説明

車両用導体の解析方法及び装置、並びに車両用導体の解析プログラム

【課題】車両に使用される導体に最適なインピーダンスの解析方法を提供する。
【解決手段】本発明の車両用導体の解析方法は、交流電圧が供給される車両用の導体21とその周囲に配置される磁性体22とを含み、当該磁性体22が導体21に発生する磁場に影響を及ぼす領域Sに対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成ステップと、導体21にかかる電圧Vを入力値として有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算ステップと、各要素における電流密度を用いて導体21の断面電流を求める断面電流演算ステップと、導体21の断面電流を用いて当該導体21のインピーダンスを求めるインピーダンス演算ステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ハイブリッド車両等に搭載される駆動用モータとバッテリとを接続するための配線に含まれるバスバー等の導体を解析し、当該導体を流れる電流や当該導体のインピーダンスを求めるために利用することができる車両用導体の解析方法及び装置、並びに車両用導体の解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野においては、地球温暖化防止などの環境保全の観点から低燃費やCO2排出量の削減を実現するハイブリッド車両が注目され、実用化されている。このハイブリッド車両には、ガソリン等の化石燃料を使用するエンジンと駆動用モータとが搭載され、駆動用モータは、車輪駆動のために単独で又はエンジンのアシストとして利用されている。また、ハイブリッド車両の駆動用モータには三相交流モータが使用され、バッテリの直流電圧がインバータにより交流電圧に変換されて供給されている。
【0003】
ここで、インバータによって変換された交流電圧が駆動用モータに接続されたハーネスやバスバー等の導体に印加されると、導体中心に電流が流れず、表面付近にのみ集中して流れる現象、いわゆる表皮効果が生じ、この表皮効果は、導体の有効断面積の減少及び実効抵抗の増大を招き、伝送効率を悪化させる原因となる。また、この表皮効果は交流周波数が高くなるほど、また電流が大きくなるほど顕著となる。そのため、できるだけこれを低減させるような導体設計が望まれている。
さらに、導体が複数本配置されている場合には、導体を流れる電流による磁場の相互作用により導体断面の電流分布が片寄る近接効果が生じる。この近接効果も導体の有効断面積の減少及び実効抵抗の増大を招き、伝送効率を悪化させる原因となる。そのため、できるだけこれも低減させるような導体設計が望まれている。
【0004】
一方、半導体集積回路やプリント基板等の電子回路に係る分野においては、表皮効果を考慮した導体の抵抗を計算するシミュレーション方法が知られており(例えば、特許文献1参照)、表皮効果を低減させる導体の設計のためにこの方法を活用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−132112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ハイブリッド車両等の自動車においては、エンジンルーム、車体底部、トランク下部等のスペースに導体が配置され、その周囲にはボディ、エンジン、カバー、ステーなど磁性体材料で形成された多くの部品が配置されているので、導体を流れる電流によって発生する磁界が周囲の磁性体の影響を受け、導体を流れる電流や導体のインピーダンスにも変化が生じる。また、ハイブリッド車両は、駆動用モータに供給される交流電流の周波数が10kHz程度と非常に高く、電流値も大きい。そのため、単に導体の解析しか考慮されておらず、車両とは使用環境が異なる特許文献1の電子回路用のシミュレーション方法を車両用の導体に適用したとしても、適切な解析は行い難い。
また、車両用の導体、例えばバスバーは折れ曲がった複雑な形状とされる場合が多いが、特許文献1のシミュレーション方法では直線状の導体しか扱われていないので、車両用導体の解析には適していない。さらに、特許文献1のシミュレーション方法では、導体が複数本配置されている場合の近接効果を扱うことができないので、車両用導体の解析には適していない。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑み、車両に使用される導体に最適な解析方法及び装置、並びに車両用導体の解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明の車両用導体の解析方法は、交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成ステップと、車両用導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算ステップと、各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を求める断面電流演算ステップと、前記導体の断面電流を用いて当該導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
この車両用導体の解析方法によれば、導体だけでなくその周囲に配置される磁性体を含めたうえで有限要素法により磁場解析を行い、導体を流れる電流や導体のインピーダンスを求めているので、ハイブリッド車両のように導体の周囲に多くの磁性体が配置され、導体に発生する磁場が磁性体の影響を受けるような環境においても適切に導体の電流やインピーダンスを求めることができる。したがって、表皮効果等を考慮してインピーダンスをより低減させるような導体の形状や配置の設計に本発明の解析方法を好適に役立てることが可能となる。
