説明

車両用トルクロッド及びパワーユニットの支持構造

【課題】複数の共振モードが発生しても振動を低減させることができる。
【解決手段】トルクロッド23は、長手方向の一端部がモータユニット(パワーユニット)12に取り付けられる。トルクロッド本体24の長手方向の中間に錘部材200を設けると共に錘部材200の重さを適宜調整して、並進系の共振モードの共振周波数と回転系の共振モードの共振周波数とを十分に離すことで振動を低減させている。したがって、錘部材200を設けていない場合よりも、トルクロッド本体24の振動が低減し、NV性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用トルクロッド及びパワーユニットの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パワープラントの後方下部がトルクロッドを介してサスペンションクロスメンバに連結支持され、ロール慣性主軸の近傍に設けられた一対のマウント部材によって、主にパワープラントの振動を減衰させつつ、トルクロッドによってロール慣性主軸周りのパワープラントの振動を規制するパワープラント支持構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−274912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、車両用トルクロッドに複数の共振モードが発生する場合、トルクロッドの端部に防振マスや防振ゴムを取り付ける従来の方法では一部の共振モードの振動低減に留まっており、振動低減には改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、複数の共振モードが発生しても振動を低減させることができる車両用トルクロッド及びパワーユニットの支持構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の車両用トルクロッドは、長手方向の一端部がパワーユニットに取り付けられると共に長手方向の他端部がボデー側取付部に取り付けられ、前記パワーユニットを前記ボデー側取付部に連結支持するトルクロッド本体と、前記トルクロッド本体における前記長手方向の中間部に設けられた錘部材と、を備えている。
【0007】
請求項1に記載の本発明によれば、トルクロッドにはパワーユニットから伝達された振動によって複数の共振モードが発生する。複数の共振モードのうち並進系の共振モードの共振周波数は、トルクロッド本体の長手方向の中間部に設けられた錘部材によって、低周波側に変化する。しかし、複数の共振モードのうち回転系の共振モードの共振周波数は、トルクロッド本体の長手方向の中間部に錘部材に設けても余り変化しないか、又は殆ど変化しない。
【0008】
つまり、トルクロッド本体の長手方向中間部に錘部材を設けることで、回転系の共振モードの共振周波数を余り変化させることなく又は殆ど変化させることなく、並進系の共振モードの共振周波数を大きく変化させることができる。
【0009】
請求項2に記載の車両用トルクロッドは、請求項1に記載の構造において、前記トルクロッド本体は、前記錘部材に対しての前記トルクロッド本体の長手方向の一端部側又は他端部側に配置されると共に、車両衝突時に折れ曲がり変形の起点となる折部を有する。
【0010】
請求項2に記載の本発明によれば、トルクロッド本体における錘部材の長手方向の一端部側又は他端部側に折れ曲がり変形の起点となる折部を有している。したがって、錘部材が折れ曲がりを阻害することなく、トルクロッド本体が折部を起点として折れ曲がり変形する。そして、トルクロッド本体が折部を起点として折れ曲がり変形することで、車両衝突時の衝撃が効果的に吸収される。
【0011】
請求項3に記載の車両用トルクロッドは、請求項1又は請求項2に記載の構造において、前記トルクロッド本体は、折れ曲がり変形時に凸となる側が開口した断面U形状とされている。
【0012】
請求項3に記載の本発明によれば、トルクロッド本体は折部の凸となる側が開口した断面U形状とされているので、凸となる側が開口していない構成よりも、トルクロッド本体が折部を起点として容易に折れ曲がり変形する。よって、車両衝突時の衝撃吸収性能が向上する。
【0013】
請求項4に記載の車両用トルクロッドは、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の構造において、前記錘部材は凹部を有し、前記凹部に前記トルクロッド本体が挿入され固定されている。
