説明

車両の評価方法および車両の評価装置

【課題】車両の旋回中の横揺れ感を適切かつ定量的に評価することができる車両の評価方法および車両の評価装置を提供する。
【解決手段】本発明の車両の評価方法は、旋回中の車両において、乗員の頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つについて、旋回方向の反対側の筋の筋活動を測定する工程と、この測定された筋活動の波形の特徴を表す筋電位の振幅特徴量を算出する工程と、この振幅特徴量によって車両の横揺れ感を評価する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り心地の評価項目の1つである車両の横揺れ感の評価方法および車両の評価装置に関し、特に、乗員の頭部の姿勢保持に関わる筋活動に基づいて、旋回中の車両の横揺れ感を適切かつ定量的に評価する車両の評価方法および車両の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車(車両)の乗り心地について種々の事項が評価されている。この乗り心地のうち、横揺れ感がある。この横揺れ感とは、直進時の路面などの外乱に起因する、車両に生ずるロール運動や横運動に伴う、頭部を横方向に揺さぶられるような感覚の良し悪しを指す。横揺れ感が好ましい状態とは、一般に揺さぶられる感覚が小さい場合をいう。
しかしながら、この横揺れ感については、ロール剛性、ロール減衰率、重心高、ホイールレートなどの車両特性の影響が複雑であるため予測が難しい。
【0003】
現在、頭部の安定化に貢献している左右の胸鎖乳突筋の筋電図と、車両の加速度、加加速度の関係の解析がなされている(非特許文献1参照)。非特許文献1においては、胸鎖乳突筋の筋電図が車両の加速度(慣性力)と加加速度との線形和で近似されると仮定して、胸鎖乳突筋の筋電図の近似を定量的に求めている。
この非特許文献1には、車両の前後方向の加速度および加加速度と、ドライバの頚部の左右の胸鎖乳突筋の筋活動の加算平均波形との対応関係の変化が、ドライバが感じる加速感と関係している可能性を示唆することが記載されている。
【0004】
また、ドライバが、路面不整等によって外部からハンドル操舵についてどれだけの仕事を受けているかに着目し、舵角量の時間微分値(操舵速度)と操舵力との積である操舵仕事率を指標として操安性の評価を行うものがある(特許文献1参照)。
この特許文献1においては、例えば、上腕三頭筋、尺側手根屈筋及び撓側手根伸筋等の腕の筋電位を検出する筋電位センサの検出結果に基づいて車両の操安性の評価を行うことが記載されている。
特許文献1における評価は、負の操舵仕事の正の操舵仕事に対する比である負の操舵仕事割合を用いてなされており、負の操舵仕事割合が小さい場合、操安性が高いと評価される。
さらには、特許文献1には、筋電位と負の操舵仕事割合との関係も開示されている(図9参照)。特許文献1の図9においては、右上の領域は直安性の悪い領域であり、左下の領域は直安性の良い領域である。この図9の表示によって、操安性の評価と、ドライバへの影響(ドライバのどの部位にどのような力がかかっているか)との関係を判断することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−214083号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】岩本義輝、梅津大輔、尾崎繁、“筋電図を用いた自動車ドライバ感性の評価”、第10回感性工学会大会前刷集、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、非特許文献1では、前後方向の加速度と、頭部の安定化に貢献している胸鎖乳突筋の筋電図との関係について検討がされているものの、横揺れ感については、何ら検討されていない。
また、特許文献1においては、筋電位を用いて操安性を評価すること、および操安性の評価とドライバへの影響との関係については記載されているものの、ドライバの乗り心地については何ら記載されていない。
このように、横揺れ感については、定量的な評価方法がないのが現状である。このようなことから、直進状態での横揺れ感および旋回中の横揺れ感は、主に官能評価によって評価されている。
しかし、官能評価は、評価者(パネラー)の個人差、評価者自身の健康状態、または種々の環境条件により大きく左右される。このため、官能評価で、得られる旋回中の横揺れ感の結果に、ばらつきが生じることがある。さらには、官能評価には、実験手続き上の制約が多いなどの問題点がある。
【0008】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、車両の旋回中の横揺れ感を適切かつ定量的に評価することができる車両の評価方法および車両の評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、旋回中の車両において、乗員の頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つについて、旋回方向の反対側の筋の筋活動を測定する工程と、前記測定された筋活動の波形の特徴を表す筋電位の振幅特徴量を算出する工程と、前記振幅特徴量によって車両の横揺れ感を評価する工程とを有することを特徴とする車両乗り心地の評価方法を提供するものである。
【0010】
本発明の第2の態様は、走行している車両の旋回の有無およびその旋回方向を判定する工程と、前記車両の乗員の頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つについて、前記判定された旋回方向の反対側の筋を選択する工程と、前記選択された筋の筋活動を測定する工程と、前記選択された筋の筋活動の波形の特徴を表す筋活動の振幅特徴量を算出する工程と、前記振幅特徴量によって車両の横揺れ感を評価する工程とを有することを特徴とする車両乗り心地の評価方法を提供するものである。
本発明において、旋回中の横揺れ感の評価については、車両に乗っている乗員であれば、運転手によるものでも、非運転手、すなわち、横揺れ感の評価については、同乗者による評価であってもよい。
【0011】
本発明においては、前記車両の旋回の有無およびその旋回方向を判定する工程においては、前記筋活動が測定されている前記骨格筋における左右の筋の筋活動量の偏差を求め、この偏差に基づいて、前記車両の旋回の有無およびその旋回方向を判定することが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、前記選択される骨格筋は、胸鎖乳突筋、僧帽筋の上部、側頭筋および頭板状筋のうち、少なくとも1種類の筋肉であることが好ましい。
【0013】
本発明の第3の態様は、旋回中の車両において、乗員の頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つについて、旋回方向の反対側の筋の筋活動を測定する筋活動測定手段と、前記選択された筋の筋活動の波形の特徴を表す筋活動の振幅特徴量を算出する算出手段と、前記振幅特徴量によって車両の横揺れ感を評価する評価部とを有することを特徴とする車両乗り心地の評価装置を提供するものである。
