説明

車両用ワイヤハーネス

【課題】エンジン近傍に配置する防水コネクタが呼吸作用で接続する電線から水を吸い込むのを防止する。
【解決手段】車両のエンジンルームの高温雰囲気中に配置される防水コネクタ1に一端が接続される車両用ワイヤハーネス10であって、前記ワイヤハーネスを構成する電線群のうち、他端が浸水領域に配置される非防水コネクタに接続される電線20−1、および浸水領域で他の電線と中間スプライス接続される電線20−2は、その芯線を単芯線21とし、該単芯線を絶縁被覆層で被覆している電線またはエナメル線としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ワイヤハーネスに関し、詳しくは、車両のエンジンルームの高温雰囲気中に配置される防水コネクタに一端が接続されるワイヤハーネスであって、エンジン駆動時の温度上昇とエンジン停止時の温度低下の繰り返しで生じる防水コネクタ側への呼吸作用で、該防水コネクタに接続された電線の素線間を通して防水コネクタに水が吸い込まれるのを防止するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に取り付けられるワイヤハーネスのコネクタは、雨や路面からの跳ね上がりの水にかかる浸水領域で用いられる場合は防水コネクタを使用している。
この種の防水コネクタは従来より種々提案されており、図4に、この種の防水コネクタの一例を示す。(特開2001−351724号(特許文献1)参照)
【0003】
図4に示す防水コネクタ1は、ハウジング2の内部に端子同士を結合するスペースを確保していると共に、該ハウジング2の電線挿入用開口部3側に設けたゴム栓収容筒部4の内周に、複数の電線Wを1本ずつ密着させて挿通する複数の電線貫通孔5aを備えた一体式の防水ゴム栓5の外周シール部5bを密着させ、開口部3を水密に閉鎖できる構成としている。
【0004】
このような防水コネクタは、その密閉構造により、防水コネクタ周囲の温度が上昇すると防水コネクタ内部の空気が熱膨張して正圧が発生し、防水コネクタ周囲の温度が低下すると防水コネクタ内部の空気が収縮して負圧が発生するという特徴を有する。
よって、電線Wの端末に防水コネクタ1を接続すると共に、該防水コネクタ1を車両のエンジンと直結する場所やエンジン上の高温部に配置し、該電線Wの他端を浸水領域に配置している非防水コネクタと接続している場合や浸水領域で他の電線と中間スプライス接続していると、エンジンが始動して車両が走行し、防水コネクタ1の周囲の温度が上昇して該コネクタ1内に正圧が発生した後、エンジンが停止して防水コネクタ1の周囲の温度が低下し、該コネクタ1内に負圧が発生すると、水が電線Wの素線の隙間に吸い込まれ、防水コネクタ1に毛細管現象で流入し、該防水コネクタ1内に水が浸入するという問題が生じる。
【0005】
そこで、従来より、図5に示すように、防水コネクタ1に最も近いスプライス部6aと防水コネクタ1との間に、芯線を露出させた息抜き用スプライス部7を形成し、該息抜き用スプライス部7に防水キャップ8を被せる等の防水処理を施すことが行われている。これにより、防水コネクタ1内に負圧が発生しても、スプライス部6aよりも手前の位置で防水キャップ8内の非被水空間から空気を吸い込んで息抜きできるため、前記スプライス部6aから水を吸い込んでしまうことを防止できる。
【0006】
しかしながら、前記防水構造は、電線W1と他の電線W2、W3、W4、W5との各スプライス部6a、6b、6c、6dとは別に前記息抜き用スプライス部7を形成するため、作業性が悪くコスト高となるうえ、スペースが嵩張る点にも問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−351724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、エンジンルームに配置する防水コネクタと接続する車両用ワイヤハーネスにおいて、防水コネクタに雰囲気温度の昇降により呼吸作用が発生しても、該防水コネクタと接続する電線の素線を通した浸水が発生しないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、車両のエンジンルームの高温雰囲気中に配置される防水コネクタに一端が接続される車両用ワイヤハーネスであって、
