説明

車両の噛合歯車装置

【課題】一対のはすば歯車から構成される車両の噛合歯車装置において、歯面摩耗を抑制しギヤノイズを抑制することができる車両の噛合歯車装置を提供する。
【解決手段】ドライブギヤ68の噛合い開始部の歯面が切り欠かれ、且つ、そのドライブギヤ68の歯面に形成されている凸曲面形状の頂点O2が切欠80(噛合い開始部)から離れた位置に設定されている。このようにすれば、噛合い開始部に相当する歯面に形成される切欠80によって、噛合い開始部の噛合をなくして歯面摩耗を抑制することができる。また、ドライブギヤ68の歯面68aに形成されている凸曲面形状の頂点O2が噛合い開始部から離れた位置に設定されるので、ギヤノイズ性能に必要な歯当たり82も確保することができるため、ギヤノイズの抑制が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に備えられて、互いに噛み合う一対のはすば歯車から構成される車両の噛合歯車装置に係り、特に、歯車噛合の噛合時に発生するギヤノイズおよび歯面摩耗を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に備えられて、互いに噛み合う一対のはすば歯車から構成される車両の噛合歯車装置がよく知られている。例えば、FFトランスミッションのデフギヤ(差動歯車装置)において、駆動側歯車であるファイナルドライブギヤ(ドライブギヤ)と被駆動側歯車であるファイナルドリブンギヤ(ドリブンギヤ)とは、互いにはすば歯車で構成されている。このような噛合歯車装置では、高負荷・高すべり速度で動力を伝達することが多く、ドライブギヤの歯元噛合い開始部において歯面摩耗が生じ易く、トロコイド干渉によっても歯面摩耗が生じ易くなる。この歯面摩耗が発生すると、歯面同士が噛み合う面積(接触面積)である歯当たりが悪化し、ギヤノイズの起振源となる噛合い伝達誤差が増加するため、ギヤノイズが大きくなる。なお、噛合い伝達誤差とは、歯車噛合時のドライブギヤの回転変位に対するドリブンギヤの回転変位の誤差(遅れまたは進み)である。また、トロコイド干渉とは、高負荷時に発生する歯車の弾性変形によって、ドライブギヤとドリブンギヤとが理想の噛合点から外れた位置で噛み合ってしまう現象であり、このトロコイド干渉が歯面摩耗の原因となることが知られている。
【0003】
これに対して、例えば特許文献1では、インボリュート曲線を歯形とする基準歯面を有して高負荷を伝達する歯幅の長いはすば歯車において、前記歯形の形状を、歯面上の噛合い始め部からインボリュート曲面に連なる曲面で歯筋方向位置により波形形状が異なるバイアス修整を施すことにより、噛合い始めに大きな衝撃を生じることなく噛み合って動力を伝達することが記載されている。これにより、噛合始めに発生する衝撃が抑制されることで、歯面摩耗が抑制されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−285048号公報
【特許文献2】特開平10−89442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のはすば歯車では、歯面上の噛合い開始部においてバイアス修整が施されることにより歯面摩耗が抑制されるものの、このバイアス修整により歯車噛合時において、歯面の歯当たりが十分に確保されない可能性があった。この歯当たりとは、歯車が噛み合う際に互いに接触する面積に相当し、この歯当たりが所定値確保されないと、ギヤノイズの原因となることが知られている。従って、特許文献1のはすば歯車であっても、歯面の歯当たりが十分に確保されないことに起因して、ギヤノイズが発生する可能性があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、互いに噛み合う一対のはすば歯車から構成される車両の噛合歯車装置において、歯面摩耗を抑制しつつギヤノイズを抑制することができる車両の噛合歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に備えられて、互いに噛み合う一対のはすば歯車から構成される車両の噛合歯車装置において、(b)前記一対のはすば歯車の歯面は、歯たけ方向および歯幅方向において所定の曲率を有する凸曲面形状に形成されており、(c)前記一対のはすば歯車において、少なくとも一方の歯車の噛合い開始部の歯面が切り欠かれ、且つ、その一対のはすば歯車の少なくとも一方の歯車に形成されている前記凸曲面形状の頂点が前記噛合い開始部から離れた位置に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このようにすれば、前記一対のはすば歯車において、少なくとも一方の歯車の噛合い開始部の歯面が切り欠かれ、且つ、その一対のはすば歯車の少なくとも一方の歯車に形成されている前記凸曲面形状の頂点が前記噛合い開始部から離れた位置に設定されている。このようにすれば、噛合い開始部の歯面に形成される切欠によって、噛合い開始部の噛合をなくして歯面摩耗を抑制することができる。また、はすば歯車の少なくとも一方の歯車に形成されている凸曲面形状の頂点が噛合い開始部から離れた位置に設定されるので、ギヤノイズ性能に必要な歯当たりも確保することができるため、ギヤノイズの抑制が可能となる。
【0009】
また、好適には、前記一対のはすば歯車の歯面に形成されている前記凸曲面形状の頂点は、その一対のはすば歯車が噛み合う際に、ギヤノイズ性能に必要な歯当たりが確保される範囲で前記噛合い開始部から離される。このようにすれば、前記一対のはすば歯車が噛み合う際に、ギヤノイズ性能に必要な歯当たりが確保されているため、噛合歯車装置に高負荷が掛かってもギヤノイズを抑制することができる。
【0010】
また、好適には、前記一対のはすば歯車の駆動側歯車が切り欠かれる場合、その駆動側歯車の歯元の歯幅方向において噛合が開始される側の歯面が一部凹むように切り欠かれる。このようにすれば、一対のはすば歯車が噛み合う際、駆動側歯車では歯元側が噛合い開始部となる。従って、この歯元側の歯面の一部が凹むように切り欠かれることで、噛合い開始部での噛合をなくすことができる。
【0011】
また、好適には、前記一対のはすば歯車の被駆動側歯車が切り欠かれる場合、その被駆動側歯車の歯先の歯幅方向において噛合が開始される側の歯面が一部凹むように切り欠かれる。このようにすれば、一対のはすば歯車が噛み合う際、被駆動側歯車では歯先側が噛合い開始部となる。従って、この歯先側の歯面の一部が凹むように切り欠かれることで、噛合い開始部での噛合をなくすことできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用されたハイブリッド車両の動力伝達装置の概要を説明するための骨子図である。
【図2】図1において従来形状のドライブギヤの形状を説明するための図である。
【図3】図1において本発明のドライブギヤの形状を説明するための図である。
【図4】図2および図3のドライブギヤにおいて、ドリブンギヤとの噛合が開始された際に歯面に掛かる荷重を計算した計算結果を示す図である。
【図5】図2および図3のドライブギヤがドリブンギヤと噛み合った際に生じる噛合い伝達誤差を示す図である。
【図6】切欠が形成される歯車および凸曲面形状の頂点の位置が変更される歯車の組合せを示した図である。
【図7】図1のドリブンギヤ側に切欠が形成される場合の歯車の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両の動力伝達装置10(以下、動力伝達装置10と記載する)の概要を説明するための骨子図である。図1に示すように、動力伝達装置10は、エンジン12と、第1電動機MG1と、エンジン12および第1電動機MG1に動力伝達可能に連結されてエンジン12および第1電動機MG1の駆動力を適宜分配或いは合成する動力分配機構としての第1遊星歯車装置14と、第2電動機MG2と、第2電動機MG2の回転を減速させるリダクションギヤとして機能する第2遊星歯車装置18とを、同軸心C上に備えて構成されている。エンジン12の駆動力は、ダンパ装置20、第1遊星歯車装置14、出力歯車22、減速歯車装置24、差動歯車装置26、および左右の車軸27を介して駆動輪28に伝達される。また、エンジン12に対して軸方向の反対側の端部には、エンジン12の出力軸16の回転によって作動させられる機械式のオイルポンプ19が接続されている。上記のように、エンジン12、第1電動機MG1、第1遊星歯車装置14、第2遊星歯車装置18、第2電動機MG2が軸心C上に配置されることで、動力伝達装置10が径方向に小型化される。
【0015】
なお、第1電動機MG1および第2電動機MG2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、動力分配機構としての差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機MG1は、反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備える。また、駆動輪28に動力伝達可能に連結された第2電動機MG2は、走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。また、第2電動機MG2は、主として走行用の駆動力源として機能するため、第1電動機MG1よりも大きなものとなる。
