説明

車両用エンジン始動装置の制御装置

【課題】スターター電動機に連結されたスターターリングギヤが非回転部材へ固着することを防止する車両用エンジン始動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】S120乃至S140にて、スターターリングギヤ36の非回転部材への固着を防止するために予め定められた判断条件が判断され、その予め定められた判断条件が満たされた場合には、S150にて、スターター電動機32によりスターターリングギヤ36をエンジン回転速度Neよりも低い回転速度Ngrで回転させるスターター回転制御が実行される。従って、スターターリングギヤ36の収容部へ砂、水、雪等が入ったとしても、スターターリングギヤ36の回転により、スターターリングギヤ36が前記非回転部材へ固着することを防止することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジンを電動機で回転させて始動する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の燃費向上を図るために、エンジンのアイドリング時にそのエンジンを停止させ走行開始時にはそのエンジンを再始動する所謂エコランシステムが実用化されている。そのようなエコランシステムのエンジン始動装置が、例えば特許文献1に開示されている。その特許文献1のエンジン始動装置は、出力用のピニオンギヤを有するスターター電動機と、前記エンジンのクランク軸(出力軸)と同軸に設けられそのクランク軸に対しベアリングを介して支持されたリングギヤと、そのリングギヤからクランク軸へは動力伝達可能である一方でクランク軸からリングギヤへは動力伝達しない一方向クラッチとを備えている。そして、前記ピニオンギヤとリングギヤとは常時噛み合っている。
【0003】
このエンジン始動装置の制御装置は、前記エンジンの停止状態においてそのエンジンを始動する場合には、前記スターター電動機を駆動することによりエンジン回転速度を引き上げて前記エンジンを始動する。そのとき、具体的には、上記スターター電動機の出力トルク(以下、「スタータートルク」という)は前記ピニオンギヤからリングギヤへと伝達され、そのスタータートルクにより前記一方向クラッチが係合状態になり、スタータートルクがその一方向クラッチを介して上記リングギヤから前記クランク軸へと伝達される。その結果、そのスタータートルクによりエンジン回転速度が引き上げられ、前記エンジンが始動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−120474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1のエンジン始動装置では、前記リングギヤ等がエンジン始動時には外部環境に影響されずに滑らかに回転できる必要があるので、例えば前記スターター電動機を含めトランスミッションハウジング内に収容されるなどして、外部と遮断されて設けられているのが理想的である。しかし、近年では変速機の小型化が進んできているので、前記トランスミッションハウジング内に前記スターター電動機が収まらないなどの理由により、前記リングギヤ等の収容部がその一部分で外部と連通する構成も考え得る。また、前記トランスミッションハウジングには水抜き穴が設けられるので、これによっても外部と連通する構成となる。そのような構成では、上記収容部への砂利の混入などが生じ得る。そして、前記エンジン作動中には、前記制御装置は前記スターター電動機を駆動せず、前記リングギヤは基本的に回転しないので、そのリングギヤはそれの回転中と比較して、例えば砂利の混入などにより非回転部材に固着し易い。例えば、そのリングギヤが非回転部材に固着した場合には、それにより、エンジン停止後の再始動時に、前記スターター電動機によるエンジンのクランキングが困難になることが想定される。なお、このような課題は未公知のことである。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、スターター電動機に連結されたリングギヤが非回転部材へ固着することを防止する車両用エンジン始動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る発明では、(a)エンジンを始動するためのスターター電動機と、そのスターター電動機に連結され前記エンジンの出力軸と同軸に設けられたスターターリングギヤと、そのエンジンの回転速度がそのスターターリングギヤの回転速度を上回ることを許容する一方向クラッチとを、備えた車両用エンジン始動装置の制御装置であって、(b)前記エンジンの回転速度が予め定められた回転速度判定値以上であり、且つ、前記スターターリングギヤの非回転部材への固着を防止するために予め定められた判断条件が満たされた場合には、前記スターター電動機により前記スターターリングギヤを前記エンジンの回転速