説明

車上装置及び列車進行制御システム

【課題】信号機の現示変更に即した速度照査パターンの更新を実現する新たな手法の提案。
【解決手段】各駅に設置された地上装置30は、各駅の信号機の現示や位置、隣駅の信号機の位置を、随時、送出している。そして、この地上装置30の通信可能範囲32内に到達した列車40に搭載された車上装置50は、該地上装置30から、次に通過する信号機の現示と、その次に通過する信号機の位置とを受信し、現在位置から、その次に通過する信号機の位置の手前で停止させるような速度照査パターンを作成・更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、停車場毎に当該停車場の場内信号機の信号現示を無線により発信する地上装置が設置された軌道を走行する列車に搭載された車上装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
列車の制限速度などに対して走行速度が超過していないかをチェックし、ブレーキ制御を行う列車運転制御として、ATC(Automatic Train Control)やATS(Automatic Train Stop)等が知られている。例えば、ATSの一種であるATS−Pシステムでは、車上装置が地上子から前方信号機の現示と前方信号機までの距離とを受信し、車上で速度照査パターンを作成してブレーキ制御を行う。
【0003】
しかし、このシステムでは、次の地上子から情報を取得するまでの間は、最新の情報が得られない。そこで、地上子から情報を取得した後に前方信号機の現示が変化した場合にも対応可能とする技術として、特許文献1の技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−1163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、車上装置が次の信号機との間で無線交信を行って次の信号機までの距離を測定(無線測距)し、測定した距離に基づいて速度照査パターンを作成する技術であるため、幾つかの問題がある。例えば、車上装置と次の信号機との間で互いの通信を確立した上で距離を測定する必要があるため、通信装置や通信時間等に制約が生じ得る。また、測定される距離は直線距離となってしまう。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、目的とするところは、信号機の現示変化に即した速度照査パターンの更新を実現する新たな手法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の形態は、
当該停車場の場内信号機(例えば、図2,3の場内信号機12A)の信号現示情報(以下「場内信号現示情報」という)と、当該停車場の出発信号機(例えば、図2,3の出発信号機14A)の信号現示情報(以下「出発信号現示情報」という)と、当該停車場の出発信号機(図2,3の出発信号機14A)の位置情報(以下「出発信号機位置情報」という)と、次の停車場の場内信号機(図2,3の場内信号機12B)の位置情報(以下「次の場内信号機位置情報」という)とを無線により発信する地上装置(例えば、図1の地上装置30)が停車場毎に設置された軌道を走行する列車(例えば、図1の列車40)に搭載された車上装置(例えば、図1の車上装置50)であって、
前記地上装置から、前記場内信号現示情報、前記出発信号現示情報、前記出発信号機位置情報及び前記次の場内信号機位置情報を受信する受信手段(例えば、図7の車上無線通信部520)と、
停車場内を走行する際に、当該停車場に設置された前記地上装置から前記受信手段により受信された前記出発信号現示情報にもとづいて、速度照査パターンを作成するか否かを判定する作成判定手段(例えば、図7の速度照査パターン作成部512)と、
前記作成判定手段により肯定判定された場合に、前記受信手段により受信された前記次の場内信号機位置情報にもとづき速度照査パターンを作成する作成手段(例えば、図7の速度照査パターン作成部512)と、
