車両用動力伝達装置の制御装置
【課題】車両発進時であっても発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習する。
【解決手段】発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときの最大時実エンジン回転速度NEmaxが、差回転速度NSが最大のときの最大時推定エンジントルクTE’maxに応じて増加する最大時目標エンジン回転速度NE*maxよりも低い場合には、ロックアップクラッチトルクTLUが過多であると判断されて、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUが学習により減圧側に補正されるので、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUのばらつきを安定して検出することができる。よって、差回転速度NSが最大のときのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとを用いることで、ハード依存のばらつき要素が多い車両発進時の過渡であっても、安定して学習することができる。
【解決手段】発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときの最大時実エンジン回転速度NEmaxが、差回転速度NSが最大のときの最大時推定エンジントルクTE’maxに応じて増加する最大時目標エンジン回転速度NE*maxよりも低い場合には、ロックアップクラッチトルクTLUが過多であると判断されて、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUが学習により減圧側に補正されるので、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUのばらつきを安定して検出することができる。よって、差回転速度NSが最大のときのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとを用いることで、ハード依存のばらつき要素が多い車両発進時の過渡であっても、安定して学習することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両発進時にロックアップスリップ制御を行う車両用動力伝達装置の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの動力を無段変速機や多段変速機等の変速機へ伝達する流体伝動装置(例えばトルクコンバータやフルードカップリング等)の入出力間を直結可能なロックアップクラッチを備える車両が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両がそれである。一般に、このようなロックアップクラッチは、燃費の向上等を目的として予め設定された関係から車両状態に基づいてその係合・解放が判断され、例えば車両の走行状態がロックアップ領域内に入るとロックアップ制御が開始される。更に、上記予め設定された関係から車両状態に基づいてロックアップクラッチに所定の滑りを与えることにより広い走行範囲でロックアップ作動を可能とするスリップ制御(ロックアップスリップ制御、フレックスロックアップ制御)を実施することで、ロックアップ制御領域を拡大させて燃費を向上させることを可能としている。このようなスリップ制御では、例えばロックアップクラッチの入出力回転速度差(入出力間の差回転速度、スリップ回転速度、スリップ量)を目標値とするようにフィードバック制御によりロックアップクラッチのトルク容量を制御している。
【0003】
また、車両発進に際して、ロックアップクラッチを積極的に掴みにいき、ロックアップクラッチのスリップ制御を実施することで、例えばエンジン回転速度の上昇を抑制して(エンジン回転速度の吹き上がりを抑制して)比較的エンジン燃焼効率の良い低回転高トルク領域を活用することで燃費向上を図る発進時ロックアップスリップ制御(発進時スリップ制御、フレックススタート制御)も提案されている。この発進時スリップ制御は、ロックアップクラッチの差回転速度(例えばエンジン回転速度と車速に拘束されるタービン回転速度との回転速度差)が比較的大きな発進時からの制御となることから、フィードバック制御ではなく、例えばオープン制御(フィードフォワード制御)のみにてロックアップクラッチのトルク容量(すなわちロックアップクラッチのスリップ量)が制御される。図13は、発進時スリップ制御の一例を示すタイムチャートである。この図13の従来例では、ロックアップクラッチのスリップ量の制御にソレノイド弁SLUが用いられており、車両発進に際して、フィードフォワード制御にてソレノイド弁SLUに対して発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧指令値(SLU指示圧)が出力され、ロックアップクラッチのスリップ係合によりエンジン回転速度の上昇が抑制されている。
【0004】
ここで、上述したようなロックアップクラッチのスリップ量を制御するソレノイド弁では、ロックアップクラッチ圧指令値に対応する駆動電流Iに応じた出力圧Pの特性(I/P特性)が初期品質で正負に振れる(例えば±数十[kPa]の)ハード的なばらつきを有しており、ロックアップクラッチ圧指令値に対するロックアップクラッチのトルク容量(ロックアップクラッチトルク)にばらつきが生じる。その為、上記I/P特性が正側に最大振れるソレノイド弁では発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧指令値により、車両発進過渡時のロックアップクラッチのトルク容量(ロックアップクラッチトルク)が過多ぎみとなり(すなわち車両発進直後にロックアップクラッチを掴み過ぎてしまい)、図13に示すようにエンジン回転速度が変動して、トルク揺れやショックが発生する可能性がある。これに対して、初期の適合値(発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧指令値)を下げることが考えられるが、この場合には、上記I/P特性が正側に最大振れないソレノイド弁では、車両発進時のエンジン回転速度の吹き上がりを適切に抑えることができず、燃費向上効果が低減してしまう可能性がある。そこで、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧(ロックアップクラッチ圧指令値も同意)を車両毎に学習により補正することで、ハード的なばらつきや経年変化に対応することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−29464号公報
【特許文献2】特開2006−336854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両発進時は、ハード依存(例えば立ち上がり時のエンジントルク安定度、ロックアップクラッチの滑り速度変化に伴う摩擦係数変化、アクセルペダルの遊び等)のばらつき要素が多い為、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクのばらつきを安定的に検出することが難しく、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定的に学習することが困難となる可能性がある。そこで、ソレノイド以外の特性が比較的安定する定常走行時(例えば車両走行が安定した加速域等)のスリップ制御中にロックアップクラッチ圧を学習し、その際の学習値(或いは学習補正量)を発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧に反映する方法がある。しかしながら、昨今のロックアップ領域の拡大により定常走行時のスリップ制御の頻度が少なくなり、結果的に学習回数が少なくなり、学習値が収束しないまま反映された発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧指令値を用いて発進時スリップ制御が繰り返し実行されることでショックが連続して発生する可能性がある。また、定常走行時と車両発進時とでは、エンジントルクの使用領域、ロックアップクラッチ圧指令値の使用領域、ドライバビリティの悪化が許容される範囲などが異なる為、単純に定常走行時の学習値を発進時スリップ制御に反映できない可能性がある。従って、車両発進時においても独自にロックアップクラッチ圧を学習することが望まれる。尚、このような課題は未公知であり、ハード依存のばらつき要素が多い車両発進時であっても、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクのばらつきを安定的に検出し、定常走行時と同様にロックアップクラッチ圧を安定して学習することについて未だ提案されていない。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両発進時であっても発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する為の第1の発明の要旨とするところは、(a) エンジンの動力を自動変速機へ伝達する流体伝動装置の入出力回転部材間を直結可能なロックアップクラッチを備え、車両発進に際して前記ロックアップクラッチをスリップ係合させる発進時ロックアップスリップ制御を行う車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 前記発進時ロックアップスリップ制御中において前記ロックアップクラッチの差回転速度が最大のときの実際のエンジン回転速度が、その差回転速度が最大のときのエンジントルクの推定値に応じて増加する目標のエンジン回転速度よりも低い場合には、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により減圧側に補正することにある。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、前記発進時ロックアップスリップ制御中において前記ロックアップクラッチの差回転速度が最大のときの実際のエンジン回転速度が、その差回転速度が最大のときのエンジントルクの推定値に応じて増加する目標のエンジン回転速度よりも低い場合には、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧が学習により減圧側に補正されるので、エンジン回転速度の変化量(変化速度)が略零となってエンジンイナーシャを無視できたり、また流体伝動装置としてのトルクコンバータの速度比の関数であるそのトルクコンバータの容量係数が略一定の状態とされて、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクのばらつきを安定して検出することができる。つまり、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクが過多気味であるか否かを安定して判断することができる。よって、ロックアップクラッチの差回転速度が最大のときのエンジントルクとエンジン回転速度とを用いることで、ハード依存のばらつき要素が多い車両発進時の過渡であっても、発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習することができる。
【0010】
ここで、第2の発明は、前記第1の発明に記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差回転速度が最大のときは、前記発進時ロックアップスリップ制御の開始後に第1の所定時間が経過してから第2の所定時間が経過するまでの予め求められた発進時ロックアップスリップ制御中での前記差回転速度の発生現象を見る為の一定の所定期間内において判断されることにある。このようにすれば、エンジン吹きに伴って大きくなり且つロックアップクラッチのスリップ係合に伴って小さくなるという発進時ロックアップスリップ制御中での差回転速度の発生現象を適確に捉えることができる。
【0011】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記実際のエンジン回転速度が前記目標のエンジン回転速度よりも高い場合には、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により増圧側に補正することにある。このようにすれば、車両発進時の過渡であっても、発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習することができる。
【0012】
また、第4の発明は、前記第3の発明に記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記実際のエンジン回転速度の方が高い場合が所定回数連続で判定されたときに、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により増圧側に補正することにある。このようにすれば、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクが確実に足りていないことを判断できたときにロックアップクラッチ圧を増圧側に補正することができる。つまり、ロックアップクラッチ圧の増圧側への補正は、エンジン回転速度の吹き上がりを抑制することになり、燃費向上には貢献するがドライバビリティは悪化する傾向があることに対して、この増圧側への補正を慎重にすることでドライバビリティを重視することができる。
【0013】
また、第5の発明は、前記第1の発明乃至第4の発明の何れか1つに記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記実際のエンジン回転速度と前記目標のエンジン回転速度との差分が大きくなる程学習による補正量を大きくすることにある。このようにすれば、学習によりロックアップクラッチ圧が一層適切に補正される。
【0014】
また、第6の発明は、前記第5の発明に記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差分が所定値を超えてから補正量を大きくすることにある。このようにすれば、学習によるロックアップクラッチ圧の更新頻度が抑制され、学習値を保存する記憶装置(メモリ)の物理的な耐久性が向上される。
【0015】
また、第7の発明は、前記第1の発明乃至第6の発明の何れか1つに記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記目標のエンジン回転速度は、前記発進時ロックアップスリップ制御中においてドライバビリティの悪化が許容される範囲で燃費性能を向上させる為に可及的に低下させたエンジン回転速度として予め実験的に求められた前記差回転速度が最大のときの理想のエンジン回転速度である。このようにすれば、車両発進時の過渡であっても、発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用される車両に備えられた動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明する図である。
【図2】自動変速機などの構成を説明する骨子図である。
【図3】自動変速機の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図4】油圧制御回路のうちロックアップクラッチの作動制御等に関する回路図である。
【図5】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】予め記憶されたエンジントルクマップの一例を示す図である。
【図7】発進時スリップ制御及び定常時スリップ制御を実行する際に設定されるLUクラッチ圧指令値の一例を示す図である。
【図8】NS最大時エンジン回転速度NEmaxとエンジントルクTEとの予め実験的に求められた目標線を有する関係(マップ)の一例を示す図である。
【図9】トルクコンバータの容量係数と速度比との関係(作動特性図)の一例を示す図である。
【図10】差分と学習による補正量との予め実験的に求められた関係(補正量マップ)の一例を示す図である。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわち車両発進時であっても発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図12】図11の制御作動に対応するタイムチャートである。
【図13】発進時スリップ制御の従来例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、好適には、前記エンジンとしては、例えば燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関等のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等が好適に用いられるが、電動機等の他の原動機をエンジンと組み合わせて採用することもできる。
【0018】
また、好適には、前記発進時ロックアップスリップ制御は、前記エンジン回転速度が吹け上がるのを抑制するように、車両に対する加速要求量に応じてロックアップクラッチ圧指令値を設定するフィードフォワード制御である。
【0019】
また、好適には、前記自動変速機は、例えば複数組の遊星歯車装置の回転要素が係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される公知の遊星歯車式自動変速機、常時噛み合う複数対の変速ギヤを2軸間に備えてそれら複数対の変速ギヤのいずれかを同期装置によって択一的に動力伝達状態とする同期噛合型平行2軸式変速機ではあるが油圧アクチュエータにより駆動される同期装置によって変速段が自動的に切換られることが可能な同期噛合型平行2軸式自動変速機、同期噛合型平行2軸式自動変速機であるが入力軸を2系統備えて各系統の入力軸にクラッチがそれぞれ繋がり更にそれぞれ偶数段と奇数段へと繋がっている型式の変速機である所謂DCT(Dual Clutch Transmission)、動力伝達部材として機能する伝動ベルトが有効径が可変である一対の可変プーリに巻き掛けられ変速比が無段階に連続的に変化させられる所謂ベルト式無段変速機、共通の軸心まわりに回転させられる一対のコーンとその軸心と交差する回転中心回転可能な複数個のローラがそれら一対のコーンの間で挟圧されそのローラの回転中心と軸心との交差角が変化させられることによって変速比が可変とされた所謂トラクション型無段変速機などにより構成される。また、前記自動変速機の車両に対する搭載姿勢は、その自動変速機の軸線が車両の幅方向となるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両などの横置き型でも、その自動変速機の軸線が車両の前後方向となるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両などの縦置き型でも良い。
【0020】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
図1は、本発明が適用される車両10に備えられたエンジン14から駆動輪32までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、エンジン14の出力制御、自動変速機18の変速制御などの為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明する図である。また、図2は、自動変速機18などを説明する骨子図である。尚、トルクコンバータ16や自動変速機18等は中心線(軸心RC)に対して略対称的に構成されており、図2ではその中心線の下半分が省略されている。また、図2中の軸心RCはエンジン14、トルクコンバータ16の回転軸心である。
【0022】
図1,図2において、車両用動力伝達装置12(以下、動力伝達装置12という)は、車体にボルト止め等によって取り付けられる非回転部材としてのトランスアクスルケース20(以下、ケース20という)内の軸心RC上において、エンジン14側から順番に、トルクコンバータ16、自動変速機18等を備えている。また、動力伝達装置12は、自動変速機18の出力回転部材である出力歯車24と噛み合うデフリングギヤ26、そのデフリングギヤ26を一体的に備える差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)28、その差動歯車装置28に連結された1対の車軸30等を備えている。このように構成された動力伝達装置12は、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の車両10に好適に用いられるものである。動力伝達装置12において、エンジン14の動力は、クランク軸15から、トルクコンバータ16、自動変速機18、デフリングギヤ26、差動歯車装置28、及び1対の車軸30等を順次介して1対の駆動輪32へ伝達される。
