説明

車両の牽引フック取付構造

【課題】フック取付部材が衝撃吸収部材の先端に配設されている牽引フック取付構造において、フック取付部材に斜め方向から衝撃荷重が加えられる場合でも、その衝撃荷重が衝撃吸収部材によって適切に吸収されるようにする。
【解決手段】ナット部材(フック取付部材)24は、取付フランジ40の固設部42を介してクラッシュボックス(衝撃吸収部材)14Rの先端カバー34の内側面に固定されており、ナット部材24に所定値以上の衝撃荷重が作用した場合には、スリット46部分で破断し、そのスリット46よりも内側の離脱部44がナット部材24と共にクラッシュボックス14Rの内側へ離脱させられる。これにより、先端カバー34に衝撃荷重が直接作用させられるようになり、斜め方向から荷重が作用する場合でもモーメントの発生が抑制されてクラッシュボックス14Rが適切に圧壊させられ、所定の衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の牽引フック取付構造に係り、特に、牽引フックが一体的に取り付けられるフック取付部材が衝撃吸収部材の先端カバーから突き出すように配設されている牽引フック取付構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 筒形状の側壁を有するとともに、その筒形状の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で車体に配設され、軸方向に圧縮させられることにより衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部材と、(b) その衝撃吸収部材の先端カバーに設けられた挿通穴を貫通して外部へ突き出すように配設されたフック取付部材と、を有し、(c) そのフック取付部材に牽引フックが一体的に取り付けられる車両の牽引フック取付構造が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、軸方向に圧縮変形させられるバンパビームブラケット15が衝撃吸収部材に相当する。特許文献2、3には、上記先端カバーを備えていないが、フック取付部材を衝撃吸収部材に一体的に配設した牽引フック取付構造が記載されている。特許文献2では、所定の摺動抵抗を有して嵌合された第1の筒状部材18および第2の筒状部材19が衝撃吸収部材に相当し、特許文献3では、軸方向にスライド可能に嵌合された外筒1、ナット筒2、およびそれ等の外筒1、ナット筒2に跨がって配設されるとともに所定の破壊強度で破断されるピン3によって衝撃吸収部材が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−119406号公報
【特許文献2】特開2004−136745号公報
【特許文献3】特開2004−217130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の車両の牽引フック取付構造においては、フック取付部材と一体的に衝撃吸収部材が圧縮させられるが、そのフック取付部材は衝撃吸収部材から突き出しているため、そのフック取付部材或いは牽引フックに斜め方向から衝撃荷重が加えられたり偏荷重が加えられたりした場合、衝撃吸収部材からの突出寸法に応じたアーム長さのモーメントが発生し、衝撃吸収部材の圧縮動作が阻害されて衝撃エネルギー吸収性能が損なわれることがあった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、牽引フックが一体的に取り付けられるフック取付部材が衝撃吸収部材の先端から突き出すように配設されている牽引フック取付構造において、その牽引フックやフック取付部材に斜め方向から衝撃荷重が加えられたり偏荷重が加えられたりした場合でも、その衝撃荷重が衝撃吸収部材によって適切に吸収されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 筒形状の側壁を有するとともに、その筒形状の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で車体に配設され、軸方向に圧縮させられることにより衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部材と、(b) その衝撃吸収部材の先端カバーに設けられた挿通穴を貫通して外部へ突き出すように配設されたフック取付部材と、を有し、(c) そのフック取付部材に牽引フックが一体的に取り付けられる車両の牽引フック取付構造において、(d) 前記フック取付部材は、外周側へ延び出して前記先端カバーの内側面に密着させられる取付フランジを介してその先端カバーに配設されているとともに、(e) その取付フランジは、(e-1) 