【0014】
本発明の第4の態様は、走行している車両の旋回の有無およびその旋回方向を判定する判定手段と、前記車両の乗員の頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つについて、前記判定された旋回方向の反対側の筋を選択する選択手段と、前記選択された筋の筋活動を測定する筋活動測定手段と、前記選択された筋の筋活動の波形の特徴を表す筋活動の振幅特徴量を算出する算出手段と、前記振幅特徴量によって車両の横揺れ感を評価する評価部とを有することを特徴とする車両乗り心地の評価装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
横揺れ感の官能評価は、一般的なドライバでは評価することが難しく、テストドライバなどの専門的な人でなければ適切に評価できない。
しかしながら、本発明においては、旋回中の車両において、乗員の頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つ、旋回方向の反対側の筋の筋活動を測定して、振幅特徴量を求め、これを用いて横揺れ感を評価するため、評価者は、テストドライバ、一般的なドライバによらず、旋回中の横揺れ感を適切かつ定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の評価装置を示す模式図である。
【図2】縦軸に筋電位、横軸に時間をとって、旋回時の旋回方向側の骨格筋の筋電位の信号波形の一例と、旋回時の旋回方向とは反対側の骨格筋の筋電位の信号波形の一例を示すグラフである。
【図3】(a)および(b)は、本発明の実施形態に係る車両の評価装置において筋活動が測定される骨格筋およびその骨格筋への筋電センサの取付位置の例を示す模式図である。
【図4】縦軸に筋電位、横軸に時間をとって左右旋回時における骨格筋の筋電位の信号波形を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態に係る車両の評価装置による評価方法のフローチャートである。
【図6】(a)〜(f)は、実施例の測定結果の一例を示すグラフであって、(a)は、操舵角の結果を示し、(b)は、ヨーレートの結果を示し、(c)は、横加速度の結果を示し、(d)は、横加加速度の結果を示し、(e)は、旋回方向の反対側の筋の筋活動の結果を示し、(f)は、旋回方向と同じ側の筋の筋活動の結果を示す。
【図7】(a)は、縦軸に振幅特徴量、横軸に仕様A、仕様B、仕様Cをとって、テストドライバ5名の振幅特徴量の結果を示すグラフであり、(b)は、縦軸に官能評価(点数)、横軸に仕様A、仕様B、仕様Cをとって、テストドライバ5名の官能評価の結果を示すグラフである。
【図8】(a)は、縦軸に振幅特徴量、横軸に仕様A、仕様B、仕様Cをとって、一般成人男性20名の振幅特徴量の結果を示すグラフであり、(b)は、縦軸に官能評価(点数)、横軸に仕様A、仕様B、仕様Cをとって、一般成人男性20名の官能評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の車両の評価方法および車両の評価装置を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両の評価装置を示す模式図である。
【0018】
図1に示す評価装置10は、旋回している車両において、乗員100の頭部102の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つの骨格筋について、旋回方向の反対側の筋、すなわち、旋回方向の外側の筋の筋活動を測定し、この筋の筋活動から、筋活動の波形の特徴を表す振幅特徴量を求め、この振幅特徴量に基づいて、車両の乗り心地のうち、旋回中における、上述の横揺れ感を評価するものである。横揺れ感が好ましい状態とは、一般に揺さぶられる感覚が小さい場合をいう。
なお、乗員100には、車両を操縦する運転手、および助手席等に乗車する非運転手、すなわち、同乗者が含まれる。また、車両には、乗用車、バス、鉄道の車両、新交通システムの車両も含まれる。
【0019】
例えば、車両が旋回するとき、旋回方向と同じ側の胸鎖乳突筋の筋電位については、図2に示すような時間波形50が得られる。一方、旋回方向の反対側の胸鎖乳突筋の筋電位については、時間波形52が得られる。なお、図2において符号Dで示す区間は、旋回している領域を示すものである。
旋回方向の外側の筋は、旋回中は姿勢保持における拮抗筋であり、図2に示すように車両が旋回している区間Dにおいては、時間波形50で示される旋回方向の外側の筋の筋活動の大きさそのものは、時間波形52で示される旋回方向と同じ側の筋、すなわち、旋回方向と同じ側の筋よりも小さくなる。
しかしながら、旋回方向の外側の筋は、旋回中における頭部の横揺れを抑制するための筋活動を含む割合が旋回方向の内側の筋よりも大きくなるため、旋回方向の外側の筋の筋活動を選択的に評価することによって最も精度良く車両の横揺れ感を評価することができる。
本実施形態の評価装置10においては、横揺れ感が大きいと、乗員100の頭部102の姿勢保持に関わる骨格筋について、旋回方向の外側の筋活動の波形の特徴を表す筋電位の振幅特徴量が大きくなることを用いて、横揺れ感を適切かつ定量的に評価する。
【0020】
評価装置10は、測定ユニット(筋活動測定手段)12と、評価ユニット14とを有し、評価ユニット14には入力部16および表示部18が接続されている。
ここで、入力部16は、キーボード、マウスなど、コンピュータなどの入力に用いられるものである。
表示部18は、入力部16からの入力情報および評価ユニット14で得られた情報を表示するものである。この表示部18としては、CRT、LCD、PDP、有機ELなどの各種のモニタを用いることができる。
【0021】
測定ユニット12は、筋電センサ20aと、筋電センサ20bと、接地電極22と、アンプ24とを有し、更に車両情報取得センサ(車両情報取得手段)26を有する。
筋電センサ20aと筋電センサ20bとは、同じ構成であるため、以下、筋電センサ20a、20bとして、まとめて説明する。
筋電センサ20a、20bは、乗員100の頭部102の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1種類について左右一対の筋活動を、筋電位として検出するものである。
この筋電センサ20a、20bは、それぞれ、例えば、銀−塩化銀(Ag/AgCl)の皿型電極が対になって構成されるものであり、この一対の皿型電極が所定の間隔、例えば、5mm離間して測定する骨格筋が位置する皮膚の表面に貼り付けられる。
【0022】
本実施形態の筋電センサ20a、20bに用いられる銀−塩化銀(Ag/AgCl)電極は、金属銀の表面を塩化銀でコートしたものであり、再使用可能な汎用電極の中では電気特性上有効なものである。
なお、筋電センサ20a、20bの電極は、銀−塩化銀(Ag/AgCl)電極に限定されるものではない。筋電センサ20a、20bの電極は、ステンレススチール、カーボン、カーボンコンポジット、白金、金、銀、チタン、導電性樹脂、導電性高分子ゲルなど、その他の材料によって構成されたものであってもよい。