停車場間を走行し、次の停車場に設置された地上装置の通信圏内に到達した際に、当該次の停車場に設置された地上装置から前記受信手段により受信された前記場内信号現示情報にもとづいて、前記速度照査パターンを更新するか否かを判定する更新判定手段(例えば、図7の速度照査パターン作成部512)と、
前記更新判定手段により肯定判定された場合に、前記受信手段により受信された前記出発信号機位置情報にもとづき速度照査パターンを作成して更新する更新手段(例えば、図7の速度照査パターン作成部512)と、
を備えた車上装置である。
【0008】
この第1の形態によれば、地上装置は、対応する停車場の場内信号現示情報、出発信号現示情報及び出発信号機位置情報と、次の停車場の場内信号機位置情報とを無線により発信している。そして、車上装置は、停車場内を走行する際に、当該停車場に設置された地上装置から受信した出発信号現示情報にもとづいて速度照査パターンを作成するか否かを判定し、作成すると判定した場合に、当該停車場に設置された地上装置から受信した場内信号機位置情報にもとづいて速度照査パターンを作成する。更に、車上装置は、次の停車場の通信圏内に到達した際に、当該次の停車場に設置された地上装置から受信した場内信号現示情報に基づいて速度照査パターンを更新するか否かを判定し、更新すると判定した場合に、当該次の停車場に設置された地上装置から受信した出発信号機位置情報に基づいて速度照査パターンを作成・更新する。従って、地上装置から情報を受信できない場合はもとより、情報を受信して速度照査パターンを更新する必要がないと判定された場合(例えば停止現示の場合)には、元の速度照査パターン(次の場内信号機位置情報に基づく速度照査パターン)に従って走行速度が制御される。
【0009】
また、第2の形態は、第1の形態の車上装置であって、
隣接する停車場間における所与の地点の通過速度や運転規制を含む運転諸情報を送信する前記地上装置と同一又は別体の伝送装置から、前記運転諸情報を受信する運転諸情報受信手段を更に備え、
前記作成手段は、前記運転諸情報を考慮した速度照査パターンを作成し、
前記更新手段は、前記運転諸情報を考慮した速度照査パターンを作成する、
車上装置である。
【0010】
この第2の形態によれば、車上装置は、隣接する停車場間における所与の地点の通過速度や運転規制を含む運転諸情報を伝送装置から受信することができるため、運転諸情報に従った適切な速度照査パターンを作成することができる。伝送装置は、例えば、駅に設置される駅伝送装置や、第1の形態の地上装置と一体の装置である。
【0011】
第1及び第2の形態を説明したが、更に、
停車場毎に設置され、場内信号現示情報と出発信号機位置情報と次の場内信号機位置情報とを無線により発信する地上装置と、車上装置とを具備する列車進行制御システム(例えば、図1の列車制御システム1)であって、
前記車上装置は、
前記地上装置から、前記場内信号現示情報、前記出発信号現示情報、前記出発信号機位置情報及び前記次の場内信号機位置情報を受信する受信手段と、
停車場内を走行する際に、当該停車場に設置された前記地上装置から前記受信手段により受信された前記出発信号現示情報にもとづいて、速度照査パターンを作成するか否かを判定する作成判定手段と、
前記作成判定手段により肯定判定された場合に、前記受信手段により受信された前記次の場内信号機位置情報にもとづき速度照査パターンを作成する作成手段と、
停車場間を走行し、次の停車場に設置された地上装置の通信圏内に到達した際に、当該次の停車場に設置された地上装置から前記受信手段により受信された前記場内信号現示情報にもとづいて、前記速度照査パターンを更新するか否かを判定する更新判定手段と、
前記更新判定手段により肯定判定された場合に、前記受信手段により受信された前記出発信号機位置情報にもとづき速度照査パターンを作成して更新する更新手段と、
備えた、
列車進行制御システムを構成することとしても良いのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】列車制御システムの概略構成図。
【図2】駅停車時の速度照査パターンの作成・更新の説明図。
【図3】駅接近時の速度照査パターンの作成・更新の説明図。
【図4】地上装置の機能構成図。