また、有限要素法を用いて解析を行っているので、例えば折れ曲がるような複雑な形状の導体の解析であっても好適に行うことができ、実際の使用形態に即した解析を行うことができる。
【0010】
(2) 他の観点に係る本発明の車両用導体の解析方法は、負荷が接続されかつ交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成ステップと、前記負荷がないものと仮定して、前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算ステップと、各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を求める断面電流演算ステップと、この導体の断面電流を用いて前記負荷にかかる電圧を求める負荷電圧演算ステップと、前記負荷にかかる電圧を用いて前記導体にかかる電圧を新たに求める導体電圧演算ステップと、新たに求められた前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を新たに求める第2の電流密度演算ステップと、新たに求められた各要素における電流密度を用いて導体の断面電流を新たに求める第2の断面電流演算ステップと、更に、前記負荷電圧演算ステップから第2の断面電流演算ステップまでを繰り返し行うことによって収束した断面電流を用いて前記導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算ステップと、を含むことを特徴とする。
【0011】
この車両用導体の解析方法によれば、上記と同様に、導体だけでなくその周囲に配置される磁性体を含めたうえで有限要素法により磁場解析を行い、導体を流れる電流やインピーダンスを求めているので、ハイブリッド車両のように導体の周囲に多くの磁性体が配置され、導体に発生する磁場が周囲の磁性体の影響を受けるような環境においても適切に導体の電流やインピーダンスを求めることができる。したがって、表皮効果等を考慮したインピーダンスをより低減させるような導体の形状や配置の設計に本発明の解析方法を好適に役立てることができる。
また、有限要素法を用いて解析を行っているので、例えば折れ曲がるような複雑な形状の導体の解析であっても好適に行うことができ、実際の使用形態に即した解析を行うことができる。
さらに、本発明では、導体にモータ等の負荷が接続されている場合であっても、当該負荷と導体とを流れる電流や、導体のインピーダンスを適切に求めることができる。
【0012】
(3) 前記導体は、屈曲した形状とされていてもよい。本発明では、導体の解析のために有限要素法を用いているので、導体の形状が屈曲している場合であっても適切に磁場解析を行うことができる。
(4)また、前記導体は、バスバーであってもよい。本発明では、導体の解析のために有限要素法を用いているので、導体の種類や形状に拘わらず適切に磁場解析を行うことができる。
【0013】
(5) 本発明の車両用導体の解析装置は、交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成手段と、前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算手段と、各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を求める断面電流演算手段と、前記導体の断面電流を用いて当該導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算手段と、を備えていることを特徴とする。
この構成によって、上記(1)と同様の作用効果を奏する。
【0014】
(6) 他の観点に係る本発明の車両用導体の解析装置は、負荷が接続されかつ交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成手段と、前記負荷がないものと仮定して、前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算手段と、各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を求める断面電流演算手段と、この導体の断面電流を用いて前記負荷にかかる電圧を求める負荷電圧演算手段と、前記負荷にかかる電圧を用いて前記導体にかかる電圧を新たに求める導体電圧演算手段と、新たに求められた前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を新たに求める第2の電流密度演算手段と、新たに求められた各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を新たに求める第2の断面電流演算手段と、前記負荷電圧演算手段による処理から第2の断面電流演算手段による処理までを繰り返し行うことによって収束した断面電流を用いて前記導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算手段と、を含むことを特徴とする。
このような構成によって上記(2)と同様の作用効果を奏する。
【0015】
(7) 本発明の車両用導体の解析プログラムは、コンピュータを、交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成手段、前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算手段、各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を求める断面電流演算手段、及び
