説明

車両用冷凍サイクル装置

【課題】電池を加熱して電池の温度を調節する。
【解決手段】ガスインジェクション型の冷凍サイクル装置2は、凝縮器22と気液分離器25との間に第1減圧器23と、中間熱交換器24とを有する。中間熱交換器24は、電池4と冷媒との熱交換を提供する。制御装置5は、第1減圧器23の下流における冷媒の中間圧力が目標圧力となるように第1減圧器23の弁開度を制御する。制御装置5は、電池4の温度が最適温度範囲を越えると、電池4が冷却されるように第1減圧器23の開度を制御する。制御装置5は、電池4の温度が最適温度範囲を下回ると、電池4が加熱されるように第1減圧器23の開度を制御する。制御装置5は、電池4に必要な加熱量が増大するにつれ、中間圧力が上昇するように第1減圧器23を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスインジェクション機構を備える冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両に搭載された空調装置の冷凍サイクル装置を電気機器の温度調節に用いることを提案している。特に、この技術は、ガスインジェクション機構を備える冷凍サイクル装置を用いることにより、冷凍サイクル装置の中間圧力によって電気機器を冷却している。
【0003】
また、特許文献2は、ガスインジェクション機構を持つ冷凍サイクル装置(ヒートポンプサイクル)の中間圧力によってインバータなどの電気機器を冷却することを提案している。さらに、この装置では、電気機器の発熱量に応じて中間圧力を調整することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−290622号公報
【特許文献2】特開平11−34640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術においては、電気機器は専ら冷却されるばかりである。つまり、電気機器を冷却するための熱交換器は、第1絞りと気液分離機の間に置かれている。そして、第1絞り後の冷媒圧力を、第1および第2絞りによって調節することで、冷媒の温度を熱交換器の冷却水等よりも低い温度に調節する。このため、電気機器の冷却だけが可能である。
【0006】
ところで、移動用、すなわち走行用の電動機を備え、さらにこの電動機に給電する電池を搭載した電動車両が知られている。例えば、電動機のみによって走行する電気自動車(EV)、内燃機関と電動機とを搭載したハイブリッド車両(HV)、または外部電源から充電可能なハイブリッド車両(プラグインハイブリッド車両:PHV)などが電動車両として知られている。電動車両に搭載された電池は、ジュール熱等により発熱する。このため、専用の送風機などの冷却装置を搭載することによって冷却されている。かかる電池には、きめ細かい温度管理が必要であった。特に、リチウムイオン電池では、所期の性能を引き出すために電池温度を10°C〜40°C程度に維持する必要がある。このような機器においては、冷却ばかりでなく、機器を暖めることが求められている。
【0007】
このような要請に応えるために、冷凍サイクル装置の高圧側に熱交換器を設け、電気機器を暖めることも考えられる。しかし、電池の場合、必要な温度域は10°C〜40°C程度である。このため、冷凍サイクル装置の高圧側の冷媒をそのまま利用したのでは、高温になりすぎるおそれがあった。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、車載の電気機器の温度を制御することができる車両用冷凍サイクル装置を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、電気機器の冷却だけでなく、電気機器の加熱も可能な車両用冷凍サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0011】
請求項1に記載の発明は、低圧冷媒の吸入ポート(21a)とガスインジェクションポート(21b)とを有する圧縮機(21)と、ガスインジェクション通路(29)を経由して圧縮機に接続された気液分離器(25)と、高圧冷媒を減圧し、気液分離器に供給する減圧器(23)と、減圧器と気液分離器との間に設けられ、電気機器(4)と熱交換可能な中間熱交換器(24、224、324)と、中間熱交換器に流れる中間圧力の冷媒によって電気機器が加熱されるように減圧器を制御する制御手段(5)とを備えることを特徴とする。この構成によると、ガスインジェクション機構を備える冷凍サイクル装置よって電気機器を加熱することができる。このため、冷凍サイクル装置によって電気機器の温度を調節することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、制御手段(5)は、中間熱交換器における冷媒の中間圧力(Pm)を目標圧力(Pmc、Pmh)に制御するように減圧器(23)を制御することを特徴とする。この構成によると、冷凍サイクル装置の中間圧力が目標圧力に制御されることにより、電気機器が加熱される。