【図5】地上装置が送出するデータの説明図。
【図6】信号機位置データのデータ構成例。
【図7】車上装置の機能構成図。
【図8】現在駅データのデータ構成例。
【図9】次駅データのデータ構成例。
【図10】走行制御処理のフローチャート。
【図11】複数の場内信号機が設置される場合の説明図。
【図12】駅間に閉塞信号機が設置される場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[全体構成]
図1は、本実施形態の列車制御システム1の概略構成図である。なお、図1では、説明の簡明のため、駅間で1つの閉塞を形成する場合について示している。図1に示すように、列車制御システム1では、地上設備として、停車場である各駅(図1では、A駅及びB駅)に、該駅への列車の進入を規制する場内信号機12と、該駅からの列車の出発を規制する出発信号機14と、駅連動装置20と、地上装置30とが設置されている。
【0014】
駅連動装置20は、該駅構内の列車の安全な進路構成の確保のため、駅構内に設置された場内信号機12や出発信号機14等の信号機相互間や、これら信号機と転てつ機との間に連鎖を設け、フェールセーフを実現する装置である。
【0015】
地上装置30は、無線機能を実装しており、その通信可能範囲(通信圏内)32は、該装置が設置された駅構内(設置駅)を含み、更に、該駅の場内信号機12の手前所定距離(例えば、100m)を含む範囲となっている。また、地上装置30は、駅連動装置20と通信接続されており、駅連動装置20を介して、該駅に設置された各信号機(場内信号機12及び出発信号機14)の信号現示を、随時、取得している。そして、地上装置30は、駅連動装置20から取得した該駅内の各信号機(場内信号機12及び出発信号機14)の現在の信号現示と、予め記憶された該駅や隣駅の各信号機の位置(建植キロ程)とを、随時、無線により送出(発信)している。
【0016】
更に、地上装置30は、該駅から隣駅までの区間に関する運転諸情報を、随時、無線により送出している。ここで、運転諸情報には、該当区間に定められた運転規制(位置を含む)、通過速度、気象条件や地上工事等で発生する臨時の速度規制等が含まれる。この運転諸情報は、例えば、鉄道事業者の事業所等に設置されて線区全体を統括管理する中央管理装置から直接取得されたり、或いは、この中央管理装置と通信接続されて各駅に配置される駅伝送装置(不図示)を介して取得される。なお、運転諸情報は、地上装置30ではなく、各駅に設置される駅伝送装置(不図示)が送出することとしても良い。
【0017】
また、車上設備として、軌道Rを走行する列車40には、車上装置(ATS車上装置)50が搭載されている。車上装置50は、無線通信機能を実装しており、地上装置30の通信可能範囲32内に位置している場合、該地上装置30との無線通信を行うことができる。また、上述の駅伝送装置との無線通信も可能である。
【0018】
また、車上装置50は、速度照査パターンを用いた速度制御を行う。具体的には、現在の走行速度が速度照査パターンで定められる照査速度を超えると、自動的にブレーキをかけて減速させる、公知の速度制御を行う。また、車上装置50は、駅に接近して該駅に設置されている地上装置30の通信可能範囲32に達すると、該地上装置30から、信号機情報や運転諸情報を受信する。そして、地上装置30からの受信データに基づいて、速度照査パターンを更新する。
【0019】
図2,図3は、車上装置50における速度照査パターンの更新を説明する図である。図2は、列車40がA駅に停車中の場合である。この場合、列車40の車上装置50では、A駅の地上装置30Aから、A駅の出発信号機14Aの信号現示(出発信号現示情報)と、隣駅であるB駅の場内信号機12Bの位置(次の場内信号機位置情報。建植キロ程で表現されている)とを含む信号機情報を受信する。
【0020】
すると、車上装置50では、受信した信号機情報をもとに、現在の停止位置から、B駅の場内信号機12Bの手前(例えば、数m手前)に停止させて冒進防護を確保した速度照査パターンを作成する。このとき、信号機情報とともに受信した運転諸情報に基づいて、定められた制限速度を超えないよう、速度照査パターンを作成する。