【0016】
第1電動機MG1は、同軸心C上において、軸方向の両端が軸受32および軸受34によって回転可能に支持されている回転子として機能する円筒状のロータ36と、ロータ36の外周側に配置され非回転部材であるケース30によって回転不能に固定されている固定子として機能する円筒状のステータ38とを、含んで構成されている。
【0017】
第2電動機MG2は、同軸心C上において、ケース30に接続されることで回転不能に固定されている固定子として機能する円筒状のステータ40と、ステータ40の内周側に配置されて回転子として機能する円筒状のロータ42とを、含んで構成されている。ロータ42の内周側は、円筒状の回転軸48が接続されている。回転軸48は、その両端が軸受50および軸受52によって回転可能に支持されることによって、回転軸48に接続されているロータ42と同様に、軸心Cまわりに回転可能に支持される。また、回転軸48の軸方向においてエンジン12側の端部が第2遊星歯車装置18の後述するサンギヤS2に接続されている。
【0018】
第1遊星歯車装置14は、シングルピニオン型の遊星歯車装置で構成され、サンギヤS1と、サンギヤS1と同軸心上に配置されてピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1と、ピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持するキャリヤCA1とを備えている。そして、第1遊星歯車装置18のサンギヤS1が第1電動機MG1のロータ36に連結され、キャリヤCA1が出力軸16およびダンパ装置20を介してエンジン12に連結され、リングギヤR1が出力歯車22、減速歯車装置24、差動歯車装置26、および左右の車軸27を介して左右の駆動輪28に機械的に連結されている。
【0019】
第2遊星歯車装置18は、第1遊星歯車装置14と共通の軸心Cを中心に軸方向に並んで配置されており、第2電動機MG2の回転を減速して出力する機構として機能する。第2遊星歯車装置18は、シングルピニオン型の遊星歯車装置で構成され、サンギヤS2と、サンギヤS2と同軸心上に配置されてピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2と、ピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持するキャリヤCA2とを備えている。そして、第2遊星歯車装置20のサンギヤS2が回転軸48を介して第2電動機MG2のロータ42に連結され、キャリヤCA2が非回転部材であるケース30に連結され、リングギヤR2がリングギヤR1と同様に、出力歯車22、減速歯車装置24、差動歯車装置26、および車軸27を介して左右の駆動輪28に機械的に連結されている。そして、サンギヤS2から入力される第2電動機MG2の回転が減速されてリングギヤR2から出力される。
【0020】
また、本実施例では、内周側に第1遊星歯車装置18のリングギヤR1の内歯および第2リングギヤR2の内歯が軸方向に並んで形成されると共に、外周側に出力歯車22の外歯が形成されている所謂複合式の複合歯車54が使用されている。上記のように、複合歯車54において複数の歯車機能が一体化されることにより、動力伝達装置10がコンパクトとなる。
【0021】
減速歯車装置24は、カウンタ軸62に出力歯車22(カウンタドライブギヤ)と噛み合うカウンタドリブンギヤ64と、差動歯車装置26のファイナルドリブンギヤ66と噛み合うファイナルドライブギヤ68とで構成されており、出力歯車22の回転を減速させてファイナルドリブンギヤ66に伝達する。なお、カウンタ軸62は、一対の軸受69、71によって回転可能に支持されており、各歯車は斜歯で構成される。なお、減速歯車装置24のファイナルドライブギヤ68と差動歯車装置26のファイナルドリブンギヤ66とが噛み合うことで、エンジン12と駆動輪28との動力伝達経路に備えられる、本発明の互いに噛み合う一対のはすば歯車すなわち車両の噛合歯車装置が構成される。
【0022】