前記導体の断面電流を用いて当該導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算手段、として機能させることを特徴とする。
このような構成によって上記(1)と同様の作用効果を奏する。
【0016】
(8) 他の観点に係る本発明の車両用導体の解析プログラムは、コンピュータを、負荷が接続されかつ交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成手段、前記負荷がないものと仮定して、前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算手段、各要素における電流密度から導体の断面電流を求める断面電流演算手段、この導体の断面電流を用いて前記負荷にかかる電圧を求める負荷電圧演算手段、前記負荷にかかる電圧を用いて前記導体にかかる電圧を新たに求める導体電圧演算手段、新たに求められた前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を新たに求める第2の電流密度演算手段、新たに求められた各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を新たに求める第2の断面電流演算手段、及び前記負荷電圧演算手段による処理から第2の断面電流演算手段による処理までを繰り返し行うことによって収束した断面電流を用いて前記導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算手段、として機能させることを特徴とする
このような構成によって上記(2)と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車両に使用される導体に最適な方法によりインピーダンスを求め、導体設計に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用導体が適用される車両を概略的に示す説明図である。
【図2】車両用導体を含む磁場影響領域を概略的に示す説明図である。
【図3】車両用導体の解析処理を行うコンピュータのブロック図である。
【図4】車両用導体の解析処理手順を示すフローチャートである。
【図5】車両用導体としてのバスバーの一例を示す斜視図である。
【図6】解析対象となる車両用導体を含む電気回路を概略的に示す回路図である。
【図7】車両用導体の第2の解析処理手順を示すフローチャートである。
【図8】解析対象となる車両用導体を含む電気回路を概略的に示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用導体が適用される車両の一例を示す概略図である。
図1において、車両1は駆動用モータ2及びバッテリ3が搭載されたハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)であり、この駆動用モータ2は、直流電源であるバッテリ3からインバータ4によって交流に変換された電流が供給され、その回転動力を車両1の駆動輪に単独で又は図示しないエンジンと共に伝達する。そして、駆動用モータ2とバッテリ3(インバータ4)とは配線5によって接続されており、本実施形態は、このような配線5に使用される導体6、例えばバスバーに対して有限要素法(FEM)による磁場解析を行い、その解析結果をもとに導体6を流れる電流や導体6のインピーダンスを求める。
【0020】
また、車両1は、鉄、鋼、アルミ等の様々な磁性体材料等を用いてそのボディ(フレーム)や各種部品が形成されており、駆動用モータ2とバッテリ3とを接続する導体6の周囲にも種々の磁性体が存在する。導体6に電流が流れると導体6の周囲には磁界が発生し、この磁界の変化によって周囲の磁性体には渦電流が発生する。そして、この渦電流による磁界が導体6に鎖交すると、導体6を流れる電流や導体6のインピーダンスに変化が生じる。したがって、導体6を流れる電流やインピーダンスを求めるためには導体6単独ではなく、周囲の磁性体の存在をも考慮に入れる必要がある。
【0021】
したがって、本実施形態では、本来の解析対象である導体6だけではなく、周辺の磁性体や空気を含む、導体6に発生する磁界に影響を及ぼす領域(磁場影響領域)の全体を有限要素法により解析し、その結果から導体6を流れる電流や導体6のインピーダンスを求める。
以下、本発明の解析に用いる解析装置や解析方法について詳細に説明する。
【0022】
〔解析装置の構成〕
有限要素法による解析は、図3に示されるような解析装置10を用いて実施される。この解析装置10は、処理装置11と、入力装置12と、出力装置13とから構成されている。処理装置11は、CPU、RAM,ROM及びHDD等からなる記憶部、及びI/Oインターフェース等を備えたパーソナルコンピュータからなる。入力装置12は、キーボードやポインティングデバイス等からなり、処理装置11に対して初期条件やデータ等を入力するために使用される。出力装置13は、ディスプレイやプリンタ等からなり、処理装置11の処理結果を出力するために使用される。処理装置11の記憶部には、従来公知の有限要素法による磁場解析プログラムや、その結果に基づいて導体を流れる電流や導体のインピーダンスを求めるための計算プログラムがインストールされている。
有限要素法による磁場解析には、例えば、高橋則雄著「三次元有限要素法−磁界解析技術の基礎−」、電気学会、2006年8月、4.1渦電流問題の解析法(p63−p89)に記載されている方法を使用することができる。
【0023】
解析装置10は、処理装置11の記憶部にインストールされたプログラムを実行することによって、FEM解析部111、断面電流演算部112、およびインピーダンス演算部113として機能するように構成されている。これらの各機能については次の導体の解析方法とともに説明する。