【0014】
請求項4に記載の本発明によれば、錘部材の凹部をトルクロッド本体に挿入して固定することで、トルクロッド本体の中間部に錘部材が容易に設けられる。
【0015】
請求項5に記載のパワーユニットの支持構造は、車両のパワーユニットルーム内に収容されたパワーユニットの車両前後方向後側又は前側に配置されたボデー側取付部と、前記パワーユニットを前記ボデー側取付部に連結支持する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の車両用トルクロッドと、を備えている。
【0016】
請求項5に記載の本発明によれば、トルクロッドにはパワーユニットから伝達された振動によって複数の共振モードが発生する。そして、錘部材の重さを適宜調整し、並進系の共振モードの共振周波数と回転系の共振モードの共振周波数とを離すことで(分散させることで)、トルクロッド本体の振動が低減し、これによりNV性能が向上する。
【0017】
また、車両前面衝突時又は車両後面衝突時に、トルクロッド本体が折れ曲がり変形することで、車両衝突時の衝撃が吸収される。
【0018】
請求項6に記載のパワーユニットの支持構造は、請求項5に記載の構造において、前記パワーユニットは、駆動軸が駆動輪に連結されたドライブシャフトと同軸上に配置されている。
【0019】
請求項6に記載の本発明によれば、パワーユニットは、駆動軸がドライブシャフトと同軸上に配置された所謂単軸化された構成とされている。そして、このようにパワーユニットが単軸化されることで、このパワーユニットの車両前後方向後側又は前側のボデー側取付部との間のスペースを大きく確保することができる。よって、パワーユニットをボデー側取付部に連結支持する車両用トルクロッドのトルクロッド本体を長くすることができ、これによりトルクロッド本体の変形ストロークが確保されるので、車両衝突時の衝撃吸収性能が向上する。
【0020】
一方、トルクロッド本体を長くすると、並進系の共振モードの共振周波数と回転系の共振モードの共振周波数とが接近又は重なり振動が大きくなる傾向にある。つまり、トルクロッド本体を長くするとNV性能が悪化する傾向にある。しかし、トルクロッド本体における長手方向の中間部に錘部材を設け、並進系の共振モードの共振周波数と回転系の共振モードの共振周波数とを離すことで、トルクロッド本体の振動が低減し、NV性能が向上する。
【0021】
請求項7に記載のパワーユニットの支持構造は、前記トルクロッド本体は、前記錘部材に対しての前記トルクロッド本体の長手方向の一端部側又は他端部側に配置され車両衝突時に車両上下方向下側が凸となる折れ曲がり変形の起点となる折部を有すると共に、車両上下方向下側が開口した断面U形状とされ、前記錘部材は、凹部を有すると共に、車両上下方向下側が開口した状態で前記凹部が前記トルクロッド本体に挿入されて固定されている。
【0022】
請求項7に記載の本発明によれば、トルクロッド本体は折部を起点として折れ曲がり変形する。また、トルクロッド本体は、折れ曲がり変形時に凸となる側である車両上下方向下側が開口しているので、凸となる側が開口していない構成よりも、トルクロッド本体が折部を起点として容易に折れ曲がり変形する。よって、車両衝突時の衝撃吸収性能が向上する。
【0023】
また、トルクロッド本体及び錘部材はいずれも車両上下方向下側が開口しているので、車両上下方上側が開口した構成のように、例えば水や泥等が溜まることが防止され、水や泥等が溜まることよる錆や腐食等が防止される、
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載の発明によれば、並進系の共振モードの共振周波数と回転系の共振モードの共振周波数とを離すことで、トルクロッド本体の振動を低減させることができる。
【0025】
請求項2に記載の発明によれば、トルクロッド本体に折部を有しない構成と比較し、車両衝突時の衝撃を効果的に吸収させることができる。
【0026】
請求項3に記載の発明によれば、凸となる側が開口していない構成と比較し、車両衝突時の衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0027】
請求項4に記載の発明によれば、トルクロッド本体の中間部に錘部材を容易に設けることができる。
【0028】
