説明

車両用シートレッグ

【課題】車体の振動等が車両シートに伝達することを抑制し、車両の乗り心地性を向上させることができる防振ダンパーとしての機能を有する車両用シートレッグを提供する。
【解決手段】
筒体50と、該筒体50の中心軸に沿って設けられた支持棒60を備え、上記支持棒60の先端上部が車体のシートフレーム30と接合し、上記筒体50の下縁部が車体のスライドレール20と接合し、該筒体50と該支持棒60との間に介装された防振部材80を備えた車両用シートレッグ100とすることで、車体の振動等が車両シートに伝達することを抑制し、車両の乗り心地性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の防振ダンパーに係り、更に詳細には、特に自動車において、シートに車体の振動等を伝わり難くするための防振ダンパーとしての機能を有する車両用シートレッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両においては、エンジンや回転軸等から発生する有害振動や、走行時に発生する路面から入力される振動を低減するために、種々の防振ダンパーが使用されている。この防振ダンパーは、問題となる有害振動のピーク周波数に合わせてその共振周波数をチューニングしておくことにより、その有害振動を効果的に低減できるものである。近年においては車両に搭載されるシートが多様化し、上記振動に加え、シートクッションの薄肉化などによるシートの剛性不足が原因となってシート振動の問題が発生していることから、車両用シート自体にも防振ダンパーが適用されつつある。
【0003】
例えば、特許文献1においてはシートクッションブラケットとハイト用シャフトとの間に、ゴム状弾性体を備えた防振ダンパーが介装された構造を有する車両用シートが提案されている。
【特許文献1】特開平09−108064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の構造では、シートクッションブラケットとハイト用シャフトとの間に防振ダンパーが存在しているので、クッション上に乗員が座った場合、その 重量によって防振ダンパー内のゴム状弾性体が圧縮されて硬化してしまう。そのため、硬化したゴム状弾性体を振動が伝達し、このシートに座った乗員の乗り心地を良好に保つことが必ずしも容易ではない。従って、シート以外の部位で振動等を制御できる防振ダンパーが望まれる。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車体の振動等が車両シートに伝達することを抑制し、車両の乗り心地性を向上させることができる防振ダンパーとしての機能を有する車両用シートレッグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、車体のシートフレームとスライドレールとの間に配置する車両用シートレッグ内の構造として、車体のスライドレールに接合する筒体と、車体のシートフレームと接合する支持棒との間に防振部材を介装させることで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
即ち、本発明の車両用シートレッグは、筒体と、該筒体の中心軸に沿って設けられた支持棒を備え、上記支持棒の先端上部が車体のシートフレームと接合し、上記筒体の下縁部が車体のスライドレールと接合し、該筒体と該支持棒との間に介装された防振部材を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車体のシートフレームとスライドレールとの間に配置する車両用シートレッグにおいて、車体のスライドレールに接合する筒体と、車体のシートフレームと接合する支持棒との間に防振部材を介装させることで、車体の振動等が車両シートに伝達することを抑制し、車両の乗り心地性を向上させることができる防振ダンパーとしての機能を有する車両用シートレッグを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の車両用シートレッグについて、さらに詳細、かつ具体的に説明する。
上述のように、本発明の車両用シートレッグは、筒体と、該筒体の中心軸に沿って設けられた支持棒を備え、上記支持棒の先端上部が車体のシートフレームと接合し、上記筒体の下縁部が車体のスライドレールと接合し、該筒体と該支持棒との間に介装された防振部材を備えている。
【0010】
図1は、本発明の車両用シートレッグの一実施形態を備えた車両シートの概略斜視図である。図2は、本発明の車両用シートレッグの他の実施形態を備えた車両シートの要部概略側面図である。図1及び図2に示される実施形態の車両用シートレッグ100においては、車両のフロア10に取り付けられた左右のスライドレール20の上面(可動側)に、車両用シートレッグ100が、それぞれ2個ずつ固定され、またこれらの車両用シートレッグ100の上面がシートフレーム30と接合することでシート本体40を支持している。
