説明

車両感知システム

【課題】感知反転が発生しても復帰させることが可能な車両感知システムを提供する。
【解決手段】道路R上の監視領域Aの温度を検出する検出部2から得られた入力レベルと、道路Rの温度レベルに基づく背景レベルとの差に基づいて車両Vの有無の判定を行う判定部32を備えている。車両無しの判定がされている間に、背景レベル学習部33は入力レベルに基づいて背景レベルの学習処理を行う。車両無しの判定がされた際の背景レベルを、参照レベルとして記憶部36は記憶する。反転検知部37は、車両無しの判定がされた後の判定で車両有りとされている際の入力レベルと、参照レベルとを比較し、両者が同等であると判定すると感知反転の発生を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両感知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
交通量や車両の占有時間を調べるために、道路における車両の有無を感知する車両感知システムが知られている。特許文献1には、このような車両感知システムが開示されている。
【0003】
特許文献1のシステムは、道路上の監視領域を通過する車両を感知するセンサを備えている。このセンサは、サーモパイル素子を有していて、車両や道路などの検知対象が発する赤外線を感知する。この感知結果は、入力レベルとしてシステムに与えられる。
車両の温度が道路の温度と異なることにより、放射する赤外線の量も車両と道路とで異なる。このため、センサの監視領域を車両が通過すると、その温度に応じて、センサからの入力レベルが変化する。この入力レベルの変化によって監視領域を通過する車両を感知することが可能である。
【0004】
また、特許文献1には、車両の有無の判定結果に応じて、得られた入力レベルを用いて背景レベルを変動させる背景レベル演算手段が開示されている。この背景レベル演算手段は、判定結果が車両有りの場合は背景レベルを学習せず、車両無しの場合は入力レベルに追従するように背景レベルを学習する。
このように、背景レベルを一定値ではなく学習によって変化させることで、背景レベルの真値(背景温度)が時間帯で変動しても対応することができる。
【0005】
【特許文献1】特許第3719438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両感知の判定において、例えば、道路の温度とほぼ同じ温度の車両を感知した場合、車両が監視領域に存在しているにも関わらず、車両無しと判定してしまう「感知反転」が生じるおそれがある。
この場合、前記背景レベル演算手段によれば、判定結果が車両無しの場合に、背景レベルの学習が無条件で実行されてしまうので、車両感知の判定が反転していると、背景レベルを正確に学習することができない。背景レベルの学習が正確でないと、車両感知システムにおける背景レベルは、実際の背景レベル(真値)と異なった値となる可能性がある。
【0007】
そして、監視領域から前記車両が脱すると、システムは、実際の道路の温度に基づく入力レベルを取得するが、このシステムにおける背景レベルが誤った値となっていることにより、前記入力レベルと前記背景レベルとの間に差が生じ、実際では車両が存在していないにも関わらず、車両有りと判定してしまうおそれがある。このように従来では、感知反転が継続したままとなるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、感知反転が発生してもその発生を検知することができる車両感知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両感知システムは、道路上の監視領域の温度を検出する検出部から得られた入力レベルと、道路の温度レベルに基づく背景レベルとの差に基づいて車両の有無の判定を行う判定部と、車両無しの判定がされている間に、前記入力レベルに基づいて前記背景レベルの学習処理を行う学習部と、車両無しの判定がされた際の前記背景レベルまたは前記入力レベルを、参照レベルとして記憶する記憶部と、車両無しの前記判定がされた後に車両有りと判定されている間に取得された前記入力レベルと、前記参照レベルとを比較し、両者が同等であると判定すると感知反転の発生を検知する反転検知部と備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、記憶部が記憶する参照レベルは、車両無しの判定がされた際の背景レベルまたは入力レベルであるため、この参照レベルは、実際の道路の温度を示しているはずである。したがって、参照レベルの記憶の後において、道路の温度が変化していない場合では、道路に車両が存在していない時に取得される入力レベルは、参照レベルと同等となる。つまり、入力レベルと参照レベルとが同等である場合、当該入力レベルの取得時には、道路に車両が存在していないことが推定される。