前記先端カバーの内側面に一体的に固設される固設部と、(e-2) 前記フック取付部材に対して前記衝撃吸収部材の内側へ向かう方向に所定値以上の衝撃荷重が作用した場合に、その衝撃吸収部材が圧縮し始める前に前記固設部から分離させられ、前記フック取付部材と共にその衝撃吸収部材の内側へ離脱する離脱部とを有することを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の車両の牽引フック取付構造において、(a) 前記衝撃吸収部材は、軸方向へ蛇腹状に圧縮変形させられることにより衝撃エネルギーを吸収するクラッシュボックスで、(b) 前記取付フランジは前記先端カバーと平行な平板状を成していることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明の車両の牽引フック取付構造において、前記取付フランジの前記固設部および前記離脱部は互いに一体に構成されているとともに、その固設部と離脱部との境界には、前記フック取付部材に前記所定値以上の衝撃荷重が作用した場合に破断させられる脆弱部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第1発明または第2発明の車両の牽引フック取付構造において、前記固設部および前記離脱部は別体に構成されており、その固設部に設けられた嵌合穴内に前記離脱部が圧入固定されることにより、その離脱部を介して前記フック取付部材が前記先端カバーに配設されるとともに、そのフック取付部材に前記所定値以上の衝撃荷重が作用した場合には、その離脱部がその嵌合穴から抜け出してそのフック取付部材がその離脱部と共にその先端カバーから離脱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このような車両の牽引フック取付構造においては、フック取付部材が取付フランジを介して先端カバーに配設され、固設部により先端カバーの内側面に一体的に固設される一方、フック取付部材に所定値以上の衝撃荷重が作用した場合には、衝撃吸収部材が圧縮し始める前に離脱部が固設部から分離させられ、その離脱部と共にフック取付部材が衝撃吸収部材の内側へ離脱させられる。このため、衝撃吸収部材の先端カバー部分に衝撃荷重が直接作用させられるようになり、斜め方向からの荷重入力や偏荷重が作用する場合でもモーメントの発生が抑制されて衝撃吸収部材が適切に圧縮させられ、所定の衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られる。
【0011】
また、先端カバーに一体的に固設部が固設され、その固設部から離脱部が分離して離脱させられるようになっているため、離脱部が固設部から分離する離脱荷重を適当な大きさに容易に設定することができる。例えば第3発明のように固設部と離脱部との境界に薄肉部やスリット等を有する脆弱部が設けられる場合は、その薄肉部の肉厚やスリットの大きさ等を変更することにより、離脱荷重を所定の大きさに容易に設定できる。また、第4発明のように離脱部が固設部に設けられた嵌合穴内に圧入固定される場合は、その嵌合形状(円形や多角形など)や圧入の嵌め込み代等を変更することにより、離脱荷重を所定の大きさに容易に設定できる。
【0012】
一方、フック取付部材に牽引フックを介して牽引荷重が作用した場合、その牽引荷重は衝撃荷重とは逆に衝撃吸収部材の先端カバーからフック取付部材を外方へ引き抜く方向へ作用するが、離脱部は先端カバーの内側面に接触させられているため、離脱部が固設部から分離することはないとともに、牽引荷重は離脱部を介して先端カバーによって適切に受け止められる。
【0013】
第2発明は、衝撃吸収部材として軸方向へ蛇腹状に圧縮変形させられるクラッシュボックスが用いられている場合で、取付フランジは先端カバーと平行な平板状を成しているため、その取付フランジの存在でクラッシュボックスの圧縮変形が阻害される恐れがなく、そのクラッシュボックスによる衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られる。
【0014】
第3発明では、取付フランジの固設部および離脱部が互いに一体に構成されているため、固設部と離脱部とを別体に構成する場合に比較して部品点数が少ないとともに、その取付フランジをプレスによる打ち抜き加工や穴明け加工などで簡単に製造することが可能で、製造コストが低減される。また、その取付フランジとフック取付部材とを冷間鍛造加工等により同時に一体成形することも可能で、その場合は製造コストが一層低減される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例である車両の牽引フック取付構造を説明する図で、(a) は牽引フックが取り付けられる先端側部分を示す平面図、(b) は(a) におけるIB-IB 断面図である。
