説明

車両用エンジン補機制御装置

【課題】MT車でのエンジンから手動変速機への微妙な回転動力の伝達時において、伝達される回転動力の安定性を確保し得る車両用エンジン補機制御装置を提供する。
【解決手段】車両用エンジン補機制御装置は、エンジン11から手動変速機13への回転動力を一部接続状態または全部接続状態にて伝達可能とし、遮断状態にて伝達不能とするクラッチ12と、エンジン11により駆動される可変容量式のコンプレッサ20と、クラッチ12の動作状態を検出するクラッチペダル踏み込み検出センサ33(クラッチ動作検出手段)とを備える。エアコンECU31(クラッチ動作検出手段,容量可変禁止手段,容量可変許容手段)は、クラッチペダル踏み込み検出センサ33によりクラッチ12の一部接続状態または遮断状態が検出されたときコンプレッサ20の容量可変を禁止し、クラッチ12の全部接続状態が検出されたときコンプレッサ20の容量可変を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジン補機制御装置に関し、特にエンジンの最終的な出力を一定に制御可能な車両用エンジン補機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用エンジン補機制御装置として、例えば下記特許文献1に記載されているように、エンジン回転数がアクセルペダルを踏まない状態のアイドル回転数以下で、サイドブレーキまたはブレーキペダルの踏み込みが解除された直後に、可変容量式のコンプレッサの容量が最小となるように容量可変制御を行うものが知られている。この特許文献1に記載された車両用エンジン補機制御装置によれば、車が一時停止した状態から発進する際の、エンジンに対するコンプレッサによる負荷が軽減されて、車の加速性能を向上させることが可能である。
【特許文献1】特公平7−17151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、エンジンから手動変速機への回転動力を一部接続状態または全部接続状態にて伝達可能とし、遮断状態にて伝達不能とするクラッチを備えたマニュアルトランスミッション車(MT車)において、例えば車の一時停止や発進を繰り返す運転時のように、エンジンから手動変速機への微妙な回転動力を伝達しようとするクラッチ操作時(半クラッチ操作)にコンプレッサの容量が変動するように容量可変制御が行われると、エンジンに対するコンプレッサによる負荷の変動に起因して、伝達される回転動力の安定性が失われるという問題があった。なお、現在のコンプレッサ容量状態を基準とした場合、コンプレッサの容量が最大となるように容量可変制御が行われると、エンジンに対するコンプレッサによる負荷が増大して、エンスト率が増大する。一方、コンプレッサの容量が最小となるように容量可変制御が行われると、エンジンに対するコンプレッサによる負荷が減少して、急発進率が増大する。
【0004】
本発明の課題は、MT車でのエンジンから手動変速機への微妙な回転動力の伝達時において、伝達される回転動力の安定性を確保し得る車両用エンジン補機制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用エンジン補機制御装置は、エンジンから手動変速機への回転動力を一部接続状態または全部接続状態にて伝達可能とし、遮断状態にて伝達不能とするクラッチと、エンジンにより駆動される可変容量式のコンプレッサと、クラッチの動作状態を検出するクラッチ動作検出手段と、クラッチ動作検出手段によりクラッチの一部接続状態または遮断状態が検出されたときコンプレッサの容量可変を禁止する容量可変禁止手段と、クラッチ動作検出手段によりクラッチの全部接続状態が検出されたときコンプレッサの容量可変を許容する容量可変許容手段とを備えたことを特徴とする。この場合、クラッチ動作検出手段は、例えば、踏み込み操作によりクラッチを遮断状態、一部接続状態または全部接続状態とするクラッチペダルの踏み込みを検出するものであると好適である。
【0006】
これによれば、クラッチ動作検出手段によりクラッチの一部接続状態または遮断状態が検出されたとき、容量可変禁止手段によってコンプレッサの容量可変が禁止される。また、クラッチ動作検出手段によりクラッチの全部接続状態が検出されたとき、容量可変許容手段によってコンプレッサの容量可変が許容される。
