説明

車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】リザーバ穴内におけるピストンの安定動作を確保しつつ、リザーバ(基体)の小型化を達成すること。
【解決手段】リザーバ32は、リザーバ穴30と、前記リザーバ穴30内を摺動するピストン34と、前記ピストン34を付勢する圧縮コイルスプリング36と、前記圧縮コイルスプリング36を受けるプレート部材54とを有し、前記ピストン34は、該ピストン34の摺動長さ(S)が該ピストン34の最大半径(R)よりも短く設定された扁平形状からなり、前記圧縮コイルスプリング36の巻き始めの始端部と巻き終わりの終端部とは、前記圧縮コイルスプリング36を軸方向から平面視して相互に対向する位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪ブレーキに付与されるブレーキ液圧を制御することが可能な車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車輪ブレーキのホィールシリンダに作用するブレーキ液圧を制御するブレーキ液圧制御装置が用いられ、例えば、ホィールシリンダから放出されたブレーキ液を一時的に貯溜するリザーバを備えた車両用ブレーキ液圧制御装置が知られている。
【0003】
この種の車両用ブレーキ液圧制御装置として、例えば、特許文献1には、装置本体の底面に並設された2つのリザーバ穴内に、それぞれ、ピストン(リザーバピストン)及びスプリングを収納し、前記リザーバ穴をカバーで密封する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−516837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示されたリザーバ構造において、ピストンの安定した摺動動作を確保するために、ピストンの摺動長やスプリング長を長く設定していることから、リザーバ自体が大型化し、液圧制御装置全体の大型化に繋がってしまう。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、リザーバ穴内におけるピストンの安定動作を確保しつつ、リザーバ(基体)の小型化を達成することが可能な車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために創案された本発明は、ブレーキ液を貯溜するためのリザーバが基体に設けられた車両用ブレーキ液圧制御装置において、前記リザーバは、リザーバ穴と、前記リザーバ穴内を摺動するピストンと、前記ピストンを付勢するコイルスプリングと、前記コイルスプリングを受けるスプリング受け部材とを有し、前記ピストンは、該ピストンの摺動長さが該ピストンの半径よりも短く設定された扁平形状からなり、前記コイルスプリングの巻き始めの始端部と巻き終わりの終端部とは、前記コイルスプリングの軸方向から平面視して相互に対向する位置に設定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、コイルスプリングの巻き始めの始端部と巻き終わりの終端部とを、前記コイルスプリングの軸方向から平面視して相互に対向する位置に設定している。このようにすると、コイルスプリングが撓曲した際の始端部と終端部で発生するばね荷重が均等化される。この結果、ピストンに対して付与されるばね偏荷重を抑制してピストンの安定した摺動性を確保することができる。なお、「相互に対向する位置」とは、コイルスプリングの軸線を通る基準面を基準として、コイルスプリングの始端部と終端部とが、それぞれ異なる領域に配置されることをいう。
【0009】
また、本発明によれば、ピストンの摺動長さを、ピストンの半径よりも短く設定した扁平形状に形成している。このようにすると、リザーバ穴の軸方向に沿った長さを短縮することができ、基体の小型化を達成することができる。
さらに、本発明によれば、ピストンの扁平形状と、コイルスプリングの始端部と終端部との位相差によってばね荷重が均等化されることとの相乗効果によって、リザーバの小型化を達成することができる。
【0010】
また、スプリング受け座の位置を、ピストンの軸方向において、シール溝の範囲内に設けるようにしてもよい。このようにすると、摺動するシール部材が設けられる位置に近接した位置で、コイルスプリングを作用させることができる。この結果、ピストンのこじれを極力低減させ、ピストンに対して安定したばね力を作用させることができる。
【0011】
