説明

車両ドア用のウォータプルーフフィルム

【課題】非生分解性材料をできる限り用いることなく、車両が使用される温度環境に耐え且つ異音の発生を防ぐことができる、車両ドア用のウォータプルーフフィルムを提供する。
【解決手段】車両ドアのインナパネルとドアトリムとの間に介装された、車両ドア用のウォータプルーフフィルムであって、ポリブチレンサクシネートと、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルとを少なくとも有し、ウォータプルーフフィルム全体に対する脂肪族−芳香族共重合ポリエステルが5重量%以上として構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性材料を用いた、車両ドア用のウォータプルーフフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のドアにおいて、インナパネルとドアトリムとの間にウォータプルーフフィルムを介装し、車両の外部からインナパネルに形成された穴部を通じてドアトリム側(即ち、車室側)に水が浸入することを防ぐ技術が知られている。なお、このようなウォータプルーフフィルムについては、以下の特許文献1などにその技術が開示されている。
そして、このウォータプルーフフィルムは、例えば、ポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)といった非生分解性材料で作られるのが一般的である。
【0003】
しかしながら、近年は地球環境への悪影響が少ない材料を使用することが強く求められており、PEやPVCといった非生分解性材料に換えて、微生物の働きで水と二酸化炭素(CO2)に分解される生分解性材料によりウォータプルーフフィルムを作ることが求められている。また生分解性材料はポリマーの構造上、将来的に石油に由来する材料(石油由来材料)から植物に由来する材料(植物由来材料)に置き換えられる可能性があり、更に地球環境へ悪影響を及ぼすことを防ぐことが可能である。
【0004】
そこで、当初、本発明者らは、生分解性材料であるポリ乳酸(PLA)を用いてウォータプルーフフィルムを作ることを検討し、考察を重ねた。
【特許文献1】特開2001−287546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このPLAはガラス転移点が低く、様々な工夫をしても約60〜70℃程度にとどまるため、高温に晒される車両に用いることは好ましくない。
また、PLAにより作られたウォータプルーフフィルムは、硬質であるために、異音を発生しやすいという課題もある。つまり、走行による振動、或いは、ドアに装着されたカーオーディオのスピーカによる振動などの原因により、ウォータプルーフフィルムからは異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合があり、PLA製のウォータプルーフフィルムでは、このような異音を抑制することが困難である。
【0006】
他方、上述したPEやPVCにより形成されたウォータプルーフフィルムであれば、このような異音は発生しにくいという利点はあるが、地球環境の保護という観点からは、非生分解性材料であるPEやPVCをできる限り用いないようにすることが望まれる。
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、非生分解性材料をできる限り用いないようにしながら、車両が使用される温度環境に耐え且つ異音の発生を防ぐことができる、車両ドア用のウォータプルーフフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルム(請求項1)は、車両ドアのインナパネルとドアトリムとの間に介装された、車両ドア用のウォータプルーフフィルムであって、ポリブチレンサクシネートと、下記式(1)で表される脂肪族または脂環式ジオ−ル単位、下記式(2)で表される脂肪族および/または脂環式ジカルボン酸単位、並びに下記式(3)で表される芳香族ジカルボン酸単位を必須成分とし、芳香族ジカルボン酸単位の含量が、脂肪族および/または脂環式ジカルボン酸単位並びに芳香族ジカルボン酸単位の全量に対し、5モル%以上50モル%以下である脂肪族−芳香族共重合ポリエステルを少なくとも有し、該ウォータプルーフフィルム全体に対する該脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの比率または割合が5重量%以上であることを特徴とする、車両ドア用のウォータプルーフフィルム。
【0008】
−O−R1 −O− (1)
−OC−R2 −CO− (2)
−OC−R3 −CO− (3)
(式(1)中、R1 は2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を表し、式(2)中、R2 は直接結合、2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を表し、式(3)中、R3 は2価の芳香族炭化水素基を表す。)
また、請求項2記載の本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルムは、請求項1に記載の内容において、該脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、弾性率が100MPa以下であることを特徴としている。
【0009】
また、請求項3記載の本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルムは、請求項1または2に記載の内容において、該脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、該ウォータプルーフフィルム全体のうち少なくとも55重量%以下の割合を占めることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルムによれば、生分解性材料を用いることで地球環境へ悪影響を及ぼすことを防ぐことが可能となり、また、車両が使用される温度環境に耐え且つ異音の発生を防ぐことができる。
また、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルはある特定の構造とすることにより、異音の発生を効果的に抑制することができる。(請求項1)
脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの弾性率を100MPa以下とすることによりウォータプルーフフィルムからの異音(いわゆる、ビビリ音)を抑制することができる。(請求項2)
また、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、ウォータプルーフフィルム全体のうち少なくとも55重量%以下の割合を占めるようにすることで、ウォータプルーフフィルムの表面の粘着性が過大となる(いわゆるベトつきが生じる)ことを防ぐことができる。(請求項3)
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されるものではない。
なお、以下の説明において、ある原料モノマーに由来するポリマーの繰り返し単位を表わす場合に、その原料モノマーの化合物名に「単位」という言葉を付して表わす場合がある。例えば、コハク酸に由来する繰り返し単位は「コハク酸単位」という。
〔I ポリブチレンサクシネート〕
本発明の車両用ウォータプルーフフィルム(以下、適宜、「本発明のウォータプルーフフィルム」という)に使用されるポリブチレンサクシネートとしては、特に制限されるものではないが、通常は以下に規定するものを用いる。
〔I−A 構造〕
ポリブチレンサクシネートは、1,4−ブタンジオールとコハク酸とがエステル結合により交互に結合した構造を有する。なお、1,4−ブタンジオール及びコハク酸以外の原料モノマーが共重合したものであってもよいが、その場合でも、ポリブチレンサクシネート全体に占める1,4−ブタンジオール成分及びコハク酸成分以外のモノマー成分の割合が通常30モル%以下、中でも20モル%以下の割合であることが好ましい。1,4−ブタンジオール及びコハク酸以外の成分としては、例えば、1,3−プロパンジオール、アジピン酸、乳酸、ε−カプロラクトン、グリコール酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられる。
【0012】
また、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば当該ポリブチレンサクシネートにイソシアネート化合物やカルボジイミド化合物等を作用させ、ウレタン結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合等を導入することができる。
〔I−B 結晶性〕
本発明で使用するポリブチレンサクシネートの結晶性は、示差走査熱量計測定において10℃/分で冷却した際の結晶化に基づく発熱ピークの面積で評価した場合、通常30J/g以上、好ましくは35J/g以上、また、通常80J/g以下、好ましくは75J/g中以下である。結晶性が低過ぎる(ピーク面積が下限値以下)と、得られる車両ドア用のウォータプルーフフィルムの表面ベタツキが生じる場合があり、結晶性が高過ぎる(ピーク面積が上限値以上)と、得られる車両ドア用のウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合がある。なお示差走査熱量計測定は、例えばパーキンエルマー社製DSC7を用い、10mgのサンプルを流量50mL/分の窒素気流下で加熱溶融させた後、10℃/分の速度で冷却し、結晶化に伴う発熱ピークを記録することにより実施される。
〔I−C 弾性率〕
本発明で使用するポリブチレンサクシネートの弾性率は、通常200MPa以上、中でも250MPa以上、また、通常700MPa以下、中でも600MPa以下であることが好ましい。弾性率が低過ぎると、得られる車両ドア用のウォータプルーフフィルムの表面ベタツキが過剰となる場合があり、弾性率が高過ぎると、得られる車両ドア用のウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合がある。なお、ポリブチレンサクシネートの弾性率は、例えば射出成形試験片を用いてJIS K7203に準拠して測定することができる。
〔I−D メルトフローインデックス(MFR)〕
本発明で使用するポリブチレンサクシネートのMFRは、190℃、2.16kgで測定した場合、下限が通常、0.1g/10分以上であり、上限が通常、100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、特に好ましくは30g/10分以下である。MFRは高すぎても低すぎてもフィルム成形性が劣化する傾向がある。なお、MFRはJIS K7210に準拠して測定される。
〔I−E 入手法〕
本発明で使用するポリブチレンサクシネートは、市販のものであってもよく、合成したものでもよい。
【0013】
市販のポリブチレンサクシネートの例としては、三菱化学株式会社製のGS Pla(商品名),昭和高分子株式会社製のビオノーレ1000シリーズ(商品名)等が挙げられる。
また、ポリブチレンサクシネートを合成する場合、その手法は特に制限されないが、通常は1,4−ブタンジオール及びコハク酸、並びに必要に応じて使用されるその他のモノマー成分をエステル重合反応させることにより、合成することが可能である。
【0014】