【図2】図1の牽引フック取付構造が設けられる車両の一対のサイドメンバーの前端部分を示す平面図である。
【図3】図1の牽引フック取付構造を説明する図で、(a) は左斜め前上方から見た斜視図、(b) は溶接等により一体的に組み立てられる前の分解状態の各部品を示す斜視図である。
【図4】図1の牽引フック取付構造において、クラッシュボックスの先端カバーの内側面に取付フランジを介してナット部材が取り付けられた状態を示す図で、先端カバーの斜め後方から見た斜視図である。
【図5】図1の牽引フック取付構造において、牽引荷重または衝撃荷重が加えられた場合を説明する図で、(a) は牽引フックが取り付けられて牽引荷重が加えられた場合、(b) は傾斜した衝突バリアからナット部材に衝撃荷重が加えられた場合である。
【図6】本発明の他の実施例を説明する図で、図1(b) に相当する断面図である。
【図7】図6の牽引フック取付構造を説明する図で、図3(b) に対応する分解斜視図である。
【図8】図6の牽引フック取付構造を説明する図で、図4に対応する斜視図である。
【図9】図6の実施例において、取付フランジに脆弱部として設けられる薄肉部の他の態様を示す図で、(a) 、(b) 共に図6に対応する取付フランジ近傍の断面図である。
【図10】本発明の更に別の実施例を説明する図で、図1(b) に相当する断面図である。
【図11】図10の牽引フック取付構造を説明する図で、図3(b) に対応する分解斜視図である。
【図12】図10の牽引フック取付構造を説明する図で、図4に対応する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の車両の牽引フック取付構造は、車両前側に取り付けられるものでも車両後側に取り付けられるものでも良く、その前後の両方に適用することもできるが、前後の何れか一方のみに適用するだけでも差し支えない。また、このような牽引フック取付構造は、一般に車両の左右の何れか一方に設けられるが、左右の両側に配設することも可能である。
【0017】
衝撃吸収部材としては、例えば軸方向へ蛇腹状に圧縮変形(圧壊)させられるクラッシュボックスが好適に用いられるが、前記特許文献2、3に記載のように一対の筒部材が軸方向へ相対移動させられることにより圧縮させられ、その摺動抵抗などで衝撃エネルギーを吸収するものなど、他の種々の衝撃吸収部材を採用できる。クラッシュボックスは、断面四角形等の単純な角筒形状や円筒形状であっても良いが、所定の圧壊強度が得られるように筒形状の内側へ突き出すように複数の凹溝が軸方向に設けられても良いなど、種々の態様が可能である。
【0018】
上記衝撃吸収部材は、例えば車両の左右両サイドに設けられるサイドメンバー等の車両構造物に配設される。衝撃吸収部材は、筒形状の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で車体に配設されるが、必ずしも厳密に前後方向である必要はなく、例えば前後方向に対して10°程度以下の角度で左右或いは上下方向へ傾斜する姿勢で配設されても良い。
【0019】
フック取付部材は、例えば軸心部分にねじ穴が設けられた円柱形状や角柱形状等の長手状のナット部材で、牽引フックは、そのねじ穴にねじ込まれる雄ねじ部を有して、ナット部材に着脱可能に取り付けられるように構成される。牽引フックは、ねじ以外の固定手段によりフック取付部材に一体的に取り付けられるものでも良い。
【0020】
上記フック取付部材は、例えばその長手方向の一端部に取付フランジが溶接等により一体的に固設され、その取付フランジを介して先端カバーに配設されるが、フック取付部材と取付フランジとを冷間鍛造加工等により一体成形することも可能である。
【0021】
取付フランジは、フック取付部材から外周側へ延び出して先端カバーの内側面に密着させられ、例えば取付フランジの全面が先端カバーの内側面に面接触させられるように構成されるが、取付フランジの一部が先端カバーに接触させられるだけでも良い。固設部については、溶接やリベット等の固設手段により先端カバーに所定の固設強度で固定できるように接触させられれば良く、離脱部については、所定の牽引荷重が作用した場合に、その離脱部が固設部から分離することなく離脱部から直接先端カバーに牽引荷重を伝達できるように接触させられれば良い。すなわち、先端カバーが平板状を成しているとともに、取付フランジをその先端カバーと平行な平板状に構成すれば、その全面に亘って先端カバーに面接触させることができるが、着座部等を設けて部分的に先端カバーに密着させるだけでも良い。