【0007】
このため、クラッチが一部接続状態または遮断状態にあるとき(半クラッチ操作時)は、コンプレッサの容量可変が禁止されるので、エンジンに対するコンプレッサによる負荷の変動が抑制されて、伝達される回転動力の安定性を確保することができる。これにより、クラッチの半クラッチ操作時における運転操作性(ドライバビリティ)を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は本発明の車両用エンジン補機制御装置の一実施形態を概略的に示したブロック図である。この車両用エンジン補機制御装置においては、エンジン11がクラッチ12を介して手動変速機(マニュアルトランスミッション)13と回転動力を伝達可能に連結されている。
【0009】
クラッチ12は、エンジン11から手動変速機13への回転動力を一部接続状態または全部接続状態にて伝達可能とし、遮断状態にて伝達不能とするものであり、例えば摩擦により係合するフライホイール12a、クラッチディスク12bなどを備えた摩擦クラッチが用いられている。クラッチ12は、クラッチケーブル14を含んでなる機械式の操作機構を介してクラッチペダル15に連結されていて、クラッチペダル15の踏み込み操作に連動してクラッチ12が断続される。なお、機械式の操作機構に限らず、クラッチペダル15の踏力に応じた油圧を発生させる油圧式の操作機構を用いてもよい。
【0010】
また、エンジン11は、プーリ16a、ベルト16bおよびマグネットクラッチ16cからなるコンプレッサ駆動機構16を介して可変容量式のコンプレッサ20と回転動力を伝達可能に連結されている。マグネットクラッチ16cは、エンジン11からコンプレッサ20への回転動力を接続状態にて伝達可能とし、遮断状態にて伝達不能とするものであり、後述するエアコンECU31により断続制御される。
【0011】
コンプレッサ20は、例えばシャフト21に一体回転可能に取り付けられた斜板22の回転運動がピストン23の往復運動に変換されるものである。コンプレッサ20の冷媒吐出容量は、斜板室24の内圧を制御し斜板22の傾き(角度)を変化させてピストン23のストロークを変化させることで、増減される。斜板室24の内圧は、ソレノイドバルブ25によって制御される。なお、コンプレッサ20は、斜板式のものに限らず、例えばワップル式等の各種可変容量式のものを用いることができる。
【0012】
コンプレッサ20のソレノイドバルブ25は、エアコンECU31により駆動制御される。エアコンECU31は、CPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータや、マグネットクラッチ駆動回路、ソレノイドバルブ駆動回路などを主要構成部品としており、A/Cスイッチ(図示省略)のオン操作により、ROM等に記憶されている図2のコンプレッサ容量可変許容・禁止プログラムを繰り返し実行し、またコンプレッサ20の容量可変許容時にコンプレッサ制御プログラム(図示省略)を繰り返し実行する。
【0013】
このエアコンECU31は、多重通信のための多重通信入力回路と多重通信出力回路を備えており、これらの入出力回路を経て多重通信線としての例えばCAN等の多重通信バスBUSを介してエンジンECU32を始めとする各種ECUと双方向通信可能に接続されている。多重通信バスBUSには、クラッチペダル踏み込み検出センサ33が接続されている。
【0014】
クラッチペダル踏み込み検出センサ33(クラッチ動作検出手段)は、クラッチペダル15の踏み込みを検出して踏み込みを表す信号を多重通信バスBUSへ出力する。このクラッチペダル15の踏み込みを表す信号は、クラッチペダル15が全く踏み込まれていない状態、クラッチペダル15が遊び量を超えない程度に踏み込まれている状態、クラッチペダル15が遊び量を僅かに超える程度に踏み込まれている状態、およびクラッチペダル15が遊び量をかなり超える程度に踏み込まれている状態のそれぞれを表すように設定されている。
【0015】
