、適宜設定することが可能である。
【0045】
DFA解析部140によるDFA解析結果は、身体能力判定部120へ供給される。身体能力判定部120は、運動特徴量観測部110で計測された被験者の運動特徴量に基づいて、被験者の身体能力を示す評価値を特定する機能を有しており、例えば、被験者の運動特徴量から得られる数値と、基準情報格納部130に格納されている基準情報とを比較することで、被験者の運動特徴量がどのレベルに位置するかを評価することが可能である
【0046】
本実施の形態では、身体能力判定部120は、DFA解析部140のDFA解析結果に基づいて、基準情報格納部130に格納されている基準情報を選択する機能を更に有している。身体能力判定部120は、例えばDFA解析部140から供給されたスケーリング指数αの値に基づいて、基準情報格納部130に格納されている複数の基準情報の中から、スケーリング指数αの値に対応する基準情報を選択し、被験者の運動特徴量と、選択された基準情報とを比較することで、被験者の身体能力の評価値を特定する。
【0047】
例えば、基準情報格納部130には、若年層用及び老年層用の2つの基準情報が格納されている。例えば、被験者の身体能力の評価にリャプノフ指数が用いられる場合には、図9に図示されているような若年層用の対応表と、図10に図示されているような老年層用の対応表とが格納されている。また、例えば、被験者の身体能力の評価にアトラクタ群のパターンの類似性の判断が行われる場合には、若年層用のアトラクタ群と老年層用のアトラクタ群とが格納されている。
【0048】
上述の例に示されているように、DFA解析部140から供給されたスケーリング指数αが0.8以上の場合には、身体能力判定部120は、若年層用の対応表(図9)を基準情報として選択し、選択された基準情報と比較することで、被験者の身体能力の評価値を特定する。同様に、DFA解析部140から供給されたスケーリング指数αが0.8未満の場合には、身体能力判定部120は、老年層用の対応表(図10)を基準情報として選択し、選択された基準情報と比較することで、被験者の身体能力の評価値を特定する。
【0049】
以上のように、本実施の形態によれば、DFA解析部140によるDFA解析結果に基づいて被験者の年齢(年代)を推定し、推定された被験者の年齢(年代)に応じた基準情報を選択し、選択された基準情報に基づいて、被験者の身体能力を評価することが可能である。
【0050】
次に、上述の本発明の実施の形態に関連する実施例として、試作システムを用いて行われた実験の詳細について説明する。
【0051】
本発明に係る実験では、図1に図示されている身体状態計測センサ191として、図6(C)に図示されているような4点の荷重センサ(例えば、ストレインゲージ式フォースセンサ)を備えた板状コントローラを用いて被験者の重心動揺を計測した。なお、リハビリテーション医学やスポーツ医学などの分野で一般的に使用されている重心動揺計は、重心動揺の正常/異常を判定するために微小なバランスのぶれを抽出する必要があることから、高精度・高感度の荷重センサを具備するとともに床を伝搬する振動などのノイズを除去するためのハードウェア機構を持ち、非常に高価な装置となっている。一方、本発明に係る実験では、例えばゲーム用コントローラとして広く普及しているものなどのような極めて簡易かつ安価な板状ボードコントローラ(以下、民生用ボードコントローラと記載する)を用いた。
【0052】
本発明に係る実験では、被験者に民生用ボードコントローラ上で足踏み運動をさせ、民生用ボードコントローラから得られた重心動揺データから、床平面上の重心移動ベクトルを算出した。次に、得られた重心移動ベクトルに関し、民生用ボードコントローラの前後左右2軸の成分の時系列データを使ってアトラクタの再構成を試みた。その後、再構成されたアトラクタの重畳の自己相関の不安定の度合いを示すリャプノフ指数を推定し、この数値を脳活性度を示す生体ゆらぎの定量的な指標として用いた。最後に、足踏み運動における運動モーメントの安定性を定量的に確認するために、非定常的な信号の解析に対して有効であるスペクトル解析手法(DFA)を用いてスケーリング指数を算出した。なお、DFAで算出されたスケーリング指数は、運動モーメントに起因する歩行の安定性を示す指標として取り扱うことができ、安定性が高いほどスケーリング指数は低い値となる。