このように、本発明の車両用シートレッグ100は、車体のシートフレーム30とスライドレール20の間に配置されることによって、防振ダンパーとしての機能を発揮する。
【0011】
図3は、図2に中のA−A線に沿った一部拡大断面図である。
図3において車両用シートレッグ100は、筒体の一例であるダンパーブラケットアウタ50と、支持棒の一例であるダンパーブラケットインナ60と、係合部の一例である係合ピン70と、防振部材の一例であるゴム状弾性体80を備えている。図4は、図3中のB−B線に沿った断面図である。
【0012】
図3及び図4に示すように、ダンパーブラケットアウタ(筒体 )50はスライドレール20の上面(可動側)に接合し、ダンパーブラケットインナ(支持棒)60はシートフレーム30に接合している。ダンパーブラケットアウタ(筒体 )50とダンパーブラケットインナ(支持棒)60との間には、環状のゴム状弾性体(防振部材)80が挿入してある。ダンパーブラケットアウタ50、ゴム状弾性体80及びダンパーブラケットインナ60は、同軸状に配置されて互いに密接している。これらの接触面は溶着などにより接合してもよい。なお、本実施形態では、ゴム状弾性体の材料として、硬度Hs45の天然ゴムを用いた。
【0013】
係合ピン70は、ダンパーブラケットインナ(支持棒)60に穿設された連結孔(図示しない)を貫通して固定してある。ダンパーブラケットアウタ50には係合長孔90が設けてあり、この係合ピンと係合している。係合ピン70は、その幅が係合長孔90の横幅とほぼ一致しているため、振動等が与えられても、係合ピン70と、それを固定するダンパーブラケットインナ(支持棒)60は左右への移動が抑止される。一方、上下の移動は可能であるが、係合長孔90の縦幅の範囲内に規制されている。
【0014】
車両の走行時、車体の振動や路面から車体への衝撃等は、車両のフロア10からスライドレール20を介して車両用シートレッグ100のダンパーブラケットアウタ(筒体 )50に伝達される。このとき、ダンパーブラケットアウタ(筒体 )50とダンパーブラケットインナ(支持棒)60の間には、ゴム状弾性体(防振部材)80が同軸状に介装され、このゴム状弾性体(防振部材)80がダンパーブラケットアウタ50及びダンパーブラケットインナ60のそれぞれに密着しているので、車体の振動によりゴム状弾性体(防振部材)80にせん断力が負荷されることとなり、このゴム状弾性体(防振部材)80の粘弾性的特性によりダンパーブラケットアウタ(筒体 )50からダンパーブラケットインナ60への振動伝達、すなわち車体のフロア10側からシート本体40側への振動伝達を緩和する。
【0015】
このようにして、振動や衝撃等が、ダンパーブラケットインナ(支持体 )60、シートフレーム30等を経てシート本体40に伝達されることが効果的に抑制され、シートに座った乗員の乗り心地を容易に向上させることができる。また、本実施形態に示すように、ダンパーブラケットインナ(支持棒)60が係合ピン(係合部)70を有し、ダンパーブラケットアウタ(筒体)50が側面に対向する係合長孔90を備えている場合には、ダンパーブラケットインナ60の上下方向の移動範囲が規制されるので、過度の振動や路面からの衝撃が入力される際には、シート本体40の上下動が抑制され、シートの座り心地を容易に良好に維持できる。
なお、上記構成は簡単であるため、この構造を採用することによって特にコスト上昇を伴うものではなく実用上の利益が大きい。
【0016】
更に、本実施形態では、係合ピン70が車両の側面に向かって延在するように配置されており、シート本体40の固定を補強する構造となっているので、車両が前面衝突した際にシート本体40が受ける衝撃力によって、同シート本体40が脱離するような事態を防止することができる。
【0017】
即ち、車両の前面衝突時には、慣性によってシート本体40に車両の進行方向に衝撃力が入力されるが、車両用シートレッグ100内の係合ピン(係合部)70の配置の向きは、この衝撃力に対向する方向を補強しているので、シート本体40の剛体構造やスライドレール20への固定構造の効果と相乗して、シート本体40の脱離や飛散を阻止する。
このように、係合部(係合ピン70)は、その長手方向が車両の側面に向かって延在するように配置されていることが好ましい。
【0018】
以下に、本発明の車両用シートレッグの構造に含まれる各要素について、更に詳細に説明する。