【0023】
トルクコンバータ16は、ポンプ翼車16pとタービン翼車16tとの間で流体を介して動力伝達を行う流体伝動装置である。このポンプ翼車16pは、クランク軸15を介してエンジン14に連結されており、エンジン14からの駆動力が入力され且つ軸心RC回りに回転可能なトルクコンバータ16の入力側回転要素である。また、タービン翼車16tは、トルクコンバータ16の出力側回転要素であり、自動変速機18の入力回転部材である入力軸19にスプライン嵌合等によって相対回転不能に連結されている。また、ポンプ翼車16p及びタービン翼車16tの間には、それらの間すなわちトルクコンバータ16の入出力回転部材間を直結可能なロックアップクラッチ34が設けられている。また、ポンプ翼車16pには、自動変速機18を変速制御したり、ロックアップクラッチ34の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりする為の元圧となる作動油圧をエンジン14によって回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ22が連結されている。
【0024】
ロックアップクラッチ34は、良く知られているように、摩擦材を滑らせ差回転が発生する機構を有して、油圧制御回路100によって係合側油室16on内の油圧PONと解放側油室16off内の油圧POFFとの差圧ΔP(=PON−POFF)が制御されることによりフロントカバー16cに摩擦係合させられる油圧式の摩擦クラッチである(図4参照)。トルクコンバータ16の運転状態としては、例えば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ34が解放される所謂ロックアップ解放(ロックアップオフ)、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ34が滑りを伴って半係合される所謂ロックアップスリップ状態(スリップ状態)、及び差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ34が完全係合される所謂ロックアップ状態(係合状態、ロックアップオン)の3状態に大別される。例えば、ロックアップクラッチ34が完全係合(ロックアップオン)させられることにより、ポンプ翼車16p及びタービン翼車16tが一体回転させられてエンジン14の動力が自動変速機18側へ直接的に伝達される。また、所定のスリップ状態でスリップ係合するように差圧ΔPが制御されることにより、例えば入出力回転速度差(すなわちスリップ回転速度(スリップ量、差回転速度)=エンジン回転速度NE−タービン回転速度NT)NSがフィードバック制御されることにより、車両10の駆動(パワーオン)時には所定のスリップ量でタービン軸をクランク軸15に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には所定のスリップ量でクランク軸15をタービン軸に対して追従回転させるロックアップスリップ制御が行われる。尚、ロックアップクラッチ34のスリップ状態においては、例えば差圧ΔPが零とされることによりそのロックアップクラッチ34のトルク分担がなくなって、トルクコンバータ16は、ロックアップオフと同等の運転条件とされる。
【0025】
自動変速機18は、エンジン14から駆動輪32までの動力伝達経路の一部を構成し、複数の油圧式摩擦係合装置の何れかの掴み替えにより(すなわち油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより)変速が実行されて複数の変速段(ギヤ段)が選択的に成立させられる有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式多段変速機である。例えば、公知の車両によく用いられる所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う有段変速機である。この自動変速機18は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置36と、ラビニヨ型に構成されているダブルピニオン型の第2遊星歯車装置38及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置40とを同軸線上(軸心RC上)に有し、入力軸19の回転を変速して出力歯車24から出力する。
【0026】
具体的には、自動変速機18は、第1遊星歯車装置36、第2遊星歯車装置38、及び第3遊星歯車装置40の各回転要素(サンギヤS1−S3、キャリアCA1−CA3、リングギヤR1−R3)が、直接的に或いは油圧式摩擦係合装置(クラッチC1,C2、及びブレーキB1,B2,B3)やワンウェイクラッチ(一方向クラッチ)F1を介して間接的(或いは選択的)に、一部が互いに連結されたり、入力軸19、ケース20、或いは出力歯車24に連結されている。そして、クラッチC1,C2、及びブレーキB1,B2,B3のそれぞれの係合解放制御により、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて、図3の係合作動表に示すように前進6段、後進1段の各変速段(各ギヤ段)が成立させられる。図3の「1st」乃至「6th」は前進ギヤ段としての第1速ギヤ段乃至第6速ギヤ段、「R」は後進ギヤ段、「N」は何れのギヤ段も成立させられないニュートラル状態を意味している。図3の係合作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1,C2、及びブレーキB1,B2,B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合、空欄は解放をそれぞれ表している。尚、第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。
【0027】
上記クラッチC1,C2、及びブレーキB1,B2,B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキB、或いは係合装置という)は、公知の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式の摩擦クラッチであって、油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される。このように構成されたクラッチC及びブレーキBは、油圧制御回路100内のリニアソレノイドバルブSL1−SL5等の励磁、非励磁や電流制御により、それぞれのトルク容量すなわち係合力が例えば連続的に変化させられて、それぞれの係合、解放状態が切り換えられると共に、係合、解放時の過渡係合油圧などが制御される。
【0028】
図1に戻り、車両10には、例えば車両走行時にロックアップクラッチ34をスリップ係合させるロックアップスリップ制御(スリップ制御)を行う動力伝達装置12の制御装置を含む電子制御装置80が備えられている。この電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン14の出力制御や自動変速機18の変速制御やロックアップクラッチ34のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用のエンジン制御装置や自動変速機18の変速制御用の油圧制御装置やロックアップクラッチ34の油圧制御用の油圧制御装置等に分けて構成される。
【0029】
電子制御装置80には、例えばタービン回転速度センサ50により検出されたトルクコンバータ16のタービン軸の回転速度であるタービン回転速度NT(すなわち入力軸19の回転速度である入力回転速度NIN)を表す信号、作動油温センサ52により検出された油圧制御回路100内の作動油(例えば公知のATF)の温度である作動油温THOILを表す信号、アクセル開度センサ54により検出された運転者による車両10に対する加速要求量(ドライバ要求量)としてのアクセルペダル56の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、エンジン回転速度センサ58により検出されたエンジン14の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、冷却水温センサ60により検出されたエンジン14の冷却水温THWを表す信号、吸入空気量センサ62により検出されたエンジン14の吸入空気量QAIRを表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θTHを表す信号、車速センサ66により検出された車速Vに対応する出力歯車24の回転速度である出力回転速度NOUTを表す信号、ブレーキスイッチ68により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル70の操作(ブレーキオン)BONを表す信号、レバーポジションセンサ72により検出された「P」,「R」,「N」,「D」等のシフトレバー74のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号などがそれぞれ供給される。
【0030】
また、電子制御装置80からは、エンジン14の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SEとして、例えばアクセル開度Accに応じて電子スロットル弁の開閉を制御する為のスロットルアクチュエータへの駆動信号や燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を制御する為の噴射信号やイグナイタによるエンジン14の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、自動変速機18の変速制御の為の油圧制御指令信号SPとして、例えば自動変速機18のギヤ段を切り換える為に油圧制御回路100内のリニアソレノイドバルブSL1−SL5の励磁、非励磁などを制御する為のバルブ指令信号(油圧指令信号、油圧指令値、駆動信号)や第1ライン油圧PL1や第2ライン油圧PL2などを調圧制御する為のリニアソレノイドバルブSLTへの油圧指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。また、ロックアップクラッチ34の係合、解放、及びスリップ量(差回転速度)NS(=NE−NT)を制御する為のロックアップ制御指令信号SLとして、例えば油圧制御回路100内に備えられたリニアソレノイド弁SLU及びソレノイド弁SL(図4参照)を駆動する為の油圧指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
【0031】
図4は、油圧制御回路100のうちロックアップクラッチ34の作動制御等に関する油圧制御回路の要部を示す図である。図4において、油圧制御回路100は、電子制御装置80から供給されるSL指示(SL指令)信号SSLに対応するオンオフ信号によってオンオフ作動させられて切換用信号圧PSLを発生させる切換用ソレノイド弁SLと、ロックアップクラッチ34の解放状態と係合或いはスリップ状態とを切り換える為のロックアップリレーバルブ102と、電子制御装置80から供給されるロックアップクラッチ圧指令値(LUクラッチ圧指令値、SLU指示圧)SSLUに対応する駆動電流ISLUに応じた信号圧PSLUを出力するスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUと、ロックアップリレーバルブ102によりロックアップクラッチ34が係合或いはスリップ状態とされているときに信号圧PSLUに従ってロックアップクラッチ34の差回転速度NSを制御したりロックアップクラッチ34を係合させる為の(すなわちロックアップクラッチ34の作動状態をスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換える為の)ロックアップコントロールバルブ104とを備えている。
【0032】
図4に示すように、ロックアップリレーバルブ102は、接続状態を切り換える為のスプール弁子106を備え、切換用信号圧PSLに応じてロックアップクラッチ34を解放状態とする解放側位置(オフ側位置)とロックアップクラッチ34を係合或いはスリップ状態とする係合側位置(オン側位置)とに切り換えられる。尚、図4においては、中心線より左側がロックアップクラッチ34の解放状態であるオフ側位置(OFF)にスプール弁子106が位置された状態を示しており、中心線より右側が係合或いはスリップ状態であるオン側位置(ON)にスプール弁子106が位置された状態を示している。
【0033】
また、ロックアップコントロールバルブ104は、接続状態を切り換える為のスプール弁子108を備え、スリップ(SLIP)側位置と完全係合(ON)側位置とに切り換えられる。尚、図4においては、中心線より左側がスリップ(SLIP)側位置にスプール弁子108が位置された状態を示しており、中心線より右側が完全係合(ON)側位置にスプール弁子108が位置された状態を示している。
【0034】
また、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUは、電子制御装置80からの指令に従って、ロックアップクラッチ34の係合乃至スリップ係合時におけるその係合圧を制御する信号圧PSLUを出力するものである。例えば、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUは、油圧制御回路100にて調圧されるモジュレータ油圧PMを元圧とし、そのモジュレータ油圧PMを減圧して信号圧PSLUを出力する電磁制御弁であって、電子制御装置80から供給されるLUクラッチ圧指令値SSLUに対応する駆動電流(励磁電流)ISLUに比例した信号圧PSLUを発生させる。
【0035】
また、切換用ソレノイド弁SLは、電子制御装置80からのSL指令信号(オンオフ信号)SSLに従って所定の切換用信号圧PSLを出力するものである。例えば、切換用ソレノイド弁SLは、非励磁状態(オフ状態)では切換用信号圧PSLをドレン圧とするが、励磁状態(オン状態)では切換用信号圧PSLをモジュレータ油圧PMとしてロックアップリレーバルブ102の所定の油室に作用させることで、ロックアップリレーバルブ102のスプール弁子106を係合状態であるオン側位置(ON)に移動させるように構成されている。
【0036】
以上のように構成された油圧制御回路100により係合側油室16on及び解放側油室16offへの作動油圧の供給状態が切り換えられ、ロックアップクラッチ34の作動状態が切り換えらる。先ず、ロックアップクラッチ34がスリップ状態乃至ロックアップオンとされる場合を説明する。ロックアップリレーバルブ102において、切換用ソレノイド弁SLによってスプール弁子106がオン側位置へ付勢されると、第2ライン油圧PL2が係合側油室16onへ供給される。この係合側油室16onへ供給される第2ライン油圧PL2が油圧PONとなる。同時に解放側油室16off内の油圧POFFがロックアップコントロールバルブ104により調整されて(すなわちロックアップコントロールバルブ104により差圧ΔP(=PON−POFF)すなわち係合圧が調整されて)、そのロックアップクラッチ34の作動状態がスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換えられる。
【0037】
具体的には、ロックアップリレーバルブ102のスプール弁子106が係合(ON)側位置へ付勢されているときにすなわちロックアップクラッチ34が係合乃至スリップ状態に切り換えられているときに、ロックアップコントロールバルブ104においてスプール弁子108がスリップ(SLIP)側位置とされると、第2ライン油圧PL2が解放側油室16offへ供給される。このときの作動油の流量は、信号圧PSLUによって制御される。すなわち、スプール弁子108がスリップ(SLIP)側位置とされた状態においては、差圧ΔPがスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUによって制御されてロックアップクラッチ34のスリップ状態が制御される。また、ロックアップリレーバルブ102のスプール弁子106がON側位置へ付勢されているときに、ロックアップコントロールバルブ104においてスプール弁子108が完全係合(ON)側位置へ付勢されると、解放側油室16offへは第2ライン油圧PL2が供給されず、その解放側油室16offからの作動油がロックアップコントロールバルブ104のドレーンポートEXから排出される。これにより、差圧ΔPが最大とされてロックアップクラッチ34が完全係合状態とされる。
【0038】
一方、ロックアップリレーバルブ102において、切換用信号圧PSLが供給されず、スプール弁子106がオフ側位置へ位置させられると、第2ライン油圧PL2が解放側油室16offへ供給される。そして、係合側油室16onを経て排出された作動油がロックアップリレーバルブ102を介してオイルクーラに供給されて冷却される。すなわち、ロックアップリレーバルブ102のスプール弁子106がオフ側位置へ位置させられている状態においては、ロックアップクラッチ34は解放状態とされ、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLU乃至ロックアップコントロールバルブ104を介してのスリップ乃至係合制御は行われない。換言すれば、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUから出力される信号圧PSLUが変化させられた場合であっても、ロックアップリレーバルブ102のスプール弁子106がオフ側位置へ位置させられている限りにおいてその変化はロックアップクラッチ34の係合状態(差圧ΔP)に反映されない。
【0039】
尚、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUによって制御される差圧ΔPは、ロックアップクラッチ34の係合乃至解放状態を表す油圧値であり、本実施例ではロックアップクラッチ圧PLUとする。また、このロックアップクラッチ圧PLUは、差回転速度NSやロックアップクラッチ34のトルク容量(ロックアップクラッチトルク)TLUに対応する油圧値でもある。また、LUクラッチ圧指令値SSLUやスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUは、ロックアップクラッチ圧PLUの油圧指令値である。
【0040】
図5は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、エンジン出力制御部すなわちエンジン出力制御手段82は、例えばスロットル制御の為にスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射量制御の為に燃料噴射装置による燃料噴射量を制御し、点火時期制御の為にイグナイタ等の点火装置を制御するエンジン出力制御指令信号SEを出力する。例えば、エンジン出力制御手段82は、スロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEの推定値(以下推定エンジントルク)TE’との予め実験的に求められて記憶された例えば図6に示すような関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEに基づいて目標エンジントルクTE*が得られるスロットル弁開度θTHとなるように電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射装置による燃料噴射量を制御し、イグナイタ等の点火装置を制御する。上記目標エンジントルクTE*は、例えば加速要求量に対応するアクセル開度Accに基づいてそのアクセル開度Accが大きい程大きくされるように電子制御装置80により求められるものであり、ドライバー要求エンジントルクに相当する。尚、図6に示すようなエンジントルクマップでは、スロットル弁開度θTHに替えて、吸入空気量QAIR等の他のエンジン負荷に相当するパラメータが用いられても良い。
【0041】