度よりも低い回転速度で回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、(a)エンジンを始動するためのスターター電動機と、そのスターター電動機に連結され前記エンジンの出力軸と同軸に設けられたスターターリングギヤと、そのエンジンの回転速度がそのスターターリングギヤの回転速度を上回ることを許容する一方向クラッチとを、備えた車両用エンジン始動装置の制御装置であって、(b)前記エンジンの回転速度が予め定められた回転速度判定値以上であり、且つ、前記スターターリングギヤの非回転部材への固着を防止するために予め定められた判断条件が満たされた場合には、前記スターター電動機により前記スターターリングギヤを前記エンジンの回転速度よりも低い回転速度で回転させる。従って、上記スターターリングギヤの収容部への砂利の混入などが生じたとしても、そのスターターリングギヤの回転により、スターターリングギヤが非回転部材へ固着することを防止することが可能である。また、上記スターターリングギヤの回転速度が前記エンジンの回転速度よりも低い限り、前記一方向クラッチは動力伝達を遮断する非係合状態とされるので、上記スターターリングギヤの回転が前記エンジンの作動に悪影響を及ぼすことがない。
【0009】
なお、前記非回転部材は、エンジンブロック、トランスミッションハウジングなどで例示される車両の回転しない構成部材である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が適用される車両用エンジン始動装置の要部を表す断面図である。
【図2】図1の車両用エンジン始動装置に備えられた変速機がエンジンに連結されていない状態において、その変速機のエンジンブロックへの取付面を示した図である。
【図3】図1の車両用エンジン始動装置を制御する電子制御装置を示した図であり、その車両用エンジン始動装置に備えられたスターター電動機を表した骨子図である。
【図4】図3の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、エンジンの作動中にスターターリングギヤ等が非回転部材に固着することを防止するための制御作動を説明するフローチャートである。
【図5】図4のフローチャートにおいて、具体的な車両の走行状態とスターター回転制御が実行されるか否かとの関係を例示した図表である。
【図6】図4のフローチャートに示す制御作動を説明するためのタイムチャートであって、スリップ判定中ではないが悪路判定中であり、且つ、外気温が外気温判定値以下である場合の車両走行を例とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明が適用される車両用エンジン始動装置10(以下、「エンジン始動装置10」という)の要部を表す断面図である。この図1の断面図では、本発明の特徴についての理解を容易にするため、本発明の特徴には拘わりの無い周知の部分および部材を省略して図示している。
【0013】
図1は、エンジン12のエンジンブロック14から突き出した出力軸であるクランク軸16と、入力側にトルクコンバータを含むCVTなどの変速機18の入力回転部材20との連結部分を表している。変速機18はその入力側にトルクコンバータを含んでいるので、詳細に言えば、入力回転部材20は、そのトルクコンバータのポンプインペラーに連結されている。
【0014】
図1では、クランク軸16にボルト22でリヤスペーサ23と共に固定されたドライブプレート24が入力回転部材20にボルト26で固定されることにより、クランク軸16と入力回転部材20とがクランク軸16の軸心Cまわりに一体回転する構成となっている。そして、エンジンブロック14と変速機18のトランスミッションハウジング28とが相互にボルト止めなどにより固定され、一体として、前記クランク軸16と入力回転部材20との連結部分を収容する筐体を構成している。
【0015】
エンジン始動装置10は、エンジン12を始動するためのクランキング装置であって、例えば、車両が一時停止した時などにアイドリングストップを行い走行開始時にはエンジン12を再始動する所謂エコランシステムに用いられる。エンジン始動装置10は、上記エコランシステムに用いられるものとしては一般的な構成である。具体的に、エンジン始動装置10は、エンジン12を始動するためのスターター電動機32(図3参照)と、スターターリングギヤ36と、スターターリングギヤ36からエンジン12へスターター電動機32の出力トルクTm(以下、「スタータートルクTm」という)を伝達するための一方向クラッチ38とを備えている。そして、そのスターターリングギヤ36及び一方向クラッチ38は、エンジンブロック14とトランスミッションハウジング28とから構成された前記筐体内で、前記クランク軸16の軸心Cと同軸に設けられている。
【0016】