そして、エアコンECU31は、上記踏み込みを表す信号を多重通信バスBUSから入力して、クラッチペダル15が全く踏み込まれていない状態、およびクラッチペダル15が遊び量を超えない程度に踏み込まれている状態に基づいてクラッチ12の全部接続状態、すなわちフライホイール12aとクラッチディスク12bが密着して回転の全部が伝達される状態を検出し、クラッチペダル15が遊び量を僅かに超える程度に踏み込まれている状態に基づいてクラッチ12の一部接続状態、すなわちフライホイール12aとクラッチディスク12bが軽く接触して回転の一部のみが伝達される状態を検出し、クラッチペダル15が遊び量をかなり超える程度に踏み込まれている状態に基づいてクラッチ12の遮断状態、すなわちフライホイール12aとクラッチディスク12bが離間して回転が完全に伝達されない状態を検出するようになっている。
【0016】
次に、上記のように構成した本実施形態の作動について説明する。エアコンECU31は、A/Cスイッチのオン操作により、図2のコンプレッサ容量可変許容・禁止プログラムを所定の短時間毎に繰り返し実行する。
【0017】
このコンプレッサ容量可変許容・禁止プログラムは、ステップS10にてその実行が開始され、ステップS11にて、多重通信バスBUSからクラッチペダル15の踏み込みを表す信号を入力する。次に、ステップS12にて、ステップS11で取得した踏み込みを表す信号に基づいてクラッチペダル15が踏み込まれているか否か、すなわちクラッチペダル15が全く踏み込まれていない状態にあるか、クラッチペダル15が遊び量を超えない程度に踏み込まれている状態にあるか、クラッチペダル15が遊び量を僅かに超える程度に踏み込まれている状態にあるか、クラッチペダル15が遊び量をかなり超える程度に踏み込まれている状態にあるか否かを判定する。
【0018】
クラッチペダル15が全く踏み込み操作されていないか、あるいはクラッチペダル15が遊び量を超えない程度に踏み込まれている状態にある場合(ステップS12にて「No」)には、クラッチ12の全部接続状態を検出し、ステップS13にてコンプレッサ20の容量可変を許容する旨の決定をする。これにより、コンプレッサ20のソレノイドバルブ25への通電量の変化が許容されるようになり、斜板室24の内圧の制御に従ってコンプレッサ20の容量可変が許容される。以後、クラッチ12の全部接続状態が続く限り、ステップS11〜S13の処理が繰り返し実行される。
【0019】
一方、クラッチペダル15が遊び量を僅かに超える程度に踏み込まれている状態にある場合には、クラッチ12の一部接続状態を検出し、クラッチペダル15が遊び量をかなり超える程度に踏み込まれている状態にある場合には、クラッチ12の遮断状態を検出し、いずれの場合もステップS12にて「Yes」と判定して、ステップS14にてコンプレッサ20の容量可変を禁止する旨の決定をする。これにより、コンプレッサ20のソレノイドバルブ25への通電量の変化が禁止されるようになり、コンプレッサ20の容量の可変も禁止される。以後、クラッチ12の一部接続状態または遮断状態が続く限り、ステップS14,S15の処理が繰り返し実行される。
【0020】
その後、クラッチペダル15の踏み込み操作が解除等されて、クラッチペダル15が全く踏み込み操作されていないか、あるいはクラッチペダル15が遊び量を超えない程度に踏み込まれている状態へ移行してクラッチ12の全部接続状態を検出すれば、ステップS15にて「No」と判定し、ステップS16にてコンプレッサ20の容量可変を許容する旨の決定をする。これにより、コンプレッサ20のソレノイドバルブ25への通電量の変化が許容されて、コンプレッサ20の容量可変が許容されるようになる。ステップS16の処理後、ステップS17にてこのコンプレッサ容量可変許容・禁止プログラムの実行を終了する。
【0021】
以上の説明から明らかなように、上記実施形態では、エアコンECU31によるステップS12,S15の処理の実行によって、クラッチペダル15が遊び量を僅かに超える程度に踏み込まれている状態、あるいはクラッチペダル15が遊び量をかなり超える程度に踏み込まれている状態が検出されたとき(クラッチ12の一部接続状態または遮断状態が検出されたとき)、ステップS14の処理の実行によってコンプレッサ20の容量可変が禁止される。また、クラッチペダル15が全く踏み込み操作されていない状態、あるいはクラッチペダル15が遊び量を超えない程度に踏み込まれている状態が検出されたとき(クラッチ12の全部接続状態が検出されたとき)、ステップS13,S16の処理の実行によってコンプレッサ20の容量可変が許容される。