変速制御部すなわち変速制御手段84は、例えば車速V及びアクセル開度Accを変数としてアップシフトが判断される為のアップシフト線とダウンシフトが判断される為のダウンシフト線とを有する予め記憶された公知の関係(変速マップ、変速線図)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて変速判断を行い、自動変速機18の変速を実行すべきか否かを判断する。そして、変速制御手段84は、自動変速機18の変速すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段が得られるように自動変速機18の自動変速制御を実行する変速指令を出力する。例えば、変速制御手段84は、図3に示す係合作動表に従ってギヤ段が達成されるように、自動変速機18の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号(変速出力指令値)SPを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、自動変速機18の変速が実行されるように或いは自動変速機18の現在のギヤ段が維持されるように、その油圧制御指令信号SPに従って、油圧制御回路100内のリニアソレノイドバルブSL1−SL5を作動させて、そのギヤ段成立(形成)に関与する油圧式摩擦係合装置の各油圧アクチュエータを作動させる。
【0042】
ロックアップクラッチ制御部すなわちロックアップクラッチ制御手段86は、例えば車速V及びスロットル弁開度θTHを変数としてロックアップオフ領域、ロックアップスリップ領域、及びロックアップオン領域を有する予め記憶された関係(マップ、ロックアップ領域線図)から、実際の車速V及びスロットル弁開度θTHで示される車両状態に基づいてロックアップクラッチ34の作動状態の切換えを制御する。例えば、ロックアップクラッチ制御手段86は、上記ロックアップ領域線図から実際の車両状態に基づいてロックアップオフ領域、ロックアップスリップ領域、ロックアップオン領域の何れかであるかを判断し、ロックアップクラッチ34のロックアップオフへの切換え、或いはロックアップスリップ状態乃至ロックアップオンへの切換えの為のロックアップ制御指令信号SLを油圧制御回路100へ出力する。また、ロックアップクラッチ制御手段86は、ロックアップスリップ領域であると判断すると、ロックアップクラッチ34の実際の差回転速度NS(=NE−NT)を逐次算出し、その実際の差回転速度NSが目標差回転速度NS*となるように差圧ΔPを制御する為のロックアップ制御指令信号SLを油圧制御回路100へ出力する。例えば、あるギヤ段において、比較的高車速領域では、ロックアップクラッチ34をロックアップオンしてポンプ翼車16pとタービン翼車16tとを直結することで、トルクコンバータ16の滑り損失(内部損失)を無くして燃費を向上させている。また、あるギヤ段において、比較的低中速領域では、ポンプ翼車16pとタービン翼車16tとの間に例えば50rpm〜100rpm程度の目標差回転速度NS*に相当する所定の微少な滑りを与えてスリップ係合させるスリップ制御(ロックアップスリップ制御)を実施することで、ロックアップ作動領域を拡大し、トルクコンバータ16の伝達効率を向上して燃費を向上させている。
【0043】
油圧制御回路100は、ロックアップクラッチ制御手段86からのロックアップ制御指令信号SLに従ってロックアップクラッチ34の解放とスリップ状態乃至完全係合とが切り換えられるように切換用ソレノイド弁SLを作動させてロックアップリレーバルブ102の弁位置を解放側(OFF)位置と係合側(ON)位置とで切り換える。また、油圧制御回路100は、ロックアップクラッチ制御手段86からのロックアップ制御指令信号SLに従ってロックアップクラッチ34のスリップ状態乃至完全係合におけるロックアップクラッチトルクTLUがロックアップコントロールバルブ104を介して増減されるようにスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUを作動させてロックアップクラッチ34を係合したりロックアップクラッチ34の差回転速度NSを制御する。
【0044】
また、ロックアップクラッチ制御手段86は、例えばアクセルオン(アクセルペダル56の踏込み操作)に伴う車両発進に際して、比較的エンジン燃焼効率の良い低回転高トルク領域を活用することで燃費向上を図る為に、エンジン回転速度NEの上昇(吹き上がり)を抑制するようにロックアップクラッチ34をスリップ係合させる発進時ロックアップスリップ制御(発進時スリップ制御)を実行する。この発進時スリップ制御では、例えば予め設定された所定の発進時スリップ制御開始条件が満たされた場合に、車両10に対する加速要求量としてのアクセル開度Accに応じて燃費や動力性能を両立させるようにエンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制して燃料消費を抑制する。このような発進時スリップ制御を実行する車両状態において、ロックアップクラッチ34が解放されている状態でのアクセルオン直後(例えば車両発進直後)では、エンジン回転速度NEが立ち上がる過渡期である為に差回転速度NS(=NE−NT)を制御し難い。その為、この発進時スリップ制御では、例えばエンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制するように、アクセル開度Accに応じた一定のLUクラッチ圧指令値SSLUを設定するオープンループ制御(オープン制御、フィードフォワード制御)を実行する。そして、例えば車両状態がロックアップスリップ領域にあると判断されると、前述した通り、差回転速度NSが目標値となるようにロックアップクラッチ34をスリップ係合させるスリップ制御を実行する(このフィードバック制御によるスリップ制御を定常時ロックアップスリップ制御(定常時スリップ制御)と称する)。或いは、例えば発進時スリップ制御中に差回転速度NSが所定差回転速度NS’以内になったと判断されると、発進時スリップ制御に引き続いて連続して定常時スリップ制御(加速時スリップ制御)を実行する。この定常時スリップ制御では、例えば差回転速度NSの実際値(実差回転速度NS)と目標値(目標差回転速度NS*)との偏差ΔNS(=NS*−NS)に基づいてLUクラッチ圧指令値SSLUを逐次設定するクローズドループによるフィードバック制御を実行する。
【0045】
上記所定の発進時スリップ制御開始条件としては、例えばレバーポジションPSHが「D」ポジションであるか否か、ブレーキオフとされているか否かすなわちブレーキオンBONを表す信号が入力されていない状態であるか否か、作動油温THOILが所定温度範囲例えば暖機完了後の温度から高油温と判断されない油温までの温度範囲に入っているか否か、現在のギヤ段が第1速ギヤ段であって変速中でないか否か、車両10が停止していると判定された状態からのアクセルオンであるか否か、及び発進時ロックアップスリップ領域にあるか否かすなわちアクセル開度Accが所定の低開度となるアクセルオンであるか否かの全てが成立しているかである。
【0046】
尚、上記発進時スリップ制御は、アクセルオンの車両発進に際して、アクセルオンに伴ってエンジン回転速度NEが一時的に上昇してしまうことを抑制するように、ロックアップクラッチ34を係合に向けてスリップ係合させる制御である。その為、発進時スリップ制御は、アクセルペダル56の踏み込み具合に対する車両加速感等において運転者が違和感等を感じ難くする為に、例えばアクセル開度Accが比較的低開度となるアクセルオンの車両発進時に実行されることが望ましい。その為、上記所定の発進時スリップ制御開始条件の1つとしての発進時ロックアップスリップ領域にあるか否かの判断に用いられる前記ロックアップ領域線図においては、例えばスロットル弁開度θTHが比較的低開度の領域に上記発進時ロックアップスリップ領域が設定される。本実施例では、定常時スリップ制御の実行を判断する為の前記ロックアップスリップ領域を、この発進時ロックアップスリップ領域と区別する為に、定常時ロックアップスリップ領域と称する。また、上記発進時ロックアップスリップ領域は、例えばエンジン回転速度NEの吹き上がりを抑制することによる燃費向上を考慮して設定されている領域であり、上記定常時ロックアップスリップ領域は、例えばドライバビリティやこもり音(例えばNVH(騒音・振動・乗り心地)性能)を考慮して設定されている領域である。また、定常時スリップ制御においては、アクセルオンの加速走行時に実行するものを加速時スリップ制御とし、アクセルオフの減速走行時に実行するものを減速時スリップ制御として区別しても良い。
【0047】
また、例えば発進時スリップ制御の実行中に、予め設定された所定の定常時スリップ制御開始条件が満たされると、発進時スリップ制御から定常時スリップ制御へ移行することになる。発進時スリップ制御と定常時スリップ制御とは、何れもスリップ制御ではあるが、LUクラッチ圧指令値SSLUの設定の仕方が全く異なることからそれぞれ独立した制御と見ることもできる。
【0048】
図7は、発進時スリップ制御及び定常時スリップ制御を実行する際に設定されるLUクラッチ圧指令値SSLUの一例を示す図である。図7において、発進時スリップ制御におけるLUクラッチ圧指令値SSLUとしては、先ず、ファーストフィル(急速充填)の為のクラッチ圧指令値が出力開始され(t1時点)、次いで、エンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制する為のフィードフォワード制御における一定のクラッチ圧指令値SLUFFに維持される(t2時点乃至t3時点)。そして、所定の定常時スリップ制御開始条件が成立すると(t3時点)、クラッチ圧指令値SLUFFからフィードバック制御におけるクラッチ圧指令値SLUFBに向けて漸増するクラッチ圧指令値SLUSWが出力され(t3時点乃至t4時点)、実差回転速度NSを目標差回転速度NS*と一致させる為のフィードバック制御におけるクラッチ圧指令値SLUFBが逐次設定される(t4時点以降)。
【0049】
上記フィードフォワード制御における一定のクラッチ圧指令値SLUFFは、例えばエンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制するように、アクセル開度Accやスロットル弁開度θTH等に応じて設定される。つまり、アクセル開度Accが大きい程すなわちスロットル弁開度θTHが大きい程、エンジントルクTEが大きく、又エンジン14の吹け上がりも急となる。その為、アクセル開度Accが大きい程より早くロックアップクラッチトルクTLUを増大させてエンジン回転速度NEを抑制し易くするという観点から、例えばアクセル開度Accが大きい程、クラッチ圧指令値SLUFFを大きくするように、発進時スリップ制御におけるLUクラッチ圧指令値SSLUを設定する。尚、アクセル開度Accに替えて、スロットル弁開度θTH、吸入空気量QAIR、燃料噴射量、スロットル弁開度θTH或いは吸入空気量QAIRなどから算出した推定エンジントルクTE’などを用いるなど種々の態様が可能であることは言うまでもない。
【0050】
また、上記所定の定常時スリップ制御開始条件としては、例えばロックアップ領域線図における定常時ロックアップスリップ領域に車両状態があるか否かなどである。また、特に、発進時スリップ制御からの移行時であるときのこの所定の定常時スリップ制御開始条件としては、例えば発進時スリップ制御中のエンジン回転速度NEの上昇がある程度抑制された為にフィードフォワード制御からフィードバック制御に切り替えても適切にスリップ制御を実行できると判断される為の予め実験的に求められて設定された所定差回転速度NS’以下に実際の差回転速度NSが低下したか否かなどである。
【0051】
このように、ロックアップクラッチ制御手段86は、前記所定の発進時スリップ制御開始条件が成立すると、エンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制するようにアクセル開度Accに基づいて一定のクラッチ圧指令値SLUFFを設定し、そのクラッチ圧指令値SLUFFによりスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUを駆動してロックアップクラッチ34のロックアップクラッチ圧PLUを制御するスリップ係合指令を油圧制御回路100に出力するフィードフォワード制御を実行して、ロックアップクラッチ34をスリップ係合させる。
【0052】
ところで、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUでは、LUクラッチ圧指令値(SLU指示圧)SSLUに対応する駆動電流ISLUに応じた信号圧PSLUの特性(I/P特性)が初期品質で例えば±数十[kPa]のハード的なばらつきを有しており、LUクラッチ圧指令値SSLUに対するロックアップクラッチトルクTLUに相応のばらつきが生じる。その為、上記I/P特性が+数十[kPa]のばらつきを有するスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUでは、発進時スリップ制御におけるLUクラッチ圧指令値SSLUとしてのクラッチ圧指令値SLUFFにより、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUが過多気味となり(すなわち車両発進直後にロックアップクラッチ34を掴み過ぎてしまい)、トルク揺れやショックが発生する可能性がある(図13参照)。これに対して、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLU(LUクラッチ圧指令値SSLU(クラッチ圧指令値SLUFF)も同意)を学習により補正することで、ハード的なばらつきや経年変化に対応することが考えられる。しかしながら、車両発進時は、ハード依存(例えば立ち上がり時のエンジントルク安定度、ロックアップクラッチ34の滑り速度変化に伴う摩擦係数変化、アクセルペダル56の遊び等)のばらつき要素が多い。そうすると、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUのばらつきを安定的に検出することが難しく、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定的に学習することが困難となる可能性がある。本実施例は、ハード依存のばらつき要素が多い車両発進時であっても、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定的に学習できる方法について提案するものである。
【0053】
具体的には、本実施例では、発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときの実際のエンジン回転速度NE(最大時実エンジン回転速度NEmax)が、差回転速度NSが最大のときの推定エンジントルクTE’(最大時推定エンジントルクTE’max)に応じて増加する差回転速度NSが最大のときの目標のエンジン回転速度NE*(最大時目標エンジン回転速度NE*max)よりも低い場合には、ロックアップクラッチトルクTLUが過多であると判断して(すなわちロックアップクラッチ34の掴み過ぎを判断して)、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLU(クラッチ圧指令値SLUFFも同意)を学習により減圧側に補正する。例えば、発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときの最大時実エンジン回転速度NEmaxと、差回転速度NSが最大のときのエンジン回転速度NE(最大時エンジン回転速度NEmax)とエンジントルクTEとの予め実験的に求められたロックアップクラッチトルクTLUの過多を検出(判断)する為の目標値(すなわちロックアップクラッチ34の掴み過ぎを判断する為の目標値)としての目標線Aを有する例えば図8に示すような関係(マップ)から差回転速度NSが最大のときの最大時推定エンジントルクTE’maxに基づいて算出される差回転速度NSが最大のときの最大時目標エンジン回転速度NE*maxとを比較し、最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が最大時目標エンジン回転速度NE*maxよりも低い場合には、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により減圧側に補正する。また、反対に、最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が最大時目標エンジン回転速度NE*maxよりも高い場合には、ロックアップクラッチトルクTLUが過多でないと判断して、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により増圧側に補正する。
【0054】
上記最大時目標エンジン回転速度NE*maxは、発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34を掴みにいくことによるドライバビリティの悪化が許容される範囲で燃費性能を向上させる為に可及的に低下させた(抑制した)エンジン回転速度NEとして予め実験的に求められた差回転速度NSが最大のときの理想のエンジン回転速度である。上記図8の関係は、このような観点に基づいて予め実験的に求められて記憶されたマップである。上記図8の関係における目標線は差回転速度NSが最大のときのエンジントルクTEに対応する理想のエンジン回転速度の連なりであって、この図8の関係は差回転速度NSが最大のときの理想のエンジン回転速度を定めた理想エンジン回転速度マップである。
【0055】
また、上記差回転速度NSが最大のときは、発進時スリップ制御の開始後に第1の所定時間としてのスリップ制御初期時間TSLが経過してから第2の所定時間としてのスリップ制御終期時間TSHが経過するまでの予め求められて記憶された発進時スリップ制御中での差回転速度NSの発生現象を見る為の一定の所定期間TS内において判断される。これは、車両発進時にアクセルオンによるエンジン吹きに伴って大きくなり且つロックアップクラッチ34のスリップ係合に伴って小さくなるという発進時スリップ制御中での差回転速度NSの発生現象を適確に捉える為である。つまり、エンジン吹きの現象を発進時スリップ制御を要因とするものに限定する為である。例えば、発進時スリップ制御の開始初期では、アクセルペダル56の操作が安定せずエンジン回転速度NEがしっかりと吹き上がらない可能性があるので、エンジン回転速度NEがしっかりと吹き上がってからの状態にて差回転速度NSが最大となるときを判断したい。また、降坂路でのブレーキオフにより車速Vの上昇と共にタービン軸回転速度NTが上昇し、発進時スリップ制御の開始初期の差回転速度NSが最大となると判断される可能性があるので、エンジン回転速度NEがしっかりと吹き上がってからの状態にて差回転速度NSが最大となるときを判断したい。このようなことから、発進時スリップ制御の開始後にスリップ制御初期時間TSLが経過するまでは、差回転速度NSが最大となるときを判断しないのである。また、発進時スリップ制御の開始から長い期間が経過すると、アクセル戻し操作や坂路走行等の他の要因により差回転速度NSが最大となると判断される可能性があるので、発進時スリップ制御を要因とするものに限定したい。このようなことから、発進時スリップ制御の開始後にスリップ制御終期時間TSHが経過するまでしか差回転速度NSが最大となるときを判断しないのである。
【0056】
ここで、ロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとを用いることで、発進時スリップ制御中のロックアップクラッチトルクTLUが過多であるか否かを判断(検出)するという制御を採用した理由を以下に説明する。
【0057】
一般的に、トルクコンバータ16の釣り合い式は、エンジントルクTE、ポンプトルクTP、ロックアップクラッチトルクTLU、エンジンイナーシャIE、及びエンジン回転速度NEに基づいて、次式(1)にて表される。また、ポンプトルクTPは、トルクコンバータ16の容量係数C及びエンジン回転速度NEに基づいて、次式(2)にて表される。ここで、ロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大となるときは、エンジン回転速度NEの差回転変化量(dNE/dt)は略零となり、次式(1)におけるイナーシャの項は無視できる。従って、トルクコンバータ16の釣り合い式は、次式(3)にて表される。次式(3)におけるトルクコンバータ16の容量係数Cは、トルクコンバータ16の速度比e(=タービン回転速度NT/エンジン回転速度NE)の関数(C=f(e))であり、図9のトルクコンバータ16の作動特性図に示すように、タービン回転速度NTに対してエンジン回転速度NEが比較的大きくなる発進過渡時には略一定値(定数CONST)となる。そうすると、次式(3)は、一般的な二次関数(y=ax2+c)と見ることができ、差回転速度NSが最大となるときのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとを用いることで、前記図8の理想エンジン回転速度マップに示すように、ロックアップクラッチトルクTLUが過多である領域(すなわちロックアップクラッチ34の掴み過ぎ領域)を予め実験的に設定することができるのである。よって、差回転速度NSが最大となるときのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとを用いることで、ハード依存のばらつき要素が多い発進過渡時であっても、ロックアップクラッチトルクTLUやエンジントルクTEのばらつきを安定して検出することができ、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定して(適切に)学習することができる。尚、上記エンジンイナーシャIEは、例えば設計的に或いは予め実験的に求められて記憶された定数(実験値)である。
TE=TP+TLU+IE×(dNE/dt) ・・・(1)
TP=C×NE2 ・・・(2)
TE=C×NE2+TLU ・・・(3)
【0058】
より具体的には、図5に戻り、発進時スリップ制御実行中判定部すなわち発進時スリップ制御実行中判定手段88は、ロックアップクラッチ制御手段86による発進時スリップ制御が実行中であるか否かを判定する。
【0059】
差回転速度最大判定部すなわち差回転速度最大判定手段90は、発進時スリップ制御実行中判定手段88により発進時スリップ制御が実行中であると判定されている場合には、発進時スリップ制御の開始からの制御時間がスリップ制御初期時間TSL経過からスリップ制御終期時間TSH経過までの所定期間TS内であるときに、ロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大となったか否かを判定する。例えば、所定期間TS内において差回転速度NSの変化(d(NS/dt))が零乃至負値となったか否かに基づいて差回転速度NSが最大となったか否かを判定する。
【0060】
最大時目標値算出部すなわち最大時目標値算出手段92は、差回転速度最大判定手段90により差回転速度NSが最大となったと判定されたときには、例えば図6に示すようなエンジントルクマップから最大時実エンジン回転速度NEmax及びそのときの実際のスロットル弁開度θTHに基づいて最大時推定エンジントルクTE’maxを算出する。そして、最大時目標値算出手段92は、例えば図8に示すような理想エンジン回転速度マップから上記算出した最大時推定エンジントルクTE’maxに基づいて最大時目標エンジン回転速度NE*max(差回転速度NSが最大のときの理想のエンジン回転速度)を算出する。
【0061】
最大時回転速度比較部すなわち最大時回転速度比較手段94は、最大時実エンジン回転速度NEmaxと最大時目標エンジン回転速度NE*maxとを比較する。例えば、最大時回転速度比較手段94は、最大時目標エンジン回転速度NE*maxが最大時実エンジン回転速度NEmaxより高いか否かを判定する。つまり、最大時回転速度比較手段94は、最大時目標エンジン回転速度NE*maxが最大時実エンジン回転速度NEmaxより高いか否かを判定することで、ロックアップクラッチトルクTLUが過多であるか否か(すなわちロックアップクラッチ34の掴み過ぎか否か)を判断(検出)する。つまり、ロックアップクラッチトルクTLUのばらつきを検出する。
【0062】
学習制御部すなわち学習制御手段96は、最大時回転速度比較手段94により最大時目標エンジン回転速度NE*maxの方が高いと判定された場合(すなわちロックアップクラッチトルクTLUが過多であると判定された場合)には、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLU(クラッチ圧指令値SLUFFも同意)を学習により所定の補正量分だけ減圧側に補正する。例えば、学習制御手段96は、電子制御装置80が備える公知のEEPROM等の記憶装置(メモリ)に記憶された現在の学習値である前回の学習により補正された後のクラッチ圧指令値SLUFF(未学習時においては予め記憶されているクラッチ圧指令値SLUFF)を、所定の補正量分だけ減圧側に更新する。一方、学習制御手段96は、最大時回転速度比較手段94により最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が高いと判定された場合(すなわちロックアップクラッチトルクTLUが過多でないと判定された場合)には、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により所定の補正量分だけ増圧側に補正する。例えば、学習制御手段96は、上記現在の学習値を所定の補正量分だけ増圧側に更新する。このように、本実施例の学習制御では、前回学習後の学習値(ロックアップクラッチ圧PLU)をベース圧(基本値)として学習が実行されてそのベース圧が更新される。すなわち、学習後の学習値(ベース圧)が、次回学習時のベース圧となる。
【0063】
上記所定の補正量は、予め求められて記憶された学習による一律の補正量ΔPLUであっても良いし、最大時実エンジン回転速度NEmaxと最大時目標エンジン回転速度NE*maxとの差分ΔNEmax(=|NEmax−NE*max|)が大きくなる程大きくなる学習による補正量ΔPLUであっても良い。図10は、差分ΔNEmaxと学習による補正量ΔPLUとの予め実験的に求められて記憶された関係(補正量マップ)であり、実線に示すように差分ΔNEmaxが大きくなる程補正量ΔPLUが大きくされている。これにより、ロックアップクラッチ圧PLUが一層適切に補正される。また、図10の破線に示すように、差分ΔNEmaxが所定値Eを超えてから補正量ΔPLUを大きくしても良い。これにより、学習によるロックアップクラッチ圧PLUの学習値の更新頻度が抑制される。よって、差分ΔNEmaxが零を挟むその近傍にて学習値の減圧側への補正と学習値の増圧側への補正とが繰り返されること(例えばハンチング)が抑制されたり、また、学習値を保存する記憶装置(メモリ)の物理的な耐久性が向上される。尚、ここでの上記差分は回転速度差の絶対値を表すものとする。
【0064】
ここで、ロックアップクラッチ圧PLUの増圧側への補正は、エンジン回転速度NEの吹き上がりを抑制することになり、燃費向上には貢献するがドライバビリティは悪化する傾向がある。その為、最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が高いと繰り返し判定されて、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUが確実に足りていないことを判断できたときにロックアップクラッチ圧PLUを増圧側に補正することが望ましい。そこで、ロックアップクラッチ圧PLUの増圧側への補正を慎重にすることでドライバビリティを重視するという観点から、学習制御手段96は、最大時回転速度比較手段94により最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が高いと判定された場合が所定回数連続で実行されたときに、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により所定の補正量分だけ増圧側に補正するようにしても良い。上記所定回数は、例えばロックアップクラッチトルクTLUが確実に足りていないと判断できる為の予め実験的に求められて記憶されたトルク不足判定値である。
【0065】
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち車両発進時であっても発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定して学習する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図12は、図11の制御作動に対応するタイムチャートである。
【0066】
図11において、先ず、発進時スリップ制御実行中判定手段88に対応するS10において、例えば発進時スリップ制御が実行中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合(図12のt1時点以降)は差回転速度最大判定手段90に対応するS20において、例えば発進時スリップ制御の開始からの制御時間がスリップ制御初期時間TSL経過からスリップ制御終期時間TSH経過までの所定期間TS内であるときに、差回転速度NSの変化(d(NS/dt))が零乃至負値となったか否かに基づいてロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大となったか否かが判定される(図12のt2時点乃至t4時点)。このS20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は最大時目標値算出手段92に対応するS30において、例えば図6に示すようなエンジントルクマップから実際のエンジン回転速度NE(すなわち最大時実エンジン回転速度NEmax)及び実際のスロットル弁開度θTHに基づいて推定エンジントルクTE’(すなわち最大時推定エンジントルクTE’max)が算出される。そして、例えば図8に示すような理想エンジン回転速度マップからその最大時推定エンジントルクTE’maxに基づいて最大時目標エンジン回転速度NE*max(差回転速度NSが最大のときの理想のエンジン回転速度)が算出される(図12のt3時点)。次いで、最大時回転速度比較手段94に対応するS40において、例えば上記S30にて算出された最大時目標エンジン回転速度NE*maxが最大時実エンジン回転速度NEmaxより高いか否かが判定される。このS40の判断が肯定されてロックアップクラッチトルクTLUが過多である場合は学習制御手段96に対応するS50において、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLU例えば電子制御装置80が備えるメモリに記憶された現在の学習値である前回の学習により補正された後のクラッチ圧指令値SLUFFが学習により所定の補正量分だけ減圧側に更新される。一方で、上記S40の判断が否定されてロックアップクラッチトルクTLUが不足する場合は学習制御手段96に対応するS60において、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLU例えば上記現在の学習値が学習により所定の補正量分だけ増圧側に更新される。
【0067】
尚、上記S60は、上記S40の判断が所定回数連続で否定された場合に実行されるようにしても良い。また、上記所定の補正量は、一律の補正量ΔPLUが用いられても良いし、図10に示すような補正量マップから差分ΔNEmaxに基づいて算出された補正量ΔPLUが用いられても良い。また、上記S50と上記S60とで各々異なる補正量ΔPLUが用いられても良い。例えば、上記一律の補正量ΔPLU自体が各々異なっていたり、上記補正量マップ自体が各々異なっていたり、或いは一方は一律の補正量ΔPLUが用いられ且つ他方は補正量マップから算出された補正量ΔPLUが用いられたりしても良い。また、上記S50においては上記図10の実線に示すような補正量マップが用いられ且つ上記S60においては上記図10の破線に示すようなヒステリシス領域(所定値E)が設けられた補正量マップが用いられても良い。
【0068】
上述のように、本実施例によれば、発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときの最大時実エンジン回転速度NEmaxが、差回転速度NSが最大のときの最大時推定エンジントルクTE’maxに応じて増加する最大時目標エンジン回転速度NE*maxよりも低い場合には、ロックアップクラッチトルクTLUが過多であると判断されて、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUが学習により減圧側に補正されるので、差回転速度NSが最大となるときはエンジン回転速度NEの差回転変化量(dNE/dt)が略零となってトルクコンバータ16の釣り合い式(前記式(1))におけるエンジンイナーシャIEの項を無視できたり、またトルクコンバータ16の速度比eの関数であるトルクコンバータ16の容量係数Cが略一定の状態とされて、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUのばらつきを安定して検出することができる。つまり、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUが過多気味であるか否かを安定して判断することができる。よって、ロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとを用いることで、ハード依存のばらつき要素が多い車両発進時の過渡であっても、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定して学習することができる。
【0069】
また、本実施例によれば、前記差回転速度NSが最大のときは、発進時スリップ制御の開始後にスリップ制御初期時間TSLが経過してからスリップ制御終期時間TSHが経過するまでの予め求められて記憶された一定の所定期間TS内において判断されるので、エンジン吹きに伴って大きくなり且つロックアップクラッチ34のスリップ係合に伴って小さくなるという発進時スリップ制御中での差回転速度NSの発生現象を適確に捉えることができる。
【0070】
また、本実施例によれば、最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が最大時目標エンジン回転速度NE*maxよりも高い場合には、ロックアップクラッチトルクTLUが過多でないと判断して、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により増圧側に補正するので、車両発進時の過渡であっても、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定して学習することができる。
【0071】
また、本実施例によれば、最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が高い場合が所定回数連続で判定されたときに、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により増圧側に補正するので、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUが確実に足りていないことを判断できたときにロックアップクラッチ圧PLUを増圧側に補正することができる。つまり、ロックアップクラッチ圧PLUの増圧側への補正は、エンジン回転速度NEの吹き上がりを抑制することになり、燃費向上には貢献するがドライバビリティは悪化する傾向があることに対して、ロックアップクラッチ圧PLUの増圧側への補正を慎重にすることでドライバビリティを重視することができる。また、例えばハンチングが抑制される。
【0072】
また、本実施例によれば、最大時実エンジン回転速度NEmaxと最大時目標エンジン回転速度NE*maxとの差分ΔNEmax(=|NEmax−NE*max|)が大きくなる程学習による補正量ΔPLUを大きくするので、学習によりロックアップクラッチ圧PLUが一層適切に補正される。
【0073】
また、本実施例によれば、例えば図10の破線に示すように差分ΔNEmaxが所定値Eを超えてから補正量ΔPLUを大きくするので、学習によるロックアップクラッチ圧PLUの更新頻度が抑制され、学習値を保存する記憶装置(メモリ)の物理的な耐久性が向上される。
【0074】
また、本実施例によれば、前記最大時目標エンジン回転速度NE*maxは、発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34を掴みにいくことによるドライバビリティの悪化が許容される範囲で燃費性能を向上させる為に可及的に低下させた(抑制した)エンジン回転速度NEとして予め実験的に求められた差回転速度NSが最大のときの理想のエンジン回転速度であるので、車両発進時の過渡であっても、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定して学習することができる。
【0075】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0076】
例えば、前述の実施例の学習制御では、前回学習後の学習値をベース圧(基本値)として学習が実行されてそのベース圧が更新されたが、これに限らず、例えばベース圧は更新せず、そのベース圧に対する補正量を学習により更新しても良い。
【0077】
また、前述の実施例では、例えば図6に示すようなエンジントルクマップから実際のエンジン回転速度NE及び実際のスロットル弁開度θTHに基づいて推定エンジントルクTE’を算出したが、必ずしもこれに限らない。例えば、ロードロード(走行抵抗)の釣り合い(特に、定常時)或いは車両加速度(特に、加速時)から駆動輪32における駆動力を算出し、駆動輪32のタイヤ半径、自動変速機18より後段側の差動歯車装置28等における減速比、自動変速機18の変速比(ギヤ比)、トルクコンバータ16のトルク比t(=タービントルクTT/ポンプトルクTP)、動力伝達装置の伝達効率などからその駆動力をクランク軸15上のトルクに換算して、推定エンジントルクTE’を算出しても良い。尚、トルクコンバータ16のトルク比tは、例えばトルクコンバータ16の速度比eとトルク比tとの予め実験的に求められて記憶された公知の関係(トルクコンバータ16の作動特性図)から実際の速度比eに基づいて算出される。
【0078】
また、前述の実施例では、自動変速機18が前進6速、後進1速の変速が可能な自動変速機であったが、自動変速機の変速段数や内部構造は特に前述した自動変速機18に限定されるものではない。すなわち、ロックアップクラッチ34を有する流体伝動装置を備え、発進時スリップ制御が実施可能な構成であれば、本発明を適用することができる。従って、無段変速機や所謂DCT(Dual Clutch Transmission)などを備える車両であっても本発明を適用することができる。
【0079】
また、前述の実施例では、流体伝動装置としてロックアップクラッチ34が備えられているトルクコンバータ16が用いられていたが、トルク増幅作用のないフルードカップリングが用いられても良い。
【0080】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0081】
12:車両用動力伝達装置
14:エンジン
16:トルクコンバータ(流体伝動装置)
16p:ポンプ翼車(入力回転部材)
16t:タービン翼車(出力回転部材)
18:自動変速機
34:ロックアップクラッチ
80:電子制御装置(制御装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両発進時にロックアップスリップ制御を行う車両用動力伝達装置の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの動力を無段変速機や多段変速機等の変速機へ伝達する流体伝動装置(例えばトルクコンバータやフルードカップリング等)の入出力間を直結可能なロックアップクラッチを備える車両が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両がそれである。一般に、このようなロックアップクラッチは、燃費の向上等を目的として予め設定された関係から車両状態に基づいてその係合・解放が判断され、例えば車両の走行状態がロックアップ領域内に入るとロックアップ制御が開始される。更に、上記予め設定された関係から車両状態に基づいてロックアップクラッチに所定の滑りを与えることにより広い走行範囲でロックアップ作動を可能とするスリップ制御(ロックアップスリップ制御、フレックスロックアップ制御)を実施することで、ロックアップ制御領域を拡大させて燃費を向上させることを可能としている。このようなスリップ制御では、例えばロックアップクラッチの入出力回転速度差(入出力間の差回転速度、スリップ回転速度、スリップ量)を目標値とするようにフィードバック制御によりロックアップクラッチのトルク容量を制御している。
【0003】
また、車両発進に際して、ロックアップクラッチを積極的に掴みにいき、ロックアップクラッチのスリップ制御を実施することで、例えばエンジン回転速度の上昇を抑制して(エンジン回転速度の吹き上がりを抑制して)比較的エンジン燃焼効率の良い低回転高トルク領域を活用することで燃費向上を図る発進時ロックアップスリップ制御(発進時スリップ制御、フレックススタート制御)も提案されている。この発進時スリップ制御は、ロックアップクラッチの差回転速度(例えばエンジン回転速度と車速に拘束されるタービン回転速度との回転速度差)が比較的大きな発進時からの制御となることから、フィードバック制御ではなく、例えばオープン制御(フィードフォワード制御)のみにてロックアップクラッチのトルク容量(すなわちロックアップクラッチのスリップ量)が制御される。図13は、発進時スリップ制御の一例を示すタイムチャートである。この図13の従来例では、ロックアップクラッチのスリップ量の制御にソレノイド弁SLUが用いられており、車両発進に際して、フィードフォワード制御にてソレノイド弁SLUに対して発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧指令値(SLU指示圧)が出力され、ロックアップクラッチのスリップ係合によりエンジン回転速度の上昇が抑制されている。
【0004】
ここで、上述したようなロックアップクラッチのスリップ量を制御するソレノイド弁では、ロックアップクラッチ圧指令値に対応する駆動電流Iに応じた出力圧Pの特性(I/P特性)が初期品質で正負に振れる(例えば±数十[kPa]の)ハード的なばらつきを有しており、ロックアップクラッチ圧指令値に対するロックアップクラッチのトルク容量(ロックアップクラッチトルク)にばらつきが生じる。その為、上記I/P特性が正側に最大振れるソレノイド弁では発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧指令値により、車両発進過渡時のロックアップクラッチのトルク容量(ロックアップクラッチトルク)が過多ぎみとなり(すなわち車両発進直後にロックアップクラッチを掴み過ぎてしまい)、図13に示すようにエンジン回転速度が変動して、トルク揺れやショックが発生する可能性がある。これに対して、初期の適合値(発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧指令値)を下げることが考えられるが、この場合には、上記I/P特性が正側に最大振れないソレノイド弁では、車両発進時のエンジン回転速度の吹き上がりを適切に抑えることができず、燃費向上効果が低減してしまう可能性がある。そこで、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧(ロックアップクラッチ圧指令値も同意)を車両毎に学習により補正することで、ハード的なばらつきや経年変化に対応することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−29464号公報
【特許文献2】特開2006−336854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両発進時は、ハード依存(例えば立ち上がり時のエンジントルク安定度、ロックアップクラッチの滑り速度変化に伴う摩擦係数変化、アクセルペダルの遊び等)のばらつき要素が多い為、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクのばらつきを安定的に検出することが難しく、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定的に学習することが困難となる可能性がある。そこで、ソレノイド以外の特性が比較的安定する定常走行時(例えば車両走行が安定した加速域等)のスリップ制御中にロックアップクラッチ圧を学習し、その際の学習値(或いは学習補正量)を発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧に反映する方法がある。しかしながら、昨今のロックアップ領域の拡大により定常走行時のスリップ制御の頻度が少なくなり、結果的に学習回数が少なくなり、学習値が収束しないまま反映された発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧指令値を用いて発進時スリップ制御が繰り返し実行されることでショックが連続して発生する可能性がある。また、定常走行時と車両発進時とでは、エンジントルクの使用領域、ロックアップクラッチ圧指令値の使用領域、ドライバビリティの悪化が許容される範囲などが異なる為、単純に定常走行時の学習値を発進時スリップ制御に反映できない可能性がある。従って、車両発進時においても独自にロックアップクラッチ圧を学習することが望まれる。尚、このような課題は未公知であり、ハード依存のばらつき要素が多い車両発進時であっても、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクのばらつきを安定的に検出し、定常走行時と同様にロックアップクラッチ圧を安定して学習することについて未だ提案されていない。
【0007】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両発進時であっても発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習することができる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する為の第1の発明の要旨とするところは、(a) エンジンの動力を自動変速機へ伝達する流体伝動装置の入出力回転部材間を直結可能なロックアップクラッチを備え、車両発進に際して前記ロックアップクラッチをスリップ係合させる発進時ロックアップスリップ制御を行う車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b) 前記発進時ロックアップスリップ制御中において前記ロックアップクラッチの差回転速度が最大のときの実際のエンジン回転速度が、その差回転速度が最大のときのエンジントルクの推定値に応じて増加する目標のエンジン回転速度よりも低い場合には、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により減圧側に補正することにある。
【発明の効果】
【0009】
このようにすれば、前記発進時ロックアップスリップ制御中において前記ロックアップクラッチの差回転速度が最大のときの実際のエンジン回転速度が、その差回転速度が最大のときのエンジントルクの推定値に応じて増加する目標のエンジン回転速度よりも低い場合には、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧が学習により減圧側に補正されるので、エンジン回転速度の変化量(変化速度)が略零となってエンジンイナーシャを無視できたり、また流体伝動装置としてのトルクコンバータの速度比の関数であるそのトルクコンバータの容量係数が略一定の状態とされて、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクのばらつきを安定して検出することができる。つまり、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクが過多気味であるか否かを安定して判断することができる。よって、ロックアップクラッチの差回転速度が最大のときのエンジントルクとエンジン回転速度とを用いることで、ハード依存のばらつき要素が多い車両発進時の過渡であっても、発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習することができる。
【0010】
ここで、第2の発明は、前記第1の発明に記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差回転速度が最大のときは、前記発進時ロックアップスリップ制御の開始後に第1の所定時間が経過してから第2の所定時間が経過するまでの予め求められた発進時ロックアップスリップ制御中での前記差回転速度の発生現象を見る為の一定の所定期間内において判断されることにある。このようにすれば、エンジン吹きに伴って大きくなり且つロックアップクラッチのスリップ係合に伴って小さくなるという発進時ロックアップスリップ制御中での差回転速度の発生現象を適確に捉えることができる。
【0011】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記実際のエンジン回転速度が前記目標のエンジン回転速度よりも高い場合には、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により増圧側に補正することにある。このようにすれば、車両発進時の過渡であっても、発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習することができる。
【0012】
また、第4の発明は、前記第3の発明に記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記実際のエンジン回転速度の方が高い場合が所定回数連続で判定されたときに、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により増圧側に補正することにある。このようにすれば、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクが確実に足りていないことを判断できたときにロックアップクラッチ圧を増圧側に補正することができる。つまり、ロックアップクラッチ圧の増圧側への補正は、エンジン回転速度の吹き上がりを抑制することになり、燃費向上には貢献するがドライバビリティは悪化する傾向があることに対して、この増圧側への補正を慎重にすることでドライバビリティを重視することができる。
【0013】
また、第5の発明は、前記第1の発明乃至第4の発明の何れか1つに記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記実際のエンジン回転速度と前記目標のエンジン回転速度との差分が大きくなる程学習による補正量を大きくすることにある。このようにすれば、学習によりロックアップクラッチ圧が一層適切に補正される。
【0014】
また、第6の発明は、前記第5の発明に記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記差分が所定値を超えてから補正量を大きくすることにある。このようにすれば、学習によるロックアップクラッチ圧の更新頻度が抑制され、学習値を保存する記憶装置(メモリ)の物理的な耐久性が向上される。
【0015】
また、第7の発明は、前記第1の発明乃至第6の発明の何れか1つに記載の車両用動力伝達装置の制御装置において、前記目標のエンジン回転速度は、前記発進時ロックアップスリップ制御中においてドライバビリティの悪化が許容される範囲で燃費性能を向上させる為に可及的に低下させたエンジン回転速度として予め実験的に求められた前記差回転速度が最大のときの理想のエンジン回転速度である。このようにすれば、車両発進時の過渡であっても、発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用される車両に備えられた動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明する図である。
【図2】自動変速機などの構成を説明する骨子図である。
【図3】自動変速機の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図4】油圧制御回路のうちロックアップクラッチの作動制御等に関する回路図である。
【図5】電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図6】予め記憶されたエンジントルクマップの一例を示す図である。
【図7】発進時スリップ制御及び定常時スリップ制御を実行する際に設定されるLUクラッチ圧指令値の一例を示す図である。
【図8】NS最大時エンジン回転速度NEmaxとエンジントルクTEとの予め実験的に求められた目標線を有する関係(マップ)の一例を示す図である。
【図9】トルクコンバータの容量係数と速度比との関係(作動特性図)の一例を示す図である。
【図10】差分と学習による補正量との予め実験的に求められた関係(補正量マップ)の一例を示す図である。
【図11】電子制御装置の制御作動の要部すなわち車両発進時であっても発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を安定して学習する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【図12】図11の制御作動に対応するタイムチャートである。
【図13】発進時スリップ制御の従来例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、好適には、前記エンジンとしては、例えば燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関等のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等が好適に用いられるが、電動機等の他の原動機をエンジンと組み合わせて採用することもできる。
【0018】
また、好適には、前記発進時ロックアップスリップ制御は、前記エンジン回転速度が吹け上がるのを抑制するように、車両に対する加速要求量に応じてロックアップクラッチ圧指令値を設定するフィードフォワード制御である。
【0019】
また、好適には、前記自動変速機は、例えば複数組の遊星歯車装置の回転要素が係合装置によって選択的に連結されることにより複数のギヤ段(変速段)が択一的に達成される公知の遊星歯車式自動変速機、常時噛み合う複数対の変速ギヤを2軸間に備えてそれら複数対の変速ギヤのいずれかを同期装置によって択一的に動力伝達状態とする同期噛合型平行2軸式変速機ではあるが油圧アクチュエータにより駆動される同期装置によって変速段が自動的に切換られることが可能な同期噛合型平行2軸式自動変速機、同期噛合型平行2軸式自動変速機であるが入力軸を2系統備えて各系統の入力軸にクラッチがそれぞれ繋がり更にそれぞれ偶数段と奇数段へと繋がっている型式の変速機である所謂DCT(Dual Clutch Transmission)、動力伝達部材として機能する伝動ベルトが有効径が可変である一対の可変プーリに巻き掛けられ変速比が無段階に連続的に変化させられる所謂ベルト式無段変速機、共通の軸心まわりに回転させられる一対のコーンとその軸心と交差する回転中心回転可能な複数個のローラがそれら一対のコーンの間で挟圧されそのローラの回転中心と軸心との交差角が変化させられることによって変速比が可変とされた所謂トラクション型無段変速機などにより構成される。また、前記自動変速機の車両に対する搭載姿勢は、その自動変速機の軸線が車両の幅方向となるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両などの横置き型でも、その自動変速機の軸線が車両の前後方向となるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両などの縦置き型でも良い。
【0020】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
図1は、本発明が適用される車両10に備えられたエンジン14から駆動輪32までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、エンジン14の出力制御、自動変速機18の変速制御などの為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明する図である。また、図2は、自動変速機18などを説明する骨子図である。尚、トルクコンバータ16や自動変速機18等は中心線(軸心RC)に対して略対称的に構成されており、図2ではその中心線の下半分が省略されている。また、図2中の軸心RCはエンジン14、トルクコンバータ16の回転軸心である。
【0022】
図1,図2において、車両用動力伝達装置12(以下、動力伝達装置12という)は、車体にボルト止め等によって取り付けられる非回転部材としてのトランスアクスルケース20(以下、ケース20という)内の軸心RC上において、エンジン14側から順番に、トルクコンバータ16、自動変速機18等を備えている。また、動力伝達装置12は、自動変速機18の出力回転部材である出力歯車24と噛み合うデフリングギヤ26、そのデフリングギヤ26を一体的に備える差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)28、その差動歯車装置28に連結された1対の車軸30等を備えている。このように構成された動力伝達装置12は、例えばFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の車両10に好適に用いられるものである。動力伝達装置12において、エンジン14の動力は、クランク軸15から、トルクコンバータ16、自動変速機18、デフリングギヤ26、差動歯車装置28、及び1対の車軸30等を順次介して1対の駆動輪32へ伝達される。
【0023】
トルクコンバータ16は、ポンプ翼車16pとタービン翼車16tとの間で流体を介して動力伝達を行う流体伝動装置である。このポンプ翼車16pは、クランク軸15を介してエンジン14に連結されており、エンジン14からの駆動力が入力され且つ軸心RC回りに回転可能なトルクコンバータ16の入力側回転要素である。また、タービン翼車16tは、トルクコンバータ16の出力側回転要素であり、自動変速機18の入力回転部材である入力軸19にスプライン嵌合等によって相対回転不能に連結されている。また、ポンプ翼車16p及びタービン翼車16tの間には、それらの間すなわちトルクコンバータ16の入出力回転部材間を直結可能なロックアップクラッチ34が設けられている。また、ポンプ翼車16pには、自動変速機18を変速制御したり、ロックアップクラッチ34の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりする為の元圧となる作動油圧をエンジン14によって回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ22が連結されている。
【0024】
ロックアップクラッチ34は、良く知られているように、摩擦材を滑らせ差回転が発生する機構を有して、油圧制御回路100によって係合側油室16on内の油圧PONと解放側油室16off内の油圧POFFとの差圧ΔP(=PON−POFF)が制御されることによりフロントカバー16cに摩擦係合させられる油圧式の摩擦クラッチである(図4参照)。トルクコンバータ16の運転状態としては、例えば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ34が解放される所謂ロックアップ解放(ロックアップオフ)、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ34が滑りを伴って半係合される所謂ロックアップスリップ状態(スリップ状態)、及び差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ34が完全係合される所謂ロックアップ状態(係合状態、ロックアップオン)の3状態に大別される。例えば、ロックアップクラッチ34が完全係合(ロックアップオン)させられることにより、ポンプ翼車16p及びタービン翼車16tが一体回転させられてエンジン14の動力が自動変速機18側へ直接的に伝達される。また、所定のスリップ状態でスリップ係合するように差圧ΔPが制御されることにより、例えば入出力回転速度差(すなわちスリップ回転速度(スリップ量、差回転速度)=エンジン回転速度NE−タービン回転速度NT)NSがフィードバック制御されることにより、車両10の駆動(パワーオン)時には所定のスリップ量でタービン軸をクランク軸15に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には所定のスリップ量でクランク軸15をタービン軸に対して追従回転させるロックアップスリップ制御が行われる。尚、ロックアップクラッチ34のスリップ状態においては、例えば差圧ΔPが零とされることによりそのロックアップクラッチ34のトルク分担がなくなって、トルクコンバータ16は、ロックアップオフと同等の運転条件とされる。
【0025】
