説明

車両用インシュレータの製造方法

【課題】 インシュレータを素材から歩留まりよく切り出すことができる製造方法を提供する。
【解決手段】仮本体部12の短辺12c,12dの長辺12a側の端部に仮突出部13,13を形成する。仮突出部13,13は、切り残し部13b,13cを除いて、それぞれ短辺12c,12d上を仮本体部12から裁断する。仮本体部13,13を長辺12aに突き当たるまでそれぞれ切り残し部13b,13cを中心として矢印方向へ回動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用インシュレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、この発明に係る製造方法の製造対象たる車両用インシュレータの一例を示す。このインシュレータ1は、本体部2と、一対の突出部3,3とを備えている。本体部2は、長方形状をなしており、二つの長辺2a,2b及び二つの短辺2c、2dを有している。突出部3,3は、本体部2の一方の長辺2aの一端部と他端部とにそれぞれ形成されており、長辺2aに沿う方向の長さLと、長辺2aから突出する高さHとを有している。
【0003】
このような車両用インシュレータ1は、図2及び図3に示すように、車両のルーフパネルAとルーフトリムBとの間に配置される。そして、ルーフパネルAに雨滴が衝突する際に発生する雨音や、ルーフパネルAによる風切り音を吸収して車内に侵入するのを防止している(特許文献1参照)。
【0004】
上記インシュレータ1は、従来、図11に示すように、柔軟な平板状をなす素材Mから完成品と同一形状、同一寸法を有する一部を切り出すことによって製造されていた。なお、素材Mは、下記特許文献2に記載の材質、その他の材質が採用されているが、通常は、フェルトやポリエステル綿が用いられ、それらを柔軟な平板に成形することによって構成されている。素材Mは、インシュレータ1の製造に際してはロール状に巻回されている。
【0005】
【特許文献1】実開平2−102848号公報
【特許文献2】特開2004−232162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の製造方法においては、素材M及びインシュレータ1の各寸法によっては素材Mの歩留まりが悪化することがあった。すなわち、素材Mは、所定の幅毎に製造されており、インシュレータ1の製造に際しては、各種の幅を有する素材Mの中からインシュレータ1の寸法に応じて選択される。しかし、インシュレータ1の寸法によっては、インシュレータ1を1個取りするには素材Mの幅が大きすぎ、2個取りするには素材Mの幅が狭すぎることがある。このような場合には、素材Mに多量の無駄が発生し、その歩留まりが悪化するという問題があった。
【0007】
なお、素材Mの幅をインシュレータ1の寸法に対応して決定すれば、素材Mの歩留まりを向上させることができるが、そのようにした場合には素材Mが特注品になるため、素材Mの価格が高騰し、インシュレータ1の製造費が高騰してしまう。したがって、インシュレータ1の製造費の面では、素材Mの歩留まりが悪化した場合と同様になってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の問題を解決するために、本体部と、この本体部に形成された突出部とを有する車両用インシュレータを製造する方法において、上記本体部と同一形状、同一寸法を有する仮本体部と、この仮本体部に形成され、上記仮本体部との連結箇所の一端部を中心として上記仮本体部に突き当たるまで回動させられることによって上記突出部を構成する仮突出部とを有する前製品を素材から切り出す切り出し工程と、上記仮突出部の上記仮本体部との連結箇所を、上記一端部を除いて上記本体部に沿って裁断する裁断工程と、上記仮突出部が上記突出部を構成するよう、上記仮突出部を上記一端部を中心として上記本体部に突き当たるまで回動させる回動工程とを備えていることを特徴としている。
上記仮突出部は、上記仮本体部の第1側面に隣接する第2側面の上記第1側面側の一端部に形成されていてもよく、その場合には、上記仮突出部の上記仮本体部との連結箇所が上記第1側面側の一端部を除いて上記第2側面に沿って裁断され、上記仮突出部が上記一端部を中心として上記第1側面に突き当たるまで回動させられる。