【0024】
〔導体の解析方法〕
図2は、有限要素法に用いるモデルを概略的に示す説明図である。本実施形態では、図2に示すようなモデルを想定して有限要素法による解析を行う。図2において、交流電源20にはバスバー等の導体21が接続され、この導体21には交流電源20によって周波数fの交流電圧V0がかかる。例えば、周波数fは1〜10(kHz)とされ、交流電圧V0は約1(V)とされる。交流電源20に接続された導体21には電流Iが流れ、この電流Iによって磁界が発生する。そして、本実施形態では、導体21の周辺に配置される磁性体22や空間(空気)23を含む領域であって、磁性体22が導体21の磁界に影響を及ぼす領域(磁場影響領域)Sを設定し、この領域S全体に対して有限要素法により磁場解析を行う。
なお、導体21の解析を行うに先立ち、処理装置11には、解析対象の形状を表すデータ、例えば、導体21、磁性体22,及び空気23を含む磁場影響領域S全体を表したCADデータ等の三次元データを入力し、さらに、パラメータとして、導体21、磁性体22、及び空気23の導電率、透磁率(磁気抵抗率) 、交流電源20の電圧V0や交流周波数f等のデータを入力しておく。磁場影響領域Sは、車両の一部を対象としてもよいし、全体を対象としてもよい。
【0025】
図4は、導体の解析処理手順を示すフローチャートである。
図4のステップS1において、処理装置11は、解析対象を多数の要素に分割する有限要素モデル(FEMモデル)を作成する。具体的には、図2に示すように、導体21や磁性体22の形状や配置を含む磁場影響領域Sに対して要素分割メッシュを生成することによって有限要素モデルを作成する。そして、メッシュによって区画された各要素には、その材料に応じて導電率、透磁率(磁気抵抗率)のパラメータが設定される。
【0026】
次いで、ステップS2において、処理装置11は、入力されたパラメータを用いて有限要素法により導体21や磁性体22に発生する磁場や渦電流の解析を行い、各要素を流れる電流密度(複素電流密度;ir+jii)を求める。このとき、導体21にかかる電圧の値が必要となるが、図2のモデルでは電源20に導体21のみが接続されているので、電源20の電圧V0を導体21にかかる電圧とする。
【0027】
なお、上記ステップS1、S2の処理は、処理装置11のFEM解析部111(図3参照)の機能として実行され、特にステップS1は、FEM解析部111に含まれるモデル作成手段としての機能、ステップS2は、同じく電流密度演算手段としての機能である。
次いで、ステップS3において、処理装置11は、断面電流演算部112(図3参照)の機能によって、次の式(1)により、すなわち導体21の各要素の電流密度と導体21の各要素の断面積との積の総和により、導体21の断面電流Iを求める。
【0028】
【数1】

ここで、irは各要素の電流密度の実部(A/m2)、iiは各要素の電流密度の虚部(A/m2)、ΔSは要素の断面積(m2)、nは導体21の要素数、jは虚数単位である。
【0029】
次いで、ステップS4において、処理装置11は、インピーダンス演算部113(図3参照)の機能によって、導体21の断面電流Iを用いて次の式(2)、式(3)により、導体21の交流抵抗R及び自己インダクタンスLを計算する。
【0030】
【数2】

【数3】

【0031】
ここで、交流抵抗R(Ω)は、導体21の印加電圧V(電源の電圧V0)を断面電流Iで割った値の実部であり、自己インダクタンスL(H)は、虚部を(2πf)で割った値となる。
そして、導体のインピーダンスZは、次の式(4)により求めることができる。
【0032】
【数4】

ここで、ωは電源の角周波数(rad/s)であり、ω=2πfである。
【0033】
以上の解析によって導体21のインピーダンスZを求めることが可能であり、このインピーダンスZは、導体21単独(若しくは導体21と周囲の空気23のみ)ではなく、周囲の磁性体22の存在をも考慮して求められるため、より現実の使用形態に即した正確な値を得ることができる。そして、以上の手順で求められる導体21のインピーダンスZが小さくなるように導体21の形状や配置を設計することによって、電流の伝送効率を高めることができる。
また、有限要素法を用いることによって三次元の磁場解析が可能であり、導体21としてのバスバーの形状も直線形状に限らず、例えば図5に示すように曲がった形状のものを解析対象とすることができ、現実のバスバー形状に即した解析が可能となる。
【0034】
〔導体の他の解析方法〕
以上に説明した導体の解析方法では、交流電源に導体のみを接続したケースを想定していたが、実際には、導体だけではなくモータ等の負荷も同時に交流電源に接続される。そして、このような負荷が存在することによって、導体にかかる電圧や導体を流れる電流には変化が生じる。以下、他の解析方法として、導体を含む交流回路に負荷が接続された場合の解析方法について詳細に説明する。
【0035】
図6は、他の解析方法によって解析される車両用導体を含む電気回路を概略的に示す図である。また、図7は、他の解析方法に係る処理手順を示すフローチャートである。
図6において、交流電源20には、モータ等の負荷24とバスバー等の導体21が接続されている。交流電源20の電圧V0は、導体21にかかる電圧V1と負荷24にかかる電圧V2との和であり、
0=V1+V2 ・・・・・(5)
で表すことができる。
【0036】
したがって、導体21にかかる電圧V1を求めるためには、交流電源20の電圧V0と負荷24にかかる電圧V2とを明らかにする必要がある。