【0022】
これにより、クラッチ12が一部接続状態または遮断状態にあるとき(半クラッチ操作時)は、コンプレッサ20の容量可変が禁止されるので、エンジン11に対するコンプレッサ20による負荷の変動が抑制され、伝達される回転動力の安定性が確保されて、運転操作性を向上させることができる。
【0023】
また、上記実施形態では、クラッチペダル15の踏み込みを検出するクラッチペダル踏み込み検出センサ33とエアコンECU31がクラッチ動作検出手段としての機能を果たしている。これにより、クラッチ12の遮断状態、一部接続状態または全部接続状態を簡易な構成で容易に判断することができる。
【0024】
なお、上記実施形態では、クラッチ動作検出手段の構成部材としてクラッチペダル踏み込み検出センサ33を用いたが、これに限らず、例えばクラッチディスクの回転を検出するセンサや、手動変速機13の出力軸上に設けられた変速ギヤの回転を検出するセンサを用いてもよい。
【0025】
また、上記実施形態では、図2のステップS14の処理の実行によってコンプレッサ20の容量可変が禁止、すなわち斜板22がステップS14の処理の実行時における傾斜位置に保持されるように構成したが、エンジン11に対するコンプレッサ20による負荷の変動が抑制される範囲内において、斜板22が所定の傾斜位置に移動後、保持されるように設定することも可能である。
【0026】
また、上記実施形態では、エアコンECU31により図2のコンプレッサ容量可変許容・禁止プログラムが実行されるように構成したが、エンジンECU32等の各種ECUにより図2のコンプレッサ容量可変許容・禁止プログラムが実行されるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の車両用エンジン補機制御装置を概略的に示すブロック図。
【図2】図1のエアコンECUによって実行されるコンプレッサ容量可変許容・禁止プログラムを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0028】
11 エンジン
12 クラッチ
13 手動変速機
14 クラッチケーブル
15 クラッチペダル
16 コンプレッサ駆動機構
20 可変容量式のコンプレッサ
21 シャフト
22 斜板
23 ピストン
24 斜板室
25 ソレノイドバルブ
31 エアコンECU(クラッチ動作検出手段,容量可変禁止手段,容量可変許容手段)
33 クラッチペダル踏み込み検出センサ(クラッチ動作検出手段)
BUS 多重通信バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから手動変速機への回転動力を一部接続状態または全部接続状態にて伝達可能とし、遮断状態にて伝達不能とするクラッチと、
前記エンジンにより駆動される可変容量式のコンプレッサと、
前記クラッチの動作状態を検出するクラッチ動作検出手段と、
前記クラッチ動作検出手段により前記クラッチの一部接続状態または遮断状態が検出されたとき前記コンプレッサの容量可変を禁止する容量可変禁止手段と、
前記クラッチ動作検出手段により前記クラッチの全部接続状態が検出されたとき前記コンプレッサの容量可変を許容する容量可変許容手段とを備えたことを特徴とする車両用エンジン補機制御装置。
【請求項2】
前記クラッチ動作検出手段は、踏み込み操作により前記クラッチを遮断状態、一部接続状態または全部接続状態とするクラッチペダルの踏み込みを検出するものである請求項1に記載の車両用エンジン補機制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−107371(P2009−107371A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278690(P2007−278690)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】