【0011】
そこで、実際では車両が存在していないのに、車両感知システムにおいて感知反転が発生していることにより、誤って車両有りと判定されている場合に、反転検知部が、入力レベルと参照レベルとが同等であると判定すると、感知反転の発生を検知することができるので、この感知反転を解消するための処理をその後行うことが可能となり、感知反転が継続することを抑制できる。
【0012】
また、前記反転検知部は、前記入力レベルと前記参照レベルとが同等である時間が規定時間以上を経過することを条件として、感知反転の発生を検知するのが好ましい。
これは、実際には監視領域に車両が存在せず、背景が道路である場合、その際に取得される入力レベルは、道路の温度によるものであるため継続して(ほぼ)一定値を示すことによる。すなわち、感知反転が発生していて実際では車両が存在していないのに誤って車両有りと判定されている場合において、入力レベルと参照レベルとが同等である時間が規定時間以上を経過することを条件として、感知反転の発生を検知することにより、この入力レベルは道路の温度を示していることが推定され、その検知(実際では車両無しであることの検知)の正確性が高まる。
【0013】
また、前記車両感知システムは、前記反転検知部が感知反転の発生を検知すると、背景レベルを入力レベルに合わせる処理を行う背景レベル復帰部を更に備えているのが好ましい。
この場合、感知反転を解消するための処理として、背景レベル復帰部によって、背景レベルを入力レベルに合わせるので、学習部によって誤って背景レベルが学習されていても、背景レベルを正しい値に復帰させることができる。
【0014】
また、前記車両感知システムは、前記反転検知部が感知反転の発生を検知すると、車両有りの判定を車両無しの判定に復帰させる処理を行う判定復帰部を更に備えているのが好ましい。
この場合、反転検知部が感知反転の発生を検知すると、判定復帰部は、車両有りの判定を車両無しの判定に復帰させるので、感知反転を迅速に解消することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、感知反転の発生を検知することができるので、この感知反転を解消するための処理をその後行うことが可能となり、感知反転が継続することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は車両感知システム1を示している。この車両感知システム1は、道路上の所定領域が監視領域Aとされ、当該監視領域A内に車両Vが存在する場合に、当該車両Vを感知する。
【0017】
この車両感知システム1は、車両Vを検出するため監視領域Aの温度を検出する検出部2を備えている。検出部2によって得られた入力レベル(監視領域Aの平均温度に相当する入力電圧値)は、感知処理部3に与えられる。感知処理部3では、監視領域A内の車両Vの有無を判定し、車両有り(感知ON)又は車両無し(感知OFF)の信号を感知結果として出力する。
【0018】
感知結果は、交通信号制御機や交通管制センターに送信される。なお、交通信号制御機は、車両感知システム1の近傍に設置される。交通管制センター等では、複数の車両感知システムからの感知結果を集計して、交通量や車両の占有時間を算出し、渋滞判定や車両平均速度算出などが行われる。
【0019】
前記検出部2は、車両や道路が発する赤外線を感知することで、監視領域Aの温度を検出するサーモパイル素子によって構成されている。この検出部2は、図1に示すように、監視領域Aを道路R上に設定するため、道路脇の支柱4に取り付けられている。
検出部2は、感知処理部3と接続されており、検出部2によって得られた入力レベルは感知処理部3に送信される。
感知処理部3は、前記支柱4に取り付けられた筐体5内に配置されている。なお、感知処理部3を検出部2と同一の筐体内に収める構成としてもよく、検出部2や感知処理部3の配置は図に示す構成に特に限定されるものではない。
【0020】