さらに、シール溝をピストンの摺動面における軸方向の中間位置に形成してもよい。このようにすると、ピストンをリザーバ穴に沿って安定して摺動させることができ、ピストンを小型化した場合であっても、ピストンの傾動やこじれを最小限に抑制することができる。なお、「中間位置」とは、ピストンの摺動面の端部を除いた中央部をいう。
【0012】
さらにまた、プレート部材の平面部に、リザーバの奥部側に向かって膨出する膨出部を形成してもよい。このようにすると、プレート部材を基体の底面から突出させずに、プレート部材にスプリングガイドを設けることができる。この結果、ピストンに対してコイルスプリングを良好に作用させながら、基体をより一層小型化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リザーバ穴内におけるピストンの安定動作を確保しつつ、リザーバ(基体)の小型化を達成することが可能な車両用ブレーキ液圧制御装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置の斜視図である。
【図2】図1に示す車両用ブレーキ液圧制御装置から蓋部材を取り外した分解斜視図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った一部断面を含み、内部機構を透視した一部断面透視図である。
【図4】(a)は、図2に示す蓋部材の平面図、(b)は、(a)のIVB−IVB線に沿った縦断面図である。
【図5】図1の矢印Y方向から見た矢視図である。
【図6】(a)は、図2のVI−VI線に沿った一部省略縦断面図、(b)は、プレート部材がねじ部材で締結された状態を示す一部省略縦断面図である。
【図7】図3に示すリザーバの拡大縦断面図である。
【図8】(a)は、図7に示す圧縮コイルスプリングの斜視図、(b)は、始端部と終端部との位相差を示す前記圧縮コイルスプリングの拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に示されるように、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置(以下、「ブレーキ制御装置」という。)10は、自動二輪車、自動三輪車、オールテレーンビークル(ATV)、自動四輪車などの車両に好適に用いられるものであり、車両の車輪に付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御する。以下においては、ブレーキ制御装置10を図示しない自動二輪車に適用した例について説明するが、ブレーキ制御装置10が搭載される車両を限定する趣旨ではない。
【0016】
図1に示されるように、ブレーキ制御装置10は、基本的に、後記する電磁弁等の各種部材が装着される基体12と、モータ14と、コントロールハウジング(ハウジング)16とを備え、これらが一体的に組み付けられたユニットとして構成されている。モータ14は、略直方体状に形成された基体12の横方向に沿った一側面12aに組み付けられ、一方、コントロールハウジング16は、前記一側面12aと反対側の基体12の他側面12bに組み付けられ、その内部に図示しない電子制御ユニットや電気部品を収容している。
【0017】
モータ14が設けられた基体12の一側面12aの左右側上端部には、一対の入口ポート(接続ポート)18、18が開口して形成されている。また、基体12の上面12cには、一対の出口ポート(接続ポート)20、20が開口して形成されている。
【0018】
基体12は、略直方体を呈する金属製の部材からなり、内部には、流体であるブレーキ液が流通する図示しない流体通路やモータ14が装着されるモータ装着穴22(図3参照)が形成されている。また、基体12の内部には、図3に示されるように、常開型の電磁弁からなり、並設された一組の入口弁装着穴24、24にそれぞれ挿入される図示しない一組の入口弁と、常閉型の電磁弁からなり、並設された一組の出口弁装着穴26、26にそれぞれ挿入される図示しない一組の出口弁とが配設される。さらに、基体12の内部には、左右側面12d、12eにそれぞれ形成された一組のポンプ装着穴28、28を通じて図示しないポンプが組み付けられている。
【0019】
なお、入口ポート18、18には、図示しないマスタシリンダ等の液圧源からの配管(図示せず)が接続され、前記液圧源からブレーキ液が導入される。また、入口ポート18、18は、図示しない流体通路を介して入口弁装着穴24、24に連通するように設けられる。出口ポート20、20には、車輪ブレーキに至る配管(図示せず)が接続され、この出口ポート20、20は、図示しない流体通路を介して入口弁装着穴24、24および出口弁装着穴26、26に連通するように設けられる。
【0020】