【0053】
足踏み動作時の足踏み位置やその荷重は時間と共に複雑に変化し、そのデータは非線形の時系列データとして計測可能である。しかしながら、計測環境の影響によるノイズや被験者の年齢、体調など生態的な影響も加わることから、その複雑な挙動を詳細に解析することは容易ではない。時系列カオス解析手法は、このような現実世界の複雑で不規則な時系列信号から、決定論的性質を単純な非線形信号モデルとして導き出す解析手法であり、具体的には、非線形、非定常な波形信号から自己相関性(傾向)を持った力学運動の軌跡を可視化(アトラクタ再構成)し、その傾向特性を定量化する手法である。
【0054】
本発明に係る実験で用いられる民生用ボードコントローラから得られたデータは、計測時に接地面から伝搬する様々なノイズを含んでおり、かつ低解像度である。このようなノイズが多く含まれている低解像度の重心動揺データに対しても、傾向特性の分析を行う時系列カオス解析手法は有効であると考えられるが、本発明に係る実験に先立って、まず、このようなノイズが多く含まれている重心動揺データからのアトラクタ再構成の可否について調べる予備実験を行った。具体的には、民生用ボードコントローラを使用して30(Hz)のサンプリングレートで計測した足踏み動作の重心動揺データに対してターケンスの埋め込み定理を使用し、図11に図示されているように、時系列データを空間ベクトルP(埋め込みベクトルP)として、良好なアトラクタを再構成するためのパラメータ(埋め込み次元数n、埋め込み遅延時間τ)を探索した。なお、図11のイメージ図では、3次元の遅延空間をXYZの観測点とし、P1、P2、P3の順にプロット移動したときの軌跡がアトラクタとなる。
【0055】
その結果、埋め込み次元数を4、埋め込み遅延時間を30(s)とした場合に、再構成されたアトラクタをある平面上に投影した写像が、図12に図示されているような六角形状となった。この結果から、広い帯域において様々なノイズが多く含まれているデータに対してアトラクタの再構成が可能であることが確認できた。なお、見つけ出されたアトラクタは、足踏み運動時の運動モーメントの傾向特性を視覚的に表現していることとなる。
【0056】
本発明に係る実験では、30代から70代の被験者13名に民生用ボードコントローラ上で3分間の足踏み運動を行わせ、足踏み姿勢時の被験者の左右方向をX軸、前後方向をY軸とした重心位置データを記録して、この重心位置データから重心移動ベクトルを算出した。そして、各被験者の重心移動ベクトルのX軸成分及びY軸成分それぞれに対し、上記の予備実験で得られたパラメータ(埋め込み次元数4、埋め込み遅延時間30(s))を用いてアトラクタの再構成を行った。X軸成分についてはアトラクタの再構成が可能であり、図13には、得られたアトラクタの代表的な形状が図示されている。なお、図13の右下に示すアトラクタは、脳梗塞半身不随者に係る重心移動ベクトルから再構成されたものであり、他者の形状とは異なり著しく歪んでいた。その他のアトラクタは歪みながらも六角形状に近いアトラクタ形状となり、傾向特性が抽出できた。
【0057】
また、図14に模式的に図示されているように、力学系において接近した軌道が離れていく度合いを表す量としてリャプノフ指数が用いられる。図14のイメージ図には、アトラクタ重畳時の写像空間における時系列の点軌跡を、d1からd3の超球サイズ範囲内で軌道を描く運動のみを対象に軌道離散を計算する様子が図示されている。
【0058】
本発明に係る実験では、アトラクタとして表現された時系列データの傾向特性の軌道不安定性の度合いをリャプノフ指数で示している。ここでは、リャプノフ指数の計算にリアルタイム性を考慮したSano-Sawada法を用い、超球サイズ、近傍点数、発展時間係数をパラメータとしてリャプノフ指数を調整した。具体的には、超球サイズを0.1、近傍点数を20、発展時間係数を30とし、Sano-Sawada法を用いてリャプノフ指数の値の計算を行った。その結果推定されたリャプノフ指数の値を縦軸、被験者の年齢を横軸としたグラフを図15に示す。この結果からリャプノフ指数と年齢との相関はなく、加齢と共に発散する傾向が見られることから、このアトラクタ形状(六角形状)は生体ゆらぎの脳活性傾向を示すものではないと考えられる。しかしながら、一方で、上述のように脳梗塞半身不随者のアトラクタは著しく歪んでいることから、このアトラクタ形状は運動モーメントの安定傾向を示すものであると考えられる。したがって、上記の運動特徴量解析で使用したパラメータを用いた解析は、足踏み運動に関わる整形外科的な異常をアトラクタ形状によって視覚的に、あるいは、リャプノフ指数によって定量的に視覚的に把握するのに有効であると考えられる。