感知処理部3は、CPUや記憶部などを有するコンピュータを含むハードウェア等によって構成されていて、記憶部に記憶されているコンピュータプログラムが実行されることで、車両感知のための処理を行う。
【0021】
監視領域Aにおける車両Vの有無を判定(感知判定)するための基本原理としては、車両Vが存在しないときの道路Rの温度を背景レベルとして記憶しておき、入力レベルと背景レベルに差があれば車両有り(感知ON)と判定し、入力レベルと背景レベルに差がなければ車両無し(感知OFF)と判定する。
【0022】
ただし、本実施形態では、単純に入力レベルと背景レベルとを比較して感知判定するのではなく、より正確に感知判定を行うため、感知処理部3は、入力レベルと背景レベルとの差に基づく値を比較値として算出し、その比較値を閾値(感知判定用の閾値)と比較することで、感知結果(感知ON/感知OFF)を求める。
【0023】
このために、感知処理部3は、入力レベルと背景レベルとの差に基づく値を比較値として算出する比較値算出部31としての機能を備えている(図3(a)参照)。さらに、感知処理部3は、比較値と閾値とを比較して、車両の有無を判定する判定部32としての機能を有している(図3(b)参照)。
【0024】
前記比較値算出部31は、入力レベルと背景レベルとの差分を示す値(比較値)として、入力レベルと背景レベルの差の微積和を算出する。この微積和は、入力レベルと背景レベルの単純差から、ノイズの影響を低減し、当該単純差の変化分を強調することで閾値との比較をし易くしたものである。
【0025】
図3(a)に示すように、比較値演算部31では、微積和を求めるため、まず、入力レベルと背景レベルとの差分を差分演算部31aによって求める。さらに、その差分の絶対値の積分値を積分演算部31bによって求める。
この積分値は、前記差分の時間平均値に相当し、差分からノイズの影響を低減したものを得ることができる。また、差分の絶対値の微分値を求める演算が微分演算部31cによって行われる。微分値は、前記差分の変化分を示すものである。
【0026】
前記積分値と前記微分値とは加算部31dによって加算され、この加算値が微積和(比較値)となる。微積和は、ノイズが低減された積分値に変化分を示す微分値が加えられたものであるから、ノイズの影響が低減され、変化分を強調したものとなっている。
【0027】
前記判定部32では、この微積和を用いて判定を行うため、より正確に感知判定を行うことができる。ただし、比較値としては、入力レベルと背景レベルとの差に基づくものであれば、前記微積和に限定されるものではない。なお、比較値算出部31からは、前記積分値も出力される。この積分値も、入力レベルと背景レベルの差に基づく値である。
【0028】
図3(b)に示すように、判定部32は、比較値算出部31によって算出された比較値(微積和)を用いて、感知結果(感知ON/感知OFF)を出力する感知判定を行う。
ここでの感知判定の基本原理は、比較値が閾値よりも大きければ(比較値>閾値)、感知ON(車両有り)と判定し、比較値が閾値よりも小さければ(比較値<閾値)、感知OFF(車両無し)と判定する。
【0029】
ただし、本実施形態では、感知ONから感知OFFに切り替わった直後や感知OFFから感知ONに切り替わった直後における感知結果のチャタリングを防止するため、感知判定用の閾値として「閾値Lo」(第一閾値)と「閾値Hi」(第二閾値)の2つが導入されている。
【0030】
第一の閾値である閾値Loは、感知ONの状態から感知OFFを判定するためのものであり、第二の閾値である閾値Hiは、感知OFFの状態から感知ONを判定するためのものである。換言すると、閾値Loは、車両有りの判定(感知ON)がされている間において、車両無し(感知OFF)の判定するために用いられるものであり、閾値Hiは、車両無しの判定(感知OFF)がされている間において、車両有り(感知ON)の判定をするために用いられるものである。
閾値Loは、通常、閾値Hiよりも所定値ほど減じた値に設定され、これにより感知ON/OFF切り替わり時のチャタリングが防止される。
【0031】
図4に示すように、感知処理部3は、さらに、背景レベルを学習する背景レベル学習部33としての機能、及び、この背景レベル学習部33の学習処理を制御するための学習制御部35としての機能を有している。
また、感知処理部3は、前記判定部32によって車両無し(感知OFF)の判定がされた際の背景レベル(または入力レベル)を、参照レベルとして記憶する記憶部36を備えている。
