説明

車両の車輪速センサーハーネス保持構造

【課題】トーションビームの剛性低下や錆の発生を防ぎつつ該トーションビームの設計自由度を高めることができるとともに、車輪速センサーハーネスと他部品との干渉を防ぎつつ両者を近接配置することができる車両の車輪速センサーハーネス保持構造を提供すること。
【解決手段】リヤサスペンションに含まれるトーションビーム1のアーム部1A上にブレーキ配管用ブラケット21を固着した車両における車輪速センサーハーネス24の保持構造として、前記ブレーキ配管用ブラケット21にクリップ孔を形成し、前記トーションビーム1のアーム部1Aの上方を車体前方から後輪に向けて配索される前記車輪速センサーハーネス24の一部を前記クリップ孔に差込固定されたクリップ25によって保持する構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の車輪速センサーとコントローラとを接続する車輪速センサーハーネスの保持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には、例えば凍結した路面上を走行している場合に急ブレーキを掛けても車輪がロックしないようにするためのABSが搭載されているが、このABSは車両の減速度を検出する加速度センサー(Gセンサ)、各車輪の回転速度を検出する車輪速センサー、これらの加速度センサーや車輪速センサーの検出値に基づいて各車輪の最適回転速度を検出するコントローラ、該コントローラから出力される制御信号によって各車輪のブレーキ装置にそれぞれ供給される油圧を制御するABSアクチュエータ等によって構成されている。
【0003】
ところで、上記車輪速センサーとコントローラとは車輪速センサーハーネスによって接続されているが、図4及び図5に右後輪の回転速度を検出する車輪速センサーから延びる車輪速センサーハーネスの保持構造を示す。
【0004】
即ち、図4及び図5は車輪速センサーハーネスの従来の保持構造を示す部分斜視図であり、図4はクリップ孔にクリップを差し込む前の状態を示し、図5はクリップ孔にクリップを差し込んで車輪速センサーハーネスを保持した状態を示す。図4に示すように、リヤサスペンションを構成するトーションビーム101の左右両端のアーム部101A(図4及び図5には一方のみ図示)上には平面部101aが形成されており、この平面部101aには長孔状のクリップ孔123が形成されている。又、アーム部101Aの上面の前記クリップ孔123の近傍にはブレーキ配管用ブラケット121が結着されており、このブレーキ配管用ブラケット121には長孔状の連結孔122が形成されている。
【0005】
而して、図5に示すように、不図示の車輪速センサーからは車輪速センサーハーネス124がトーションビーム101のアーム部101Aの上方を車両前方に向かって延びており、これを挿通保持するクリップ125をトーションビーム101のアーム部101Aに形成された前記クリップ孔123に差し込むことによって該車輪速センサーハーネス124の一部がトーションビーム101のアーム部101Aに保持されている。又、不図示のリヤブレーキのブレーキキャリパに一端が接続されたブレーキホース126の他端は、プラグ127が取り付けられ、前記ブレーキ配管ブラケット121の連結孔122に嵌め込まれて固定され、不図示のブレーキパイプが連結されている。
【0006】
ところで、車輪速センサーハーネスの保持構造に関して、特許文献1には、フレキシブルなパーキングケーブルに留め具を弾発力によって挟持させ、車輪速センサーハーネスを支持するクリップを前記留め具に取り付けることによって、車輪速センサーハーネスをクリップと留め具を介してパーキングケーブルに保持させる構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−314025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図4及び図5に示す従来の保持構造にあっては、高い剛性が必要とされるトーションビーム101にクリップ孔123が形成されるため、該トーションビーム101の剛性がクリップ孔123によって低下する他、クリップ孔123からアーム部101Aの内部に水が浸入してアーム部101Aの内部やクリップ孔123の周囲に錆が発生するという問題があった。又、車輪速センサーハーネス124とブレーキホース126とが別部品に取り付けられているため、クリップ孔123の公差(位置公差、寸法公差等)とブレーキ配管ブラケット121の公差(位置公差,溶接公差等)によって車輪速センサーハーネス124とブレーキホース126間のクリアランスδ(図5参照)が不安定となり、両者が接触する可能性があるという問題があった。
【0009】
更に、図4及び図5に示す従来の保持構造では、トーションビーム101のアーム部101Aにクリップ125を取り付けるための平面部101aを形成する必要があるため、トーションビーム101の設計(形状や剛性等)上、クリップ孔123の位置が制限されるという問題があった。
【0010】
他方、特許文献1において提案された保持構造では、クリップ以外に留め具を要するため、部品点数が増大してコストアップを招くという問題がある。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、トーションビームの剛性低下や錆の発生を防ぎつつ該トーションビームの設計自由度を高めることができるとともに、車輪速センサーハーネスと他部品との干渉を防ぎつつ両者を近接配置することができる車両の車輪速センサーハーネス保持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、リヤサスペンションに含まれるトーションビームのアーム部上にブレーキ配管用ブラケットを固着した車両における車輪速センサーハーネスの保持構造として、前記ブレーキ配管用ブラケットにクリップ孔を形成し、前記トーションビームのアーム部上方を車体前方から後輪に向けて配索される前記車輪速センサーハーネスの一部を前記クリップ孔に差込固定されたクリップによって保持する構成を採用したことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、ディスクブレーキに一端が接続されたブレーキホースの他端を前記ブレーキ配管用ブラケットに固定したことを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記ブレーキ配管用ブラケットの前記ブレーキホースの固定面とは異なる面に前記クリップ孔を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、トーションビームのアーム部上に固着されたブレーキ配管用ブラケットにクリップ孔を形成したため、トーションビームのアーム部にクリップ用孔を形成する必要がなく、クリップ孔によるトーションビームの剛性低下や錆の発生を防ぐことができるとともに、クリップ用孔を容易に形成することができ、加工工数を削減してコストダウンを図ることができる。
【0016】
又、ブレーキ配管用ブラケットにクリップ孔を形成したため、ブレーキ配管用ブラケットに固定されるブレーキホースと同じくブレーキ配管用ブラケットにクリップを介して保持される車輪速センサーハーネスとの位置精度が高められ、これらの間に所要のクリアランスが確保されて互いの干渉を防ぎつつ両者を近接配置することができる。
【0017】
更に、トーションビームのアーム部にクリップを差込固定するための平面部を形成する必要がないため、トーションビームの設計自由度が高められる。
【0018】
請求項2記載の発明によれば、クリップ孔が形成されたブレーキ配管用ブラケットに可撓性のブレーキホースを固定したため、該ブレーキ配管用ブラケットにクリップを介して保持される車輪速センサーハーネスと動きのあるブレーキホースとの干渉を防ぎつつ両者を近接配置することができる。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、ブレーキ配管用ブラケットのブレーキホースの固定面とは異なる面にクリップ孔を形成したため、ブレーキ配管用ブラケットに固定されるブレーキホースとブレーキパイプとの締付工具による接続を作業性良く容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】車両のリヤサスペンション部分の分解斜視図である。
【図2】本発明に係る車輪速センサーハーネス保持構造を示す部分斜視図である。
【図3】ブレーキ配管用ブラケットの斜視図である。
【図4】車輪速センサーハーネスの従来の保持構造においてクリップ用孔にクリップを差し込む前の状態を示す部分斜視図である。
【図5】車輪速センサーハーネスの従来の保持構造においてクリップ用孔にクリップを差し込んで車輪速センサーハーネスを保持した状態を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は車両のリヤサスペンション部分の分解斜視図であり、車両の後輪を車体に対して上下動可能に懸架するリヤサスペンションは、車両後部に車幅方向に配されたトーションビーム1を備えており、このトーションビーム1の左右両端には車両前後方向に配されたアーム部1A(図1には一方のみ図示)が結着されている。
【0023】
上記トーションビーム1の左右の各アーム部1Aの前端部は、ゴムブッシュ2を介して不図示の車体フレームに上下に揺動可能に支持されており、各アーム部1Aの後端部は、これに横方向に挿通する軸3によって下端が支持された不図示のショックアブソーバと、板金製のバネ受け4によって下端が支持された不図示のクッションスプリングによって車体に上下動可能に懸架されている。
【0024】
又、トーションビーム1の左右の各アーム部1Aの後端部には矩形枠状のアクスルブラケット5が溶接によって垂直に立設固着されており、このアクスルブラケット5の中央にはホイールハブ9やドライブシャフトが挿通される円孔6が形成され、この円孔6の周囲には4つのボルト挿通孔7と2つのボルト挿通孔8が形成されている。
【0025】
ところで、トーションビーム1の左右のアーム部1Aは、不図示の後輪を回転可能に支持するものであって、左右の各後輪は、前記アクスルブラケット5に結着されるホイールハブ9に回転可能に支持されたホイールハブフランジ10に取り付けられており、各後輪には制動装置としてディスクブレーキが備えられている。ここで、ディスクブレーキは、後輪と共に回転するブレーキディスク11と、ブレーキパッド、油圧によってブレーキパッドをブレーキディスク11に押し付け作動するブレーキピストンを保持するブレーキキャリパ12及びダストカバー13を備えている。
【0026】
即ち、上記ダストカバー13と前記ホイールハブ9は、前記アクスルブラケット5の外面に当てられ、これらに形成された円孔14,15とアクスルブラケット5のボルト挿通孔7に車幅方向内側から挿通する計4本のボルト16によってアクスルブラケット5の外面に取り付けられている。又、前記ブレーキキャリパ12は、アクスルブラケット5の外面に当てられ、これの下部に形成された2つの円孔17とアクスルブラケット5に形成された2つのボルト挿通孔8に車幅方向内側から挿通する計2本のボルト18によってアクスルブラケット5の外面に取り付けられている。尚、ブレーキキャリパ12には、運転者によるブレーキ操作によって不図示のマスタシリンダに油圧が発生すると、この油圧の供給を受けてブレーキピストンが進退動作してブレーキパッドをブレーキディスク11に押し付け作動するブレーキピストンが内蔵されており、運転者によるブレーキ操作によって、このブレーキパッドがブレーキディスク11の両面を挟持することによって後輪の回転に制動が加えられる。
【0027】
又、前記ホイールハブフランジ10とブレーキディスク11には4つの円孔19,20がそれぞれ形成されており、ブレーキディスク11と後輪は円孔19,20に挿通する計4本の不図示のホイールボルトによってホイールハブフランジ10に取り付けられており、従って、後輪とブレーキディスク11及びホイールハブフランジ10は、ホイールハブ9及びアクスルブラケット5を介してトーションビーム1のアーム部1Aに回転可能に支持されている。
【0028】
而して、本実施の形態に係る車両はABSを搭載しており、該車両のリヤサスペンションを構成するトーションビーム1のアーム部1A上には、運転者のブレーキ操作によるマスタシリンダの油圧をブレーキキャリパ12に送るブレーキホース26の一端を固定する板金製のブレーキ配管用ブラケット21が溶接によって固着されている。
【0029】
ここで、ブレーキ配管用ブラケット21の詳細を図3に示すが、このブレーキ配管用ブラケット21の下端部にはアーム部1Aの外表面に沿って折り曲げられてアーム部1Aの外表面に溶接固着される固着部21Aが形成されており、この固着部21Aからは車両の前上方側に延設され、この延設部分の先端からアーム21Bが形成され、この延設部分の側縁から21Cが形成され、アーム21B,21Cが異なる方向に二股状に延びている。そして、一方のアーム21Bの先端部にはアーム部1Aの延びる方向に略垂直な面であるブレーキ配管固定用(ブレーキホース26固定用)の固定面が形成され、この平坦な固定面には長孔状の連結孔22が形成されている。
【0030】
他方のアーム21Cの先端には、アーム部1Aの延びる方向に略沿った面である車輪速センサーハーネス24固定用の固定面が形成され、この平坦な固定面には同じく長孔状のクリップ孔23が形成されている。つまり、ブレーキ配管固定用の固定面の車両中央側となる斜め後方側に車輪速センサーハーネス24固定用の固定面が配置されており、ブレーキ配管固定用の固定面と車輪速センサーハーネス24固定用の固定面とは、略垂直関係となるように配置されている。又、それぞれの面が延設部分以外では分離した状態で形成されており、固定面の平坦の確保や組付性の向上が図られている。
【0031】
ところで、ABSを搭載する本実施の形態に係る車両においては、後輪の回転速度を検出する不図示の車輪速センサと不図示のコントローラとが車輪速センサーハーネス24によって接軸されているが、この車輪速センサーハーネス24は、図2に示すように、トーションビーム1のアーム部1Aの上方を車体前方から後輪に向けて配索されている。そして、車輪速センサーハーネス24の一部は、ブレーキ配管用ブラケット21のアーム21Cに形成されたクリップ用孔23に差込固定されたクリップ25を介してブレーキ配管用ブラケット21に保持されている。