本発明で使用するポリブチレンサクシネートは、公知の方法で製造することができる。例えば、1,4−ブタンジオール及びコハク酸、並びに必要に応じて使用されるその他のモノマー成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によっても製造することができるが、経済性ならびに製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行う溶融重合でポリエステルを製造する方法が好ましい。
【0015】
また、重縮合反応は、重合触媒の存在下に行うのが好ましい。重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。
重合触媒としては、一般には、周期表で、水素および炭素を除く1族〜14族金属元素を含む化合物である。具体的には、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の金属を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩またはβ―ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物が挙げられる。
【0016】
これらの中では、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムを含む金属化合物、並びにそれらの混合物が好ましく、その中でも、特に、チタン化合物及びゲルマニウム化合物が好ましい。また、触媒は、重合時に溶融或いは溶解した状態であると重合速度が高くなる理由から、重合時に液状であるか、エステル低重合体やポリエステルに溶解する化合物が好ましい。
【0017】
これらの重合触媒として金属化合物を用いる場合の触媒添加量は、生成するポリエステルに対する金属量として、下限値が通常、5ppm以上、好ましくは10ppm以上であり、上限値が通常、30000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは250ppm以下、特に好ましくは130ppm以下である。使用する触媒量が多すぎると、経済的に不利であるばかりでなくポリマーの熱安定性が低くなるのに対し、逆に少なすぎると重合活性が低くなり、それに伴いポリマー製造中にポリマーの分解が誘発されやすくなる。
【0018】
1,4−ブタンジオール及びコハク酸、並びに必要に応じて使用されるその他のモノマー成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は、通常、常圧〜10kPaであるが、常圧が好ましい。
【0019】
反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは、4時間以下である。
その後の重縮合反応は、圧力を、下限が通常0.01×103Pa以上、好ましくは0.01×103Pa以上であり、上限が通常1.4×103Pa以下、好ましくは0.4×103Pa以下の真空度として行う。この時の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下の範囲である。反応時間は、下限が通常2時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは10時間以下である。
【0020】
本発明においてポリエステルを製造する反応装置としては、公知の縦型あるいは横型撹拌槽型反応器を用いることができる。例えば、溶融重合を同一又は異なる反応装置を用いて、エステル化及び/又はエステル交換の工程と減圧重縮合の工程の2段階で行い、減圧重縮合の反応器としては、真空ポンプと反応器を結ぶ減圧用排気管を具備した攪拌槽型反応器を使用する方法が挙げられる。また、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の間には、凝縮器が結合されており、該凝縮器にて縮重合反応中に生成する揮発成分や未反応モノマーが回収される方法が好んで用いられる。
【0021】
本発明において、目的とする重合度のポリエステルを得るための1,4−ブタンジオールとコハク酸とのモル比は、その目的等により好ましい範囲は異なるが、コハク酸成分1モルに対する1,4−ブタンジオール成分の量が、下限が通常0.8モル以上、好ましくは、0.9モル以上であり、上限が通常1.5モル以下、好ましくは1.3モル以下、特に好ましくは1.2モル以下である。また、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば当該ポリブチレンサクシネートにイソシアネート化合物やカルボジイミド化合物等を作用させ、ウレタン結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合等を導入することができる。
【0022】
なお、本発明では、以上説明したポリブチレンサクシネートを、一種類のみ単独で用いてもよく、二種類以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
〔II 脂肪族−芳香族共重合ポリエステル〕
本発明のウォータプルーフフィルムに使用される脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、上述のポリブチレンサクシネート以外の脂肪族−芳香族共重合ポリエステルであれば、その種類は特に制限されるものではないが、通常は以下に規定するものを用いる。
〔II−A 構造〕
脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、下記式(1)で表される脂肪族または脂環式ジオ−ル単位、下記式(2)で表される脂肪族および/または脂環式ジカルボン酸単位、並びに下記式(3)で表される芳香族ジカルボン酸単位を必須成分とし、芳香族ジカルボン酸単位の含量が、脂肪族ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位の全量に対し、5モル%以上50モル%以下である構造を有する。
【0023】
−O−R1 −O− (1)
−OC−R2 −CO− (2)
−OC−R3 −CO− (3)
(式(1)中、R1 は2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を、式(2)中、R2 は直接結合、2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を、式(3)中、R3 は2価の芳香族炭化水素基を表す。)
式(1)のジオール単位を与えるジオール成分は、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でもエチレングリコール、1,4−ブタンジオールが好ましく、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。
【0024】
式(2)のカルボン酸単位を与えるジカルボン酸成分は、炭素数が通常2以上10以下のものであり、例えば、脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、中でもコハク酸、アジピン酸が好ましい。
式(3)の芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、中でもテレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸が特に好ましい。
【0025】
本発明において使用される芳香族−脂肪族共重合ポリエステルにおける芳香族ジカルボン酸単位の量は、脂肪族ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位の全量に対し、下限が5モル%以上、好ましくは、10モル%以上、特に好ましくは15モル%以上であり、上限が50モル%以下、好ましくは48モル%以下である。この量が少なすぎると耐熱性の低い材料となる場合があり、また多すぎると得られる車両ドア用のウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)が生じる場合がある。
【0026】
なお、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族ジオール成分および芳香族ジカルボン酸成分は、それぞれ2種類以上を用いることもできる。また、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば当該脂肪族−芳香族共重合ポリエステルにイソシアネート化合物やカルボジイミド化合物等を作用させ、ウレタン結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合等を導入することができる。
〔II−C 弾性率〕
本発明で使用する脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの弾性率は、通常30MPa以上、中でも40MPa以上、また、通常100MPa以下、中でも90MPa以下であることが好ましい。弾性率が低過ぎると、得られる車両ドア用のウォータプルーフフィルムの表面ベタツキが過剰となる場合があり、弾性率が高過ぎると、得られる車両ドア用のウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合がある。なお、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの弾性率は、ポリブチレンサクシネートの場合と同様の手法によって測定することができる。
〔II−D メルトフローインデックス(MFR)〕
本発明で使用する脂肪族−芳香族共重合ポリエステルのMFRは、190℃、2.16kgで測定した場合、下限が通常、0.1g/10分以上であり、上限が通常、100g/10分以下、好ましくは50g/10分以下、特に好ましくは30g/10分以下である。MFRは高すぎても低すぎてもフィルム成形性が劣り好ましくない。なお、ポリエステルのMFRは、ポリブチレンサクシネートの場合と同様の手法によって測定することができる。
〔II−E 入手法〕
本発明で使用するポリエステルは、市販のものであってもよく、合成したものでもよい。
【0027】
市販の脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの例としては、DuPont社製のBiomax(商品名),BASF社製のEcoflex(商品名)およびEastman Chemicals社製のEastar Bio(商品名)等が挙げられる。これらは何れを用いてもよいが、同じ軟質系の樹脂のなかでも結晶性や弾性率が低いという理由から、BASF社製のEcoflex(商品名)が特に好ましい。
【0028】
芳香族−脂肪族共重合ポリエステルは、上記ポリブチレンサクシネートと同様の製法により製造することができる。
〔III ウォータプルーフフィルム〕
本発明のウォータプルーフフィルムは、上述のポリブチレンサクシネート及び脂肪族−芳香族共重合ポリエステルを含有していれば、その他に特に制限はないが、好ましくは以下の特徴を有するものである。
〔III−A ポリブチレンサクシネート及び脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの割合〕
本発明のウォータプルーフフィルムが含有するポリブチレンサクシネート及び脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの割合は特に制限されないが、本発明のウォータプルーフフィルム全体に対する脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの比率が、通常5重量%以上、中でも10重量%以上、また、通常55重量%以下、中でも50重量%以下であることが好ましい。脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの比率が低過ぎると、車両の振動等によりウォータプルーフフィルムから異音が発生する場合があり、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの比率が高過ぎると、ウォータプルーフフィルム表面の粘着性(いわゆる、ベトつき)が過剰となる場合がある。
〔III−B その他の成分〕
本発明のウォータプルーフフィルムは、上述のポリブチレンサクシネート及び脂肪族−芳香族共重合ポリエステル以外に、成形体の物性や加工性を調整する目的で、熱安定剤、可塑剤、滑剤、ブロッキング防止剤、核剤、無機フィラー、着色剤、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤、改質剤、架橋剤等を添加することも可能である。これらは何れも、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0029】
本発明のウォータプルーフフィルムがポリブチレンサクシネート及び脂肪族−芳香族共重合ポリエステル以外にその他の成分を含有する場合、その他の成分の割合は特に制限されないが、本発明のウォータプルーフフィルム全体に対するその他の成分の比率が、通常10重量%以下、中でも5重量%以下、更には1重量%以下であることが好ましい。
〔III−C 物性〕
本発明のウォータプルーフフィルムの厚さは、特に制限されるものではないが、通常0.06mm以上、中でも0.07mm以上であることが好ましい。厚みが小さ過ぎると、ウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合がある。
【0030】
また、本発明のウォータプルーフフィルムの密度は、特に制限されるものではないが、通常1200g/mm3以上であることが好ましい。密度が小さ過ぎると、ウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合がある。
〔III−D 製造方法〕
本発明のウォータプルーフフィルムの製造方法は特に制限されず、任意の方法で製造することが可能であるが、主な方法としては、(i)上述のポリブチレンサクシネート及び脂肪族−芳香族共重合ポリエステル、並びに必要に応じて用いられるその他の成分を混合し、フィルム状に直接成形する方法(以下「直接成形法」という。)、(ii)上述のポリブチレンサクシネート及び脂肪族−芳香族共重合ポリエステル、並びに必要に応じて用いられるその他の成分を、溶媒に溶解又は分散させた液を用い、溶媒を除去して硬化させる方法(以下「溶媒法」という。)
直接成形法の場合、成形の手法は特に制限されないが、押し出し成形、射出成形、プレス成形等が挙げられる。中でも押し出し成形が好ましい。押し出し成形は、公知の押し出し成形機を用いて行なうことができる。
【0031】
また、ウォータプルーフフィルムの特性改善等の目的で、加熱処理、延伸加工処理、表面処理等の各種の処理を行ってもよい。
〔具体的な適用例〕
以下、図面により、本発明の実施形態に係る本発明の車両ドア用のウォータプルーフフィルムを、実際に車両用ドアに用いる場合について説明する。
【0032】
図1はウォータプルーフフィルムが用いられる車両用ドアの構造を示す模式的な斜視図であり、図2はウォータプルーフフィルムが貼付されたインナパネルを示す模式的な正面図、そして、図3はウォータプルーフフィルムに含まれる柔軟剤の配合量を示す表である。
なお、図3の表は、〔実施例〕として後述する実験とその結果とを説明する際に詳しく説明する。
【0033】
図1に示すように、車両用ドア(以下、単にドア)10は、アウタパネル11,インナパネル12,ウォータプルーフフィルム13およびドアトリム14から主に構成されている。
これらのうち、アウタパネル11はドア10の外側を形成する板材であり、また、インナパネル12はアウタパネル11の内側に対して溶接により固着された板材である。また、これらのアウタパネル11とインナパネル12との間には図示しないパワーウィンドウ機構と窓ガラスとが設けられ、この窓ガラスがパワーウィンドウ機構により上下動できるようになっている。
【0034】
ドアトリム14は、ドア10の車内側の面を形成する樹脂製の部材であって、インナパネル12に対して固定されるようになっている。
そして、このウォータプルーフフィルム13は、インナパネル12とドアトリム14との間に介装される防水シートであって、図2に示すように、インナパネル12の内側に対してブチルラバーテープ15により貼付され、インナパネル12に形成された複数の穴部12a〜12gを塞ぐことができるようになっている。
【0035】
そして、このウォータプルーフフィルム13は、少なくともポリブチレンサクシネート(以下、単にPBSと略称する場合がある)および脂肪族−芳香族共重合ポリエステルからなる。
これらのうち、PBSは、ポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)といった非生分解性材料ではなく、生分解性材料である。
【0036】
また、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは柔軟剤として用いられているものであって、本発明者らの実験により、この脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの配合量を変化させることによってウォータプルーフフィルム13から生じる異音を低減させることができることが判明した。つまり、発明が解決しようとする課題の欄で上述したように、ウォータプルーフフィルムからは異音(いわゆる、ビビリ音)が発生する場合があるが、この異音の大きさは、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの配合量を変化させることによって抑制することができるのである。また、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは生分解性材料である。
【0037】
なお、ポリブチレンサクシネートに対する脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの配合の実験内容や実験結果に関しては、後述の〔実施例〕の欄で説明する。
つまり、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルを全く配合しなかった場合(0%)、ウォータプルーフフィルム13からは比較的小さい異音が生じてしまうが、その重量割合を約5%まで増加させると、異音の大きさを抑制することができる。また、その重量割合を約10%以上に増加させると、異音の発生を回避できるのである。
【0038】
他方、柔軟剤としての脂肪族−芳香族共重合ポリエステルをむやみに増加すればよいというわけではないことも本発明者らの実験により判明した。つまり、その重量割合を約55%まで増加させると、ウォータプルーフフィルム13の表面の粘着性が過度に増大してしまうのである。
そして、ウォータプルーフフィルム13表面の粘着性が過度に増大すると、ブチルラバーテープ15(図2参照)とこのウォータプルーフフィルム13との接着性が低下してしまうという課題が生じる。この現象についてもう少し詳しく説明すると、ウォータプルーフフィルム13の粘着性が増大したほうが、一見、ブチルラバーテープ15との接着性が向上するようにも見えるが、実際にはそうではない。つまり、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルを増大させ過ぎると、ウォータプルーフフィルム13表面には粘着層が形成されてしまい、この粘着層がウォータプルーフフィルム13自体とブチルラバーテープ15との接着を阻害する原因となるのである。
【0039】
また、ウォータプルーフフィルム13表面の粘着性が増大し過ぎると、ウォータプルーフフィルム13の管理することが困難になるという課題もある。具体例を挙げると、例えば、ドア10の生産ラインでは、複数枚のウォータプルーフフィルム13を積み上げておき、必要に応じてウォータプルーフフィルム13を1枚ずつインナパネル12に貼付するが、このとき、ウォータプルーフフィルム13表面の粘着性が増大し過ぎると、積み上げられた複数枚のウォータプルーフフィルム13が互いに接着してしまうのである。
【0040】
上記の理由により、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの配合割合は約55重量%が上限であることが判明した。
また、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの配合割合を約5〜55重量%の間で変化させた場合には、異音特性および粘着特性のいずれにおいても大きな変化は見られないため、約5〜55重量%の間であれば任意の割合にすればよいが、好ましくは約10重量%以上、より好ましくは約20重量%以上に設定する。また、好ましくは約50重量%以下、より好ましくは約40重量%以下に設定する。
【0041】
つまり、このウォータプルーフフィルム13が適用されるのは、車両のドア10であるが、車両は種々の温度環境下で使用されるため、この温度変化を予め考慮した場合には、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの配合割合を上記のような割合に設定することすることが好ましいのである。
例えば、冬季中、車両が氷点下の環境で走行するような場合、ウォータプルーフフィルム13の柔軟性は低下し、異音は発生しやすくなる。他方、夏季中、車両が炎天下で走行するような場合、このウォータプルーフフィルム13の柔軟性は増大し、異音は発生しにくくなるものの、粘着性が増大しその表面がベトつくおそれがある。
【0042】
そこで、ウォータプルーフフィルム13における脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの配合割合を上記の配合割合に設定しておけば、このような温度環境の変化にも対応することが可能となるのである。
このように、本発明の一実施形態に係る車両ドア用のウォータプルーフフィルムによれば、生分解性材料であるポリブチレンサクシネートを用いることで地球環境へ悪影響を及ぼすことを防ぐことが可能となり、また、車両が使用される温度環境に耐え、且つ、異音の発生を防ぐことができる。
【0043】
また、弾性率が低く成分解性材料である脂肪族−芳香族共重合ポリエステルを用いることで、ウォータプルーフフィルムの異音(いわゆる、ビビリ音)の発生しにくさを良好に保つことができる。
また、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、ウォータプルーフフィルム全体のうち少なくとも55重量%以下の割合を占めるようにすることで、ウォータプルーフフィルム13の表面の粘着性が過大となる(いわゆるベトつきが生じる)ことを防ぐことができる。
【0044】
以上、本発明の具体的な適用例を説明したが、本発明は係る適用例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
以下の実施例に記載の手順により、ウォータプルーフフィルムを作製し、その物性を測定した。
・ポリブチレンサクシネートについて
ポリブチレンサクシネートとしては、三菱化学社製のGS Pla(商品名)「AZ91T」を用いた。1H−NMRによる分析によると、「AZ91T」は1,4−ブタンジオール単位及びコハク酸単位がほぼ50モル%ずつより構成されていた。
「AZ91T」の結晶性の評価を示差走査熱量計を用いて行った。パーキンエルマー社製DSC7を用い、10mgのサンプルを流量50mL/分の窒素気流下で加熱溶融させた後、10℃/分の速度で冷却し、結晶化に伴う発熱ピークの面積からその結晶性を評価したところ、そのピーク面積は66.0J/gであった。また射出成形試験片を用い、JIS K7203に準拠してその曲げ弾性率を測定したところ、520MPaであった。なお、JIS K7210に準拠して測定した190℃、2.16kgにおけるMFRは4.2g/10分であった。
・脂肪族−芳香族共重合ポリエステルについて
脂肪族−芳香族共重合ポリエステルとして、BASF社製の「Ecoflex」(商品名)を用いた。1H−NMRによる分析によると、「Ecoflex」を構成するモノマーの組成は、テレフタル酸/アジピン酸/1,4−ブタンジオール=87/100/187モル比であった。また射出成形試験片を用い、JIS K7203に準拠してその曲げ弾性率を測定したところ、80MPaであった。なお、JIS K7210に準拠して測定した190℃、2.16kgにおけるMFRは6.3g/10分であった。
・ウォータプルーフフィルムの製造について
厚さ0.06mmmmとし、且つ、密度を1240g/mm3とした。
・物性の評価
図3の表に示すように、ポリブチレンサクシネートに対する脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの割合を0〜100重量%の間で変化させた。なお、このときの条件は温度23℃,湿度50%RHの条件下で評価した。
【0046】
また、異音については、ウォータプルーフフィルムを実際に車両ドアに組み付けて温度35℃,20℃,−40℃の各条件下でドアの開閉,オーディオの使用,或いは40km/hから150km/hの間で走行した際に、実験者が実際に聞こえた異音の大きさにより評価した。
また、表面のベトつきについては、ウォータプルーフフィルムを実験者が実際に手で触って評価した。
【0047】
脂肪族−芳香族共重合ポリエステルを全く配合しなかった場合(0%)、ウォータプルーフフィルム13からは比較的小さい異音が生じてしまうが、その重量割合を約5%まで増加させると、異音の大きさを抑制することができる。
また、その重量割合を約10%以上に増加させると、異音は発生しなくなる。
他方、その重量割合を約55%よりも増加させると、ウォータプルーフフィルム13の表面の粘着性が過度に増大してしまう。
【0048】
つまり、表面の粘着性の観点からは、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルをむやみに増加すればよいというわけではないことが判明した。
また、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの配合割合を約5〜55重量%の間で変化させた場合には、異音特性および粘着特性のいずれにおいても大きな変化は見られないため、約5〜55重量%の間であれば任意の割合にすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両ドア用のウォータプルーフフィルムが適用されるドアの構成を示す模式的な斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両ドア用のウォータプルーフフィルムが適用されるドアのインナパネルを示す模式的な正面図である。
【図3】本発明の実施例において作製した車両ドア用のウォータプルーフフィルムにおける柔軟剤の配合割合を示す表である。
【符号の説明】
【0050】
10 車両用ドア(ドア)
11 アウタパネル
12 インナパネル
13 ウォータプルーフフィルム
14 ドアトリム
15 ブチルラバーテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ドアのインナパネルとドアトリムとの間に介装された、車両ドア用のウォータプルーフフィルムであって、
ポリブチレンサクシネートと、
下記式(1)で表される脂肪族または脂環式ジオ−ル単位、下記式(2)で表される脂肪族および/または脂環式ジカルボン酸単位、並びに下記式(3)で表される芳香族ジカルボン酸単位を必須成分とし、芳香族ジカルボン酸単位の含量が、脂肪族および/または脂環式ジカルボン酸単位並びに芳香族ジカルボン酸単位の全量に対し、5モル%以上50モル%以下である脂肪族−芳香族共重合ポリエステルを少なくとも有し、
該ウォータプルーフフィルム全体に対する該脂肪族−芳香族共重合ポリエステルの比率または割合が5重量%以上である
ことを特徴とする、車両ドア用のウォータプルーフフィルム。
−O−R1 −O− (1)
−OC−R2 −CO− (2)
−OC−R3 −CO− (3)
(式(1)中、R1 は2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を表し、式(2)中、R2 は直接結合、2価の脂肪族炭化水素基または2価の脂環式炭化水素基を表し、式(3)中、R3 は2価の芳香族炭化水素基を表す。)
【請求項2】
脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、弾性率が100MPa以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載の車両ドア用のウォータプルーフフィルム。
【請求項3】
脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、該ウォータプルーフフィルム全体のうち少なくとも55重量%以下の割合を占める
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の車両ドア用のウォータプルーフフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−74964(P2008−74964A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255859(P2006−255859)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】