説明

車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造

【課題】硬質樹脂材による成形時の冷却固化によって生じる伸縮を防止する肉抜きが施されている場合であっても、乗員の後頭部を受け止めた衝撃によってアームに生じる撓みを防止することができる車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造を提供することである。
【解決手段】硬質樹脂材より成っており、乗員の後頭部を受け止め可能となっている車両用ヘッドレストパネル24の肉抜き構造であって、車両用ヘッドレストパネル24には、その背面側と一体を成すように主アーム24aが形成されており、主アーム24aには、車両用ヘッドレストパネル24の正面側と連通するように肉抜き24bが施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造に関し、詳しくは、硬質樹脂材より成っており、乗員の後頭部を受け止め可能となっている車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用ヘッドレス構造として、例えば、図7に開示された技術が既に知られている。この技術では、車両用ヘッドレスト(以下、「車両用」を省いて、単に、「ヘッドレスト」と記す。このことは、後述する「ヘッドレストパネル」においても同様である。)103は、そのベースを成すベース部材120と、このベース部材120に一体となるように組み付けられた左右一対のステー122、122と、このベース部材120の前面を覆うと共にシートクッション(図示しない)に着座した乗員の後頭部を受け止め可能な略カバー状のヘッドレストパネル124と、このベース部材120を収納する格好でヘッドレストパネル124の背面側をカバーリーングする背面カバー126と、これらヘッドレストパネル124と背面カバー126とを組み付けて成るヘッドレストケースに対して包着状に組み付けられるパッド部材128(図7においては図示しない)と、このパッド部材128の表面をカバーリングするカバー部材128a(図7において、図示しない)とから構成されている。
【0003】
これらの構成部材のうち、ヘッドレストパネル124について詳述すると、ヘッドレストパネル124には、その背面側と一体を成すように左右一対のロアアーム124a、124aと同アッパアーム125a、125aがそれぞれ形成されている。そして、車両に後突が発生すると、これら両アーム124a、125aとベース部材120との間に組み付けられているリンク機構Lが作動することで、ヘッドレストパネル124がベース部材120に対して飛び出る構造となっている(図8、9参照)。これにより、ヘッドレスト103そのものがステー122に対して飛び出る格好となるため、車両に後突が発生した場合でも、乗員の後頭部を受け止めて保護することができる。なお、このヘッドレストパネル124は、そのロアアーム124aとアッパアーム125aと共に硬質樹脂材による一体成形によって作られている。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】米国特許発明第6082817号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した技術では、これらロアアーム124aには、成形時の冷却固化によって自身に生じる伸縮を防止するために、自身の幅方向に肉抜き124bがそれぞれ施されている(図10参照)。そのため、ヘッドレスト103が乗員の後頭部を受け止めると、その受け止めた衝撃によってこれらロアアーム124aは互いに遠ざかる方向へ撓んでしまうことがあった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、硬質樹脂材による成形時の冷却固化によって生じる伸縮を防止する肉抜きが施されている場合であっても、乗員の後頭部を受け止めた衝撃によってアームに生じる撓みを防止することができる車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するためのものであって、以下のように構成されている。請求項1に記載の発明は、硬質樹脂材より成っており、乗員の後頭部を受け止め可能となっている車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造であって、車両用ヘッドレストパネルには、その背面側と一体を成すように主アームが形成されており、主アームには、車両用ヘッドレストパネルの正面側と連通するように肉抜きが施されていることを特徴とする。
この構成によれば、肉抜きは、その開口側が車両用ヘッドレストパネルの正面側となっているため、主アーム(例えば、ロアアーム)を車両用ヘッドレストパネルの幅方向(左右方向)および上下方向にも閉塞させた状態にすることができる。そのため、従来技術のロアアーム(本発明の主アームに相当)と比較すると、主アームの強度を向上させることができる。したがって、車両用ヘッドレストが乗員の後頭部を受け止めた場合でも、その受け止めた衝撃によって主アームに撓みが生じることはない。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造であって、肉抜きが施されている箇所には、リブが形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、肉抜きが施されていても、主アームの強度を確保することができる。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造であって、リブは、ヘッドレストパネルの正面側から奥行き方向に向かって形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、肉抜き方向と、リブの形成方向と、ヘッドレストパネルを成形(例えば、一体成形)する際の成形金型の型開き方向とを一致させることができる。したがって、肉抜きを施したり、リブを形成したりしていても、ヘッドレストパネルを容易に製造することができる。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造であって、車両用ヘッドレストパネルには、その背面側と一体を成すように従アームも形成されており、従アームは、主アームに対して幅方向にズレた位置に形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、主アームは、従アームに対して上下方向に干渉することがない。したがって、主アームの基端側を上下方向に大きく確保することができ、結果として、主アームの強度向上に繋げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図1〜6を用いて説明する。図1は、本発明の実施例に係るヘッドレストの内部構造を示す分解斜視図である。図2は、図1のヘッドレストパネルの拡大図である。図3は、図2のヘッドレストパネルを後方から見た斜視図である。図4は、図2のA−A線断面図である。図5は、図2のB−B線断面図である。図6は、図2のC−C線断面図である。
【0012】
なお、上述した図1では、ヘッドレスト3の内部構造を分かり易く示すために、そのクッション構造および表皮構造を省略し内部のフレーム構造のみを示している。また、以下の説明にあたって、上、下、前、後、左、右とは、上述した各図に記載した、上、下、前、後、左、右の方向、すなわち、ヘッドレスト3を基準にしたときの上、下、前、後、左、右の方向を示している。
【0013】
まず、図1を参照して、本発明の実施例に係るヘッドレスト3の構造を説明する。ヘッドレスト3は、従来技術で説明したヘッドレスト103と同様に、そのベースを成すベース部材20と、このベース部材20に一体となるように組み付けられた左右一対のステー22、22と、このベース部材20の前面を覆うと共にシートクッション(図示しない)に着座した乗員の後頭部を受け止め可能な略カバー状のヘッドレストパネル24と、このベース部材20を収納する格好でヘッドレストパネル24の背面側をカバーリーングする背面カバー26と、これらヘッドレストパネル24と背面カバー26とを組み付けて成るヘッドレストケースに対して包着状に組み付けられるパッド部材(図示しない)と、このパッド部材28の表面をカバーリングするカバー部材(図示しない)とから構成されている。
【0014】
このヘッドレスト3の構成部材のうち、左右一対のステー22、22について詳述すると、左右一対のステー22、22はそれぞれ筒状に構成されている。そして、これら両ステー22をシートバックに組み付けられた左右一対のサポート(いずれも図示しない)にそれぞれ差し込むことによって、ヘッドレスト3をシートバックに組み付けることができる。また、これら両ステー22のうち、例えば、右のステー22の内部にはロッド36が挿入されている。
【0015】
このとき、ロッド36は、その上端がロック機構Rの解除部材Kに引っ掛けられた状態で右のステー22の内部に挿入されている。そして、車両に後突が発生すると後突検出手段(例えば、シートバックの内部に設けられる、公知の背凭荷重検出機構など)が作動し、この作動に伴ってロッド36が突き上げられ解除部材Kが作動することで、ロック機構Rのロック解除が行われる構造となっている。
【0016】
また、このヘッドレスト3の構成部材のうち、ヘッドレストパネル24について詳述すると、ヘッドレストパネル24は、厚板形状のリンク板30を介したリンク機構(例えば、3点リンク機構)によってベース部材20に組み付けられている。この3点リンク機構について、さらに詳述すると、リンク板30の一端側(後端側)における幅方向の両端は、ベース部材20の上側の左右にピンP1を介してそれぞれ枢着されている。
【0017】
これと同様に、リンク板30の他端側(前端側)における幅方向の両端は、その両端に形成された左右一対の丸軸P2、P2を介してヘッドレストパネル24の背面側と一体を成すように形成された左右一対のアッパアーム25a、25aにそれぞれ枢着されている。なお、このアッパアーム25aが、特許請求の範囲に記載の「従アーム」に相当する。また、この両アッパアーム25aは、後述する両ロアアーム24aに対して幅方向の内側にズレた位置にそれぞれ形成されている。
【0018】
また、ベース部材20の下側の左右には、略上下方向に長孔20aがそれぞれ形成されている。そして、ヘッドレストパネル24には、その背面側と一体を成すように形成された左右一対のロアアーム24a、24aを橋渡す格好となるように連結ピン32が固着されている。このとき、連結ピン32は、ベース部材20に形成された長孔20a内を移動可能に固着されている。このようにリンク板30の一端側のピンP1、同他端側の丸軸P2および連結ピン32とから成る3点によって3点リンク機構は構成されている。なお、この3点リンク機構が従来技術で説明したリンク機構Lに相当する。また、このロアアーム24aが、特許請求の範囲に記載の「主アーム」に相当する。
【0019】
また、連結ピン32の左右には、ベース部材20の上側との間に引っ張りばね54、54がそれぞれ掛け留めされている。これにより、連結ピン32は、ベース部材20の長孔20aの上端側に向けて付勢された状態、すなわち、連結ピン32と固着されたヘッドレストパネル24は、ベース部材20に対して前斜め上側に向けて付勢された状態となっている。
【0020】
そして、車両に後突が発生していないときの常時には、連結ピン32は、ヘッドレストパネル24がベース部材20に対して一体状態(ヘッドレストパネル24が飛び出していない状態)となるようにロック機構Rによってロックされた状態(連結ピン32が長孔20aの下端に保持された状態)となっている(従来技術における図8相当)。
【0021】
また、このロック状態から、上述したように、ロック機構Rのロック解除が行われると、引っ張りばね54の付勢力によって連結ピン32が長孔20aの下端から上端に向けて移動していく。そして、この移動に伴って3点リンク機構が作動することによって、ヘッドレストパネル24がベース部材20に対して乗員の後頭部側に向けて飛び出した状態(連結ピン32が長孔20aの上端に移動した状態)になる構造となっている(従来技術における図9相当)。もちろん、この飛び出した状態から飛び出す前の状態へヘッドレストパネル24と戻し、その戻した状態で、再度、ヘッドレストパネル24をロック機構Rによってロックすることもできる。
【0022】
また、このヘッドレストパネル24の両ロアアーム24aには、ヘッドレストパネル24の正面側と連通するように肉抜き24bがそれぞれ施されている。この肉抜き24bが施されている箇所には、複数のリブ24cが形成されている。そして、これら複数のリブ24cは、その壁面がヘッドレストパネル24の正面側から奥行き方向に向かって形成されている。なお、これら肉抜き24bおよびリブ24cは、既に説明したロアアーム24aおよびアッパアーム25aと共に、剛性を有する合成樹脂(硬質樹脂材)によって、ヘッドレストパネル24に対して一体成型されている。このように肉抜き24bを施すと、その肉抜き方向とヘッドレストパネル24を一体成形する際の成形金型の型開き方向(ヘッドレストパネル24の前後方向)とを一致させることができる。このことは、複数のリブ24cの形成方向においても同様である。
【0023】
本発明の実施例に係るヘッドレスト3は上述したように構成されている。この構成によれば、ヘッドレストパネル24の正面側と連通するように肉抜き24bが施されているため、従来技術の説明と同様に、成形時の冷却固化によってロアアーム24aに生じる伸縮を防止することができる。このとき、肉抜き24bは、その開口側がヘッドレストパネル24の正面側となっているため、ロアアーム24aをヘッドレストパネル24の幅方向(左右方向)および上下方向にも閉塞させた状態にすることができる。そのため、従来技術のロアアーム124aと比較すると、ロアアーム24aの強度を向上させることができる。したがって、ヘッドレスト3が乗員の後頭部を受け止めた場合でも、その受け止めた衝撃によってロアアーム24aに撓みが生じることはない。
【0024】
また、この構成によれば、肉抜き24bが施されている箇所には、複数のリブ24cが形成されている。そのため、肉抜き24bが施されていても、ロアアーム24aの強度を確保することができる。
【0025】
また、この構成によれば、複数のリブ24cは、ヘッドレストパネル24の正面側から奥行き方向に向かって形成されている。そのため、肉抜き24bの肉抜き方向と、複数のリブ24cの形成方向と、ヘッドレストパネル24を一体成形する際の成形金型の型開き方向とを一致させることができる。したがって、肉抜き24bを施したり、リブ24cを形成したりしていても、ヘッドレストパネル24を容易に製造することができる。
【0026】
また、この構成によれば、両アッパアーム25aは、両ロアアーム24aに対して幅方向の内側にズレた位置にそれぞれ形成されている。そのため、両ロアアーム24aは、両アッパアーム25aに対して上下方向に干渉することがない。したがって、両ロアアーム24aの基端側を上下方向に大きく確保することができ、結果として、両ロアアーム24aの強度向上に繋げることができる。
【0027】
上述した内容は、あくまでも本発明の一実施の形態に関するものであって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
実施例では、ヘッドレストパネル24の正面側に対して上下方向に1次元的な配列となるリブ24cが複数形成されている例を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、ヘッドレストパネル24の正面側に対して上下方向と幅方向(左右方向)との2次元的な配列となるリブ24cが複数形成されていても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の実施例に係るヘッドレストの内部構造を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、図1のヘッドレストパネルの拡大図である。
【図3】図3は、図2のヘッドレストパネルを後方から見た斜視図である。
【図4】図4は、図2のA−A線断面図である。
【図5】図5は、図2のB−B線断面図である。
【図6】図6は、図2のC−C線断面図である。
【図7】図7は、従来技術に係るヘッドレストの内部構造を示す分解斜視図である。
【図8】図8は、図7の組み付け状態におけるヘッドレストの通常状態を模式的に表した縦断面図である。
【図9】図9は、図8の状態から、車両に後突が発生することでヘッドレストが最大限に飛び出したときの状態を模式的に表した縦断面図である。
【図10】図10は、図7のヘッドレストパネルを後方から見た拡大図であり、従来技術の問題点を説明する図である。
【符号の説明】
【0029】
24 ヘッドレストパネル
24a ロアアーム(主アーム)
24b 肉抜き
24c リブ
25a アッパアーム(従アーム)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質樹脂材より成っており、乗員の後頭部を受け止め可能となっている車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造であって、
車両用ヘッドレストパネルには、その背面側と一体を成すように主アームが形成されており、
主アームには、車両用ヘッドレストパネルの正面側と連通するように肉抜きが施されていることを特徴とする車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造であって、
肉抜きが施されている箇所には、リブが形成されていることを特徴とする車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造であって、
リブは、ヘッドレストパネルの正面側から奥行き方向に向かって形成されていることを特徴とする車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造であって、
車両用ヘッドレストパネルには、その背面側と一体を成すように従アームも形成されており、
従アームは、主アームに対して幅方向にズレた位置に形成されていることを特徴とする車両用ヘッドレストパネルの肉抜き構造。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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