【0032】
又、本実施の形態に係る車両は、後輪の制動装置としてディスクブレーキを採用するが、該ディスクブレーキのブレーキキャリパ12はブレーキパッドの摩耗によってその位置が変動するため、ブレーキホース26が使用され、ブレーキキャリパ12には可撓性のブレーキホース26の一端が接続され、ブレーキホース26の他端はブレーキ配管用ブラケット21の他方のアーム21Bに固定される。
【0033】
トーションビ−ム1のアーム部1A上に固着されたブレーキ配管用ブラケット21のアーム21Bには、ブレーキホース26の端部のプラグ27がアーム21Bに形成された前記連結孔22に挿通固定されてブレーキホース26が取り付けられる。尚、不図示のマスタシリンダから延びる不図示のブレーキパイプがプラグ27によって取り付けられ、このブレーキパイプとブレーキホース26とは、ブレーキ配管用ブラケット21のアーム21Bに形成された前記連結孔22に挿通固定されたプラグ27によって連結されている。
【0034】
而して、本実施の形態においては、トーションビーム1のアーム部1A上に固着されたブレーキ配管用ブラケット21にクリップ孔23を形成したため、従来のようにトーションビームのアーム部にクリップ孔を形成する必要がなく、クリップ孔によるトーションビーム1の剛性低下や錆の発生を防ぐことができるとともに、クリップ孔23をブレーキ配管用ブラケット21に容易に形成することができ、加工工数を削減してコストダウンを図ることができる。
【0035】
又、ブレーキ配管用ブラケット21にクリップ孔23を形成したため、ブレーキ配管用ブラケット21に固定されるブレーキホース26と同じくブレーキ配管用ブラケット21にクリップ25を介して保持される車輪速センサーハーネス24との位置精度が高められ、これらの間に所要のクリアランスδ(図2参照)が確保されて互いの干渉を防ぎつつ両者を近接配置することができる。特に、本実施の形態では、クリップ孔23が形成されたブレーキ配管用ブラケット21に可撓性のブレーキホース26を固定したため、該ブレーキ配管用ブラケット21にクリップ25を介して保持される車輪速センサーハーネス24と動きのあるブレーキホース26との干渉を防ぎつつ両者を近接配置することができる。
【0036】
更に、本実施の形態では、トーションビーム1のアーム部1Aにクリップ25を差込固定するための平面部を形成する必要がないため、トーションビーム1の設計自由度が高められるという効果も得られる。
【0037】
又、本実施の形態では、ブレーキ配管用ブラケット21のブレーキホース26を固定するアーム21Bの固定面(連結孔22が形成された面)とは異なるアーム21Cの固定面にクリップ孔23を形成したため、ブレーキ配管用ブラケット21に固定されるブレーキホース26と不図示のブレーキパイプとを連結するための締付工具のブレーキ配管用ブラケット21との干渉を防ぐことができ、ブレーキホース26とブレーキパイプとの連結を作業性良く容易に行うことができるという効果も得られる。
【符号の説明】
【0038】
1 トーションビーム
1A トーションビームのアーム部
11 ブレーキディスク
12 ブレーキキャリパ
21 ブレーキ配管用ブラケット
22 ブレーキ配管用ブラケットの連結孔
23 ブレーキ配管用ブラケットのクリップ孔
24 車輪速センサーハーネス
25 クリップ
26 ブレーキホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヤサスペンションに含まれるトーションビームのアーム部上にブレーキ配管用ブラケットを固着した車両における車輪速センサーハーネスの保持構造であって、
前記ブレーキ配管用ブラケットにクリップ孔を形成し、前記トーションビームのアーム部上方を車体前方から後輪に向けて配索される前記車輪速センサーハーネスの一部を前記クリップ孔に差込固定されたクリップによって保持したことを特徴とする車両の車輪速センサーハーネス保持構造。
【請求項2】
ディスクブレーキに一端が接続されたブレーキホースの他端を前記ブレーキ配管用ブラケットに固定したことを特徴とする請求項1記載の車両の車輪速センサーハーネス保持構造。
【請求項3】
前記ブレーキ配管用ブラケットの前記ブレーキホースの固定面とは異なる面に前記クリップ孔を形成したことを特徴とする請求項2記載の車両の車輪速センサーハーネス保持構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236515(P2012−236515A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107081(P2011−107081)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】