前記ワイヤハーネスを構成する電線群のうち、他端が浸水領域に配置される非防水コネクタに接続される電線および浸水領域で他の電線と中間スプライス接続される電線は、その芯線を単芯線とし、該単芯線を絶縁被覆層で被覆している電線またはエナメル線としていることを特徴とする車両用ワイヤハーネスを提供している。
【0010】
前記のように、エンジンルーム内においてエンジン直結部やエンジンの近傍に配置する防水コネクタでは、エンジン駆動時における雰囲気温度の上昇とエンジン停止時における温度下降の繰り返しで、防水コネクタ内の密閉空間が膨張・圧縮して呼吸作用が生じ、密閉室内に挿入している電線の撚線の芯線を通して毛細管現象で他端側から水を吸い込みやすい。
よって、本発明では、防水コネクタに一端が接続される電線のうち、他端や中間スプライス部から電線を通した浸水が発生する恐れがある電線は、芯線を単芯線としている。単芯線には隙間がないため、芯線を素線の撚線構造とした場合に発生する毛細管現象により浸水が発生しない。よって、電線の芯線を通して防水コネクタ内へ浸水が生じるのを確実に防止している。
【0011】
前記ワイヤハーネスを構成する電線群のうち、他端が防水コネクタに接続される電線および他端が非浸水領域のコネクタに接続される電線は撚線からなる芯線を絶縁被覆層で被覆している電線としている。
【0012】
これは、防水コネクタに接続した電線の他端からの浸水の発生は無いため、電線は汎用されている通常の撚線構造の芯線からなる電線を用いて電線の屈曲性を高め、ワイヤハーネス全体を比較的柔軟なものとし、所要の配索経路に沿って屈曲できるようにしている。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、本発明によれば、エンジンルーム内に設置され雰囲気温度の昇降で呼吸作用が発生する防水コネクタに接続されたワイヤハーネスの電線群のうち、他端や中間スプライス部から芯線を通して浸水が発生する恐れがある電線は、芯線を単芯線に変えることで、従来の素線を撚線構造とした芯線で発生する毛細管現象による浸水を防止している。よって、前記した息抜き用スプライス部を形成する必要はなく、簡単に防水コネクタへの電線の芯線を通した浸水を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用ワイヤハーネスを示す概略図である。
【図2】前記実施形態のワイヤハーネスの一端に接続する防水コネクタの概略断面図である。
【図3】(A)はワイヤハーネスを構成する単芯線の電線を示す斜視図、(B)は撚線の芯線の電線を示す斜視図である。
【図4】従来の防水コネクタを示す斜視図である。
【図5】従来例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3に本発明の実施形態に係る車両用のワイヤハーネス10を示す。
ワイヤハーネス10は自動車または二輪車に取り付けられるものである。
【0016】
ワイヤハーネス10を構成する多数の電線wからなる電線群の一端に防水コネクタ1を接続している。該防水コネクタ1はエンジンルーム内においてエンジンに近接した位置またはエンジン直結部に配置される。本実施形態では、エンジン制御ユニット11に設けた基板コネクタ12に嵌合されるものである。
【0017】
防水コネクタ1は前記従来例の図4に示す防水コネクタ1と同様な構成で、図2に示すように、ワイヤハーネス10の各電線wの端末に圧着した端子Tを一体式の防水ゴム栓5の各電線貫通孔5aに通し、該電線貫通孔5aの内周面に電線wの外周面を密接し、かつ、防水ゴム栓5の外周シール部5bをコネクタハウジング2に設けたゴム栓収容筒部4の内周面に密着している。よって、防水ゴム栓5で閉鎖されたコネクタハウジング2の内部は密閉空間Aとなる。そのため、エンジン駆動時に温度が上昇すると密閉空間Aは防水ゴム栓5を変形させて膨張し、エンジン停止時に温度が下降すると防水ゴム栓5を変形させて収縮し、呼吸作用が生じ、密閉空間A内に位置する端子Tと接続した各電線wに呼吸作用が伝達されることになる。
【0018】
前記防水コネクタ1に一端が接続されるワイヤハーネス10のうち、電線20−1は他端に非防水コネクタ13が接続され、該非防水コネクタ13は浸水領域であるエンジンルーム内に搭載される機器14のコネクタ嵌合部または相手方コネクタと嵌合される電線である。該電線20−1は図3(A)に示すように、単芯線21からなる芯線を塩化ビニル樹脂等の絶縁樹脂からなる絶縁被覆層22で被覆した電線としている。該単芯線21はタフピッチ銅からなる軟質材で形成することが好ましい。
