説明

車両の排気装置

【課題】排気装置の中間部の熱膨張を効果的に吸収して、中間部の変形を抑制できる車両の排気装置を提供する。
【解決手段】排気装置36は、上流部36aがエンジンEに支持され、下流部36bが車体フレームFRに支持され、中間部36cが取付ブラケット53とこれの取付孔53aに挿通した締結部材15とにより車体フレームFRに支持される。取付孔53aは、熱膨張による前記中間部の変位を許容する大きさに設定されている。例えば、取付孔53aの上下方向の寸法Hが、締結部材15における取付孔53に挿通される部分55bの外径Dの1.3〜2.3倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のような車両に搭載されてエンジンからの排気ガスを排出する排気装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の排気装置は、上流側の排気管の上流端部がエンジンの排気ポートに接続して支持され、下流側のマフラーが車体フレームに支持されている。また、排気装置の中間部は、これに設けられた取付ブラケットを介して車体フレームの支持ブラケットに支持されている。すなわち、取付ブラケットは、これの取付孔と支持ブラケットとにボルトを挿通して、スペーサで保持されたゴムダンパを介在してボルトをナットに締結することにより、支持ブラケットに支持されている。
【0003】
ところが、上記従来の排気装置は、上流部と下流部が強固に支持されているために、エンジンから排出される高温の排気ガスにより、熱膨張して中間部が大きく変位する傾向にあり、これが大きな熱応力を発生させる。他方、エンジンから排出された排気ガスを、排気通路に設けた触媒コンバータを用いて浄化する排気装置において、触媒をエンジンの排気ポートに近づけてコールドスタート直後に迅速に触媒が活性化するように、触媒コンバータを排気通路の中間部に設け、その上流側近傍に排気ガスセンサを配置したものがある(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3026684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その場合、排気ガスを再燃焼して600℃程度の高温となる触媒コンバータにより排気装置の中間部がさらに高温となり、しかも、この中間部に、触媒コンバータの重量と排気ガスセンサを装着するためのセンサボス部の重量が付加される結果、中間部が下方に大きく変位する。これに対し、従来では取付ブラケットの板厚を大きくして機械的強度を高める対策も行われているが、その場合には取付ブラケットとこれを溶接すべき排気管との間に大きな肉厚差が生じるために、溶接部の品質が低下しやすい。
【0006】
本発明は、前記従来の課題に鑑みてなされたもので、排気通路の中間部の熱膨張を効果的に吸収して、排気装置に大きな熱応力が発生するのを防止しながら、排気装置の中間部を車体フレームに、より安定して支持できる車両の排気装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両の排気装置は、車体フレームに支持されたエンジンからの排気ガスを排出する排気装置であって、上流部が前記エンジンに支持され、下流部が前記車体フレームに支持され、中間部が取付ブラケットとこれの取付孔に挿通した締結部材とにより前記車体フレームに支持され、前記取付孔が熱膨張による前記中間部の変位を許容する大きさに設定されている。
【0008】
この構成によれば、上流部および下流部の両端が支持された排気装置の中間部に熱膨張が生じた場合、取付孔とこれに挿通された締結部材との間に存在する隙間分だけ中間部が下方へ変位することにより、前記熱膨張を吸収することができる。したがって、排気装置に大きな熱応力が発生するのを防止し、かつ、排気装置の中間部をより安定して車体フレームに支持できる。
【0009】
排気装置の中間部が熱膨張により変位する方向は、ほぼ上下方向に合致している。そこで、本発明において、前記取付孔は、前記中間部の変位方向であるほぼ上下方向に沿った寸法が、前記締結部材における取付孔に挿通される部分の外径の1.3〜2.3倍に設定されていることが好ましい。取付孔の長軸方向の寸法が締結部材の外径の1.3倍未満の場合には、熱膨張による中間部の変位を十分に吸収することができず、2.3倍を越えると、中間部が熱膨張以外の原因、例えば周囲の物体との接触により外力を受けたとき、過度に変位する可能性がある。
【0010】
本発明において、前記中間部に排気浄化用の触媒コンバータが装着され、この触媒コンバータの下流側に前記取付ブラケットが配置されていることが好ましい。この構成によれば、排気ガスを再燃焼して高温となる触媒コンバータによる排気通路の熱膨張および比較的重い触媒コンバータの自重により前記中間部が大きく下方に変位しても、取付ブラケットにより前記中間部をより安定して支持できる。
【0011】
また、本発明において、前記中間部に、振動を抑制するおもりが設けられている構成とすることができる。この構成によれば、排気通路の中間部に比較的重い触媒コンバータを設けたことより上下方向加速度の大きい振動が発生しようとするのをおもりで抑制する構成としながらも、触媒コンバータとおもりとの両方の自重により中間部に作用する大きな押し下げ力を、取付ブラケットの長孔により効果的に吸収できる。
【0012】
また、本発明において、前記中間部と前記車体フレームの一方に前記取付ブラケットが、他方に支持ブラケットがそれぞれ設けられ、前記締結部材は、ボルトとねじ込み量が規制されるセルフロックタイプのナットと前記ボルトに軸方向の弾性力を付加するばね体とを有し、前記ボルトが前記取付ブラケットの取付孔と前記支持ブラケットに設けた支持孔とに挿通され、前記ナットおよび前記ばね体によって前記取付ブラケットおよび前記支持ブラケットに、熱膨張による前記中間部と前記車体フレーム間の変位を許容する締結力が付与された構成することができる。この構成によれば、ばね体によりボルトに軸方向の弾性力を付加しているので、排気装置に熱膨張が生じたときに、排気装置の中間部が一層円滑に下方へ変位することができるとともに、前記熱膨張が解消したときに円滑に元の位置に復帰することができる。また、ボルトに対してセルフロックタイプのナットが所定のねじ込み量に規制されてねじ込まれているので、ばね体が所要の撓み量に保持され、これにより、熱膨張に伴う中間部の変位がスムーズに行われる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車両の排気装置によれば、中間部を車体フレームに支持する取付ブラケットの取付孔を、熱膨張による前記中間部の変位を許容する大きさに設定したので、上、下流部の両端が支持された排気装置に熱膨張が生じた場合に、取付孔と締結部材との間に存在する隙間分だけ、排気装置の中間部が変位して熱膨張を吸収できるので、この中間部をより安定して車体フレームに支持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る排気装置を備えた自動二輪車を示す側面図である。この自動二輪車は、車体フレームFRの前半部を構成するメインフレーム1の前端にフロントフォーク2が操向自在に支持され、このフロントフォーク2の下端部に前輪4が支持されている。また、フロントフォーク2の上端部を支持するアッパブラケット8にはハンドル9が取り付けられている。メインフレーム1の後端下部には、スイングアームブラケット10が形成され、このスイングアームブラケット10に、スイングアーム11の前端部がピポット軸12を介して上下揺動自在に支持されている。このスイングアーム11の後端部には後輪13が支持されている。メインフレーム1の後部に連結されたシートレール14が車体フレームFRの後半部を構成している。メインフレーム1の中央下部にはエンジンEが支持され、このエンジンEからチェーンまたはベルトのような動力伝達部材18を介して後輪13を駆動するようになっている。
【0015】
前記シートレール14にはライダー用シート19と同乗者用シート20が支持されている。前記メインフレーム1の上部、つまり車体上部で、前記ハンドル9とライダー用シート19との間には燃料タンク21が取り付けられている。また、車体前部には、前記ハンドル9およびフロントフォーク2上部の前方部分を覆う樹脂製のカウリング22が装着されている。
【0016】
前記エンジンEは、この例では並列4気筒4サイクルエンジンであり、クランクケース24、シリンダ27、その上部のシリンダヘッド28、その上部のシリンダヘッドカバー29およびクランクケース24の下部のオイルパン(図示せず)を有するエンジン本体23と、変速機31とを備えている。排気装置36は、シリンダヘッド28の4つの排気ポート28aに各々の前端部(上流端部)が接続されて排気ガスGをエンジンEの前方から下方に導く4本の排気管32と、この各2本の排気管32の後端(下流端)を集合する中間排気管34と、この中間排気管34の下流端部に連結された単一の集合排気管48とを備えている。さらに、集合排気管48の下流端部は、接続管39を介してマフラー33に連結されている。排気管体であるこれら排気管32、中間排気管34、集合排気管48および接続管39と、マフラー33とが、排気通路37を形成している。
【0017】
この排気装置33の上流部36a、つまり各排気管32の前端部がエンジンEのシリンダヘッド28に支持され、下流部36bであるマフラー33が、シートレール14に取り付けられたリヤステップブラケット30に支持され、中間部である接続管39の前端近傍箇所に取り付けられた取付ブラケット53が、メインフレーム1の下部の支持部71に設けた支持ブラケット54に、ボルトのような締結部材15を介して支持されている。
【0018】
図2は、図1の排気装置36を示す拡大平面図である。4気筒エンジンEにおいて、各気筒ごとに1本ずつ設けられた合計4本の排気管32が、2本ずつ集合されて、4本から2本へ、2本から1本へと段階的に集合される。すなわち、4本の排気管32は、各2本の排気管32の下流端部に1つずつ連結された2つの中間排気管34によって2本に集合され、さらに、前記2つの中間排気管34の下流端部に連結された単一の集合排気管48によって1本に集合されており、集合排気管48内には、排気浄化用の触媒コンバータ43が収納されている。この排気装置36は、車体の左右にそれぞれマフラー33を有した構造に適用したものであり、したがって、集合排気管48は、触媒コンバータ43の収納箇所の下流側が二つの分岐排気管48A,48Bに別れた二股形状になっており、二つの分岐排気管48A,48Bが、それぞれ個別の接続管39,39を介して左右のマフラー33(図1)に連結されている。
【0019】
2つの中間排気管34、集合排気管48および2つの接続管39が排気装置36の中間部36cを構成しており、各接続管39にそれぞれ取付ブラケット53が溶接により取り付けられている。中間部36cの中間排気管34および集合排気管48は、図1に示すエンジンEの下方に配置されており、これによって、排気装置36の全体は、側面視で、中間部36cが上流部36aおよび下流部36bよりも下方に位置するように湾曲した形状になっている。
【0020】
前記触媒コンバータ43を排気装置36の中間部36cに配置した理由はつぎのとおりである。すなわち、触媒コンバータ43が排気通路37の下流側に設けられていると、排気ガスが通過中に温度が若干低下した状態で触媒コンバータに導入されることになるので、エンジンEがコールドスタートした直後には、触媒が活性化して酸化反応するまでに時間を要し、十分な浄化機能を発揮しないことになる。そこで、排気ガス規制が厳しくなったのに伴い、排気通路37の上流側に触媒コンバータ43を装着して、エンジンEのコールドスタート直後に直ちに触媒を活性化して酸化反応を起こさせるようにしている。
【0021】
触媒コンバータ43は、周知のハニカム構造となったものである。すなわち、図2のIV−IV線断面拡大図である図4(a)に示すように、触媒コンバータ43は、多数の目を周方向と径方向にならべて形成したハニカム構造であり、セラミック製の環状の平板43aと環状の波板43bとを同心状に交互に重ねて多数の目を形成した、横断面円形のハニカム構造体である。平板43aおよび波板43bには白金およびロジウムなどの触媒を焼成して担持させている。この触媒コンバータ43は、円柱状のハニカム構造の軸方向、つまり目の方向を排気ガスの流動方向に合致させて配置されている。
【0022】
また、図2のIII −III 線断面拡大図である図3に示すように、集合排気管48内には、触媒コンバータ43の上流側の排気通路37を2つの互いに平行な通路部分に区画する仕切り板51によって仕切られた2つの触媒導入通路48a,48aが形成されている。したがって、この触媒コンバータ43とこれの上流側の仕切り板51とにより、排気通路37が二つに区画された区域を、図2の中間排気管34から下流側に長く設定することができ、これによって、エンジンEの中速領域における出力が向上する。
【0023】
集合排気管48は、いわゆる「もなか構造」を採用している。すなわち、図3に示す断面半円形状の両側部に耳部40a,40aが折り曲げにより形成された一対の半円形プレート40A,40Bを備え、各々の耳部40a,40b同士を重ね合わせて、溶接により結合され、集合排気管48が形成されている。両プレート40A,40Bにより形成された内方空間に触媒コンバータ43が配置されている。
【0024】
図2に示すように、集合排気管48における二つの分岐排気管48A,48Bに分岐する箇所の両外側部には、ガセット17,17がそれぞれ溶接により固定されており、このガセット17は、分岐排気管48A,48Bの根元部を補強する機能と、前述の「もなか構造」となった集合排気管48の二つの半円形プレート40A,40B(図3)が口開きするのを防止する機能を有している。また、各接続管39は、後端部の環状凹部39aにガスケット(図示せず)を嵌め込んだ状態でマフラー33(図1)に接続され、このガスケットにより熱膨張による接続管39の伸びを吸収するように図っている。
【0025】
集合排気管48における触媒コンバータ43の収納箇所に対し上流側近傍箇所には、センサボス部41が取り付けられている。図3に示すように、センサボス部41は、集合排気管48の上半部である半円形プレート40Bに位置し、二点鎖線で示す排気ガス成分検出用の排気ガスセンサ44がねじ込みにより取り付けられるねじ孔41aを有している。排気ガスセンサ44は、酸素センサまたは空燃比センサなどである。この例では、排気ガスセンサ44は、触媒コンバータ43での排気ガスGの再燃焼を円滑に行うことを目的として、排気通路37における触媒コンバータ43の上流側近傍箇所の排気ガスGの酸素量を検出する酸素センサであり、仕切り板51に設けられた連通孔51aを介して二つの触媒導入通路48a,48aの酸素量を検出する。この排気ガスセンサ44の検出信号はエンジンコントローラ(図示せず)に送られ、エンジンコントローラは、検出信号に基づき、例えば燃料噴射量の調整による吸気系の空燃比の制御と、排気ポートに吹き込む2次空気量の制御とを行う。
【0026】
また、図2に示すように、集合排気管48は、排気ガスGの流動方向におけるセンサボス部41と同一位置におもり49が設けられている。このおもり49は、比較的重い触媒コンバータ43およびセンサボス部41を排気装置36の中間部36cに配置したことに伴い、エンジン振動または走行時の車体振動を受けて排気装置36の中間部36cが上下方向加速度の大きい振動を発生しようとするのを抑制するためのものである。おもり49は、図4(a)に示すように、振動を効果的に抑制するために、集合排気管48におけるセンサボス部41に近接する上面側に配置されて、周縁が、図4(a)のB方向矢視図である同図(b)に示すように、集合排気管48の外面に溶接Wにより固定されている。
【0027】
図2の車体右側の接続管39の拡大側面図である図5に示すように、取付ブラケット53には、前記締結部材15を挿通させる取付孔53aが形成されている。この取付孔53aは、熱膨張による前記中間部の変位を許容する大きさに設定されている。排気装置36は、中間部36cが上流部36aおよび下流部36bよりも下方に位置するように湾曲した形状であるから、排気ガスGからの受熱による熱膨張によって中間部36cが変位する方向は、ほぼ上下方向となる。そこで、この実施形態では、取付孔53aが、ほぼ上下方向Yに沿って長い形状、すなわち、ほぼ上下方向Yに沿った長軸Aを持つ長孔とされている。この取付孔53aの長軸Aと鉛直方向とのなす角度は0〜15°であり、好ましくは0〜10°である。
【0028】
比較のために同図に2点鎖線で示す従来の取付ブラケットの取付孔70は、排気装置36の長さ方向の取付位置の誤差を吸収するために、前後方向Xに長い長孔に形成されている。前記取付孔53aは、従来の取付孔70の孔寸法を、前後方向Xは同一程度とし、上下方向Yに大きくして、全体として、隅部に丸味を持たせた四角形状となっている。したがって、この取付孔53aは、排気通路37の熱膨張に伴う上下方向Yの伸びを吸収するとともに、前後方向Xにおける中間部36cの取付位置の誤差も吸収する。この例では、取付孔53aの長軸Y方向の寸法Hは、これに直交する方向(ほぼ前後方向X)の寸法Uの1.1倍に設定されている。
【0029】
図6に、締結部材15により、取付ブラケット53を介して接続管39を支持ブラケット54に支持させた箇所の拡大断面図を示す。同図に示すように、取付ブラケット53は、2枚のプレートを重ねた、前後方向から見て二股形状を有し、その二股箇所の先端部分が接続管39の外面に溶接により固定されており、下側の固定箇所が、接続管39の外面に溶接された補強プレート42により補強されている。
【0030】
支持ブラケット54の貫通孔58には、リング体60とその内側に同心状に配置されたスペーサ61との間にゴムダンパ62を介装した防振体63が嵌め込まれており、この防振体63の中心孔が支持孔54aとなっている。取付ブラケット53が車体の外側、支持ブラケット54が車体の内側になるように取付孔53aと支持孔54aとが重合され、ボルト55が車体外側から取付ブラケット53の取付孔53aと支持ブラケット54の支持孔54aとに挿通されている。ボルト55の首下、つまりボルト頭部55aと取付ブラケット53との間に、皿ばねからなるばね体50およびワッシャ52が介装され、ボルト55の先端部には、ねじ込み量が自動的に規制されるセルフロックタイプのナット56が螺合されている。スペーサ61の両端61aはつば部となっており、一方のつば部61aが取付ブラケット53に、他方のつば部61aがナット56に接触している。この取付構造により、取付ブラケット53が車体フレームFRの支持ブラケット54に支持されている。
【0031】
前記取付ブラケット53を支持ブラケット54に支持させる締結部材15は、前記ボルト55、ナット56、ワッシャ52およびばね体50からなる。この締結部材15は、ばね体50によりボルト55に対し軸方向の弾性力が付加されている。セルフロックタイプのナット56は、ばね体50が所要の弾性力を失う程度にまで変形しないように、ボルト55へのねじ込み量が規制されており、これにより、取付ブラケット53および支持ブラケット54に対して、熱膨張に伴う排気装置36の中間部36cおよび取付ブラット53と支持ブラケット54との間の変位、つまり中間部36cと車体フレームFRとの間の変位を許容する締結力を付与している。なお、取付ブラケット53と支持ブラケット54は、組立時、つまりコールド時に、ボルト55が取付ブラケット53の取付孔53aの下部に位置するように相対配置されており、これによって、中間部36cが熱膨張に伴って下方へ変位可能になっている。
【0032】
上記構成において、図1に示す排気装置36は、上流部36aおよび下流部36bの両端がエンジンEおよび車体フレームFRにそれぞれ強固に支持されているので、排気装置36の中間部36cに熱膨張による変形が集積されて、中間部36cが下方に変形しようとする。特に、中間部36cには触媒コンバータ43が内蔵されているために高温となるので、熱膨張による中間部36cの変位が大きくなる。ここで、図6の取付ブラケット53の長孔となった取付孔53aとこれに挿通されたボルト55との間に存在する上下の隙間分だけ中間部36cおよび取付ブラケット53が円滑に下方へ変位することにより、熱膨張を吸収することができるので、中間部36cに大きな熱応力が発生するのが防止される。また、排気装置36がコールド状態に戻ったときには、中間部36cおよび取付ブラケット53が前記隙間分だけ円滑に上方へ変位して、元の位置に復帰する。こうして、中間部36cが車体フレームFRに、従来よりも安定して支持される。
【0033】
特に、この排気装置36では、ばね体50によりボルト55に軸方向の弾性力を付加しているとともに、ボルト55に対してセルフロックタイプのナット56が所定のねじ込み量に規制されてねじ込まれているので、ばね体50が所要の撓み量に保持され、これにより、排気装置36での熱膨張の発生および解消に伴う中間部36cおよび取付ブラケット53の上下方向への変位が一層スムーズに行われる。
【0034】
また、排気装置36の中間部36cに、図2に示す触媒コンバータ43とセンサボス部41とおもり49とを設けているから、600℃程度の高温となる触媒コンバータ43による大きな熱膨張に加えて、触媒コンバータ43、センサボス部41およびおもり49の自重が付加されるので、中間部36cが大きく下方に変位しようとする。これに対し、この排気装置36では、前述のとおり、中間部36cおよび取付ブラケット53が円滑に下方に変位することにより、熱膨張および自重の双方による下方への大きな変位を吸収できる。
【0035】
中間部36cの変位を円滑に吸収する効果を得るためには、図6に示す取付ブラケット53の取付孔53aの長軸Y方向の寸法Hを、締結部材15のボルト55における取付孔53aに挿通される部分であるねじ部55bの外径Dの1.3〜2.3倍に設定するのが好ましい。取付孔53aの長軸Y方向の寸法Hが締結部材15のボルト55の外径Dの1.3倍未満の場合には、熱膨張による中間部36cの変形を十分に吸収することができず、2.3倍を越えると、中間部36cが熱膨張以外の原因、例えば周囲の部材との接触により外力を受けたとき過度に変位する可能性がある。この寸法Hのより好ましい範囲は、外径Dの1.5〜2.1倍である。
【0036】
図7(a),(b)は本発明の第2実施形態に係る排気装置36を示す平面図および側面図である。同図において、図2および図5と同一若しくは相当するものには同一の符号を付して、重複する説明を省略する。この排気装置36は、車体の左右の一方のみにマフラーを有した構造に適用したものである。集合排気管45は、単一の接続管39を介して単一のマフラー33に接続されており、接続管39における集合排気管45との接続近傍箇所に、第1実施形態と同様な長孔からなる取付孔53aを有する取付ブラケット53が、溶接により取り付けられている。この取付ブラケット53は、図6に示したのと同様の取付構造により支持ブラケット54に支持される。
【0037】
したがって、この実施形態においても、第1実施形態と同様に、排気装置36の中間部36cに熱膨張が生じた場合、取付ブラケット53の長孔となった取付孔53aによって、中間部36cおよび取付ブラケット53が大きな熱応力を発生することなく円滑に下方へ変位することにより、熱膨張を吸収することができるので、中間部36cがより安定して支持される。
【0038】
なお、各実施形態とは異なり、図1に示す取付ブラケット53を車体フレームFRに設け、支持ブラケット54を排気装置36の中間部36cに設けてもよい。
【0039】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成を追加、削除、変更でき、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係る排気装置36を備えた自動二輪車を示す側面図である。
【図2】同上の排気装置36を示す拡大平面図である。
【図3】図2のIII −III 線断面拡大図である。
【図4】(a)は図2のIV−IV線断面拡大図、(b)は(a)のB方向矢視図である。
【図5】同上の排気装置36の要部を示す拡大側面図である。
【図6】同上の排気装置36の中間部の車体フレームへの支持箇所を示す拡大断面図である。
【図7】(a),(b)は、本発明の第2実施形態に係る排気装置36を示す平面図および側面図である。
【符号の説明】
【0041】
15 締結部材
36 排気装置
36a 上流部
36b 下流部
36c 中間部
43 触媒コンバータ
49 おもり
50 ばね体
53 取付ブラケット
53a 取付孔
54 支持ブラケット
54a 支持孔
55 ボルト
56 ナット
D 締結部材の外径
E エンジン
FR 車体フレーム
G 排気ガス
H 取付孔の上下寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームに支持されたエンジンからの排気ガスを排出する排気装置であって、
上流部が前記エンジンに支持され、下流部が前記車体フレームに支持され、中間部が取付ブラケットとこれの取付孔に挿通した締結部材とにより前記車体フレームに支持され、 前記取付孔は、熱膨張による前記中間部の変位を許容する大きさに設定されている車両の排気装置。
【請求項2】
請求項1において、前記取付孔は、前記中間部の変位方向であるほぼ上下方向に沿った寸法が、前記締結部材における前記取付孔に挿通される部分の外径の1.3〜2.3倍である車両の排気装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記中間部に排気浄化用の触媒コンバータが装着され、この触媒コンバータの下流側に前記取付ブラケットが配置されている車両の排気装置。
【請求項4】
請求項3において、前記中間部に、振動を抑制するおもりが設けられている車両の排気装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、
前記中間部と前記車体フレームとの一方に前記取付ブラケットが、他方に支持ブラケットがそれぞれ設けられ、
前記締結部材は、ボルトとねじ込み量が規制されるセルフロックタイプのナットと前記ボルトに軸方向の弾性力を付加するばね体とを有し、
前記ボルトが前記取付ブラケットの取付孔と前記支持ブラケットに設けた支持孔とに挿通され、
前記ナットおよび前記ばね体によって前記取付ブラケットおよび前記支持ブラケットに、熱膨張による前記中間部と前記車体フレーム間の変位を許容する締結力が付与されている車両の排気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−255892(P2008−255892A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99289(P2007−99289)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】