【0059】
また、上記の運動特徴量解析結果を踏まえ、ターケンスの埋め込み定理を利用して、運動特徴量として有効なアトラクタを再構成するための別のパラメータの探索を新たに行った。その結果、埋め込み次元数4、埋め込み遅延時間8(s)のときに、重心移動ベクトルのX軸成分について、すべての被験者のデータから一様に蝶型のアトラクタが確認された。図16は、年代毎の代表的なアトラクタ形状を示す図であり、(a)30代、(b)40代、(c)50代、(d)60代以上健常者、(e)60代以上非健常者の被験者の重心移動ベクトルから得られたアトラクタ形状の一例が図示されている。図16に図示されているように、この蝶型のアトラクタ形状では、加齢と共に歪み破れが大きくなっている傾向が確認できた。また、歩行障害を持つ高齢者の足踏み運動から抽出されたアトラクタ(図16の(e))には、著しい歪みが観察できた。
【0060】
次に、X軸成分の再構成されたアトラクタから、超球サイズを0.08、近傍点数を20、発展時間係数を30としてSano-Sawada法を用いて推定したリャプノフ指数を縦軸とし、被験者の年齢を横軸としたグラフを図17に示す。被験者の母数が少なかったことから、この結果からは強い相関は確認できなかったが、加齢と共にリャプノフ指数が小さくなる傾向は確認できた。また、再構成されたアトラクタの安定性の指標としてDFAにより算出したスケーリング指数を縦軸とし、被験者の年齢を横軸としたグラフを図18に示す。この結果によれば、加齢と共にスケーリング指数が高くなる傾向が確認できた。
【0061】
このように、上記の運動特徴量解析で使用したパラメータ(埋め込み次元数4、埋め込み遅延時間8(s))を用いた場合には、重心移動ベクトルのX軸成分のアトラクタの写像が、すべての被験者について一様な蝶型となったことから、足踏み運動に関する有用な傾向特性を抽出することができたと考えられる。また、再構成されたアトラクタから推定されたリャプノフ指数は、加齢に伴って低下傾向にあることが確認できた。従って、各被験者の重心移動ベクトルから抽出されたリャプノフ指数は脳活性傾向を示す定量的な指標として有効であり、上述のように、例えば脳活性傾向を示す脳機能年齢としてマッピングすることで、各被験者の脳機能に係る特徴量を評価値として特定することができると考えられる。また、脳活性度と認知能力は相関があることから、本手法で求められたリャプノフ指数は、認知症を診断するための定量的な指標となり得ると思われる。さらに、DFAにより算出されたスケーリング指数については加齢に伴って増加する傾向が見られ、年齢が高いほど整形外科的な運動モーメントのぶれが大きいことが分かった。また、歩行障害を持つ被験者のアトラクタは、その写像が他の被験者と比較して視覚的に著しい歪みがあることも確認できた頃から、本手法は整形外科的な検査の定量的指標としても用いることができると考えられる。
【0062】
以上のように、本発明に係る実験によって、非常に簡素なセンサ(例えば、民生用ボードコントローラ)から得られる様々なノイズが含まれたデータ(例えば、重心動揺データ)であっても、カオス力学系の計算技術を用いて解析を行うことによって、アトラクタに基づいて推定されたリャプノフ指数から生体ゆらぎの不安定性(脳活性度)を把握できることが確認された。
【0063】