【0019】
さらに、前記防水コネクタ1に一端が接続されるワイヤハーネス10のうち、電線20−2は浸水領域であるエンジンルーム内で他の電線15と中間スプライスされる電線である。該電線20−2も前記電線20−1と同じ単芯線21を絶縁被覆層22で被覆した電線としている。該中間スプライスする電線20−2と電線15の端末に接続されるコネクタ26、27が防水コネクタ、非防水コネクタを問わず、中間スプライス位置が浸水領域であれば、前記電線20−2は単芯線の電線としている。
該電線20−2は、その絶縁被覆層22を中間皮剥ぎして単芯線21を露出し、前記他の電線15の端末を皮剥ぎして露出した撚線の芯線と中間圧着バレル17で中間スプライス接続し、その外周を防水シート16で被覆している。
【0020】
前記防水コネクタ1に一端が接続されるワイヤハーネス10のうち、電線30−1の他端に接続するコネクタ28は、水がかからない非浸水領域に配置されている電子制御ユニット18のコネクタ嵌合部18aに接続される。電線30−1は、該コネクタ28が非防水コネクタ、防水コネクタのいずれであっても、図3(B)に示すように、芯線31は素線を撚り合わせた撚線構造とし、その外周を絶縁樹脂からなる絶縁被覆層32で被覆した屈曲性のよい電線(自動車用電線として通常汎用されているノーマル電線)としている。
【0021】
また、前記防水コネクタ1に一端が接続されるワイヤハーネス10のうち、電線30−2の他端に接続するコネクタ19は、水がかからない非浸水領域に配置されている相手方コネクタ25と接続される。該電線30−2は前記電線30−1と同様に撚線構造の芯線を備えたノーマル電線としている。
【0022】
このように、一端に防水コネクタ1を接続したワイヤハーネス10は、該ワイヤハーネスを構成する電線群のうち、他端のコネクタ位置および中間スプライス位置が浸水領域である電線20−1、20−2は単芯線の電線としている。一方、他端のコネクタが非浸水領域に位置する電線30−1、30−2は芯線が撚線構造としたノーマル電線としている。
【0023】
前記構成とすることにより、エンジンの始動、停止に伴って防水コネクタ1に負圧が発生しても、電線の芯線を通して浸水が発生するおそれがある電線は単芯線の電線20−1、20−2としているため、電線の芯線を通して防水コネクタ1へ水を吸い込むことを防止できる。また、電線の芯線を撚線構造としている電線30−1、30−2は、他端側は水がかかならない位置であるため、他端側から芯線を通して水を吸い込むことはない。
このように、電線の芯線の種類を単芯線と撚線とに使い分けるだけで、雰囲気温度の昇降で呼吸作用が発生する防水コネクタへの浸水防止を簡単に図ることができる。
【0024】
前記実施形態では、芯線を単芯線とする電線は絶縁樹脂からなる絶縁被覆層で被覆した電線としているが、単芯線の外周面に絶縁塗料の絶縁膜を設けたエナメル線としてもよい。絶縁被覆線とエナメル線とは配線環境や仕様条件に応じて使い分けすることが好ましい。
【符号の説明】
【0025】
1 防水コネクタ
10 ワイヤハーネス
20−1、20−2 単芯線の電線
21 単芯線
30−1、30−2 撚線の芯線の電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンルームの高温雰囲気中に配置される防水コネクタに一端が接続される車両用ワイヤハーネスであって、
前記ワイヤハーネスを構成する電線群のうち、他端が浸水領域に配置される非防水コネクタに接続される電線、および浸水領域で他の電線と中間スプライス接続される電線は、その芯線を単芯線とし、該単芯線を絶縁被覆層で被覆している電線またはエナメル線としていることを特徴とする車両用ワイヤハーネス。
【請求項2】
前記ワイヤハーネスを構成する電線群のうち、他端が防水コネクタに接続される電線および他端が非浸水領域のコネクタに接続される電線は撚線からなる芯線を絶縁被覆層で被覆している電線としている請求項1に記載の車両用ワイヤハーネス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate