説明

車両の熱制御装置

【課題】調温部とモータ駆動部品との両方の温度調整を行いつつ、室外熱交換器の数が増えることを抑制する。
【解決手段】自動車の熱制御装置は、モータジェネレータ1等を冷却する冷却水を循環させる冷却回路と、バッテリ3、車室4、及びリダクションギヤ機構5といった調温部の冷却及び加温に用いられる冷却水を循環させる第1循環回路と、室外熱交換器6を通過する冷却水を循環させる第2循環回路とを備える。そして、調温部の冷却要求があるときには第1循環回路の冷却水から第2循環回路の冷却水への熱の移動が行われるよう熱移動装置18が駆動され、上記調温部の加温要求があるときには第2循環回路の冷却水から第1循環回路の冷却水への熱の移動が行われるよう熱移動装置18が駆動される。また、モータジェネレータ1の駆動による自動車の走行時には、冷却回路が第1循環回路と第2循環回路とのうち冷却水の温度の低い方の循環回路に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の熱制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車などモータの駆動により走行する車両においては、その車室が車両における温度調節を必要とする調温部となっており、同車室の冷却及び加温を例えば特許文献1に示されるようにヒートポンプを用いて行うことが提案されている。
【0003】
こうしたヒートポンプに関しては、図12に示されるように、熱媒体(二酸化炭素等)の流れる流路として車室81を通過する流路82と室外熱交換器83を通過する流路84とを備えており、それら流路82,84が圧縮機85及び膨張弁86を介して互いに接続されている。また、上記ヒートポンプには、同ポンプにおける熱媒体の流れの方向を順方向と逆方向との間で切り換える四方弁87が設けられている。
【0004】
そして、車室81を冷却する際には、ヒートポンプの熱媒体が順方向に流れるよう上記四方弁87が切り換えられる。この場合、圧縮機85で圧縮されて昇温した熱媒体が流路84を流れて室外熱交換器83にて外気との間で熱交換される。こうした熱交換により冷却された熱媒体は、膨張弁86を介して流路82に流れるときに膨張して更に温度低下し、その状態で流路82を流れて車室81を通過するときに同車室81の冷却に用いられる。そして、車室81を通過した後の熱媒体は、流路82を通じて上記圧縮機85に戻されるようになる。
【0005】
一方、車室81を加温する際には、ヒートポンプの熱媒体が逆方向に流れるよう上記四方弁87が切り換えられる。この場合、圧縮機85で圧縮されて昇温した熱媒体が流路82を流れて車室81を通過するときに同車室81の加温に用いられる。そして、車室81を通過した後の熱媒体は、膨張弁86を介して流路84に流れるときに膨張して温度低下し、その状態で流路84を流れて室外熱交換器83にて外気との間で熱交換される。こうした熱交換により冷却された熱媒体は、流路84を通じて上記圧縮機85に戻されるようになる。
【0006】
また、特許文献1には、車両を走行させるためのモータ88やコントローラ89等のモータ駆動部品を冷却する冷却水等の熱媒体を循環させる冷却回路を設けることが開示されている。この冷却回路には、その内部で循環する熱媒体を外気との間での熱交換を通じて冷却する室外熱交換器90が設けられている。そして、冷却回路の内部を熱媒体が循環すると、その熱媒体とモータ駆動部品との熱交換により、同モータ駆動部品が冷却されるとともに上記熱媒体の温度が上昇する。このように冷却回路を循環する熱媒体の温度が上昇すると、同熱媒体が室外熱交換器90を通過するときに外気との間で熱交換され、その熱交換を通じて適切な温度となるよう冷却される。
【0007】
なお、特許文献1においては、冷却回路の室外熱交換器90を上記ヒートポンプの室外熱交換器83の近傍に配置し、モータ駆動部品からの廃熱を上記冷却回路の熱媒体等を通じて車室81の加温に利用することも開示されている。この場合、車室81の加温時には、ヒートポンプの室外熱交換器83を通過する低温の熱媒体と冷却回路の室外熱交換器90を通過する高温の熱媒体との間で、それら室外熱交換器83,90及び外気を通じての熱交換が行われる。これにより、ヒートポンプの室外熱交換器83を通過する低温の熱媒体がモータ駆動部品からの廃熱によって加熱され、同加熱により昇温した熱媒体が圧縮機85で圧縮されるようになる。その結果、圧縮機85で圧縮した後の熱媒体の温度をより一層高めることができ、こうして温度の高められた熱媒体が車室81の加温に用いられるため、同加温をより効率よく行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−171346公報(段落[0011]、[0012]、図1、図2、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1の技術を用いることにより、車両の調温部としての車室81とモータ駆動部品との両方の温度調整を行うことができようになり、更には車室81の加温にモータ駆動部品の廃熱を利用することもできるようにはなる。ただし、この場合には、冷却回路の室外熱交換器83とヒートポンプの室外熱交換器90との二つの室外熱交換器を設けなければならず、室外熱交換器の数が増えることは避けられない。
【0010】
なお、こうした問題は、車両においてバッテリやリダクションギヤ機構を同車両の調温部とし、それら調温部を特許文献1の技術を用いて冷却及び加温する場合にも概ね共通するものとなっている。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、調温部とモータ駆動部品との両方の温度調整を行いつつ、室外熱交換器の数が増えることを抑制できる車両の熱制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1記載の発明によれば、自動車の走行時に発熱するモータ駆動部は冷却回路を循環する熱媒体との熱交換を通じて冷却され、このときの冷却回路の熱媒体はモータ駆動部品からの熱を受けて昇温される。
【0013】
車両において温度調節を必要とする調温部の冷却要求があるときには、制御部により第1循環回路の熱媒体から第2循環回路の熱媒体への熱の移動が行われるよう熱移動装置が駆動され、それによって第2循環回路を循環する熱媒体の温度が上がるとともに第1循環回路を循環する熱媒体の温度が下がるようになる。そして、低温となった第1循環回路の熱媒体により調温部が冷却される。一方、高温となった第2循環回路の熱媒体は室外熱交換器を通過して外気との間で熱交換される。こうした室外熱交換器での熱媒体と外気との熱交換により、第2循環回路の熱媒体の温度が低下される。
【0014】
また、このとき、冷却回路は、接続切換部により、第1循環回路と第2循環回路とのうち、熱媒体の温度が低い方の循環回路である第1循環回路に接続される。こうした冷却回路と第1循環回路との接続により、それら冷却回路及び第1循環回路を通じての熱媒体の循環が行われる。従って、冷却回路にて昇温された熱媒体の熱は、冷却回路及び第1循環回路から熱移動装置を介して第2循環回路の熱媒体に渡され、その第2循環回路の室外熱交換器にて外気に放出されることとなる。
【0015】
一方、車両における調温部の加温要求があるときには、制御部により第2循環回路の熱媒体から第1循環回路の熱媒体への熱の移動が行われるよう熱移動装置が駆動され、それによって第1循環回路を循環する熱媒体の温度が上がるとともに第2循環回路を循環する熱媒体の温度が下がるようになる。そして、高温となった第1循環回路の熱媒体により調温部が加温される。一方、低温となった第2循環回路の熱媒体は室外熱交換器を通過して循環するようになる。
【0016】
また、このとき、冷却回路は、接続切換部により、第1循環回路と第2循環回路とのうち、熱媒体の温度が低い方の循環回路である第2循環回路に接続される。こうした冷却回路と第2循環回路との接続により、それら冷却回路及び第2循環回路を通じての熱媒体の循環が行われ、同熱媒体が室外熱交換器を通過するときに外気との間で熱交換される。従って、冷却回路にて昇温された熱媒体の熱は、第2循環回路の室外熱交換器にて外気に放出されることとなる。
【0017】
以上のように、第2循環回路の室外熱交換器は、車両における調温部の冷却や加温に伴って温度変化する第2循環回路の熱媒体を外気との間で熱交換させるという役割を担うだけでなく、モータ駆動部品の冷却に伴い昇温する冷却回路の熱媒体の熱を外気に放出するという役割も担うものとなる。このため、第2循環回路の室外熱交換器とは別に、冷却回路の熱媒体の熱を外気に放出するための室外熱交換器を同冷却回路に設ける必要はない。従って、熱制御装置により調温部とモータ駆動部品との両方の温度調整を行いつつ、同装置における室外熱交換器の数が増えることを抑制できるようになる。
【0018】
なお、車両の調温部としては、具体的には請求項2記載の発明にあるように、バッテリ、車室、及びリダクションギヤ機構をあげることができる。
モータにより走行可能な車両においては、車両外部の電源により充電可能なバッテリを調温部の一つとする場合がある。こうしたバッテリの車両外部の電源による充電は、車両の停止中であってモータの駆動が行われない状況のもとで行われる。このため、上記充電時には、モータ駆動部品の冷却を行う必要はないことから、その冷却を考慮して第1循環回路の熱媒体の温度を調整する必要もなく、同熱媒体の温度をバッテリの充電にとって適切な値となるよう調整することが好ましい。
【0019】
この点、請求項3、4記載の発明によれば、上記充電時には、冷却回路が接続切換部により第1循環回路及び第2循環回路に対し遮断状態とされる。更に、バッテリの冷却要求及び加温要求が他の調温部の冷却要求及び加温要求よりも優先的になされ、バッテリの冷却要求及び加温要求に応じて第1循環回路の熱媒体の温度が制御部による熱移動装置の駆動を通じて調整される。従って、上記充電時、第1循環回路内の熱媒体の温度をバッテリの充電にとって最適な値に調整することができ、その充電を効率よく行うことができるようになる。
【0020】
更に、請求項4記載の発明によれば、車両外部の電源により充電可能な上記バッテリが車室に設けられる。このバッテリにおける上記充電にとって最適な温度は、車室内における乗員にとっての適切な温度とほぼ等しくなる。このため、上述した第1循環回路の熱媒体の温度調整を通じてバッテリの温度を充電にとって最適な値に調整しているときには、車室内の温度が乗員にとって適切な値に調整されることになる。従って、上記充電の最中もしくは完了後に車両に乗員が乗り込んだとき、車室内の温度を乗員にとって適切な値に可能な限り近づけた状態とすることができ、その乗員が暑さや寒さを感じることを抑制できる。
【0021】
請求項5記載の発明によれば、バッテリ及び車室以外の調温部として、リダクションギヤ機構も車両に設けられている。このリダクションギヤ機構に関しては、オイルにより潤滑が行われている関係から、同オイルの粘度が上記潤滑を適切に行える値であって且つリダクションギヤ機構によるモータの回転抵抗を低減することの可能な値となるよう、同リダクションギヤ機構の温度(正確には上記オイルの温度)を調整することが好ましい。こうしたリダクションギヤ機構の温度の調整を行うべく、第1循環回路の熱媒体をリダクションギヤ機構に流すことが考えられる。具体的には、第1循環回路の熱媒体をリダクションギヤに流すための分岐通路への上記第1循環回路からの熱媒体の流入を禁止及び許可すべく開閉する分岐バルブを設け、その分岐バルブを次のように開閉動作させる。すなわち、第1循環回路の熱媒体によるバッテリ及び車室の冷却が行われているとき、リダクションギヤ機構の冷却要求があれば、第1循環回路を循環する熱媒体の分岐通路への流入を許可すべく分岐バルブが開弁される。一方、リダクションギヤ機構の冷却要求がなければ、第1循環回路を循環する熱媒体の分岐通路への流入を禁止すべく分岐バルブが閉弁される。また、第1循環回路の熱媒体によるバッテリ及び車室の加温が行われているとき、リダクションギヤ機構の加温要求があれば、第1循環回路を循環する熱媒体の分岐通路への流入を許可すべく分岐バルブが開弁される。一方、リダクションギヤ機構の加温要求がなければ、第1循環回路を循環する熱媒体の分岐通路への流入を禁止すべく分岐バルブが閉弁される。以上のように、リダクションギヤ機構の冷却要求及び加温要求に応じて分岐バルブを開閉させることにより、リダクションギヤ機構の温度が、同機構のオイルによる潤滑を適切に行いつつオイルの粘度に起因するモータの回転抵抗を低減することの可能な値に近づくよう調整される。
【0022】
なお、上記熱移動装置としては、同装置の設置スペースの節約等の観点から、請求項6記載の発明のようにペルチェ素子を用いることが好ましい。
また、上記接続切換部は、より具体的には請求項7記載の発明のように構成することが可能である。この構成によれば、第1〜第3バルブの切り換えを通じて、第1循環回路もしくは第2循環回路に対する冷却回路の接続が的確に行われるようになる。すなわち、第1バルブを開弁位置に切り換えるとともに第2バルブを第1循環回路側に切り換え、且つ第3バルブを閉弁位置に切り換えることにより、冷却回路が第1循環回路に接続されるとともに第2循環回路に対し遮断状態とされる。また、第1バルブを閉弁位置に切り換え、且つ第2バルブを第2循環回路側に切り換えるとともに第3バルブを開弁位置に切り換えることにより、冷却回路が第2循環回路に接続されるとともに第1循環回路に対し遮断状態とされる。なお、第1バルブを閉弁位置に切り換えるとともに第3バルブを閉弁位置に切り換えれば、冷却回路を第1循環回路と第2循環回路との両方に対し遮断状態とすることも可能である。
【0023】
請求項8記載の発明によれば、第1バルブにより、冷却回路と第1循環回路との断接が行われるとともに、第1循環回路を循環する熱媒体の分岐通路への流入の禁止及び許可も行われる。従って、第1循環回路を循環する熱媒体の分岐通路への流入の禁止及び許可を行うという役割を第1バルブに持たせることで、その役割を担うバルブを新たに追加しなくてもよくなり、同バルブを追加しない分だけ部品点数を削減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態の熱制御装置における冷却水回路の全体構成を示す略図。
【図2】(a)〜(d)は、第1バルブの切換位置を示す模式図。
【図3】(a)及び(b)は、第2バルブの切換位置を示す模式図。
【図4】(a)及び(b)は、第3バルブの切換位置を示す模式図。
【図5】第1循環回路及び第2循環回路での冷却水の基本的な流れを示す略図。
【図6】冷却回路を第1循環回路及び第2循環回路に対し遮断した状態にあって、第1循環回路を循環する冷却水が分岐通路に流入する際の冷却水の流れを示す略図。
【図7】冷却回路を第1循環回路に接続した状態での冷却水の流れを示す略図。
【図8】冷却回路を第1循環回路に接続した状態にあって、第1循環回路を循環する冷却水が分岐通路に流入する際の冷却水の流れを示す略図。
【図9】冷却回路を第2循環回路に接続した状態での冷却水の流れを示す略図。
【図10】冷却回路を第2循環回路に接続した状態にあって、第1循環回路を循環する冷却水が分岐通路に流入する際の冷却水の流れを示す略図。
【図11】熱制御装置により行われる自動車各所の熱制御の実行手順を示すフローチャート。
【図12】従来の熱制御に用いられるヒートポンプ及び冷却回路の全体構成を示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をモータにより走行する電気自動車の熱制御装置に具体化した一実施形態を図1〜図11に従って説明する。
図1に示される本実施形態の熱制御装置は、モータジェネレータ1の駆動により走行可能な自動車に設けられたモータ駆動部品であるモータジェネレータ1及びインバータ2を冷却するとともに、同自動車における温度調節を必要とする調温部であるバッテリ3、車室4、及びリダクションギヤ機構5の冷却及び加温を行う。
【0026】
この熱制御装置は、上記モータ駆動部品を冷却する冷却水(熱媒体)を循環させる冷却回路と、上記調温部の冷却及び加温に用いられる冷却水(熱媒体)を循環させる第1循環回路と、室外熱交換器6を通過して外気との間で熱交換が行われる冷却水(熱媒体)を循環させる第2循環回路とを備えている。また、熱制御装置は、冷却回路と第1循環回路との断接を行う第1バルブ7、冷却回路を第1循環回路及び第2循環回路のいずれかに接続する第2バルブ8、及び冷却回路と第2循環回路との断接を行う第3バルブ9を備え、それら各バルブ7〜9の制御を通じて冷却回路の接続先を第1循環回路と第2循環回路との間で切り換えるようにしている。
【0027】
第1循環回路を循環する冷却水は、電動式のウォータポンプである第1ポンプ10から吐出された後、上記第1バルブ7及び車室4を通過して上記第1ポンプ10に戻る。なお、上記調温部のうち、バッテリ3は、自動車外部の電源により充電可能なものであって車室4に設けられている。このようにバッテリ3が車室4に設けられていることから、バッテリ3と車室4とは第1循環回路を循環して車室4を通過する冷却水による冷却及び加温を通じて、ほぼ同じ温度に調整されることとなる。また、第1循環回路は、その内部の冷却水を第1バルブ7にて分岐通路11に分岐させてリダクションギヤ機構5に流し、その後に車室4の下流側に合流させることが可能となっている。なお、上記第1バルブ7は、冷却回路と第1循環回路との断接を行うバルブとして機能する他、第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11への流入を禁止及び許可すべく開閉する分岐バルブとしても機能する。
【0028】
第2循環回路を循環する冷却水は、電動式のウォータポンプである第2ポンプ13から吐出された後、上記第3バルブ9及び室外熱交換器6を通過して上記第2ポンプ13に戻る。この第2循環回路を循環する冷却水と上記第1循環回路を循環する冷却水との間では、熱移動装置18による熱の移動を行うことが可能となっている。この熱移動装置18は、第1循環回路の冷却水と第2循環回路の冷却水との間で、低温の冷却水から高温の冷却水への熱の移動を行う。こうした熱移動装置18としては、例えばペルチェ素子を採用することができる。そして、第1循環回路の冷却水から第2循環回路の冷却水への熱の移動が行われるよう熱移動装置18を駆動すると、第2循環回路を循環する冷却水の温度が上がるとともに第1循環回路を循環する熱媒体の温度が下がる。また、第2循環回路の冷却水から第1循環回路の冷却水への熱の移動が行われるよう熱移動装置18を駆動すると、第1循環回路を循環する冷却水の温度が上がるとともに第2循環回路を循環する冷却水の温度が下がる。
【0029】
一方、モータジェネレータ1及びインバータ2といったモータ駆動部品を冷却する上記冷却回路は、通路14及び上記第1バルブ7を介して第1循環回路における第1ポンプ10の下流に接続可能とされるとともに、上記第2バルブ8及び通路15を介して第1循環回路における第1ポンプ10の上流に接続可能とされている。また、冷却回路は、第2バルブ8及び通路16を介して第2循環回路における第2ポンプ13の下流に接続可能とされるとともに、通路17及び第3バルブ9を介して第2循環回路における室外熱交換器6の上流に接続可能とされている。そして、それら第1バルブ7、第2バルブ8、及び第3バルブ9の制御を通じて、冷却回路を第1循環回路と第2循環回路とのいずれかに接続したり、第1循環回路と第2循環回路との両方に対し遮断状態としたりすることが可能になる。
【0030】
次に、第1バルブ7、第2バルブ8、及び第3バルブ9の詳細について説明する。
第1バルブ7は、第1ポンプ10の下流に繋がるポート7aと、車室4の上流に繋がるポート7bと、通路14に繋がるポート7cと、分岐通路11に繋がるポート7dとを備えている。第2バルブ8は、冷却回路に繋がるポート8a,8bと、通路15に繋がるポート8cと、通路16に繋がるポート8dとを備えている。第3バルブ9は、第2ポンプ13の下流に繋がるポート9aと、室外熱交換器6の上流に繋がるポート9bと、通路17に繋がるポート9cとを備えている。
【0031】
第1バルブ7は、図2(a)〜(d)に示される四つの切換位置a〜dに切り換え可能となっている。第1バルブ7が図2(a)に示される切換位置aに切り換えられると、ポート7aとポート7bとが連通するとともに、ポート7c,7dがそれぞれ他のポートと遮断される。第1バルブ7が図2(b)に示される切換位置bに切り換えられると、ポート7aがポート7b,7dと連通するとともに、ポート7cが他のポートと遮断される。第1バルブ7が図2(c)に示される切換位置cに切り換えられると、ポート7aがポート7b,7cと連通するとともに、ポート7dが他のポートと遮断される。第1バルブ7が図2(d)に示されるように切換位置dに切り換えられると、ポート7aがポート7b,7c,7bと連通する。従って、切換位置a,bは第1バルブ7にとって冷却回路を第1循環回路に対し遮断状態とする閉弁位置となり、切換位置c,dは第1バルブ7にとって冷却回路を第1循環回路に対し接続状態とする開弁位置となる。また、切換位置a,cは第1バルブ7にとって第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11(図1)への流入を禁止する位置となり、第1バルブ7にとって第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11への流入を許可する位置となる。
【0032】
第2バルブ8は、図3(a)及び(b)に示される二つの切換位置a,bに切り換え可能となっている。第2バルブ8が図3(a)に示される切換位置aに切り換えられると、ポート8dとポート8bとが連通するとともに、ポート8a,8cがそれぞれ他のポートと遮断される。第2バルブ8が図3(b)に示される切換位置bに切り換えられると、ポート8aとポート8cとが連通するとともに、ポート8b,8dがそれぞれ他のポートと遮断される。従って、切換位置aは第2バルブ8にとって冷却回路の接続先を第1循環回路側に切り換えた位置となり、切換位置bは第2バルブ8にとって冷却回路の接続先を第2循環回路側に切り換えた位置となる。
【0033】
第3バルブ9は、図4(a)及び(b)に示される二つの切換位置a,bに切り換え可能となっている。第3バルブ9が図4(a)に示される切換位置aに切り換えられると、ポート9aとポート9bとが連通するとともに、ポート9cが他のポートと遮断される。第3バルブ9が図4(b)に示される切換位置bに切り換えられると、ポート9cとポート9bとが連通するとともに、ポート9aが他のポートと遮断される。従って、切換位置aは第3バルブ9にとって冷却回路を第2循環回路に対し遮断状態とする閉弁位置となり、切換位置bは第3バルブ9にとって冷却回路を第2循環回路に対し接続状態とする開弁位置となる。
【0034】
次に、本実施形態の熱制御装置の電気的構成について図1を参照して説明する。
熱制御装置は、自動車の各種運転制御を行う電子制御装置19を備えている。この電子制御装置19は、各種演算処理を実施するCPU、制御用のプログラムやデータの記憶されたROM、CPUの演算結果やセンサの検出結果等を一時的に記憶するRAM、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等を備えている。
【0035】
電子制御装置19の入力ポートには、バッテリ3の温度を検出する温度センサ20からの検出信号、リダクションギヤ機構5を潤滑するオイルの温度を検出する温度センサ21からの検出信号、及び車室4の温度を調整する空調装置22からの車室4の冷却もしくは加温の要求信号といった各種信号が入力される。電子制御装置19の出力ポートには、第1バルブ7、第2バルブ8、第3バルブ9、及び熱移動装置18の駆動回路が接続されている。
【0036】
電子制御装置19は、入力ポートから入力した各種信号に基づきバッテリ3、車室4、及びリダクションギヤ機構5といった調温部の冷却や加温の必要度合い把握するとともに、自動車の運転状態に基づきモータジェネレータ1及びインバータ2といったモータ駆動部品の冷却の必要度合いを把握する。そして、電子制御装置19は、把握したそれらの冷却及び加温の必要度合いに基づき調温部の冷却要求や加温要求、並びにモータ駆動部品の冷却要求を行い、それら冷却要求及び加温要求に応じて第1バルブ7、第2バルブ8、及び第3バルブ9の切換位置の切り換え制御、並びに熱移動装置18の駆動制御といった各種制御を実行する。
【0037】
次に、こうした熱移動装置18の駆動制御、並びに、第1バルブ7、第2バルブ8、及び第3バルブ9の切換位置の切り換え制御について詳しく説明する。
なお、これらの制御に関係する調温部の冷却要求及び加温要求、すなわちバッテリ3、車室4、及びリダクションギヤ機構5の冷却要求及び加温要求に関しては、以下のように行われる。
【0038】
バッテリ3の温度に関しては、効率よく充電及び放電を行うことの可能な最適値に調整することが好ましく、同最適値は車室4内における乗員にとって適切な温度とほぼ等しくなる。このため、本実施形態ではバッテリ3を車室4に設け、それによって両者の温度をほぼ等しくなるようにするとともに、それらにおける冷却及び加温の必要度合いがほぼ一致した状態となるようにしている。そして、バッテリ3を車室4における冷却及び加温の必要度合い、すなわちバッテリ3及び車室4の温度が上記最適値に対しどれほど高いか、もしくはどれほど低いかに応じて、それらバッテリ3及び車室4の冷却要求及び加温要求がなされる。
【0039】
一方、リダクションギヤ機構5は、モータジェネレータ1の回転を自動車の車輪に伝達する際の回転速度の調整を行うものであって、オイルにより潤滑されるものである関係から、同オイルの粘度を適切な状態となるよう冷却及び加温することが望まれている。従って、リダクションギヤ機構5の温度に関しては、上記オイルの粘度が同機構5の潤滑を適切に行える値であって、且つ同機構5によるモータジェネレータ1の回転抵抗を低減することの可能な最適値となるよう調整することが好ましい。そして、リダクションギヤ機構5の実際の温度が上記最適値に対し高いか低いかに応じて、同リダクションギヤ機構5の冷却要求及び加温要求がなされる。
【0040】
ちなみに、バッテリ3、車室4、及びリダクションギヤ機構5といった調温部の冷却要求及び加温要求に関しては、バッテリ3及び車室4の冷却要求及び加温要求が他の調温部(リダクションギヤ機構5)の冷却要求及び加温要求よりも優先的になされる。これは、自動車においては、いかなる状況のもとでもモータジェネレータ1の駆動により走行可能な状態を維持すべく、バッテリ3の充電及び放電を効率よく行うことが重要視されているためである。
【0041】
図5は、第1循環回路と第2循環回路とでの冷却水の基本的な流れを示している。同図においては、第1バルブ7が切換位置a(図2(a))とされ、且つ第3バルブ9が切換位置a(図4(a))とされている。これにより、冷却回路が第1循環回路及び第2循環回路に対し遮断された状態になるとともに、第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11への流入が禁止される。このとき、第1循環回路を循環する冷却水は、車室4(バッテリ3)を通過し、その一方でリダクションギヤ機構5を通過することが禁止され、更には冷却回路を通過することも禁止される。また、第2循環回路を循環する冷却水は、室外熱交換器6を通過し、その一方で冷却回路を通過することは禁止される。
【0042】
なお、第1循環回路と第2循環回路とでの図5に示されるような冷却水の循環は、例えばバッテリ3の自動車外部の電源による充電時に行われる。ここで、上記バッテリ3の自動車外部の電源による充電は、自動車の停止中であってモータジェネレータ1の駆動が行われない状況のもとで行われる。このため、上記充電時には、モータジェネレータ1及びインバータ2といったモータ駆動部品が発熱することはなく、同モータ駆動部品の冷却を行う必要はないことから、図5に示されるように冷却回路が第1循環回路及び第2循環回路に対し遮断状態とされる。
【0043】
こうした状態にあって、バッテリ3及び車室4の冷却要求があるときには、第1循環回路の冷却水から第2循環回路の冷却水への熱の移動が行われるよう熱移動装置18が駆動される。これにより、第2循環回路を循環する冷却水の温度が上がるとともに、第1循環回路を循環する冷却水の温度が下がるようになる。そして、低温となった第1循環回路の冷却水はバッテリ3及び車室4の冷却に用いられ、その冷却を通じてバッテリ3及び車室4の温度が最適値に近づけられる。一方、高温となった第2循環回路の冷却水に関しては、室外熱交換器6を通過して外気との間で熱交換され、こうした熱交換により温度低下が図られる。
【0044】
また、上述した状態にあって、バッテリ3及び車室4の加温要求があるときには、第2循環回路の冷却水から第1循環回路の冷却水への熱の移動が行われるよう熱移動装置18が駆動される。これにより、第1循環回路を循環する冷却水の温度が上がるとともに、第2循環回路を循環する冷却水の温度が下がるようになる。そして、高温となった第1循環回路の冷却水はバッテリ3及び車室4の加温に用いられ、その加温を通じてバッテリ3及び車室4の温度が最適値に近づけられる。一方、低温となった第2循環回路の冷却水に関しては、室外熱交換器6を通過して外気との間で熱交換され、こうした熱交換により温度上昇が図られる。
【0045】
バッテリ3及び車室4がそれらの冷却要求に基づき第1循環回路の冷却水により冷却されているとき、リダクションギヤ機構5の冷却要求があれば第1バルブ7が切換位置b(図2(b))とされる。また、バッテリ3及び車室4がそれらの加温要求に基づき第1循環回路の冷却水により加温されているとき、リダクションギヤ機構5の加温要求がある場合にも第1バルブ7が上記切換位置bとされる。このように第1バルブ7が切換位置bとされることにより、第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11への流入が許可されると、その分岐通路11を流れて図6に示すようにリダクションギヤ機構5を通過する冷却水により、同機構5が冷却要求に対応して冷却、もしくは加温要求に対応して加温される。その結果、リダクションギヤ機構5の温度(正確には同機構5のオイルの温度)が最適値に近づけられる。
【0046】
なお、バッテリ3及び車室4がそれらの冷却要求に基づき第1循環回路の冷却水により冷却されているとき、リダクションギヤ機構5の冷却要求がなければ第1バルブ7は切換位置a(図2(a))に維持される。また、バッテリ3及び車室4がそれらの加温要求に基づき第1循環回路の冷却水により加温されているとき、リダクションギヤ機構5の加温要求がない場合にも第1バルブ7は上記切換位置aに維持される。
【0047】
ところで、モータジェネレータ1の駆動による自動車の走行時には、モータジェネレータ1及びインバータ2といったモータ駆動部品が発熱する。そして、このように発熱するモータ駆動部品は冷却回路内の冷却水との熱交換を通じて冷却され、このときの冷却回路の冷却水はモータ駆動部品からの熱を受けて昇温される。
【0048】
この実施形態では、熱制御装置における室外熱交換器の数が増えることを抑制する意図のもと、上述したようにモータ駆動部品の冷却に伴い昇温する冷却回路の冷却水を、第2冷却回路の室外熱交換器6を用いて冷却するようにしている。すなわち、この室外熱交換器6が自動車の調温部の冷却や加温に伴って温度変化する第2循環回路の冷却水を外気との間で熱交換させるという役割を担うだけでなく、モータ駆動部品の冷却に伴い昇温する冷却回路の冷却水の熱を外気に放出するという役割も担うようにする。具体的には、モータジェネレータ1の駆動による自動車の走行時、冷却回路を第1循環回路と第2循環回路とのうち冷却水の温度が低い方の循環回路に接続し、その循環回路と冷却回路とを通じての冷却水の循環を行わせる。
【0049】
図7は、第1循環回路の冷却水の温度が第2循環回路の冷却水の温度よりも低く、冷却回路が第1循環回路に接続される場合の冷却水の流れを示している。こうした状況は、バッテリ3及び車室4がそれらの冷却要求に基づき、第1循環回路の冷却水から第2循環回路の冷却水への熱の移動が行われるよう熱移動装置18が駆動され、バッテリ3及び車室4が第1循環回路の冷却水により冷却されているとき等に生じる。
【0050】
この場合、第1バルブ7が切換位置c(図2(c))とされ、第2バルブ8が切換位置b(図3(b))とされ、第3バルブ9が切換位置a(図4(a))とされる。これにより図7に示すように冷却回路が第1循環回路に接続され、それら冷却回路及び第1循環回路を通じての冷却水の循環が行われる。すなわち、第1ポンプ10から吐出された冷却水が第1バルブ7及び車室4を通過して第1ポンプ10に戻るというループと、第1ポンプ10から吐出された冷却水が第1バルブ7、通路14、インバータ2、モータジェネレータ1、第2バルブ8、及び通路15を通過して同第1ポンプ10に戻るというループとが形成される。従って、冷却回路のインバータ2及びモータジェネレータ1にて昇温された冷却水の熱は、冷却回路及び第1循環回路から熱移動装置18を介して第2循環回路の冷却水に渡され、その第2循環回路の室外熱交換器6にて外気に放出される。
【0051】
なお、上述したように、バッテリ3及び車室4がそれらの冷却要求に基づき第1循環回路の冷却水により冷却されているとき、リダクションギヤ機構5の冷却要求があれば第1バルブ7が切換位置d(図2(d))とされる。これにより、第1循環回路を循環する冷却水が図8に示すように分岐通路11を流れ、リダクションギヤ機構5をその冷却要求に対応して冷却するようになる。
【0052】
図9は、第2循環回路の冷却水の温度が第1循環回路の冷却水の温度よりも低く、冷却回路が第2循環回路に接続される場合の冷却水の流れを示している。こうした状況は、バッテリ3及び車室4がそれらの加温要求に基づき、第2循環回路の冷却水から第1循環回路の冷却水への熱の移動が行われるよう熱移動装置18が駆動され、バッテリ3及び車室4が第1循環回路の冷却水により加温されているとき等に生じる。
【0053】
この場合、第1バルブ7が切換位置a(図2(a))とされ、第2バルブ8が切換位置a(図3(a))とされ、第3バルブ9が切換位置b(図4(b))とされる。これにより図9に示すように冷却回路が第2循環回路に接続され、それら冷却回路及び第2循環回路を通じての冷却水の循環が行われる。すなわち、第2ポンプ13から吐出された冷却水が第3バルブ9及び室外熱交換器6を通過して第2ポンプ13に戻るというループと、第2ポンプ13から吐出された冷却水が通路16、第2バルブ8、インバータ2、モータジェネレータ1、通路17、第3バルブ9、及び室外熱交換器6を通過して同第2ポンプ13に戻るというループとが形成される。そして、冷却回路のインバータ2及びモータジェネレータ1にて昇温された冷却水は、室外熱交換器6を通過するときに外気との間で熱交換される。従って、冷却回路のインバータ2及びモータジェネレータ1にて昇温された冷却水の熱は、第2循環回路の室外熱交換器6にて外気に放出されることとなる。
【0054】
なお、上述したように、バッテリ3及び車室4がそれらの加温要求に基づき第1循環回路の冷却水により加温されているとき、リダクションギヤ機構5の加温要求があれば第1バルブ7が切換位置b(図2(b))とされる。これにより、第1循環回路を循環する冷却水が図10に示すように分岐通路11を流れ、リダクションギヤ機構5をその加温要求に対応して加温するようになる。
【0055】
次に、熱移動装置18の駆動制御、並びに、第1バルブ7、第2バルブ8、及び第3バルブ9の切換位置の切り換え制御を通じて行われる自動車各所の熱制御について、熱制御ルーチンを示す図11のフローチャートを参照して説明する。この熱制御ルーチンは、電子制御装置19を通じて、例えば所定時間毎の時間割り込みにて周期的に実行される。
【0056】
同ルーチンにおいて、S101〜S108の処理は、バッテリ3、車室4、及びリダクションギヤ機構5といった調温部をそれらの冷却要求に応じて冷却、もしくは加温要求に応じて加温することにより、上記調温部の温度をそれぞれ最適値に近づけるためのものである。この一連の処理においては、まずバッテリ3及び車室4の冷却要求があるか否かが判断される(S101)。ここで肯定判定であれば熱移動装置18により第1循環回路の冷却水から第2循環回路の冷却水への熱の移動が行われ(S102)、それによって低温となった第1循環回路の冷却水を用いてバッテリ3及び車室4が冷却される。その結果、バッテリ3及び車室4が最適値に近づけられる。
【0057】
その後、リダクションギヤ機構5の冷却要求があるか否かが判断される(S103)。このS103の処理でリダクションギヤ機構5の冷却要求がある旨判断されると、第1バルブ7の制御を通じて第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11への流入が許可される(S104)。これにより、図6もしくは図8に示されるように第1循環回路を循環する低温の冷却水が分岐通路11に流れてリダクションギヤ機構5を冷却し、同機構5が最適値に近づけられる。また、S103(図11)の処理でリダクションギヤ機構5の冷却要求がない旨判断されると、第1バルブ7の制御を通じて図5もしくは図7に示されるように第1循環回路を循環する低温の冷却水が分岐通路11に流入することが禁止される(S105)。
【0058】
一方、S101の処理においてバッテリ3及び車室4の冷却要求がない旨判断された場合には、それらバッテリ3及び車室4の加温要求があるか否かの判断が行われる(S106)。ここで肯定判定であれば熱移動装置18により第2循環回路の冷却水から第1循環回路の冷却水への熱の移動が行われ(S107)、それによって高温となった第1循環回路の冷却水を用いてバッテリ3及び車室4が加温される。その結果、バッテリ3及び車室4が最適値に近づけられる。
【0059】
その後、リダクションギヤ機構5の加温要求があるか否かが判断される(S108)。このS108の処理でリダクションギヤ機構5の加温要求がある旨判断されると、第1バルブ7の制御を通じて第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11への流入が許可される(S104)。これにより、図6もしくは図10に示されるように第1循環回路を循環する高温の冷却水が分岐通路11に流れてリダクションギヤ機構5を冷却するようになり、同機構5が最適値に近づけられる。また、S108(図11)の処理でリダクションギヤ機構5の加温要求がない旨判断されると、第1バルブ7の制御を通じて図5もしくは図9に示されるように第1循環回路を循環する高温の冷却水が分岐通路11に流入することが禁止される(105)。
【0060】
熱制御ルーチン(図11)におけるS109以降の処理は、自動車の走行状態に応じて冷却回路の接続先を切り換えるためのものである。この一連の処理においては、まずモータジェネレータ1の駆動による自動車の走行中であるか否かが判断される(S109)。ここで否定判定であれば、モータ駆動部品からの発熱により冷却回路の冷却水が昇温することはないため、第1バルブ7及び第3バルブ9の制御を通じて、図5もしくは図6に示されるように冷却回路が第1循環回路及び第2循環回路に対し遮断状態とされる(S111)。
【0061】
一方、S109の処理においてモータジェネレータ1の駆動による自動車の走行中である旨判断されると、第1バルブ7、第2バルブ8、及び第3バルブ9の制御を通じて、冷却回路が第1循環回路と第2循環回路とのうち冷却水の温度の低い循環回路に接続される。このように冷却回路の接続先を選択するのは、モータ駆動部品からの発熱による冷却回路の冷却水の昇温を抑制するためである。
【0062】
なお、第1循環回路と第2循環回路とのうち、冷却水の温度の低い循環回路はいずれの回路であるかは、熱移動装置18の駆動状態に基づいて判断することが可能である。すなわち、第1循環回路の冷却水から第2循環回路の冷却水への熱の移動が行われるよう熱移動装置18が駆動されているときには、第2循環回路が冷却水の温度の低い循環回路であると判断できる。また、第2循環回路の冷却水から第1循環回路の冷却水への熱の移動が行われるよう熱移動装置18が駆動されているときには、第1循環回路が冷却水の温度の低い循環回路であると判断できる。
【0063】
こうした判断の結果、第1循環回路が冷却水の温度の低い循環回路である旨判断された場合、図7もしくは図8に示されるように冷却回路が第1循環回路に接続される。また、第2循環回路が冷却水の温度の低い循環回路である旨判断された場合には、図9もしくは図10に示されるように冷却回路が第2循環回路に接続される。
【0064】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)自動車の熱制御装置においては、調温部の冷却要求や加温要求に基づく熱移動装置18の駆動制御により、第1循環回路を循環する冷却水の温度が上昇もしくは低下される。そして、その冷却水を用いて上記調温部の冷却要求に応じた冷却、及び加温要求に応じた加温が行われ、それによって同調温部の温度が最適値に近づくよう調整される。また、自動車の走行時に発熱するモータ駆動部品は、冷却回路を循環する冷却水との熱交換を通じて冷却される。また、このようにモータ駆動部品を冷却することで昇温する冷却水を内部に有する上記冷却回路は、第1循環回路と第2循環回路とのうちの冷却水の温度の低い方の循環回路に接続される。これにより、熱制御装置における第2循環回路の室外熱交換器6は、自動車における調温部の冷却や加温に伴って温度変化する第2循環回路の冷却水を外気との間で熱交換させるという役割を担うだけでなく、モータ駆動部品の冷却に伴い昇温する冷却回路の冷却水の熱を外気に放出するという役割も担うものとなる。このため、第2循環回路の室外熱交換器6とは別に、冷却回路の冷却水の熱を外気に放出するための室外熱交換器を同冷却回路に設ける必要はなくなる。従って、熱制御装置により調温部とモータ駆動部品との両方の温度調整を行いつつ、同装置における室外熱交換器の数が増えることを抑制できるようになる。
【0065】
(2)モータジェネレータ1の駆動により走行する自動車においては、自動車の停止中であってモータジェネレータ1の駆動が行われない状況のもとで、バッテリ3の自動車外部の電源による充電が行われる。このときには、モータジェネレータ1及びインバータ2といったモータ駆動部品の冷却を行う必要はないことから、その冷却を考慮して第1循環回路の冷却水の温度を調整する必要もなく、同冷却水の温度をバッテリ3の充電にとって適切な値となるよう調整することが好ましい。この点、上記バッテリ3の充電時、バッテリ3の冷却要求及び加温要求が他の調温部(この例ではリダクションギヤ機構5)の冷却要求及び加温要求よりも優先的に行われ、バッテリ3の冷却要求及び加温要求に応じて第1循環回路の冷却水の温度が熱移動装置18の駆動を通じて調整される。更に、冷却回路が第1循環回路及び第2循環回路に対し遮断状態とされる。従って、上記バッテリ3の充電時、第1循環回路内の冷却水の温度を、冷却回路における冷却水の冷却を考慮することなくバッテリ3の充電にとって最適な値に調整することができ、その充電を効率よく行うことができるようになる。
【0066】
(3)バッテリ3、車室4、及びリダクションギヤ機構5といった調温部のうち、バッテリ3の温度の最適値と車室4の温度の適切な値とはほぼ等しくなることから、バッテリ3を車室4に設けて両者の温度をほぼ等しくすることにより、バッテリ3と車室4との冷却及び加温の必要度合いがほぼ一致した状態になる。ここで、バッテリ3の自動車外部の電源による充電は、自動車の停止中であって車室4に乗員が乗り込んでいない状態で行われる。こうした状態にあって上記バッテリ3の充電が行われるとき、上述した第1循環回路の冷却水の温度調整を通じてバッテリ3の温度を充電にとって最適な値に調整すると、車室4内の温度が乗員にとって適切な値に調整されることになる。従って、上記バッテリ3の充電の最中もしくは完了後に自動車に乗員が乗り込んだとき、車室4内の温度を乗員にとって適切な値に可能な限り近づけた状態とすることができ、その乗員が暑さや寒さを感じることを抑制できる。
【0067】
(4)バッテリ3及び車室4以外の調温部であるリダクションギヤ機構5の温度に関しては、その潤滑を行うオイルの粘度が同潤滑を適切に行える値であって且つリダクションギヤ機構5によるモータジェネレータ1の回転抵抗を低減することの可能な値となるよう調整することが好ましい。こうしたリダクションギヤ機構5の温度の調整を行うべく、第1循環回路の冷却水がリダクションギヤ機構5に流される。
【0068】
具体的には、第1循環回路の冷却水によるバッテリ3及び車室4の冷却が行われているとき、リダクションギヤ機構5の冷却要求があれば、第1循環回路を循環する低温の冷却水の分岐通路11への流入を許可すべく第1バルブ7が切換位置bもしくは切換位置dとされ、これにより上記低温の冷却水がリダクションギヤ機構5を通過して冷却する。一方、リダクションギヤ機構5の冷却要求がなければ、第1循環回路を循環する低温の冷却水の分岐通路11への流入を禁止すべく第1バルブ7が切換位置aもしくは切換位置cとされる。また、第1循環回路の冷却水によるバッテリ3及び車室4の加温が行われているとき、リダクションギヤ機構5の加温要求があれば、第1循環回路を循環する高温の冷却水の分岐通路11への流入を許可すべく第1バルブ7が切換位置bもしくは切換位置dとされ、これにより上記高温の冷却水がリダクションギヤ機構5を通過して加温する。一方、リダクションギヤ機構5の加温要求がなければ、第1循環回路を循環する高温の冷却水の分岐通路11への流入を禁止すべく第1バルブ7が切換位置aもしくは切換位置cとされる。
【0069】
以上のように、リダクションギヤ機構5の冷却要求及び加温要求に応じて第1バルブ7を開閉させることにより、リダクションギヤ機構5の温度が、同機構5のオイルによる潤滑を適切に行いつつオイルの粘度に起因するモータジェネレータ1の回転抵抗を低減することの可能な最適値に近づくよう調整される。なお、リダクションギヤ機構5の温度調整は、バッテリ3の自動車外部の電源による充電時といった自動車の停止中にも行われる。従って、バッテリ3の充電を終えた後での自動車の走行開始直後においても、リダクションギヤ機構5の良好な潤滑や同機構5によるモータジェネレータ1の回転抵抗低減が実現可能となる。
【0070】
(5)熱移動装置18としてペルチェ素子という比較的小さいものが用いられるため、熱制御装置における熱移動装置18の設置スペースを節約することができる。
(6)冷却回路の接続先の切り換えは、第1バルブ7、第2バルブ8、及び第3バルブ9の切換制御を通じて行われる。具体的には、第1バルブ7を切換位置cもしくは切換位置dに切り換えるとともに第2バルブ8を切換位置bに切り換え、且つ第3バルブ9を切換位置aに切り換えることにより、冷却回路が第1循環回路に接続されるとともに第2循環回路に対し遮断状態とされる。また、第1バルブ7を切換位置aもしくは切換位置bに切り換え、且つ第2バルブ8を切換位置aに切り換えるとともに第3バルブ9を切換位置bに切り換えることにより、冷却回路が第2循環回路に接続されるとともに第1循環回路に対し遮断状態とされる。なお、第1バルブ7を切換位置aもしくは切換位置bに切り換えるとともに第3バルブ9を切換位置aに切り換えれば、冷却回路を第1循環回路と第2循環回路との両方に対し遮断状態とすることも可能である。以上のように、第1バルブ7、第2バルブ8、及び第3バルブ9の切換制御を行うことにより、的確に冷却回路の接続先を切り換えることができる。
【0071】
(7)第1バルブ7は、冷却回路と第1循環回路との断接を行う機能の他、第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11への流入を禁止及び許可する分岐バルブとしての機能も有している。そして、この第1バルブ7により、冷却回路と第1循環回路との断接が行われるとともに、第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11への流入の禁止及び許可も行われる。このように第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11への流入の禁止及び許可を行うという役割を第1バルブ7に持たせることで、その役割を担う分岐バルブを新たに追加しなくてもよくなり、同分岐バルブを追加しない分だけ部品点数を削減することが可能になる。
【0072】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・第1バルブ7とは別に第1循環回路を循環する冷却水の分岐通路11への流入を禁止及び許可する機能を有する分岐バルブを設けるとともに、同機能を第1バルブ7から省いてもよい。
【0073】
・熱移動装置18として、蒸気圧縮ヒートポンプやケミカルヒートポンプなどのヒートポンプを用いてもよい。
・バッテリ3を車室4以外の場所に設け、それらバッテリ3を車室4を第1循環回路の冷却水によって別々に冷却もしくは加温するようにしてもよい。この場合、バッテリ3の冷却要求及び加温要求と車室4の冷却要求及び加温要求とのうち、重要度の高い方が優先的に行われるようにされる。例えば、バッテリ3の自動車外部の電源による充電時には、バッテリ3の冷却要求及び加温要求を優先的に行うことが考えられる。また、自動車の走行時には、乗員の手動による指示がないときにはバッテリ3の冷却要求及び加温要求を優先的に行い、上記指示がある場合には車室4の冷却要求及び加温要求を優先的に行うことが考えられる。
【0074】
・自動車の調温部としてバッテリ3、車室4,及びリダクションギヤ機構5を例示したが、それら三つのうち任意の二つを調温部としたり、任意の一つのみを調温部としたりしてもよい。
【0075】
・内燃機関とモータとの二つの原動機を搭載して同モータの駆動による走行を行うことの可能なハイブリッド自動車に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0076】
1…モータジェネレータ、2…インバータ、3…バッテリ、4…車室、5…リダクションギヤ機構、6…室外熱交換器、7…第1バルブ(接続切換部)、7a〜7d…ポート、8…第2バルブ(接続切換部)、8a〜8d…ポート、9…第3バルブ(接続切換部)、9a〜9c…ポート、10…第1ポンプ、11…分岐通路、13…第2ポンプ、14〜17…通路、18…熱移動装置、19…電子制御装置(制御部、接続切換部)、20,21…温度センサ、22…空調装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動により走行可能な車両におけるモータ駆動部品を冷却するとともに、同車両における温度調節を必要とする調温部の冷却及び加温を行う車両の熱制御装置であって、
前記モータ駆動部品を冷却する熱媒体を循環させる冷却回路と、
前記調温部の冷却及び加温に用いられる熱媒体を循環させる第1循環回路と、
室外熱交換器を通過して外気との間で熱交換が行われる熱媒体を循環させる第2循環回路と、
前記第1循環回路の熱媒体と前記第2循環回路の熱媒体との間で低温の熱媒体から高温の熱媒体への熱の移動を行うことの可能な熱移動装置と、
前記調温部の冷却要求があるときには前記第1循環回路の熱媒体から前記第2循環回路の熱媒体への熱の移動が行われるよう前記熱移動装置を駆動し、前記調温部の加温要求があるときには前記第2循環回路の熱媒体から前記第1循環回路の熱媒体への熱の移動が行われるよう前記熱移動装置を駆動する制御部と、
前記モータによる走行時、前記冷却回路を前記第1循環回路と前記第2循環回路とのうち熱媒体の温度が低い方の循環回路に接続し、その循環回路と前記冷却回路とを通じての熱媒体の循環を行わせる接続切換部と、
を備える
ことを特徴とする車両の熱制御装置。
【請求項2】
前記調温部は、バッテリ、車室、及びリダクションギヤ機構のうちの少なくとも一つである請求項1記載の車両の熱制御装置。
【請求項3】
車両は、前記調温部の一つとして、車両外部の電源により充電可能なバッテリを有しており、
前記バッテリの車両外部の電源による充電時には、そのバッテリの冷却要求及び加温要求が他の調温部の冷却要求及び加温要求よりも優先的になされ、
前記接続切換部は、前記バッテリの車両外部の電源による充電時には、前記冷却回路を前記第1循環回路及び前記第2循環回路に対し遮断状態とする
ことを特徴とする請求項2記載の車両の熱制御装置。
【請求項4】
車両は、前記調温部として、車両外部の電源により充電可能なバッテリ、及び同バッテリの設けられた車室を有しており、
前記バッテリの車両外部の電源による充電時には、そのバッテリの冷却要求及び加温要求が他の調温部の冷却要求及び加温要求よりも優先的になされ、
前記接続切換部は、前記バッテリの車両外部の電源による充電時には、前記冷却回路を前記第1循環回路及び前記第2循環回路に対し遮断状態とする
ことを特徴とする請求項2記載の車両の熱制御装置。
【請求項5】
車両は、前記調温部として、前記バッテリ及び前記車室の他に、リダクションギヤ機構を有しており、
前記第1循環回路は、その内部を循環する熱媒体により前記バッテリ及び前記車室を冷却及び加温するとともに、同第1循環回路を循環する熱媒体を分岐通路に分岐させて前記リダクションギヤ機構に流すものであって、前記第1循環回路を循環する熱媒体の前記分岐通路への流入を禁止及び許可すべく開閉する分岐バルブを備えており、
前記分岐バルブは、前記第1循環回路の熱媒体による前記バッテリ及び前記車室の冷却が行われているとき、前記リダクションギヤ機構の冷却要求があれば前記第1循環回路を循環する熱媒体の前記分岐通路への流入を許可すべく開弁し、前記リダクションギヤ機構の冷却要求がなければ前記第1循環回路を循環する熱媒体の前記分岐通路への流入を禁止すべく閉弁するものであり、前記第1循環回路の熱媒体による前記バッテリ及び前記車室の加温が行われているとき、前記リダクションギヤ機構の加温要求があれば前記第1循環回路を循環する熱媒体の前記分岐通路への流入を許可すべく開弁し、前記リダクションギヤ機構の加温要求がなければ前記第1循環回路を循環する熱媒体の前記分岐通路への流入を禁止すべく閉弁するものである
ことを特徴とする請求項4記載の車両の熱制御装置。
【請求項6】
前記熱移動装置は、ペルチェ素子である請求項1記載の車両の熱制御装置。
【請求項7】
前記接続切換部は、前記冷却回路と前記第1循環回路との断接を行う第1バルブ、前記冷却回路を前記第1循環回路と前記第2循環回路とのいずれかに接続する第2バルブ、及び前記冷却回路と前記第2循環回路との断接を行う第3バルブを備え、それら各バルブの制御を通じて前記冷却回路の接続先を切り換える
ことを特徴とする請求項1記載の車両の熱制御装置。
【請求項8】
車両は、前記調温部として、車両外部の電源により充電可能なバッテリ、同バッテリの設けられた車室、及びリダクションギヤ機構を有しており、
前記第1循環回路は、その内部を循環する熱媒体により前記バッテリ及び前記車室を冷却及び加温するとともに、同第1循環回路を循環する熱媒体を分岐通路に分岐させて前記リダクションギヤ機構に流すものであり、
前記第1バルブは、前記冷却回路と前記第1循環回路との断接を行う機能の他、前記第1循環回路を循環する熱媒体の前記分岐通路への流入を禁止及び許可する機能も有する
ことを特徴とする請求項7記載の車両の熱制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−121551(P2011−121551A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282930(P2009−282930)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】