説明

車両の車体強度調整装置

【課題】 高荷重モードおよび低荷重モードの吸収可能エネルギーに大きな差を持たせ、衝突相手に応じて最適のエネルギー吸収特性を得る。
【解決手段】 圧壊強度可変装置13が衝突荷重で座屈可能な少なくとも一対の座屈板23Aを備えており、一対の座屈板23Aに設けたナット部材21Aの逆ねじにアクチュエータロッド42Aの両端の逆ねじをそれぞれ螺合させたので、ロック機構41でナット部材21Aの外側への移動を拘束して座屈板23Aの倒れを拘束にした高荷重モードでは、座屈板23Aを座屈させて吸収可能な衝突エネルギーを増加させることができる。またロック機構41でナット部材21Aの外側への移動を許容して座屈板23Aの倒れを許容にした低荷重モードでは、アクチュエータロッド42Aからナット部材21Aを分離して座屈板23Aを倒すことで、吸収可能な衝突エネルギーを減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンパービームと車体フレームとの間に車体前後方向の衝突荷重を受けて圧壊する圧壊強度可変装置を配置し、前記圧壊強度可変装置の圧壊荷重を高荷重モードおよび低荷重モードに選択的に切換可能にした車両の車体強度調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントサイドフレームの前端に取り付けられるバンパービームを、相互に平行に配置された前後一対のビーム部材と、両ビーム部材間に所定間隔で配置された複数の圧壊強度可変装置とで構成したものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
前記圧壊強度可変装置は衝突の衝撃で座屈するように隣接して配置された形状記憶合金製の3枚の座屈板と、それらの座屈板を2枚のベース部材で一体に連結した状態および相互に分離した状態に切り換えるアクチュエータとを備えており、3枚の座屈板を2枚のベース部材で一体に連結した状態では座屈強度を高めて吸収可能な衝突エネルギーを増加させ、また3枚の座屈板を2枚のベース部材から分離した状態では座屈強度を低めて吸収可能な衝突エネルギーを減少させるようになっている。
【特許文献1】特開2006−8106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記従来のものは、3枚の座屈板を2枚のベース板で一体に連結した状態(高荷重モード)では、それらの座屈板が波打つように変形して座屈し、3枚の座屈板を2枚のベース板から分離した状態(低荷重モード)では、それらの座屈板が単純な弧状に変形して座屈する違いはあるものの、3枚の座屈板の全体が座屈して衝突エネルギーを吸収することに変わりはなく、高荷重モードと低荷重モードとで衝突エネルギーを吸収効果に大きな差を持たせることが困難であった。特に、低荷重モードにおいて衝突相手に与える傷害を極力小さく抑える必要がある場合には、より小さい荷重で圧壊強度可変装置を圧壊することが要請されている。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、高荷重モードおよび低荷重モードの吸収可能エネルギーに大きな差を持たせ、衝突相手に応じて最適のエネルギー吸収特性を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、バンパービームと車体フレームとの間に車体前後方向の衝突荷重を受けて圧壊する圧壊強度可変装置を配置し、前記圧壊強度可変装置の圧壊荷重を高荷重モードおよび低荷重モードに選択的に切換可能にした車両の車体強度調整装置において、前記圧壊強度可変装置は、相互に対向するように配置されて車体前後方向に延び、前記バンパービームおよび前記車体フレーム間に作用する衝突荷重で座屈可能な少なくとも一対の座屈板と、前記一対の座屈板の車体前後方向一方の端部を回転自在に支持する支持部材と、前記支持部材の車体前後方向対して直交する方向への移動を拘束する状態と移動を許容する状態とを切換可能なロック機構とを備え、前記高荷重モードでは、前記ロック機構で前記支持部材の前記移動を拘束して前記座屈板の倒れを拘束し、前記低荷重モードでは、前記ロック機構で前記支持部材の前記移動を許容して前記座屈板の倒れを許容することを特徴とする車両の車体強度調整装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記ロック機構はアクチュエータにより作動することを特徴とする車両の車体強度調整装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、一対の第1座屈板と一対の第2座屈板とが概ね四角柱を成すように配置されることを特徴とする車両の車体強度調整装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記座屈板の前記支持部材と反対側の端部は折り曲げ部を介して折り曲げられており、前記低荷重モードでは前記折り曲げ部が塑性変形することを特徴とする車両の車体強度調整装置が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項4の構成に加えて、前記折り曲げ部に連なる前記座屈板にビードが形成されることを特徴とする車両の車体強度調整装置が提案される。
【0011】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項4または請求項5の構成に加えて、前記折り曲げ部の近傍の前記座屈板に強度調整孔が形成されることを特徴とする車両の車体強度調整装置が提案される。
【0012】
また請求項7に記載された発明によれば、請求項1〜請求項6の何れか1項の構成に加えて、前記座屈板に補強部材が重ね合わされることを特徴とする車両の車体強度調整装置が提案される。
【0013】
また請求項8に記載された発明によれば、請求項1〜請求項7の何れか1項の構成に加えて、前記一対の座屈板に囲まれた位置にボックス状の衝撃吸収部を備えることを特徴とする車両の車体強度調整装置が提案される。
【0014】
尚、実施の形態のフロントサイドフレーム12は本発明の車体フレームに対応し、実施の形態のアクチュエータ収納ボックス16は本発明の衝撃吸収部に対応し、実施の形態の第1、第2ナット部材21A,21Bは本発明の支持部材に対応し、実施の形態の第1、第2座屈板23A,23Bは本発明の座屈板に対応し、実施の形態の形状記憶合金26および補強板34は本発明の補強部材に対応し、実施の形態のソレノイド49は本発明のアクチュエータに対応する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の構成によれば、バンパービームと車体フレームとの間に配置される圧壊強度可変装置が、相互に対向するように配置されて車体前後方向に延び、バンパービームおよび車体フレーム間に作用する衝突荷重で座屈可能な少なくとも一対の座屈板と、一対の座屈板の車体前後方向一方の端部を回転自在に支持する支持部材とを備えており、ロック機構で支持部材の車体前後方向に対して直交する方向への移動を拘束する状態と移動を許容する状態とを切り換えるので、ロック機構で支持部材の移動を拘束して座屈板の倒れを拘束した高荷重モードでは、衝突荷重による座屈板の座屈を可能にして吸収可能な衝突エネルギーを増加させることができ、またロック機構で支持部材の移動を許容して座屈板の倒れを許容した低荷重モードでは、衝突荷重で座屈板を座屈させずに倒すことで吸収可能な衝突エネルギーを減少させることができる。その結果、高荷重モードおよび低荷重モードの吸収可能エネルギーに大きな差を持たせ、衝突相手に応じて最適のエネルギー吸収特性を得ることができる。
【0016】
また請求項2の構成によれば、ロック機構をアクチュエータにより作動させるので、高荷重モードおよび低荷重モードを自動的に切り換えることができる。
【0017】
また請求項3の構成によれば、一対の第1座屈板と一対の第2座屈板とを概ね四角柱を成すように配置したので、車体強度調整装置の倒れを防止して衝突エネルギーを確実に吸収することができる。
【0018】
また請求項4の構成によれば、座屈板の支持部材と反対側の端部を折り曲げ部を介して折り曲げためで、低荷重モードにおいて前記折り曲げ部を塑性変形させることで、小さい荷重で車体強度調整装置を圧壊させることができる。
【0019】
また請求項5の構成によれば、座屈板に折り曲げ部に連なるビードを形成したので、ビードの形状や大きさを変化させるだけで前記折り曲げ部を塑性変形させる荷重をきめ細かく調整することができる。
【0020】
また請求項6の構成によれば、座屈板の折り曲げ部の近傍に強度調整孔を形成したので、強度調整孔の大きさや数を変化させるだけで前記折り曲げ部を塑性変形させる荷重をきめ細かく調整することができる。
【0021】
また請求項7の構成によれば、座屈板に補強部材を重ね合わせたので、座屈板と共に補強部材を座屈させて吸収可能なエネルギーの量を容易に調整することができる。
【0022】
また請求項8の構成によれば、一対の座屈板に囲まれた位置にボックス状の衝撃吸収部を設けたので、座屈板に加えてボックス状の衝撃吸収部を座屈させることで、吸収可能な衝突エネルギーの総量を増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0024】
図1〜図17は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1は車両の車体前部の平面図、図2は図1の2部拡大図、図3は圧壊強度可変装置の斜視図、図4は圧壊強度可変装置の分解斜視図、図5は図2の5−5線断面図、図6は図5の6−6線断面図、図7は図5の7−7線断面図、図8は図5の8−8線断面図、図9は図8の9−9線断面図、図10は図9の10−10線断面図、図11はロック機構の斜視図、図12は高荷重モードの作用説明図、図13は低荷重モードの作用説明図、図14はロック時およびアンロック時のアクチュエータシャフトの軸力を示すグラフ、図15はロック時およびアンロック時の圧壊強度可変装置の発生荷重を示すグラフ、図16は座屈板のビードの効果を示すグラフ、図17は座屈板の強度調整孔の効果を示すグラフである。
【0025】
図1に示すように、四輪の車両の車体前部に配置されたバンパービーム11は、車幅方向に直線状に延びる本体部11aと、本体部11aの左右両端から車体後方に向けて傾斜する左右の傾斜部11b,11bとを備える。車体の両側部に前後方向に配置されたフロントサイドフレーム12,12の先端とバンパービーム11の左右の傾斜部11b,11bとが、圧壊強度を変更可能な圧壊強度可変装置13,13により接続される。左右の圧壊強度可変装置13,13は実質的に同じ構造を有しているため、以下、左側の圧壊強度可変装置13を例に取って構造を説明する。
【0026】
図2〜図7に示すように、ボックス断面を有するフロントサイドフレーム12の前端開口を閉塞する端板12aに圧壊強度可変装置13の四角形の後部取付板14が8本のボルト15…で固定され、後部取付板14の前面に四角枠状のアクチュエータ収納ボックス16の後端が底板17を挟んで固定される。アクチュエータ収納ボックス16の底板17の四つの辺に沿って4本のパイプ状の軸受け部17a…が形成されており、相互に対向する上下2本の軸受け部17a,17aにヒンジピン18,18を介して2枚の第1後部ヒンジ板19A,19Aの後端の各2個のピン孔19a,19aが枢支されるとともに、相互に対向する左右2本の軸受け部17a,17aにヒンジピン18,18を介して2枚の第2後部ヒンジ板19B,19Bの後端の各2個のピン孔19a,19aが枢支される。第1、第2後部ヒンジ板19A,19A;19B,19Bは強固な厚板で構成されており、両者は類似した形状を有しているが、第1後部ヒンジ板19A,19Aの前後方向長さの方が、第2後部ヒンジ板19B,19Bの前後方向長さよりも若干長くなっている。
【0027】
第1後部ヒンジ板19A,19Aと対を成す第1前部ヒンジ板20A,20Aは、その後端に各2個のピン孔20a,20aを備えるとともに、第1後部ヒンジ板19A,19Aは、その前端に各2個のピン孔19b,19bを備える。第1後部ヒンジ板19Aの2個のピン孔19b,19b間に第1ナット部材21Aが嵌合しており、第1ナット部材21Aの両端に形成されたピン孔21a,21aに圧入された2本のヒンジピン22,22が、それぞれ第1後部ヒンジ板19Aのピン孔19b,19bと、第1前部ヒンジ板20Aのピン孔20a,20aとに嵌合する。これにより、第1前部ヒンジ板20Aは第1後部ヒンジ板19Aに対して折り曲げ可能であり、かつ第1ナット部材21Aは第1後部ヒンジ板19Aおよび第1前部ヒンジ板20Aの両方に対して相対回転自在である。
【0028】
同様に、第2後部ヒンジ板19B,19Bと対を成す第2前部ヒンジ板20B,20Bは、その後端に各2個のピン孔20a,20aを備えるとともに、第2後部ヒンジ板19B,19Bは、その前端に各2個のピン孔19b,19bを備える。第2後部ヒンジ板19Bの2個のピン孔19b,19b間に第2ナット部材21Bが嵌合しており、第2ナット部材21Bの両端に形成されたピン孔21a,21aに圧入された2本のヒンジピン22,22が、それぞれ第2後部ヒンジ板19Bのピン孔19b,19bと、第2前部ヒンジ板20Bのピン孔20a,20aとに嵌合する。これにより、第2前部ヒンジ板20Bは第2後部ヒンジ板19Bに対して折り曲げ可能であり、かつ第2ナット部材21Bは第2後部ヒンジ板19Bおよび第2前部ヒンジ板20Bの両方に対して相対回転自在である。
【0029】
各第1前部ヒンジ板20Aの内面には、断面L字状の第1座屈板23Aと矩形状の補強板34とが重ね合わされて3本のボルト24…および3個のウエルドナット25…で固定される。また各第2前部ヒンジ板20Bの内面には、断面L字状の第2座屈板23Bと厚板よりなる形状記憶合金26とが重ね合わされて4本のボルト27…および4個のナット33…で固定され、そのうち2本のボルト27,27および2個のナット33,33で第2前部ヒンジ板20B、前部第2座屈板23Bおよび形状記憶合金26が共締めされる。前記4本のボルト27…は、形状形状記憶合金26に形成した4個の長孔26a…を貫通する。
【0030】
各第1座屈板23Aの前面にはフランジ23aが折り曲げられて形成され、フランジ23aの折り曲げ部23dの近傍に2個の強度調整孔23b,23bが形成される。また各第1座屈板23Aには、外向きに突出し、かつフランジ23aに向かって幅広になる台形状のビード23cが形成される。同様に、各第2座屈板23Bの前面にはフランジ23aが折り曲げられて形成され、フランジ23aの折り曲げ部23dの近傍に2個の強度調整孔23b,23bが形成される。また各第2座屈板23Bには、外向きに突出し、かつフランジ23aに向かって幅広になる三角形状のビード23cが形成される。
【0031】
四角形の前部取付板28に4本のスタッドボルト29…が植設されており、これらのスタッドボルト29…は4個の第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bのフランジ23a…および断面コ字状の取付ブラケット30を貫通してナット31…で締結されるそ。して前記取付ブラケット30はバンパービーム11の傾斜部11bの上下壁に重ね合わされ、ボルト32で締結される。
【0032】
次に、図4〜図6および図8〜図11を参照して第1、第2ナット部材21A,21A;21B,21Bのロック機構41の構造を説明する。第1ナット部材21A,21Aのロック機構41と、第2ナット部材21B,21Bのロック機構41とは実質的に同一構造であるため、その一方の第1ナット部材21A,21Aのロック機構41の構造を説明する。
【0033】
図4〜図6から明らかなように、ロック機構41は、相互に対向する一対の第1ナット部材21A,21Aの一定の距離に保持するロック状態と、一対の第1ナット部材21A,21Aを相互に離反可能に分離するアンロック状態とを切り換えるものである。第1ナット部材21A,21Aの中央には相互に逆ねじとなる雌ねじ21b,21bが形成されており、第1アクチュエータロッド42Aの両端に形成した相互に逆ねじとなる雄ねじ42a,42aが前記雌ねじ21b,21bに浅く螺合する。雌ねじ21b,21bおよび雄ねじ42a,42aのピッチは粗く形成されており、かつ摺動面をフッソやモリブデンのような低摩擦材でコーティングすることにより、一対の第1ナット部材21A,21Aが相互に離間する方向に移動しようとしたときに、第1アクチュエータロッド42Aが第1ナット部材21A,21Aから受ける外力で自動的に回転するようになっている。
【0034】
ロック機構41は四角筒状のアクチュエータハウジング44を備えており、その一端が底板17および後部取付板14に形成した四角形の支持孔17b,14aに前後摺動可能に嵌合保持される。アクチュエータハウジング44を回転自在に貫通する第1アクチュエータロッド42Aにロックギヤ45が固定されており、このロックギヤ45の外周を囲むギヤハウジング46がアクチュエータハウジング44の内部に固定される。
【0035】
ギヤハウジング46の一部に設けた開口46aに一対の切欠き46b,46bが形成されており、板状のロック部材47の一対の支点突起47a,47aが前記切欠き46b,46bに揺動自在に係合する。支点突起47a,47aを挟んで一方側にロックギヤ45のギヤ歯間に係合可能な係合部47bが一体に形成されており、支点突起47a,47aを挟んで他方側にコイルばね48を介してソレノイド49の出力ロッド49aが対向する。ロック部材47の係合部47bは板ばね50の弾発力でロックギヤ45のギヤ歯間に係合する方向に付勢されているが、ソレノイド49を励磁してコイルばね48を介してロック部材47の他端側を押圧することで、支点突起47a,47aを中心としてロック部材47を揺動させ、係合部47bをロックギヤ45のギヤ歯間から離脱させることができる。
【0036】
次に、上記構成を備えた本発明の第1の実施の形態の作用を説明する。
【0037】
通常時、圧壊強度可変装置13のロック機構41は、そのソレノイド49が消磁されて出力ロッド49aが後退しているため、ロック部材47の係合部47bが板ばね50の弾発力でロックギヤ45のギヤ歯とギヤハウジング46の開口46aとの間に嵌合し、ロックギヤ45が固設された第1アクチュエータロッド42Aを回転不能に拘束する。この状態で車両が正面衝突してバンパービーム11に車体後方への衝突荷重が加わると、バンパービーム11およびフロントサイドフレーム12間に配置された圧壊強度可変装置13の前部取付板28および後部取付板14が前後方向に圧縮される。
【0038】
このとき、一対の第1座屈板23A,23Aは前方側が相互に接近するように僅かに傾斜して配置されているため、前方からの衝突荷重によって後端側(第1ナット部材21A,21A側)が相互に離反するように移動しようとする。すると一対の第1座屈板23A,23Aの後端に接続された一対の第1ナット部材21A,21Aも相互に離反しようとするため、その逆ねじよりなる雌ねじ21b,21bに逆ねじよりなる雄ねじ42a,42aを螺合させた第1アクチュエータロッド42Aが回転しようとするが、上述したようにロック機構41によって第1アクチュエータロッド42Aの回転が拘束されているため、一対の第1ナット部材21A,21Aは相互に離反する方向に移動することができず、圧壊強度可変装置13は大きな荷重を吸収し得る高荷重モードとなる。
【0039】
前記高荷重モードでは一対の第1ナット部材21A,21Aは相互に離反する方向に移動することができないため、バンパービーム11から入力された衝突荷重でフロントサイドフレーム12との間に挟まれた圧壊強度可変装置13が前後方向に圧縮されたとき、図12に示すように、一対の第1座屈板23A,23Aが、その内面に重ね合わせた補強板34,34と共に外側に湾曲するように座屈して衝突エネルギーを吸収することができる。
【0040】
以上、一対の第1座屈板23A,23Aの座屈による衝突エネルギーの吸収について説明したが、一対の第1座屈板23A,23Aに対して位相が90°ずれた方向に配置された一対の第2座屈板23B,23Bも、同様の作用で外側に湾曲するように座屈して衝突エネルギーを吸収することができる。この第2座屈板23B,23Bは、その内面に重ね合わせた形状記憶合金26,26が一体に座屈することで、第1座屈板23A,23Aが吸収する衝突エネルギーに比べて、更に大きい衝突エネルギーを吸収することができる。形状記憶合金26,26は変形に対する荷重の関係の設定自由度が高いので、衝突エネルギーの吸収特性を任意に設定することができる。また形状記憶合金26,26は脆くて割れ易い形質があるが、長孔26a…を介してボルト27…で第2座屈板23B,23Bに固定されているため、第2座屈板23B,23Bに対して長孔26a…の範囲で滑ることで割れを防止し、衝突エネルギーの吸収効果を充分に発揮させることができる。
【0041】
尚、衝突荷重が極めて大きい場合には、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bに加えて、回転不能に拘束された第1、第2後部ヒンジ板19A,19A;19B,19Bも座屈することで、エネルギー吸収効果が更に高められる。また四角枠状のアクチュエータハウジング16も衝突荷重により座屈し、衝突エネルギーの吸収に寄与することができる。更に、アクチュエータハウジング16は、第1、第2後部ヒンジ板19A,19A;19B,19Bの倒れを防止する機能も発揮する。
【0042】
上述した高荷重モードにおいて、衝突荷重によって第1、第2アクチュエータロッド42A,42Bには比較的に大きい引張荷重と比較的に小さい回転トルクとが作用するが、前記引張荷重は第1、第2アクチュエータロッド42A,42Bの内部応力として打ち消されるため、ロック機構41が比較的に小さい回転トルクに耐えるだけの強度を備えていれば、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bの倒れを抑制して確実に座屈させることができる。その結果、ロック機構41を小型軽量化してコストダウンを図るとともに、狭いスペースへの配置を可能にすることができる。また衝突時に比較的に小さい回転トルクしか伝達されないロック機構41は破損し難いので、衝突後でも変形が許容範囲内であれば繰り返し機能・性能を満足することができ、コストダウンを図ることができる。
【0043】
一方、車両に搭載されたレーダー装置やテレビカメラで検知した外部状況と、車速センサで検知した車速とから、衝撃を小さくする必要がある衝突が予測されると、ロック機構41のソレノイド49が励磁して出力ロッド49aが前進し、コイルばね48を介してロック部材47の他端側を押圧することで、ロック部材47が支点突起47a,47aを中心に揺動してロックギヤ45のギヤ歯とギヤハウジング46との間から係合部47bが離脱するため、第1アクチュエータロッド42Aは拘束を解かれて自由に回転できるようになる。
【0044】
その結果、図13に示すように、前方からの衝突荷重によって一対の第1座屈板23A,23Aの後端側に設けた第1ナット部材21A,21Aが相互に離反するように移動しようとすると、その逆ねじよりなる雌ねじ21b,21bに逆ねじよりなる雄ねじ42a,42aを螺合させた第1アクチュエータロッド42Aは拘束を解除されているために自由に回転し、第1ナット部材21A,21Aは第1アクチュエータロッド42Aの両端から分離する。すると、下端を軸受け部17a,17aにヒンジピン18,18で枢支され,上端をヒンジピン22…で枢支された第1後部ヒンジ板19A,19Aは前記ヒンジピン18,18を中心に外側に倒れるように揺動するため、前記ヒンジピン18,18に下端を枢支された第1座屈板23A,23Aは座屈することなく外側に倒れるように揺動する。その際に、第1座屈板23A,23Aの前端の略直角に折り曲げた屈曲部が引き伸ばされるように塑性変形することで若干のエネルギー吸収効果を発揮するため、圧壊強度可変装置13は小さな衝突エネルギーを吸収し得る低荷重モードとなる。
【0045】
以上、一対の第1座屈板23A,23Aの倒れによる低荷重モードでの衝突エネルギーの吸収効果について説明したが、一対の第1座屈板23A,23Aに対して位相が90°ずれた方向に配置された一対の第2座屈板23B,23Bも、同様の作用で外側に倒れて低荷重モードでの衝突エネルギーの吸収効果を発揮することができる。尚、高荷重モードでの衝突時にも第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bの屈曲部が引き伸ばされるように塑性変形することで若干のエネルギー吸収効果を発揮するが、高荷重モードでの衝突時のトータルの衝突エネルギーの吸収量に比べると、その比率は相対的に小さなものとなる。
【0046】
また低荷重モードでの衝突時には第1、第2後部ヒンジ板19A,19A;19B,19Bが外側に倒れるため、第1、第2アクチュエータロッド42A,42Bが後方に移動しようとするが、アクチュエータハウジング44,44が支持孔14A,17bに手動自在に嵌合しているため、第1、第2アクチュエータロッド42A,42Bはアクチュエータハウジング44,44と共に支障なく後方に移動することができる。
【0047】
また一対の第1座屈板23A,23Aおよび一対の第2座屈板23B,23Bを90°ずらして四角柱を成すように配置したので、圧壊強度可変装置13の横倒れを防止して衝突エネルギーの確実な吸収を可能にすることができる。
【0048】
図14は、衝突荷重による圧壊強度可変装置13の前後方向の変位(圧縮量)に対する第1アクチュエータロッド42A(あるいは第2アクチュエータロッド42B)の軸力の変化を示すもので、ロック機構41のロック時(高荷重モード)では変位の増加に伴って軸力が増加しているのに対し、ロック機構41のアンロック時(低荷重モード)では変位の増加に関わらずに軸力がゼロに維持されることが分かる。
【0049】
図15は、衝突荷重による圧壊強度可変装置13の前後方向の変位(圧縮量)に対する圧壊強度可変装置13の発生荷重の変化を示すもので、ロック機構41のロック時(高荷重モード)では変位の増加に伴って発生荷重が増加しているのに対し、ロック機構41のアンロック時(低荷重モード)では変位の増加に関わらずに発生荷重がゼロに維持されることが分かる。尚、アンロック時においても、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bの屈曲部が引き伸ばされるように塑性変形するため、発生荷重が完全にゼロになることはなく、若干の荷重は発生する。
【0050】
図16は、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bのビード23c…の効果を示すグラフであって、衝突荷重による圧壊強度可変装置13の前後方向の変位(圧縮量)に対する荷重が、ビード23c…を持つものの方が、ビード23c…を持たないものに比べて大きくなることを示している。その理由は、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bを単純に折り曲げただけでは、その折り曲げ部23dが簡単に伸びてしまうために荷重が発生し難いが、ビード23c…を設けることで、その折り曲げ部23dが簡単に伸びなくなるために荷重が発生し易いものと考えられる。
【0051】
ビード23c…を持つ第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bの曲げ変形時の作用を更に説明すると、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bの曲げに伴い、ビード23c…の両側の部分(ビード23c…が存在しない部分)が引っ張られて伸び変形し、続いてビード23c…の部分が圧縮されて座屈することで、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bを単純なL字状に形成した場合に比べて、大きな荷重を発生させることができる。
【0052】
図17は、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bのフランジ23a…に形成した強度調整孔23b…の効果を示すグラフであって、衝突荷重による圧壊強度可変装置13の前後方向の変位(圧縮量)に対するピーク荷重が、強度調整孔23b…を設けたことで大幅に減少することを示している。
【0053】
従って、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bのビード23c…や強度調整孔23b…の形状、寸法、数等を変化させることで、特に低荷重モードでの衝突時におけるエネルギー吸収特性をきめ細かく調整することができる。
【0054】
次に、図18に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0055】
第1の実施の形態では、一対の第1ナット部材21A,21Aを連結するの第1アクチュエータロッド42Aの回転をロック機構41で制御し、一対の第2ナット部材21B,21Bを連結する第2アクチュエータロッド42Bの回転を別個のロック機構41で制御しているが、第2の実施の形態では、2本のアクチュエータロッド42A,42Bを相互に連動させて1個のロック機構41だけで制御するものである。即ち、第1ナット部材21A,21Aを連結する第1アクチュエータロッド42Aに設けたウオーム51と、第2ナット部材21B,21Bを連結するの第2アクチュエータロッド42Bに設けたウオームホイール52とを相互に噛合させ、第1アクチュエータロッド42Aだけにロック機構41が設けられる。
【0056】
従って、高荷重モードにおいてロック機構41で第1アクチュエータロッド42Aの回転を拘束すれば、それにウオーム51およびウオームホイール52を介して連動する第2アクチュエータロッド42Bの回転も拘束され、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bは共に座屈して大きなエネルギー衝撃吸収効果を発揮する。
【0057】
一方、低荷重モードにおいてロック機構41で第1アクチュエータロッド42Aの回転を許容すれば、第1、第2アクチュエータロッド42A,42Bは共に回転可能な状態になり、一対の第1ナット部材21A,21Aおよび一対の第2ナット部材21B,21Bは全て拘束を解かれるため、第1、第2座屈板23A,23A;23B,23Bを座屈させずに倒すことで、低荷重で圧壊強度可変装置13を圧壊させることができる。
【0058】
この第2の実施の形態によれば、ロック機構41の数を1個に減らして部品点数を削減することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0060】
例えば、実施の形態ではフロントバンパーのバンパービーム11の圧壊強度可変装置13について説明したが、本発明はリヤバンパーのバンパービームの圧壊強度可変装置13に対しても適用することができる。
【0061】
また実施の形態では第1座屈板23A,23Aおよび第2座屈板23B,23Bの二対を設けているが、何れか一対を設けるだけでも良い。
【0062】
また実施の形態ではロック機構41をソレノイド49で作動させているが、エアバッグ装置等で使用される高圧ガスを発生するインフレータでロック機構41を作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1の実施の形態に係る車両の車体前部の平面図
【図2】図1の2部拡大図
【図3】圧壊強度可変装置の斜視図
【図4】圧壊強度可変装置の分解斜視図
【図5】図2の5−5線断面図
【図6】図5の6−6線断面図
【図7】図5の7−7線断面図
【図8】図5の8−8線断面図
【図9】図8の9−9線断面図
【図10】図9の10−10線断面図
【図11】ロック機構の斜視図
【図12】高荷重モードの作用説明図
【図13】低荷重モードの作用説明図
【図14】ロック時およびアンロック時のアクチュエータシャフトの軸力を示すグラフ
【図15】ロック時およびアンロック時の圧壊強度可変装置の発生荷重を示すグラフ
【図16】座屈板のビードの効果を示すグラフ
【図17】座屈板の強度調整孔の効果を示すグラフ
【図18】第2の実施の形態に係る、前記図6に対応する図
【符号の説明】
【0064】
11 バンパービーム
12 フロントサイドフレーム(車体フレーム)
13 圧壊強度可変装置
16 アクチュエータ収納ボックス(衝撃吸収部)
21A 第1ナット部材(支持部材)
21B 第2ナット部材(支持部材)
23A 第1座屈板(座屈板)
23B 第2座屈板(座屈板)
23b 強度調整孔
23c ビード
23d 折り曲げ部
26 形状記憶合金(補強部材)
34 補強板(補強部材)
41 ロック機構
49 ソレノイド(アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパービーム(11)と車体フレーム(12)との間に車体前後方向の衝突荷重を受けて圧壊する圧壊強度可変装置(13)を配置し、前記圧壊強度可変装置(13)の圧壊荷重を高荷重モードおよび低荷重モードに選択的に切換可能にした車両の車体強度調整装置において、
前記圧壊強度可変装置(13)は、
相互に対向するように配置されて車体前後方向に延び、前記バンパービーム(11)および前記車体フレーム(12)間に作用する衝突荷重で座屈可能な少なくとも一対の座屈板(23A,23B)と、
前記一対の座屈板(23A,23B)の車体前後方向一方の端部を回転自在に支持する支持部材(21A,21B)と、
前記支持部材(21A,21B)の車体前後方向対して直交する方向への移動を拘束する状態と移動を許容する状態とを切換可能なロック機構(41)とを備え、
前記高荷重モードでは、前記ロック機構(41)で前記支持部材(21A,21B)の前記移動を拘束して前記座屈板(23A,23B)の倒れを拘束し、
前記低荷重モードでは、前記ロック機構(41)で前記支持部材(21A,21B)の前記移動を許容して前記座屈板(23A,23B)の倒れを許容することを特徴とする車両の車体強度調整装置。
【請求項2】
前記ロック機構(41)はアクチュエータ(49)により作動することを特徴とする、請求項1に記載の車両の車体強度調整装置。
【請求項3】
一対の第1座屈板(23A)と一対の第2座屈板(23B)とが概ね四角柱を成すように配置されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両の車体強度調整装置。
【請求項4】
前記座屈板(23A,23B)の前記支持部材(21A,21B)と反対側の端部は折り曲げ部(23d)を介して折り曲げられており、前記低荷重モードでは前記折り曲げ部(23d)が塑性変形することを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両の車体強度調整装置。
【請求項5】
前記折り曲げ部(23d)に連なる前記座屈板(23A,23B)にビード(23c)が形成されることを特徴とする、請求項4に記載の車両の車体強度調整装置。
【請求項6】
前記折り曲げ部(23d)の近傍の前記座屈板(23A,23B)に強度調整孔(23b)が形成されることを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の車両の車体強度調整装置。
【請求項7】
前記座屈板(23A,23B)に補強部材(26,34)が重ね合わされることを特徴とする、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の車両の車体強度調整装置。
【請求項8】
前記一対の座屈板(23A,23B)に囲まれた位置にボックス状の衝撃吸収部(16)を備えることを特徴とする、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の車両の車体強度調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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