上記仮突出部は、上記仮本体部の第1側面に形成されていてもよく、その場合には、上記仮突出部の上記仮本体部との連結箇所が一端部を除いて上記仮本体部の第1側面に沿って裁断され、上記仮突出部が上記一端部を中心として上記第1側面に突き当たるまで回動させられる。この場合には、上記仮突出部が上記第1側面の長手方向へ互いに離間して二つ形成され、この二つの仮突出部の上記仮本体部との各連結箇所が、上記二つの仮突出部の互いに隣接する端部を除いて裁断され、上記二つの仮突出部が上記互いに隣接する端部を中心として上記第1側面に突き当たるまで回動させられ、上記二つの仮突出部が上記回動工程後には互いに突き当たり、かつ二つの仮突出部によって上記突出部が構成されるよう、上記二つの仮突出部の形状及び寸法が設定されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
上記特徴構成を有するこの発明によれば、素材から切り出される前製品の形状、寸法がインシュレータのそれらと異なっているので、素材の寸法が製造すべきインシュレータには適切でなかったとしても、前製品は当該素材から歩留まりよく切り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
図4〜図6は、この発明に係る車両用インシュレータの製造方法の第1実施の形態を示す。この実施の形態では、図4に示すように、図11に示す素材Mから前製品11が切り出される。この場合、前製品11は、素材Mから2個取りされている。つまり、素材Mの長手方向の同一箇所の一端部と他端部とから前製品11がそれぞれ切り出されているのである。そして、切り出された前製品11からインシュレータ1が製造される。以下、インシュレータ1の製造方法を詳述する
【0011】
まず、前製品11について説明すると、前製品11は、図5に示すように、仮本体部12と、この仮本体部12に一体に形成された仮突出部13,13とを有している。仮本体部12は、インシュレータ1の本体部2と同一形状、同一寸法を有している。したがって、仮本体部12は、本体部2の長辺2a,2b及び短辺2c,2dと長さがそれぞれ同一である長辺12a,12b及び短辺12c,12dを有している。
【0012】
一方、仮突出部13は、インシュレータ1の突出部3と同一形状、同一寸法を有しており、高さHを有する側面が短辺(第2側面)12c(12d)に接するように、図5に想像線で示す突出部3を平行移動させたものと同一になっている。しかも、仮突出部13,13は、長さLを有する二つの側面のうちの一方の側面13aが長辺(第1側面)12aと同一平面上に位置するように配置されている。この結果、仮突出部13,13は、図5において想像線で示す突出部3,3に対し仮本体部12の長辺12aと短辺12c,12dとの各交差部を中心として点対称になっている。したがって、仮突出部13,13は、仮本体部12の長辺12aと短辺12c,12dとの各交差部(後述する切り残し部)を中心として図5の矢印方向へそれぞれ180°回動させると、突出部3,3とそれぞれ重なることになる。
【0013】
上記のように構成された前製品11は、素材Mから切り出される(切り出し工程)。ここで、仮突出部13,13が短辺12c,12dに形成されているので、前製品11の幅W2がインシュレータ1の幅W1より突出部3の高さHの分だけ狭くなっている。この結果、前製品11は、その幅方向を素材Mの幅方向に向けた状態で素材Mから切り出ことにより、素材Mから2個取りすることが可能になっている。この実施の形態では、前製品11が2個取りされているが、1個取りしてもよく、あるいは3個取りしてもよい。前製品11を何個取りするかは、前製品11の幅W2と素材Mの幅W1との関係による。
【0014】
素材Mから切り出された前製品11には、裁断加工が施される。すなわち、一方の仮突出部13は、仮本体部12との連結箇所が短辺12c上において仮本体部12から裁断される(裁断工程)。ただし、仮突出部13の連結箇所は、仮本体部12から完全に切り離されることなく、側面13a側の僅かな一端部を残して裁断される。以下、この切り残された一端部を、切り残し部13eと称する。仮突出部13は、切り残し部13bを介して仮本体部12に連結されているので、裁断工程の後も仮本体部12と一体に取り扱うことができる。しかも、素材Mが柔軟な材料でできているので、切り残し部13bをヒンジとして機能させることができ、切り残し部13bを中心として仮突出部13を図5の矢印方向へ回動することができる。他方の仮突出部13は、短辺12d上を仮本体部12から裁断される(裁断工程)。勿論、一方の仮突出部13と同様に、切り残し部13cを残して裁断される。仮突出部13,13の裁断は、前製品11を素材Mから切り出するときに、同時に行ってもよい。
【0015】