請求項5に記載の発明によれば、並進系の共振モードの共振周波数と回転系の共振モードの共振周波数とを離すことでNV性能を向上させることができると共に、車両衝突時にトルクロッド本体が折れ曲がり変形することで衝撃を吸収することができる。
【0029】
請求項6に記載の発明によれば、衝突エネルギーの効果的な吸収とNV性能の向上とを両立させることができる。
【0030】
請求項7に記載の発明によれば、車両衝突時の衝撃吸収性能が向上すると共に、水や泥等が溜まることよる錆や腐食等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係るモータユニットの支持構造が適用された車両前部を模式的に示す側面図である。
【図2】図1に示されるモータユニット及びその周辺部を模式的に示す拡大斜視図である。
【図3】(A)は本発明の一実施形態に係るトルクロッドの拡大平面図であり、(B)はその側面図であり、(C)は(B)のC−C線断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るトルクロッドを示す拡大斜視図である。
【図5】(A)〜(F)は、図4に示すトルクロッドに発生する6種類の共振モードを説明する説明図である。
【図6】レシプロエンジンと図1に示すモータユニットとの大きさを比較するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。なお、各図において示される矢印UP、矢印FR、矢印OUTは、車両上下方向上側、車両前後方向前側、車両幅方向外側(右側)をそれぞれ示している。また、本実施形態の車両は、電気モータで駆動する所謂電気自動車とされている。
【0033】
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係るパワーユニットの支持構造10は、モータユニット12と、モータユニット12の車両前後方向後側に配置されたサスペンションメンバリア84と、モータユニット12をサスペンションメンバリア84に連結支持するトルクロッド23と、を含んでいる。
【0034】
本実施形態では、モータユニット12は、前輪駆動用であり、車両前部に形成されたモータルーム(パワーユニットルーム)26内に収容されている。このモータユニット12は、図2に示されるように、電気モータ28と、トランスアクスル30と、電気モータ28を収容しトランスアクスル30と一体化されたモータケース32と、を備えている。また、電気モータ28は、車両幅方向を軸方向として配置された駆動軸(出力軸)34を有している。
【0035】
トランスアクスル30は、太陽歯車36、ピニオンギア38、内歯歯車40、遊星歯車42、及び、ディファレンシャルギア44を備えている。太陽歯車36は、駆動軸34における軸方向中間部に設けられており、ピニオンギア38は、太陽歯車36と噛合されている。このピニオンギア38は、駆動軸34と平行に設けられた公転軸46の一端部に設けられており、この駆動軸34及び公転軸46は、内歯歯車40の内側に挿通されている。
【0036】
内歯歯車40は、駆動軸34と同軸上に配置されており、公転軸46の軸方向中間部に設けられた遊星歯車42と噛合されている。ディファレンシャルギア44は、三つのピニオンギア48,50,52を備えており、ピニオンギア48は、駆動軸34の一端部に設けられ、ピニオンギア50は、一方のドライブシャフト54の一端部に設けられている。ドライブシャフト54は、駆動軸34と同軸上に配置されており、一方の前輪(駆動輪)56と連結されている。
【0037】
公転軸46の他端部には、駆動軸34の延長線と交差するように折り曲げられた折曲部58が形成されており、この折曲部58の先端部にピニオンギア52が固定されている。そして、このピニオンギア52は、ピニオンギア48,50とそれぞれ噛合されている。また、駆動軸34の他端部には、この駆動軸34と同軸上に配置された他方のドライブシャフト60が一体に形成されており、このドライブシャフト60は、他方の前輪(駆動輪)62と連結されている。
【0038】
このように、上述のモータユニット12は、駆動軸(出力軸)34がドライブシャフト54,60と同軸上に配置された、所謂、単軸化された構成とされている。
【0039】
また、図1に示されるように、このモータユニット12は、後述する如くフロントサイドメンバ16に形成された第一水平部74にクロスメンバ18が固定され、そのクロスメンバ18にモータマウント64を介して固定されている。このモータマウント64は、より具体的には、モータユニット12に固定されたマウント本体66と、このマウント本体66に支持されたゴム製のブッシュ68と、このブッシュ68と第一水平部74とを連結するブラケット70とを備えている。