自動変速機18は、エンジン14から駆動輪32までの動力伝達経路の一部を構成し、複数の油圧式摩擦係合装置の何れかの掴み替えにより(すなわち油圧式摩擦係合装置の係合と解放とにより)変速が実行されて複数の変速段(ギヤ段)が選択的に成立させられる有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式多段変速機である。例えば、公知の車両によく用いられる所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う有段変速機である。この自動変速機18は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置36と、ラビニヨ型に構成されているダブルピニオン型の第2遊星歯車装置38及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置40とを同軸線上(軸心RC上)に有し、入力軸19の回転を変速して出力歯車24から出力する。
【0026】
具体的には、自動変速機18は、第1遊星歯車装置36、第2遊星歯車装置38、及び第3遊星歯車装置40の各回転要素(サンギヤS1−S3、キャリアCA1−CA3、リングギヤR1−R3)が、直接的に或いは油圧式摩擦係合装置(クラッチC1,C2、及びブレーキB1,B2,B3)やワンウェイクラッチ(一方向クラッチ)F1を介して間接的(或いは選択的)に、一部が互いに連結されたり、入力軸19、ケース20、或いは出力歯車24に連結されている。そして、クラッチC1,C2、及びブレーキB1,B2,B3のそれぞれの係合解放制御により、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて、図3の係合作動表に示すように前進6段、後進1段の各変速段(各ギヤ段)が成立させられる。図3の「1st」乃至「6th」は前進ギヤ段としての第1速ギヤ段乃至第6速ギヤ段、「R」は後進ギヤ段、「N」は何れのギヤ段も成立させられないニュートラル状態を意味している。図3の係合作動表は、上記各ギヤ段とクラッチC1,C2、及びブレーキB1,B2,B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合、空欄は解放をそれぞれ表している。尚、第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。
【0027】
上記クラッチC1,C2、及びブレーキB1,B2,B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキB、或いは係合装置という)は、公知の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式の摩擦クラッチであって、油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される。このように構成されたクラッチC及びブレーキBは、油圧制御回路100内のリニアソレノイドバルブSL1−SL5等の励磁、非励磁や電流制御により、それぞれのトルク容量すなわち係合力が例えば連続的に変化させられて、それぞれの係合、解放状態が切り換えられると共に、係合、解放時の過渡係合油圧などが制御される。
【0028】
図1に戻り、車両10には、例えば車両走行時にロックアップクラッチ34をスリップ係合させるロックアップスリップ制御(スリップ制御)を行う動力伝達装置12の制御装置を含む電子制御装置80が備えられている。この電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン14の出力制御や自動変速機18の変速制御やロックアップクラッチ34のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用のエンジン制御装置や自動変速機18の変速制御用の油圧制御装置やロックアップクラッチ34の油圧制御用の油圧制御装置等に分けて構成される。
【0029】
電子制御装置80には、例えばタービン回転速度センサ50により検出されたトルクコンバータ16のタービン軸の回転速度であるタービン回転速度NT(すなわち入力軸19の回転速度である入力回転速度NIN)を表す信号、作動油温センサ52により検出された油圧制御回路100内の作動油(例えば公知のATF)の温度である作動油温THOILを表す信号、アクセル開度センサ54により検出された運転者による車両10に対する加速要求量(ドライバ要求量)としてのアクセルペダル56の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、エンジン回転速度センサ58により検出されたエンジン14の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、冷却水温センサ60により検出されたエンジン14の冷却水温THWを表す信号、吸入空気量センサ62により検出されたエンジン14の吸入空気量QAIRを表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θTHを表す信号、車速センサ66により検出された車速Vに対応する出力歯車24の回転速度である出力回転速度NOUTを表す信号、ブレーキスイッチ68により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル70の操作(ブレーキオン)BONを表す信号、レバーポジションセンサ72により検出された「P」,「R」,「N」,「D」等のシフトレバー74のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号などがそれぞれ供給される。
【0030】
また、電子制御装置80からは、エンジン14の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SEとして、例えばアクセル開度Accに応じて電子スロットル弁の開閉を制御する為のスロットルアクチュエータへの駆動信号や燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を制御する為の噴射信号やイグナイタによるエンジン14の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、自動変速機18の変速制御の為の油圧制御指令信号SPとして、例えば自動変速機18のギヤ段を切り換える為に油圧制御回路100内のリニアソレノイドバルブSL1−SL5の励磁、非励磁などを制御する為のバルブ指令信号(油圧指令信号、油圧指令値、駆動信号)や第1ライン油圧PL1や第2ライン油圧PL2などを調圧制御する為のリニアソレノイドバルブSLTへの油圧指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。また、ロックアップクラッチ34の係合、解放、及びスリップ量(差回転速度)NS(=NE−NT)を制御する為のロックアップ制御指令信号SLとして、例えば油圧制御回路100内に備えられたリニアソレノイド弁SLU及びソレノイド弁SL(図4参照)を駆動する為の油圧指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
【0031】
図4は、油圧制御回路100のうちロックアップクラッチ34の作動制御等に関する油圧制御回路の要部を示す図である。図4において、油圧制御回路100は、電子制御装置80から供給されるSL指示(SL指令)信号SSLに対応するオンオフ信号によってオンオフ作動させられて切換用信号圧PSLを発生させる切換用ソレノイド弁SLと、ロックアップクラッチ34の解放状態と係合或いはスリップ状態とを切り換える為のロックアップリレーバルブ102と、電子制御装置80から供給されるロックアップクラッチ圧指令値(LUクラッチ圧指令値、SLU指示圧)SSLUに対応する駆動電流ISLUに応じた信号圧PSLUを出力するスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUと、ロックアップリレーバルブ102によりロックアップクラッチ34が係合或いはスリップ状態とされているときに信号圧PSLUに従ってロックアップクラッチ34の差回転速度NSを制御したりロックアップクラッチ34を係合させる為の(すなわちロックアップクラッチ34の作動状態をスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換える為の)ロックアップコントロールバルブ104とを備えている。
【0032】
図4に示すように、ロックアップリレーバルブ102は、接続状態を切り換える為のスプール弁子106を備え、切換用信号圧PSLに応じてロックアップクラッチ34を解放状態とする解放側位置(オフ側位置)とロックアップクラッチ34を係合或いはスリップ状態とする係合側位置(オン側位置)とに切り換えられる。尚、図4においては、中心線より左側がロックアップクラッチ34の解放状態であるオフ側位置(OFF)にスプール弁子106が位置された状態を示しており、中心線より右側が係合或いはスリップ状態であるオン側位置(ON)にスプール弁子106が位置された状態を示している。
【0033】
また、ロックアップコントロールバルブ104は、接続状態を切り換える為のスプール弁子108を備え、スリップ(SLIP)側位置と完全係合(ON)側位置とに切り換えられる。尚、図4においては、中心線より左側がスリップ(SLIP)側位置にスプール弁子108が位置された状態を示しており、中心線より右側が完全係合(ON)側位置にスプール弁子108が位置された状態を示している。
【0034】
また、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUは、電子制御装置80からの指令に従って、ロックアップクラッチ34の係合乃至スリップ係合時におけるその係合圧を制御する信号圧PSLUを出力するものである。例えば、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUは、油圧制御回路100にて調圧されるモジュレータ油圧PMを元圧とし、そのモジュレータ油圧PMを減圧して信号圧PSLUを出力する電磁制御弁であって、電子制御装置80から供給されるLUクラッチ圧指令値SSLUに対応する駆動電流(励磁電流)ISLUに比例した信号圧PSLUを発生させる。
【0035】
また、切換用ソレノイド弁SLは、電子制御装置80からのSL指令信号(オンオフ信号)SSLに従って所定の切換用信号圧PSLを出力するものである。例えば、切換用ソレノイド弁SLは、非励磁状態(オフ状態)では切換用信号圧PSLをドレン圧とするが、励磁状態(オン状態)では切換用信号圧PSLをモジュレータ油圧PMとしてロックアップリレーバルブ102の所定の油室に作用させることで、ロックアップリレーバルブ102のスプール弁子106を係合状態であるオン側位置(ON)に移動させるように構成されている。
【0036】
以上のように構成された油圧制御回路100により係合側油室16on及び解放側油室16offへの作動油圧の供給状態が切り換えられ、ロックアップクラッチ34の作動状態が切り換えらる。先ず、ロックアップクラッチ34がスリップ状態乃至ロックアップオンとされる場合を説明する。ロックアップリレーバルブ102において、切換用ソレノイド弁SLによってスプール弁子106がオン側位置へ付勢されると、第2ライン油圧PL2が係合側油室16onへ供給される。この係合側油室16onへ供給される第2ライン油圧PL2が油圧PONとなる。同時に解放側油室16off内の油圧POFFがロックアップコントロールバルブ104により調整されて(すなわちロックアップコントロールバルブ104により差圧ΔP(=PON−POFF)すなわち係合圧が調整されて)、そのロックアップクラッチ34の作動状態がスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換えられる。
【0037】
具体的には、ロックアップリレーバルブ102のスプール弁子106が係合(ON)側位置へ付勢されているときにすなわちロックアップクラッチ34が係合乃至スリップ状態に切り換えられているときに、ロックアップコントロールバルブ104においてスプール弁子108がスリップ(SLIP)側位置とされると、第2ライン油圧PL2が解放側油室16offへ供給される。このときの作動油の流量は、信号圧PSLUによって制御される。すなわち、スプール弁子108がスリップ(SLIP)側位置とされた状態においては、差圧ΔPがスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUによって制御されてロックアップクラッチ34のスリップ状態が制御される。また、ロックアップリレーバルブ102のスプール弁子106がON側位置へ付勢されているときに、ロックアップコントロールバルブ104においてスプール弁子108が完全係合(ON)側位置へ付勢されると、解放側油室16offへは第2ライン油圧PL2が供給されず、その解放側油室16offからの作動油がロックアップコントロールバルブ104のドレーンポートEXから排出される。これにより、差圧ΔPが最大とされてロックアップクラッチ34が完全係合状態とされる。
【0038】
一方、ロックアップリレーバルブ102において、切換用信号圧PSLが供給されず、スプール弁子106がオフ側位置へ位置させられると、第2ライン油圧PL2が解放側油室16offへ供給される。そして、係合側油室16onを経て排出された作動油がロックアップリレーバルブ102を介してオイルクーラに供給されて冷却される。すなわち、ロックアップリレーバルブ102のスプール弁子106がオフ側位置へ位置させられている状態においては、ロックアップクラッチ34は解放状態とされ、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLU乃至ロックアップコントロールバルブ104を介してのスリップ乃至係合制御は行われない。換言すれば、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUから出力される信号圧PSLUが変化させられた場合であっても、ロックアップリレーバルブ102のスプール弁子106がオフ側位置へ位置させられている限りにおいてその変化はロックアップクラッチ34の係合状態(差圧ΔP)に反映されない。
【0039】
尚、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUによって制御される差圧ΔPは、ロックアップクラッチ34の係合乃至解放状態を表す油圧値であり、本実施例ではロックアップクラッチ圧PLUとする。また、このロックアップクラッチ圧PLUは、差回転速度NSやロックアップクラッチ34のトルク容量(ロックアップクラッチトルク)TLUに対応する油圧値でもある。また、LUクラッチ圧指令値SSLUやスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUは、ロックアップクラッチ圧PLUの油圧指令値である。
【0040】
図5は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、エンジン出力制御部すなわちエンジン出力制御手段82は、例えばスロットル制御の為にスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射量制御の為に燃料噴射装置による燃料噴射量を制御し、点火時期制御の為にイグナイタ等の点火装置を制御するエンジン出力制御指令信号SEを出力する。例えば、エンジン出力制御手段82は、スロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEの推定値(以下推定エンジントルク)TE’との予め実験的に求められて記憶された例えば図6に示すような関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEに基づいて目標エンジントルクTE*が得られるスロットル弁開度θTHとなるように電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射装置による燃料噴射量を制御し、イグナイタ等の点火装置を制御する。上記目標エンジントルクTE*は、例えば加速要求量に対応するアクセル開度Accに基づいてそのアクセル開度Accが大きい程大きくされるように電子制御装置80により求められるものであり、ドライバー要求エンジントルクに相当する。尚、図6に示すようなエンジントルクマップでは、スロットル弁開度θTHに替えて、吸入空気量QAIR等の他のエンジン負荷に相当するパラメータが用いられても良い。
【0041】
変速制御部すなわち変速制御手段84は、例えば車速V及びアクセル開度Accを変数としてアップシフトが判断される為のアップシフト線とダウンシフトが判断される為のダウンシフト線とを有する予め記憶された公知の関係(変速マップ、変速線図)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて変速判断を行い、自動変速機18の変速を実行すべきか否かを判断する。そして、変速制御手段84は、自動変速機18の変速すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段が得られるように自動変速機18の自動変速制御を実行する変速指令を出力する。例えば、変速制御手段84は、図3に示す係合作動表に従ってギヤ段が達成されるように、自動変速機18の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号(変速出力指令値)SPを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、自動変速機18の変速が実行されるように或いは自動変速機18の現在のギヤ段が維持されるように、その油圧制御指令信号SPに従って、油圧制御回路100内のリニアソレノイドバルブSL1−SL5を作動させて、そのギヤ段成立(形成)に関与する油圧式摩擦係合装置の各油圧アクチュエータを作動させる。
【0042】
ロックアップクラッチ制御部すなわちロックアップクラッチ制御手段86は、例えば車速V及びスロットル弁開度θTHを変数としてロックアップオフ領域、ロックアップスリップ領域、及びロックアップオン領域を有する予め記憶された関係(マップ、ロックアップ領域線図)から、実際の車速V及びスロットル弁開度θTHで示される車両状態に基づいてロックアップクラッチ34の作動状態の切換えを制御する。例えば、ロックアップクラッチ制御手段86は、上記ロックアップ領域線図から実際の車両状態に基づいてロックアップオフ領域、ロックアップスリップ領域、ロックアップオン領域の何れかであるかを判断し、ロックアップクラッチ34のロックアップオフへの切換え、或いはロックアップスリップ状態乃至ロックアップオンへの切換えの為のロックアップ制御指令信号SLを油圧制御回路100へ出力する。また、ロックアップクラッチ制御手段86は、ロックアップスリップ領域であると判断すると、ロックアップクラッチ34の実際の差回転速度NS(=NE−NT)を逐次算出し、その実際の差回転速度NSが目標差回転速度NS*となるように差圧ΔPを制御する為のロックアップ制御指令信号SLを油圧制御回路100へ出力する。例えば、あるギヤ段において、比較的高車速領域では、ロックアップクラッチ34をロックアップオンしてポンプ翼車16pとタービン翼車16tとを直結することで、トルクコンバータ16の滑り損失(内部損失)を無くして燃費を向上させている。また、あるギヤ段において、比較的低中速領域では、ポンプ翼車16pとタービン翼車16tとの間に例えば50rpm〜100rpm程度の目標差回転速度NS*に相当する所定の微少な滑りを与えてスリップ係合させるスリップ制御(ロックアップスリップ制御)を実施することで、ロックアップ作動領域を拡大し、トルクコンバータ16の伝達効率を向上して燃費を向上させている。
【0043】
油圧制御回路100は、ロックアップクラッチ制御手段86からのロックアップ制御指令信号SLに従ってロックアップクラッチ34の解放とスリップ状態乃至完全係合とが切り換えられるように切換用ソレノイド弁SLを作動させてロックアップリレーバルブ102の弁位置を解放側(OFF)位置と係合側(ON)位置とで切り換える。また、油圧制御回路100は、ロックアップクラッチ制御手段86からのロックアップ制御指令信号SLに従ってロックアップクラッチ34のスリップ状態乃至完全係合におけるロックアップクラッチトルクTLUがロックアップコントロールバルブ104を介して増減されるようにスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUを作動させてロックアップクラッチ34を係合したりロックアップクラッチ34の差回転速度NSを制御する。
【0044】
また、ロックアップクラッチ制御手段86は、例えばアクセルオン(アクセルペダル56の踏込み操作)に伴う車両発進に際して、比較的エンジン燃焼効率の良い低回転高トルク領域を活用することで燃費向上を図る為に、エンジン回転速度NEの上昇(吹き上がり)を抑制するようにロックアップクラッチ34をスリップ係合させる発進時ロックアップスリップ制御(発進時スリップ制御)を実行する。この発進時スリップ制御では、例えば予め設定された所定の発進時スリップ制御開始条件が満たされた場合に、車両10に対する加速要求量としてのアクセル開度Accに応じて燃費や動力性能を両立させるようにエンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制して燃料消費を抑制する。このような発進時スリップ制御を実行する車両状態において、ロックアップクラッチ34が解放されている状態でのアクセルオン直後(例えば車両発進直後)では、エンジン回転速度NEが立ち上がる過渡期である為に差回転速度NS(=NE−NT)を制御し難い。その為、この発進時スリップ制御では、例えばエンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制するように、アクセル開度Accに応じた一定のLUクラッチ圧指令値SSLUを設定するオープンループ制御(オープン制御、フィードフォワード制御)を実行する。そして、例えば車両状態がロックアップスリップ領域にあると判断されると、前述した通り、差回転速度NSが目標値となるようにロックアップクラッチ34をスリップ係合させるスリップ制御を実行する(このフィードバック制御によるスリップ制御を定常時ロックアップスリップ制御(定常時スリップ制御)と称する)。或いは、例えば発進時スリップ制御中に差回転速度NSが所定差回転速度NS’以内になったと判断されると、発進時スリップ制御に引き続いて連続して定常時スリップ制御(加速時スリップ制御)を実行する。この定常時スリップ制御では、例えば差回転速度NSの実際値(実差回転速度NS)と目標値(目標差回転速度NS*)との偏差ΔNS(=NS*−NS)に基づいてLUクラッチ圧指令値SSLUを逐次設定するクローズドループによるフィードバック制御を実行する。
【0045】
上記所定の発進時スリップ制御開始条件としては、例えばレバーポジションPSHが「D」ポジションであるか否か、ブレーキオフとされているか否かすなわちブレーキオンBONを表す信号が入力されていない状態であるか否か、作動油温THOILが所定温度範囲例えば暖機完了後の温度から高油温と判断されない油温までの温度範囲に入っているか否か、現在のギヤ段が第1速ギヤ段であって変速中でないか否か、車両10が停止していると判定された状態からのアクセルオンであるか否か、及び発進時ロックアップスリップ領域にあるか否かすなわちアクセル開度Accが所定の低開度となるアクセルオンであるか否かの全てが成立しているかである。
【0046】
尚、上記発進時スリップ制御は、アクセルオンの車両発進に際して、アクセルオンに伴ってエンジン回転速度NEが一時的に上昇してしまうことを抑制するように、ロックアップクラッチ34を係合に向けてスリップ係合させる制御である。その為、発進時スリップ制御は、アクセルペダル56の踏み込み具合に対する車両加速感等において運転者が違和感等を感じ難くする為に、例えばアクセル開度Accが比較的低開度となるアクセルオンの車両発進時に実行されることが望ましい。その為、上記所定の発進時スリップ制御開始条件の1つとしての発進時ロックアップスリップ領域にあるか否かの判断に用いられる前記ロックアップ領域線図においては、例えばスロットル弁開度θTHが比較的低開度の領域に上記発進時ロックアップスリップ領域が設定される。本実施例では、定常時スリップ制御の実行を判断する為の前記ロックアップスリップ領域を、この発進時ロックアップスリップ領域と区別する為に、定常時ロックアップスリップ領域と称する。また、上記発進時ロックアップスリップ領域は、例えばエンジン回転速度NEの吹き上がりを抑制することによる燃費向上を考慮して設定されている領域であり、上記定常時ロックアップスリップ領域は、例えばドライバビリティやこもり音(例えばNVH(騒音・振動・乗り心地)性能)を考慮して設定されている領域である。また、定常時スリップ制御においては、アクセルオンの加速走行時に実行するものを加速時スリップ制御とし、アクセルオフの減速走行時に実行するものを減速時スリップ制御として区別しても良い。
【0047】
また、例えば発進時スリップ制御の実行中に、予め設定された所定の定常時スリップ制御開始条件が満たされると、発進時スリップ制御から定常時スリップ制御へ移行することになる。発進時スリップ制御と定常時スリップ制御とは、何れもスリップ制御ではあるが、LUクラッチ圧指令値SSLUの設定の仕方が全く異なることからそれぞれ独立した制御と見ることもできる。
【0048】
図7は、発進時スリップ制御及び定常時スリップ制御を実行する際に設定されるLUクラッチ圧指令値SSLUの一例を示す図である。図7において、発進時スリップ制御におけるLUクラッチ圧指令値SSLUとしては、先ず、ファーストフィル(急速充填)の為のクラッチ圧指令値が出力開始され(t1時点)、次いで、エンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制する為のフィードフォワード制御における一定のクラッチ圧指令値SLUFFに維持される(t2時点乃至t3時点)。そして、所定の定常時スリップ制御開始条件が成立すると(t3時点)、クラッチ圧指令値SLUFFからフィードバック制御におけるクラッチ圧指令値SLUFBに向けて漸増するクラッチ圧指令値SLUSWが出力され(t3時点乃至t4時点)、実差回転速度NSを目標差回転速度NS*と一致させる為のフィードバック制御におけるクラッチ圧指令値SLUFBが逐次設定される(t4時点以降)。
【0049】
上記フィードフォワード制御における一定のクラッチ圧指令値SLUFFは、例えばエンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制するように、アクセル開度Accやスロットル弁開度θTH等に応じて設定される。つまり、アクセル開度Accが大きい程すなわちスロットル弁開度θTHが大きい程、エンジントルクTEが大きく、又エンジン14の吹け上がりも急となる。その為、アクセル開度Accが大きい程より早くロックアップクラッチトルクTLUを増大させてエンジン回転速度NEを抑制し易くするという観点から、例えばアクセル開度Accが大きい程、クラッチ圧指令値SLUFFを大きくするように、発進時スリップ制御におけるLUクラッチ圧指令値SSLUを設定する。尚、アクセル開度Accに替えて、スロットル弁開度θTH、吸入空気量QAIR、燃料噴射量、スロットル弁開度θTH或いは吸入空気量QAIRなどから算出した推定エンジントルクTE’などを用いるなど種々の態様が可能であることは言うまでもない。
【0050】
また、上記所定の定常時スリップ制御開始条件としては、例えばロックアップ領域線図における定常時ロックアップスリップ領域に車両状態があるか否かなどである。また、特に、発進時スリップ制御からの移行時であるときのこの所定の定常時スリップ制御開始条件としては、例えば発進時スリップ制御中のエンジン回転速度NEの上昇がある程度抑制された為にフィードフォワード制御からフィードバック制御に切り替えても適切にスリップ制御を実行できると判断される為の予め実験的に求められて設定された所定差回転速度NS’以下に実際の差回転速度NSが低下したか否かなどである。
【0051】
このように、ロックアップクラッチ制御手段86は、前記所定の発進時スリップ制御開始条件が成立すると、エンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制するようにアクセル開度Accに基づいて一定のクラッチ圧指令値SLUFFを設定し、そのクラッチ圧指令値SLUFFによりスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUを駆動してロックアップクラッチ34のロックアップクラッチ圧PLUを制御するスリップ係合指令を油圧制御回路100に出力するフィードフォワード制御を実行して、ロックアップクラッチ34をスリップ係合させる。
【0052】
ところで、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUでは、LUクラッチ圧指令値(SLU指示圧)SSLUに対応する駆動電流ISLUに応じた信号圧PSLUの特性(I/P特性)が初期品質で例えば±数十[kPa]のハード的なばらつきを有しており、LUクラッチ圧指令値SSLUに対するロックアップクラッチトルクTLUに相応のばらつきが生じる。その為、上記I/P特性が+数十[kPa]のばらつきを有するスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUでは、発進時スリップ制御におけるLUクラッチ圧指令値SSLUとしてのクラッチ圧指令値SLUFFにより、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUが過多気味となり(すなわち車両発進直後にロックアップクラッチ34を掴み過ぎてしまい)、トルク揺れやショックが発生する可能性がある(図13参照)。これに対して、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLU(LUクラッチ圧指令値SSLU(クラッチ圧指令値SLUFF)も同意)を学習により補正することで、ハード的なばらつきや経年変化に対応することが考えられる。しかしながら、車両発進時は、ハード依存(例えば立ち上がり時のエンジントルク安定度、ロックアップクラッチ34の滑り速度変化に伴う摩擦係数変化、アクセルペダル56の遊び等)のばらつき要素が多い。そうすると、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUのばらつきを安定的に検出することが難しく、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定的に学習することが困難となる可能性がある。本実施例は、ハード依存のばらつき要素が多い車両発進時であっても、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定的に学習できる方法について提案するものである。
【0053】
具体的には、本実施例では、発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときの実際のエンジン回転速度NE(最大時実エンジン回転速度NEmax)が、差回転速度NSが最大のときの推定エンジントルクTE’(最大時推定エンジントルクTE’max)に応じて増加する差回転速度NSが最大のときの目標のエンジン回転速度NE*(最大時目標エンジン回転速度NE*max)よりも低い場合には、ロックアップクラッチトルクTLUが過多であると判断して(すなわちロックアップクラッチ34の掴み過ぎを判断して)、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLU(クラッチ圧指令値SLUFFも同意)を学習により減圧側に補正する。例えば、発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときの最大時実エンジン回転速度NEmaxと、差回転速度NSが最大のときのエンジン回転速度NE(最大時エンジン回転速度NEmax)とエンジントルクTEとの予め実験的に求められたロックアップクラッチトルクTLUの過多を検出(判断)する為の目標値(すなわちロックアップクラッチ34の掴み過ぎを判断する為の目標値)としての目標線Aを有する例えば図8に示すような関係(マップ)から差回転速度NSが最大のときの最大時推定エンジントルクTE’maxに基づいて算出される差回転速度NSが最大のときの最大時目標エンジン回転速度NE*maxとを比較し、最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が最大時目標エンジン回転速度NE*maxよりも低い場合には、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により減圧側に補正する。また、反対に、最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が最大時目標エンジン回転速度NE*maxよりも高い場合には、ロックアップクラッチトルクTLUが過多でないと判断して、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により増圧側に補正する。
【0054】
上記最大時目標エンジン回転速度NE*maxは、発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34を掴みにいくことによるドライバビリティの悪化が許容される範囲で燃費性能を向上させる為に可及的に低下させた(抑制した)エンジン回転速度NEとして予め実験的に求められた差回転速度NSが最大のときの理想のエンジン回転速度である。上記図8の関係は、このような観点に基づいて予め実験的に求められて記憶されたマップである。上記図8の関係における目標線は差回転速度NSが最大のときのエンジントルクTEに対応する理想のエンジン回転速度の連なりであって、この図8の関係は差回転速度NSが最大のときの理想のエンジン回転速度を定めた理想エンジン回転速度マップである。
【0055】
また、上記差回転速度NSが最大のときは、発進時スリップ制御の開始後に第1の所定時間としてのスリップ制御初期時間TSLが経過してから第2の所定時間としてのスリップ制御終期時間TSHが経過するまでの予め求められて記憶された発進時スリップ制御中での差回転速度NSの発生現象を見る為の一定の所定期間TS内において判断される。これは、車両発進時にアクセルオンによるエンジン吹きに伴って大きくなり且つロックアップクラッチ34のスリップ係合に伴って小さくなるという発進時スリップ制御中での差回転速度NSの発生現象を適確に捉える為である。つまり、エンジン吹きの現象を発進時スリップ制御を要因とするものに限定する為である。例えば、発進時スリップ制御の開始初期では、アクセルペダル56の操作が安定せずエンジン回転速度NEがしっかりと吹き上がらない可能性があるので、エンジン回転速度NEがしっかりと吹き上がってからの状態にて差回転速度NSが最大となるときを判断したい。また、降坂路でのブレーキオフにより車速Vの上昇と共にタービン軸回転速度NTが上昇し、発進時スリップ制御の開始初期の差回転速度NSが最大となると判断される可能性があるので、エンジン回転速度NEがしっかりと吹き上がってからの状態にて差回転速度NSが最大となるときを判断したい。このようなことから、発進時スリップ制御の開始後にスリップ制御初期時間TSLが経過するまでは、差回転速度NSが最大となるときを判断しないのである。また、発進時スリップ制御の開始から長い期間が経過すると、アクセル戻し操作や坂路走行等の他の要因により差回転速度NSが最大となると判断される可能性があるので、発進時スリップ制御を要因とするものに限定したい。このようなことから、発進時スリップ制御の開始後にスリップ制御終期時間TSHが経過するまでしか差回転速度NSが最大となるときを判断しないのである。
【0056】
ここで、ロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとを用いることで、発進時スリップ制御中のロックアップクラッチトルクTLUが過多であるか否かを判断(検出)するという制御を採用した理由を以下に説明する。
【0057】
一般的に、トルクコンバータ16の釣り合い式は、エンジントルクTE、ポンプトルクTP、ロックアップクラッチトルクTLU、エンジンイナーシャIE、及びエンジン回転速度NEに基づいて、次式(1)にて表される。また、ポンプトルクTPは、トルクコンバータ16の容量係数C及びエンジン回転速度NEに基づいて、次式(2)にて表される。ここで、ロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大となるときは、エンジン回転速度NEの差回転変化量(dNE/dt)は略零となり、次式(1)におけるイナーシャの項は無視できる。従って、トルクコンバータ16の釣り合い式は、次式(3)にて表される。次式(3)におけるトルクコンバータ16の容量係数Cは、トルクコンバータ16の速度比e(=タービン回転速度NT/エンジン回転速度NE)の関数(C=f(e))であり、図9のトルクコンバータ16の作動特性図に示すように、タービン回転速度NTに対してエンジン回転速度NEが比較的大きくなる発進過渡時には略一定値(定数CONST)となる。そうすると、次式(3)は、一般的な二次関数(y=ax2+c)と見ることができ、差回転速度NSが最大となるときのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとを用いることで、前記図8の理想エンジン回転速度マップに示すように、ロックアップクラッチトルクTLUが過多である領域(すなわちロックアップクラッチ34の掴み過ぎ領域)を予め実験的に設定することができるのである。よって、差回転速度NSが最大となるときのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとを用いることで、ハード依存のばらつき要素が多い発進過渡時であっても、ロックアップクラッチトルクTLUやエンジントルクTEのばらつきを安定して検出することができ、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定して(適切に)学習することができる。尚、上記エンジンイナーシャIEは、例えば設計的に或いは予め実験的に求められて記憶された定数(実験値)である。
TE=TP+TLU+IE×(dNE/dt) ・・・(1)
TP=C×NE2 ・・・(2)
TE=C×NE2+TLU ・・・(3)
【0058】
より具体的には、図5に戻り、発進時スリップ制御実行中判定部すなわち発進時スリップ制御実行中判定手段88は、ロックアップクラッチ制御手段86による発進時スリップ制御が実行中であるか否かを判定する。
【0059】
差回転速度最大判定部すなわち差回転速度最大判定手段90は、発進時スリップ制御実行中判定手段88により発進時スリップ制御が実行中であると判定されている場合には、発進時スリップ制御の開始からの制御時間がスリップ制御初期時間TSL経過からスリップ制御終期時間TSH経過までの所定期間TS内であるときに、ロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大となったか否かを判定する。例えば、所定期間TS内において差回転速度NSの変化(d(NS/dt))が零乃至負値となったか否かに基づいて差回転速度NSが最大となったか否かを判定する。
【0060】
最大時目標値算出部すなわち最大時目標値算出手段92は、差回転速度最大判定手段90により差回転速度NSが最大となったと判定されたときには、例えば図6に示すようなエンジントルクマップから最大時実エンジン回転速度NEmax及びそのときの実際のスロットル弁開度θTHに基づいて最大時推定エンジントルクTE’maxを算出する。そして、最大時目標値算出手段92は、例えば図8に示すような理想エンジン回転速度マップから上記算出した最大時推定エンジントルクTE’maxに基づいて最大時目標エンジン回転速度NE*max(差回転速度NSが最大のときの理想のエンジン回転速度)を算出する。
【0061】
最大時回転速度比較部すなわち最大時回転速度比較手段94は、最大時実エンジン回転速度NEmaxと最大時目標エンジン回転速度NE*maxとを比較する。例えば、最大時回転速度比較手段94は、最大時目標エンジン回転速度NE*maxが最大時実エンジン回転速度NEmaxより高いか否かを判定する。つまり、最大時回転速度比較手段94は、最大時目標エンジン回転速度NE*maxが最大時実エンジン回転速度NEmaxより高いか否かを判定することで、ロックアップクラッチトルクTLUが過多であるか否か(すなわちロックアップクラッチ34の掴み過ぎか否か)を判断(検出)する。つまり、ロックアップクラッチトルクTLUのばらつきを検出する。
【0062】
