説明

車両用スロープ装置

【課題】スライド式タイプの車両用スロープ装置であって、伸長展開が不充分な状態を容易に検出でき、スロープ装置が急勾配で使用されるのを未然に防止可能な安全性に優れた車両用スロープ装置の提供を目的とする。
【解決手段】車体側に基端部を連結した第1スロープ部と第1スロープ部の展開側にスライド伸縮自在に連結した第2スロープ部とを備え、第1スロープ部は、基端部を回動中心とし、車体側に回動する方向にアシスト力(Mf)を付与するアシスト手段を有し、アシスト力は、第2スロープ部を第1スロープ部にスライド収納した状態で水平方向展開時の重心(M1)による下降モーメントよりも大きく、第2スロープ部を第1スロープ部から最大伸長した重心(M2)による下降モーメントよりも小さいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に格納し、使用時には車外に伸長展開し、車両の床部と地上との間にスロープを形成する車両用スロープ装置に関し、特に、不完全な展開状態でスロープ装置が使用されるのを未然に防止するのに効果的である。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用スロープ装置としては、未使用時に車内に格納搭載できるように、複数のスロープ部を折り畳み式にしたものとスライド伸縮可能にしたものが公知である。
折り畳み式のスロープ装置であっては、展開状態の全長が一定であるのでスロープ角が概ね一定であるけれでも、地上が平坦でなく、車両側の地上高さに比較してスロープの展開接地高さが大きく上下すると谷折りタイプであっても山折りタイプであっても、スロープ先端が地上に接地しなかったり、スロープ傾斜面が途中で少し、山折れ、又は谷折れ状態になる恐れがあった。
【0003】
これに対して、スライド式のスロープ装置は、図6(a)に示すようにスロープを引き出して最大に伸びた正規の展開状態で使用可能なだけでなく、図6(b)に示すようにスロープが収納された状態で地上に降ろしても車椅子の乗降を行うことが可能であるが、この場合は乗降面が急勾配になって車椅子の取り扱いが困難になるという問題があった。
つまり、このときのスロープ角θ(b)は、正規の展開状態でのスロープ角θ(a)に対して大きくなるため、車椅子の乗降性が悪くなる恐れがあった。
更に、近年、車両の後方視界性を損ねないように、起立格納時には背丈が低く、展開使用時にはスロープ角を緩かにすることの要求が高まっており、スライド式スロープを更に複数分割する構造も必要となっている。
この場合、θ(b)とθ(a)の差がさらに大きくなる技術的課題がある。
【0004】
そこで、本発明者は、スライド式タイプのスロープ装置であってもスライド展開が不充分な場合には、車椅子による乗り入れを未然に防ぐことができないか誠意検討した。
【0005】
本発明者は、スライド式タイプのスロープ装置にあっては、車両に対して第1スロープの基端側を回動自在に連結し、第2スロープ、あるいはさらに、第3スロープが展開側に伸縮スライドする構造になっているのが基本であることから、第2スロープ等の伸長によりスロープ部の重心が車外側に移動することに着目した。
特許文献1には、展開時の急激な回動の抑止と、格納に要する操作力を低減する目的でスロープを格納状態に戻す方向に付勢力を発生させるためのトーションバーを開示する。
しかし、同公報に開示するトーションバーは、あくまでも、フロントスロープ板とリアスロープ板とが重なり合うように折り畳んだ状態で、車両に格納する方向に回動するのを補助するものである。
特許文献2には、スロープ部材を車室内側に折り畳んで収納する際に、テールゲード及びスロープ部材に対する閉じ操作力を補助するアシスト機構をテールゲート内に設けた技術を開示する。
しかし、同公報に開示する技術も、あくまでテールゲートが急激に回動するのを防止し、テールゲートを閉じる際の手動操作力の軽減にあり、スライドスロープの伸長が不充分であることを未然に防止するものではない。
【0006】
【特許文献1】特開2006−137320号公報
【特許文献2】特開2004−224086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、スライド式タイプの車両用スロープ装置であって、伸長展開が不充分な状態を容易に検出でき、スロープ装置が急勾配で使用されるのを未然に防止可能な安全性に優れた車両用スロープ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両用スロープ装置は、車体側に基端部を連結した第1スロープ部と第1スロープ部の展開側にスライド伸縮自在に連結した第2スロープ部とを備え、第1スロープ部は、基端部を回動中心とし、車体側に回動する方向にアシスト力(Mf)を付与するアシスト手段を有し、アシスト力(Mf)は、第2スロープ部を第1スロープ部にスライド収納した状態で水平方向展開時のスロープ部全体の重心(M1)による下降モーメントよりも大きく、第2スロープ部を第1スロープ部から最大伸長した際のスロープ部全体の重心(M2)による下降モーメントよりも小さいことを特徴とする。
【0009】
ここで第2スロープ部が第1スロープ部の展開側にスライド伸縮自在になっているとは、スロープ装置を車外側に展開する方向に第2スロープ部が第1スロープ部からスライド伸長するタイプのスロープ装置である趣旨をいい、本発明は、第2スロープ部がさらに複数のスロープ部に分割され、スライド伸長するものを含む。
本発明において、アシスト力(Mf)を第2スロープ部が第1スロープ部にスライド収納された状態の水平方向展開時の重心位置M1により生じる下降方向のモーメントよりも大きく設定したことにより、車室内側に格納された状態から、第2スロープを伸長せずに車外側に回動した状態では概念図を図1に示すように、先端部は地上GLより浮き上がったままの状態になる。
この状態から第2スロープを伸長すると重心が室外側に移動する。
図1に示すように第2スロープが最大伸長した際の重心M2の位置で生じる降下モーメントよりアシスト力が小さくなるように設定されているのでスロープ先端部は地上に接地する。
【0010】
従って、本発明は第2スロープの伸長によりスロープ部全体の重心が室外側に移動する作用を応用したものであるから、第2スロープ部は、第1スロープ部の展開側にスライド伸長することにより、スロープ部全体の重心が重心M1から重心M2まで連続的に変化する。
第2スロープ部の第1スロープ部からの伸長範囲は350mm〜1500mmの範囲に設定するのが好ましく、その場合に第2スロープが第1スロープに収納された際の重心M1から第2スロープが最も伸長した状態の重心M2の基端部回動中心からの距離が100mm以上、移動するのが好ましい。
【0011】
本発明において、アシスト手段は、上記作用が生じるものである限りにおいて自由に選定できる。
例えば、コイルスプリング、トーションスプリングであってもよく、ダンパー構造と引張構造を組み合せてもよい。
この場合に、アシスト手段を、スロープ装置に一体的に設けてあると、スロープ装置を車両に組み付ける際に、車両側の設計自由度が高くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明にあっては、スロープ部の伸長が不充分であると、車室内側に回動する方向のアシスト力にてスロープ先端が地上から浮き上がった状態になるので、目視で第2スロープ部の伸長が不充分であることが容易に認識でき、設定以上の急勾配での使用を未然に防止できる。
また、スロープ装置の展開に伴い、車両のリヤゲート(テールゲート)も展開するリヤゲート連結タイプのスロープ装置であっては、リヤゲートに設けられているバンパカバー等の意匠部品がスロープの急勾配により、地面等に当たり傷が付くのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。図2は、スロープ装置を搭載した車両の斜視図で、スロープ装置1を展開した状態を示しており、車体2の後部を開閉するドア3を開き車室内4に車椅子(図示せず)を積載するようになっている。
車室内4のフロア後端に車椅子3を出し入れ可能にするスロープ装置1は、図3に示すように未使用時には収納された状態で起立させることにより車室内4後側に搭載され、使用時には図2に示すようにスロープ装置1先端が地上に接しスロープ装置1全体の傾斜がゆるやかな形状になるように展開される。
【0014】
図4は、本発明に係る車両用スロープ装置の一実施形態を示した図である。
図4は、スロープ装置1が展開された状態を示している。
図4に示すように、スロープ装置1は、展開状態で隣り合う車両2側の第1スロープ部10と地上G側の第2スロープ部20の2つのスロープ部を有している。
【0015】
第1スロープ部10は、スロープ幅方向の両端部でスライド方向(スロープ装置1の展開方向)に延在する第1レール部材11と、スロープ幅方向に延在する地上側のフロア部材12、複数の中間部のフロア部材13、及び車両側のフロア部材14から構成されている。
同様に、第2スロープ部20は、スロープ幅方向の両端部でスライド方向に延在する第2レール部材21と、スロープ幅方向に延在する地上側のフロア部材22、複数の中間部のフロア部材23、及び車両側のフロア部材24から構成されている。
【0016】
第1スロープ部10に第2スロープ部20が収納された状態では、第1スロープ部10に構成されている2つの第1レール部材11の内側に、第2スロープ部20に構成されている2つの第2レール部材21が配置されている。
第1スロープ部のフロア部材12、13、14、及び第2スロープ部のフロア部材22、23、24のスロープ幅方向の両端部は、それぞれ第1レール部材11及び第2レール部材21の長手方向に延在する溝に嵌合されるとともに溶接又はビス止めにより固定されている。
これらのフロア部材(12〜14、22〜24)の表面上を車椅子等が移動可能となっており、第1レール部材11及び第2レール部材21は、車椅子の脱輪を防止するようになっている。
【0017】
第1レール部材11と第2レール部材21との間には、樹脂材からなる摺動部材が介在され、第1レール部材11と第2レール部材21とが摺動可能になっている。
この摺動部材は前後左右の4ヶ所に設けられ、スロープの両側において第1レール部材11の地上側端部及び第2レール部材21の車両側端部に固定されている。
第1レール部材11及び第2レール部材21は、それぞれアルミニウム合金の押出加工等により、前述した溝等の形状に成形されている。
【0018】
第1スロープ部10の両側の第1レール部材11の車両2側には、内側に突出したストッパ部が形成されており、第2スロープ部20の第1スロープ部10に対するスライド方向車両2側への移動を規制するようになっている。
つまり、第2スロープ部20の収納状態における過剰スライドを防止するストッパ機構となっている。
【0019】
また、第2スロープ20の車両2側のフロア部材24には、車両2側端部が下方へ突出することによる係合部が一体的に形成されている。
この係合部と、フロア部材12の係合部とが互いに係合することにより、第2スロープ部20の第1スロープ部10に対するスライド方向地上G側への移動を規制するようになっている。
つまり、第2スロープ部20の展開状態における過剰スライドを防止するストッパ機構となっている。
【0020】
第2スロープ部20の車両2側のフロア部材24には、車両側端部上方を傾斜させた傾斜部が形成されており、車椅子が通過する際の段差を低減するようになっている。
第2スロープ部20の地上側のフロア部材22には、地上側端部下方を傾斜させた傾斜部が形成されるとともに、第2スロープ部20を地上に下ろしたときは、フロア部材22の先端部27が地上Gと接するようになっている。
フロア部材22の裏面にはゴム材からなる緩衝部材が固定されており、第2スロープ部20を地上に下ろしたときの接地状態が良好となるようになっている。
【0021】
フロア部材22の車両側の端面には凸部が、フロア部材22に隣り合うフロア部材23の地上側の短面には凹部が形成されており、互いに嵌合するようになっている。
同様に、全てのフロア部材(12〜14、22〜24)の互いに対向する端面には、互いに嵌合するように凸部又は凹部が形成されている。
フロア部材(12〜14、22〜24)は、それぞれアルミニウム合金の押出加工等により、前述した形状に加えて、スロープ装置1の表面側に位置する面には、長手方向平行に延びる滑り止め用の突起部や中空部が一体的に成形されている。
【0022】
図4に示すように、第1スロープ部10の車両2側のフロア部材14と、車室内4のフロア後端に固定されているヒンジ43は、ピン(回動中心)42を中心として回動可能に接続されている。
ヒンジ43は、アルミニウム合金の押出加工等により、嵌合溝や中空部が一体的に成形されている。
第2スロープ部20の地上G側のフロア部材22には、スロープ幅方向の中央部に、ハンドル31が備えられている。
【0023】
図5にアシスト手段の例を示す。
車体2aと第1スロープ部10の裏面10aとの間にコイルスプリング50を配設してある。
コイルスプリング50は、スロープ装置1側に一体的に取り付けてあり、コイルスプリング50の一端50aを車体2a側に固定するだけで、アシスト力Mfが働くようになっている。
なお、アシスト手段はコイルスプリングの他にトーションスプリングや引張機構等でもよい。
本実施例においては、第2スロープ部20を第1スロープ部10に収納した状態でヒンジ43のピン42からスロープ部全体の重心M1までの距離を430mmに設定し、第2スロープ部20を最長に伸長させるとスロープ部全体の重心M2が車外側に連続的に移動し、ピン42からの距離が780mmになるように設定した。
従ってスロープ部全体の重量が15kgの場合にアシスト力(Mf)はM1(430mm)×15kg=64.5N・m以上で、M2(780mm)×15kg=117N・m未満に設定した。
アシスト力は、第2スロープ部が設定以上に伸長したらスロープの先端部が地上Gに接地するように設定するのが好ましく、必ずしも第2スロープ部の最大伸長に合せて設定する必要はない。
【0024】
本実施例は、第2スロープ部が1つの場合であるが、第2スロープ部をさらに複数に分割したスライド構造であっても同様に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明におけるアシスト力の設定方法を示す。
【図2】本発明に係る車両用スロープを展開した車両の斜視図である。
【図3】本発明に係る車両用スロープを収納した状態を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態における車両用スロープの展開状態の斜視図である。
【図5】アシスト手段の構造例を示す。
【図6】従来の車両用スロープの側面図であり、(a)はスロープ展開状態の図、(b)はスロープ収納状態で地上に下ろした図である。
【符号の説明】
【0026】
1 車両用スロープ装置
2 車両
4 車室内
10 第1スロープ部
11 第1レール部材
12、13、14 フロア部材
20 第2スロープ部
21 第2レール部材
22、23、24 フロア部材
27 端部(反車両側端部)
50 コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に基端部を連結した第1スロープ部と第1スロープ部の展開側にスライド伸縮自在に連結した第2スロープ部とを備え、
第1スロープ部は、基端部を回動中心とし、車体側に回動する方向にアシスト力(Mf)を付与するアシスト手段を有し、
アシスト力(Mf)は、第2スロープ部を第1スロープ部にスライド収納した状態で水平方向展開時のスロープ部全体の重心(M1)による下降モーメントよりも大きく、第2スロープ部を第1スロープ部から最大伸長した際のスロープ部全体の重心(M2)による下降モーメントよりも小さいことを特徴とする車両用スロープ装置。
【請求項2】
第2スロープ部は、第1スロープ部の展開側にスライド伸長することにより、スロープ部全体の重心が重心M1から重心M2まで連続的に変化するものであることを特徴とする請求項1記載の車両用スロープ装置。
【請求項3】
アシスト手段は、スロープ装置に一体的に設けてあることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用スロープ装置。
【請求項4】
第1スロープ部からの第2スロープ部の伸長範囲が350mm〜1500mmの範囲に設定してあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用スロープ装置。
【請求項5】
基端部の回動中心から、M1までの距離よりもM2までの距離の方が100mm以上大きいことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両用スロープ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−234530(P2009−234530A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86411(P2008−86411)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【特許番号】特許第4240515号(P4240515)
【特許公報発行日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)
【Fターム(参考)】