【0032】
さらに、感知処理部3は、実際では車両が存在しているのに判定結果が感知OFFとなったり、実際では車両が存在していないのに判定結果が感知ONとなったりする感知反転が生じている場合に、当該感知反転の発生を検知する反転検知部37としての機能を有している。
また、感知処理部3は、反転検知部37によって感知反転の発生が検知された場合に、当該感知反転を解消するための処理を実行する機能部として、背景レベル復帰部38及び判定復帰部39を更に備えている。
【0033】
前記背景レベル学習部33及び前記学習制御部35について説明する。
背景レベル(道路の路面温度)は、例えば時間帯によって変動するため、一定値を背景レベルとして採用すると真値(実際の道路の温度)とのズレが発生する。そこで、背景レベルを、図5(a)のように学習することが考えられる(第一の背景レベル学習)。
【0034】
この学習方法では、車両Vが監視領域Aに存在しない感知OFF時には、入力レベルは道路Rの温度を示しているはずであるから、背景レベル学習部33は、入力レベルに追従するように背景レベルの学習を行う。
また、この学習方法では、車両Vが監視領域Aに存在する感知ON時には、入力レベルは主に車両Vの温度を示しているはずであるから、背景レベル学習部33は、背景レベルの学習を行わず、感知OFFから感知ONに切り替わったときの背景レベルを保持する。このようにして学習された背景レベルおよび保持された背景レベルは、前記記憶部36が記憶する。
【0035】
このように、第一の背景レベル学習では、感知結果(感知ON/感知OFF)だけに基づいて、学習の有無が切り替えられる。この学習の有無の切り替えは、学習制御部35によって行われる。学習制御部35は、感知結果だけを取得すれば、背景レベル学習部33における学習の有無の切り替え制御を行うことができる。
【0036】
図5(b)に示す第二の背景レベル学習を説明する。この学習方法では、感知OFF時であっても、学習しない場合が設定されている。この第二の背景レベル学習では、学習の実行/休止、の切り替え条件として、感知結果以外のものも導入されている。
【0037】
具体的には、学習実行/休止、の切り替え条件として、微積和(比較値)を導入している。感知OFFになると直ちに(無条件で)背景レベル学習を行うのではなく、微積和(比較値)が十分に小さくなってから背景レベル学習を行う。
具体的に説明すると、背景レベル学習用閾値(以下、「保持Lo」という)を導入し、微積和(比較値)が保持Loよりも大きければ、感知OFFであっても学習せず、感知OFF時において微積和(比較値)が保持Loよりも小さければ、背景レベルの学習を行う。
【0038】
保持Loとしては、例えば、感知ONになる度に、感知ONになったときの微積和の値が設定される。具体的には、感知結果が感知OFFから感知ONになると、感知ONになったときの比較値が、保持Loとしてセットされる(記憶される)。セットされた保持Loが、感知OFF時における微積和との比較に用いられる。
【0039】
このように、微積和(比較値)が保持Loよりも大きければ学習処理が休止されるため、微積和(比較値)が比較的大きく監視領域に車両が存在する可能性がある状態での背景レベルの学習を防止することができる。このため、監視領域に実際に車両が存在していた場合、当該車両の温度に基づいて背景レベルが学習されることがなく、背景レベルが真値からずれることを抑制できる。
【0040】
前記記憶部36および前記反転検知部37を図6と図7によって説明する。
図6(a)と図7(a)は、検出部2から感知処理部3が取得した入力レベルLi(実線)および感知処理部3が有している背景レベルLb(二点鎖線)を表している。背景レベルLbは、背景レベル学習部33によって学習された値、または、背景レベルの学習が行われずに感知OFFから感知ONに切り替わったときに保持された値である。
図6(b)と図7(b)は、監視領域Aにおける実際の車両Vの有無を表している。図6(c)と図7(c)は、判定部32による感知判定の結果を表している。また。図6と図7において、横軸は時間を表している。
【0041】
記憶部36は、各種情報を記憶できる記憶装置(メモリ)からなり、前記判定部32によって車両無し(感知OFF)の判定がされた際の背景レベルを、参照レベルとして記憶することができる。すなわち、図6(c)に示しているように、例えば、時刻t2で、感知ONから感知OFFに切り替わっていることから、この切り替わりの際の背景レベルLb1の値を、参照レベルとして記憶部36は記憶する。