差動歯車装置26は、公知である傘歯車式のものであり、差動歯車装置26のファイナルドリブンギヤ66に接続されているデフケース70と、両端がデフケース70に支持されているピニオンシャフト72と、ピニオンシャフト72に挿し通されてピニオンシャフト72の回転軸まわりに相対回転可能なピニオンギヤ74と、ピニオンギヤ74と噛み合う一対のサイドギヤ76とを、備えている。なお、一対のサイドギヤ76は、それぞれ左右の車軸27にスプライン嵌合されることにより一体的に回転させられる。差動歯車装置26の差動作用によって、車両の走行状態に応じて左右の車軸27(駆動輪28)に回転差が与えられる。
【0023】
ここで、減速歯車装置24のファイナルドライブギヤ68(以下、ドライブギヤ68)と差動歯車装置26のファイナルドリブンギヤ66(以下、ドリブンギヤ66)は、それぞれはすば歯車に形成されており、減速比も大きいので、これらの噛合部では大きな負荷(高負荷)が掛かり易い。これより、ドライブギヤ68の噛合い始め部(歯元)では歯面摩耗が生じ、この歯面摩耗によって歯面の歯当たりが悪化するため、ギヤノイズが大きくなる可能性があった。ここで、歯面の歯当たりとは、互いの歯車が噛み合う際に接触する面積に相当し、この歯当たりが悪化(減少)すると、ギヤノイズの起振源となる噛合い伝達誤差TEが悪化することが知られている。従って、ギヤノイズ性能が確保される、言い換えれば、ギヤノイズが許容値以下となる歯当たりが予め設定され、その歯当たりが確保されるように歯面形状が設計されている。なお、噛合い伝達誤差TEとは、駆動側歯車であるドライブギヤ68の回転変位X1と被駆動側歯車であるドリブンギヤ66の回転変X2の誤差(=X1−X2)である。この噛合い伝達誤差TEが大きくなると、ギヤノイズの起振力が大きくなってギヤノイズが悪化する。
【0024】
上記問題を、図2に示す従来形状のドライブギヤ68’(従来品)を用いてさらに具体的に説明する。図2(a)は、従来形状のドライブギヤ68’の歯車の歯部を拡大した図である。ドライブギヤ68’は、はすば歯車で構成されているため、図2(a)で示すように、ドライブギヤ68’がドリブンギヤ66と噛み合う際には、歯元側から歯先側に向かって斜めに接触しながら動力を伝達する。図2(b)は、図2(a)に示す歯面68’aの投影図である。図2(b)において、線い破線で画かれている複数本の斜線は、同時接触線を示している。この同時接触線とは、ドリブンギヤ66と噛み合った際に、ドリブンギヤ66と同時に接触する部位を示している。この図2(b)に示されるように、ドライブギヤ68’の歯面68’aは、ドリブンギヤ66の歯面と同時に全て接触するわけではなく、破線で描かれた楕円で囲まれる噛合い開始部から接触し、この接触部位が歯先側に向かって斜めに移動する。これは、ドライブギヤ68およびドリブンギヤ66がはす歯であるためである。図2(c)は、図2(b)に示す歯面68’aの形状をさらに詳細に示している。図2(c)に示す上側および右側に示す放物線(円弧、二次曲線)は、歯面68の歯面68’に形成されている凸曲面形状を示している。具体的に説明すると、上側に示す放物線は、A−A’断面図に相当するものであり、歯面68’aが歯幅方向において中央部近傍を頂点O1にして所定の曲率で凸曲面形状に形成されていることを示している。また、右側に示す放物線は、B−B’断面図に相当するものであり、歯面68’aの歯たけ方向においてその中心部近傍を頂点O1にして所定の曲率で凸曲面形状に形成されていることを示している。すなわち、歯面68’aの中心部近傍を頂点O1にして凸曲面形状に形成されていることを示している。なお、図2(c)の上側および右側に示す放物線は、いずれも歯面68’aが凸曲面形状に形成されていることを示すために大きく記載されているが、実際には、数マイクロ乃至数十マイクロメートル単位の非常に小さな凸曲面形状に形成されている。そして、この凸曲面形状の頂点O1を中心として楕円で囲まれる斜線で示す部位が歯当たりとなるように設計されている。この歯当たり(面積)は、ギヤノイズが許容値以下となるように予め実験等に基づいて設定されている。
【0025】
このような従来のドライブギヤ68’において、ドリブンギヤ66との間で高負荷が掛かると、図2(c)の三角形で囲まれる斜線部内、言い換えれば、噛合い開始部78において歯面摩耗が発生する。ここで、図2(c)に示すように、歯面摩耗が形成される部位(三角形で囲まる部位)と歯当たりが設定される部位(楕円で囲まれる部位)とが重複している場合、歯面摩耗が生じると歯当たりがその重複した面積分だけ小さくなる。これにより、歯当たりを、予め設定されているギヤノイズ性能に必要な面積だけ取ることができなくなるので、ドライブギヤ68’とドリブンギヤ66との噛合い伝達誤差TEが大きくなり、結果としてギヤノイズが大きくなる可能性があった。
【0026】
次に、本発明のドライブギヤ68を図3に示す。ドライブギヤ68では、図3(a)に示すように、動力伝達時時にドリブンギヤ66と噛み合う側の歯面68aにおいて、歯元の一部である噛合い開始部に相当する部位が切り欠かれることにより、切欠80が形成されている。この歯面68aを投影部で見ると、図3(b)となる。図3(a)、(b)にも示すように、ドライブギヤ68の歯元の歯幅方向において噛合が開始される側の歯面68aが凹むように切り欠かれることにより切欠80が形成されている。この切欠80は、例えば歯面68aの同時接触線に沿うように形成され、ドライブギヤ68に高負荷が掛かった場合にも対処できる所定の強度が確保される範囲で切り欠かれている。
【0027】
また、図3(b)に示すように、ドライブギヤ68の歯面68aに形成されている歯たけ方向および歯幅方向に所定の曲率を有する凸曲面形状において、その凸曲面形状の頂点O2が、切欠80が形成されてない図2に示したドライブギヤ68’(従来)の頂点O1に比べて切欠80(噛合い開始部)から離れた位置に設定されている。具体的には、凸曲面形状の頂点O2が、従来に相当するドライブギヤ68’の凸曲面形状の頂点O1に対して、歯先側であって、且つ、歯幅方向の噛合い開始部から離れる側に変更されている。すなわち、頂点O2が、頂点O1よりも噛合時の進行方向側(噛合終了側)に変更されている。なお、ドライブギヤ68’の頂点O1は、図2(c)に示すように、歯面68’aの略中央であったため、ドライブギヤ68の頂点O2は、歯面中央部よりも噛合い開始部(切欠80)から離れる位置となる。
【0028】
このように凸曲面形状の頂点O2が、切欠80が形成されていない場合の頂点O1よりも噛合い開始部(切欠80)から離れた位置に設定されると、楕円で囲まれた歯当たり82が切欠80(噛合い開始部)から離れた位置となる。これより、図3(b)に示すように、楕円で囲まれる歯当たり82が、三角形で囲まれる切欠80と重複しない位置に設定される。ここで、凸曲面形状の頂点O2が移動しても、歯当たり82の面積は、図2に示す従来の歯当たりと変わらないように設定されている。すなわち、ギヤノイズ性能に必要な歯当たり82が確保される範囲で頂点O2が、噛合い開始部から離れた位置に設定されている。
【0029】
このようにドライブギヤ68が形成されると、ドリブンギヤ66との噛合が始まっても、ドライブギヤ68の切欠80によって噛合い開始部において噛合が回避されることとなる。すなわち、高負荷時に歯面摩耗が生じ易い噛合い開始部に切欠80が予め形成されているので、噛合い開始部での歯面の衝突が防止され、歯面摩耗が抑制される。これに対して、切欠80が形成されることで、歯当たり82の面積が小さくなる問題が生じるが、本実施例のドライブギヤ68では、歯当たり82の面積が確保されるように、凸曲面形状の頂点O2が噛合い開始部から離れた位置に設定されているので、切欠80の影響は発生しない。すなわち、図2に示す切欠80が形成されないドライブギヤ68’と略変わらないギヤノイズ性能が得られる。
【0030】
図4は、切欠80が形成されない図2に示すドライブギヤ68’(従来品)および本発明のドライブギヤ68において、ドリブンギヤ66との噛合が開始された際に歯面に掛かる荷重F(N)の計算結果を一部のみ示している。なお、図4において、横軸は、歯面の歯元から歯先の位置を示しており、縦軸がその歯面の位置に掛かる荷重Fを示している。また、黒塗りの菱形が、切欠80が形成されない図2のドライブギヤ68’(従来品)の荷重F(計算結果)を示し、黒塗りの三角が、本発明のドライブギヤ68に掛かる荷重F(計算結果)を示している。図4に示すように、従来のドリブンギヤ68’では、歯元すなわち噛合い開始部において荷重Fが非常に高い値を示している。一方、本発明のドライブギヤ68では、切欠80が形成されているため、歯元近傍(噛合い開始部)ではドリブンギヤ66と噛み合わないので荷重Fが零となる。そして、切欠80通過した位置から噛合が開始される。この図5に示されるように、噛合い開始部を外れた領域では荷重Fが従来品に比べて小さくなり、歯面摩耗も抑制される。
【0031】
また、図5は、切欠80が形成されない図2のドライブギヤ68’(従来品)と本発明のドライブギヤ68で発生する噛合い伝達誤差TE(dB)を示している。この噛合い伝達誤差TEが大きくなると、ギヤノイズの起振力が大きくなってギヤノイズが大きくなる。図5に示すように、従来品と本発明とを比較しても噛合い伝達誤差TEが殆ど変わらない。これは、ドライブギヤ68に設定されている歯当たり82がドライブギヤ68’の歯当たりと変わらない値に設定されているためである。
【0032】
上述のように、本実施例によれば、はす歯であるドライブギヤ68とドリブンギヤ66とで構成される噛合歯車装置において、ドライブギヤ68の噛合い開始部の歯面が切り欠かれ、且つ、そのドライブギヤ68の歯面に形成されている凸曲面形状の頂点O2が切欠80(噛合い開始部)から離れた位置に設定されている。このようにすれば、噛合い開始部に相当する歯面に形成される切欠80によって、噛合い開始部の噛合をなくして歯面摩耗を抑制することができる。また、ドライブギヤ68の歯面68aに形成されている凸曲面形状の頂点O2が噛合い開始部から離れた位置に設定されるので、ギヤノイズ性能に必要な歯当たり82も確保することができるため、ギヤノイズの抑制が可能となる。
【0033】
また、本実施例によれば、ドライブギヤ68の歯面68aに形成されている凸曲面形状の頂点O2は、、ドリブンギヤ66と噛み合う際に、ギヤノイズ性能に必要な歯当たりが確保される範囲で噛合い開始部から離される。このようにすれば、ドライブギヤ68とドリブンギヤ66とが噛み合う際に、ギヤノイズ性能に必要な歯当たりが確保されているため、これらの間に高負荷が掛かってもギヤノイズを抑制することができる。
【0034】
また、本実施例によれば、駆動側歯車であるドライブギヤ68が切り欠かれる場合、そのドライブギヤ68の歯元の歯幅方向において噛合が開始される側の歯面68aが一部凹むように切り欠かれる。このようにすれば、ドライブギヤ68とドリブンギヤ66とが噛み合う際、ドライブギヤ68では歯元が噛合い開始部となる。従って、ドライブギヤ68の歯元側の歯面の一部が凹むように切り欠かれることで、噛合い開始部での噛合をなくすことができる。
【0035】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0036】
前述した実施例では、駆動側歯車であるファイナルドライブギヤ68において、切欠80が形成されると共に、凸曲面形状の頂点O2が噛合い開始部から離れた位置に設定されていたが、必ずしも上記のように構成する必要はない。例えば、ドライブギヤ68の頂点O2が噛合い開始部から離れた位置に設定される一方、ドリブンギヤ66側に切欠が形成されても構わない。このような態様であっても噛合い開始部の噛合がなくなり、歯当たりが十分に確保されるので、前述の実施例と同様の効果が得られる。すなわち、切欠および凸曲面形状の頂点の変更は、少なくとも何れか一方に為されていれば、前述の実施例と同様の効果が得られる。図6は、切欠を形成する歯車、および凸曲面形状の頂点を噛合い開始部から離れる方向へ移動する歯車の組合せを示す一覧表である。図6に示すような各組合せで実施した場合であっても、前述の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0037】
図6に示す態様1が前述した実施例に対応している。具体的には、態様1は、ドライブギヤ68側に切欠80が形成されると共に、ドライブギヤ68の頂点が変更されている。また、態様2は、ドライブギヤ68側の頂点が移動される一方、ドリブンギヤ66側に切欠90が形成されている。ここで、被駆動側歯車であるドリブンギヤ66側が切り欠かれる場合、図7に示すように、歯先の歯幅方向において噛合が開始される側の歯面66aが凹むように切り欠かれることにより切欠90が形成される。これは、ドリブンギヤ66では、ドライブギヤ68と噛み合う際の噛合い開始部が歯先側となるためである。
【0038】
また、態様3は、ドリブンギヤ66の凸曲面形状の頂点が移動される一方、ドライブギヤ68に切欠80が形成される態様である。なお、ドリブンギヤ66の頂点も同様に、噛合い開始部すなわち切欠90が形成されている部位から離れる方向に設定される。この場合においてもギヤノイズ特性に必要な歯当たりが確保される範囲に設定されている。また、態様4は、ドリブンギヤ66の凸曲面形状の頂点が移動されると共に、ドリブンギヤ66に切欠90が形成される態様である。
【0039】