【0023】
接地電極22は、筋電センサ20a、20bから得られる筋電位信号は微弱であるため、周囲のノイズを除去するために用いられるものである。接地電極22は、アンプ24に接続され、アンプ24を介してアースされている。
【0024】
アンプ24は、筋電センサ20a、20bによって検出される筋電位を、所定倍増幅し、AD変換するものである。このアンプ24には、リード線を介して筋電センサ20a、20bが接続されている。このアンプ24には、一般的に生体アンプと呼ばれるものが用いられる。このアンプ24は、評価ユニット14の筋電情報取得部32に接続されている。
筋電センサ20a、20bによって検出される筋電位は,大抵の場合、数マイクロボルトから数ミリボルトの微小な電圧である。このため、アンプ24により電圧をAD変換可能なレベルまで、例えば、1000倍程度、増幅され、増幅された筋電位信号は、更にアンプ24で所定のサンプリング周波数でA/D変換されてデジタル信号として評価ユニット14に出力される。
【0025】
筋電センサ20aは、例えば、乗員100の左の胸鎖乳突筋110が位置する頸部102の皮膚の表面に貼り付けられ、筋電センサ20bは、例えば、乗員100の右の胸鎖乳突筋110が位置する頸部102の皮膚の表面に貼り付けられる。
本実施形態において、筋電センサ20a、20bが貼り付けられる胸鎖乳突筋110は、図3(a)に示すように、乗員100の頸部104にある筋肉であり、頸部104の両側に対称にある。この胸鎖乳突筋110の働きとしては、頭部102の回旋動作、頭部102の前傾・後傾動作など頭部102の動作全般の補助である。
乗員100が頭部102を前後に動かす際に、左右の胸鎖乳突筋110が同時に働き、頭部102を回旋させる際には、頭部102が向いた方向側の胸鎖乳突筋110が働く。
図3(a)では、片側の胸鎖乳突筋110しか示さないが、この胸鎖乳突筋110に対して、例えば、筋電センサ20aの一対の電極を、測定する胸鎖乳突筋110の筋腹に、筋繊維に対し平行に、例えば、符号21で示す位置における頸部104の皮膚の表面に貼り付ける。
【0026】
筋電センサ20aの一対の電極の皮膚表面への貼り付けは、スクラブで擦り汚れを落とし、皮膚と筋電センサ20aの電極との間の抵抗をできるだけ小さくするためアルコール等で拭いて、電極糊を用いて行われる。筋電センサ20aの貼り付けの際に、皮膚と筋電センサ20aの電極との間の電気抵抗が30kΩ以下になる状態にする。なお、皮膚表面への貼り付けの際の電気抵抗は5kΩ以下にすることが望ましい。
反対側の、残りの胸鎖乳突筋110に貼り付ける筋電センサ20bについても、筋電センサ20aと同様の方法により胸鎖乳突筋110に貼り付けられる。
【0027】
なお、本実施形態においては、測定対象となる骨格筋は、乗員100の頭部102の姿勢保持に関わる少なくとも1つの骨格筋であればよく、胸鎖乳突筋110に限定されるものではない。例えば、図3(a)に示すように、乗員100の頸部104から背中106におよぶ僧帽筋112であってもよい。この僧帽筋112についても、図3(a)では片側しか示していないが、背骨(図示せず)に対して対称にある。
僧帽筋112は、筋肉が大きいため、各部位により作用が異なる。このため、乗員100の頭部102の姿勢保持に関わる頸部104側の部位、すなわち、僧帽筋112の上部112aの筋活動を測定する。このため、僧帽筋112については、上部112aに相当する皮膚の表面の位置21に、筋電センサ20a、20bを上述の胸鎖乳突筋110に貼り付けたのと同様に貼り付ける。
【0028】
また、測定対象となる骨格筋は、図3(a)に示す頸部104にある頭板状筋114であってもよい。この頭板状筋114も、図3(a)では片側しか示していないが、背骨(図示せず)に対して対称に対をなしている。
この頭板状筋114は、片側が作用すると、その方向に頸部104が回転し、両側が作用すると顔が上に向く。この頭板状筋114については、例えば、後頭部下部において頭板状筋114に相当する皮膚の表面の位置21に、筋電センサ20a、20bを上述の胸鎖乳突筋110に貼り付けたのと同様に貼り付ける。
【0029】
さらには、測定対象となる骨格筋は、図3(b)に示す頭部102の側面にある側頭筋116であってもよい。図3(b)では片側しか示していないが、側頭筋116は、頭部102の両側にある。
この側頭筋116の場合にも、例えば、側頭筋116に相当する皮膚の表面の位置21に、筋電センサ20a、20bを上述の胸鎖乳突筋110に貼り付けたのと同様に貼り付ける。
【0030】
車両情報取得センサ26は、車両が旋回状態にあるか否かを判定するために、直進、旋回等、車両の走行状態に関する情報を取得するものである。この車両情報取得センサ26は、例えば、所定の時間、車両の横加速度、ヨーレート、車両の位置情報を得るものである。この場合、車両情報取得センサ26としては、例えば、加速度センサ、レートジャイロ、角速度計、GPSが用いられる。
なお、車両情報取得センサ26による車両の走行状態に関する情報は、車両の横加速度、ヨーレートに限定されるものではなく、例えば、横加速度に代えて、ロール角または操舵角でもよい。ロール角は、例えば、ジャイロセンサを用いて測定することができる。
また、操舵角は、例えば、車両のハンドル操舵軸回りに、ロータリーエンコーダを用いた操舵角計を装着することにより、測定することができる。
【0031】
本実施形態においては、旋回状態、直進状態等の車両の走行状態を特定することができれば、車両情報取得センサ26の構成は、特に限定されるものではない。
また、車両に横加速度センサ、ヨーレートセンサ、GPS等が設けられている場合、例えば、CAN(Controller Area Network)を介して、横加速度センサ、ヨーレートセンサ、GPS等に車両情報取得部30を接続させて、この車両情報取得部30において、横加速度、ヨーレート、およびGPSによる車両の位置情報を取得させることができるため、車両情報取得センサ26は必ずしも設ける必要はない。
【0032】
評価ユニット14は、図1に示すように、車両情報取得部30と、筋電情報取得部32と、データ処理部34と、解析部(算出手段)36と、評価部38と、記憶部40と、CPU42とを有する。
また、記憶部40には、入力部16から入力された後述する車両条件、走行条件、被験者情報が記憶され、さらには、車両条件、走行条件、被験者情報と後述する振幅特徴量とが対応付けて記憶されるものである。
CPU42は、車両情報取得部30と、筋電情報取得部32、データ処理部34と、解析部36と、評価部38と、記憶部40とを制御するものである。
評価ユニット14は、記憶部40に記憶された横揺れ感の評価方法のプログラムをCPU42が実行することで、各部が機能するコンピュータである。なお、評価ユニット14は、各部が専用回路によって構成された専用装置であってもよい。
【0033】
車両情報取得部30は、車両情報取得センサ26に接続されている。また、この車両情報取得部30は、データ処理部34および記憶部40に接続されている。なお、CANを介して、車載の各種のセンサと接続してもよい。
