説明

車両用ドアトリム

【課題】トリムボードの表面から車室外側への熱移動を抑制することが可能な車両用ドアトリムを提供する。
【解決手段】トリムボード20を備え、トリムボード20の下端部には、車室外側に向けて低い段差状をなす段差部21が車両前後方向に延びる形で形成され、段差部21の内面のうち下方を向く面は、車室内側に向かうにつれて、下降傾斜する傾斜面22Aとされ、傾斜面22Aの水平面に対する傾斜角度は、車両後側に向かうにつれて次第に小さくなり、トリムボード20には、段差部21の内部空間S1を車両後側から塞ぐ後壁部130が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドアトリムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ドアトリムとして、下記特許文献1のものが知られている。特許文献1のものでは、車両の前部に設けられた空調装置から吹き出す空気(温風)がトリムボード(インナトリムパネル)に達し、その表面上を流れる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−43922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、トリムボードの表面を流れる空気の流速が大きいと、当該表面から車室外側に熱が逃げやすくなることが知られている。これは、空気の流速が大きくなることで、トリムボードの表面を覆う形で形成された空気層(境界層)が剥離してしまう結果、断熱効果が低下するためと考えられている。トリムボードの表面から車室外側に熱が逃げやすくなると室内の温度が低下する事態が懸念される。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、トリムボードの表面から車室外側への熱移動を抑制することが可能な車両用ドアトリムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両用ドアトリムは、トリムボードを備え、前記トリムボードの下端部には、車室外側に向けて低い段差状をなす段差部が車両前後方向に延びる形で形成され、前記段差部の内面のうち下方を向く面は、車室内側に向かうにつれて下降傾斜する傾斜面とされることに特徴を有する。
【0007】
本発明において、例えば、車室内の前部に設けられた空調装置などから吹き出した空気(例えば、温風)は、主に車両前方からトリムボードの段差部内に進入する。段差部内に進入した空気は、段差部内から車室内側及び上方に流れ、その後、トリムボードの表面に沿って上昇する。
【0008】
本発明において、段差部の内面のうち下方を向く面は、段差部内の空間(段差部の内面に囲まれた空間)、ひいては、この空間内に進入した空気(温風)を上方から覆う面となる。この下方を向く面は、車室内側に向かうにつれて、下降傾斜する傾斜面とされる。このような構成とすれば、下方を向く面が上昇傾斜する構成と比較して、段差部内から車室内側及び上方へ向かう空気の流れが妨げられる。
【0009】
これにより、段差部からトリムボードの表面に沿って上方に流れる空気の流速を低下させることができる。この結果、トリムボードの表面から車室外側への熱移動を抑制でき、車室内の温度が低下する事態を抑制できる。
【0010】
上記構成において、前記傾斜面の水平面に対する傾斜角度は、車両後側に向かうにつれて次第に小さくなるものとすることができる。
【0011】
このような構成とすれば、傾斜面の水平面に対する傾斜角度が相対的に大きい車両前側では、段差部内の空気を上方に逃がしにくくなる。一方、傾斜面の水平面に対する傾斜角度が相対的に小さい車両後側では、段差部内の空気を上方に逃がしやすくなる。これにより、例えば、温風が車両前方から段差部内に進入した場合には、温風がトリムボードにおける車両後側に届きやすくなる。一般的に、車両における着座者は、トリムボードにおける車両後部付近に着座する場合が多いため、温風が乗客に届きやすく好適である。
【0012】
また、前記トリムボードには、前記段差部の内部空間を車両後側から塞ぐ後壁部が形成されているものとすることができる。
【0013】
段差部の内部空間を車両後側から塞ぐ後壁部を備えることで、当該内部空間に進入した空気(温風)が車両後方に抜ける事態を抑制できる。これにより、内部空間に進入した空気をトリムボードの形成範囲内に滞留させやすくなり、トリムボード付近の温度低下を抑制できる。また、トリムボードを車両後方から視た場合には、後壁部によって段差部が隠蔽されることとなり、意匠性をより高くすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、トリムボードの表面から車室外側への熱移動を抑制することが可能な車両用ドアトリムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態1に係るドアトリムを示す正面図
【図2】図1のドアトリムを示す断面図(図1のA−A線で切断した図に対応)
【図3】図1のドアトリムを示す断面図(図1のB−B線で切断した図に対応)