【実施例1】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両の牽引フック取付装置20を説明する図で、(a) は牽引フック22が取り付けられる先端側部分を示す平面図、(b) は(a) におけるIB-IB 断面図である。この牽引フック取付装置20は、図2に示す右側のクラッシュボックス14Rに組み込まれたものであるが、左側のクラッシュボックス14Lに組み込むこともできる。図2は、車両のフロント側のバンパービーム10の近傍を車両の上方から見た概略平面図で、左右のサイドメンバー12L、12Rの前端部にはそれぞれクラッシュボックス14L、14Rが配設されているとともに、バンパービーム10は、その左右の両端部においてクラッシュボックス14L、14Rの前端に固定されている。
【0023】
クラッシュボックス14R、14Lは筒形状の側壁を備えており、車両前方から衝撃が加えられて軸圧縮荷重を受けると蛇腹状に圧壊(圧縮変形)させられ、この時の変形で衝撃エネルギーを吸収し、サイドメンバー12R、12L等の車両の構造部材に加えられる衝撃を緩和する。この蛇腹状の圧壊は、クラッシュボックス14R、14Lが軸方向の多数箇所で連続的に座屈(「く」の字状の折れ曲がり)することによって生じる現象で、通常はバンパービーム10側すなわち入力側から座屈が開始し、時間の経過と共に車体側へ進行する。バンパービーム10は、バンパーのリインフォースメント(補強部材)および取付部材として機能するもので、合成樹脂等から成るバンパー本体16が一体的に取り付けられるようになっている。クラッシュボックス14L、14Rは何れも衝撃吸収部材に相当する。
【0024】
牽引フック取付装置20は、上記クラッシュボックス14Rにナット部材24を配置したもので、図1、図3、および図4を参照して具体的に説明する。図3は、牽引フック取付装置20を説明する図で、(a) は左斜め前上方から見た斜視図、(b) は溶接等により一体的に組み立てられる前の分解状態の各部品を示す斜視図である。また、図4は、クラッシュボックス14Rの先端カバー34の内側面に取付フランジ40を介してナット部材24が取り付けられた状態を示す図で、斜め後方から見た斜視図である。
【0025】
クラッシュボックス14Rは、平板状の複数の側壁を有する断面多角形状の中空の筒形状の筒体30を備えており、その筒体30の後端部には取付プレート32が一体的に溶接されている。そして、筒体30の軸心Oが車両の前後方向と略平行となる姿勢で、取付プレート32を介して図示しないボルト等により右サイドメンバー12Rの先端部分に一体的に固定される。また、筒体30の先端部には、先端カバー34がスポット溶接等により一体的に固設されており、その先端カバー34の前面にバンパービーム10が一体的に固定されるようになっている。
【0026】
上記筒体30は、軸心Oに対して直角な断面が上下方向に長い長方形状を成しているとともに、図3(b) の分解斜視図から明らかなように、軸心Oと略平行に略対称的に左右に2分割した断面がコの字形状の一対の半割体36および38にて構成されている。一対の半割体36、38は、それぞれ薄板材にプレスによる曲げ加工等が施されることによって形成されるとともに、それ等の一対の半割体36、38の開口側の上下の両側端縁部をそれぞれ重ね合わせてスポット溶接等により一体的に接合することにより筒体30が構成されている。この筒体30は、断面形状が軸方向において一定のストレート形状を成しているが、前記先端カバー34が固設される先端縁は、バンパービーム10の形状に合わせて軸心Oに対して傾斜させられている。
【0027】
先端カバー34は、筒体30の先端形状に対応する長方形の平板状の前板部48と、その前板部48の周縁部から筒体30側へ折り曲げられた複数の折曲げ部50とを備えており、前板部48が筒体30の先端縁に対応して軸心Oに対して傾斜する姿勢で複数の折曲げ部50がそれぞれ筒体30の先端部の内側へ略平行に嵌め入れられた状態で、スポット溶接、アーク溶接等によりその筒体30に一体的に固設されている。上記筒体30の軸心Oは、クラッシュボックス14Rの軸心でもある。
【0028】
前記ナット部材24は円柱形状の部材で、その中心線上に前記牽引フック22のねじ軸が螺合されるねじ穴52が設けられているとともに、そのねじ穴52が設けられた前端側が前記先端カバー34から前方へ突き出す状態で、クラッシュボックス14Rの軸心Oと同心に先端カバー34に配設されている。先端カバー34にはナット挿通穴54が設けられており、ナット部材24は、そのナット挿通穴54を挿通させられて前方に突き出しているとともに、ナット部材24の後端部には取付フランジ40が一体的に溶接固定されており、その取付フランジ40を介して先端カバー34の前板部48の内側面に一体的に固定されるようになっている。ナット部材24はフック取付部材に相当し、本実施例ではバンパービーム10に設けられた開口56を挿通させられて、バンパービーム10よりも前方まで突き出しており、牽引フック22は必要に応じてナット部材24に螺合され、着脱可能に一体的に取り付けられる。
【0029】