【0021】
そして、A駅の出発信号機14Aの進行現示に従い、列車40は、進行方向の隣駅(次駅)であるB駅に向けて走行を開始する。このとき、作成した速度照査パターンを用いた速度制御が行われる。
【0022】
続いて、図3に示すように、列車40が次駅であるB駅に接近し、このB駅の地上装置30Bの通信可能範囲32Bに進入する。そして、この地上装置30Bから、B駅の場内信号機12Bの信号現示(場内信号現示情報)と、B駅の出発信号機14Bの位置(出発信号機位置情報。建植キロ程で表現されている)とを含む信号機情報を受信すると、受信したB駅の場内信号機12Bの信号現示から、速度照査パターンを更新するか否かを判定する。
【0023】
すなわち、B駅の場内信号機12Bが「進行現示」ならば、速度照査パターンを更新する。具体的には、現在の走行位置から、B駅の出発信号機14Bの手前の所定位置(B駅での停止位置)を超える冒進防護のための速度照査パターンを作成し、新たな速度照査パターンとして更新する。そして、列車40は、走行を継続してB駅に進入し、出発信号機14Bの手前、すなわち、B駅における停止位置に停止する。
【0024】
一方、B駅の場内信号機12Bが「停止現示」ならば、速度照査パターンを更新せず、現時点の速度照査パターンに従って、B駅の場内信号機12Bの手前に停止する。次いで、場内信号機12Bが「停止現示」から「進行現示」に変化した後、その停止位置から、B駅の出発信号機14Bの手前の所定位置(すなわち、B駅での停止位置)を超える冒進防護を確保した新たな速度照査パターンを作成・更新する。
【0025】
そして、更新作成した速度照査パターンで走行を開始してB駅に進入し、出発信号機14Bの手前、すなわち、B駅における停止位置に停止する。このとき、更新に基づいた速度照査パターンで速度制御を行う。
【0026】
以降は、図2に示した、A駅での停止中の場合と同様に、B駅に設置された地上装置30Bから受信した信号機情報等に基づいて、次駅の場内信号機12までの速度照査パターンの作成・更新を行う。
【0027】
[機能構成]
(A)地上装置30
図4は、地上装置30の機能構成を示すブロック図である。図4によれば、地上装置30は、機能的には、地上処理部310と、地上無線通信部320と、地上記憶部330とを備えて構成される。
【0028】
地上処理部310は、例えばCPU等の演算装置で実現され、地上記憶部330に記憶されたプログラムやデータ、地上無線通信部320を介した受信データ等に基づいて、地上装置30の全体制御を行う。本実施形態では、地上処理部310は、該装置の通信可能範囲32内に、該駅や隣接駅それぞれに設置されている信号機の信号現示や位置(建植キロ程)の情報(信号機情報)を、随時送出する。
【0029】
ところで、列車の進行方向には、通常、上り及び下りの二種類が存在し、各方向の列車に対する信号機情報を送出する必要がある。
【0030】
図5は、駅構内の配置の一例を示す図である。図5に示す駅(A駅)には、それぞれ1本の下り線と上り線とが設けられている。そして、上り列車40uに対する信号機として、上り場内信号機12u、及び、上り出発信号機14uが設置されているとともに、下り列車40dに対する信号機として、下り場内信号機12d、及び、下り出発信号機14dが設置されている。
【0031】
従って、この場合、地上処理部310は、信号機情報として、該駅(A駅)に進入してくる上り列車40uに対する、上り場内信号機12uの信号現示及び上り出発信号機14uの位置(建植キロ程)を含む信号機情報(A)と、該駅(A駅)に停止中の上り列車40uに対する、上り出発信号機14uの信号現示及び次駅(図5では、B駅)の上り場内信号機12の位置(建植キロ程)を含む信号機情報(B)と、該駅(A駅)に進入してくる下り列車40dに対する、下り場内信号機12dの信号現示及び下り出発信号機14dの位置(建植キロ程)を含む信号機情報(C)と、該駅に停止中の下り列車40dに対する、下り出発信号機14dの現示及び次駅(図5では、Z駅)の下り場内信号機12の位置(建植キロ程)を含む信号機情報(D)との4種類の信号機情報(A)〜(D)を、例えば、順に繰り返し送出する。
