車両の挙動制御装置
【課題】車両の挙動制御の精度および運転性を向上させることができる車両の挙動制御装置を提供すること。
【解決手段】挙動制御装置1は、ECU2を備える。ECU2は、車体スリップ角βを算出し(ステップ2)、目標スリップ角βrを算出し(ステップ3)、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるように、目標車輪速Ws_cmdを算出し(ステップ4)、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度を決定する切換関数設定パラメータVPOLEを、車体スリップ角βに応じて設定する(ステップ31〜35)とともに、所定期間中でのβ≧βrの発生頻度に応じて、目標スリップ角βrを変更する(ステップ19〜21)。
【解決手段】挙動制御装置1は、ECU2を備える。ECU2は、車体スリップ角βを算出し(ステップ2)、目標スリップ角βrを算出し(ステップ3)、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるように、目標車輪速Ws_cmdを算出し(ステップ4)、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度を決定する切換関数設定パラメータVPOLEを、車体スリップ角βに応じて設定する(ステップ31〜35)とともに、所定期間中でのβ≧βrの発生頻度に応じて、目標スリップ角βrを変更する(ステップ19〜21)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の車両の挙動を制御する車両の挙動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の挙動制御装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この挙動制御装置は、車輪速度センサ、操舵角センサ、ヨーレートセンサおよび横加速度センサなどを備えており、これらのセンサの検出信号に基づき、車速、前後輪の操舵角およびヨーレートを算出する。
【0003】
この挙動制御装置の図3に示す制御処理では、ステップ5で、車速と前後輪の操舵角とヨーレートと車体スリップ角との関係を定義した線形モデルに基づく所定の推定アルゴリズムにより、車体スリップ角および車体スリップ角速度の推定値を算出する。そして、ステップ6,7の判別結果がYESで、これらの推定値がそれぞれ所定のしきい値を上回ったときには、車両の挙動を制御するために、駆動輪への駆動力および外側の前輪制動力が決定され(ステップ8)、これらの値に基づいて、駆動力制御および外側の前輪制動力制御が実行される(ステップ9)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−142362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の車両の挙動制御装置によれば、車体スリップ角および車体スリップ角速度の推定値がそれぞれ所定のしきい値を上回ったときには、車両の挙動を制御するために、駆動輪への駆動力および外側の前輪制動力が決定されるものの、これらの駆動力および前輪制動力がどのように決定されるかについては具体的に示されていない。そのため、駆動力制御および制動力制御の応答性が低い場合には、比較的大きな車体スリップ角が頻繁に発生しているときでも、それを迅速に解消することができず、車両の挙動が不安定になるおそれがある。同じ理由により、運転者のステアリング操作およびアクセル操作などによって要求される車両の挙動と、駆動力制御および制動力制御による車両の挙動制御が互いに干渉することで、運転者に違和感を与えるおそれがあり、その場合には、運転性の低下を招いてしまう。また、車体スリップ角および車体スリップ角速度の推定値と所定のしきい値との比較結果に基づいて、駆動力制御および制動力制御が実行されるので、これらのしきい値の設定が不適切な場合、駆動力制御および制動力制御が必要以上に高い頻度で実行されたり、これとは逆に、実行頻度が低くなり過ぎたりするという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、車両の挙動制御の精度および運転性を向上させることができる車両の挙動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、走行中の車両3の挙動を制御する車両3の挙動制御装置1であって、車両3における車体スリップ角βを検出する車体スリップ角検出手段(ECU2、イメージセンサ20、ステップ2)と、車体スリップ角βの目標となる目標スリップ角βr(目標スリップ角のフィルタ値βf)を設定する目標スリップ角設定手段(ECU2、ステップ3)と、検出された車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるように、車両3の挙動を制御するための制御入力(目標車輪速Ws_cmd)を算出する制御入力算出手段(ECU2、ステップ4)と、を備え、制御入力算出手段は、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度を、車体スリップ角βに応じて設定する収束速度設定手段(ECU2、ステップ31〜35)を有することを特徴とする。
【0008】
この車両の挙動制御装置によれば、車両の挙動を制御するための制御入力が、車体スリップ角を目標スリップ角に収束させるように算出されるとともに、車体スリップ角の目標スリップ角への収束速度が、車体スリップ角に応じて設定されるので、車体スリップ角を、その大小に応じた適切な収束速度で目標スリップ角に収束させることができ、それにより、車両の挙動制御の精度を向上させることができる(なお、本明細書における「車体スリップ角の検出」は、車体スリップ角を、センサで直接的に検出することに限らず、算出または推定することも含む)。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両3の挙動制御装置1において、制御入力算出手段は、所定の応答指定型制御アルゴリズム[式(1)〜(2),(6)〜(12)]を用いて制御入力を算出し、収束速度設定手段は、所定の応答指定型制御アルゴリズムにおける、車体スリップ角βと目標スリップ角βr(目標スリップ角のフィルタ値βf)との偏差(追従誤差Eβ)の値0への収束速度および収束挙動を指定する応答指定パラメータ(切換関数設定パラメータVPOLE)を、車体スリップ角βに応じて設定する(ステップ31〜35)ことを特徴とする。
【0010】
この車両の挙動制御装置によれば、車両の挙動を制御するための制御入力が、所定の応答指定型制御アルゴリズムを用いて算出されるとともに、この所定の応答指定型制御アルゴリズムにおける、車体スリップ角と目標スリップ角との偏差の値0への収束速度および収束挙動を指定する応答指定パラメータが、車体スリップ角に応じて設定される。この場合、応答指定型制御アルゴリズムは、車体スリップ角と目標スリップ角との偏差の値0への収束速度および収束挙動を、応答指定パラメータの設定により自在に指定することができるという特性を備えているので、そのような応答指定パラメータを車体スリップ角に応じて設定することにより、車体スリップ角を、その大小に応じた適切な収束速度で目標スリップ角に確実に収束させることができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の車両3の挙動制御装置1において、収束速度設定手段は、応答指定パラメータ(切換関数設定パラメータVPOLE)を、車体スリップ角βの絶対値が目標スリップ角βr(目標スリップ角のフィルタ値βf)の絶対値以上のとき(ステップ31の判別結果がYESのとき)には、目標スリップ角βrの絶対値未満のとき(ステップ31の判別結果がNOのとき)よりも収束速度が速くなるように設定する(ステップ32)ことを特徴とする。
【0012】
この車両の挙動制御装置によれば、応答指定パラメータが、車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値以上のときには、目標スリップ角の絶対値未満のときよりも収束速度が速くなるように設定されるので、車体スリップ角を、その絶対値が大きいときには絶対値が小さいときよりも迅速に目標スリップ角に収束させることができ、それにより、車両の挙動制御の精度をさらに向上させることができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の車両3の挙動制御装置1において、収束速度設定手段は、応答指定パラメータ(切換関数設定パラメータVPOLE)を、車体スリップ角βの絶対値が目標スリップ角βr(目標スリップ角のフィルタ値βf)の絶対値から所定値αを減算した値(βf−α)以下であるときには、収束速度がほぼ値0になるように設定する(ステップ35)ことを特徴とする。
【0014】
この車両の挙動制御装置によれば、車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値から所定値を減算した値以下であるときには、収束速度がほぼ値0になるように応答指定パラメータが設定されるので、車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値よりも所定値以上小さい領域、すなわち車両の挙動が比較的安定している領域では、車体スリップ角を目標スリップ角に収束させるような車両の挙動制御が実行されない状態となる。それにより、運転者のステアリング操作およびアクセル操作などによって要求される車両の挙動と、車両の挙動制御とが互いに干渉することがなくなり、運転者の違和感を回避することができる。その結果、車両の運転性を向上させることができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の車両3の挙動制御装置1において、目標スリップ角設定手段は、車体スリップ角βの絶対値が目標スリップ角βrの絶対値以上になった頻度に応じて、目標スリップ角βrを補正する目標スリップ角補正手段(ECU2、ステップ19〜21)を有することを特徴とする。
【0016】
この車両の挙動制御装置によれば、車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値以上になった頻度に応じて、目標スリップ角が補正されるので、車両の挙動制御を過不足なく適切な頻度で実行することができる。