【0013】
請求項3に記載の発明は、制御手段(5)は、電気機器が作動するために適した温度範囲内に電気機器の温度を調節するために必要な必要加熱量に応じて目標圧力を設定することを特徴とする。この構成によると、目標圧力が、必要加熱量に応じて設定される。このため、電気機器が作動するために適した温度範囲内に、電気機器の温度を調節することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、制御手段(5)は、必要加熱量が大きくなるほど、目標圧力を高く設定することを特徴とする。この構成によると、必要加熱量が大きくなるほど、目標圧力が高く設定される。このため、中間熱交換器における冷媒の温度が高くなる。この結果、電気機器を素早く加熱することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、制御手段(5)は、中間熱交換器における冷媒の温度が、電気機器が作動するために適した温度範囲内となるように、目標圧力を設定することを特徴とする。この構成によると、中間熱交換器における冷媒の温度が、電気機器が作動するために適した温度範囲内に制御される。この結果、電気機器の過剰な加熱が抑制される。
【0016】
請求項6に記載の発明は、制御装置は、圧縮機への液バックを検出すると中間熱交換器と電気機器との熱交換量を減少させる液バック防止制御手段(655)を備えることを特徴とする。この構成によると、圧縮機への液バックが検出されると中間熱交換器における熱交換量が減少される。熱交換量の減少により、中間熱交換器における冷媒の凝縮が抑制され、液バックが抑制される。この結果、液バックに起因する液圧縮が抑制される。
【0017】
なお、特許請求の範囲および上記手段の項に記載した括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態の車両用冷凍サイクル装置による冷却制御状態を示すモリエル線図である。
【図3】第1実施形態の車両用冷凍サイクル装置による加熱制御状態を示すモリエル線図である。
【図4】本発明を適用した第2実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。
【図5】本発明を適用した第3実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。
【図6】本発明を適用した第4実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。
【図7】本発明を適用した第5実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。
【図8】本発明を適用した第6実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。
【図9】車両用冷凍サイクル装置の液バック状態を示すモリエル線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本発明を適用した第1実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。車両には、車室内の温度を調節するための車両用の空調装置1が設けられている。空調装置1は、車両に搭載された車両用の冷凍サイクル装置2を備える。冷凍サイクル装置2は、主として車室内に供給される空気を冷却するために利用される。冷凍サイクル装置2は、車室内に供給される空気を加熱するヒートポンプサイクルを提供してもよい。車両には、車両の走行用の動力源としてのモータ3が設けられている。モータ3は、車両の駆動輪を駆動する。車両には、モータ3に給電する電池4が設けられている。電池4は、二次電池である。電池4は、車両に搭載された電気化学的な機器である。電池4は、車両に搭載された電気機器である。電池4は、例えば、リチウムイオン電池によって提供される。冷凍サイクル装置2は、電池4と熱交換可能に構成されている。冷凍サイクル装置2は、空調装置1のための装置であるとともに、電池4の温度を調節するための電池温度調節装置でもある。車両には、冷凍サイクル装置2を制御する制御装置5が設けられている。
【0021】
冷凍サイクル装置2は、圧縮機21と、凝縮器22と、第1減圧器23と、電気機器のための中間熱交換器24と、気液分離器25と、第2減圧器26と、蒸発器27とを備える。冷凍サイクル装置2が提供する冷凍サイクルは、ガスインジェクションサイクルとも呼ばれる。圧縮機21、凝縮器22、第1減圧器23、気液分離器25、第2減圧器26、および蒸発器27は、主冷媒回路28上に上記順序で配置されている。気液分離器25と圧縮機21との間には、ガスインジェクション通路29が設けられている。
【0022】
圧縮機21は、低圧冷媒を吸入し、加圧することにより高圧冷媒を吐出する。
圧縮機21は、圧縮工程の途中段階において中間圧力のガス冷媒を導入するガスインジェクション型の圧縮機である。圧縮機21は、低圧冷媒の吸入ポート21aと、中間圧力の冷媒を導入するガスインジェクションポート21bと、加圧された冷媒の吐出ポート21cとを有する。圧縮機21は、第1の圧縮段階と、第2の圧縮段階とを有し、それら第1の圧縮段階と第2の圧縮段階との間にガスインジェクションポート21bを有している。凝縮器22は、圧縮機21から吐出された高圧冷媒から放熱させる放熱器である。凝縮器22は、高圧冷媒を放熱させることにより冷媒を凝縮させる。凝縮器22は、車室外の空気と熱交換することにより、冷媒を凝縮させる。
【0023】
第1減圧器23は、凝縮器22から出た高圧冷媒を、中間圧力まで減圧する。第1減圧器23は、高圧冷媒を減圧し、中間圧力の冷媒を中間熱交換器24および気液分離器25に供給する。第1減圧器23によって中間圧力の冷媒が得られる。第1減圧器23は、開度を調節可能な弁である。第1減圧器23の開度は制御装置5によって調節される。
【0024】
第1減圧器23の下流には、車両に搭載された電気機器としての電池4の温度を調節するための中間熱交換器24が設けられている。中間熱交換器24は、第1減圧器23と気液分離器25との間に設けられ、電気機器と熱交換可能に構成されている。中間熱交換器24は、中間圧力の冷媒と電気機器との間の、直接的な、または間接的な熱交換を提供する。
【0025】
中間熱交換器24は、第1熱交換器24aと、熱輸送媒体の循環システム24bと、第2熱交換器24cとを備える。第1熱交換器24aは、冷媒と熱輸送媒体との熱交換を提供する。循環システム24bは、第1熱交換器24aと第2熱交換器24cとの間を熱輸送媒体が循環する循環通路を提供する。熱輸送媒体として、例えば水を用いることができる。循環システム24bは、電池4と中間圧力の冷媒との間の熱輸送を提供する。循環システム24bは、電池4から中間圧力の冷媒への熱の輸送と、中間圧力の冷媒から電池4への熱の輸送との両方向の熱輸送を可能とする。循環システム24bは、中間圧力の冷媒による電池4の冷却と、中間圧力の冷媒による電池4の加熱との両方を可能としている。第2熱交換器24cは、電池4と熱輸送媒体との熱交換を提供する。
【0026】
中間熱交換器24の下流には、気液分離器25が設けられている。気液分離器25は、液冷媒とガス冷媒とを分離する。気液分離器25は、ガスインジェクション通路29を経由して圧縮機21に接続されている。また、気液分離器25は、主冷媒回路28を経由して第2減圧器26に接続されている。気液分離器25は、ガス冷媒を圧縮機21に供給し、液冷媒を第2減圧器26に供給する。中間熱交換器24は、第1減圧器23と気液分離器25との間に配置されている。
【0027】
主冷媒回路28上における気液分離器25の下流には、第2減圧器26が設けられている。第2減圧器26は、中間圧力の冷媒を空調のための低圧圧力に減圧する。第2減圧器26の下流には、蒸発器27が設けられている。蒸発器27は、冷媒に吸熱させる吸熱用熱交換器である。蒸発器27は、車室内に供給される空気と熱交換することにより、車室内に供給される空気を冷却する。
【0028】
制御装置5は、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピュータによって提供される。記憶媒体は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムを格納している。記憶媒体は、メモリによって提供されうる。プログラムは、制御装置5によって実行されることによって、制御装置5をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される制御方法を実行するように制御装置5を機能させる。制御装置5が提供する手段は、所定の機能を達成する機能的ブロック、またはモジュールとも呼ぶことができる。
【0029】
空調装置1は、冷凍サイクル装置2の作動状態を検出するための複数の検出手段として複数のセンサを備えることができる。複数のセンサのひとつは、圧力センサ53である。圧力センサ53は、中間圧力Pmを検出する。圧力センサ53は、中間圧力Pmを検出するための中間圧力検出手段を提供する。