【0040】
クロスメンバ18は、モータユニット12の車両上側に配置されており、車両幅方向に延在されている。このクロスメンバ18の車両幅方向外側の端部は、第一水平部74の後部と結合されている。このクロスメンバ18の車両上側には、モータユニット12(電気モータ28)に電力を供給する高電圧部品とされたインバータ20が配置されている。
【0041】
また、モータユニット12の車両前側には、ラジエータ72(クーリングモジュール)が配置されている。このラジエータ72は、フロントサイドメンバ16(第一水平部74)や、後述するサスペンションメンバフロント80よりも車両前側に配置されている。このラジエータ72は、車両前後方向を厚み方向として車両上下方向及び車両幅方向に延びる扁平箱状に形成されている。
【0042】
このラジエータ72の下端部72Aの車両上下方向の配置位置は、モータユニット12の上端部12Aと下端部12Bとの間とされており、このラジエータ72の上端部72Bの車両上下方向の配置位置は、インバータ20の上端部20Aよりも車両上側とされている。
【0043】
空気コンプレッサ14は、図示しない空調ユニットの本体部に圧縮空気を供給するためのものであり、モータユニット12の車両後側に一体に取り付けられている。なお、この空気コンプレッサ14は、図示しない燃料電池に圧縮空気を供給するためのものでもよい。
【0044】
フロントサイドメンバ16は、モータユニット12の車両幅方向外側に配置されており、車両前後方向に延在されている。なお、図1では、片側のフロントサイドメンバ16のみが図示されているが、フロントサイドメンバ16は、モータユニット12の車両幅方向両側にそれぞれ配置されている。
【0045】
このフロントサイドメンバ16は、車両前後方向に延びる第一水平部74と、第一水平部74の車両後側に形成され車両後側に向かうに従って車両下側に向かうように傾斜する傾斜部76と、傾斜部76の車両後側に形成され車両前後方向に延びる第二水平部78と、を有している。
【0046】
前述したクロスメンバ18の車両前後方向の配置位置は、モータユニット12の前端部12Cと後端部12Dとの間とされており、インバータ20の車両前後方向の配置位置は、クロスメンバ18の前端部18Aと後端部18Bとの間とされている。つまり、クロスメンバ18における車両前後方向の全体は、モータユニット12における前端部12Cと後端部12Dとの間の中間部分と車両前後方向にオーバラップされている。一方、インバータ20における車両前後方向の全体は、クロスメンバ18における前端部18Aと後端部18Bとの間の中間部分と車両前後方向にオーバラップされている。
【0047】
なお、図1において、長さL1は、インバータ20における車両前後方向の全長を示しており、長さL2は、クロスメンバ18における車両前後方向の全長を示している。また、長さL3は、モータユニット12における車両前後方向の全長を示している。長さL3は、長さL2よりも長く、長さL2は、長さL1よりも長くなっている(L1<L2<L3)。
【0048】
サスペンションメンバ22は、フロントサイドメンバ16の車両下側に配置されている。このサスペンションメンバ22は、車両幅方向に延びてサスペンションメンバ22の前部を構成するサスペンションメンバフロント80と、車両前後方向に延びてサスペンションメンバ22の側部を構成するサスペンションメンバサイドレール82と、車両幅方向に延びてサスペンションメンバ22の後部を構成するサスペンションメンバリア84とを備えている。
【0049】
サスペンションメンバフロント80は、モータユニット12の下部の車両前側に配置されており、サスペンションメンバサイドレール82は、モータユニット12の下部の車両幅方向外側に配置されている。なお、図1では、片側のサスペンションメンバサイドレール82のみが図示されているが、サスペンションメンバサイドレール82は、サスペンションメンバ22の両側の側部にそれぞれ備えられている。
【0050】
サスペンションメンバリア84は、モータユニット12の下部の車両後側に配置されており、上壁部86、下壁部88、及び、後壁部90を有する断面C字状に形成されている。
【0051】
