説明

車両の走行制御装置

【課題】円滑な道路交通を促進できるようにしながら、運転者が脇見運転をした場合には走行安全性を確保することができるようにした、車両の走行制御装置を提供する。
【解決手段】
自車両の運転者の顔の向きから運転者が脇見状態であるかを判定する脇見状態判定手段30aと、自車両に先行する先行車両の情報を検出する先行車検出手段31と、運転者の加減速要求に対応して自車両の走行駆動源の出力を制御する走行制御手段10と、先行車検出手段31の検出情報から自車両の先行車両への追突可能性を判定する追突判定手段30と、を備え、走行制御手段10は、脇見状態判定手段30aにより運転者が脇見状態であることが判定され、且つ、追突判定手段30により自車両の先行車両への追突可能性があると判定されると、加減速要求に対応した走行駆動源の出力を抑制側に補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の状態に応じて、車両を加速抑制側に制御する走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車(以下、車両ともいう)には、自車両の前方の先行車両を検出するレーダセンサ等の前方検出センサを装備したものがある。このような車両では、センサにより検出される先行車両と自車両との車間距離や相対速度等の情報に基づいて、追従走行制御や車間距離制御等の種々の制御を実施することができる。
また、近年、運転者の脇見運転の検出に利用可能な顔向きセンサが開発されている。この顔向きセンサは、運転者の顔を撮影するために設けられたカメラと、このカメラの撮像画像を処理する処理部とから構成され、処理部は、カメラから供給される撮影像から運転者の顔の画像を抽出し、運転者の顔が正面方向に対して向く角度を検出する。車両正面方向に対する運転者の顔の向きが脇見に応じた角度であると、運転者が脇見状態であると判定する。
【0003】
特許文献1には、レーダセンサ及び顔向きセンサを装備した車両における走行制御にかかる技術が開示されている。この技術では、自車両を目標加減速度で走行させる走行制御において、運転者が脇見状態であると判断される場合には、設定された目標加減速度を減速側に変更し、運転者が脇見状態でないと判断される場合には、設定された目標加減速度となるように車両の走行制御を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−253820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の技術では、運転者が脇見状態、つまり、運転者が顔を横に向けた状態であると、車両の安全走行上好ましくない「脇見運転」或いは「よそ見運転」と判断して、車両の走行制御の目標加減速度を減速側に変更する。しかし、運転者は車両の運転を円滑に行うために、自車両の側方に顔を向けて隣接レーン等の状況を注視する場合もある。また、如何なる場合も、車両の速度を減速側に変更する方がより安全であるとも言えない。
【0006】
例えば、車両を側道から本線に合流させる場合、運転者は、合流先の車線へ円滑に移行するために、車両の側方に顔を向け本線の状況を視認しつつ車両を加速させながら本線に進入する場合がある。また、走行車線から追越車線に車線変更する際にも、車両の側方に顔を向け追越車線の状況を視認しつつ車両を加速させながら車線変更する場合がある。
顔向きセンサを用いれば、運転者が車両の側方に顔を向けた状態(脇見状態)であることは判定できるが、これが運転に関係ないもの(脇見運転)であるか運転のためのものであるかは判別し得ない。
【0007】
特許文献1に開示の技術では、運転者が脇見状態であると、常に車両の加減速度を減速側に変更するため、上記のような本線進入時や追越車線への車線変更時にこれが適用されると、運転者に大きな違和感を与え、円滑な道路交通を促進するためにも好ましくない。
また、先行車両が存在しないにもかかわらず、常に車両の加減速度を減速側に変更すると、後続車両が接近し、交通の流れを乱す原因にもなりかねない。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたものであり、円滑な道路交通を促進できるようにしながら、運転者が脇見運転をした場合には走行安全性を確保することができるようにした、車両の走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の車両の走行制御装置は、自車両の運転者の顔の向きから前記運転者が脇見状態であるかを判定する脇見状態判定手段と、前記自車両に先行する先行車両の情報を検出する先行車検出手段と、前記運転者の例えばアクセル操作等の加減速要求に対応して前記自車両の走行駆動源の出力を制御する走行制御手段と、前記先行車検出手段の検出情報から前記自車両の前記先行車両への追突可能性を判定する追突判定手段と、を備え、前記走行制御手段は、前記脇見状態判定手段により前記運転者が脇見状態であることが判定され、且つ、前記追突判定手段により前記自車両の前記先行車両への追突可能性があると判定されると、前記加減速要求に対応した前記走行駆動源の出力を抑制側に補正することを特徴としている。