【0030】
空調装置1は、電池4の状態、例えば温度状態を検出するための複数の検出手段として複数のセンサを備えることができる。複数のセンサのひとつは、温度センサ54である。温度センサ54は、電池4の温度Tbを検出する。温度センサ54は、電池4の容器(電池パック)内に設置されている。温度センサ54は、電池4の温度Tbを検出するための電池温度検出手段を提供する。温度センサ54は、温度制御されるべき電気機器の温度Tbを検出するための機器温度検出手段でもある。
【0031】
制御装置5は、冷凍サイクル装置2が車室内の空調のために機能するように第1減圧器23を制御する。さらに、制御装置5は、冷凍サイクル装置2が電池4の温度調節のために機能するように第1減圧器23を制御する。制御装置5は、中間熱交換器24に流れる中間圧力の冷媒によって電池4が加熱されるように第1減圧器23を制御する制御手段を提供する。また、制御装置5は、冷凍サイクル装置2が、車室内の空調のために、かつ、電池4の温度調節のために機能するように第1減圧器23を制御する。
【0032】
制御装置5は、冷却制御手段51と、加熱制御手段52とを備える。冷却制御手段51は、電池4を冷却するように第1減圧器23を制御する。冷却制御手段51は、中間熱交換器24において電池4を冷却することができる低温が得られるように、第1減圧器23の開度を比較的小さい開度に制御する。冷却制御手段51は、中間熱交換器24において電池4を冷却することができる低温が得られるように、中間圧力Pmが比較的低い圧力になるように第1減圧器23の開度を調節する。加熱制御手段52は、電池4を加熱するように第1減圧器23を制御する。加熱制御手段52は、中間熱交換器24において電池4を加熱することができる高温が得られるように、第1減圧器23の開度を比較的大きい開度に制御する。加熱制御手段52は、中間熱交換器24において電池4を加熱することができる高温が得られるように、中間圧力Pmが比較的高い圧力になるように第1減圧器23の開度を調節する。
【0033】
この実施形態の電池4は、電池4の温度が所定の最適温度範囲にあるときに高い性能を発揮する。最適温度範囲は、例えば、10°C〜40°Cの間である。制御装置5は、電池4の温度が最適温度範囲に維持されるように第1減圧器23を制御する。制御装置5は、中間圧力Pmが所定の冷却用目標圧力Pmc、または加熱用目標圧力Pmhになるように第1減圧器23をフィードバック制御する。電池4の温度は、温度センサ54によって検出される。中間圧力Pmは、圧力センサ53により検出される。制御装置5は、電池4の温度が最適温度範囲内にあるとき、冷凍サイクル装置2がガスインジェクションサイクルとして運転され、主として車室内の空調のために機能するように第1減圧器23を制御する。
【0034】
図2は、第1実施形態の車両用冷凍サイクル装置による冷却制御状態を示すモリエル線図である。冷却用目標圧力Pmcにおける冷媒温度は、電池4の温度より十分に低い。この実施形態では、電池4の温度が上限温度である40°Cを越えると冷却制御手段51による制御が実行される。よって、冷却用目標圧力Pmcにおける冷媒温度は40°Cより低い温度である。この結果、電池4は冷凍サイクル装置2によって冷却され、冷やされる。
【0035】
図3は、第1実施形態の車両用冷凍サイクル装置による加熱制御状態を示すモリエル線図である。加熱用目標圧力Pmhにおける冷媒温度は、電池4の温度より十分に高い。この実施形態では、電池4の温度が下限温度である10°Cを下回ると加熱制御手段52による制御が実行される。よって、加熱用目標圧力Pmhにおける冷媒温度は10°Cより高い温度である。この結果、電池4は冷凍サイクル装置2によって加熱され、暖められる。
【0036】
図2および図3においては、中間熱交換器24における圧力と気液分離器25の下流における液冷媒圧力とガス冷媒圧力とが異なる圧力として図示されているが、これはモリエル線図上における機器22、23、24、25、26、27の位置と機能との理解を容易にするために編集されたものである。
【0037】
この実施形態では、第1減圧器23の下流において0.4MPa〜0.8MPaの中間圧力を得ることができ、その中間圧力の範囲において10°C〜30°Cの冷媒温度を得ることができる冷媒が用いられている。
【0038】
制御装置5(冷却制御手段51)は、電池4の温度が40°Cを越えると、電池4を冷却するように第1減圧器23を制御する。冷却制御手段51は、中間圧力Pmが所定の冷却用目標圧力Pmcになるように第1減圧器23をフィードバック制御する。
【0039】