車両情報取得部30には、車両の走行状態に関する情報として、車両情報取得センサ26から、例えば、走行中の横加速度情報が担持された出力信号が入力される。
【0034】
車両情報取得部30は、この横加速度の出力信号に対して、例えば、ローパスフィルタリングを行い、横加速度を示す平滑化された信号波形(平滑化波形)を得る。そして、車両情報取得部30は、横加速度の信号波形(平滑化波形)のデータをデータ処理部34および記憶部40に出力する。
また、車両情報取得部30においては、ヨーレートについても、このヨーレートの出力信号に対して、例えば、ローパスフィルタリングを行い、ヨーレートを示す平滑化された信号波形(平滑化波形)を得る。車両情報取得部30は、このヨーレートの平滑化された信号波形のデータをデータ処理部34および記憶部40に出力することもできる。
さらには、操舵角についても、操舵角計からの出力信号に対して、例えば、ローパスフィルタリングを行い、操舵角を示す平滑化された信号波形(平滑化波形)を得る。そして、車両情報取得部30は、操舵角の平滑化された信号波形のデータをデータ処理部34および記憶部40に出力することもできる。
なお、車両情報取得部30は、平滑化等の信号処理をすることなく、横加速度の出力信号(信号波形)およびヨーレートの出力信号(信号波形)をデータ処理部34および記憶部40に出力することもできる。
【0035】
本実施形態においては、横加速度の情報以外にも、ロール角の情報、またはGPSによる車両位置情報が車両情報取得センサ26から入力される。この場合でも、車両情報取得部30は、車両情報取得センサ26の出力信号に基づいて、ロール角の値の時系列データ、またはGPSによる車両位置の時系列データを取得し、これらのデータをデータ処理部34および記憶部40に出力する。
【0036】
筋電情報取得部32は、アンプ24、データ処理部34および記憶部40に接続されている。この筋電情報取得部32は、筋電センサ20a、20bによって時系列に取得された胸鎖乳突筋110の筋電位が、アンプ24でA/D変換されたデジタル信号について、整流平滑化を行い、平滑化筋電波形を得るものである。
【0037】
本実施形態においては、アンプ24から出力されたデジタル信号に対して、例えば、全波整流を行い、例えば、2次のバターワースフィルタ(カットオフ周波数の範囲で1〜10Hz)によりローパスフィルタリングを行い、整流平滑化する。これにより、左右の胸鎖乳突筋110のそれぞれの筋電位について、平滑化された信号波形(以下、平滑化筋電波形ともいう)を得ることができる。
例えば、図4に示すグラフ60に示されるように、左右旋回をした時における胸鎖乳突筋110の筋電位の信号波形(平滑化筋電波形)62、64を得ることができる。
筋電情報取得部32は、平滑化筋電波形のデータをデータ処理部34および記憶部40に出力する。
【0038】
なお、筋電情報取得部32において、ローパスフィルタリングに用いるフィルタは、2次のバターワースフィルタに限定されるものではなく、3次以上のバターワースフィルタを用いてもよい。更には、整流平滑化する場合、ローパスフィルタリングにかえて、移動平均を用いてもよい。
信号波形62は、筋電センサ20aで乗員100の左側の胸鎖乳突筋110を所定時間測定し、信号処理して得られたものであり、信号波形64は、筋電センサ20bで乗員100の左側の胸鎖乳突筋110を所定時間測定し、信号処理して得られたものである。
【0039】
データ処理部34は、車両情報取得部30、筋電情報取得部32、解析部36、表示部18および記憶部40およびCPU42に接続されている。
データ処理部34は、測定された横加速度の信号波形、または胸鎖乳突筋110の筋電位の信号波形から車両が旋回状態であるかを判定し、旋回している場合には旋回方向を特定するものである。このデータ処理部34は、車両が旋回状態の有無、および旋回方向を特定した後に、旋回方向と反対側の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータを解析部36に出力するか、または筋電情報取得部32から旋回方向と反対側の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータを解析部36に出力させる。このように、データ処理部34は判定手段および選択手段を構成する。
【0040】
データ処理部34においては、横加速度の場合、横加速度を示す信号波形から、例えば、直流成分(DC成分または0Hz)〜0.1Hzのトレンド成分を求める。この求めたトレンド成分が、ゼロであれば、直進していると判定する。横加速度の直流成分(DC成分または0Hz)〜0.1Hzのトレンド成分が正の値または負の値であれば、旋回していると判定するとともに、トレンド成分の値に応じて旋回方向を特定する。なお、横加速度のトレンド成分の正負と、左右の旋回方向とは、予め対応つけられている。例えば、左旋回は、トレンド成分の値を負とする。
【0041】
また、ヨーレートにおいても、上述の横加速度と同様にしてヨーレートの信号波形について、例えば、直流成分(DC成分または0Hz)〜0.1Hzのトレンド成分を求める。この求めたトレンド成分が、ゼロであれば、直進していると判定する。直流成分(DC成分または0Hz)〜0.1Hzのトレンド成分が正の値または負の値であれば、旋回していると判定し、このトレンド成分の値に応じて旋回方向を特定する。なお、ヨーレートにおいても、横加速度と同様にトレンド成分の正負と、左右の旋回方向とは、予め対応つけられている。
【0042】
操舵角の値については、トレンド成分を求めることなく、操舵角の値に対して、予め決定されている所定の閾値と比較して、車両が旋回状態であるか否かが判定され、この操舵角の値に応じて旋回方向を特定する。なお、操舵角の正負と、左右の旋回方向とは、予め対応つけられている。
【0043】
また、GPSによる車両位置についても、トレンド成分を求めることなく、GPSによる車両位置の時間変化に対して、予め決定されている所定の閾値と比較して、車両が旋回状態であるか否かが判定され、車両位置の時間変化による車両の向きに応じて旋回方向を特定する。なお、車両位置の時間変化による車両の向きと、左右の旋回方向とは、予め対応つけられている。
なお、GPSによる車両位置を用いる場合、車両の走行軌跡を求め、この走行軌跡について、パターンマッチングを行って、車両の走行状態を特定して、車両の旋回の有無およびその旋回方向を特定してもよい。この場合、車両位置情報の取得時期と、筋電位の信号波形におけるタイミングとを関連付けておく。
【0044】
本実施形態においては、車両情報を用いて、データ処理部34で車両の走行状態が旋回状態であると判定されて、その旋回方向が特定された場合、旋回方向の反対側の胸鎖乳突筋110が選択される。そして、データ処理部34において、この選択された胸鎖乳突筋110についてアンプ24から出力される筋電位のデジタル信号だけを筋電情報取得部32で所得させる。この場合、筋電情報取得部32で得られた旋回方向の反対側の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータを、直接解析部36に出力させる。