また、態様5は、ドライブギヤ68およびドリブンギヤ66の凸曲面形状の頂点が移動されると共に、ドライブギヤ68に切欠80が形成される態様である。この態様5のように、ドライブギヤ68およびドリブンギヤ66の両方の凸曲面形状の頂点が変更されても、前述の実施例と同様の効果が得られる。また、態様6は、ドライブギヤ68およびドリブンギヤ66の凸曲面形状の頂点が移動されると共に、ドリブンギヤ66に切欠90が形成される態様である。
【0040】
また、態様7は、ドライブギヤ68の凸曲面形状の頂点が移動されると共に、ドライブギヤ68およびドリブンギヤ66に切欠80、90が形成されている態様である。このようにドライブギヤ68およびドリブンギヤ66の両方に切欠80、90が形成されても前述の実施例と同様の効果が得られる。また、態様8は、ドリブンギヤ66の凸曲面形状の頂点が移動されると共に、ドライブギヤ68およびドリブンギヤ66に切欠80、90が形成されている態様である。また、態様9は、ドライブギヤ68およびドリブンギヤ66の凸曲面形状の頂点が移動されると共に、ドライブギヤ68およびドリブンギヤ66に切欠80、90が形成される態様である。これら、態様1〜態様9の何れにおいても、切欠によって噛合い開始部での噛合が回避されると共に、凸曲面形状の頂点が移動されることで歯当たり82が確保されるので、前述の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0041】
上述のように、本実施例によれば、ドライブギヤ68およびドリブンギヤ66の少なくとも一方に切欠および凸曲面形状の頂点の移動が施される場合であっても、前述した実施例と同様の効果を得ることができる。
【0042】
また、本実施例によれば、被駆動側歯車であるドリブンギヤ66が切り欠かれる場合、そのドリブンギヤ66の歯先の歯幅方向において噛合が開始される側の歯面66aが一部凹むように切り欠かれる。このようにすれば、ドライブギヤ68とドリブンギヤ66とが噛み合う際、ドリブンギヤ66では歯先が噛合い開始部となる。従って、ドリブンギヤ66の歯先の歯面66aの一部が凹むように切り欠かれることで、噛合い開始部での噛合をなくすことができる。
【0043】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0044】
例えば、前述の実施例では、減速歯車装置24のファイナルドライブギヤ68と差動歯車装置26のファイナルドリブンギヤ66とで構成される一対の歯車(噛合歯車装置)を一例に説明したが、本発明はファイナルドライブギヤ68とファイナルドリブンギヤ66に限定されず、動力伝達を行うはす歯から成る噛合歯車装置であれば適宜適用することができる。
【0045】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0046】
12:エンジン
28:駆動輪
66:ファイナルドリブンギヤ(はすば歯車、被駆動側歯車、噛合歯車装置)
68:ファイナルドライブギヤ(はすば歯車、駆動側歯車、噛合歯車装置)
80、90:切欠
82:歯当たり
O2:頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に備えられて、互いに噛み合う一対のはすば歯車から構成される車両の噛合歯車装置において、
前記一対のはすば歯車の歯面は、歯たけ方向および歯幅方向において所定の曲率を有する凸曲面形状に形成されており、
前記一対のはすば歯車において、少なくとも一方の歯車の噛合い開始部の歯面が切り欠かれ、且つ、該一対のはすば歯車の少なくとも一方の歯車に形成されている前記凸曲面形状の頂点が前記噛合い開始部から離れた位置に設定されていることを特徴とする車両の噛合歯車装置。
【請求項2】
前記一対のはすば歯車の歯面に形成されている前記凸曲面形状の頂点は、該一対のはすば歯車が噛み合う際に、ギヤノイズ性能に必要な歯当たりが確保される範囲で前記噛合い開始部から離されることを特徴とする請求項1の車両の噛合歯車装置。
【請求項3】
前記一対のはすば歯車の駆動側歯車が切り欠かれる場合、該駆動側歯車の歯元の歯幅方向において噛合が開始される側の歯面が一部凹むように切り欠かれることを特徴とする請求項1または2の車両の噛合歯車装置。
【請求項4】
前記一対のはすば歯車の被駆動側歯車が切り欠かれる場合、該被駆動側歯車の歯先の歯幅方向において噛合が開始される側の歯面が一部凹むように切り欠かれることを特徴とする請求項1または2の車両の噛合歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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