交流電源20の電圧V0は既知であるが、負荷24にかかる電圧V2は回路を流れる電流Iを用いて求めなければならず、この電流Iは、前述の解析方法で説明したとおり、導体21にかかる電圧V1を入力しなければ求めることができない。
そこで、本実施形態では、以下に説明する処理を行うことにより、回路を流れる電流I、すなわち導体21を流れる電流Iを求め、さらに導体21のインピーダンスを求めることを可能にしている。以下、処理手順について詳細に説明する。
【0037】
図7のステップS11において、処理装置11は、まず、負荷がないと仮定した場合の導体21に流れる断面電流を求める。すなわち、電源20の電圧V0が導体21にかかる電圧V1(1)であるものと仮定して、図4に示すステップS1〜S3の処理を実行し、仮の断面電流I(1)を求める。
次いで、ステップS12において、仮の断面電流I(1)と負荷24の抵抗R2とから、次の式(6)により負荷20にかかる仮の電圧V2(1)を求める。
2(1)=I(1)・R2 ・・・・・(6)
【0038】
そして、ステップS13において、負荷24にかかる仮の電圧V2(1)と電源電圧V0とから導体21にかかる仮の電圧V1(2)を求め、この電圧V1(2)を入力値として図4のステップS1〜S3による処理を実行し、再度、仮の断面電流I(2)を求める。
【0039】
ここで、初回に求めた仮の断面電流I(1)と2回目に求めた仮の断面電流I(2)とは当然に異なる値になるが、2回目に求めた仮の断面電流I(2)は、負荷の電圧V2(1)を考慮した値となるため、より現実の断面電流Iに近い値になる。また、2回目に求めた仮の断面電流I(2)を用い、更にステップS12において負荷24にかかる仮の電圧V2(2)や、この電圧V2(2)から導体21にかかる仮の電圧V1(3)を求め、再度、ステップS13により仮の断面電流I(3)を求めれば、より現実の断面電流Iに近い値を得ることが可能となる。すなわち、ステップS12及びS13を繰り返し行うことによって仮の断面電流I(n)は次第に収束し、現実の断面電流Iに近似していく。
【0040】
したがって、ステップS14では、ステップS13で得られた仮の断面電流I(n)が所定の収束条件を満たしているか否かを判別し、満たしていない場合にはステップS12に処理を戻して、仮の断面電流I(n)を繰り返し求める処理を行う。そして、仮の断面電流I(n)が所定の収束条件を満たしている場合には処理をステップS15に進め、この仮の断面電流I(n)を正式な断面電流Iに決定する処理を行う。
そして、正式な断面電流Iが決定されると、処理装置11は、ステップS16において、正式な断面電流Iを用いて導体21のインピーダンスZを求める。なお、ステップS16の処理は、図4にステップS4で示した処理と同様である。
【0041】
なお、ステップS14における、仮の断面電流I(n)が収束したかどうかの判断には、種々の手法を用いることができる。例えば、n回目の断面電流I(n)と、(n―1)回目の断面電流I(n-1)との差が所定の閾値α以下であるか否か、すなわち、
|I(n)−I(n-1)|<α
を満たすか否かによって行うことができる。また、ステップS12とステップS13との繰り返し回数を所定の収束条件としてもよい。勿論、これらの方法は例示であり、限定されるものではない。
【0042】
以上のような処理を行うことによって負荷24を接続した場合の導体21の断面電流IやインピーダンスZを正確に求めることができ、より現実の使用に即した最適なバスバーの設計に役立てることが可能となる。
【0043】
また、以上のような負荷を考慮した導体の断面電流IやインピーダンスZの計算は、単相電源に接続されたものに限らず、図8に示すように、三相電源30a,30b,30cに接続された複数の導体31a,31b,31cやモータ等の負荷34a、34b、34cについても同様の手順で行うことが可能である。
【0044】
なお、以上に説明した他の解析方法においては、導体のみ又は導体と周囲の空気のみを解析対象として有限要素法による磁場解析を行うことも可能である。
【0045】
さらに、図6における負荷24あるいは図8における負荷34a、34b、34cがインピーダンスZ2(=R2+jX2)で表わされるときも、同様の手順で行うことが可能である。ここで、X2は負荷のリアクタンスであり、この場合、上記式(6)は、
2(1)=I(1)・Z2=I(1)(R2+jX2) ・・・・・(6)’
となる。
【符号の説明】
【0046】
1 車両
2 駆動用モータ(負荷)
3 バッテリ(電源)
4 インバータ
5 配線
6 バスバー(導体)
10 解析装置
11 処理装置
111 FEM解析部(モデル作成手段、電流密度演算手段)
112 断面電流演算部(断面電流演算手段)
113 インピーダンス演算部(インピーダンス演算手段)
20 交流電源
21 導体
22 磁性体
23 空気
24 負荷(モータ)
S 磁場影響領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成ステップと、
前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算ステップと、
各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を求める断面電流演算ステップと、
前記導体の断面電流を用いて当該導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算ステップと、を含むことを特徴とする車両用導体の解析方法。
【請求項2】
負荷が接続されかつ交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成ステップと、
前記負荷がないものと仮定して、前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算ステップと、