すなわち、前記走行制御手段は、前記脇見状態判定手段により前記運転者が脇見状態であることが判定されない、又は、前記追突判定手段により前記自車両の前記先行車両への追突可能性があると判定されないと、前記加減速要求に対応した前記走行駆動源の出力を補正しない。
【0010】
また、例えば探索エリアが限定される前方検出センサ等の前記先行車検出手段は、所定の探索エリア内の前記先行車両の有無を検出し、前記追突判定手段は、前記先行車検出手段により前記先行車両が有ると検出されると、追突可能性があると判定することが好ましい。
また、例えば前方検出センサや探索エリアが前方検出センサよりも広い車車間通信を用いるもの等の前記先行車検出手段は、前記自車両と前記先行車両との車間距離を検出し、前記追突判定手段は、前記先行車検出手段により検出された前記車間距離が例えば走行中の車速における制動距離や停止距離といった所定距離以下であると、追突可能性があると判定することが好ましい。
【0011】
また、例えば前方検出センサや探索エリアが前方検出センサよりも広い車車間通信を用いるもの等の前記先行車検出手段は、所定の探索エリア内の前記先行車両と前記自車両との相対速度を検出し、前記追突判定手段は、前記先行車検出手段により検出された前記相対速度が負であると、追突可能性があると判定することが好ましい。
また、例えば前方検出センサや探索エリアが前方検出センサよりも広い車車間通信を用いるもの等の前記先行車検出手段は、前記自車両と前記先行車両との車間距離及び前記自車両と前記先行車両との相対速度を検出し、前記追突判定手段は、前記先行車検出手段により検出された前記車間距離が例えば走行中の車速における制動距離や停止距離といった所定距離以下であり、且つ、前記先行車検出手段により検出された前記相対速度が負であると、追突可能性があると判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
(1)走行制御手段は、脇見状態判定手段により運転者が脇見状態であることが判定され、且つ、追突判定手段により自車両の先行車両への追突可能性があると判定されると、運転者の加減速要求に対応した走行駆動源の出力を抑制側に補正するため、運転者が脇見運転をした場合であっても、先行車両と自車両との車間距離を確保するように走行駆動源の出力を抑制側に補正することにより、走行安全性を確保することができる。
【0013】
一方、脇見状態判定手段により運転者が脇見状態であることが判定されない、又は、追突判定手段により自車両の先行車両への追突可能性があると判定されなければ、走行制御手段は、運転者の加減速要求に応じた走行駆動源の出力を補正しないため、不要な走行駆動源の補正を回避し、運転者に違和感を与えることがなく、円滑な道路交通を促進することができる。また、不要な走行駆動源の出力抑制を回避することにより、後続車両の接近等による交通流通の乱れを発生させることなく、円滑な道路交通を促進することができる。
これらより、円滑な道路交通を促進できるようにしながら、運転者が脇見運転した場合であっても走行安全性を確保することができる。
【0014】
(2)追突判定手段は、先行車検出手段により所定の探索エリア内に先行車両が有ることが検出されると、追突可能性があると判定するように構成すれば、運転者が脇見状態であって先行車検出手段の探索エリア内に先行車両が有る場合に走行駆動源の出力を抑制側に補正するため、先行車両と自車両との車間距離を確保するように走行駆動源の出力を抑制側に補正することにより、走行安全性を確保することができる。また、自車両の後方に後続車両がある場合であっても、先行車両が検出されなければ走行駆動源の出力は補正されないため、円滑な道路交通を促進できるようにしながら走行安全性を確保することができる。
【0015】
(3)追突判定手段は、先行車検出手段により検出された車間距離が所定距離以下であると、追突可能性があると判定するように構成すれば、運転者が脇見状態であって車間距離が所定距離以下である場合に、走行駆動源の出力を抑制側に補正するため、先行車両と自車両との車間距離を所定距離よりも大きく確保するように走行駆動源の出力を抑制側に補正することにより、走行安全性を確保することができる。また、所定距離よりも大きい車間距離であれば、自車両の後方に後続車両がある場合であっても、走行駆動源の出力は補正されないため、円滑な道路交通を促進できるようにしながら走行安全性を確保することができる。