後述するように解析部36においては、例えば、旋回方向と反対側の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータを用いて振幅特徴量が求められる。
【0045】
なお、車両情報を用いて、車両の走行状態を走行中に判定して、そのときに解析部36で振幅特徴量を求めることに限定されるものではない。走行後、データ処理部34により旋回状態と判定され、旋回方向が特定された区間について、旋回方向と反対側の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータを用いて振幅特徴量を求めてもよい。
【0046】
データ処理部34においては、車両情報を用いて、車両の走行状態を判定したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、測定された筋電位を用いて、車両の旋回の有無および旋回方向を判定してもよい。この場合、頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1種類について、左右両方の筋の筋電位を測定する。旋回方向の内側の筋の筋活動は、図2に示すように、旋回方向の外側の筋に比して相対的に大きくなることから、旋回方向の内側の筋の筋電位と旋回方向の外側の筋の筋電位とに偏差が生じる。この偏差により、偏差がない、すなわち、偏差がゼロと、偏差が正の値と、偏差が負の値とにより、旋回の有無と旋回方向とを判定することができる。
【0047】
この偏差を求める場合、常に右の筋電位から左の筋電位を引く。これにより、図4に示すように、左右の旋回を行って得られる胸鎖乳突筋110の左側の筋電位の信号波形62と、右側の筋電位の信号波形64とにおいて、左旋回の領域αでは、左側の筋電位の信号波形62の方が大きいため、偏差は負の値になり、右旋回の領域βでは、右側の筋電位の信号波形64の方が大きいため、偏差は正の値になる。
【0048】
なお、測定された筋電位による車両の旋回の有無および旋回方向の判定は、上記以外にも、次のようにして求めることができる。例えば、測定された左右の胸鎖乳突筋110の筋電位の信号波形62、64に対して、それぞれトレンド成分を求める。
そして、左の胸鎖乳突筋110のトレンド成分と右の胸鎖乳突筋110のトレンド成分との偏差を求める。この偏差に対して、予め直進状態、旋回状態とみなせる範囲、旋回方向について、実験などにより設定しておく。この偏差に基づいて、車両の走行状態が旋回状態であるか否かが判定され、旋回方向も特定される。
【0049】
左右の筋電位の平滑化筋電波形のデータから求められるトレンド成分の偏差は、定常的な外力によって生じる。このため、この偏差が十分に小さければ、車両は略直進状態であるとみなすことができる。
このように、データ処理部34で左右の胸鎖乳突筋110の筋電位の信号波形に基づいて、車両が旋回状態であると判定され、その旋回方向が特定された場合、データ処理部34から解析部36に、旋回方向と反対側の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータが出力される。
【0050】
また、本実施形態においては、測定された筋電位を用いて、データ処理部34で車両の走行状態が旋回状態であると判定されて、その旋回方向が特定された場合、旋回方向の反対側の胸鎖乳突筋110が選択されて、データ処理部34において、この選択された胸鎖乳突筋110についてアンプ24から出力される筋電位のデジタル信号だけを筋電情報取得部32で所得させるようにしてもよい。この場合、筋電情報取得部32で得られた旋回方向の反対側の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータを、直接解析部36に出力させる。後述するように解析部36においては、例えば、旋回方向と反対側の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータを用いて振幅特徴量が求められる。
【0051】
なお、本実施形態においては、筋電センサ20a,20bと旋回方向との関係を予め記憶部40に記憶させておくとともに、旋回方向を決めておくことにより、旋回情報を取得することなく、旋回したときに、筋電センサ20a、20bのいずれかで得られた筋電位のうち、旋回方向との反対側のものを用いて後述の振幅特徴量を求めることができる。
このため、必ずしも旋回情報の取得は必要ではなく、データ処理部34においては、旋回の有無および旋回の方向の判定は必ずしも必要ではない。この場合、データ処理部34は不要であり、左右のうち、旋回方向の外側の筋の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータが、筋電情報取得部32から解析部36に直接出力される。
【0052】
また、旋回方向を予め決めておけば、測定対象となる骨格筋は、骨格筋のうち、旋回方向の反対側の筋に限定される。このため、測定対象となっている骨格筋、本実施形態では、左右の胸鎖乳突筋110のうち、旋回方向の反対側の筋を選択すればよい。本実施形態では、右旋回のときには、センサ20aの筋電位が用いられ、左旋回のときには、センサ20bの筋電位が用いられる。
【0053】
本実施形態においては、測定された筋電位は、予め横方向の外力で正規化しておくことが好ましい。
筋電位の正規化は、例えば、RVE(Reference Voluntary Electric activity)として、側臥位(横向きに寝る姿勢)において、頭部を接地させないことによる、頭部自重を負荷とした筋活動量を基準値とする。この基準値を用いて筋電位を正規化する。
【0054】
また、大きさが既知の横方向の外力を頭部に負荷して、そのときの筋電位を測定し、付加した外力の大きさを基準値として正規化してもよい。
さらには、乗員に横方向に任意の角度で頭を傾けてもらい、そのときの姿勢、すなわち、頭の角度を、頭の姿勢が分かるセンサを用いて計測するとともに、筋電位を同時に測り、筋電位と頭に作用する横方向の力を求め、この横方向の力を基準値として筋電位を正規化することもできる。
【0055】
このように、筋電位を正規化しておけば、筋電位を測定することにより、直進、旋回等の車両の走行状態を判定することができる。これにより、横揺れ感の評価の際に、車両運動を同時に測定することが不要となり、筋電位を測定するだけで車両の横揺れ感を評価することができる。このため、横揺れ感の評価に際して、測定を簡便にできるとともに、評価も簡便にできる。
【0056】
なお、筋電位を正規化することにより、評価対象者である乗員の筋電位だけを測定すればよいため、車両の車両情報取得センサ26が不要になるとともに、乗員が複数の車両を乗りかえることにより、複数の車両について、それぞれ旋回中の横揺れ感を評価することができる。
また、筋電位の正規化を利用する場合には、筋電位を測定する電極を取り付ける度に行うことが好ましい。
【0057】
解析部36は、例えば、旋回方向と反対側の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータを用いて振幅特徴量を求めるものである。
本発明の振幅特徴量とは、車両が旋回状態において、本実施形態では、胸鎖乳突筋であるが、頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、旋回中の頭部の横揺れを抑制するための筋活動を含む割合が大きい旋回方向の外側の筋の筋電位についての振幅およびその振幅の変動を定量化したものである。
【0058】
振幅特徴量において、振幅を表すものとしては、例えば、旋回方向の外側の筋の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータの所定の区間における筋電位の平均値、または所定の区間における筋電位のRMS値が用いられる。
さらには、振幅特徴量において、振幅の変動を表すものとしては、例えば、旋回方向の外側の筋の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータの所定の区間における標準偏差が用いられる。所定の区間が旋回中であれば、この標準偏差により振幅の変動を表すことができる。
また、振幅の変動を表すものは、標準偏差に限定されるものではなく、CV値を用いてもよい。このCV値は、標準偏差/平均値で規定されるものである。このように、CV値では、振幅の変動の大きさを振幅の大きさで規格化するため、個人差および計測のばらつきを軽減することができる。
さらには、平滑化筋電波形のデータについて、所定の区間のデータを時間で微分し、この微分された所定の区間の平滑化筋電波形のデータにおける振幅(RMS値)を求め、この振幅を、振幅の変動を表すものとしてもよい。
【0059】
また、解析部36は、表示部18に接続されており、解析部36で算出された振幅特徴量の値を、例えば、筋電位の波形とともに表示させることもできる。
【0060】
評価部38は、解析部36で算出された振幅特徴量を用いて横揺れ感を評価するものである。この評価部38においては、解析部36で算出された振幅特徴量が小さいほど、横揺れ感が小さいと評価される。これは、振幅特徴量が大きいと、旋回状態の車両での乗員100の頭102部の揺れが大きいためである。
【0061】
また、評価部38は、表示部18に接続されており、解析部36で算出された振幅特徴量を用いた評価結果が表示部18に表示される。
なお、記憶部40は、筋電情報取得部32で得られた平滑化筋電波形のデータ、解析部36で得られた上記振幅特徴量、評価部38で得られた評価結果の情報が、それぞれ入力されて記憶される。
【0062】
なお、本実施形態では筋活動の情報として筋電位を用いたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、筋肉に加速度センサを配置して、筋音を計測してもよい。この筋音とは、筋線維が収縮する際にその径が側方に拡大変形する結果発生する一種の圧波であり、筋の機械的な活動を反映している信号である。本実施形態においては、この筋音を用いた場合でも、筋電位と同様に、横揺れ感を評価することができる。
【0063】
次に、本実施形態の車両の横揺れ感の評価方法について説明する。
先ず、例えば、ドライバを、自動車のシートに座らせ、さらに、例えば、助手席に乗員100を載せる。この乗員の左右の胸鎖乳突筋110に相当する皮膚の表面の位置に、それぞれ筋電センサ20a、20bを取り付ける。
なお、ドライバ−に対して、筋電センサ20a、20bを左右の胸鎖乳突筋110に相当する皮膚の表面の位置に取り付けて筋電位を測定してもよい。
【0064】
次に、ドライバにより自動車を、例えば、左右の旋回を含むように走行させる。自動車が走行している間、計測ユニット12の筋電センサ20a,20bで上述のように乗員100の筋電位を測定する。
評価ユニット14において、筋電情報取得部32により、測定された左右の胸鎖乳突筋110についての平滑化筋電波形のデータを得る。この平滑化筋電波形のデータを解析部36に出力する。
このとき、自動車が旋回しているかを判定するための車両情報取得部30による横加速度等の車両情報が取得されている。
【0065】
例えば、車両情報取得センサ26により横加速度等の車両情報を取得し、この横加速度の信号波形のデータから、例えば、0.1Hz以下のトレンド成分が求められる。
そして、データ処理部34においては、このトレンド成分の正の値、または負の値等の値によって、旋回の有無および旋回方向を判定する。この判定に基づいて、旋回していれば、その旋回方向とは反対側の胸鎖乳突筋110についての平滑化筋電波形のデータを解析部36に出力する。このようにして、左右のうち、旋回方向の外側の筋の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータがデータ処理部34において選択されて、解析部36に出力される。その後、解析部36で振幅特徴量が算出される。そして、この振幅特徴量が評価部38に出力される。
【0066】
次に、評価部38は、振幅特徴量に基づいて評価する。この場合、評価部38においては、上述のように、振幅特徴量が小さいほど、横揺れ感が小さいと評価される。この評価部38による横揺れ感の評価結果は表示部18に表示してもよい。
【0067】
横揺れ感の官能評価は、一般的なドライバでは評価することが難しい。しかしながら、本実施形態においては、旋回中における旋回方向の反対側の筋の筋電位に基づいて振幅特徴量を求めることにより、旋回中の横揺れ感を、テストドライバ、一般的なドライバによらず、適切かつ定量的に評価することができる。このため、評価者は、テストドライバなどの専門的な人である必要がない。しかも、官能評価ではないので、実験手続き上の制約も少なくなり、更には、評価のばらつきも抑制される。特に、筋電位を正規化しておけば、評価の精度を高めることができる。
【0068】
また、本実施形態においては、車両情報を求めることなく、乗員100の左右の胸鎖乳突筋110の筋電位の平滑化筋電波形のデータから、偏差を求め、この偏差に基づいて旋回の有無および旋回方向を判定し、車両が旋回状態の場合には、データ処理部34から旋回方向とは反対側の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータが解析部36に出力されて、上述のように解析部36で振幅特徴量が算出されて評価部38で横揺れ感が評価されてもよい。
この場合、車両情報取得センサ26により、横加速度等の車両情報を取得する必要がない。なお、乗員100の筋電位は、上述のように、正規化しておくことが好ましい。
【0069】
本実施形態においては、横揺れ感を評価する際に、走行条件を限定していないが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、旋回方向を右に特定し、筋電センサ20aを1つ、旋回方向とのは反対側の左側の胸鎖乳突筋110に相当する皮膚の表面の位置に取り付けて、自動車の旋回走行中における筋電位を測定して、上述のように、振幅特徴量を算出させ、評価部38で横揺れ感が評価するようにしてもよい。
このように、旋回方向を特定しておけば、筋電センサ20aは1つで済み、横揺れ感の評価を簡便な構成で、しかも容易にすることができる。
【0070】
なお、本実施形態においては、横揺れ感の評価方法は、上述の評価方法に限定されるものではない。
本実施形態においては、例えば、横揺れ感についてのデータを蓄積した後、任意の条件間で振幅特徴量を比較して、旋回中の横揺れ感を評価してもよい。
この場合、上述の評価装置10を用いて、図5に示すように、まず、車両条件、走行条件、被験者情報を、評価ユニット14に、入力部16により入力する(ステップS10)。これらの車両条件、走行条件、被験者情報(乗員情報)は、記憶部40に記憶される。
【0071】
なお、被験者情報として、必要度の高いものとしては、例えば、被験者個人を識別できる記号、番号または氏名、被験者情報の入力年月日、被験者の年齢、被験者の性別、被験者の身長、被験者の体重が挙げられる。
また、被験者情報として、入力されることが望ましい情報としては、被験者の国籍、被験者の現住所または住んでいる地域、被験者の評価対象となるカテゴリーの車両の乗車経験の有無、期間および頻度、被験者の評価対象となるカテゴリーの車両の運転経験の有無、期間および頻度、ならびに被験者の評価経験の有無および期間が挙げられる。
また、車両条件としては、例えば、車種名、型式、排気量、使用年数、走行距離、タイヤの種類、およびタイヤの空気圧等が挙げられる。
また、走行条件としては、例えば、市街地、郊外、高速、峠などの走行状況、および乾燥、雨または雪等の路面状況が挙げられる。
【0072】
次に、車両を上記走行条件に基づいて走行させる。このとき、乗員100には筋電センサ20a、20bが左右の胸鎖乳突筋110に取り付けられており、これにより筋活動が測定される(ステップS12)。
【0073】
次に、測定された筋活動を用いて、上述のように、旋回の有無および旋回方向を判定し、これに応じて、例えば、旋回方向の外側の筋の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータに基づいて振幅特徴量が算出される(ステップS14)。
次に、算出された振幅特徴量が、入力された車両条件、走行条件、被験者情報に対応付けられてセットで記憶部40に記憶される(ステップS16)。
次に、データの蓄積が十分であれば(ステップS18)、任意の条件間で振幅特徴量を比較し、横揺れ感が評価される(ステップS20)。
このように、任意の条件間で比較することにより、各条件間での横揺れ感の優劣を評価することができる。
【0074】
一方、データの蓄積が不十分であれば(ステップS18)、車両条件、走行条件、被験者情報の条件のうち、少なくとも車両条件または走行条件を変えて、再度、車両条件、走行条件、被験者情報を評価ユニット14に、入力部16により入力する(ステップS10)。
そして、車両を上記走行条件に基づいて走行させ、このときの筋活動を測定する(ステップS12)。
そして、測定された筋活動を用いて、上述のように、旋回の有無および旋回方向を判定し、これに応じて、例えば、旋回方向の外側の筋の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータに基づいて振幅特徴量が算出される(ステップS14)。
【0075】
そして、算出された振幅特徴量を、入力された車両条件、走行条件、被験者情報に対応付けられて記憶部40に記憶させる(ステップS16)。これらのステップS12〜S16を繰り返し行う。
データの蓄積が十分であれば(ステップS18)、任意の条件間で振幅特徴量を比較し、横揺れ感が評価される(ステップS20)。
【0076】
なお、ステップS18におけるデータの蓄積の十分、不十分の判定は、少なくとも1名の被験者について、少なくとも複数の車両条件または走行条件のデータが蓄積されれば、データの蓄積は十分であると判定される。また、データの蓄積量として、予め、被験者数、車両条件、走行条件等の数量を決めてある場合、その数量に達するまで、繰り返し、データの蓄積を行い(ステップS18)、データの蓄積後に、任意の条件間で振幅特徴量を比較し、横揺れ感を評価する(ステップS20)。
【0077】
本発明は、車両の横揺れ感を評価するものであるが、さらに、この横揺れ感の評価に基づいて、以下に示す評価ができる。
例えば、車両のそのものの違いによる乗り心地を評価することができる。この場合、同じ車両について、その個体差による乗り心地の評価もできる。
また、車両の装着されたタイヤの違いによる乗り心地を評価することができる。また、車両の組み付けられたサスペンションの特性の違いによる乗り心地を評価することができる。また、車両のシート、シートクッションの座面角、シートバックの背面角等のシートのポジション、シートへの着座姿勢の違いによる乗り心地を評価することができる。
また、座席の位置の違い、例えば、乗用車の場合、運転席、助手席、後部座席(左、中央、右)等による乗り心地を評価することができる。
また、タクシー、バスなどの旅客自動車における運転者の違いによる客席の乗り心地を評価することができる。この場合、旅客自動車における運転者の運転技術評価へ応用できる。
さらには、軌道上を走行する鉄道車両、新交通システムなどの車両における客席の乗り心地を評価することができる。この場合、車両特性、軌道、運転制御の違いによる乗り心地を評価することができる。
【0078】
本発明は、基本的に以上のようなものである。以上、本発明の車両の評価方法および車両の評価装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例1】
【0079】
以下、本発明の車両の横揺れ感の評価方法の実施例について具体的に説明する。
本実施例においては、以下に示す各種の条件で旋回走行試験を行い、左右の胸鎖乳突筋の筋活動を測定して、旋回方向の外側の振幅特徴量を求めるとともに、その旋回中の横揺れ感の官能評価を行った。
旋回走行試験は、曲率半径が140mのコースを速度60km/時で走行した。路面条件は、舗装された不整路面とした。この不整路面にはうねり等がある。
【0080】
本実施例では、試験車両には、乗用車を用い、タイヤの空気圧を下記に示す仕様A〜仕様Cのように3種類とした。
乗用車には、排気量3.5リットル、FR(後輪駆動)の4ドアセダンを用いた。タイヤサイズは、225/45R17とした。
仕様Aは、タイヤの空気圧を、フロントを150kPa、リアを150kPaとした。
仕様Bは、タイヤの空気圧を、フロントを220kPa、リアを220kPaとした。
仕様Cは、タイヤの空気圧を、フロントを300kPa、リアを300kPaとした。
【0081】
本実施例においては、振幅特徴量を以下のようにして求めた。
振幅特徴量を求めるに際して、上記仕様A〜仕様Cの各試験車両に、車両運動特性および乗り心地の官能評価を業とするテストドライバ(以下、単にテストドライバという)5名と、運転免許を保有する一般の成人男性20名に、それぞれパッセンジャーとして、上記仕様A〜仕様Cの各試験車両に乗車してもらい、直線走行試験における各テストドライバ(5名)、各一般成人男性(20名)の左右の胸鎖乳突筋の筋活動を上述の計測装置10を用いて測定した。
そして、各テストドライバ(5名)、各一般成人男性(20名)について振幅特徴量を求めた。本実施例においては、振幅特徴量について、振幅を表すものとしてRMS値を求め、振幅の変動を表すものとして標準偏差を求めた。本実施例においては、振幅特徴量は、RMS値と標準偏差との合計により表される。
これらのRMS値および標準偏差は、後述する図6(a)〜(f)に示す旋回中の領域Dにおける旋回方向外側の筋の胸鎖乳突筋110の平滑化筋電波形のデータを用いて求めた。
【0082】
本実施例では、操舵角、ヨーレート、横加速度も測定している。図6(a)〜(f)に、実施例の測定結果の一例を示す。図6(a)〜(f)には、旋回中の領域Dを示している。
また、図6(d)に、図6(c)で得られた横加速度を時間で微分して得られた横加加速度を示している。この図6(d)に示す横加加速度は、横揺れの指標に用いられるものである。しかしながら、横加加速度の旋回中のRMS値は、仕様A〜仕様Cにおいて殆ど差がなかった。
【0083】
また、各テストドライバ(5名)の上記振幅特徴量の結果を図7(a)に示し、各一般成人男性(20名)の上記振幅特徴量の結果を図8(a)に示す。
図7(a)においては、テストドライバにおける振幅特徴量(RMS値と標準偏差との合計)のうち、最大値を100.0として指数で表示している。
また、図8(a)においては、一般成人男性における振幅特徴量(RMS値と標準偏差との合計)のうち、最大値を100.0として指数で表示している。
【0084】
また、横揺れ感の官能評価は、以下のようにして行った。
横揺れ感の官能評価においては、上記仕様A〜仕様Cの各試験車両にそれぞれパッセンジャーとして乗車して左右の胸鎖乳突筋の筋活動を測定する際に、各テストドライバ(5名)、各一般成人男性(20名)に各試験車両による直進走行試験中の横揺れ感の好ましさを下記表1に示す評価基準に基づいて評価させた。
各テストドライバ(5名)の上記横揺れ感の評価結果を図7(b)に示し、各一般成人男性(20名)の上記横揺れ感の評価結果を図8(b)に示す。
【0085】
なお、各テストドライバ(5名)、各一般成人男性(20名)による左右の胸鎖乳突筋の筋活動の測定、および横揺れ感の官能評価について、仕様A〜仕様Cの試験車両の運転は、同じドライバによりなされた。すなわち、本実施例において、筋活動の測定、および横揺れ感の官能評価するためのドライバは1人である。
【0086】
【表1】

【0087】
テストドライバでは、図7(a)に示すように、仕様A、仕様B、仕様Cの順で振幅特徴量が小さくなっている。このことから、振幅特徴量に基づく横揺れ感の評価は、仕様A、仕様B、仕様Cの順で好ましい。
また、図7(b)に示すように、官能評価の点数は、仕様A、仕様B、仕様Cの順で高くなっている。このことから、官能評価に基づく横揺れ感の評価は、仕様A、仕様B、仕様Cの順で好ましい。
このように、テストドライバでは、図7(a)に示す振幅特徴量の結果と、図7(b)に示す官能評価の結果とが一致している。
【0088】
一方、一般成人男性は、図8(a)に示すように、仕様A、仕様B、仕様Cの順で振幅特徴量が小さくなっている。このことから、振幅特徴量に基づく横揺れ感の評価は、仕様A、仕様B、仕様Cの順で好ましい。
また、図8(b)に示すように、官能評価の点数は、仕様A、仕様B、仕様Cの順で高くなっている。しかしながら、仕様A〜仕様Cとの差が小さく、仕様A〜仕様Cについては、ばらつきを考慮すると殆ど同じである。このことから、一般成人男性では、仕様A、仕様B、仕様Cに対して、官能評価に基づく横揺れ感の評価は良くできていない。
【0089】
テストドライバと、一般成人男性を比較した場合、一般成人男性は、仕様A、仕様B、仕様Cに対して官能評価に基づく横揺れ感の評価は良くできていない。
しかし、振幅特徴量については、テストドライバと、一般成人男性との差は、官能評価における程の差がない。このことから、本発明の振幅特徴量によれば、一般成人男性であっても、テストドライバと同様に、横揺れ感を評価することができる。
【符号の説明】
【0090】
10 評価装置
12 測定ユニット
14 評価ユニット
16 入力部
18 表示部
20a、20b 筋電センサ
22 接地電極
24 アンプ
26 車両情報取得センサ
30 車両情報取得部
32 筋電情報取得部
34 データ処理部
36 解析部
38 評価部
40 記憶部
42 CPU
62 左の胸鎖乳突筋の筋電位の信号波形(平滑化筋電波形)
64 右の胸鎖乳突筋の筋電位の信号波形(平滑化筋電波形)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回中の車両において、乗員の頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つについて、旋回方向の反対側の筋の筋活動を測定する工程と、
前記測定された筋活動の波形の特徴を表す筋電位の振幅特徴量を算出する工程と、
前記振幅特徴量によって車両の横揺れ感を評価する工程とを有することを特徴とする車両乗り心地の評価方法。
【請求項2】
走行している車両の旋回の有無およびその旋回方向を判定する工程と、
前記車両の乗員の頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つについて、前記判定された旋回方向の反対側の筋を選択する工程と、
前記選択された筋の筋活動を測定する工程と、
前記選択された筋の筋活動の波形の特徴を表す筋活動の振幅特徴量を算出する工程と、
前記振幅特徴量によって車両の横揺れ感を評価する工程とを有することを特徴とする車両乗り心地の評価方法。
【請求項3】
前記車両の旋回の有無およびその旋回方向を判定する工程においては、
前記筋活動が測定されている前記骨格筋における左右の筋の筋活動量の偏差を求め、この偏差に基づいて、前記車両の旋回の有無およびその旋回方向を判定する請求項2に記載の車両乗り心地の評価方法。
【請求項4】
前記選択される骨格筋は、胸鎖乳突筋、僧帽筋の上部、側頭筋および頭板状筋のうち、少なくとも1種類の筋肉である請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両乗り心地の評価方法。
【請求項5】
旋回中の車両において、乗員の頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つについて、旋回方向の反対側の筋の筋活動を測定する筋活動測定手段と、
前記選択された筋の筋活動の波形の特徴を表す筋活動の振幅特徴量を算出する算出手段と、
前記振幅特徴量によって車両の横揺れ感を評価する評価部とを有することを特徴とする車両乗り心地の評価装置。
【請求項6】
走行している車両の旋回の有無およびその旋回方向を判定する判定手段と、
前記車両の乗員の頭部の姿勢保持に関わる骨格筋のうち、少なくとも1つについて、前記判定された旋回方向の反対側の筋を選択する選択手段と、
前記選択された筋の筋活動を測定する筋活動測定手段と、
前記選択された筋の筋活動の波形の特徴を表す筋活動の振幅特徴量を算出する算出手段と、
前記振幅特徴量によって車両の横揺れ感を評価する評価部とを有することを特徴とする車両乗り心地の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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