制御装置5(加熱制御手段52)は、電池4の温度が10°Cを下回ると、電池4を加熱するように第1減圧器23を制御する。加熱制御手段52は、中間圧力Pmが所定の加熱用目標圧力Pmhになるように第1減圧器23をフィードバック制御する。
【0040】
制御装置5は、電池4が作動するために適した最適温度範囲内に電池4の温度を調節するために必要な必要加熱量に応じて目標圧力を設定する。加熱目標圧力Pmhは、電池4の温度を最適温度範囲に維持するために必要な必要加熱量が増大するにつれて、中間圧力Pmが高く上昇するように設定することができる。必要加熱量は、温度センサ54によって検出される電池4の温度と、目標温度との差によって与えることができる。目標温度は最適温度範囲の中の温度値とすることができ、例えば25°Cとすることができる。電池4の温度が目標温度より低くなるほど、加熱目標圧力Pmhは高く設定される。これにより、中間熱交換器24における冷媒の温度が、電池4の温度より高く維持される。さらに、電池4の温度が目標温度より低くなるほど、冷媒の温度が高くなるため、電池4の温度を目標温度へ素早く調節することができる。
【0041】
制御装置5は、中間熱交換器24における冷媒の温度が、電池4が作動するために適した上記最適温度範囲内となるように、目標圧力を設定する。つまり、加熱目標圧力Pmhは、所定の上限圧力以下に設定される。加熱目標圧力Pmhの上限圧力は、中間圧力における冷媒温度が、電池4の最適温度範囲の上限値以下の温度になる圧力値に設定される。具体的には、加熱目標圧力Pmhの上限圧力は、冷媒温度が、電池4の上限温度である40°Cより低い30°Cになる0.8MPa程度に設定することができる。これにより電池4の過剰な加熱を回避することができる。冷却目標圧力Pmcも、加熱目標圧力Pmhと同様に設定することができる。すなわち、目標圧力Pmc、Pmhの可変範囲は、その可変範囲において得られる冷媒温度の範囲が、電池4の最適温度範囲内となるように設定することができる。
【0042】
この実施形態によると、冷凍サイクル装置2によって電池4を冷却することができるとともに、冷凍サイクル装置2によって電池4を加熱することができる。このため、電池4の温度を所定の温度範囲に維持することができる。
【0043】
(第2実施形態)
図4は、本発明を適用した第2実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。第1実施形態では、水を熱輸送媒体として利用する中間熱交換器24を採用した。これに代えて、この実施形態では、空気を熱輸送媒体として利用する中間熱交換器224を採用する。電池204は、空気と熱交換可能に構成されている。中間熱交換器224は、第1熱交換器224aと、送風機224bとを備える。第1熱交換器224aは、中間圧力の冷媒と、空気との熱交換を提供する。送風機224bは、第1熱交換器224aを通過した空気を電池204に供給する。この構成においても、中間熱交換器224は、電池204を冷却することができるとともに、電池204を加熱することができる。
【0044】
(第3実施形態)
図5は、本発明を適用した第3実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。上記実施形態では、熱輸送媒体を利用する中間熱交換器24を採用した。これに代えて、この実施形態では、中間圧力の冷媒と電池4との間の直接的な熱交換を提供する中間熱交換器324を採用する。中間熱交換器324は、第1減圧器23の下流に設けられ、電池4に到達する配管324bを有する。さらに中間熱交換器324は、電池4と冷媒との熱交換を提供する熱交換器324cを備える。この構成においても、中間熱交換器324は、電池4を冷却することができるとともに、電池4を加熱することができる。
【0045】
(第4実施形態)
図6は、本発明を適用した第4実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。上記実施形態では、温度センサ54は電池4の温度を直接的に検出するように配置した。これに代えて、この実施形態では、温度センサ454は、熱輸送媒体である水の温度を検出する。温度センサ454は、循環システム24bの配管に設けられ、熱輸送媒体の温度を検出する。熱輸送媒体の温度は、電池4の温度に対応する。よって、温度センサ454は、電池4の温度を間接的に検出している。この構成においても、中間熱交換器324は、電池4を冷却することができるとともに、電池4を加熱することができる。
【0046】
(第5実施形態)