次に、仮突出部13,13をそれぞれ切り残し部13b,13cを中心として図5の矢印方向へ180°回動させる。すると、仮突出部13の側面13aが長辺12aに接触し、仮突出部13が図5において想像線で示す突出部3に重なる。その後、仮突出部13と仮本体部12との接触面たる側面13aと長辺12aとを接着等の手段によって固着する。この結果、前製品11がインシュレータ1になる。つまり、前製品11の仮本体部12がそのままインシュレータ1の本体部3となり、前製品11の仮突出部13,13が、それぞれインシュレータ1の突出部3,3になるのである。仮突出部13は、仮本体部12に必ずしも固着する必要がない。
【0016】
上記の製造方法によれば、前製品11の幅W2をインシュレータ1の幅W1より狭くすることができるので、インシュレータ1をそのまま切り出す場合には歩留まりが悪い素材Mであっても、前製品11を歩留まりよく切り出すことができる。これによって、インシュレータ1の製造費を低減することができる。
【0017】
また、仮突出部13が仮本体部12から完全に分離されることなく、仮本体部12に回動可能に連結されているので、仮突出部13を仮本体部12と一体に取り扱うことができる。しかも、仮突出部13を所定角度(180°)だけ回動させるだけで、仮突出部13を突出部3とすることができ、仮突出部13を突出部3とする際に仮突出部13の位置合わせをする必要がない。よって、仮突出部13を仮本体部12から完全に分離した場合に比してインシュレータ1を容易に製造することができる。
【0018】
図7は、この発明に係る製造方法によって製造されるインシュレータの第2例を示す。このインシュレータ1Aにおいては、一つの突出部3が本体部2の長辺2aの中央部に形成されている。
【0019】
図8は、インシュレータ1Aを製造するための前製品21が示されている。勿論、この前製品21は、素材M又は他の素材から切り出される(切り出し工程)。前製品21は、形状及び寸法がインシュレータ1Aの本体部2と同一である仮本体部22を有しており、仮本体部22の長辺(第1側面)22aの両端部には、一対の仮突出部23A,23Bが形成されている。仮突出部23A,23Bは、突出部3を長辺2aの長手方向における中央において二等分した二つの部分3a,3bを、突出部3の両側面と長辺2aとの各交差部においてそれぞれ90°回動させたものと同一形状、同一寸法を有している。したがって、切り残し部23a,23bを残した状態で仮突出部23A,23Bを長辺22a上において本体部22から切断した後、仮突出部23A,23Bを図8の矢印方向へそれぞれ90°回動させると、仮突出部23A,23Bが互いに突き当たるとともに、本体部22の長辺22aに突き当たる。この結果、仮突出部23A,23Bによって突出部3が形成され、前製品21がインシュレータ1Aになる。なお、仮突出部23A,23Bの互いに当接する当接面と、本体部22との当接面との少なくとも一方の当接面どうしは接着剤等の手段によって固着するのが望ましい。
【0020】
上記製造方法では、図8から明らかなように、仮突出部23A,23Bの仮本体部22からの突出高さが突出部3の本体部2からの突出高さより低いので、前製品21の幅W2をインシュレータ1Aの幅W1(図7参照)より狭くすることができる。したがって、上記第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0021】
図9は、この発明に係る製造方法によって製造されるインシュレータの第3例を示す。このインシュレータ1Bは、略ハート状をなす本体部2と、本体部2の上面中央部に形成された第1突出部(突出部)3と、本体部2の下面の両側部にそれぞれ形成された第2突出部(突出部)4,4とを有している。
【0022】
図10は、インシュレータ1Bを製造する際に、素材M又は他の素材から切り出された前製品31を示している。前製品31は、仮本体部32、一対の第1仮突出部(仮突出部)33A,33B及び二つの第2仮突出部(仮突出部)34,34とを有している。本体部32は、インシュレータ1Bの本体部2と同一形状、同一寸法を有している。第1仮突出部33A,33Bは、第1突出部3を左右方向の中央部において2等分した二つの部分3a,3bとそれぞれ同一形状、同一寸法を有しており、切り残し部33a,33bを中心として図10の矢印方向へ所定角度(ほぼ60°)だけ回動させると、互いに突き当たるとともに、本体部32の上面(第1側面)に突き当たるよう、本体部32の上面の両側に配置されている。互いに突き当たった一対の仮突出部33A,33Bによって第1突出部3が構成される。第2仮突出部34は、第2突出部4と同一形状、同一寸法を有しており、本体部32の側面(第2側面)の下端部に配置されている。勿論、第2仮突出部34は、切り残し部34aを中心として図10の矢印方向へ180°回動すると、本体部32の下面(第1側面)32aに突き当たり、第2突出部4を構成する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係る車両用インシュレータの製造方法の製造対象たるインシュレータの第1例を示す斜視図である。