図3に示されるように、基体12の底面12fには、一対のリザーバ32、32が並列に配置される。このリザーバ32、32は、車輪ブレーキの減圧制御時に、出口弁(電磁弁)が開放されることによって、基体12の流体通路に連通する連通路を流通して逃がされるブレーキ液(すなわち、車輪ブレーキのホィールシリンダ側から流出したブレーキ液)を一時的に貯溜する機能を有している。
【0021】
一対のリザーバ32、32は、それぞれ同一構成からなり、基体12の底面12fに開口端を有する有底円筒状のリザーバ穴30、30と、前記リザーバ穴30、30に沿って摺動自在に変位するピストン34、34と、前記ピストン34、34を出口弁装着穴26、26の方向(図3中の上方)に向って付勢する圧縮コイルスプリング36、36とを備える。
【0022】
ピストン34、34は、図7に示されるように、該ピストン34、34の摺動長さ(軸方向長さ)(S)が該ピストン34、34の最大半径(R)よりも短く設定された扁平形状に形成されている(S<R)。なお、この点については、後記で詳細に説明する。
【0023】
圧縮コイルスプリング36、36の上端部は、ピストン34、34の下面部35に形成されたスプリング受け座37に係着され、一方、圧縮コイルスプリング36、36の下端部は、後記するプレート部材54に形成されリザーバ穴30、30の奥部側に向かって突出する膨出部74、74に係着される。
【0024】
また、圧縮コイルスプリング36、36の巻き始めの始端部36aと巻き終わりの終端部36bとは、圧縮コイルスプリング36、36の中心を通る軸方向から平面視して、相互に対向する位置に配置されている(後記する図8参照)。この場合、「相互に対向する位置」とは、圧縮コイルスプリング36の軸線を通る基準面(図8(b)参照)を基準として、圧縮コイルスプリング36の始端部36aと終端部36bとが、それぞれ異なる領域(A、B)に配置されることをいう。この点については、後記で詳細に説明する。
【0025】
前記ピストン34、34の外周面には環状のシール溝39が形成され、前記シール溝39には、ピストンパッキン(シール部材)38、38が装着される。前記シール溝39は、後記するように、ピストン34、34の摺動面における軸方向の中間位置に形成される。この点については、後記で詳細に説明する。
【0026】
リザーバ穴30、30は、前記ピストンパッキン38、38によって、ブレーキ液が導入される上部側の液圧室40、40と、スプリング36、36が配置された気体室42、42とに分割される。また、リザーバ穴30、30の内周面には、環状凹部を介してピストン34、34の下端側外周面と接触するC型クリップ44、44が装着される。
【0027】
なお、液圧室40、40は、上下方向に沿って延在する第1通路46、46を介して出口弁装着穴26、26と連通するように設けられると共に、前記第1通路46、46と並行に延在する第2通路48、48を介してポンプ装着穴28、28と連通するように設けられる。
【0028】
さらに、図2に示されるように、基体12の底面12fには、複数のねじ部材50を介して、複数のリザーバ穴30、30を密封する単一の蓋部材52が固定される。この蓋部材52は、圧縮コイルスプリング36、36の下端部が当接するプレート部材(スプリング受け部材)54と、前記プレート部材54が固定される基体12の底面12f(一面)と前記基体12の底面12f(一面)と対向する前記プレート部材54の上面54a(他面)との間に介装されるシールリング56とを備える。
【0029】
なお、本実施形態では、基体12の底面12fに対して蓋部材52が固定される場合を例示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、基体12の一側面12a又は他側面12b等に対して蓋部材52が固定されるようにしてもよい。この場合、基体12の一側面12a又は他側面12bにリザーバ32、32(リザーバ穴30、30)が設けられる。
【0030】
図4(a)に示されるように、シールリング56は、プレート部材54の平坦な上面54aに沿って略メガネ形状に配置され、例えば、接着剤等によってプレート部材54の上面54aに固定される。
【0031】
このシールリング56は、例えば、メタルガスケット、表面にゴムコーティングが被覆されたメタルガスケット、紙ガスケット、ゴム等の弾性部材や、シリコーン系等の液状ガスケットからなる液状シール剤によって形成され、基体12の底面12fとプレート部材54の上面54aとの間で挟持されてシール機能を発揮する。
【0032】
図3に示されるように、基体12の底面12fの中央部とプレート部材54の上面54aとの間には、隙間部58が形成される。この隙間部58については、後記する。
【0033】
図4に示されるように、プレート部材54は、平面視して矩形状の平板によって形成される。このプレート部材54は、長手方向に沿って延在する長辺からなる両側端部を上方に向って折り曲げて形成された長手方向リブ60、60と、長手方向と直交する短手方向に沿って延在する短辺からなり、プレート部材54の軸方向に沿った両端部を上方に向かって折り曲げて形成された短手方向リブ62、62とを有する。
【0034】
本実施形態では、矩形状のプレート部材54の両方の長辺及び短辺をそれぞれ折り曲げて、一対の長手方向リブ60、60及び短手方向リブ62、62をそれぞれ対向するように形成しているが、少なくとも長辺のいずれか一方を折り曲げて長手方向リブ60を形成し、少なくとも短辺のいずれか一方を折り曲げて短手方向リブ62を形成してもよい。なお、前記プレート部材54は、例えば、薄板の板金、又は、樹脂製材料で形成されるとよい。
【0035】
前記長手方向リブ60は、複数のねじ部材50によってプレート部材54が基体12の底面12fに固定される際、図5に示されるように、前記基体12の底面12fから延在する両側面12a、12bの下部側の一部を被覆するように形成される。また、前記短手方向リブ62は、ねじ部材50によってプレート部材54が基体12の底面12fに固定される際、基体12の底面12fに当接するように設けられる。
【0036】
また、プレート部材54には、長手方向リブ60と短手方向リブ62が交差する2箇所の角部と長辺の中央部部位との3箇所にねじ部材50を挿通するための複数のねじ孔64が形成される。この複数のねじ孔64は、リング状のシールリング56で囲繞される部位の外側に配置され、一方、シールリング56で囲繞される部位の内側には、複数のリザーバ穴30、30を連通させる連通路66が設けられる。
【0037】
連通路66は、基体12の底面12fの中央部平坦面とプレート部材54の平坦な上面54aとの上下方向(縦方向)の離間空間によって形成される隙間部58(図3参照)と、シールリング56によって水平方向に沿って囲繞される領域であって、シールリング56の一部を構成する円弧部56a、56aが横方向(水平方向)で相互に所定距離だけ離間することによって形成された離間部68(図4参照)とによって構成される。
【0038】
また、図6(a)に示されるように、ねじ孔64の周辺部位には、前記ねじ孔64を囲繞する円板状の枠部70が設けられる。枠部70は、例えば、図示しないパンチを用いてバーリング加工を行って略円筒状に突出した突出片(破線参照)を形成し、さらに、図示しない他のパンチを用いて前記突出片を半径外方向に向かって折り返してプレート部材54の上面54aに密着させることにより形成される。
【0039】
この枠部70の上面は平坦面によって構成され、プレート部材54を基体12の底面12fに固定した際、前記基体12の底面12fに当接する座面70aとして機能するものである。枠部70の座面70aの高さ寸法(上方への突出寸法)は、短手方向リブ62の高さ寸法と同一又は略同一に設定される。また、枠部70の座面70aの高さ寸法t1(上方への突出寸法)は、図6(a)に示されるように、シールリング56の非圧縮状態におけるシール面の高さ寸法t2よりも小さく設定される(t1<t2)。従って、図6(b)に示されるように、枠部70の座面70aが基体12の底面12a(一面)に当接することにより、ねじ部材50のねじ込み量が制限されてシールリング56の圧縮量が規制される。
【0040】
さらに、プレート部材54には、上下面を貫通する円形状の貫通孔72が形成されている。この貫通孔72は、基体12の底面12fに設けられた図示しない車両搭載用マウントねじ穴への連通路として機能するものである。なお、この貫通孔72を囲繞する枠部もねじ孔64の枠部70と同等の高さ寸法に設定され、これによってシールリング56の圧縮量を、座面70aと共に確実に規制するようにしている。
【0041】
また、プレート部材54の平坦な上面(平面部)54aには、圧縮コイルスプリング36、36の下端部に係着されてスプリングガイドとして機能する膨出部74、74が設けられる。この膨出部74、74は、プレート部材54の下面に突出することがなく、リザーバ穴30、30の奥部側に向って突出するように形成される。
【0042】
このように、プレート部材54の平坦な上面(平面部)54aにリザーバ穴30、30の奥部側に向って突出する膨出部74、74を設けることにより、プレート部材54が基体12の底面12fから突出することがなく、プレート部材54にスプリングガイドを設けることができる。この結果、ピストン34、34に対してスプリング36、36を良好に作用させながら、基体12をより一層小型化することができる。
【0043】
図4(b)に示されるように、基体12には、開口端がシールリング56の内側に臨んで連通路66と連通し、前記連通路66を流通するエアが出入する呼吸孔76が設けられる。この呼吸孔76は、図3に示されるように、基体12の底面12fの中央部近傍に開口し、前記開口端から上方に向って延在して基体12の横方向に沿って貫通する通気孔78と連通するように設けられる。
【0044】
この通気孔78は、コントロールハウジング16及びモータ14の少なくとも一方(本実施形態ではコントロールハウジング16及びモータ14の両方)と連通している。
【0045】
なお、本実施形態では、複数のねじ部材50を介して、プレート部材54を基体12の底面12fにねじ締結しているが、例えば、プレート部材54の端縁部を加締めて基体12に対して固定してもよいし、又は、プレート部材54を基体12の底面12fの溝部(図示せず)に対して圧入するようにしてもよい。
【0046】
また、本実施形態では、プレート部材54の上面54aにシールリング56を位置決めして接着しているが、例えば、基体12の底面12fとプレート部材54の上面54aとの間でシールリング56を挟持して係止するように設け、又は、プレート部材54の上面54aに図示しない係止部を設けて前記シールリング56を係止するようにしてもよい。
【0047】
コントロールハウジング16には、外部に連通する通気路(図示せず)が形成され、前記通気路には、エアの出入を許容しつつ水の出入を阻止する図示しない透湿防水素材(通気防水部材)が装着される。この透湿防水素材としては、例えば、周知の商品名ゴアテックス(登録商標)を用いるとよい。この透湿防水部材を設けることにより、コントロールハウジング16の内部空間への水や塵埃等の進入を防止することができる。
【0048】
本実施形態では、基体12に貫通形成された通気孔78がモータ14の内部及びコントロールハウジング16の内部と連通し、さらに、コントロールハウジング16の内部は、通気防水部材を介して外部と連通しているため、リザーバ32、32の内部をシールリング56で確実に密封しつつ、気体室42内を大気圧に保持することができる。
【0049】
本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその動作及び作用効果について説明する。
【0050】
アンチロックブレーキ制御等における車輪ブレーキの減圧制御時において、出口ポート20と直接的に連通する出口弁が開放されると、前記出口弁が装着された出口弁装着穴26に連通する第1通路46を介して、ブレーキ液がリザーバ32の液圧室40内へ流入しようとする。
【0051】
このとき、液圧室40内に導入されたブレーキ液によってピストン34が加圧され、前記ピストン34はスプリング36のばね力に抗して押圧されてプレート部材54側に向かって変位する。これによって、液圧室40内へのブレーキ液の流入が許容され、ピストン34がリザーバ穴30に沿って移動した距離に対応する容量分のブレーキ液が貯溜される。なお、ピストン34が移動すると、気体室42の容積が減少するが、連通路66が、呼吸孔76及び通気孔78を通じて大気に連通しているコントロールハウジング16等と連通しているため、内部圧力が高まることはない。
【0052】
一方、アンチロックブレーキ制御を実行する場合には、コントロールハウジング16内に収納された図示しない電子制御ユニットから導出された駆動信号によってモータ14を回転駆動させる。前記モータ14が回転駆動すると、これに伴ってポンプ装着穴28に装着された図示しないポンプが作動し、リザーバ32の液圧室40内に貯溜されたブレーキ液が第2通路48を流通して流出され、基体12内の図示しない流体通路に還流される。その際、ピストン34は、圧縮コイルスプリング36のばね力によってプレート部材54から離間する方向に押圧され、液圧室40内の容積が減少して初期状態に復帰する。
【0053】
次に、リザーバ34、34について、詳細に説明する。なお、一対のリザーバ34、34は、それぞれ同一構成からなるため、一方のリザーバ34について詳細に説明し、他方のリザーバ34の説明を省略する。
【0054】
図7は、図3に示すリザーバの拡大縦断面図、図8(a)は、図7に示す圧縮コイルスプリングの斜視図、図8(b)は、始端部と終端部との位相差を示す前記圧縮コイルスプリングの拡大平面図である。
【0055】
図8に示されるように、圧縮コイルスプリング36は、巻き始めの始端部36aと巻き終わりの終端部36bとの間で、端部同士が径方向で相互に対向する位置(巻き角度の位相が約180度だけ異なる位置)に設定されている。この場合、例えば、巻き角度の位相差が180度±45度の範囲(位相差が135度〜225度の範囲)に設定されると好適である(図8(b)の一点鎖線参照)。
【0056】
巻き始めの始端部36aと巻き終わりの終端部36bとの巻き角度の位相を、例えば、約180度だけ異なるように設定すると、圧縮コイルスプリング36が撓曲した際の始端部36aと終端部36bで発生するばね荷重が均等化される。この結果、ピストン34に対して付与されるばね偏荷重を抑制してピストン34の安定した摺動性を確保することができる。なお、圧縮コイルスプリング36の有効巻数は、例えば、0.5巻から1巻毎に増加(0.5巻→1.5巻→2.5巻→3.5巻・・・・)するように設定されるとよい。
【0057】
図7に示されるように、膨出部74と対向するピストン34の下面部35には、圧縮コイルスプリング36を受けるスプリング受け座37が設けられる。
【0058】
本実施形態では、ピストン34のスプリング受け座37とプレート部材54の膨出部74とによって、圧縮コイルスプリング36が、軸方向と略直交する方向へ移動すること(図7中の左右方向への遊び)を規制することができる。この結果、圧縮コイルスプリング36の位置ずれを回避して、安定したばね力を発揮させることができる。
【0059】
図7に示されるように、リザーバ穴30に沿って摺動するピストン34は、該ピストン34の摺動長さ(軸方向長さ)(S)が該ピストン34の最大半径(R)よりも短く設定された扁平形状に形成されている(S<R)。
【0060】
本実施形態では、ピストン34の摺動長さ(S)を、ピストン34の最大半径(R)よりも短く設定することにより(S<R)、リザーバ穴30の軸方向に沿った長さを短縮することができ、基体12の小型化を達成することができる。この場合、ピストン34の扁平形状と、圧縮コイルスプリング36の始端部36aと終端部36bとの位相差によってばね荷重が均等化されることとの相乗効果によって、リザーバ32の小型化を達成することができる。
【0061】
さらにまた、ピストン34には、ピストンパッキン38装着用のシール溝39が形成され、前記シール溝39は、リザーバ穴30との摺動面におけるピストン34の軸方向の中間位置に形成されている。すなわち、シール溝39は、ピストン34の摺動面の端部に接しない中央部に配置されている。
【0062】
本実施形態では、シール溝39をピストン34の摺動面における軸方向の中間位置に形成することにより、ピストン34をリザーバ穴30に沿って安定して摺動させることができ、ピストン34を小型化した場合であっても、ピストン34の傾動やこじれを最小限に抑制することができる。
【0063】
またさらに、ピストン34の下面部35に形成されたスプリング受け座37の位置は、前記ピストン34の軸方向において、前記ピストン34に形成された前記シール溝39の範囲(T)内に設けられる。
【0064】
本実施形態では、スプリング受け座37の位置を、ピストン34の軸方向に沿ったシール溝39の範囲(T)内に設けることにより、摺動するピストンパッキン38(シール部材)が設けられる位置に近接した位置で、圧縮コイルスプリング36を作用させることができる。この結果、ピストン34のこじれを極力低減させ、ピストン34に対して安定したばね力を作用させることができる。
【0065】
なお、本実施形態では、シール溝39をピストン34の摺動面における軸方向の中間位置に形成すると共に、ピストン34の下面部35に形成されたスプリング受け座37の位置を、前記ピストン34の軸方向において、前記ピストン34に形成された前記シール溝39の範囲(T)内とすることにより、ピストン34の最大外径(D)に対するピストン34の摺動長さ(S)の割合(S/D)を、例えば、0.4以下(S/D≦0.4)に設定することが可能となる。
【0066】
次に、本実施形態では、プレート部材54と、シールリング56とによって蓋部材52が構成され、シールリング56で囲繞される部位の外側には、プレート部材54を基体12に固定するための複数のねじ孔64が配置されると共に、シールリング56で囲繞される部位の内側には、複数のリザーバ穴30、30を連通させる連通路66が設けられる。
【0067】
従って、本実施形態では、複数のリザーバ穴30、30を、単一(共通)の蓋部材52で密封することができるため、部品点数を削減して製造コストを低減させることができる。この結果、本実施形態では、蓋部材52が基体12から必要以上に突出させることがなく、小型化に寄与することができる。なお、蓋部材52が基体12から必要以上に突出させることがないとは、プレート部材54の板厚と短手方向リブ62、62の高さ寸法だけ蓋部材52が基体12から突出するという意味である。
【0068】
また、本実施形態では、長手方向リブ60、60をプレート部材54に設けることにより、プレート部材54の長手方向に対して所定の強度を確保することができると共に、矩形状の長辺を折り曲げるという簡単な加工でシールリング56の長手方向側を覆うことによって、基体12とプレート部材54との間に介装されたシールリング56を効果的に保護することができる。
【0069】
さらに、本実施形態では、短手方向リブ62、62をプレート部材54に設けることにより、矩形状の短辺を折り曲げるという簡単な加工で基体12の短手方向を防水することができると共に、この短手方向リブ62、62が基体12の底面12fに当接することによって、シールリング56が過度に圧縮変形することを阻止することができる。また、短手方向リブ62、62により、プレート部材54の短手方向に対する強度を向上させることができる。
【0070】
さらにまた、本実施形態では、プレート部材54を基体12に固定した際、ねじ孔64を囲繞する枠部70の座面70aが基体12の底面12fに当接してシールリング56の圧縮量を規制することができるため、ねじ部材50によってプレート部材54を強固に固定した際にも、簡単な加工で設けられた枠部70によってシールリング56の過度の圧縮変形を効果的に防止することができる。この結果、本実施形態では、シールリング56の耐久性を向上させると共に、シールリング56のシール面の面圧を均一に保持することができる。
【0071】
またさらに、本実施形態では、基体12に、開口端がシールリング56の内側に臨んで連通路66と連通し、前記連通路66を流通する圧縮エアが出入する呼吸孔76が設けられることにより、リザーバ穴30、30をピストン34、34が摺動変位するときに発生する圧縮エアを前記連通路66及び呼吸孔76を介して外部に好適に逃がすことができる。
【0072】
なお、本実施形態においては、自動二輪車に好適に用いられるブレーキ制御装置10を例示しているが、前記した技術的特徴を自動四輪車に用いられるブレーキ制御装置に適用しても差し支えない。
【符号の説明】
【0073】
10 ブレーキ制御装置(車両用ブレーキ液圧制御装置)
12 基体
30 リザーバ穴
32 リザーバ
34 ピストン
36 圧縮コイルスプリング(コイルスプリング)
36a 始端部
36b 終端部
37 スプリング受け座
38 ピストンパッキン(シール部材)
39 シール溝
54 プレート部材(スプリング受け部材)
74 膨出部
S ピストンの摺動長さ
R ピストンの最大半径
T シール溝の範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液を貯溜するためのリザーバが基体に設けられた車両用ブレーキ液圧制御装置において、
前記リザーバは、リザーバ穴と、前記リザーバ穴内を摺動するピストンと、前記ピストンを付勢するコイルスプリングと、前記コイルスプリングを受けるスプリング受け部材とを有し、
前記ピストンは、該ピストンの摺動長さが該ピストンの半径よりも短く設定された扁平形状からなり、
前記コイルスプリングの巻き始めの始端部と巻き終わりの終端部とは、前記コイルスプリングの軸方向から平面視して相互に対向する位置に設定されていることを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用ブレーキ液圧制御装置において、
前記ピストンには、前記コイルスプリングを受けるスプリング受け座と、シール部材が装着されるシール溝とが設けられ、
前記シール溝は、前記ピストンの摺動面における軸方向の中間位置に形成され、
前記スプリング受け座の位置は、前記ピストンの軸方向における前記シール溝の範囲内に設けられることを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の車両用ブレーキ液圧制御装置において、
前記ピストンには、シール部材が装着されるシール溝が形成され、
前記シール溝は、前記ピストンの摺動面における軸方向の中間位置に形成されることを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用ブレーキ液圧制御装置において、
前記スプリング受け部材は、平面部を有する平板状のプレート部材からなり、
前記平面部には、前記リザーバの奥部側に向かって膨出した膨出部が形成され、
前記膨出部によって前記コイルスプリングのガイドがなされることを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−171564(P2012−171564A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37743(P2011−37743)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】