上記取付フランジ40は、前板部48に対応して長方形の平板状を成しているとともに、中央にはナット部材24の外周面に嵌合される嵌合穴41が設けられ、その嵌合穴41がナット部材24の後端部に嵌合されてナット部材24から外周側へ延び出すとともに前板部48と平行になる姿勢で、アーク溶接等によりナット部材24に一体的に固設されている。また、前板部48に対して取付フランジ40が略全面に亘って面接触させられる状態で、その取付フランジ40の上下の両端縁がアーク溶接等により前板部48の内側面に一体的に固設されており、これによりナット部材24が取付フランジ40を介して先端カバー34に一体的に取り付けられている。溶接部W1は、ナット部材24と取付フランジ40との溶接箇所で、溶接部W2は、取付フランジ40と前板部48との溶接箇所である。
【0030】
一方、上記取付フランジ40には、先端カバー34に溶接固定される上下の両端縁から少し内側の部分に、それぞれそれ等の端縁と略平行に細長いスリット(長穴)46が設けられている。これ等のスリット46の長手方向の両側は繋がっており、これによりナット部材24が先端カバー34によって支持されるが、そのナット部材24に対してクラッシュボックス14Rの内側へ向かう方向、すなわち図1(a) 、(b) における右方向へ所定値以上の衝撃荷重が作用した場合には、そのクラッシュボックス14Rが圧壊し始める前にスリット46が設けられた部分で破断し、ナット部材24が先端カバー34から分離してクラッシュボックス14Rの内側へ離脱させられるようになっている。取付フランジ40のうちスリット46よりも上下の端縁側の部分は固設部42で、スリット46よりも上下の内側の部分は離脱部44であり、離脱部44はナット部材24と共に先端カバー34から離脱させられるが、固設部42は先端カバー34に固設されたまま保持される。上記スリット46が設けられた部分、すなわち固設部42と離脱部44との境界部分は脆弱部に相当する。
【0031】
このように、本実施例の牽引フック取付装置20においては、ナット部材24が取付フランジ40の固設部42を介してクラッシュボックス14Rの先端カバー34の内側面に固設されている一方、ナット部材24に所定値以上の衝撃荷重が作用した場合には、クラッシュボックス14Rが圧壊し始める前に取付フランジ40がスリット46部分で破断することにより、そのスリット46よりも内側の離脱部44が固設部42から分離させられ、ナット部材24と共にクラッシュボックス14Rの内側へ離脱させられる。このため、クラッシュボックス14Rの先端カバー34部分に衝撃荷重が直接作用させられるようになり、斜め方向からの荷重入力や偏荷重が作用する場合でもモーメントの発生が抑制されてクラッシュボックス14Rが適切に圧壊させられ、所定の衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られる。
【0032】
すなわち、例えば図5の(b) に示すように、クラッシュボックス14Rの軸心Oに対して傾斜した姿勢の衝突バリア58が、ナット部材24の先端部分に片当たりの状態で衝突した場合に、ナット部材24がクラッシュボックス14Rに一体的に固設されたままだと、そのクラッシュボックス14Rには、ナット部材24の突出寸法に対応するアーム長さのモーメントMが作用し、クラッシュボックス14Rの圧縮変形が阻害されて衝撃エネルギー吸収性能が損なわれる可能性がある。これに対し、本実施例ではナット部材24がクラッシュボックス14R内に脱落し、衝撃荷重がクラッシュボックス14Rの先端カバー34に直接作用させられるため、クラッシュボックス14Rが適切に圧壊させられて所定の衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られるようになる。
【0033】
一方、図5の(a) に示すようにナット部材24に牽引フック22が取り付けられて牽引される場合、その牽引荷重は図5(b) の衝撃荷重とは逆向きに作用し、クラッシュボックス14Rの先端カバー34からナット部材24を外方へ引き抜く方向、すなわち図5(a) の左方向へ作用するが、離脱部44は先端カバー34の内側面に密着するように配設されているため、離脱部44が固設部42から分離することはないとともに、牽引荷重は離脱部44を介して先端カバー34によって適切に受け止められる。
【0034】
また、先端カバー34に一体的に固設部42が固設され、その固設部42から離脱部44が分離して離脱させられるようになっているため、離脱部44が固設部42から分離する離脱荷重を適当な大きさに容易に設定することができる。すなわち、本実施例では固設部42と離脱部44との境界にスリット46が設けられ、そのスリット46が設けられた部分が破断することによって固設部42から離脱部44が分離させられるため、そのスリット46の長さを変更することにより、離脱荷重を所定の大きさに容易に設定できる。
【0035】
また、本実施例では、衝撃吸収部材として軸方向へ蛇腹状に圧縮変形させられるクラッシュボックス14Rが用いられているが、取付フランジ40は先端カバー34と平行な平板状を成しているため、その取付フランジ40の存在でクラッシュボックス14Rの圧縮変形(圧縮ストロークなど)が阻害される恐れがなく、そのクラッシュボックス14Rによる衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られる。
【0036】
また、本実施例では、取付フランジ40が平板状を成しているとともに、固設部42および離脱部44が互いに一体に構成されているため、固設部42と離脱部44とを別体に構成する場合に比較して部品点数が少ないとともに、その取付フランジ40をプレスによる打ち抜き加工や穴明け加工などで簡単に製造することが可能で、製造コストが低減される。
【実施例2】
【0037】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0038】
図6〜図8の実施例は、ナット部材24の後端に取付フランジ60が一体に設けられている場合で、図6は図1の(b) に相当する断面図で、図7は図3(b) に対応する分解斜視図、図8は図4に対応する斜視図である。このナット部材24は、冷間鍛造加工等により取付フランジ60と一体成形されたもので、取付フランジ60は、前記先端カバー34の前板部48と平行な平板形状を成しているとともに、その前板部48の内側面に略全面に亘って面接触させられた状態で凸湾曲形状の上下の両端縁部分がアーク溶接等により前板部48に一体的に溶接固定されている。溶接部W2は、この取付フランジ60と前板部48との溶接箇所である。
【0039】
上記取付フランジ60には、先端カバー34に溶接固定される上下の両端縁から少し内側の部分に、それぞれ略水平に所定の断面形状の溝62が設けられており、ナット部材24に対してクラッシュボックス14Rの内側へ向かう方向に所定値以上の衝撃荷重が作用した場合には、そのクラッシュボックス14Rが圧壊し始める前に溝62が設けられた部分で破断し、ナット部材24が先端カバー34から分離してクラッシュボックス14Rの内側へ離脱させられるようになっている。取付フランジ60のうち溝62よりも上下の端縁側の部分は固設部64で、溝62よりも上下の内側の部分は離脱部66であり、離脱部66はナット部材24と共に先端カバー34から離脱させられるが、固設部64は先端カバー34に固設されたまま保持される。上記溝62が設けられた薄肉部分、すなわち固設部64と離脱部66との境界部分は脆弱部に相当し、溝62の断面形状や深さを適当に設定することにより所定の離脱荷重(破断強度)が得られる。本実施例では、断面が円弧形状の溝62が設けられている。
【0040】
本実施例においても、ナット部材24に所定値以上の衝撃荷重が作用した場合に離脱部66が固設部64から分離させられ、その離脱部66と共にナット部材24がクラッシュボックス14Rの内側へ離脱させられるため、クラッシュボックス14Rの先端カバー34部分に衝撃荷重が直接作用させられるようになって、斜め方向からの荷重入力や偏荷重が作用する場合でもモーメントの発生が抑制されてクラッシュボックス14Rが適切に圧壊させられ、所定の衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られるなど、前記実施例と同様の作用効果が得られる。加えて、本実施例ではナット部材24と取付フランジ60とが一体に構成されているため、部品点数が一層少なくなるとともに、冷間鍛造加工等により一体成形することが可能で、製造コストが一層低減される。
【0041】
なお、上記実施例では、取付フランジ60の前板部48と反対側の面に溝62が設けられていたが、図9の(a) に示すように前板部48に対向する側の面に溝70を設けるようにしても良いし、図9の(b) に示すように両面に溝72、74を設けるようにしても良い。これ等の溝70、或いは溝72、74が設けられた薄肉の部分が脆弱部である。
【実施例3】
【0042】
図10〜図12の実施例は、取付フランジ80の離脱部82と固設部84とが別体に構成されている場合で、ナット部材24の後端に離脱部82が一体に設けられている一方、先端カバー34の前板部48の内側面には嵌合穴86を有する固設部84が一体的に溶接固定されており、その嵌合穴86に離脱部82が圧入固定されることにより、ナット部材24がその離脱部82および固設部84を介して先端カバー34に一体的に配設されている。図10は図1の(b) に相当する断面図で、図11は図3(b) に対応する分解斜視図、図12は図4に対応する斜視図である。
【0043】
離脱部82は、冷間鍛造加工等によりナット部材24と一体成形されているとともに、先端カバー34の前板部48と平行な平板形状を成しており、その前板部48の内側面に略全面に亘って面接触させられるように、固設部84の嵌合穴86内に圧入固定される。固設部84は、離脱部82と同様に前板部48と平行な平板形状を成しており、その前板部48の内側面に略全面に亘って面接触させられた状態で、凸湾曲形状の上下の両端縁部分がアーク溶接等により前板部48に一体的に溶接固定されている。溶接部W2は、この固設部84と前板部48との溶接箇所である。
【0044】
本実施例においても、ナット部材24に対してクラッシュボックス14Rの内側へ向かう方向に所定値以上の衝撃荷重が作用した場合には、そのクラッシュボックス14Rが圧壊し始める前に離脱部82が固設部84の嵌合穴86から抜け出し、ナット部材24と共に先端カバー34から分離してクラッシュボックス14Rの内側へ離脱させられる。離脱部82と固設部84との嵌合形状や圧入の嵌め込み代等を適当に設定することにより所定の離脱荷重が得られる。
【0045】
このように、本実施例においてもナット部材24が先端カバー34から分離してクラッシュボックス14Rの内側へ離脱させられるため、クラッシュボックス14Rの先端カバー34部分に衝撃荷重が直接作用させられるようになり、斜め方向からの荷重入力や偏荷重が作用する場合でもモーメントの発生が抑制されてクラッシュボックス14Rが適切に圧壊させられ、所定の衝撃エネルギー吸収性能が安定して得られるなど、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
【0046】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0047】
14R:クラッシュボックス(衝撃吸収部材) 20:牽引フック取付装置 22:牽引フック 24:ナット部材(フック取付部材) 30:筒体(側壁) 34:先端カバー 40、60、80:取付フランジ 42、64、84:固設部 44、66、82:離脱部 46:スリット(脆弱部) 62、70、72、74:溝(脆弱部) 86:嵌合穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状の側壁を有するとともに、該筒形状の軸方向が車両の前後方向となる姿勢で車体に配設され、軸方向に圧縮させられることにより衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部材と、
該衝撃吸収部材の先端カバーに設けられた挿通穴を貫通して外部へ突き出すように配設されたフック取付部材と、
を有し、該フック取付部材に牽引フックが一体的に取り付けられる車両の牽引フック取付構造において、
前記フック取付部材は、外周側へ延び出して前記先端カバーの内側面に密着させられる取付フランジを介して該先端カバーに配設されているとともに、
該取付フランジは、前記先端カバーの内側面に一体的に固設される固設部と、前記フック取付部材に対して前記衝撃吸収部材の内側へ向かう方向に所定値以上の衝撃荷重が作用した場合に、該衝撃吸収部材が圧縮し始める前に前記固設部から分離させられ、前記フック取付部材と共に該衝撃吸収部材の内側へ離脱する離脱部とを有する
ことを特徴とする車両の牽引フック取付構造。
【請求項2】
前記衝撃吸収部材は、軸方向へ蛇腹状に圧縮変形させられることにより衝撃エネルギーを吸収するクラッシュボックスで、
前記取付フランジは前記先端カバーと平行な平板状を成している
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の牽引フック取付構造。
【請求項3】
前記取付フランジの前記固設部および前記離脱部は互いに一体に構成されているとともに、それ等の固設部と離脱部との境界には、前記フック取付部材に前記所定値以上の衝撃荷重が作用した場合に破断させられる脆弱部が設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の牽引フック取付構造。
【請求項4】
前記固設部および前記離脱部は別体に構成されており、該固設部に設けられた嵌合穴内に前記離脱部が圧入固定されることにより、該離脱部を介して前記フック取付部材が前記先端カバーに配設されるとともに、該フック取付部材に前記所定値以上の衝撃荷重が作用した場合には、該離脱部が該嵌合穴から抜け出して該フック取付部材が該離脱部と共に該先端カバーから離脱する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の牽引フック取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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