【0017】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の車両3の挙動制御装置1において、目標スリップ角補正手段は、所定期間(ΔT×mに相当する期間)内において、車体スリップ角βの絶対値が目標スリップ角βrの絶対値以上になった回数(スリップ回数S_Cslip)が所定回数SREF以上のときには、目標スリップ角βrをその絶対値が減少するように補正する(ステップ20)とともに、回数が所定回数未満のときには、目標スリップ角βrをその絶対値が増大するように補正する(ステップ21)ことを特徴とする。
【0018】
この車両の挙動制御装置によれば、所定期間内において、車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値以上になった回数と所定回数との比較結果に基づいて、目標スリップ角が減少または増大するように補正されるので、これらの所定期間および所定回数を適切に設定することにより、車両の挙動制御の実行・中止が頻繁に切り換わるのを回避しながら、車両の挙動制御を過不足なく適切な頻度で実行することができる。その結果、車両の挙動制御の精度および運転性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る車両の挙動制御装置について説明する。図1に示すように、本実施形態の挙動制御装置1は、ECU2を備えており、このECU2は、後述するように、車両3の挙動制御処理などを実行する。
【0020】
この車両3は、FR方式のものであり、車体の前側に搭載されたエンジン4と、遊動輪としての左右の前輪5,5と、駆動輪としての左右の後輪6,6を備えている。この車両3では、エンジン4の動力が、プロペラシャフト7、差動ギヤ機構8および左右のドライブシャフト9,9などを介して、左右の後輪6,6に伝達される。
【0021】
また、車両3には、複数のイメージセンサ20および4つの車輪速センサ21が設けられている(いずれも1つのみ図示)。各イメージセンサ20(車体スリップ角検出手段)は、例えばCCDなどで構成されており、車体と路面との相対的な関係を表す画像データImageを、検出信号としてECU2に出力する。ECU2は、イメージセンサ20の検出信号の画像データImageに基づいて、所定の算出アルゴリズムにより、車体スリップ角βを算出する。
【0022】
この場合、図2に示すように、実際の車体スリップ角β’は、車体の中心線と車両3の進行方向(旋回円の接戦方向)との間の相対的な角度を表すものであり、左右のコーナで正負の符号が切り換わるものであるが、本実施形態では、後述する挙動制御処理での演算負荷の低減を目的として、実際の車体スリップ角β’の絶対値|β’|を車体スリップ角βとして用いる。
【0023】
一方、4つの車輪速センサ21の各々は、対応する車輪の回転速度を検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、これらの車輪速センサ21の検出信号に基づいて、駆動輪速Ws_actおよび車速VPなどを算出する。この場合、駆動輪速Ws_actは、左右の後輪速度の平均値として算出され、車速VPは、駆動輪速Ws_actと、非駆動輪速(左右の前輪速度の平均値)との平均値として算出される。
【0024】
また、ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述したセンサ20,21の検出信号などに応じて、各種の制御処理を実行する。具体的には、以下に述べるように、車両3の挙動制御処理を実行するとともに、エンジン4の燃料噴射制御処理、吸入空気量制御処理および点火時期制御処理などを実行する。
【0025】
なお、本実施形態では、ECU2が、車体スリップ角検出手段、目標スリップ角設定手段、制御入力算出手段、収束速度設定手段および目標スリップ角補正手段に相当する。
【0026】
次に、図3を参照しながら、本実施形態の挙動制御装置1について説明する。同図に示すように、この挙動制御装置1は、車体スリップ角コントローラ30および駆動輪速コントローラ50を備えており、これらのコントローラ30,50はいずれも、具体的にはECU2で構成されている。
【0027】
まず、車体スリップ角コントローラ30について説明する。この車体スリップ角コントローラ30は、駆動輪速Ws_actの目標となる目標車輪速Ws_cmdを算出するものであり、この目標車輪速Ws_cmd(制御入力)は、具体的には、以下に述べるように、パラメータスケジューラと、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムと、適応外乱オブザーバとを組み合わせたアルゴリズム[式(1)〜(12)]により、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるための値として算出される。
【0028】
図4に示すように、車体スリップ角コントローラ30は、目標スリップ角算出部31、目標値フィルタ32、車体スリップ角算出部33、減算器34、パラメータスケジューラ35、切換関数算出部36、到達則入力算出部37、非線形入力算出部38、適応外乱オブザーバ39および加算器40を備えている。
【0029】
なお、以下の数式において、記号(k)付きの各離散データは、後述する所定の制御周期ΔTでサンプリングまたは算出されたデータであることを示しており、記号kは各離散データの算出(またはサンプリング)サイクルの順番を表している。例えば、記号kは今回の制御タイミングで算出(またはサンプリング)された値であることを、記号k−1は前回の制御タイミングで算出(またはサンプリング)された値であることをそれぞれ示している。この点は、以下の離散データにおいても同様である。なお、以下の説明では、各離散データにおける記号(k)を適宜省略する。
【0030】
まず、目標スリップ角算出部31では、所定期間内にβ≧βrが成立した回数に基づいて、後述する手法により、目標スリップ角βrが算出される。
【0031】
次いで、目標値フィルタ32では、下式(1)に示す1次遅れフィルタアルゴリズムにより、目標スリップ角のフィルタ値βfが算出される。なお、式(1)のKAは、所定のフィルタ係数であり、−1<KA<0が成立するように設定される。
【数1】
【0032】
一方、車体スリップ角算出部33では、イメージセンサ20の検出信号の画像データImageに基づいて、所定の算出アルゴリズムにより、車体スリップ角βが算出される。
【0033】
また、減算器34では、下式(2)により、追従誤差Eβ(偏差)が算出される。
【数2】
【0034】
さらに、パラメータスケジューラ35では、目標スリップ角のフィルタ値βfおよび車体スリップ角βに基づき、下式(3)〜(5)により、切換関数設定パラメータVPOLE(応答指定パラメータ)が算出される。ここで、下式(3)のVPOLE1は、値0に近い負の所定値(例えば−0.1)であり、式(4)のαは正の所定値である。
【0035】
【数3】
【0036】
以上の式(3)〜(5)により、切換関数設定パラメータVPOLEは、車体スリップ角βとフィルタ値βfの関係に基づいて、図5に示すような値として算出される。なお、切換関数設定パラメータVPOLEを、所定値VPOLE1と値−1との間で瞬間的に切り換えてもよい場合には、αを値0に設定してもよい。
【0037】
そして、切換関数算出部36では、追従誤差Eβおよび切換関数設定パラメータVPOLEを用いて、下式(6)により、切換関数σが算出される。
【数4】
【0038】
一方、到達則入力算出部37では、下式(7)により、到達則入力Urchが算出される。なお、下式(7)のKrchは、一定値の到達則ゲインである。
【数5】
【0039】
また、非線形入力算出部38では、下式(8)により、非線形入力Unlが算出される。
【数6】
【0040】
ここで、上式(8)のKnlは、一定値の非線形ゲインである。また、式(8)のsgn(σ(k))は符号関数であり、その値は、σ(k)≧0のときにはsgn(σ(k))=1となり、σ(k)<0のときにはsgn(σ(k))=−1となるように設定される(なお、σ(k)=0のときに、sgn(σ(k))=0となるように設定してもよい)。
【0041】
さらに、適応外乱オブザーバ39では、下式(9)〜(11)に示す固定ゲイン式の同定アルゴリズムにより、外乱推定値Ulsが算出される。
【0042】
【数7】
【0043】
上式(9)のσ_hatは、切換関数の推定値であり、式(10)のE_sigは、推定誤差を表している。また、式(11)のPは、一定値の同定ゲインである。
【0044】
そして、加算器40では、最終的に、下式(12)により、目標車輪速Ws_cmdが算出される。
【数8】
【0045】
以上の式(1)〜(12)の制御アルゴリズムは、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムを含んでおり、この目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムは、フィルタ係数KAの設定値により、フィルタ値βfの目標スリップ角βrへの追従特性を決定できるとともに、切換関数設定パラメータVPOLEの設定値により、車体スリップ角βのフィルタ値βfへの収束速度および収束挙動を決定できるという特性を備えている。したがって、式(1)〜(12)の制御アルゴリズムでは、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度および収束挙動が、切換関数設定パラメータVPOLEの値によって決定されることになる。
【0046】
より具体的には、切換関数設定パラメータVPOLEが負値でかつ値0に近いほど、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度が速くなり、一方、切換関数設定パラメータVPOLEが負値でかつ値−1に近いほど、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度が遅くなる。特に、VPOLE=−1のときには、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度がほぼ値0になる。したがって、目標車輪速Ws_cmdは、βf≦βのときには、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに迅速に収束させるような値として算出されるとともに、β≦βf−αのときには、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させないような値として算出される。