スターター電動機32は、通常のエンジン始動用の電動機であり、そのスターター出力軸33(図3参照)に、前記スタータートルクTmをスターターリングギヤ36に伝達するためのピニオンギヤ34(図3参照)を備えている。そして、図1に直接示されてはいないが、スターター電動機32は、例えば、エンジンブロック14とトランスミッションハウジング28とから構成された前記筐体の外に設けられている。
【0017】
スターターリングギヤ36は、前記軸心Cまわりに回転可能であって、軸受40を介してクランク軸16に支持されている。更に、スターターリングギヤ36は、スターター電動機32のピニオンギヤ34と常時噛み合っている。つまり、スターターリングギヤ36は、常時、スターター電動機32と連結されている。
【0018】
一方向クラッチ38は、ワンウェイクラッチとも称される周知の一方向クラッチであり、図1に示すように、クランク軸16とスターターリングギヤ36との間の動力伝達経路に介装されている。そして、一方向クラッチ38は、エンジン12の回転速度Ne(以下、「エンジン回転速度Ne」という)がスターターリングギヤ36の回転速度Ngr(以下、「リングギヤ回転速度Ngr」という)を上回ることを許容する。すなわち、一方向クラッチ38は、スターターリングギヤ36からクランク軸16へはトルク伝達が可能であるが、クランク軸16からスターターリングギヤ36へはトルク伝達しない係合装置である。なお、エンジン回転速度Neとは、具体的に言えば、エンジン12の出力軸であるクランク軸16の回転速度である。
【0019】
このように構成されたエンジン始動装置10において、エンジン12の停止状態からエンジン12が始動される場合には、スターター電動機32に電力が供給されそのスターター電動機32の駆動によりエンジン回転速度Neがエンジン始動可能な所定回転速度以上に引き上げられてエンジン点火され、エンジン12が始動される。そのエンジン回転速度Neの引き上げの際には、具体的に、スタータートルクTmはピニオンギヤ34からスターターリングギヤ36へと伝達され、そのスタータートルクTmにより一方向クラッチ38が係合状態になる。そして、一方向クラッチ38の係合により、スタータートルクTmが一方向クラッチ38を介してスターターリングギヤ36からクランク軸16へと伝達され、スターターリングギヤ36とクランク軸16とが一体として回転する。
【0020】
また、エンジン12の作動中には、スターター電動機32及びスターターリングギヤ36は基本的に停止しており、一方向クラッチ38は非係合状態とされて、クランク軸16とスターターリングギヤ36との間の相対回転を許容する。なお、本実施例では、エンジン12の作動中にスターター電動機32及びスターターリングギヤ36が回転させられることがあるが、この点については後述する。
【0021】
図2は、変速機18がエンジン12に連結されていない状態において、変速機18のエンジンブロック14への取付面44を示した図である。
【0022】
図2では、判り易くするため、取付面44を斜線部で図示している。スターターリングギヤ36等の収容された空間への砂、雪、水等の混入を防止するために、変速機18の取付面44はクランク軸16の軸心C(図1参照)まわりの全周に渡って途切れなく設けられているのが望ましいが、実際の車両ではそのように構成することは、困難な場合が多い。本実施例の変速機18の取付面44は、図2の破線部A1,A2に示すように、その一部において途切れている。そのため、図1に示すエンジンブロック14とトランスミッションハウジング28とから構成されたスターターリングギヤ36等を収容する筐体は、その一部分に外部に開口した箇所(図2の破線部A1,A2を参照)を有し、その開口した箇所にて図2の矢印(3本)に示すような経路で、外部からその内部に、砂、雪、水等が浸入し得る構造となっている。
【0023】
本実施例の車両には、エンジン始動装置10を制御するための制御装置である電子制御装置60(図3参照)が設けられている。その電子制御装置60は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン12の駆動制御や変速機18の変速制御等を実行するものである。
【0024】
例えば、図3の電子制御装置60は、よく知られたエコラン制御を実行する。具体的に説明すると、そのエコラン制御では、エンジン12のアイドリング時に所定の条件のもとでエンジン12の作動が停止されるアイドリングストップが行われ、車両発進時にはエンジン12が再始動される。このエコラン制御の実行により、燃費の向上が図られる。なお、本実施例で例えば、燃費とは単位燃料消費量当たりの走行距離等であり、燃費の向上とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が長くなることであり、或いは、車両全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)が小さくなることである。逆に、燃費の低下とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が短くなることであり、或いは、車両全体としての燃料消費率が大きくなることである。