【図2】図1に示すインシュレータが用いられた車両の屋根を示す断面図である。
【図3】図2に示す車両のルーフトリムを示す斜視図である。
【図4】図1に示すインシュレータをこの発明に係る車両用インシュレータの製造方法によって製造するときの切り出し工程を説明するための図である。
【図5】同切断工程及び回動工程を説明するための図である。
【図6】この発明に係る車両用インシュレータの製造方法によって製造されたインシュレータの一例を示す図である。
【図7】この発明に係る車両用インシュレータの製造方法の製造対象たるインシュレータの第2例を示す図である。
【図8】図7に示すインシュレータをこの発明に係る車両用インシュレータの製造方法によって製造するときの切断工程及び回動工程を説明するための図である。
【図9】この発明に係る車両用インシュレータの製造方法の製造対象たるインシュレータの第3例を示す図である。
【図10】図9に示すインシュレータをこの発明に係る車両用インシュレータの製造方法によって製造するときの切断工程及び回動工程を説明するための図である。
【図11】図1に示すインシュレータを製造するための従来の製造方法を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
M 素材
1 インシュレータ
1A インシュレータ
1B インシュレータ
2 本体部
3 突出部
4 第2突出部(突出部)
11 前製品
12 仮本体部
12a 長辺(第1側面)
12c 短辺(第2側面)
12d 短辺(第2側面)
13 仮突出部
13b 切残し部(連結箇所の一端部)
13c 切残し部(連結箇所の一端部)
21 前製品
22 仮本体部
22a 長辺(第1側面)
23A 仮突出部
23B 仮突出部
23a 切残し部(連結箇所の一端部)
23b 切残し部(連結箇所の一端部)
31 前製品
32 仮突出部
32a 下面(第1側面)
33A 第1仮突出部(仮突出部)
33B 第1仮突出部(仮突出部)
33a 切残し部(連結箇所の一端部)
33b 切残し部(連結箇所の一端部)
34 第2仮突出部(仮突出部)
34a 切残し部(連結箇所の一端部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、この本体部に形成された突出部とを有する車両用インシュレータを製造する方法において、
上記本体部と同一形状、同一寸法を有する仮本体部と、この仮本体部に形成され、上記仮本体部との連結箇所の一端部を中心として上記仮本体部に突き当たるまで回動させられることによって上記突出部を構成する仮突出部とを有する前製品を素材から切り出す切り出し工程と、
上記仮突出部の上記仮本体部との連結箇所を、上記一端部を除いて上記本体部に沿って裁断する裁断工程と、
上記仮突出部が上記突出部を構成するよう、上記仮突出部を上記一端部を中心として上記本体部に突き当たるまで回動させる回動工程とを備えていることを特徴とする車両用インシュレータの製造方法。
【請求項2】
上記仮突出部が上記仮本体部の第1側面に隣接する第2側面の上記第1側面側の一端部に形成されており、上記仮突出部の上記仮本体部との連結箇所が上記第1側面側の一端部を除いて上記第2側面に沿って裁断され、上記仮突出部が上記一端部を中心として上記第1側面に突き当たるまで回動させられることを特徴とする請求項1に記載の車両用インシュレータの製造方法。
【請求項3】
上記仮突出部が上記仮本体部の第1側面に形成されており、上記仮突出部の上記仮本体部との連結箇所が一端部を除いて上記仮本体部の第1側面に沿って裁断され、上記仮突出部が上記一端部を中心として上記第1側面に突き当たるまで回動させられることを特徴とする請求項1に記載の車両用インシュレータの製造方法。
【請求項4】
上記仮突出部が上記第1側面の長手方向へ互いに離間して二つ形成され、この二つの仮突出部の上記仮本体部との各連結箇所が、上記二つの仮突出部の互いに隣接する端部を除いて裁断され、上記二つの仮突出部が上記互いに隣接する端部を中心として上記第1側面に突き当たるまで回動させられ、上記二つの仮突出部が上記回動工程後には互いに突き当たり、かつ二つの仮突出部によって上記突出部が構成されるよう、上記二つの仮突出部の形状及び寸法が設定されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用インシュレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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