図7は、本発明を適用した第5実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。上記実施形態では第1減圧器23の下流における中間圧力Pmを目標圧力Pmc、Pmhに制御した。これに代えて、第1減圧器23の下流における冷媒の乾き度χ(カイ)を検出し。この乾き度を目標乾き度に制御する。乾き度χは、第1減圧器23の下流における気液混合冷媒に占める蒸気冷媒(ガス冷媒)の割合に相当する。乾き度χは、図3に示されるように、飽和蒸気線と飽和液線との間の等圧線上における蒸気量に対応している。空調装置1は、圧力センサ53に代えて、乾き度演算手段553を備える。乾き度演算手段553は、乾き度χを演算するために必要な冷凍サイクル装置2の作動状態を検出する複数の検出手段を含む。
【0047】
例えば、乾き度演算手段553は、圧縮機21から吐出された冷媒の状態を検出する吐出圧力センサおよび吐出温度センサを備える。さらに、乾き度演算手段553は、中間圧力の冷媒密度を検出する密度センサ、圧縮機の回転数を検出する回転数センサ、および圧縮機の排出容積を検出する容量センサを備えることができる。冷媒の循環量が、中間圧力の冷媒密度、圧縮機21の排出容積、および回転数から算出される。さらに、乾き度演算手段553は、凝縮器22における放熱量を検出する温度センサおよび風量センサを備えることができる。乾き度演算手段553は、これらの検出値から乾き度χを演算する。乾き度χに代えて、冷媒のエンタルピ、あるいは湿り度を演算してもよい。
【0048】
制御装置5は、冷媒の乾き度χが、中間熱交換器24において必要な加熱量または冷却量に応じた目標乾き度になるように第1減圧器23を制御する。この構成においても、中間熱交換器24は、電池4を冷却することができるとともに、電池4を加熱することができる。
【0049】
(第6実施形態)
図8は、本発明を適用した第6実施形態に係る車両用冷凍サイクル装置を示すブロック図である。上記実施形態では、冷凍サイクル装置2を電池温度調節装置としても利用した。これに加えて、この実施形態では、冷凍サイクル装置2が電池温度調節装置として利用されるときに、冷凍サイクル装置2を液圧縮から保護する保護手段を採用する。
【0050】
図9は、車両用冷凍サイクル装置の液バック状態を示すモリエル線図である。中間圧力Pmによって電池4を加熱する場合、冷媒からの放熱量、すなわち電池4の加熱量が大きくなりすぎる場合がある。この場合、中間熱交換器24後における冷媒はエンタルピが低くなり、ほとんどが液相冷媒となるおそれがある。この場合、気液分離器25が液冷媒によって満たされ、ガスインジェクション通路29にも液冷媒が流入するおそれがある。このような現象は液バックと呼ばれる。液バックが生じると、圧縮機21において液圧縮が発生し、圧縮機21が損傷するおそれがあった。
【0051】
制御装置5は、保護手段としての液バック防止制御手段655を備える。液バック防止制御手段655は、液バックを検出するために必要な冷凍サイクル装置2の作動状態を検出する複数の検出手段を含む。さらに、制御装置5は、中間熱交換器24における熱負荷、すなわち中間熱交換器24における電池4と冷媒との熱交換量を調節し、特に熱交換量を減少させるための制限手段656を備える。制限手段656は、循環システム24bにおける熱輸送媒体の流量を調節するポンプ656によって提供することができる。液バック防止制御手段655は、圧縮機21への液バックを検出すると中間熱交換器24と電池4との間の熱交換量を減少させる。熱交換量の減少により、中間熱交換器24における冷媒の凝縮が抑制され、液バックが抑制される。この結果、液バックに起因する液圧縮が抑制される。
【0052】
例えば、液バック防止制御手段655は、圧縮機21の吐出側における冷媒の圧力、および/または温度を検出するセンサを備えることができる。液圧縮の兆候は、圧縮機21から吐出される冷媒の温度低下によって検知することができる。液バック防止制御手段655は、吐出冷媒の温度に関連する上記指標が、予めマップ化された既定値の範囲から外れた場合は、中間熱交換器24における熱負荷を下げるようにポンプ656を制御する。すなわち、圧縮機21への液バックにより吐出冷媒の温度が規定値よりも下がった場合は、ポンプ656の回転数を低下させ、流量を低下させる。これにより、中間熱交換器24における熱交換量が制限され、冷媒の過剰な液化が阻止される。このため、気液分離器25は再びガス冷媒をガスインジェクション通路29に供給できるようになる。
【0053】
なお、この実施形態ではポンプ656の回転数を低下させたが、第2実施形態の構成においては、送風機224bの回転数を低下させてもよい。
【0054】
この実施形態によると、電池4の温度を所定の温度範囲に維持することができるとともに、冷凍サイクル装置2を液圧縮から保護することができる。