【0047】
次に、前述した駆動輪速コントローラ50では、駆動輪速Ws_actが目標車輪速Ws_cmdに収束するように、エンジントルクTrqが算出される。この駆動輪速コントローラ50では、エンジントルクTrqの具体的な算出手法として、本出願人が特願2006−277319号で提案したものと同じ手法が用いられるので、その説明はここでは省略する。
【0048】
以上のように、エンジントルクTrqが算出されると、ECU2により、このエンジントルクTrqが得られるように、エンジン4の燃料噴射量、吸入空気量および点火時期などが制御される。その結果、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに収束するように制御される。
【0049】
次に、図6を参照しながら、ECU2により前述した制御周期ΔTで実行される挙動制御処理について説明する。なお、以下の説明において算出される各種の値は、ECU2のRAM内に記憶されるものとする。
【0050】
この処理では、まず、ステップ1(図では「S1」と略す。以下同じ)で、走行フラグF_RUNが「1」であるか否かを判別する。この走行フラグF_RUNは、車両3が走行中であるときには「1」に、停車中であるときには「0」にそれぞれ設定される。このステップ1の判別結果がNOで、停車中であるときには、そのまま本処理を終了する。
【0051】
一方、ステップ1の判別結果がYESで、車両3が走行中であるときには、ステップ2に進み、車体スリップ角βを算出する。具体的には、車体スリップ角βは、前述したように、イメージセンサ20の検出信号の画像データImageに基づいて、所定の算出アルゴリズムにより算出される。
【0052】
次いで、ステップ3で、目標スリップ角βrを算出する。この算出処理は、具体的には、図7に示すように実行される。まず、ステップ10で、RAMに記憶されている目標スリップ角の次回値βrNを今回値βrとして設定する。なお、目標スリップ角の次回値βrNの初期値は、正の所定値に設定される。
【0053】
次いで、ステップ11に進み、上記ステップ2で算出した車体スリップ角βが、目標スリップ角βr以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、車両3のスリップ量が所定値未満のときには、ステップ12に進み、スリップ値Cslipを値0に設定する。
【0054】
一方、ステップ11の判別結果がYESで、車両3のスリップ量が所定値以上のときには、ステップ13に進み、スリップ値Cslipを値1に設定する。
【0055】
次いで、ステップ14で、カウンタ値CTを、その前回値CTZに値1を加算した値に設定する。すなわち、カウンタ値CTを値1インクリメントする。なお、カウンタの前回値CTZの初期値は値0に設定される。
【0056】
次に、ステップ15に進み、カウンタ値CTが所定値CTREF以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、ステップ16に進み、目標スリップ角の次回値βrNを今回値βrに設定した後、本処理を終了する。
【0057】
一方、ステップ15の判別結果がYESのときには、ステップ17で、カウンタ値CTを値0にリセットする。次いで、ステップ18に進み、スリップ回数S_Cslipを算出する。このスリップ回数S_Cslipは、今回以前のm(mは2以上の整数)回の制御タイミングでそれぞれ算出されたm個のスリップ値Cslipの総和として算出される。
【0058】
次いで、ステップ19に進み、スリップ回数S_Cslipが所定回数SREF以上であるか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、車両3のスリップ量が所定値以上となる頻度が高いと判定して、ステップ20に進み、目標スリップ角の次回値βrNを、今回値βrから所定の補正項Dβを減算した値βr−Dβに設定した後、本処理を終了する。この補正項Dβは、正の所定値に設定される。
【0059】
一方、ステップ19の判別結果がNOのときには、車両3のスリップ量が所定値以上となる頻度が低いと判定して、ステップ21に進み、目標スリップ角の次回値βrNを、今回値βrに補正項Dβを加算した値βr+Dβに設定した後、本処理を終了する。
【0060】
以上のように、この目標スリップ角βrの算出処理では、S_Cslip≧SREFが成立したとき、すなわち、所定期間(ΔT×mに相当する期間)中において、車体スリップ角βが目標スリップ角βr以上となった頻度が高く、車両3のスリップの発生頻度が高いときには、目標スリップ角βrが補正項Dβ分減少するように設定される。それにより、後述する駆動輪速Ws_actの算出処理において、追従誤差Eβが一時的に増大しやすい状態となることで、2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに迅速に収束するように制御される。
【0061】
図6に戻り、ステップ3で以上のように目標スリップ角βrを算出した後、ステップ4に進み、目標車輪速Ws_cmdを算出する。この算出処理は、具体的には、図8に示すように実行される。
【0062】
まず、ステップ30で、前述した式(1)により、目標スリップ角のフィルタ値βfを算出する。次いで、ステップ31に進み、車体スリップ角βがフィルタ値βf以上であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、βf≦βのときには、ステップ32に進み、切換関数設定パラメータVPOLEを所定値VPOLE1に設定する。
【0063】
一方、ステップ31の判別結果がNOのときには、ステップ33に進み、車体スリップ角βが、フィルタ値βfから所定値αを減算した値βf−α以下であるか否かを判別する。
【0064】
この判別結果がNOで、βf−α<β<βfのときには、ステップ34に進み、前述した式(4)により、切換関数設定パラメータVPOLEを算出する。
【0065】
一方、ステップ33の判別結果がYESで、β≦βf−αのときには、ステップ35に進み、切換関数設定パラメータVPOLEを値−1に設定する。
【0066】
ステップ32,34,35のいずれかに続くステップ36で、前述した式(2)により、追従誤差Eβを算出する。
【0067】
次いで、ステップ37で、前述した式(6)により、切換関数σを算出する。その後、ステップ38で、前述した式(7)により、到達則入力Urchを算出する。
【0068】
ステップ38に続くステップ39で、前述した式(8)により、非線形入力Unlを算出し、その後、ステップ40で、前述した式(9)〜(11)により、外乱推定値Ulsを算出する。
【0069】
次に、ステップ41で、前述した式(12)により、目標車輪速Ws_cmdを算出した後、本処理を終了する。
【0070】
図6に戻り、ステップ4で以上のように目標車輪速Ws_cmdを算出した後、ステップ5に進み、前述した算出手法により、エンジントルクTrqを算出する。その後、本処理を終了する。以上のように、エンジントルクTrqが算出されると、前述したように、このエンジントルクTrqが得られるように、エンジン4の燃料噴射量、吸入空気量および点火時期などが制御される。その結果、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに収束するように制御される。
【0071】
次に、以上のように構成された本実施形態の挙動制御装置1による車両3の挙動制御結果について説明する。図9は、挙動制御装置1による制御結果の一例を示している。なお、同図では、理解の容易化のために、車体スリップ角βに代えて、実際の車体スリップ角β’が示されているとともに、β’が負値のときの参照のために、目標スリップ角の負値−βrが破線で示されている。また、同図において、時刻t1〜t2、t2〜t3、t3〜t4、およびt4〜t5の期間がそれぞれ、前述したΔT×mの期間に相当する。
【0072】
同図に示すように、挙動制御処理の実行中、t1〜t2の期間において、β’≧βrすなわちβ≧βrとなる状態が頻発することにより、S_Cslip≧SREFが成立すると、時刻t2で、目標スリップ角の次回値βrNすなわち目標スリップ角βrが、今回値βrから補正項Dβを減算した値βr−Dβに設定される。次いで、t2〜t3の期間でも、β≧βrとなる状態が頻発し、S_Cslip≧SREFが成立すると、時刻t3で、目標スリップ角βrが、今回値βrから補正項Dβを減算した値βr−Dβに設定される。
【0073】
そして、時刻t3以降、β’<βrすなわちβ<βrとなる状態が継続することにより、S_Cslip<SREFが成立すると、時刻t4で、目標スリップ角βrが、今回値βrに補正項Dβを加算した値βr+Dβに設定される。そして、t4〜t5の期間でも、β<βrとなる状態が継続することで、S_Cslip<SREFが成立すると、時刻t5で、目標スリップ角βrが、今回値βrに補正項Dβを加算した値βr+Dβに設定される。
【0074】
以上のように、本実施形態の挙動制御装置1によれば、目標車輪速Ws_cmdが、適応外乱オブザーバと目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムとを組み合わせたアルゴリズム[式(1)〜(2),(6)〜(12)]により、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるように算出されるとともに、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにおける切換関数設定パラメータVPOLEが、車体スリップ角βと目標スリップ角のフィルタ値βfとの比較結果に基づいて設定される[式(3)〜(5)]。さらに、駆動輪速Ws_actが目標車輪速Ws_cmdに収束するように、エンジントルクTrqが算出されるとともに、このエンジントルクTrqが得られるように、車両3のエンジン4の運転状態が制御される。以上により、切換関数設定パラメータVPOLEが値−1に設定されていない限り、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに収束するように制御される。