また、本発明に係る実験によって、再構成されたアトラクタ(アトラクタの歪みの度合い)から運動モーメントの安定性を把握できる可能性があることも分かった。また、本発明の時系列カオス解析の手法として、特に、ターケンスの埋め込み定理を用いたアトラクタ再構成のパラメータ(埋め込み次元数、埋め込み遅延時間)の探索、Sano-Sawada法を用いたリャプノフ指数の算定(超球サイズ、近傍点数、発展時間点数をパラメータとして調整)が適用できることが確認された。また、本発明に係る実験から、DFAにより算出されたスケーリング指数が被験者の年齢(年代)の推測に有用であることが確認された。
【0064】
なお、上記本発明の実験では、民生用ボードコントローラによるデータ収集と同時に、3次元センサ(例えば、ゲーム用の3次元モーションセンサ)からのデータを収集して被験者の骨格動作(身体姿勢)を推定し、骨格動作の推定結果と重心動揺計から得られた情報(アトラクタ、DFA、評価値(脳機能年齢)など)をタブレットコンピュータ上に表示する試みも行われた。
【0065】
また、民生用ボードコントローラから得られた重心動揺データ、あるいは、いったん計測が完了して記録された推進動揺データから、アトラクタを再構成する際に、図19に図示されているように、リャプノフ指数、DFAのスケーリング指数、アトラクタの形状やリャプノフ指数などから得られる評価値(脳機能年齢)をリアルタイムに1画面に表示することで、ユーザの視認性を向上させるとともに利便性の高い表示画面を実現してもよい。さらに、3次元センサによって収集されたデータに基づく被験者の骨格動作やその他の生体情報(例えば、脈拍情報など)を同期して表示させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、被験者の身体能力を効率的に判定することができるという効果、脳機能劣化と整形劣化を同時計測でき、かつ、低コストで簡便なシステムを構築できるという効果を有しており、被験者の身体能力の評価を行う技術、及び、被験者の身体能力の評価結果に基づいて機能回復の施術を行う医療技術に適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
100 身体能力判定装置
110 運動特徴量観測部
120 身体能力判定部
121 脳機能判定部
122 整形判定部
130 基準情報格納部
140 DFA解析部
191 身体状態計測センサ
192 モニタ/スピーカ
700 荷重センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の身体の状態を判定する身体能力判定装置であって、
前記被験者の身体の動きを計測する身体状態計測センサから供給されるセンシング情報に基づいて、前記被験者の身体の動きの特徴を示す運動特徴量を算出する運動特徴量観測部と、
前記運動特徴量と身体能力の評価値との対応を特定するための基準情報を格納する基準情報格納部と、
前記基準情報格納部に格納されている前記基準情報に基づいて、前記運動特徴量観測部で算出された前記被験者の運動特徴量から、前記被験者の身体能力を示す評価値を特定する身体能力判定部とを、
有する身体能力判定装置。
【請求項2】
前記運動特徴量から特定されるリャプノフ指数と身体能力の評価値との対応が前記基準情報に記載されており、
前記身体能力判定部が、前記被験者の運動特徴量からカオス力学系の計算技術を用いて発散性を示すリャプノフ指数を算出し、前記基準情報に基づいて、前記被験者のリャプノフ指数から前記被験者の身体能力を示す評価値を特定するよう構成されている請求項1に記載の身体能力判定装置。
【請求項3】
前記基準情報格納部に複数の基準情報が格納されており、
前記センシング情報に基づいて、トレンド除去変動解析法を利用した解析によりスケーリング指数を算出するトレンド除去変動解析部を有し、
前記身体能力判定部が、前記トレンド除去変動解析部で算出された前記スケーリング指数に応じた基準情報を選択し、前記選択された基準情報に基づいて、前記被験者の身体能力を示す評価値を特定するよう構成されている請求項1又は2に記載の身体能力判定装置。
【請求項4】
前記運動特徴量が、時系列カオス解析によって得られるアトラクタである請求項1から3のいずれか1つに記載の身体能力判定装置。
【請求項5】
ターケンス埋め込み定理を用いて前記アトラクタを再構成するためのパラメータを探索する請求項4に記載の身体能力判定装置。
【請求項6】