【0032】
地上無線通信部320は、例えば、列車防護の目的毎に光無線やスペクトラム拡散方式の無線通信を含めた無線通信装置で実現され、通信可能範囲(通信圏内)32内に向けてデータを発信する。
【0033】
地上記憶部330は、ROMやRAM、ハードディスク等の記憶装置で実現され、地上処理部310が地上装置30を統合的に制御するためのシステムプログラムや、各種機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、地上処理部310の作業領域として用いられ、地上処理部310が実行した演算結果や、地上無線通信部320による受信データ等が一時的に格納される。本実施形態では、地上記憶部330には、信号機位置データ331と、運転諸情報332とが記憶される。
【0034】
信号機位置データ331は、該駅や隣駅に設置されている各信号機の位置のデータである。図6は、信号機位置データ331のデータ構成の一例を示す図である。図6に示すように、信号機位置データ331は、該駅(A駅)に設置された上り場内信号機12uの位置、上り出発信号機14uの位置、下り場内信号機12dの位置、及び、下り出発信号機14dの位置と、上り方向の次駅(B駅)に設置された上り場内信号機12uの位置と、下り方向の次駅(Z駅)に設置された下り場内信号機12dの位置とを格納している。なお、信号機の位置は全て建植キロ程で表現されている。
【0035】
(B)車上装置50
図7は、車上装置50の機能構成を示すブロック図である。図7によれば、車上装置50は、機能的には、車上処理部510と、車上無線通信部520と、車上記憶部530とを備えて構成される。
【0036】
車上処理部510は、例えばCPU等の演算装置で実現され、車上記憶部530に記憶されたプログラムやデータ、地上無線通信部320を介した受信データ等に基づいて、車上装置50の全体制御を行う。本実施形態では、車上処理部510は、列車位置算出部511と、速度照査パターン作成部512と、速度制御部513とを有する。
【0037】
列車位置算出部511は、例えば、車軸に取り付けられた速度発電機の回転数を計数することで、列車40の現在の走行位置(列車位置:キロ程で表現されている)を算出する。また、列車が走行中は、軌道Rに沿って配置された誤差補正器(不図示)と無線通信を行うことで、現在の列車位置を、適宜、補正する。列車位置算出部511によって算出された列車位置は、列車位置データ534として記憶される。
【0038】
速度照査パターン作成部512は、地上装置30から受信した信号機情報をもとに、速度照査パターンの作成・更新を行う。この速度照査パターン作成部512が、作成判定手段、作成手段、更新判定手段、及び、更新手段に相当する。具体的には、図2に示したように、列車40が駅に停止中、該駅の地上装置30から、次駅の場内信号機12の位置を受信したならば、この次駅の場内信号機12の手前で停止するような速度照査パターンを作成し、新たな速度照査パターンとして更新する。
【0039】
また、図3に示したように、列車40が走行して次駅に接近し、該次駅の地上装置30から、該次駅の場内信号機12の信号現示及び出発信号機14の位置を受信したならば、この次駅の場内信号機12の信号現示によって、速度照査パターンを更新するか否かを判定する。
【0040】
すなわち、次駅の場内信号機12が「進行現示」ならば、速度照査パターンを更新すると判定する。そして、現在の走行位置から、次駅の出発信号機14の手前(外方)の所定位置で停止させる速度照査パターンを作成し、新たな速度照査パターンとして更新する。なお、「進行現示」でなくとも、場内信号機12の内方への進入が可能な現示(例えば、「注意現示」)であれば、速度照査パターンを更新すると判定して良い。
【0041】
一方、場内信号機12の信号現示が、場内信号機12の内方への進入が禁止される現示例えば「停止現示」ならば、速度照査パターンを更新しないと判定する。この場合、場内信号機12が「進行現示」に変化した後、速度照査パターンを更新する。
【0042】