【0016】
(4)追突判定手段は、先行車検出手段により所定の検索エリア内に検出された自車両と先行車両との相対速度が負であると、追突可能性があると判定するように構成すれば、運転者が脇見状態であって相対速度が負である場合に、走行駆動源の出力を抑制側に補正するため、先行車両と自車両との接近速度を小さくするように走行駆動源の出力を抑制側に補正することにより、走行安全性を確保することができる。また、相対速度が負でなければ先行車両は自車両から遠ざかり走行安全性を確保することができるとともに、自車両の後方に後続車両がある場合であっても、走行駆動源の出力は補正されないため、円滑な道路交通を促進することができる。
【0017】
(5)追突判定手段は、車間距離が所定距離以下であり、且つ、相対速度が負であると、追突可能性があると判定するように構成すれば、運転者が脇見状態であって、車間距離が所定距離以下且つ相対速度が負である場合に、走行駆動源の出力を抑制側に補正するため、先行車両と自車両との車間距離が減少する度合を小さくするように走行駆動源の出力を抑制側に補正することにより、走行安全性を確保することができる。また、所定距離よりも車間距離が大きい又は相対速度が負でなければ、自車両の後方に後続車両がある場合であっても、走行駆動源の出力は補正されないため、円滑な道路交通を促進できるようにしながら走行安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両の走行制御装置のシステム構成図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる走行制御装置が適用される車両(自車両)とその先行車両を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる走行制御装置が適用されない従来の車両(自車両)とその後続車両とを示し、(a)は時点t1を示し、(b)は時点t2を示す。
【図4】本発明の一実施形態にかかる車両の走行制御装置による制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
【0020】
〈一実施形態〉
[構成]
まず、一実施形態にかかる車両(自車両)の走行制御装置のシステム構成を説明する。本実施形態にかかる車両は、例えばトラック又はバスといったいわゆる大型又は中型の自動車である。
【0021】
図1に示すように、本発明の車両の走行制御装置は、車両統合ECU(走行制御手段)10,エンジンECU20及び加速抑制ECU(追突判定手段)30を有する。これらの各ECU10,20,30は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成される電子制御装置である。
ECU10,20,30は、各種センサやエンジン(走行駆動源)等と接続され、各種センサにより検出された情報に基づいて種々の制御を実施する。なお、本車両に搭載されるエンジンは、燃料噴射量の制御によって出力を調整しうるディーゼルエンジンである。
【0022】
各ECU10,20,30と各種センサ等とは、制御線や信号伝達線を介して接続されており、例えばCAN(controller area network)やFlexRayといった車載ネットワーク規格の接続線を用いることができる。ここでは、CANを用いて各構成要素間を接続するものを示す。
車両統合ECU10は、広汎なシステムを統合して制御するものであり、エンジンECU20及び加速抑制ECU30と接続される。この車両統合ECU10は、エンジンECU20を介してエンジンの制御を実施し、加速抑制ECU30により処理された情報に基づいて車両の走行制御にかかる制御を実施する。
【0023】
また、車両統合ECU10は、情報伝達線を介して車速センサ11及びアクセルポジションセンサ(APS)12と接続される。
車速センサ11は、車両の速度(車速)vを検出するものである。この車速センサ11としては、従動輪の回転速度を検出するものやエンジンのクランクシャフトの回転速度を検出するものを適用することができる。
【0024】
車速センサ11により検出された車速vの情報は、車両統合ECU10に伝達される。
アクセルポジションセンサ12は、アクセルペダルの操作量θACCを検出する。この操作量θACCは、運転者の加減速要求に対応するパラメータであり、即ちエンジンへの出力要求に対応する。