また、サスペンションメンバフロント80における車両幅方向外側の端部は、車両上下方向に延びるブラケット92を介して第一水平部74の前部に固定されており、サスペンションメンバリア84における車両幅方向外側の端部は、車両上下方向に延びるブラケット94を介して第二水平部78の車両前後方向中間部に固定されている。このサスペンションメンバリア84の車両後側には、車両上下方向に延びてモータルーム26と車室27とを区画するダッシュパネル91が配置されている。
【0052】
また、サスペンションメンバサイドレール82の後部よりも車両前側の部分は、車両前後方向に延びる水平部96とされており、サスペンションメンバサイドレール82の後部は、車両後側に向かうに従って車両上側に向かうように傾斜する傾斜部98とされている。そして、この傾斜部98の傾斜に対応してサスペンションメンバリア84も傾斜されており、これにより、サスペンションメンバリア84の車両前側の開口部100は、車両前側且つ車両下側に向けて開口されている。
【0053】
前述したように、トルクロッド23は、長手方向が車両前後方向に沿って配置され、モータユニット12をサスペンションメンバリア(ボデー側取付部)84に連結支持している。
【0054】
図3及び図4に示すように、トルクロッド23は、トルクロッド本体24と、トルクロッド本体24の長手方向の中間部に設けられた錘部材200と、を含んで構成されている。
【0055】
トルクロッド本体24の前端部24Aは、車両幅方向を貫通方向とする円筒状とされ、内部にゴム製のブッシュ102及び車両幅方向を軸方向とする軸部103が貫通している。また、トルクロッド本体24の後端部24Bは、車両上下方向を貫通方向とする円筒状とされ、内部にゴム製のブッシュ106及び車両上下方向を軸方向とする軸部108が設けられている。なお、本実施形態では、前端部24Aの円筒の直径よりも、後端部24Bの円筒の直径の方が大きい。
【0056】
そして、図1に示すように、トルクロッド本体24の前端部24Aの軸部103の軸方向両端部が、ブラケット104を介してモータユニット12の後面下端部に固定されている。また、トルクロッド本体24の後端部24Bは、開口部100を通じてサスペンションメンバリア84の内側に収容されており、軸部108の軸方向両端部が上壁部86及び下壁部88にそれぞれ固定されている。
【0057】
また、トルクロッド本体24における長手方向(軸方向、車両前後方向)の中間部よりも車両前後方向後側に、折部112が形成されている(図3(B)及び図4を参照)。また、本実施形態においては、折部112は、上述のサスペンションメンバサイドレール82における水平部96と傾斜部98との間の屈曲部110に対応した位置に形成されている。そして、この折部112は、車両前後方向前側からトルクロッド23に衝突荷重が入力された場合に、トルクロッド本体24の車両上下方向下側への折れ曲がり変形の起点となるものであり、車両上下方向下側に凸を成すように屈曲されている。
【0058】
図3及び図4に示すように、トルクロッド本体24における折部112よりも車両前後方向前側の部分は、車両前後方向に延びる水平部114とされており、このトルクロッド本体24における折部112よりも車両前後方向後側の部分は、車両前後方向後側に向かうに従って車両上下方向上側に向かう傾斜部116とされている。
【0059】
また、トルクロッド本体24における前端部24Aと後端部24Bとの間の本体部24Cは、図3(C)に示されるように、車両幅方向に対向する一対の側壁部118,120と、この一対の側壁部118,120の上端部を連結する上壁部122とを有する断面逆U字状に形成されている。つまり、トルクロッド本体24の本体部24Cは、車両上下方向下側が開口した断面U字形状とされている。なお、本体部24Cは、その長手方向の全長に亘って一定の断面で構成されている。
【0060】
図3及び図4に示すように、トルクロッド本体24の水平部114の折部112の車両前後方向前側近傍に錘部材200が設けられている。錘部材200はトルクロッド本体24における長手方向(軸方向、車両前後方向)の中間部に配置されている。
【0061】
別の観点から説明すると、長手方向(軸方向、車両前後方向)に沿った縦断面におけるトルクロッド本体24(の本体部24C)の図芯(重心)又はその近傍に錘部材200が配置されている。更に、本実施形態では、トルククロッド本体24(本端部24)の長手方向(軸方向、車両前後方向)の図芯(重心)と錘部材200との図芯(重心)とが一致又は略一致するように設定されている。
【0062】
図3(C)に示すように、錘部材200は、複数の板状のマスダンパー202が、トルクロッド本体24の長手方向に重ねられることで構成されている。各マスダンパー202は、長手方向に見た全体の外形が横長の略八角形状とされている。また、マスダンパー202には、車両上下方向下側、言い換えるとトルクロッド本体24の開口側と同じ側が開口した略矩形状の凹部204が形成されている。そして、各マスダンパー202を車両上下方向上側から凹部204をトルクロッド本体24に差し込むようにして取り付け、溶接接合することで、各マスダンパー202(錘部材200)がトルクロッド本体24に固定されている。
【0063】
また、本実施形態では、長手方向と直交する断面におけるトルクロッド本体24の図芯(重心)位置と、錘部材200の図芯(重心)位置と、が一致又は略一致するように設定されている。なお、これら図芯(重心)位置が点Gで示されている。
【0064】
<作用及び効果>
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0065】
トルクロッド23を構成するトルクロッド本体24は、折れ曲がり変形の起点となる折部112を有している。従って、車両に前面衝突が生じた場合には、トルクロッド23(トルクロッド本体24)が折部112を起点として、車両上下方向下側に凸を成すように折れ曲がり変形するので、これにより、トルクロッド23の車両前面衝突時の衝撃吸収性能が向上する。
【0066】
なお、錘部材200は、折部112よりも車両前後方向前側に設けられているので、錘部材200は折れ曲がり曲がり変形を阻害しない。
【0067】
また、トルクロッド23のトルクロッド本体24は、凸となる側(車両上下方向下側)が開口した断面U形状とされている。よって、凸となる側が開口していない構成よりも、トルクロッド本体24が容易に折れ曲がり変形するので、車両衝突時の衝撃吸収性能が向上する。
【0068】
なお、折部112は凸となる側が車両上下方向下側となるように設定し、トルクロッド本体24及び錘部材200は、凸なる車両上下方向下側を開口させている。よって、例えば、トルクロッド本体24や錘部材200に水や泥等が溜まることが防止されるので、水や泥等が溜まることよる錆や腐食等が防止される、
【0069】
また、前輪駆動用のモータユニット12は、図2に示すように、駆動軸(出力軸)34がドライブシャフト54,60と同軸上に配置された所謂単軸化された構成とされている。このようにモータユニット12が単軸化されることで、図1に示すように、このモータユニット12の車両前後方向後側にスペース124が確保されている。そして、トルクロッド23は、モータユニット12が単軸化されることでモータユニット12の車両前後方向後側に確保されたスペース124に配置されているので、車両前後方向の長さが十分に確保される。
【0070】
更に、本実施形態では、モータユニット12がフロントサイドメンバ16における第一水平部74に固定されたクロスメンバ18にモータマウント64を介して固定されている共に、サスペンションメンバリア84がフロントサイドメンバ16における第二水平部78に固定されている。よって、例えば、モータユニット12又はサスペンションメンバリア84が、フロントサイドメンバ16における傾斜部76に固定されている構成と比較して、モータユニット12とサスペンションメンババリア84とを連結するトルクロッド23の長さが、より長く確保される。
【0071】
このように、トルクロッド23(トルクロッド本体24)を長手方向に長くすることで、変形ストロークが大きく確保されるので、車両前面衝突時の衝撃を効率良く吸収することができる。つまり、本実施形態のトルクロッド23は、長手方向に長くすることで衝撃吸収性能(衝撃緩和性能)を向上させている。
【0072】
ここで、トルクロッド23には、モータユニット12(電気モータ28)の振動、トランスアクスル30の各種ギアのギアノイズ、及び空気コンプレッサ14の脈動振動等が伝達される。これら伝達された振動によって、トルクロッド23には複数の共振モードが発生する。
【0073】
具体的には、本実施形態のトルクロッド23には、図5(A)〜図5(F)に示す6種類の共振モードが存在する。なお、図5の各図は全て同じ図であり、しかも図4と大きさが異なるだけで同じである。よって、図が煩雑になるのを避けるため、図5(A)に最小限の符号のみを付し、他の図には符号を付していない。
【0074】
図5(A)は、後端部24Bが車両上下方向に変位する上下変位の共振モードである。
図5(B)は、前端部24Aが車両幅方向に変位する左右変位の共振モードである。
図5(C)は、長手方向に沿った軸を回転軸として回転する回転変位(ピッチ)の共振モードである。
図5(D)は、中間部(錘部材200)を通る車両上下方向に沿った軸を回転軸として回転する回転変位(ヨー)の共振モードである。
図5(E)は、長手方向に沿った方向に変位する前後変位の共振モードである。
図5(F)は、中間部(錘部材200)を通る車両幅方向に沿った軸を回転軸として回転する回転変位(ロール)の共振モードである。
【0075】
これら合計6種類の共振モードのうち、(A)、(B)、(E)の三つは並進系の共振モードであり、(C)、(D)、(F)の三つは回転系の共振モードである。
【0076】
トルクロッド本体を長手方向に長くすると、並進系の共振モードの共振周波数と回転系の共振モードの共振周波数とが接近又は重なり、振動が大きくなる傾向にある、つまり、トルクロッド本体を長くするとNV性能が悪化する傾向にある。
【0077】
しかし、本実施形態のトルクロッド23では、トルクロッド本体24の長手方向の中間部に錘部材200を設けている。そして、上述した複数の共振モードのうち並進系の共振モードの共振周波数は、トルクロッド本体24の長手方向中間部に設けた錘部材200によって、錘部材200を設けていない場合と比較し、低周波側に変化する。しかし、複数の共振モードのうち回転系の共振モードの共振周波数はトルクロッド本体24の長手方向中間部に錘部材200に設けてもあまり変化しないか、又は殆ど変化しない(変化が小さい)。
【0078】
つまり、トルクロッド本体24の長手方向の中間部に錘部材200を設けることで、回転系の共振モードの共振周波数を余り変化させることなく(又は殆ど変化させることなく)、並進系の共振モードの共振周波数を大きく変化させることができる。
【0079】
よって、本実施形態のトルクロッド23では、錘部材200をトルクロッド本体24の長手方向の中間部に錘部材200を設けると共に錘部材200の重さを適宜調整して、並進系の共振モードの共振周波数と回転系の共振モードの共振周波数とを十分に離すことで(分散させることで)振動を低減させている。したがって、錘部材200を設けていない場合よりも、トルクロッド本体24の振動が低減し、NV性能が向上する。
【0080】
なお、本実施形態では、錘部材200の重さは、マスダンパー202の枚数によって容易に調整することがきる。
【0081】
このように、本実実施形態のパワーユニットの支持構造によれば、衝突エネルギーの効果的な吸収とNV性能の向上とを両立させることができる。
【0082】
ここで、本実施形態の車両は、電気モータ28で駆動する電気自動車とされている。図6に示すように、電気モータ28を有するモータユニット12は、レシプロエンジン500と比べ、ユニット体格が小さい。
【0083】
よって、レシプロエンジン500で駆動するエンジン自動車のボデーをベースに、モータユニット12(電気モータ28)で駆動するようにした電気自動車の場合、レシプロエンジン500と同じボデー側取付部502にトルクロッドを取り付けると、トルクロッドが長くなる(図中のL4(エンジン側取付部503とボデー側取付部502との距離)とL5(ブラケット(モータ側取付部)104とボデー側取付部502との距離)を比較参照)。上述したように、トルクロッドが長くなると、衝撃吸収性能は向上するが、NV性能は悪化する傾向にあるが、本発明を適用することでNV性能を向上させることができる。
【0084】
したがって、レシプロエンジン500で駆動するエンジン自動車のボデーをベースにした電気自動車であっても、NV性能を向上させることができる。或いは、エンジン自動車と電気自動車とで共通のボデーを使用することが可能となる。
【0085】
<その他>
なお、本発明は、上記一実施形態に限定されるものではない。
【0086】
例えば、上記実施形態では、折部112は、車両上下方向下側に凸を成す屈曲形状とされていたが、車両前側からトルクロッド23(トルクロッド本体24)に衝突荷重が入力された場合にトルクロッド本体24の折れ曲がり変形の起点となるものであれば、その他の形状や構成(例えば、切欠き形状、ビード形状、孔形状等)であってもよい。また、トルクロッド本体24の折れ曲がり方向(凸となる側)は、車両上下方向下側以外の方向であってもよい。
【0087】
また、折部112は、錘部材200の車両前後方後側に設けられていたが、これに限定されない。錘部材200の車両前後方前側に折部112が設けられていてもよい。
【0088】
また、例えば、上記実施形態では、モータユニット12は、前輪駆動用であり、車両前部に形成されたモータルーム26内に収容されていたが、これに限定されない。モータユニット12は、後輪駆動用であってもよいし、車両後部に形成されたモータルーム内に収容されていてもよい。
【0089】
また、例えば、上記実施形態では、トルクロッド23の他端部は、サスペンションメンバリア84に固定されていたが、これに限定されない。車両のボデーであればどこに固定されていてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、トルクロッド23は車両前後方向を長手方向として配置されていたが、これに限定されない。例えば、車両幅方向を長手方向として配置されていてもよい。
【0091】
また、例えば、上記実施形態では、パワーユニットは、電気モータ28を有するモータユニット12であったが、これに限定されない。例えば、パワーユニットはレシプロエンジンであってもよい。また、異なる2つ以上の動力源を持つ所謂ハイブリッド自動車に本発明を適用してもよい。
【0092】
更に、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0093】
10 パワーユニットの支持構造
12 モータユニット(パワーユニット)
23 トルクロッド(車両用トルクロッド)
24 トルクロッド本体
26 モータルーム(パワーユニットルーム)
34 駆動軸
54 ドライブシャフト
56 前輪(駆動輪)
60 ドライブシャフト
62 前輪(駆動輪)
84 サスペンションメンバリア(ボデー側取付部)
112 折部
200 錘部材
204 凹部
502 ボデー側取付部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の一端部がパワーユニットに取り付けられると共に長手方向の他端部がボデー側取付部に取り付けられ、前記パワーユニットを前記ボデー側取付部に連結支持するトルクロッド本体と、
前記トルクロッド本体における前記長手方向の中間部に設けられた錘部材と、
を備えた車両用トルクロッド。
【請求項2】
前記トルクロッド本体は、前記錘部材に対しての前記トルクロッド本体の長手方向の一端部側又は他端部側に配置されると共に、車両衝突時に折れ曲がり変形の起点となる折部を有する、
請求項1に記載の車両用トルクロッド。
【請求項3】
前記トルクロッド本体は、折れ曲がり変形時に凸となる側が開口した断面U形状とされている、
請求項2に記載の車両用トルクロッド。
【請求項4】
前記錘部材は凹部を有し、前記凹部に前記トルクロッド本体が挿入され固定されている、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の車両用トルクロッド。
【請求項5】
車両のパワーユニットルーム内に収容されたパワーユニットの車両前後方向後側又は前側に配置されたボデー側取付部と、
前記パワーユニットを前記ボデー側取付部に連結支持する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の車両用トルクロッドと、
を備えるパワーユニットの支持構造。
【請求項6】
前記パワーユニットは、駆動軸が駆動輪に連結されたドライブシャフトと同軸上に配置されている、
請求項5に記載のパワーユニットの支持構造。
【請求項7】
前記トルクロッド本体は、前記錘部材に対しての前記トルクロッド本体の長手方向の一端部側又は他端部側に配置され車両衝突時に車両上下方向下側が凸となる折れ曲がり変形の起点となる折部を有すると共に、車両上下方向下側が開口した断面U形状とされ、
前記錘部材は、凹部を有すると共に、車両上下方向下側が開口した状態で前記凹部が前記トルクロッド本体に挿入されて固定されている、
請求項5又は請求項6に記載のパワーユニットの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112042(P2013−112042A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257459(P2011−257459)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】