速度照査パターン作成部512により作成された速度照査パターンは、速度照査パターンデータ531として記憶される。
【0043】
速度制御部513は、速度照査パターン作成部512により作成された速度照査パターン(速度照査パターンデータ531)を用いて、該列車40の走行速度を制御する。具体的には、ブレーキ制御を行う。
【0044】
車上無線通信部520は、例えば、列車防護の目的毎に光通信やスペクトラム拡散方式の無線通信を含む無線通信装置で実現され、地上装置30からデータ受信を行う等の外部装置との無線通信を行う。この車上無線通信部520が、第1の受信手段、及び、第2の受信手段に相当する。
【0045】
車上記憶部530は、ROMやRAM、ハードディスク等の記憶装置で実現され、車上処理部510が車上装置50を統合的に制御するためのシステムプログラムや、各種機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、車上処理部510の作業領域として用いられ、車上処理部510が実行した演算結果や、車上無線通信部520による受信データ等が一時的に格納される。本実施形態では、車上記憶部530には、速度照査パターンデータ531と、現在駅データ532と、次駅データ533と、列車位置データ534とが記憶される。
【0046】
現在駅データ532は、地上装置30から受信した、現在駅に設置されている各信号機の信号現示やその設置位置のデータである。ここで、「現在駅」とは、列車40が現在位置している駅、或いは、駅間を走行中の場合には最後に到着した駅である。
【0047】
図8は、現在駅データ532のデータ構成の一例を示す図である。図8に示すように、現在駅データ532には、現在駅の場内信号機12の位置及び信号現示と、出発信号機14の位置及び信号現示とが含まれている。
【0048】
次駅データ533は、地上装置30から受信した、次駅に設置されている各信号機の信号現示やその設置位置のデータである。
【0049】
図9は、次駅データ533のデータ構成の一例を示す図である。図9に示すように、次駅データ533には、次駅の場内信号機12の位置及び信号現示と、出発信号機14の位置とが含まれる。
【0050】
[処理の流れ]
図10は、車上装置50において車上処理部510が実行する走行制御処理を説明するフローチャートである。なお、初期状態として、列車40が始発駅に停止中であるとする。
【0051】
図10によれば、車上処理部510は、先ず、停止中の駅の地上装置30から、該駅の出発信号機14の現示、及び、次駅の場内信号機12の位置を受信する(ステップA1)。そして、該駅の出発信号機14が「進行現示」になったならば(ステップA3:YES)、速度照査パターン作成部512が、受信した次駅の場内信号機12の位置をもとに、列車40の現在の停止位置から、次駅の場内信号機12の手前に停止させる速度照査パターンを作成し、新たな速度照査パターンとして更新する(ステップA5)。その後、走行を開始する。このとき、速度照査パターンを用いた速度制御(ATS制御)を行う(ステップA7)。
【0052】
続いて、走行中に次駅に接近して該次駅の地上装置30の通信可能範囲32内に位置すると(ステップA9:YES)、該次駅の地上装置30から、次駅の場内信号機12の現示、及び、出発信号機14の位置を受信する(ステップA11)。そして、受信した次駅の場内信号機12が「進行現示」ならば(ステップA13:YES)、速度照査パターン作成部512が、現在の走行位置から、次駅の出発信号機14の手前で停止させる速度照査パターンを作成し、新たな速度照査パターンとして更新する(ステップA15)。
【0053】
一方、次駅の場内信号機が「停止現示」ならば(ステップA13:NO)、現在の速度照査パターンを用いた走行制御を継続する。続いて、次駅の場内信号機12の手前に停止したか否かを判定し、停止していないならば(ステップA17:NO)、ステップA13に戻る。停止したならば(ステップA17:YES)、次駅の場内信号機12が「進行現示」となるまで待機する。そして、次駅の場内信号機12が「進行現示」となったならば(ステップA19:YES)、速度照査パターン作成部512が、停止位置から、次駅の出発信号機14の手前の所定位置(駅における停止位置)に停止させるような速度照査パターンを作成し、新たな速度照査パターンとして更新する(ステップA21)。その後、更新後の速度照査パターンを用いた走行制御を開始する(ステップA23)。
【0054】
そして、次駅に停止したならば(ステップA25:YES)、その次駅がダイヤ上の終着駅であるか否かを判断する。次駅が終着駅でないならば(ステップA27:NO)、ステップA1に戻り、次駅が終着駅ならば(ステップA27:YES)、本走行制御処理を終了する。
【0055】
[作用・効果]
このように、本実施形態によれば、各駅に設置された地上装置30は、各駅の信号機の現示や位置、隣駅の信号機の位置を、随時送出している。そして、この地上装置30の通信可能範囲32内に到達した列車40に搭載された車上装置50は、該地上装置30から、次に通過する信号機の現示と、その次に通過する信号機の位置とを受信し、現在位置から、その次に通過する信号機の位置の手前で停止させるような速度照査パターンを作成・更新する。つまり、その次の信号機の現示に関わらず、その次の信号機の手前で停止させる速度照査パターンを作成することになり、これにより、冒進防護が確保された走行制御が実現される。
【0056】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0057】
(A)停車場
例えば、上述の実施形態では、停車場の一例として駅について説明したが、信号場や操車場についても同様に適用可能である。
【0058】
(B)信号機の数及び種類
また、上述の実施形態では、各駅において、上り/下りの方向それぞれに1つづつの場内信号機12及び出発信号機14が設置されているとしたが、設置される信号機の数及び種類はこれに限らない。
【0059】
例えば、図11は、複数の場内信号機12が設置される場合である。図11では、B駅に、2つの場内信号機12B−1,12B−2が設置されており、A駅からB駅に進入する列車40は、場内信号機12B−2,12B−1の順に通過する。
【0060】
この場合、A駅に停止している列車40では、地上装置30Aから、A駅の出発信号機14Aの信号現示と、B駅の場内信号機12B−2の位置とを受信し、出発信号機14Aの信号現示が「進行現示」に変化した後、現在の停止位置から、場内信号機12B−2の手前に停止させる速度照査パターンを作成する。
【0061】
そして、列車40がB駅に設置されている地上装置30Bの通信可能範囲32Bに到達すると、この地上装置30Bから、場内信号機12B−1,12B−2の信号現示と、場内信号機12B−1及び出発信号機14Bの位置とを受信する。次いで、場内信号機12B−1,12B−2の信号現示に応じて、速度照査パターンを再作成・更新する。すなわち、場内信号機12B−2の内方への進入が可能と判定される場合には、現在の走行位置から、場内信号機12B−1の手前に停止させる速度照査パターンを作成・更新するまた、場内信号機12B−1の内方への進入が可能ならば、現在の走行位置から、出発信号機14Bの手前の所定位置(すなわち、B駅における停止位置)に停止させる速度照査パターンを作成・更新する。
【0062】
また、図12は、駅間に閉塞信号機が設置される場合である。図12では、A駅とB駅との間に、閉塞信号機16が設置されている。
【0063】
この場合、A駅に停止している列車40では、地上装置30Aから、出発信号機14Aの信号現示と、閉塞信号機16の位置とを受信し、現在の停止位置から、閉塞信号機16の手前に停止させる速度照査パターンを作成・更新する。そして、列車40が閉塞信号機16に接近すると、閉塞信号機16の近傍に設置されている地上装置30から、閉塞信号機16の信号現示と、B駅の場内信号機12Bの位置とを受信し、現在の走行位置から、場内信号機12Bの手前に停止させる速度照査パターンを作成・更新する。
【符号の説明】
【0064】
1 列車制御システム
12(12A,12B,12B−1,12B−2,12u) 場内信号機、
14(14A,14B,14u) 出発信号機
20 駅連動装置
30(30A,30B) 地上装置、32(32A,32B) 通信可能範囲