筒体は、その側面に対向する係合長孔を有する。筒体の形状は断面が円形であることが好ましいが、筒状であればその断面が多角形や楕円形等であっても良い。筒体の上面は開放されていても良いし、支持棒が突出する箇所以外は、支持棒と干渉しない限り閉鎖されていても良い。また下面は開放されていても、閉鎖されていても良い。
【0019】
係合長孔は、筒体の軸線を中心にして180度の関係で同じ高さに2つが配置されていることが好ましく、凹設されていても、穿設されていてもよいが、加工性の面から穿孔であることが好ましい。
係合長孔は筒体の軸線方向に延在し、その形状としては楕円形や長方形等を挙げることができる。係合長孔の幅は、支持棒の係合部を係合した際に左右に移動しない程度に遊挿できる幅であることが好ましい。
【0020】
支持棒は、中空であっても、中実であってもよいが、係合部の取り付けなどにおける加工性の面から中空であることが好ましい。また筒体の中心軸に設けられることが好ましいが、中心軸に沿っていれば、軸線から外れていても良い。
支持棒は、係合長孔と係合する係合部を有している。係合部は、車両の前突時にシート本体が脱離、飛散することを阻止するものである。
【0021】
通常、該係合部は支持棒と垂直に交差する棒状であり、支持棒と一体的に形成されたものであってもよいし、支持棒に貫通させるなどして取り付けられたものであってもよい。
【0022】
防振部材は、スライドレールに接触しないで配置されることが好ましい。また材料としては、弾性体が好ましく、なかでもゴム状弾性体が好ましい。
ゴム状弾性体としては、天然ゴム、ニトリルゴム、ハイダンピングラバー、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム等を用いることができる。硬度は、Hs40〜80のものが好ましい。
また、一種類の材料だけではなく、二種以上の材料を積層して用いることもできる。振動時、積層された層間におけるせん断力により、防振効果が得られるからである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の車両用シートレッグは、車体の振動等が車両シートに伝達することを抑制し、車両の乗り心地性を向上させることができる防振ダンパーとしての機能を有する。そのため、本発明の車両用シートレッグを車両に用いた場合、車両の防振に関して、シート自体の防振機能に対する依存度が低くなるため、シートのクッションを薄肉化できるなど、デザインの幅が広がる。このように、特に自動車などの車両に好適に用いることができ、産業上の利用価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の車両用シートレッグの一実施形態を備えた車両シートの概略斜視図である。
【図2】本発明の車両用シートレッグの他の実施形態を備えた車両シートの要部概略側面図である。
【図3】図2に示した車両シートのA−A線に沿った一部拡大断面図である。
【図4】図3のB−B線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0025】
10 車両のフロア
20 スライドレール
30 シートフレーム
40 シート本体
50 ダンパーブラケットアウタ(筒体 )
60 ダンパーブラケットインナ(支持棒)
70 係合ピン(係合部)
80 ゴム状弾性体 (防振部材)
90 係合長孔
100 車両用シートレッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体と、該筒体の中心軸に沿って設けられた支持棒を備え、
上記支持棒の先端上部が車体のシートフレームと接合し、
上記筒体の下縁部が車体のスライドレールと接合し、
該筒体と該支持棒との間に介装された防振部材を備えたことを特徴とする車両用シートレッグ。
【請求項2】
上記支持棒が係合部を有し、上記筒体が側面に対向する係合長孔を備え、該係合部が該係合長孔と係合することによって、該支持棒の上下動の範囲を規制していることを特徴とする請求項1に記載の車両用シートレッグ。
【請求項3】
上記係合部の長手方向が、車両の側面に向かって延在するように配置されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用シートレッグ。
【請求項4】
上記防振部材がゴム状弾性体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用シートレッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−132178(P2010−132178A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311122(P2008−311122)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】