【図4】図1のドアトリムを示す断面図(図1のC−C線で切断した図に対応)
【図5】比較例を示す図
【図6】本発明の実施形態2に係るドアトリムを示す正面図
【図7】図6のドアトリムを示す断面図(図6のD−D線で切断した図に対応)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図5によって説明する。図1は、本実施形態のドアトリム10(車両用ドアトリム)を示す正面図である。本実施形態のドアトリム10は、図1に示すように、トリムボード20、アームレスト13、オーナメント14、インサイドハンドル(図示せず)などを備えている。
【0017】
トリムボード20は、図2に示すように、ドアパネルを構成するインナパネル15に対して車室内側(図2の右側)から取り付けられている。トリムボード20の下端部には、図2に示すように、車室外側(図2の左側)に向けて低い段差状をなす段差部21が形成されている。言い換えると、トリムボード20の下端は、その上部に比して車室外側に低いものとされる。
【0018】
この段差部21内には、例えば、車室内の前部(例えば、インストルメントパネル)に設けられた空調装置(図示せず)から吹き出す空気(例えば、温風)が車両前方から進入する。なお、図1においては、このような空気の流れを矢線F1で示す。
【0019】
段差部21は、図1に示すように、車両前後方向に延びる形で形成されている。図2に示すように、段差部21の内面は、車室内側(図2の右側)に向かうにつれて下降傾斜する傾斜面22Aと、車室内側を向き、トリムボード20の表面20A(段差部21の上方の表面)よりも車室外側に低い車室内側面23Aとから構成されている。つまり、段差部21は、傾斜面22Aを有する傾斜壁部22と、車室内側面23Aを有する下端壁部23を備えている。なお、図1においては傾斜面22Aと車室内側面23Aとの連結部分24を破線で図示してある。
【0020】
段差部21における傾斜面22Aは、段差部21の内面(段差部21を構成する面)のうち、下方を向く面とされる。上述したように、段差部21内の空間(傾斜面22A及び車室内側面23Aに囲まれた空間)は、空調装置から吹き出す空気が流通可能な流路とされる。言い換えると、傾斜面22Aは、段差部21内の空間を上方から覆う面とされる。
【0021】
本実施形態においては、図2及び図3に示すように、傾斜面22Aの水平面に対する傾斜角度d1,d2が、車両後側に向かうにつれて次第に小さくなるものとされる。一方、傾斜面22Aにおける車室外側の端部22Dは、段差部21の全長に亘って同じ高さに配されている。なお、図2においては、トリムボード20の車両前端部における傾斜面22Aの水平面に対する傾斜角度d1を図示してある。また、図3においては、トリムボード20の車両前後方向における中間部における傾斜面22Aの水平面に対する傾斜角度d2を図示してある。
【0022】
このため、傾斜面22Aと車室内側面23Aとの連結部分24は、図1に示すように、車両後方に向かうにつれて下降傾斜するものとされる。また、段差部21内の空間は、車両後側に向かうにつれて、その断面積が小さくなるものとされる。なお、図4に示すように、車両後端部においては、段差部21の内面のうち下方を向く面25は、車室内側に向かうにつれて上昇傾斜する面とされる。
【0023】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。本実施形態のドアトリム10は、トリムボード20を備え、トリムボード20の下端部には、車室外側に向けて低い段差状をなす段差部21が車両前後方向に延びる形で形成され、段差部21の内面のうち下方を向く面は、車室内側に向かうにつれて、下降傾斜する傾斜面22Aとされる。
【0024】
本実施形態においては、車室内の前部に設けられた空調装置(図示せず)から吹き出した空気(例えば、温風)が、主に車両前方から段差部21内に進入する。段差部21内に進入した空気(温風)は、図2及び図3に示すように、段差部21内から車室内側及び上方に流れ、その後、トリムボード20の表面20Aに沿って上昇する。
【0025】
ここで、段差部21の内面のうち下方を向く面は、段差部21内の空間(段差部の傾斜面22A及び車室内側面23A)に囲まれた空間)に進入した空気(温風)を上方から覆う面となる。そして、この下方を向く面は、車室内側に向かうにつれて下降傾斜する傾斜面22Aとされる。このような構成とすれば、下方を向く面が上昇傾斜する構成と比較して、段差部21内から車室内側及び上方へ向かう空気の流れを妨げることができる。
【0026】
具体的に説明すると、段差部21内において車室内側面23Aに沿う形で上昇する空気(図2の矢線F2)は、下降傾斜する傾斜面22Aによって、その流れが妨げられる。また、車室内側面23Aに沿う形で上昇した空気は、下降傾斜する傾斜面22Aに沿って車室外側に向かうこととなる。これにより、下方への空気の流れ(図2の矢線F3)が生じることで、車室内側面23Aに沿って上昇する空気の流れが妨げられる。
【0027】