【0025】
また、電子制御装置60は、エンジン12の作動中において、スターターリングギヤ36等がエンジンブロック14やトランスミッションハウジング28等の非回転部材に固着することを防止する目的で、図4に示すような制御を実行する。以下に、図4に示される制御作動について説明する。
【0026】
図4は、電子制御装置60の制御作動の要部、すなわち、エンジン12の作動中にスターターリングギヤ36等が前記非回転部材に固着することを防止するための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0027】
先ず、ステップ(以下、「ステップ」を省略する)S110においては、エンジン回転速度Neが予め定められた回転速度判定値N1e以上であるか否かが判断される。その回転速度判定値N1eは、エンジン回転速度Neがそれ以上であれば、後述のスターター回転制御の実行によりスターターリングギヤ36を回転させても、その回転から生じる音や振動がエンジン12からの音や振動に紛れて運転者に違和感を感じさせないと考えられる実験的に求められた判定値である。このS110の判断が肯定された場合、すなわち、エンジン回転速度Neが回転速度判定値N1e以上である場合には、S120に移る。一方、このS110の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0028】
S120においては、スリップ判定中であるか否かが判断される。何れかの車輪のスリップが検知された場合には、スリップ判定中になる。各車輪のスリップは、例えば、各車輪に設けられた車輪速センサからの信号に基づき検知される。このS120の判断が肯定された場合、すなわち、スリップ判定中である場合には、上記車輪のスリップにより、ドライブシャフトや車輪等が高速回転し雪、砂等が、スターターリングギヤ36の収容されているトランスミッションハウジング28内に入る可能性が高いので、換言すれば、スターターリングギヤ36の収容部に入る可能性が高いので、S150に移る。一方、このS120の判断が否定された場合には、S130に移る。
【0029】
S130においては、外気温TEMPOUTが予め定められた外気温判定値TEMP1OUT以下であるか否かが判断される。その外気温判定値TEMP1OUTは、外気温TEMPOUTがそれ以下であれば、前記スターターリングギヤ36の収容部で氷結が生じ易くなると考えられる実験的に求められた判定値である。このS130の判断が肯定された場合、すなわち、外気温TEMPOUTが外気温判定値TEMP1OUT以下である場合には、前記スターターリングギヤ36の収容部で氷結が生じ易くなると考えられるので、S140に移る。一方、このS130の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0030】
S140においては、悪路判定中であるか否かが判断される。例えば、車両走行中に、加速度センサや振動センサからの信号に基づき所定の大きさを超えた振動が所定時間以上継続していることが検知された場合には、悪路を走行中であるとして悪路判定中になる。このS140の判断が肯定された場合、すなわち、悪路判定中である場合には、水、雪、砂等が、前記スターターリングギヤ36の収容部に入り易いので、S150に移る。一方、このS140の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。
【0031】
S150においては、スターター電動機32に電力供給して、そのスターター電動機32によりスターターリングギヤ36をエンジン回転速度Neよりも低い回転速度Ngrで回転させるスターター回転制御が実行される。そのスターター回転制御において、リングギヤ回転速度Ngrがエンジン回転速度Neよりも低くされるのは、スタータートルクTmがエンジン12の回転に干渉しないように、一方向クラッチ38の非係合状態を維持するためである。上記スターター回転制御時のスターターリングギヤ36の回転速度Ngrは一定値である必要は無いが、本実施例のスターター回転制御では、スターターリングギヤ36は、エンジン回転速度Neよりも常に低くなるように予め定められた制御回転速度N1grで回転させられる。この制御回転速度N1grは、例えばエンジン12のアイドル回転速度よりも充分に低い一定値であって、前記スターター回転制御の実行による電力消費をできるだけ抑え且つスターターリングギヤ36等の前記非回転部材への固着を防止するために実験的に求められ設定されたスターターリングギヤ36の回転速度Ngrである。
【0032】