再構成された前記アトラクタから、前記Sano-Sawada法を用いて前記リャプノフ指数を推定する請求項4又は5に記載の身体能力判定装置。
【請求項7】
前記身体状態計測センサとして民生用ボードコントローラを用いる請求項1から6のいずれか1つに記載の身体能力判定装置。
【請求項8】
前記運動特徴量として用いられる時系列カオス解析によって得られるアトラクタと、トレンド除去変動解析法を利用した解析によって得られるスケーリング指数と、前記被験者の運動特徴量から特定される前記被験者の身体能力を示す前記評価値とを、リアルタイムに1つの表示画面内に表示する請求項1から7のいずれか1つに記載の身体能力判定装置。
【請求項9】
被験者の身体の状態を判定する身体能力判定方法であって、
前記被験者の身体の動きを計測する身体状態計測センサから供給されるセンシング情報に基づいて、前記被験者の身体の動きの特徴を示す運動特徴量を算出する運動特徴量観測ステップと、
前記運動特徴量と身体能力の評価値との対応を特定するための基準情報に基づいて、前記運動特徴量観測ステップで算出された前記被験者の運動特徴量から、前記被験者の身体能力を示す評価値を特定する身体能力判定ステップとを、
有する身体能力判定方法。
【請求項10】
前記運動特徴量から特定されるリャプノフ指数と身体能力の評価値との対応が前記基準情報に記載されており、
前記身体能力判定ステップにおいて、前記被験者の運動特徴量からカオス力学系の計算技術を用いて発散性を示すリャプノフ指数を算出し、前記基準情報に基づいて、前記被験者のリャプノフ指数から前記被験者の身体能力を示す評価値を特定する請求項9に記載の身体能力判定方法。
【請求項11】
前記センシング情報に基づいて、トレンド除去変動解析法を利用した解析によりスケーリング指数を算出するトレンド除去変動解析ステップを有し、
前記身体能力判定ステップにおいて、前記トレンド除去変動解析ステップで算出された前記スケーリング指数に応じた基準情報を複数の基準情報の中から選択し、前記選択された基準情報に基づいて、前記被験者の身体能力を示す評価値を特定する請求項9又は10に記載の身体能力判定方法。
【請求項12】
前記運動特徴量が、時系列カオス解析によって得られるアトラクタである請求項9から11のいずれか1つに記載の身体能力判定方法。
【請求項13】
ターケンス埋め込み定理を用いて前記アトラクタを再構成するためのパラメータを探索する請求項12に記載の身体能力判定方法。
【請求項14】
再構成された前記アトラクタから、前記Sano-Sawada法を用いて前記リャプノフ指数を推定する請求項12又は13に記載の身体能力判定方法。
【請求項15】
前記身体状態計測センサとして民生用ボードコントローラを用いる請求項9から14のいずれか1つに記載の身体能力判定方法。
【請求項16】
前記運動特徴量として用いられる時系列カオス解析によって得られるアトラクタと、トレンド除去変動解析法を利用した解析によって得られるスケーリング指数と、前記被験者の運動特徴量から特定される前記被験者の身体能力を示す前記評価値とを、リアルタイムに1つの表示画面内に表示する請求項9から15のいずれか1つに記載の身体能力判定方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−213624(P2012−213624A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−73856(P2012−73856)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1 研究集会名 2011年秋季学術講演会 主催者名 公益社団法人 自動車者技術会 開催日 平成23年10月12日、13日、14日 2 掲載年月日 平成24年2月14日 掲載アドレス http://www.interaction−ipsj.org/2012/catalogue/catalogue_interactive2.html 3 研究集会名 インタラクション2012 主催者名 一般社団法人 情報処理学会 開催日 平成24年3月15日、16日、17日
【出願人】(502324066)株式会社デンソーアイティーラボラトリ (332)
【Fターム(参考)】