【0042】
記憶部36が記憶するこの参照レベルは、感知OFFの判定がされた際の背景レベルであるため、当該参照レベルは、実際の道路の温度を示しているはずである。
なお、記憶部36の変形例として、感知OFFの判定がされた際の入力レベルを、参照レベルとして記憶してもよい。これは、感知OFFへの切り替わり時では、入力レベルが背景レベルとほぼ一致していることから、当該入力レベルも、実際の道路の温度を示しているためである。
【0043】
反転検知部37は、判定部32によって、車両無し(感知OFF)の判定がされた次に車両有り(感知ON)と判定されている間の入力レベルと、記憶部36が記憶している参照レベルとを比較する機能と、当該入力レベルと当該参照レベルとが同等であると判定すると感知反転の発生を検知する機能とを有している。
また、この反転検知部37によって行われる感知反転の発生の検知は、前記入力レベルと前記参照レベルとが同等である時間が、連続して規定時間以上を経過することを条件としている。なお、この規定時間としては、例えば1秒とすることができ、1秒〜2秒に設定することができる。
【0044】
例えば、図6に示しているように、時刻t2で感知OFFの判定がされ、この判定の次の判定で、感知ONとされている間(例えば図7の時刻t4から時刻t5の間)の入力レベルLi1と、記憶部36が記憶している前記参照レベル(図6のLb1)とを、反転検知部37が比較する。
【0045】
そして、入力レベルLi1と、参照レベル(Lb1)との差が、規定値α以下である場合、反転検知部37は、感知反転が生じていることを検知する。逆に、入力レベルLi1と、参照レベル(Lb1)との差が、規定値αを超えている場合、反転検知部37は、感知反転が生じていないことを検知する。
【0046】
なお、前記規定値αは、入力レベルおよび背景レベルと同様の電圧値とすることができるが、この規定値αを温度換算すると、入力レベルと参照レベルとの差が±0.5℃の範囲内にある場合に、反転検知部37は、感知反転が生じていることを検知する。
【0047】
このように、反転検知部37が感知反転の発生を検知することによって、車両感知システムは、この感知反転を解消するための処理をその後行うことが可能となり、感知反転が継続することを抑制できる。感知反転を解消するための処理については、後の具体例で説明する。
【0048】
以上のように構成された車両感知システムによる、車両感知についての具体例を図6と図7とに沿って説明する。
時刻t1(図6)〜時刻t3(図7)までの間、実際では監視領域Aに車両Vが停車している。しかし、時刻t2(図6)で、入力レベルLiが背景レベルLbとほぼ同じになっていることから、実際では車両Vが存在しているにも関わらず、判定部32では誤って感知OFFの判定がされている。この時刻t2で、感知反転が生じている。
これは、例えば、監視領域A内に進入した車両Vのうち、最初に検出部2の検知対象となった車体部分は、道路と温度が大きく異なっていたが、当該車両Vが監視領域A内で僅かに前進することで検知対象となる車体部分が変わり、新たに検知対象となった車体部分の温度が(偶然に)道路の温度とほぼ等しかったことによって発生する。
【0049】
時刻t2で判定部32により感知OFFの判定がされていることで、背景レベル学習部33は、入力レベルに基づいて背景レベルの学習を開始する。しかし、実際では監視領域Aには車両Vが存在していることから、道路の温度ではなくて、当該車両Vの温度を道路の温度と誤認識して、背景学習を行ってしまう。
【0050】
さらに、時刻t2〜時刻t3の間、前記車両Vが監視領域A内を徐々に移動することにより、検出部2による検知対象となる車体部分が変わり、その温度が上昇している。つまり、背景レベル学習部33は、車両Vの温度の上昇に追従して背景レベルを誤って学習している。
【0051】
これに対して、実際では道路の温度はそれほど変化しておらず、時刻t2〜時刻t3の間で、実際の道路の温度(実際の背景レベルの真値)は、一定のLtである。
このため、背景レベル学習部33によって学習して得られる背景レベルLbは、実際の道路の温度による背景レベルLtとは異なり、誤った値となる。この誤りによる差を図7においてgで示している。
【0052】
この結果、時刻t3において、監視領域Aから前記車両Vが脱すると、判定部32は、検出部2から実際の道路の温度に基づく入力レベルを取得する。この際、背景レベルが学習によって誤った値となっていることにより、時刻t3〜時刻t6までの間で、実際では監視領域Aに車両Vが存在していないにも関わらず、入力レベルと背景レベルとの間に差が生じていることから、時刻t3において、判定部32は車両有り(感知ON)と判定している。
【0053】
このように感知反転が継続したままであると、前記交通信号制御機や交通管制センター(図2参照)は、車両を感知した台数(交通量)や占有時間に関する情報を正常に把握することができなくなり、このような情報を利用して実行される交通信号機の制御に、悪影響を与えてしまうおそれがある。
しかし、本発明の車両感知システムによれば、時刻t2において、最初の感知反転が生じていても、感知反転が継続することを防止することができる。
【0054】
すなわち、記憶部36は、時刻t2で感知OFFの判定がされた際の背景レベルLb1を、参照レベルとして記憶している。なお、この参照レベルは、感知OFFの判定がされた際の背景レベルであるため、実際の道路の温度を示している。
そして、反転検知部37において、判定部32による次の判定で感知ONとされている間(時刻t3〜)の入力レベルと、記憶部36が記憶している参照レベル(Lb1)とが比較される。
【0055】
この比較によって、入力レベルと参照レベル(Lb1)とが同等であると判定されると、感知反転が生じていることを検知するが、さらに、反転検知部37では、入力レベルと参照レベル(Lb1)とが同等である時間が連続して規定時間(1秒)以上を経過することを条件として、感知反転が生じていることを検知するように構成されている。
【0056】
具体例を説明すると、感知ONの判定がされている間(時刻t4〜t5)の入力レベルLi1が、記憶部36が記憶している参照レベル(Lb1)と同等であり、この同等である時間(時刻t4〜t5)が連続して1秒以上であるため、反転検知部37は感知反転の発生を検知する。
そして、感知反転の発生が検知されると、車両感知システム1は、この感知反転を解消するための処理をその後実行し、感知反転の継続を防止する。
【0057】
このように、規定時間(1秒)以上を経過することを条件として、感知反転の発生を検知するように構成することで、感知反転の誤検知を防ぐことができる。すなわち、実際には監視領域Aに車両Vが存在せず、背景が道路である場合、一台の車両Vが監視領域Aを通過する程度の時間では、検出部2から得られる入力レベルは、道路の温度によるものであるため継続してほぼ一定値を示す。したがって、規定時間以上を経過することを条件として、感知反転の発生を検知することにより、検出部2から得られる入力レベルは道路の温度を示していることが推定され、その検知(実際では車両無しであることの検知)の正確性が高まる。
【0058】
また、反転検知部37が、前記規定時間未満の瞬時の入力レベルに基づいて感知反転の有無を検知してしまうと、入力レベルのノイズの影響等によって誤検知するおそれがあるが、規定時間以上を経過することを条件とすることにより、この誤検知を防止することができる。
【0059】
そして、発生している感知反転を解消するための処理を実行するために、感知処理部3は、背景レベル復帰部38(図4参照)を備えている。この背景レベル復帰部38は、反転検知部37が感知反転の発生を検知すると、背景レベルを入力レベルに合わせる処理を行う。
具体的に説明すると図7において、前記規定時間(1秒)を経過すると(つまり時刻t5で)、記憶している背景レベルを、背景レベル復帰部38によって、当該規定時間(1秒)の経過時の入力レベルに合わせる処理が実行される。
この背景レベル復帰部38によれば、前記のとおり、背景レベル学習部33によって誤って背景レベルが学習されていて、背景レベルが真値と異なっていても、感知処理部3における背景レベルを正しい値に迅速に復帰させることができる。
【0060】
なお、背景レベル復帰部38は、前記規定時間の経過時の入力レベルを背景レベルに置き換えることで、背景レベルを迅速に入力レベルに合わせることができる。または、判定部32による判定が感知OFFの状態で、取得される入力レベルに追従するように背景レベルの学習を行うことで、背景レベルを徐々に入力レベルに合わせてもよい。
【0061】
さらに、発生している感知反転を解消するための処理を実行するために、感知処理部3は、判定復帰部39(図4参照)を更に備えている。この判定復帰部39は、反転検知部37が感知反転の発生を検知すると、感知ONの判定を感知OFFの判定に復帰させる処理を行う。
具体的に説明すると図7において、前記規定時間(1秒)を経過すると(つまり時刻t5で)、感知ONの判定を感知OFFの判定へと反転させる。この判定復帰部39によれば、感知反転を迅速に解消することができる。
なお、反転検知部37が感知反転の発生を検知すると、前記背景レベル復帰部38および判定復帰部39の双方を機能させるのが好ましいが、いずれか一方であってもよい。
【0062】
以上のように構成された車両感知システムによれば、感知反転が発生しても、当該感知反転の発生を迅速に検知することができ、さらに、この感知反転を解消するための処理をその後行うことが可能となり、感知反転している状態が継続することを防止することができる。これにより、前記交通信号制御機や交通管制センター(図2参照)は、道路における交通量や占有時間に関する情報を正常に把握することができ、このような情報を利用して効果的に交通信号機を制御することが可能となる。
【0063】
また、本発明の車両感知システムは、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであっても良い。例えば、判定部32による判定方法は他の方法であってもよい。前記閾値として閾値Hiと閾値Loの二種類を設けずに、一つにまとめてもよい。また、背景レベル学習部33による学習方法は、図5に示した以外の方法であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】道路に設置された車両感知システムを示す斜視図である。
【図2】車両感知システムのブロック図である。
【図3】感知処理部の一部の機能を示すブロック図であり、(a)は比較値算出部を示し、(b)は判定部を示す。
【図4】感知処理部の機能を示すブロック図である。
【図5】感知処理部によって実行される背景レベル学習方法を示す表である。
【図6】入力レベル、背景レベル、監視領域における実際の車両の有無、及び、判定部による感知判定の結果の関係を示した図である。
【図7】図6の続きをしている図である。
【符号の説明】
【0065】
1 車両感知システム
2 検出部
3 感知処理部
31 比較値算出部
32 判定部
33 背景レベル学習部
36 記憶部
37 反転検知部
38 背景レベル復帰部
39 判定復帰部
A 監視領域
R 道路
V 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上の監視領域の温度を検出する検出部から得られた入力レベルと、道路の温度レベルに基づく背景レベルとの差に基づいて車両の有無の判定を行う判定部と、
車両無しの判定がされている間に、前記入力レベルに基づいて前記背景レベルの学習処理を行う学習部と、
車両無しの判定がされた際の前記背景レベルまたは前記入力レベルを、参照レベルとして記憶する記憶部と、
車両無しの前記判定がされた後に車両有りと判定されている間に取得された前記入力レベルと、前記参照レベルとを比較し、両者が同等であると判定すると感知反転の発生を検知する反転検知部と、
備えていることを特徴とする車両感知システム。
【請求項2】
前記反転検知部は、前記入力レベルと前記参照レベルとが同等である時間が規定時間以上を経過することを条件として、感知反転の発生を検知する請求項1に記載の車両感知システム。
【請求項3】
前記反転検知部が感知反転の発生を検知すると、背景レベルを入力レベルに合わせる処理を行う背景レベル復帰部を更に備えている請求項1または2に記載の車両感知システム。
【請求項4】
前記反転検知部が感知反転の発生を検知すると、車両有りの判定を車両無しの判定に復帰させる処理を行う判定復帰部を更に備えている請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両感知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−79408(P2010−79408A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244310(P2008−244310)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】