【0075】
前述したように、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムでは、追従誤差Eβの値0への収束速度および収束挙動、すなわち車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度および収束挙動を、切換関数設定パラメータVPOLEの設定値によって自在に指定することができるので、そのような切換関数設定パラメータVPOLEを車体スリップ角βに応じて設定することにより、車体スリップ角βを、その大小に応じた適切な収束速度で目標スリップ角βrに確実に収束させることができる。特に、βf≦βのとき、すなわち車体スリップ角βの値が大きい領域にあるときには、切換関数設定パラメータVPOLEが値0に近い負値VPOLE1に設定されるので、車体スリップ角βの値が大きい領域にあるときには、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに迅速に収束させることができる。
【0076】
一方、β≦βf−αのときには、切換関数設定パラメータVPOLEが値−1に設定されるので、車体スリップ角βが小さく、車両の挙動が比較的安定している領域では、車両の挙動制御が実行されない状態となる。それにより、運転者のステアリング操作およびアクセル操作などによって要求される車両の挙動と、車両の挙動制御とが互いに干渉することがなくなり、運転者の違和感を回避することができる。その結果、車両の運転性を向上させることができる。
【0077】
また、所定期間(ΔT×mに相当する期間)内において、スリップ(β≧βr)の発生回数であるスリップ回数S_Cslipが所定回数SREF以上であるときには、目標スリップ角の次回値βrNが、今回値βrから補正項Dβを減算した値βr−Dβに設定される。一方、S_Cslip<SREFであるときには、目標スリップ角の次回値βrNが、今回値βrに補正項Dβを加算した値βr+Dβに設定される。すなわち、スリップの有無に応じて、目標スリップ角βrが減少または増大するように補正されるので、これらの所定期間および補正項Dβを適切に設定することにより、車両の挙動制御の実行・中止が頻繁に切り換わるのを回避しながら、車両の挙動制御を過不足なく適切な頻度で実行することができる。その結果、車両の挙動制御の精度および運転性をさらに向上させることができる。
【0078】
なお、実施形態は、制御アルゴリズムにおいて、車体スリップ角βとして、実際の車体スリップ角β’の絶対値|β’|を用いた例であるが、実際の車体スリップ角β’をそのまま車体スリップ角として用いてもよい。その場合、前述したパラメータスケジューラ35での切換関数設定パラメータVPOLEの算出において、β’≧0のときには、前述した式(3)〜(5)の「β」を「β’」に置き換えた式を用い、β’<0のときには、目標スリップ角βrを負値として算出するとともに、下式(13)〜(15)を用いればよい。
【0079】
【数9】
【0080】
以上の式(13)〜(15)を用いた場合、切換関数設定パラメータVPOLEは、実際の車体スリップ角β’が負値であるときには、図10に示すように算出される。
【0081】
また、本実施形態は、車体スリップ角βを、イメージセンサ20の検出信号の画像データImageに基づいて、所定の算出アルゴリズムにより算出した例であるが、本願発明の車体スリップ角の算出手法はこれに限らず、車体スリップ角を算出できるものであればよい。例えば、車体の速度を検出するセンサを用いて、図11における車体の横速度Vss、前進速度Vfwおよび車速VPを算出した後、これらの速度に基づいて、実際の車体スリップ角β’を算出してもよい。さらに、前述した特許文献1と同じ算出手法により、車体スリップ角を算出してもよい。
【0082】
さらに、実施形態は、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに収束するように、目標車輪速Ws_cmdを算出し、駆動輪速Ws_actがこの目標車輪速Ws_cmdになるように、エンジントルクTrqを算出することにより、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるように制御した例であるが、本願発明の車両の挙動制御装置の制御手法はこれに限らず、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるように制御できるものであればよい。
【0083】
例えば、駆動輪速Ws_actが目標車輪速Ws_cmdになるように、ブレーキ制動力を制御するように構成してもよい。さらに、駆動輪速Ws_actが目標車輪速Ws_cmdになるように、ブレーキ制動力およびエンジントルクの双方を制御するように構成してもよい。また、実施形態の制御アルゴリズム式(1)〜(12)に代えて、PID制御アルゴリズムなどのフィードバック制御アルゴリズムを用いて、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに収束するように、エンジントルクTrqを算出してもよい。
【0084】
また、実施形態は、応答指定型制御アルゴリズムとして、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムを用いた例であるが、本願発明の応答指定型制御アルゴリズムはこれに限らず、車体スリップ角の目標スリップ角への収束速度を指定可能な応答指定型制御アルゴリズムであればよい。
【0085】
例えば、実施形態の目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムに代えて、目標スリップ角のフィルタ値βfを用いることなく、目標スリップ角βrをそのまま用いる一般的なスライディングモード制御アルゴリズムを用いてもよい。その場合には、式(1)を省略し、式(2)〜(5)における「βf」を、「βr」に置き換えた式と、式(6)〜(12)とを用いればよい。このようにした場合でも、実施形態の挙動制御装置1と同様の作用効果を奏することができる。
【0086】
さらに、応答指定型制御アルゴリズムとして、バックステッピング制御アルゴリズムを用いてもよい。
【0087】
また、実施形態は、本発明の挙動制御装置をFR方式の車両に適用した例であるが、本発明の挙動制御装置を全輪駆動方式の車両に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本願発明の一実施形態に係る挙動制御装置およびこれを適用した車両の概略構成を示す図である。
【図2】車体スリップ角を説明するための模式図である。
【図3】挙動制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】車体スリップ角コントローラの概略構成を示すブロック図である。
【図5】パラメータスケジューラにおける切換関数設定パラメータVPOLEの算出結果を示す図である。
【図6】挙動制御処理を示すフローチャートである。
【図7】目標スリップ角βrの算出処理を示すフローチャートである。
【図8】目標車輪速Ws_cmdの算出処理を示すフローチャートである。
【図9】挙動制御装置による制御結果の一例を示すタイミングチャートである。
【図10】実際の車体スリップ角β’を用いた場合の、切換関数設定パラメータVPOLEの算出結果を示す図である。
【図11】実際の車体スリップ角β’の他の算出手法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0089】
1 挙動制御装置
2 ECU(車体スリップ角検出手段、目標スリップ角設定手段、制御入力算出手段
、収束速度設定手段、目標スリップ角補正手段)
3 車両
20 イメージセンサ(車体スリップ角検出手段)
β 車体スリップ角
βr 目標スリップ角
βf 目標スリップ角のフィルタ値(目標スリップ角)
α 所定値
Eβ 追従誤差(偏差)
VPOLE 切換関数設定パラメータ(応答指定パラメータ)
Ws_cmd 目標車輪速(制御入力)
S_Cslip スリップ回数(車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値以上
になった回数)
SREF 所定回数
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の車両の挙動を制御する車両の挙動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の挙動制御装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この挙動制御装置は、車輪速度センサ、操舵角センサ、ヨーレートセンサおよび横加速度センサなどを備えており、これらのセンサの検出信号に基づき、車速、前後輪の操舵角およびヨーレートを算出する。
【0003】
この挙動制御装置の図3に示す制御処理では、ステップ5で、車速と前後輪の操舵角とヨーレートと車体スリップ角との関係を定義した線形モデルに基づく所定の推定アルゴリズムにより、車体スリップ角および車体スリップ角速度の推定値を算出する。そして、ステップ6,7の判別結果がYESで、これらの推定値がそれぞれ所定のしきい値を上回ったときには、車両の挙動を制御するために、駆動輪への駆動力および外側の前輪制動力が決定され(ステップ8)、これらの値に基づいて、駆動力制御および外側の前輪制動力制御が実行される(ステップ9)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−142362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の車両の挙動制御装置によれば、車体スリップ角および車体スリップ角速度の推定値がそれぞれ所定のしきい値を上回ったときには、車両の挙動を制御するために、駆動輪への駆動力および外側の前輪制動力が決定されるものの、これらの駆動力および前輪制動力がどのように決定されるかについては具体的に示されていない。そのため、駆動力制御および制動力制御の応答性が低い場合には、比較的大きな車体スリップ角が頻繁に発生しているときでも、それを迅速に解消することができず、車両の挙動が不安定になるおそれがある。同じ理由により、運転者のステアリング操作およびアクセル操作などによって要求される車両の挙動と、駆動力制御および制動力制御による車両の挙動制御が互いに干渉することで、運転者に違和感を与えるおそれがあり、その場合には、運転性の低下を招いてしまう。また、車体スリップ角および車体スリップ角速度の推定値と所定のしきい値との比較結果に基づいて、駆動力制御および制動力制御が実行されるので、これらのしきい値の設定が不適切な場合、駆動力制御および制動力制御が必要以上に高い頻度で実行されたり、これとは逆に、実行頻度が低くなり過ぎたりするという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、車両の挙動制御の精度および運転性を向上させることができる車両の挙動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、走行中の車両3の挙動を制御する車両3の挙動制御装置1であって、車両3における車体スリップ角βを検出する車体スリップ角検出手段(ECU2、イメージセンサ20、ステップ2)と、車体スリップ角βの目標となる目標スリップ角βr(目標スリップ角のフィルタ値βf)を設定する目標スリップ角設定手段(ECU2、ステップ3)と、検出された車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるように、車両3の挙動を制御するための制御入力(目標車輪速Ws_cmd)を算出する制御入力算出手段(ECU2、ステップ4)と、を備え、制御入力算出手段は、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度を、車体スリップ角βに応じて設定する収束速度設定手段(ECU2、ステップ31〜35)を有することを特徴とする。
【0008】
この車両の挙動制御装置によれば、車両の挙動を制御するための制御入力が、車体スリップ角を目標スリップ角に収束させるように算出されるとともに、車体スリップ角の目標スリップ角への収束速度が、車体スリップ角に応じて設定されるので、車体スリップ角を、その大小に応じた適切な収束速度で目標スリップ角に収束させることができ、それにより、車両の挙動制御の精度を向上させることができる(なお、本明細書における「車体スリップ角の検出」は、車体スリップ角を、センサで直接的に検出することに限らず、算出または推定することも含む)。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両3の挙動制御装置1において、制御入力算出手段は、所定の応答指定型制御アルゴリズム[式(1)〜(2),(6)〜(12)]を用いて制御入力を算出し、収束速度設定手段は、所定の応答指定型制御アルゴリズムにおける、車体スリップ角βと目標スリップ角βr(目標スリップ角のフィルタ値βf)との偏差(追従誤差Eβ)の値0への収束速度および収束挙動を指定する応答指定パラメータ(切換関数設定パラメータVPOLE)を、車体スリップ角βに応じて設定する(ステップ31〜35)ことを特徴とする。
【0010】
この車両の挙動制御装置によれば、車両の挙動を制御するための制御入力が、所定の応答指定型制御アルゴリズムを用いて算出されるとともに、この所定の応答指定型制御アルゴリズムにおける、車体スリップ角と目標スリップ角との偏差の値0への収束速度および収束挙動を指定する応答指定パラメータが、車体スリップ角に応じて設定される。この場合、応答指定型制御アルゴリズムは、車体スリップ角と目標スリップ角との偏差の値0への収束速度および収束挙動を、応答指定パラメータの設定により自在に指定することができるという特性を備えているので、そのような応答指定パラメータを車体スリップ角に応じて設定することにより、車体スリップ角を、その大小に応じた適切な収束速度で目標スリップ角に確実に収束させることができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の車両3の挙動制御装置1において、収束速度設定手段は、応答指定パラメータ(切換関数設定パラメータVPOLE)を、車体スリップ角βの絶対値が目標スリップ角βr(目標スリップ角のフィルタ値βf)の絶対値以上のとき(ステップ31の判別結果がYESのとき)には、目標スリップ角βrの絶対値未満のとき(ステップ31の判別結果がNOのとき)よりも収束速度が速くなるように設定する(ステップ32)ことを特徴とする。
【0012】
この車両の挙動制御装置によれば、応答指定パラメータが、車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値以上のときには、目標スリップ角の絶対値未満のときよりも収束速度が速くなるように設定されるので、車体スリップ角を、その絶対値が大きいときには絶対値が小さいときよりも迅速に目標スリップ角に収束させることができ、それにより、車両の挙動制御の精度をさらに向上させることができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の車両3の挙動制御装置1において、収束速度設定手段は、応答指定パラメータ(切換関数設定パラメータVPOLE)を、車体スリップ角βの絶対値が目標スリップ角βr(目標スリップ角のフィルタ値βf)の絶対値から所定値αを減算した値(βf−α)以下であるときには、収束速度がほぼ値0になるように設定する(ステップ35)ことを特徴とする。
【0014】
この車両の挙動制御装置によれば、車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値から所定値を減算した値以下であるときには、収束速度がほぼ値0になるように応答指定パラメータが設定されるので、車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値よりも所定値以上小さい領域、すなわち車両の挙動が比較的安定している領域では、車体スリップ角を目標スリップ角に収束させるような車両の挙動制御が実行されない状態となる。それにより、運転者のステアリング操作およびアクセル操作などによって要求される車両の挙動と、車両の挙動制御とが互いに干渉することがなくなり、運転者の違和感を回避することができる。その結果、車両の運転性を向上させることができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の車両3の挙動制御装置1において、目標スリップ角設定手段は、車体スリップ角βの絶対値が目標スリップ角βrの絶対値以上になった頻度に応じて、目標スリップ角βrを補正する目標スリップ角補正手段(ECU2、ステップ19〜21)を有することを特徴とする。
【0016】
この車両の挙動制御装置によれば、車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値以上になった頻度に応じて、目標スリップ角が補正されるので、車両の挙動制御を過不足なく適切な頻度で実行することができる。
【0017】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の車両3の挙動制御装置1において、目標スリップ角補正手段は、所定期間(ΔT×mに相当する期間)内において、車体スリップ角βの絶対値が目標スリップ角βrの絶対値以上になった回数(スリップ回数S_Cslip)が所定回数SREF以上のときには、目標スリップ角βrをその絶対値が減少するように補正する(ステップ20)とともに、回数が所定回数未満のときには、目標スリップ角βrをその絶対値が増大するように補正する(ステップ21)ことを特徴とする。
【0018】
この車両の挙動制御装置によれば、所定期間内において、車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値以上になった回数と所定回数との比較結果に基づいて、目標スリップ角が減少または増大するように補正されるので、これらの所定期間および所定回数を適切に設定することにより、車両の挙動制御の実行・中止が頻繁に切り換わるのを回避しながら、車両の挙動制御を過不足なく適切な頻度で実行することができる。その結果、車両の挙動制御の精度および運転性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る車両の挙動制御装置について説明する。図1に示すように、本実施形態の挙動制御装置1は、ECU2を備えており、このECU2は、後述するように、車両3の挙動制御処理などを実行する。
【0020】
この車両3は、FR方式のものであり、車体の前側に搭載されたエンジン4と、遊動輪としての左右の前輪5,5と、駆動輪としての左右の後輪6,6を備えている。この車両3では、エンジン4の動力が、プロペラシャフト7、差動ギヤ機構8および左右のドライブシャフト9,9などを介して、左右の後輪6,6に伝達される。
【0021】
また、車両3には、複数のイメージセンサ20および4つの車輪速センサ21が設けられている(いずれも1つのみ図示)。各イメージセンサ20(車体スリップ角検出手段)は、例えばCCDなどで構成されており、車体と路面との相対的な関係を表す画像データImageを、検出信号としてECU2に出力する。ECU2は、イメージセンサ20の検出信号の画像データImageに基づいて、所定の算出アルゴリズムにより、車体スリップ角βを算出する。
【0022】
この場合、図2に示すように、実際の車体スリップ角β’は、車体の中心線と車両3の進行方向(旋回円の接戦方向)との間の相対的な角度を表すものであり、左右のコーナで正負の符号が切り換わるものであるが、本実施形態では、後述する挙動制御処理での演算負荷の低減を目的として、実際の車体スリップ角β’の絶対値|β’|を車体スリップ角βとして用いる。
【0023】
一方、4つの車輪速センサ21の各々は、対応する車輪の回転速度を検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、これらの車輪速センサ21の検出信号に基づいて、駆動輪速Ws_actおよび車速VPなどを算出する。この場合、駆動輪速Ws_actは、左右の後輪速度の平均値として算出され、車速VPは、駆動輪速Ws_actと、非駆動輪速(左右の前輪速度の平均値)との平均値として算出される。
【0024】
また、ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述したセンサ20,21の検出信号などに応じて、各種の制御処理を実行する。具体的には、以下に述べるように、車両3の挙動制御処理を実行するとともに、エンジン4の燃料噴射制御処理、吸入空気量制御処理および点火時期制御処理などを実行する。
【0025】
なお、本実施形態では、ECU2が、車体スリップ角検出手段、目標スリップ角設定手段、制御入力算出手段、収束速度設定手段および目標スリップ角補正手段に相当する。
【0026】
次に、図3を参照しながら、本実施形態の挙動制御装置1について説明する。同図に示すように、この挙動制御装置1は、車体スリップ角コントローラ30および駆動輪速コントローラ50を備えており、これらのコントローラ30,50はいずれも、具体的にはECU2で構成されている。
【0027】
まず、車体スリップ角コントローラ30について説明する。この車体スリップ角コントローラ30は、駆動輪速Ws_actの目標となる目標車輪速Ws_cmdを算出するものであり、この目標車輪速Ws_cmd(制御入力)は、具体的には、以下に述べるように、パラメータスケジューラと、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムと、適応外乱オブザーバとを組み合わせたアルゴリズム[式(1)〜(12)]により、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるための値として算出される。
【0028】
図4に示すように、車体スリップ角コントローラ30は、目標スリップ角算出部31、目標値フィルタ32、車体スリップ角算出部33、減算器34、パラメータスケジューラ35、切換関数算出部36、到達則入力算出部37、非線形入力算出部38、適応外乱オブザーバ39および加算器40を備えている。
【0029】
なお、以下の数式において、記号(k)付きの各離散データは、後述する所定の制御周期ΔTでサンプリングまたは算出されたデータであることを示しており、記号kは各離散データの算出(またはサンプリング)サイクルの順番を表している。例えば、記号kは今回の制御タイミングで算出(またはサンプリング)された値であることを、記号k−1は前回の制御タイミングで算出(またはサンプリング)された値であることをそれぞれ示している。この点は、以下の離散データにおいても同様である。なお、以下の説明では、各離散データにおける記号(k)を適宜省略する。
【0030】
まず、目標スリップ角算出部31では、所定期間内にβ≧βrが成立した回数に基づいて、後述する手法により、目標スリップ角βrが算出される。
【0031】
次いで、目標値フィルタ32では、下式(1)に示す1次遅れフィルタアルゴリズムにより、目標スリップ角のフィルタ値βfが算出される。なお、式(1)のKAは、所定のフィルタ係数であり、−1<KA<0が成立するように設定される。
【数1】
【0032】
一方、車体スリップ角算出部33では、イメージセンサ20の検出信号の画像データImageに基づいて、所定の算出アルゴリズムにより、車体スリップ角βが算出される。
【0033】
また、減算器34では、下式(2)により、追従誤差Eβ(偏差)が算出される。
【数2】
【0034】
さらに、パラメータスケジューラ35では、目標スリップ角のフィルタ値βfおよび車体スリップ角βに基づき、下式(3)〜(5)により、切換関数設定パラメータVPOLE(応答指定パラメータ)が算出される。ここで、下式(3)のVPOLE1は、値0に近い負の所定値(例えば−0.1)であり、式(4)のαは正の所定値である。
【0035】
【数3】
【0036】
以上の式(3)〜(5)により、切換関数設定パラメータVPOLEは、車体スリップ角βとフィルタ値βfの関係に基づいて、図5に示すような値として算出される。なお、切換関数設定パラメータVPOLEを、所定値VPOLE1と値−1との間で瞬間的に切り換えてもよい場合には、αを値0に設定してもよい。
【0037】
そして、切換関数算出部36では、追従誤差Eβおよび切換関数設定パラメータVPOLEを用いて、下式(6)により、切換関数σが算出される。
【数4】
【0038】
一方、到達則入力算出部37では、下式(7)により、到達則入力Urchが算出される。なお、下式(7)のKrchは、一定値の到達則ゲインである。
【数5】
【0039】
また、非線形入力算出部38では、下式(8)により、非線形入力Unlが算出される。
【数6】
【0040】
ここで、上式(8)のKnlは、一定値の非線形ゲインである。また、式(8)のsgn(σ(k))は符号関数であり、その値は、σ(k)≧0のときにはsgn(σ(k))=1となり、σ(k)<0のときにはsgn(σ(k))=−1となるように設定される(なお、σ(k)=0のときに、sgn(σ(k))=0となるように設定してもよい)。
【0041】
さらに、適応外乱オブザーバ39では、下式(9)〜(11)に示す固定ゲイン式の同定アルゴリズムにより、外乱推定値Ulsが算出される。
【0042】
【数7】
【0043】
上式(9)のσ_hatは、切換関数の推定値であり、式(10)のE_sigは、推定誤差を表している。また、式(11)のPは、一定値の同定ゲインである。
【0044】
そして、加算器40では、最終的に、下式(12)により、目標車輪速Ws_cmdが算出される。
【数8】
【0045】
以上の式(1)〜(12)の制御アルゴリズムは、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムを含んでおり、この目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムは、フィルタ係数KAの設定値により、フィルタ値βfの目標スリップ角βrへの追従特性を決定できるとともに、切換関数設定パラメータVPOLEの設定値により、車体スリップ角βのフィルタ値βfへの収束速度および収束挙動を決定できるという特性を備えている。したがって、式(1)〜(12)の制御アルゴリズムでは、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度および収束挙動が、切換関数設定パラメータVPOLEの値によって決定されることになる。
【0046】
より具体的には、切換関数設定パラメータVPOLEが負値でかつ値0に近いほど、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度が速くなり、一方、切換関数設定パラメータVPOLEが負値でかつ値−1に近いほど、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度が遅くなる。特に、VPOLE=−1のときには、車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度がほぼ値0になる。したがって、目標車輪速Ws_cmdは、βf≦βのときには、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに迅速に収束させるような値として算出されるとともに、β≦βf−αのときには、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させないような値として算出される。
【0047】
次に、前述した駆動輪速コントローラ50では、駆動輪速Ws_actが目標車輪速Ws_cmdに収束するように、エンジントルクTrqが算出される。この駆動輪速コントローラ50では、エンジントルクTrqの具体的な算出手法として、本出願人が特願2006−277319号で提案したものと同じ手法が用いられるので、その説明はここでは省略する。
【0048】
以上のように、エンジントルクTrqが算出されると、ECU2により、このエンジントルクTrqが得られるように、エンジン4の燃料噴射量、吸入空気量および点火時期などが制御される。その結果、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに収束するように制御される。
【0049】
次に、図6を参照しながら、ECU2により前述した制御周期ΔTで実行される挙動制御処理について説明する。なお、以下の説明において算出される各種の値は、ECU2のRAM内に記憶されるものとする。
【0050】
この処理では、まず、ステップ1(図では「S1」と略す。以下同じ)で、走行フラグF_RUNが「1」であるか否かを判別する。この走行フラグF_RUNは、車両3が走行中であるときには「1」に、停車中であるときには「0」にそれぞれ設定される。このステップ1の判別結果がNOで、停車中であるときには、そのまま本処理を終了する。
【0051】
一方、ステップ1の判別結果がYESで、車両3が走行中であるときには、ステップ2に進み、車体スリップ角βを算出する。具体的には、車体スリップ角βは、前述したように、イメージセンサ20の検出信号の画像データImageに基づいて、所定の算出アルゴリズムにより算出される。
【0052】
次いで、ステップ3で、目標スリップ角βrを算出する。この算出処理は、具体的には、図7に示すように実行される。まず、ステップ10で、RAMに記憶されている目標スリップ角の次回値βrNを今回値βrとして設定する。なお、目標スリップ角の次回値βrNの初期値は、正の所定値に設定される。
【0053】
次いで、ステップ11に進み、上記ステップ2で算出した車体スリップ角βが、目標スリップ角βr以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、車両3のスリップ量が所定値未満のときには、ステップ12に進み、スリップ値Cslipを値0に設定する。
【0054】
一方、ステップ11の判別結果がYESで、車両3のスリップ量が所定値以上のときには、ステップ13に進み、スリップ値Cslipを値1に設定する。
【0055】
次いで、ステップ14で、カウンタ値CTを、その前回値CTZに値1を加算した値に設定する。すなわち、カウンタ値CTを値1インクリメントする。なお、カウンタの前回値CTZの初期値は値0に設定される。
【0056】
次に、ステップ15に進み、カウンタ値CTが所定値CTREF以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、ステップ16に進み、目標スリップ角の次回値βrNを今回値βrに設定した後、本処理を終了する。
【0057】
一方、ステップ15の判別結果がYESのときには、ステップ17で、カウンタ値CTを値0にリセットする。次いで、ステップ18に進み、スリップ回数S_Cslipを算出する。このスリップ回数S_Cslipは、今回以前のm(mは2以上の整数)回の制御タイミングでそれぞれ算出されたm個のスリップ値Cslipの総和として算出される。
【0058】
次いで、ステップ19に進み、スリップ回数S_Cslipが所定回数SREF以上であるか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、車両3のスリップ量が所定値以上となる頻度が高いと判定して、ステップ20に進み、目標スリップ角の次回値βrNを、今回値βrから所定の補正項Dβを減算した値βr−Dβに設定した後、本処理を終了する。この補正項Dβは、正の所定値に設定される。
【0059】
一方、ステップ19の判別結果がNOのときには、車両3のスリップ量が所定値以上となる頻度が低いと判定して、ステップ21に進み、目標スリップ角の次回値βrNを、今回値βrに補正項Dβを加算した値βr+Dβに設定した後、本処理を終了する。
【0060】
以上のように、この目標スリップ角βrの算出処理では、S_Cslip≧SREFが成立したとき、すなわち、所定期間(ΔT×mに相当する期間)中において、車体スリップ角βが目標スリップ角βr以上となった頻度が高く、車両3のスリップの発生頻度が高いときには、目標スリップ角βrが補正項Dβ分減少するように設定される。それにより、後述する駆動輪速Ws_actの算出処理において、追従誤差Eβが一時的に増大しやすい状態となることで、2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにより、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに迅速に収束するように制御される。
【0061】
図6に戻り、ステップ3で以上のように目標スリップ角βrを算出した後、ステップ4に進み、目標車輪速Ws_cmdを算出する。この算出処理は、具体的には、図8に示すように実行される。
【0062】
まず、ステップ30で、前述した式(1)により、目標スリップ角のフィルタ値βfを算出する。次いで、ステップ31に進み、車体スリップ角βがフィルタ値βf以上であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、βf≦βのときには、ステップ32に進み、切換関数設定パラメータVPOLEを所定値VPOLE1に設定する。
【0063】
一方、ステップ31の判別結果がNOのときには、ステップ33に進み、車体スリップ角βが、フィルタ値βfから所定値αを減算した値βf−α以下であるか否かを判別する。
【0064】
この判別結果がNOで、βf−α<β<βfのときには、ステップ34に進み、前述した式(4)により、切換関数設定パラメータVPOLEを算出する。
【0065】
一方、ステップ33の判別結果がYESで、β≦βf−αのときには、ステップ35に進み、切換関数設定パラメータVPOLEを値−1に設定する。
【0066】
ステップ32,34,35のいずれかに続くステップ36で、前述した式(2)により、追従誤差Eβを算出する。
【0067】
次いで、ステップ37で、前述した式(6)により、切換関数σを算出する。その後、ステップ38で、前述した式(7)により、到達則入力Urchを算出する。
【0068】
ステップ38に続くステップ39で、前述した式(8)により、非線形入力Unlを算出し、その後、ステップ40で、前述した式(9)〜(11)により、外乱推定値Ulsを算出する。
【0069】
次に、ステップ41で、前述した式(12)により、目標車輪速Ws_cmdを算出した後、本処理を終了する。
【0070】
図6に戻り、ステップ4で以上のように目標車輪速Ws_cmdを算出した後、ステップ5に進み、前述した算出手法により、エンジントルクTrqを算出する。その後、本処理を終了する。以上のように、エンジントルクTrqが算出されると、前述したように、このエンジントルクTrqが得られるように、エンジン4の燃料噴射量、吸入空気量および点火時期などが制御される。その結果、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに収束するように制御される。
【0071】
次に、以上のように構成された本実施形態の挙動制御装置1による車両3の挙動制御結果について説明する。図9は、挙動制御装置1による制御結果の一例を示している。なお、同図では、理解の容易化のために、車体スリップ角βに代えて、実際の車体スリップ角β’が示されているとともに、β’が負値のときの参照のために、目標スリップ角の負値−βrが破線で示されている。また、同図において、時刻t1〜t2、t2〜t3、t3〜t4、およびt4〜t5の期間がそれぞれ、前述したΔT×mの期間に相当する。
【0072】
同図に示すように、挙動制御処理の実行中、t1〜t2の期間において、β’≧βrすなわちβ≧βrとなる状態が頻発することにより、S_Cslip≧SREFが成立すると、時刻t2で、目標スリップ角の次回値βrNすなわち目標スリップ角βrが、今回値βrから補正項Dβを減算した値βr−Dβに設定される。次いで、t2〜t3の期間でも、β≧βrとなる状態が頻発し、S_Cslip≧SREFが成立すると、時刻t3で、目標スリップ角βrが、今回値βrから補正項Dβを減算した値βr−Dβに設定される。
【0073】
そして、時刻t3以降、β’<βrすなわちβ<βrとなる状態が継続することにより、S_Cslip<SREFが成立すると、時刻t4で、目標スリップ角βrが、今回値βrに補正項Dβを加算した値βr+Dβに設定される。そして、t4〜t5の期間でも、β<βrとなる状態が継続することで、S_Cslip<SREFが成立すると、時刻t5で、目標スリップ角βrが、今回値βrに補正項Dβを加算した値βr+Dβに設定される。
【0074】
以上のように、本実施形態の挙動制御装置1によれば、目標車輪速Ws_cmdが、適応外乱オブザーバと目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムとを組み合わせたアルゴリズム[式(1)〜(2),(6)〜(12)]により、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるように算出されるとともに、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムにおける切換関数設定パラメータVPOLEが、車体スリップ角βと目標スリップ角のフィルタ値βfとの比較結果に基づいて設定される[式(3)〜(5)]。さらに、駆動輪速Ws_actが目標車輪速Ws_cmdに収束するように、エンジントルクTrqが算出されるとともに、このエンジントルクTrqが得られるように、車両3のエンジン4の運転状態が制御される。以上により、切換関数設定パラメータVPOLEが値−1に設定されていない限り、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに収束するように制御される。
【0075】
前述したように、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムでは、追従誤差Eβの値0への収束速度および収束挙動、すなわち車体スリップ角βの目標スリップ角βrへの収束速度および収束挙動を、切換関数設定パラメータVPOLEの設定値によって自在に指定することができるので、そのような切換関数設定パラメータVPOLEを車体スリップ角βに応じて設定することにより、車体スリップ角βを、その大小に応じた適切な収束速度で目標スリップ角βrに確実に収束させることができる。特に、βf≦βのとき、すなわち車体スリップ角βの値が大きい領域にあるときには、切換関数設定パラメータVPOLEが値0に近い負値VPOLE1に設定されるので、車体スリップ角βの値が大きい領域にあるときには、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに迅速に収束させることができる。
【0076】
一方、β≦βf−αのときには、切換関数設定パラメータVPOLEが値−1に設定されるので、車体スリップ角βが小さく、車両の挙動が比較的安定している領域では、車両の挙動制御が実行されない状態となる。それにより、運転者のステアリング操作およびアクセル操作などによって要求される車両の挙動と、車両の挙動制御とが互いに干渉することがなくなり、運転者の違和感を回避することができる。その結果、車両の運転性を向上させることができる。
【0077】
また、所定期間(ΔT×mに相当する期間)内において、スリップ(β≧βr)の発生回数であるスリップ回数S_Cslipが所定回数SREF以上であるときには、目標スリップ角の次回値βrNが、今回値βrから補正項Dβを減算した値βr−Dβに設定される。一方、S_Cslip<SREFであるときには、目標スリップ角の次回値βrNが、今回値βrに補正項Dβを加算した値βr+Dβに設定される。すなわち、スリップの有無に応じて、目標スリップ角βrが減少または増大するように補正されるので、これらの所定期間および補正項Dβを適切に設定することにより、車両の挙動制御の実行・中止が頻繁に切り換わるのを回避しながら、車両の挙動制御を過不足なく適切な頻度で実行することができる。その結果、車両の挙動制御の精度および運転性をさらに向上させることができる。
【0078】
なお、実施形態は、制御アルゴリズムにおいて、車体スリップ角βとして、実際の車体スリップ角β’の絶対値|β’|を用いた例であるが、実際の車体スリップ角β’をそのまま車体スリップ角として用いてもよい。その場合、前述したパラメータスケジューラ35での切換関数設定パラメータVPOLEの算出において、β’≧0のときには、前述した式(3)〜(5)の「β」を「β’」に置き換えた式を用い、β’<0のときには、目標スリップ角βrを負値として算出するとともに、下式(13)〜(15)を用いればよい。
【0079】
【数9】
【0080】
以上の式(13)〜(15)を用いた場合、切換関数設定パラメータVPOLEは、実際の車体スリップ角β’が負値であるときには、図10に示すように算出される。
【0081】