310 地上処理部、320 地上無線通信部
330 地上記憶部
331 信号機位置データ、332 運転諸情報
40 列車
50 車上装置
510 車上処理部
511 列車位置算出部、512 速度照査パターン作成部、513 速度制御部
520 車上無線通信部
530 車上記憶部
531 速度照査パターンデータ、532 現在駅データ
533 次駅データ、534 列車位置データ
R 軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
停車場の場内信号機の信号現示情報(以下「場内信号現示情報」という)と、当該停車場の出発信号機の信号現示情報(以下「出発信号現示情報」という)と、当該停車場の出発信号機の位置情報(以下「出発信号機位置情報」という)と、次の停車場の場内信号機の位置情報(以下「次の場内信号機位置情報」という)とを無線により発信する地上装置が停車場毎に設置された軌道を走行する列車に搭載された車上装置であって、
前記地上装置から、前記場内信号現示情報、前記出発信号現示情報、前記出発信号機位置情報及び前記次の場内信号機位置情報を受信する受信手段と、
停車場内を走行する際に、当該停車場に設置された前記地上装置から前記受信手段により受信された前記出発信号現示情報にもとづいて、速度照査パターンを作成するか否かを判定する作成判定手段と、
前記作成判定手段により肯定判定された場合に、前記受信手段により受信された前記次の場内信号機位置情報にもとづき速度照査パターンを作成する作成手段と、
停車場間を走行し、次の停車場に設置された地上装置の通信圏内に到達した際に、当該次の停車場に設置された地上装置から前記受信手段により受信された前記場内信号現示情報にもとづいて、前記速度照査パターンを更新するか否かを判定する更新判定手段と、
前記更新判定手段により肯定判定された場合に、前記受信手段により受信された前記出発信号機位置情報にもとづき速度照査パターンを作成して更新する更新手段と、
を備えた車上装置。
【請求項2】
隣接する停車場間における所与の地点の通過速度や運転規制を含む運転諸情報を送信する前記地上装置と同一又は別体の伝送装置から、前記運転諸情報を受信する運転諸情報受信手段を更に備え、
前記作成手段は、前記運転諸情報を考慮した速度照査パターンを作成し、
前記更新手段は、前記運転諸情報を考慮した速度照査パターンを作成して更新する、
請求項1に記載の車上装置。
【請求項3】
停車場毎に設置され、場内信号現示情報と出発信号現示情報と出発信号機位置情報と次の場内信号機位置情報とを無線により発信する地上装置と、車上装置とを具備する列車進行制御システムであって、
前記車上装置は、
前記地上装置から、前記場内信号現示情報、前記出発信号現示情報、前記出発信号機位置情報及び前記次の場内信号機位置情報を受信する受信手段と、
停車場内を走行する際に、当該停車場に設置された前記地上装置から前記受信手段により受信された前記出発信号現示情報にもとづいて、速度照査パターンを作成するか否かを判定する作成判定手段と、
前記作成判定手段により肯定判定された場合に、前記受信手段により受信された前記次の場内信号機位置情報にもとづき速度照査パターンを作成する作成手段と、
停車場間を走行し、次の停車場に設置された地上装置の通信圏内に到達した際に、当該次の停車場に設置された地上装置から前記受信手段により受信された前記場内信号現示情報にもとづいて、前記速度照査パターンを更新するか否かを判定する更新判定手段と、
前記更新判定手段により肯定判定された場合に、前記受信手段により受信された前記出発信号機位置情報にもとづき速度照査パターンを作成して更新する更新手段と、
を備えた、
列車進行制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−9470(P2013−9470A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139007(P2011−139007)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】