学習制御部すなわち学習制御手段96は、最大時回転速度比較手段94により最大時目標エンジン回転速度NE*maxの方が高いと判定された場合(すなわちロックアップクラッチトルクTLUが過多であると判定された場合)には、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLU(クラッチ圧指令値SLUFFも同意)を学習により所定の補正量分だけ減圧側に補正する。例えば、学習制御手段96は、電子制御装置80が備える公知のEEPROM等の記憶装置(メモリ)に記憶された現在の学習値である前回の学習により補正された後のクラッチ圧指令値SLUFF(未学習時においては予め記憶されているクラッチ圧指令値SLUFF)を、所定の補正量分だけ減圧側に更新する。一方、学習制御手段96は、最大時回転速度比較手段94により最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が高いと判定された場合(すなわちロックアップクラッチトルクTLUが過多でないと判定された場合)には、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により所定の補正量分だけ増圧側に補正する。例えば、学習制御手段96は、上記現在の学習値を所定の補正量分だけ増圧側に更新する。このように、本実施例の学習制御では、前回学習後の学習値(ロックアップクラッチ圧PLU)をベース圧(基本値)として学習が実行されてそのベース圧が更新される。すなわち、学習後の学習値(ベース圧)が、次回学習時のベース圧となる。
【0063】
上記所定の補正量は、予め求められて記憶された学習による一律の補正量ΔPLUであっても良いし、最大時実エンジン回転速度NEmaxと最大時目標エンジン回転速度NE*maxとの差分ΔNEmax(=|NEmax−NE*max|)が大きくなる程大きくなる学習による補正量ΔPLUであっても良い。図10は、差分ΔNEmaxと学習による補正量ΔPLUとの予め実験的に求められて記憶された関係(補正量マップ)であり、実線に示すように差分ΔNEmaxが大きくなる程補正量ΔPLUが大きくされている。これにより、ロックアップクラッチ圧PLUが一層適切に補正される。また、図10の破線に示すように、差分ΔNEmaxが所定値Eを超えてから補正量ΔPLUを大きくしても良い。これにより、学習によるロックアップクラッチ圧PLUの学習値の更新頻度が抑制される。よって、差分ΔNEmaxが零を挟むその近傍にて学習値の減圧側への補正と学習値の増圧側への補正とが繰り返されること(例えばハンチング)が抑制されたり、また、学習値を保存する記憶装置(メモリ)の物理的な耐久性が向上される。尚、ここでの上記差分は回転速度差の絶対値を表すものとする。
【0064】
ここで、ロックアップクラッチ圧PLUの増圧側への補正は、エンジン回転速度NEの吹き上がりを抑制することになり、燃費向上には貢献するがドライバビリティは悪化する傾向がある。その為、最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が高いと繰り返し判定されて、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUが確実に足りていないことを判断できたときにロックアップクラッチ圧PLUを増圧側に補正することが望ましい。そこで、ロックアップクラッチ圧PLUの増圧側への補正を慎重にすることでドライバビリティを重視するという観点から、学習制御手段96は、最大時回転速度比較手段94により最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が高いと判定された場合が所定回数連続で実行されたときに、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により所定の補正量分だけ増圧側に補正するようにしても良い。上記所定回数は、例えばロックアップクラッチトルクTLUが確実に足りていないと判断できる為の予め実験的に求められて記憶されたトルク不足判定値である。
【0065】
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部すなわち車両発進時であっても発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定して学習する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図12は、図11の制御作動に対応するタイムチャートである。
【0066】
図11において、先ず、発進時スリップ制御実行中判定手段88に対応するS10において、例えば発進時スリップ制御が実行中であるか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合(図12のt1時点以降)は差回転速度最大判定手段90に対応するS20において、例えば発進時スリップ制御の開始からの制御時間がスリップ制御初期時間TSL経過からスリップ制御終期時間TSH経過までの所定期間TS内であるときに、差回転速度NSの変化(d(NS/dt))が零乃至負値となったか否かに基づいてロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大となったか否かが判定される(図12のt2時点乃至t4時点)。このS20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合は最大時目標値算出手段92に対応するS30において、例えば図6に示すようなエンジントルクマップから実際のエンジン回転速度NE(すなわち最大時実エンジン回転速度NEmax)及び実際のスロットル弁開度θTHに基づいて推定エンジントルクTE’(すなわち最大時推定エンジントルクTE’max)が算出される。そして、例えば図8に示すような理想エンジン回転速度マップからその最大時推定エンジントルクTE’maxに基づいて最大時目標エンジン回転速度NE*max(差回転速度NSが最大のときの理想のエンジン回転速度)が算出される(図12のt3時点)。次いで、最大時回転速度比較手段94に対応するS40において、例えば上記S30にて算出された最大時目標エンジン回転速度NE*maxが最大時実エンジン回転速度NEmaxより高いか否かが判定される。このS40の判断が肯定されてロックアップクラッチトルクTLUが過多である場合は学習制御手段96に対応するS50において、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLU例えば電子制御装置80が備えるメモリに記憶された現在の学習値である前回の学習により補正された後のクラッチ圧指令値SLUFFが学習により所定の補正量分だけ減圧側に更新される。一方で、上記S40の判断が否定されてロックアップクラッチトルクTLUが不足する場合は学習制御手段96に対応するS60において、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLU例えば上記現在の学習値が学習により所定の補正量分だけ増圧側に更新される。
【0067】
尚、上記S60は、上記S40の判断が所定回数連続で否定された場合に実行されるようにしても良い。また、上記所定の補正量は、一律の補正量ΔPLUが用いられても良いし、図10に示すような補正量マップから差分ΔNEmaxに基づいて算出された補正量ΔPLUが用いられても良い。また、上記S50と上記S60とで各々異なる補正量ΔPLUが用いられても良い。例えば、上記一律の補正量ΔPLU自体が各々異なっていたり、上記補正量マップ自体が各々異なっていたり、或いは一方は一律の補正量ΔPLUが用いられ且つ他方は補正量マップから算出された補正量ΔPLUが用いられたりしても良い。また、上記S50においては上記図10の実線に示すような補正量マップが用いられ且つ上記S60においては上記図10の破線に示すようなヒステリシス領域(所定値E)が設けられた補正量マップが用いられても良い。
【0068】
上述のように、本実施例によれば、発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときの最大時実エンジン回転速度NEmaxが、差回転速度NSが最大のときの最大時推定エンジントルクTE’maxに応じて増加する最大時目標エンジン回転速度NE*maxよりも低い場合には、ロックアップクラッチトルクTLUが過多であると判断されて、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUが学習により減圧側に補正されるので、差回転速度NSが最大となるときはエンジン回転速度NEの差回転変化量(dNE/dt)が略零となってトルクコンバータ16の釣り合い式(前記式(1))におけるエンジンイナーシャIEの項を無視できたり、またトルクコンバータ16の速度比eの関数であるトルクコンバータ16の容量係数Cが略一定の状態とされて、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUのばらつきを安定して検出することができる。つまり、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUが過多気味であるか否かを安定して判断することができる。よって、ロックアップクラッチ34の差回転速度NSが最大のときのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとを用いることで、ハード依存のばらつき要素が多い車両発進時の過渡であっても、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定して学習することができる。
【0069】
また、本実施例によれば、前記差回転速度NSが最大のときは、発進時スリップ制御の開始後にスリップ制御初期時間TSLが経過してからスリップ制御終期時間TSHが経過するまでの予め求められて記憶された一定の所定期間TS内において判断されるので、エンジン吹きに伴って大きくなり且つロックアップクラッチ34のスリップ係合に伴って小さくなるという発進時スリップ制御中での差回転速度NSの発生現象を適確に捉えることができる。
【0070】
また、本実施例によれば、最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が最大時目標エンジン回転速度NE*maxよりも高い場合には、ロックアップクラッチトルクTLUが過多でないと判断して、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により増圧側に補正するので、車両発進時の過渡であっても、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定して学習することができる。
【0071】
また、本実施例によれば、最大時実エンジン回転速度NEmaxの方が高い場合が所定回数連続で判定されたときに、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを学習により増圧側に補正するので、車両発進過渡時のロックアップクラッチトルクTLUが確実に足りていないことを判断できたときにロックアップクラッチ圧PLUを増圧側に補正することができる。つまり、ロックアップクラッチ圧PLUの増圧側への補正は、エンジン回転速度NEの吹き上がりを抑制することになり、燃費向上には貢献するがドライバビリティは悪化する傾向があることに対して、ロックアップクラッチ圧PLUの増圧側への補正を慎重にすることでドライバビリティを重視することができる。また、例えばハンチングが抑制される。
【0072】
また、本実施例によれば、最大時実エンジン回転速度NEmaxと最大時目標エンジン回転速度NE*maxとの差分ΔNEmax(=|NEmax−NE*max|)が大きくなる程学習による補正量ΔPLUを大きくするので、学習によりロックアップクラッチ圧PLUが一層適切に補正される。
【0073】
また、本実施例によれば、例えば図10の破線に示すように差分ΔNEmaxが所定値Eを超えてから補正量ΔPLUを大きくするので、学習によるロックアップクラッチ圧PLUの更新頻度が抑制され、学習値を保存する記憶装置(メモリ)の物理的な耐久性が向上される。
【0074】
また、本実施例によれば、前記最大時目標エンジン回転速度NE*maxは、発進時スリップ制御中においてロックアップクラッチ34を掴みにいくことによるドライバビリティの悪化が許容される範囲で燃費性能を向上させる為に可及的に低下させた(抑制した)エンジン回転速度NEとして予め実験的に求められた差回転速度NSが最大のときの理想のエンジン回転速度であるので、車両発進時の過渡であっても、発進時スリップ制御におけるロックアップクラッチ圧PLUを安定して学習することができる。
【0075】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0076】
例えば、前述の実施例の学習制御では、前回学習後の学習値をベース圧(基本値)として学習が実行されてそのベース圧が更新されたが、これに限らず、例えばベース圧は更新せず、そのベース圧に対する補正量を学習により更新しても良い。
【0077】
また、前述の実施例では、例えば図6に示すようなエンジントルクマップから実際のエンジン回転速度NE及び実際のスロットル弁開度θTHに基づいて推定エンジントルクTE’を算出したが、必ずしもこれに限らない。例えば、ロードロード(走行抵抗)の釣り合い(特に、定常時)或いは車両加速度(特に、加速時)から駆動輪32における駆動力を算出し、駆動輪32のタイヤ半径、自動変速機18より後段側の差動歯車装置28等における減速比、自動変速機18の変速比(ギヤ比)、トルクコンバータ16のトルク比t(=タービントルクTT/ポンプトルクTP)、動力伝達装置の伝達効率などからその駆動力をクランク軸15上のトルクに換算して、推定エンジントルクTE’を算出しても良い。尚、トルクコンバータ16のトルク比tは、例えばトルクコンバータ16の速度比eとトルク比tとの予め実験的に求められて記憶された公知の関係(トルクコンバータ16の作動特性図)から実際の速度比eに基づいて算出される。
【0078】
また、前述の実施例では、自動変速機18が前進6速、後進1速の変速が可能な自動変速機であったが、自動変速機の変速段数や内部構造は特に前述した自動変速機18に限定されるものではない。すなわち、ロックアップクラッチ34を有する流体伝動装置を備え、発進時スリップ制御が実施可能な構成であれば、本発明を適用することができる。従って、無段変速機や所謂DCT(Dual Clutch Transmission)などを備える車両であっても本発明を適用することができる。
【0079】
また、前述の実施例では、流体伝動装置としてロックアップクラッチ34が備えられているトルクコンバータ16が用いられていたが、トルク増幅作用のないフルードカップリングが用いられても良い。
【0080】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0081】
12:車両用動力伝達装置
14:エンジン
16:トルクコンバータ(流体伝動装置)
16p:ポンプ翼車(入力回転部材)
16t:タービン翼車(出力回転部材)
18:自動変速機
34:ロックアップクラッチ
80:電子制御装置(制御装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力を自動変速機へ伝達する流体伝動装置の入出力回転部材間を直結可能なロックアップクラッチを備え、車両発進に際して前記ロックアップクラッチをスリップ係合させる発進時ロックアップスリップ制御を行う車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記発進時ロックアップスリップ制御中において前記ロックアップクラッチの差回転速度が最大のときの実際のエンジン回転速度が、該差回転速度が最大のときのエンジントルクの推定値に応じて増加する目標のエンジン回転速度よりも低い場合には、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により減圧側に補正することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記差回転速度が最大のときは、前記発進時ロックアップスリップ制御の開始後に第1の所定時間が経過してから第2の所定時間が経過するまでの予め求められた発進時ロックアップスリップ制御中での前記差回転速度の発生現象を見る為の一定の所定期間内において判断されることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記実際のエンジン回転速度が前記目標のエンジン回転速度よりも高い場合には、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により増圧側に補正することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記実際のエンジン回転速度の方が高い場合が所定回数連続で判定されたときに、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により増圧側に補正することを特徴とする請求項3に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記実際のエンジン回転速度と前記目標のエンジン回転速度との差分が大きくなる程学習による補正量を大きくすることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記差分が所定値を超えてから補正量を大きくすることを特徴とする請求項5に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記目標のエンジン回転速度は、前記発進時ロックアップスリップ制御中においてドライバビリティの悪化が許容される範囲で燃費性能を向上させる為に可及的に低下させたエンジン回転速度として予め実験的に求められた前記差回転速度が最大のときの理想のエンジン回転速度であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項1】
エンジンの動力を自動変速機へ伝達する流体伝動装置の入出力回転部材間を直結可能なロックアップクラッチを備え、車両発進に際して前記ロックアップクラッチをスリップ係合させる発進時ロックアップスリップ制御を行う車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記発進時ロックアップスリップ制御中において前記ロックアップクラッチの差回転速度が最大のときの実際のエンジン回転速度が、該差回転速度が最大のときのエンジントルクの推定値に応じて増加する目標のエンジン回転速度よりも低い場合には、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により減圧側に補正することを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記差回転速度が最大のときは、前記発進時ロックアップスリップ制御の開始後に第1の所定時間が経過してから第2の所定時間が経過するまでの予め求められた発進時ロックアップスリップ制御中での前記差回転速度の発生現象を見る為の一定の所定期間内において判断されることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記実際のエンジン回転速度が前記目標のエンジン回転速度よりも高い場合には、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により増圧側に補正することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
前記実際のエンジン回転速度の方が高い場合が所定回数連続で判定されたときに、前記発進時ロックアップスリップ制御におけるロックアップクラッチ圧を学習により増圧側に補正することを特徴とする請求項3に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記実際のエンジン回転速度と前記目標のエンジン回転速度との差分が大きくなる程学習による補正量を大きくすることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記差分が所定値を超えてから補正量を大きくすることを特徴とする請求項5に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記目標のエンジン回転速度は、前記発進時ロックアップスリップ制御中においてドライバビリティの悪化が許容される範囲で燃費性能を向上させる為に可及的に低下させたエンジン回転速度として予め実験的に求められた前記差回転速度が最大のときの理想のエンジン回転速度であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−184805(P2012−184805A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48071(P2011−48071)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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