ここで、上記S120乃至S140で判断される条件は、スターターリングギヤ36の前記非回転部材への固着を防止するために予め定められたものであり、本発明の予め定められた判断条件に対応する。すなわち、その予め定められた判断条件とは、図4では、(a)前記スリップ判定中であること、或いは、(b)外気温TEMPOUTが外気温判定値TEMP1OUT以下であって前記悪路判定中であることという判断条件である。そして、その予め定められた判断条件が満たされた場合とは、図4のS120の判断が肯定された場合、或いは、S130及びS140の両方の判断が肯定された場合である。
【0033】
図5は、図4のフローチャートにおいて、具体的な車両の走行状態と前記スターター回転制御が実行されるか否かとの関係を例示した図表である。なお、図5の説明では、前記回転速度判定値N1eは2000rpmに設定されているものとする。
【0034】
図5のパターン1,パターン2,パターン2’,パターン5,パターン6,パターン9,パターン10では、エンジン回転速度Neが回転速度判定値N1eよりも低いので、図4のS110の判断が否定される。従って、前記スターター回転制御は実行されない。これらの走行パターンでスターター回転制御が実行されない主な理由としては、エンジン回転速度Neが低いため、上記スターター回転制御の実行により生じるスターター電動機32やスターターリングギヤ36等からの駆動音、振動が、エンジン12からの音、振動に紛れずに、車両走行中の騒音及び振動が全体として悪化するおそれがあることが挙げられる。また、パターン2’は、凍結路(アイスバーン)上での減速であるが、このパターン2’では、仮にエンジン回転速度Neが回転速度判定値N1e以上であったとしても、前記スリップ判定中でもなく悪路判定中でもないので、S150の前記スターター回転制御は実行されない。雪、砂等が前記スターターリングギヤ36の収容部に入りにくいと考えられるからである。
【0035】
図5のパターン3,パターン7,パターン11は、前記エコラン制御中の走行パターンである。これらの走行パターンでは、エンジン回転速度Ne(=0rpm)が回転速度判定値N1eよりも低いので、図4のS110の判断が否定される。従って、前記スターター回転制御は実行されない。
【0036】
図5のパターン4,パターン12では、エンジン回転速度Ne(=2300rpm)が回転速度判定値N1e以上であるので、図4のS110の判断が肯定される。次に、前記スリップ判定中であるので、図4のS120にて、その判断が肯定される。従って、S150にて前記スターター回転制御が実行される。これらの走行パターンで上記スターター回転制御が実行されても、エンジン回転速度Neが高いため、上記スターター回転制御の実行により生じるスターター電動機32やスターターリングギヤ36等からの駆動音、振動が、エンジン12からの音、振動に紛れて、車両走行中の騒音及び振動が悪化することはないと考えられる。
【0037】
図5のパターン8では、エンジン回転速度Ne(=2300rpm)が回転速度判定値N1e以上であるので、図4のS110の判断が肯定される。しかし、前記スリップ判定中でもなく悪路判定中でもないので、S150の前記スターター回転制御は実行されない。
【0038】
図6は、図4のフローチャートに示す制御作動を説明するためのタイムチャートであって、前記スリップ判定中ではないが前記悪路判定中であり、且つ、外気温TEMPOUTが外気温判定値TEMP1OUT以下である場合の車両走行を例とするものである。なお、図6の説明では、前記回転速度判定値N1eは2000rpmに設定されているものとする。
【0039】
図6のt1時点からt2時点までは、車両の停止に向けた減速中であり、車速Vが低下している。そして、車両停止後しばらくして、t2時点から前記エコラン制御が実行されるので、t2時点で、エンジン12が停止されエンジン回転速度Neが0rpmになる。
【0040】
次に、t3時点の少し前において、例えばフットブレーキペダルの踏込みが解除されたことにより、エンジン12を再始動させるためスターター電動機32が駆動され、そのスターター電動機32の回転速度Nm(以下、「スターター回転速度Nm」という)が上昇している。そして、t3時点で、エンジン12の再始動がなされ前記エコラン制御が終了する。それと同時に、t3時点からエンジン回転速度Neが上昇している。なお、t3時点からt4時点までは、エンジン12は作動中であるが、依然として車速Vは零であり車両は停止したままである。
【0041】
t4時点の少し前の期間にN制御中とあるが、このN制御中とは、車両停止中に変速機18をニュートラル状態にして動力伝達経路を遮断するニュートラル制御の実行中を意味している。
【0042】