また、本実施形態は、車体スリップ角βを、イメージセンサ20の検出信号の画像データImageに基づいて、所定の算出アルゴリズムにより算出した例であるが、本願発明の車体スリップ角の算出手法はこれに限らず、車体スリップ角を算出できるものであればよい。例えば、車体の速度を検出するセンサを用いて、図11における車体の横速度Vss、前進速度Vfwおよび車速VPを算出した後、これらの速度に基づいて、実際の車体スリップ角β’を算出してもよい。さらに、前述した特許文献1と同じ算出手法により、車体スリップ角を算出してもよい。
【0082】
さらに、実施形態は、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに収束するように、目標車輪速Ws_cmdを算出し、駆動輪速Ws_actがこの目標車輪速Ws_cmdになるように、エンジントルクTrqを算出することにより、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるように制御した例であるが、本願発明の車両の挙動制御装置の制御手法はこれに限らず、車体スリップ角βを目標スリップ角βrに収束させるように制御できるものであればよい。
【0083】
例えば、駆動輪速Ws_actが目標車輪速Ws_cmdになるように、ブレーキ制動力を制御するように構成してもよい。さらに、駆動輪速Ws_actが目標車輪速Ws_cmdになるように、ブレーキ制動力およびエンジントルクの双方を制御するように構成してもよい。また、実施形態の制御アルゴリズム式(1)〜(12)に代えて、PID制御アルゴリズムなどのフィードバック制御アルゴリズムを用いて、車体スリップ角βが目標スリップ角βrに収束するように、エンジントルクTrqを算出してもよい。
【0084】
また、実施形態は、応答指定型制御アルゴリズムとして、目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムを用いた例であるが、本願発明の応答指定型制御アルゴリズムはこれに限らず、車体スリップ角の目標スリップ角への収束速度を指定可能な応答指定型制御アルゴリズムであればよい。
【0085】
例えば、実施形態の目標値フィルタ型2自由度スライディングモード制御アルゴリズムに代えて、目標スリップ角のフィルタ値βfを用いることなく、目標スリップ角βrをそのまま用いる一般的なスライディングモード制御アルゴリズムを用いてもよい。その場合には、式(1)を省略し、式(2)〜(5)における「βf」を、「βr」に置き換えた式と、式(6)〜(12)とを用いればよい。このようにした場合でも、実施形態の挙動制御装置1と同様の作用効果を奏することができる。
【0086】
さらに、応答指定型制御アルゴリズムとして、バックステッピング制御アルゴリズムを用いてもよい。
【0087】
また、実施形態は、本発明の挙動制御装置をFR方式の車両に適用した例であるが、本発明の挙動制御装置を全輪駆動方式の車両に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本願発明の一実施形態に係る挙動制御装置およびこれを適用した車両の概略構成を示す図である。
【図2】車体スリップ角を説明するための模式図である。
【図3】挙動制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】車体スリップ角コントローラの概略構成を示すブロック図である。
【図5】パラメータスケジューラにおける切換関数設定パラメータVPOLEの算出結果を示す図である。
【図6】挙動制御処理を示すフローチャートである。
【図7】目標スリップ角βrの算出処理を示すフローチャートである。
【図8】目標車輪速Ws_cmdの算出処理を示すフローチャートである。
【図9】挙動制御装置による制御結果の一例を示すタイミングチャートである。
【図10】実際の車体スリップ角β’を用いた場合の、切換関数設定パラメータVPOLEの算出結果を示す図である。
【図11】実際の車体スリップ角β’の他の算出手法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0089】
1 挙動制御装置
2 ECU(車体スリップ角検出手段、目標スリップ角設定手段、制御入力算出手段
、収束速度設定手段、目標スリップ角補正手段)
3 車両
20 イメージセンサ(車体スリップ角検出手段)
β 車体スリップ角
βr 目標スリップ角
βf 目標スリップ角のフィルタ値(目標スリップ角)
α 所定値
Eβ 追従誤差(偏差)
VPOLE 切換関数設定パラメータ(応答指定パラメータ)
Ws_cmd 目標車輪速(制御入力)
S_Cslip スリップ回数(車体スリップ角の絶対値が目標スリップ角の絶対値以上
になった回数)
SREF 所定回数
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の車両の挙動を制御する車両の挙動制御装置であって、
当該車両における車体スリップ角を検出する車体スリップ角検出手段と、
当該車体スリップ角の目標となる目標スリップ角を設定する目標スリップ角設定手段と、
前記検出された車体スリップ角を前記目標スリップ角に収束させるように、前記車両の挙動を制御するための制御入力を算出する制御入力算出手段と、
を備え、
当該制御入力算出手段は、前記車体スリップ角の前記目標スリップ角への収束速度を、前記車体スリップ角に応じて設定する収束速度設定手段を有することを特徴とする車両の挙動制御装置。
【請求項2】
前記制御入力算出手段は、所定の応答指定型制御アルゴリズムを用いて前記制御入力を算出し、
前記収束速度設定手段は、前記所定の応答指定型制御アルゴリズムにおける、前記車体スリップ角と前記目標スリップ角との偏差の値0への収束速度および収束挙動を指定する応答指定パラメータを、前記車体スリップ角に応じて設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項3】
前記収束速度設定手段は、前記応答指定パラメータを、前記車体スリップ角の絶対値が前記目標スリップ角の絶対値以上のときには、当該目標スリップ角の絶対値未満のときよりも前記収束速度が速くなるように設定することを特徴とする請求項2に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項4】
前記収束速度設定手段は、前記応答指定パラメータを、前記車体スリップ角の絶対値が前記目標スリップ角の絶対値から所定値を減算した値以下であるときには、前記収束速度がほぼ値0になるように設定することを特徴とする請求項3に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項5】
前記目標スリップ角設定手段は、前記車体スリップ角の絶対値が前記目標スリップ角の絶対値以上になった頻度に応じて、当該目標スリップ角を補正する目標スリップ角補正手段を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両の挙動制御装置。
【請求項6】
前記目標スリップ角補正手段は、所定期間内において、前記車体スリップ角の絶対値が前記目標スリップ角の絶対値以上になった回数が所定回数以上のときには、前記目標スリップ角をその絶対値が減少するように補正するとともに、当該回数が所定回数未満のときには、前記目標スリップ角をその絶対値が増大するように補正することを特徴とする請求項5に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項1】
走行中の車両の挙動を制御する車両の挙動制御装置であって、
当該車両における車体スリップ角を検出する車体スリップ角検出手段と、
当該車体スリップ角の目標となる目標スリップ角を設定する目標スリップ角設定手段と、
前記検出された車体スリップ角を前記目標スリップ角に収束させるように、前記車両の挙動を制御するための制御入力を算出する制御入力算出手段と、
を備え、
当該制御入力算出手段は、前記車体スリップ角の前記目標スリップ角への収束速度を、前記車体スリップ角に応じて設定する収束速度設定手段を有することを特徴とする車両の挙動制御装置。
【請求項2】
前記制御入力算出手段は、所定の応答指定型制御アルゴリズムを用いて前記制御入力を算出し、
前記収束速度設定手段は、前記所定の応答指定型制御アルゴリズムにおける、前記車体スリップ角と前記目標スリップ角との偏差の値0への収束速度および収束挙動を指定する応答指定パラメータを、前記車体スリップ角に応じて設定することを特徴とする請求項1に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項3】
前記収束速度設定手段は、前記応答指定パラメータを、前記車体スリップ角の絶対値が前記目標スリップ角の絶対値以上のときには、当該目標スリップ角の絶対値未満のときよりも前記収束速度が速くなるように設定することを特徴とする請求項2に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項4】
前記収束速度設定手段は、前記応答指定パラメータを、前記車体スリップ角の絶対値が前記目標スリップ角の絶対値から所定値を減算した値以下であるときには、前記収束速度がほぼ値0になるように設定することを特徴とする請求項3に記載の車両の挙動制御装置。
【請求項5】
前記目標スリップ角設定手段は、前記車体スリップ角の絶対値が前記目標スリップ角の絶対値以上になった頻度に応じて、当該目標スリップ角を補正する目標スリップ角補正手段を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両の挙動制御装置。
【請求項6】
前記目標スリップ角補正手段は、所定期間内において、前記車体スリップ角の絶対値が前記目標スリップ角の絶対値以上になった回数が所定回数以上のときには、前記目標スリップ角をその絶対値が減少するように補正するとともに、当該回数が所定回数未満のときには、前記目標スリップ角をその絶対値が増大するように補正することを特徴とする請求項5に記載の車両の挙動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−168770(P2008−168770A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3376(P2007−3376)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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