各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を求める断面電流演算ステップと、
この導体の断面電流を用いて前記負荷にかかる電圧を求める負荷電圧演算ステップと、
前記負荷にかかる電圧を用いて前記導体にかかる電圧を新たに求める導体電圧演算ステップと、
新たに求められた前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を新たに求める第2の電流密度演算ステップと、
新たに求められた各要素における電流密度を用いて導体の断面電流を新たに求める第2の断面電流演算ステップと、
更に、前記負荷電圧演算ステップから第2の断面電流演算ステップまでを繰り返し行うことによって収束した断面電流を用いて前記導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算ステップと、を含むことを特徴とする車両用導体の解析方法。
【請求項3】
前記導体が屈曲した形状とされている請求項1又は2に記載の車両用導体の解析方法。
【請求項4】
前記導体がバスバーである請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用導体の解析方法。
【請求項5】
交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成手段と、
前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算手段と、
各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を求める断面電流演算手段と、
前記導体の断面電流を用いて当該導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算手段と、を備えていることを特徴とする車両用導体の解析装置。
【請求項6】
負荷が接続されかつ交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成手段と、
前記負荷がないものと仮定して、前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算手段と、
各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を求める断面電流演算手段と、
この導体の断面電流を用いて前記負荷にかかる電圧を求める負荷電圧演算手段と、
前記負荷にかかる電圧を用いて前記導体にかかる電圧を新たに求める導体電圧演算手段と、
新たに求められた前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を新たに求める第2の電流密度演算手段と、
新たに求められた各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を新たに求める第2の断面電流演算手段と、
前記負荷電圧演算手段による処理から第2の断面電流演算手段による処理までを繰り返し行うことによって収束した断面電流を用いて前記導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算手段と、を含むことを特徴とする車両用導体の解析装置。
【請求項7】
コンピュータを、
交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して、有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成手段、
前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算手段、
各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を求める断面電流演算手段、及び
前記導体の断面電流を用いて当該導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算手段、として機能させることを特徴とする車両用導体の解析プログラム。
【請求項8】
コンピュータを、
負荷が接続されかつ交流電圧が供給される車両用の導体とその周囲に配置される磁性体とを含み、当該磁性体が前記導体に発生する磁場に影響を及ぼす領域に対して有限要素法による磁場解析を行うための有限要素モデルを作成するモデル作成手段、
前記負荷がないものと仮定して、前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を求める電流密度演算手段、
各要素における電流密度から導体の断面電流を求める断面電流演算手段、
この導体の断面電流を用いて前記負荷にかかる電圧を求める負荷電圧演算手段、
前記負荷にかかる電圧を用いて前記導体にかかる電圧を新たに求める導体電圧演算手段、
新たに求められた前記導体にかかる電圧を入力値として前記有限要素モデルに対して磁場解析を行い、各要素における電流密度を新たに求める第2の電流密度演算手段、
新たに求められた各要素における電流密度を用いて前記導体の断面電流を新たに求める第2の断面電流演算手段、及び
前記負荷電圧演算手段による処理から第2の断面電流演算手段による処理までを繰り返し行うことによって収束した断面電流を用いて前記導体のインピーダンスを求めるインピーダンス演算手段、として機能させることを特徴とする車両用導体の解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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