t4時点では車両が発進し、t4時点からは車両が加速しており、車速Vと共に、エンジン回転速度Neも上昇している。そして、t5時点で、エンジン回転速度Neが回転速度判定値N1e(=2000rpm)に到達して、t5時点以降では、図4のS110の判断が肯定される。更に、この図6のタイムチャートでは、外気温TEMPOUTが外気温判定値TEMP1OUT以下であり、前記悪路判定中であるので、図4のフローチャートでは、S130及びS140の判断が何れも肯定されてS150に移る。従って、t5時点以降の期間は、上記S150にて前記スターター回転制御が実行される制御実行範囲となる。そのスターター回転制御は、スターターリングギヤ36等の前記非回転部材への固着を防止する目的で実行されるものであるので、その制御実行範囲において、連続的に実行されてもよいし、間欠的に実行されてもよい。具体的に言えば、その制御実行範囲において、連続的にスターターリングギヤ36が回転させられてもよいし、間欠的にスターターリングギヤ36が回転させられてもよいということである。図6では、間欠的な前記スターター回転制御の実行により、スターターリングギヤ36が間欠的に回転させられている。すなわち、t5時点以降の上記制御実行範囲内の全体ではなく一部の期間で、スターター電動機32が駆動されスターター回転速度Nmが零から上昇している。
【0043】
以上のことから、本実施例によれば、図4のS120乃至S140にて、スターターリングギヤ36の前記非回転部材への固着を防止するために予め定められた判断条件が判断される。そして、その予め定められた判断条件が満たされた場合には、他の条件具備のもと、図4のS150にて、スターター電動機32によりスターターリングギヤ36をエンジン回転速度Neよりも低い回転速度Ngrで回転させる前記スターター回転制御が実行される。従って、前記スターターリングギヤ36の収容部へ砂、水、雪等が入ったとしても、スターターリングギヤ36の回転により、スターターリングギヤ36が前記非回転部材へ固着することを防止することが可能である。また、前記スターター回転制御の実行中におけるリングギヤ回転速度Ngrはエンジン回転速度Neよりも低いので、一方向クラッチ38は動力伝達を遮断する非係合状態のままとされ、スターターリングギヤ36の回転がクランク軸16の回転に干渉することが無く、すなわち、上記スターター回転制御の実行がエンジン12の作動に悪影響を及ぼすことがない。
【0044】
また、本実施例によれば、図4のS110にてエンジン回転速度Neが回転速度判定値N1e以上であると判断された場合に、他の条件具備のもと、図4のS150にて前記スターター回転制御が実行されるので、そのスターター回転制御の実行により生じるスターター電動機32やスターターリングギヤ36等からの駆動音、振動を、エンジン12からの音や振動に紛れさせることができる。その結果として、上記スターター回転制御の実行により生じる駆動音、振動に対し運転者が違和感を感じることを回避できる。
【0045】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0046】
例えば、前述の実施例において、図4のフローチャートのS110にて、エンジン回転速度Neが回転速度判定値N1e以上であるか否かが判断されるが、このS110の判断は必須ではなく、図4のフローチャートは、S120から開始するものであってもよい。
【0047】
また、前述の実施例において、図4のS120乃至S140で判断される条件が、本発明の予め定められた判断条件に対応すると説明されているが、その予め定められた判断条件は、スリップ判定、外気温TEMPOUT、悪路判定に基づくものに限定されるわけではない。
【符号の説明】
【0048】
10:エンジン始動装置(車両用エンジン始動装置)
12:エンジン
14:エンジンブロック(非回転部材)
16:クランク軸(出力軸)
28:トランスミッションハウジング(非回転部材)
32:スターター電動機
36:スターターリングギヤ
38:一方向クラッチ
60:電子制御装置(制御装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを始動するためのスターター電動機と、該スターター電動機に連結され前記エンジンの出力軸と同軸に設けられたスターターリングギヤと、該エンジンの回転速度が該スターターリングギヤの回転速度を上回ることを許容する一方向クラッチとを、備えた車両用エンジン始動装置の制御装置であって、
前記エンジンの回転速度が予め定められた回転速度判定値以上であり、且つ、前記スターターリングギヤの非回転部材への固着を防止するために予め定められた判断条件が満たされた場合には、前記スターター電動機により前記スターターリングギヤを前記エンジンの回転速度よりも低い回転速度で回転させる
ことを特徴とする車両用エンジン始動装置の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−168930(P2010−168930A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10342(P2009−10342)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】