【0055】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。上記実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0056】
例えば、上記実施形態では、冷却制御手段51は中間圧力Pmを冷却用目標圧力Pmcに制御した。これに代えて、凝縮器22の下流における過冷却度を冷却用目標値に制御するように第1減圧器23を制御してもよい。過冷却度は、サブクールとも呼ばれ、図2に記号SCによって示されている。
【0057】
また、上記実施形態では、冷凍サイクル装置2は、電池4の冷却と加熱との両方に利用された。これに代えて、冷凍サイクル装置2を電池4の加熱にのみ利用してもよい。また、この場合、電池4の冷却は車室外の空気または車室内の空気による空冷構造としてもよい。
【0058】
また、制御装置が提供する手段と機能は、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、制御装置をアナログ回路によって構成してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 車両用空調装置、2 車両用冷凍サイクル装置、21 圧縮機、22 凝縮器、23 第1減圧器、24 中間熱交換器、24a 第1熱交換器、24b 循環システム、24c 第2熱交換器、25 気液分離器、26 第2減圧器、27 蒸発器、3 モータ、4 電池、5 制御装置、51 冷却制御手段、52 加熱制御手段、53 圧力センサ(中間圧力検出手段)、54 温度センサ(機器温度検出手段)、204 電池、205 送風機、224 中間熱交換器、224a 第1熱交換器、224b 送風機、324 中間熱交換器、324b 配管、324c 熱交換器、454 温度センサ、553 乾き度演算手段、655 液バック防止制御手段、656 ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低圧冷媒の吸入ポート(21a)とガスインジェクションポート(21b)とを有する圧縮機(21)と、
ガスインジェクション通路(29)を経由して前記圧縮機に接続された気液分離器(25)と、
高圧冷媒を減圧し、前記気液分離器に供給する減圧器(23)と、
前記減圧器と前記気液分離器との間に設けられ、電気機器(4)と熱交換可能な中間熱交換器(24、224、324)と、
前記中間熱交換器に流れる中間圧力の冷媒によって前記電気機器が加熱されるように前記減圧器を制御する制御手段(5)とを備えることを特徴とする車両用冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記制御手段(5)は、前記中間熱交換器における冷媒の中間圧力(Pm)を目標圧力(Pmc、Pmh)に制御するように前記減圧器(23)を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記制御手段(5)は、前記電気機器が作動するために適した温度範囲内に前記電気機器の温度を調節するために必要な必要加熱量に応じて前記目標圧力を設定することを特徴とする請求項2に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記制御手段(5)は、前記必要加熱量が大きくなるほど、前記目標圧力を高く設定することを特徴とする請求項3に記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記制御手段(5)は、前記中間熱交換器における冷媒の温度が、前記電気機器が作動するために適した温度範囲内となるように、前記目標圧力を設定することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載の車両用冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記圧縮機への液バックを検出すると前記中間熱交換器と前記電気機器との熱交換量を減少させる液バック防止制御手段(655)を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の車両用冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−236577(P2012−236577A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108505(P2011−108505)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】