なお、加速要求時には、運転者がアクセルペダルを踏み増すため、その操作量θACCは増大し、減速要求時には、運転者がアクセルペダルを踏み戻すため、その操作量θACCは減少する。
【0025】
上記のアクセルポジションセンサ12により検出された操作量θACCは、車両統合ECU10に伝達される。この操作量θACCに基づいて、車両統合ECU10はエンジンの出力を設定する。
エンジンECU20は、エンジンに関する点火系,燃料噴射系及び吸排気系といった広汎なシステムを制御するものである。ここでは、エンジンECU20による燃料噴射系の制御について説明する。
【0026】
エンジンECU20は、エンジンにおいて燃料噴射を行なうインジェクタ21と制御線を介して接続される。エンジンECU20は、アクセルペダルの操作量θACCに基づいて車両統合ECU10により設定されたエンジン出力となるように、インジェクタ21による燃料噴射量を制御する。
例えば、運転者により加速要求がなされていれば、エンジンECU20はインジェクタ21により噴射される燃料量を増加させる。
【0027】
加速抑制ECU30は、自車両の先行車両への追突可能性を判定するものである。この加速抑制ECU30には、レーダセンサ(先行車検出手段)31及び顔向きセンサ32が接続される。
レーダセンサ31は、自車両に先行する所定の探索エリア内の先行車両の情報を検出する。なお、所定の探索エリアとは、レーダセンサ31が先行車両を探索可能な範囲をいう。つまり、レーダセンサ31はその性能に応じて探索可能な距離が制限され、探索エリアもこの探索可能距離に制限されることになる。したがって、レーダセンサ31が先行車両を検出したら先行車両はこの探索エリア内にあるものと判定できる。この探索エリアが狭すぎれば極く近距離の先行車両しか制御情報に用いることができず、逆に、探索エリアが過剰に広くても不要な制御情報も含んでしまう。したがって、一定範囲の探索エリアを有するレーダセンサ31が好ましく、このレーダセンサ31としては、例えば100mや200mといった探索可能距離を有するミリ波レーダを用いることができる。
【0028】
レーダセンサ31により検出される先行車両の情報(検出情報)としては、自車両に先行する先行車両の有無の情報や、自車両と先行車両との車間距離の情報や、自車両と先行車両との相対速度の情報等が挙げられる。このレーダセンサ31により検出される相対速度は、先行車両に対して自車両が接近する際には負であり、先行車両が自車両に対して遠ざかる際には正であり、レーダセンサ31にミリ波レーダを適用する場合には相対速度を直接検出することができる。
【0029】
なお、先行車検出手段として、探索エリアがレーダセンサ31の探索エリアよりも広い車車間通信等を用いて先行車両の車速や位置の情報を検出するものを用いてもよい。この場合には、先行車両の車速から自車両の車速を減算することにより相対速度を算出することができ、先行車両の位置と自車両の位置とに基づいて車間距離を算出することができる。もちろん、先行車検出手段に車車間通信等を用いるものを適用する場合にも、所定の探索エリア内における先行車両の有無を検出し、相対速度を算出することができる。
【0030】
レーダセンサ31により検出された先行車両の有無,車間距離及び相対速度の検出情報は、情報伝達線を介して加速抑制ECU30に伝達される。
顔向きセンサ32は、車両の運転者の顔の向きから運転者が脇見状態であるかを判定するものである。なお、脇見状態とは、運転者が車両の側方に顔を向けた状態をいう。
この顔向きセンサ32は、運転者の顔を撮影するために設けられたカメラ32aと、この撮像画像を処理する処理部32bとから構成される。
【0031】
カメラ32aは、例えばステアリングコラムカバーの上面等に設けられ、車両進行方向に沿って運転者の頭部の方向に指向して運転者の顔を略正面から撮影する。このカメラ32aにより撮影された映像情報は、処理部32bに供給される。
処理部32bは、カメラ32aにより撮影された映像情報に基づいて、例えば2値化処理や特徴点抽出処理を行なうことにより運転者の顔の画像を抽出し、この抽出画像から顔が車両正面方向に対して向く角度(顔向き角度)θfを検出する。
【0032】
この顔向きセンサ32により検出された運転者の顔向き角度θfの情報は、情報伝達線を介して加速抑制ECU30及び車両統合ECU10に随時伝達される。
また、加速抑制ECU30は、脇見状態判定部(脇見状態判定手段)30aを有する。
この脇見状態判定部30aは、顔向きセンサ32により伝達された顔向き角度θfが、予め設定された脇見運転判定角度θft以上であって、顔向き角度θfが予め設定された脇見運転判定角度θft以上である時間が所定時間以上であれば、運転者は脇見状態であると判定する。
【0033】
なお、脇見運転判定角度θftは、運転者が脇見運転を行なう際に顔が車両正面方向に対して向く角度の閾値として予め設定される。また、所定時間は、例えば1秒や2秒といった運転のために車両の側方を視認する時間として走行安全性を確保するのに必要な時間よりも長い時間として予め設定される。
【0034】
次に、車両統合ECU10及び加速抑制ECU30による情報処理や判定について説明する。
車両統合ECU10は、車速センサ11により検出され伝達された車速vの情報に基づいて、速度vの車両を停止させるために必要な最低距離である制動距離(所定距離)を、車速vと制動距離との関係が予め記憶されたテーブルから読み出す又は算出する。この車両統合ECU10により読み出し又は算出された制動距離の情報は、加速抑制ECU30に伝達される。なお、この制動距離に替えて、運転者が車両を急停止させる場合に急停止を判断した地点から車両が停止する地点までの距離である停止距離(所定距離)を用いてもよい。
【0035】
加速抑制ECU30は、レーダセンサ31の検出情報に基づいて自車両の先行車両への追突可能性を判定し、以下の3つの条件が何れも成立する場合に追突可能性があると判定する。
追突可能性にかかる第1条件は、レーダセンサ31により先行車両が検出される、即ち自車両に先行する先行車両が有ると成立する。
【0036】
追突可能性にかかる第2条件は、レーダセンサ31により検出される自車両と先行車両との車間距離が、車両統合ECU10により伝達された所定距離以下であると成立する。
追突可能性にかかる第3条件は、レーダセンサ31により検出される自車両と先行車両との相対速度が負である、即ち自車両が先行車両に対して接近する場合に成立する。
これらの第1〜第3条件の何れもが成立する場合に、加速抑制ECU30は、追突可能性があると判定し、第1〜第3条件の少なくとも何れかが成立しない場合には追突可能性がないと判定する。
【0037】
つまり、図2に示すように、自車両C1に先行する先行車両C2が有ると、追突可能性にかかる第1条件が成立する。また、自車両C1と先行車両C2との車間距離Dが所定距離以下であると、追突可能性にかかる第2条件が成立する。また、先行車両C2の車速v2から自車両C1の車速v1を減算した相対速度(v2−v1)が負であると、追突可能性にかかる第3条件が成立する。
【0038】
なお、レーダセンサ31に探索エリアが限定されるミリ波レーダ等を適用する場合には、探索エリア外の先行車両は検出することができないため、レーダの感度に応じた車間距離内の先行車両しか検出することができない。この場合、レーダにより先行車両が検出されるためには、所定の探索エリアに応じた距離以下の車間距離の先行車両を検出することとなり、探索エリアに応じた距離を追突可能性にかかる第2条件の所定距離に替えて用いれば、レーダにより先行車両を検出した時点で追突可能性にかかる第1条件と第2条件とが同時に成立することになる。
【0039】
したがって、追突可能性の判定において、第2条件を設けずに、第1及び第3条件のみを設けこれらの第1,第3条件が共に成立すれば、追突可能性があると判定してもよい。
また、センサ又は制御の簡素化のためやレーダセンサ31により相対速度を検出することができない場合には、追突可能性の判定において、第3条件を設けずに、第1及び第2条件のみを設けこれらが共に成立すれば、或いは第2,3条件を設けずに第1条件のみを設けこれが成立すれば、追突可能性があると判定してもよい。
【0040】
加速抑制ECU30による追突可能性の判定情報は、車両統合ECU10に伝達される。
車両統合ECU10は、加速抑制ECU30により伝達された追突可能性の判定情報と、顔向きセンサ32の処理部により判定された脇見状態にかかる判定情報とに基づいて、エンジン出力を設定する。
【0041】
詳細には、車両統合ECU10は、顔向きセンサ32により運転者が脇見状態であることが判定されない、又は、加速抑制ECU30により追突可能性が有ると判定されないと、アクセルペダルの操作量θACCに応じた出力となるようにエンジン出力を設定し、通常走行制御を実施する。そして、エンジンECU20は、車両統合ECU10により設定されたエンジン出力となるようにインジェクタ21等を制御する。
【0042】
また、車両統合ECU10は、顔向きセンサ32により運転者が脇見状態であることが判定され、且つ、加速抑制ECU30により追突可能性が有ると判定されると、アクセルペダルの操作量θACCに応じた出力に設定されるエンジン出力を抑制側に補正する加速抑制制御を実施する。そして、エンジンECU20は、車両統合ECU10により補正されたエンジン出力となるようにインジェクタ21等を制御する。
【0043】
この加速抑制制御は、エンジンECU20を介して、設定されたエンジン出力に対応するインジェクタ21により噴射される燃料量を減少させることで実施される。この燃料量の減少は、一律に行なってもよいし、各種センサにより検出されるパラメータに応じて可変させてもよい。
例えば、顔向きセンサ32により検出される顔向き角度θfが、脇見運転に対応する角度θft以上の領域において大きくなるに連れ、インジェクタ21による燃料噴射量の減少量を大きくしてもよい。この構成によれは、車両正面方向に対する顔向き角度θfが大きい、即ち運転者による車両正面への注意が払われない度合が大きくなるに連れて、車両の加速は抑制されることとなり、適切に走行安全性を確保することができる。
【0044】
また、顔向きセンサ32により検出される顔向き角度θfが脇見運転に対応する角度θft以上の継続時間が長くなるに連れ、インジェクタ21による燃料噴射量の減少量を大きくしてもよい。この構成によれば、脇見運転に対応する角度θft以上の顔向き角度θfの継続時間が長い、即ち運転者による車両正面への注視の中断時間が長くなるに連れて、車両の加速は抑制されることとなり、適切に走行安全性を確保することができる。
【0045】
[作用・効果]
本発明の一実施形態に係る車両の走行制御装置は、上述のように構成されるため、図4に示すような制御フローが、車両統合ECU10又は加速抑制ECU30により実施される。なお、この制御フローは、車両の走行中に周期的に実施される。
ステップS10では、運転者が脇見状態であるか否かを判定する。運転者が脇見状態であると判定されるとステップS20へ移行し、運転者が脇見状態であると判定されないとステップS100へ移行する。
【0046】
ステップS20では、自車両に先行する先行車両が有るか否かを判定する。つまり、このステップS20では追突可能性にかかる第1条件の成否を判定する。先行車両が有ればステップS30へ移行し、先行車両が無ければステップS100へ移行する。
ステップS30では、自車両と先行車両との車間距離が所定距離以下であるかを判定する。つまり、このステップS30では追突可能性にかかる第2条件の成否を判定する。車間距離が所定距離以下であればステップS40へ移行し、車間距離が所定距離よりも長ければステップS100へ移行する。
【0047】
ステップS40では相対速度が負であるか否かを判定する。つまり、このステップS40では追突可能性にかかる第3条件の成否を判定する。相対速度が負であればステップS50へ移行し、相対速度が負でなければステップS100へ移行する。
すなわち、ステップS20からステップS40において加速抑制ECU30により追突可能性が判定される。また、上述のように追突可能性にかかる第2条件及び第3条件は省略することができるため、これらの条件に対応するステップS30及びステップS40は省略することができる。
【0048】
ステップS50では、車両の加速を抑制する加速抑制制御を実施する。そして、本制御周期を終了(エンド)する。
また、ステップS100では、車両の加速を抑制しない通常走行制御を実施する。そして、本制御周期を終了(エンド)する。
【0049】
したがって、車両統合ECU10は、顔向きセンサ32の処理部により運転者が脇見状態であることが判定され、且つ、加速抑制ECU30により自車両の先行車両への追突可能性があると判定されると、アクセルペダルの操作量θACCに対応したエンジンの出力を抑制側に補正する加速抑制制御を実施するため、運転者が脇見運転をした場合であっても、先行車両と自車両との車間距離を確保するようにエンジンの出力を抑制側に補正することにより、走行安全性を確保することができる。
【0050】
一方、脇見状態判定部30aにより運転者が脇見状態であることが判定されない、又は、加速抑制ECU30により自車両の先行車両への追突可能性があると判定されなければ、車両統合ECU10は、アクセルペダルの操作量θACCに対応したエンジンの出力を補正しない通常走行制御を実施するため、不要なエンジン出力の補正を回避し、運転者に違和感を与えることがなく、円滑な道路交通を促進することができる。
【0051】
車両統合ECU10は、自車両に先行する先行車両が検出されない等の追突可能性が無いと判定される場合には、加速抑制制御を実施せずに通常走行制御を実施する。一方、運転者が脇見状態であると判定されれば、常時エンジン出力を抑制側に補正する従来の車両では、先行車両が無い、即ち追突可能性が無い場合であってもエンジン出力を抑制側に補正してしまう。かかる従来の車両C3とその後続車両C4との位置関係の一例を図3に示す。
【0052】
時点t1では、図3(a)に示すように、車両C3の後方には車間距離D1を空けて後続車両C4は走行している。この時点t1において、車両C3の運転者が脇見状態であれば、車両C3に先行車両が無く追突可能性がない場合であっても、エンジン出力を抑制側に補正する。
そして、時点t1以降の時点t2では、図3(b)に示すように、車両C3と後続車両C4との車間距離D2は時点t1の車間距離D1よりも短くなっている。
【0053】
ここでもしも、従来の手法のように、エンジン出力の抑制補正を行なうと、後続車両C4と車両C3とが接近することになり、交通の乱れを発生させるおそれがある。
これに対して、本発明の車両の走行制御装置によれば、自車両に先行する先行車両が無ければ加速抑制制御を実施しないため、後続車両の接近等による交通流通の乱れを発生させることなく、円滑の道路交通を促進することができる。
【0054】
これらより、円滑な道路交通を促進できるようにしながら、運転者が脇見運転した場合であっても走行安全性を確保することができる。
また、加速抑制ECU30は、探索エリアが限定されるミリ波レーダ等をレーダセンサ31に適用する場合には、追突可能性にかかる第1条件が少なくとも成立すれば、即ちレーダの探索エリア(所定の探索エリア)内に先行車両が検出されれば追突可能性があると判定することができるため、簡素な制御ステップを実現することができるとともに、先行車両と自車両との車間距離を確保するようにエンジンの出力を抑制側に補正することにより、運転者が脇見状態であっても走行安全性を確保することができ、円滑な道路交通を促進できるようにしながら走行安全性を確保することができる。
【0055】
また、加速抑制ECU30は、追突可能性にかかる第2条件が成立すれば、即ちレーダセンサ31により検出された車間距離が制動距離や停止距離といった所定距離以下であると追突可能性があると判定するため、車両統合ECU10は、運転者が脇見状態であって車間距離が所定距離以下である場合に、エンジンの出力を抑制側に補正する。したがって、先行車両と自車両との車間距離を所定距離よりも大きく確保するようにエンジンの出力を抑制側に補正することにより、走行安全性を確保することができる。また、所定距離よりも大きい車間距離であれば、自車両の後方に後続車両がある場合であっても、エンジンの出力は補正されないため、円滑な道路交通を促進できるようにしながら走行安全性を確保することができる。
【0056】
また、加速抑制ECU30は、追突可能性にかかる第3条件が成立すれば、即ちレーダセンサ31により検出された自車両と先行車両との相対速度が負であると、追突可能性があると判定するため、車両統合ECU10は、運転者が脇見状態であって相対速度が負である場合に、エンジンの出力を抑制側に補正する。したがって、先行車両と自車両との接近速度を小さくするようにエンジンの出力を抑制側に補正することにより、走行安全性を確保することができる。また、相対速度が負でなければ先行車両は自車両から遠ざかり走行安全性を確保することができるとともに、自車両の後方に後続車両がある場合であっても、エンジンの出力は補正されないため、円滑な道路交通を促進することができる。
【0057】
また、加速抑制ECU30は、追突可能性にかかる第1〜第3条件の全てが成立すれば、即ち車間距離が所定距離以下であり、且つ、相対速度が負であると、追突可能性があると判定するため、車両統合ECU10は、運転者が脇見状態であって相対速度が負である場合に、エンジンの出力を抑制側に補正する。したがって、先行車両と自車両との車間距離が減少する度合を小さくするようにエンジンの出力を抑制側に補正することにより、走行安全性を確保することができる。また、所定距離よりも車間距離が大きい又は相対速度が負でなければ、自車両の後方に後続車両がある場合であっても、エンジンの出力は補正されないため、円滑な道路交通を促進できるようにしながら走行安全性を確保することができる。
【0058】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態では、走行駆動源としてエンジンを装備する車両を示したが、これに限らず、エンジンに加えてモータを走行駆動源としてもよく、エンジンに替えてモータを走行駆動源としてもよい。この場合の加速抑制制御は、エンジンのインジェクタにより噴射される燃料量を減少させることに加えて又は替えてモータによる出力を抑制側に補正することで実施することができる。
【0059】
また、顔向きセンサは、カメラと処理部とから構成されるものを示したが、これに限らず、顔向きセンサの処理部を省略し、この処理部にかかる機能を加速抑制ECUが有するように構成してもよい。
また、車両統合ECUとは別に加速抑制ECUを備えるものを示したが、これに限らず、加速統合ECUを省略し車両統合ECUに加速抑制ECUの機能を加えてもよい。この場合、レーダセンサ及び顔向きセンサは車両統合ECUに接続される。
【0060】
また、加速抑制制御について、インジェクタによる燃料噴射量を抑制することで車両の加速抑制を行なうものを示したが、これに替えて又は加えて、スロットル開度を閉鎖側に抑制してもよい。
また、加速抑制制御において、インジェクタによる燃料噴射量を変化させるものを示したが、これに替えて又は加えて、燃料噴射タイミング等を制御してもよい。
【0061】
また、エンジンには、燃料噴射量の制御によって出力を調整しうるディーゼルエンジンを示したが、これに限らず、電子スロットルバルブの開度を制御することによって出力を調整し得るガソリンエンジンを適用してもよい。
また、脇見状態判定部は、顔向き角度θfが予め設定された脇見運転判定角度θft以上であって、顔向き角度θfが予め設定された脇見運転判定角度θft以上である時間が所定時間以上であれば、運転者は脇見状態であると判定するものを示したが、制御の簡素化のため、顔向き角度θfが予め設定された脇見運転判定角度θft以上であれば、運転者は脇見状態であると判定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の車両の走行制御装置は、トラック又はバスといった大型又は中型の自動車のみならず乗用車等の小型自動車にも適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
10 車両統合ECU(走行制御手段)
11 車速センサ
12 アクセルポジションセンサ(APS)
20 エンジンECU
21 インジェクタ
30 加速抑制ECU(追突判定手段)
30a 脇見状態判定部(脇見状態判定手段)
31 レーダセンサ(先行車検出手段)
32 顔向きセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の運転者の顔の向きから前記運転者が脇見状態であるかを判定する脇見状態判定手段と、
前記自車両に先行する先行車両の情報を検出する先行車検出手段と、
前記運転者の加減速要求に対応して前記自車両の走行駆動源の出力を制御する走行制御手段と、
前記先行車検出手段の検出情報から前記自車両の前記先行車両への追突可能性を判定する追突判定手段と、を備え、
前記走行制御手段は、前記脇見状態判定手段により前記運転者が脇見状態であることが判定され、且つ、前記追突判定手段により前記自車両の前記先行車両への追突可能性があると判定されると、前記加減速要求に対応した前記走行駆動源の出力を抑制側に補正する
ことを特徴とする、車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記先行車検出手段は、所定の探索エリア内の前記先行車両の有無を検出し、
前記追突判定手段は、前記先行車検出手段により前記先行車両が有ると検出されると、追突可能性があると判定する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記先行車検出手段は、前記自車両と前記先行車両との車間距離を検出し、
前記追突判定手段は、前記先行車検出手段により検出された前記車間距離が所定距離以下であると、追突可能性があると判定する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記先行車検出手段は、所定の探索エリア内の前記先行車両と前記自車両との相対速度を検出し、
前記追突判定手段は、前記先行車検出手段により検出された前記相対速度が負であると、追突可能性があると判定する
ことを特徴とする請求項1記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記先行車検出手段は、前記自車両と前記先行車両との車間距離及び前記自車両と前記先行車両との相対速度を検出し、
前記追突判定手段は、前記車間距離が所定距離以下であり、且つ、前記相対速度が負であると、追突可能性があると判定する
ことを特徴とする請求項1記載の車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−56650(P2013−56650A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197541(P2011−197541)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】