仮に、図5の比較例にて示すように、段差部21の内面のうち下方を向く面2Aが、車両前後方向の全長に亘って上昇傾斜している構成の場合、段差部21内の空気は、上昇傾斜する面2Aに沿って比較的滑らかに上方に流れることとなる(空気の流れを図5の矢線F5で示す)。
【0028】
これに対して、本実施形態では、段差部21からトリムボード20の表面20Aに沿って上方に流れる空気(図2の矢線F4)の流速を低下させることができる。この結果、トリムボード20の表面20Aから車室外側への熱移動を抑制でき、車室内の温度が低下する事態を抑制できる。
【0029】
また、傾斜面22Aの水平面に対する傾斜角度d1(又はd2)は、車両後側に向かうにつれて次第に小さくなるものとされる。
【0030】
このような構成とすれば、段差部21内から上昇する空気の流れを車両前後方向において制御することができる。具体的には、傾斜面22Aの水平面に対する傾斜角度が相対的に大きい車両前側では、段差部21内の空気を上方に逃がしにくくなる。一方、傾斜面22Aの水平面に対する傾斜角度が相対的に小さい車両後側では、段差部21内の空気を上方に逃がしやすくなる。
【0031】
これにより、例えば、温風が車両前方から段差部21内に進入した場合には、温風がトリムボード20における車両後側に届きやすくなる。一般的に、車両における着座者は、トリムボード20における車両後部付近に着座する場合が多いため、温風が乗客に届きやすく好適である。
【0032】
また、段差部21は、トリムボード20の下端に形成されているため、意匠性を損ねることがなく好適である。
【0033】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図6ないし図7によって説明する。上記実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複する説明を省略する。本実施形態のドアトリム110においては、トリムボード20における段差部121の構成が上記実施形態と相違する。
【0034】
本実施形態においては、図7に示すように、段差部121における傾斜面22Aの水平面に対する傾斜角度d3が、車両前後方向に亘って同じ角度とされる。また、傾斜面22Aと車室内側面23Aとの連結部分124は、図6に示すように、車両前後方向に亘って、同じ高さに配されている。そして、トリムボード20には、段差部121の内部空間S1を車両後側から塞ぐ後壁部130が形成されている。
【0035】
段差部121の内部空間S1を車両後側から塞ぐ後壁部130を備えることで、内部空間S1(段差部121内)に進入した空気(温風、図6の矢線F6)が車両後方に抜ける事態を抑制できる。これにより、内部空間S1に進入した空気をトリムボード20の形成範囲内(段差部121内)に滞留させやすくなり、トリムボード20付近の温度低下を抑制できる。また、乗客がトリムボード20を車両後方から視た場合には、後壁部130によって段差部121が隠蔽されることとなり、意匠性をより高くすることができる。
【0036】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
(1)段差部の構成は、上記実施形態で例示したものに限定されない。段差部は、トリムボードの車両前後方向において、その一部のみに形成されていてもよい。また、上記実施形態における後壁部130を備えていなくてもよい。つまり、段差部がトリムボードの車両前後方向における全長に亘って延びている構成であってもよい。
【0038】
(2)傾斜面22Aの傾斜角度は、上記実施形態で例示したものに限定されない。傾斜面22Aは、車室内側に向かうにつれて下降傾斜するものであればよく、その傾斜角度は、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0039】
10…車両用ドアトリム、20…トリムボード、21,121…段差部、22A…傾斜面、130…後壁部、d1,d2…傾斜面の水平面に対する傾斜角度、S1…段差部の内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリムボードを備え、
前記トリムボードの下端部には、車室外側に向けて低い段差状をなす段差部が車両前後方向に延びる形で形成され、
前記段差部の内面のうち下方を向く面は、車室内側に向かうにつれて下降傾斜する傾斜面とされることを特徴とする車両用ドアトリム。
【請求項2】
前記傾斜面の水平面に対する傾斜角度は、車両後側に向かうにつれて次第に小さくなることを特徴とする請求項1に記載の車両用ドアトリム。
【請求項3】
前記トリムボードには、前記段差部の内部空間を車両後側から塞ぐ後壁部が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用ドアトリム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107578(P2013−107578A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256022(P2011−256022)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】