説明

車両用暖房装置

【課題】冷却水回路を切換える四方弁を安価にするとともに暖房装置全体を簡単かつ安価な構成とし、効率の良い暖房制御を行う車両用暖房装置とする。
【解決手段】エンジン1とヒータコア4との間を循環する冷却水循環路2に、冷却水を加熱する電気ヒータ3、電動ポンプ5及び切換バルブ10を備え、切換バルブ10により冷却水循環路2を、ヒータコア4、電動ポンプ5及び電気ヒータの間で冷却水を循環させるヒータコア側循環路31と、エンジン1に冷却水を循環させるエンジン側循環路30とに分割切換可能な車両用暖房装置であって、切換バルブ10は、エンジン1から流入する冷却水を、当該冷却水の温度に応じて、ヒータコア側循環路31とエンジン側循環路30とのいずれかに流入するように流路を切り換えるサーモバルブ20と、ヒータコア側循環路31から流入する冷却水をヒータコア側循環路31に流入させるバイパス路29と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用暖房装置に関し、冷却水の加熱手段を有する車両の暖房装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車やアイドルストップ車等の車両の暖房性能を確保するために、ヒータコアに導入する冷却水を加熱する電気ヒータ等の加熱装置を備えている車両用暖房装置が開発されている。
この車両用暖房装置では、エンジンが停止していても暖房が可能なように、エンジンとヒータコアとを循環する冷却水循環路に、加熱装置と電動ポンプとが備えられている。更に、エンジンが冷態状態である場合に暖房性能がすぐに発揮できるように、ヒータコアを循環する冷却水がエンジンに流入しないように冷却水の回路を切換える四方弁を備えているものがある。四方弁は、コントロールユニットによって作動制御され、外気温度や室内温度に応じて切換えられる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−108645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に用いられる四方弁は、電磁弁方式あるいはモータ駆動による切換方式のような電動タイプのものとなり、比較的高価なものとなってしまう。また、四方弁を作動制御するために、コントロールユニット及び温度センサが必要とされ、暖房装置全体のコストアップを招いてしまう。また、温度センサで検出した外気温度あるいは室内温度により冷却水の回路を切換える機構であるので、エンジンの温度状態を的確に判断し、暖房制御に反映させることは難しい。例えば、室内温度が低い場合、ヒータコアを循環する冷却水がエンジンに流入しない回路に切換え制御されている。この場合、暖房速効性により室内温度が高まると、ヒータコアを循環する冷却水がエンジン側に循環する回路に切換え制御されることとなるが、この際にエンジン冷態状態であると、エンジンで冷やされた冷却水がヒータコアに循環することにより、暖房性を損なう虞がある。
【0005】
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、冷却水回路を切換える四方弁を安価にするとともに暖房装置全体を簡単かつ安価な構成とし、効率の良い暖房制御を行う車両用暖房装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の車両用暖房装置は、エンジンとヒータコアとの間で冷却水を循環させる冷却水循環路に、冷却水を加熱する加熱手段と、冷却水循環用のポンプ及び切換バルブを備え、切換バルブにより冷却水の循環を、ヒータコア、ポンプ及び加熱手段の間で冷却水を循環させるヒータコア側循環路と、エンジンに冷却水を循環させるエンジン側循環路とに分割切換可能な車両用暖房装置であって、切換バルブは、エンジン側循環路から流入する冷却水を、当該冷却水の温度に応じて、ヒータコア側循環路とエンジン側循環路とのいずれかに流入させるように流路を切り換えるサーモバルブと、ヒータコア側循環路から流入する冷却水をヒータコア側循環路に戻すバイパス路とを有し、サーモバルブは、エンジン側循環路から流入する冷却水を、エンジン側循環路に流入させるように流路を切り換える際に、エンジン側循環路から流入する冷却水がヒータコア側循環路に流入するのを遮断するように構成されていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2の車両用暖房装置では、請求項1において、切換バルブは、サーモバルブの切換えに拘わらず、ヒータコア側循環路から流入する冷却水をエンジン側循環路へ導入する導入通路を有していることを特徴とする。
また、請求項3の車両用暖房装置では、請求項2において、バイパス路は、導入通路から分岐し、サーモバルブによりエンジン側循環路から流入する冷却水を、ヒータコア側循環路に流入させるように流路を切り換えられている場合に、エンジン側循環路から流入する冷却水がバイパス路と導入通路を通って、エンジン側循環路に戻されるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、切換バルブにより冷却水の循環を、ヒータコアとポンプと加熱手段との間で冷却水を循環させるヒータコア側循環路と、エンジンに冷却水を循環させるエンジン側循環路とに分割させ、サーモバルブにより、エンジン側循環路から流入する冷却水の温度に応じて、流路を切り換えることで、冷態始動時のようにエンジン温度が低下している場合に、加熱装置により加熱された冷却水をエンジンを通過させずにバイパス路を通じてヒータコア側循環路に流入させることができる。したがって、冷却水温度を低下させずにヒータコアから熱を取り出して迅速に暖房性能を得ることが可能となる。
【0009】
そして、サーモバルブにより冷却水温度に基づく冷却水循環路の切換えが行なわれることから、電磁ソレノイドやモータ等、バルブを切換えるための駆動手段を必要とすることなく、切換バルブを安価な構成にすることができる。また、これに伴い、バルブを切換えるための駆動手段を制御する制御装置や温度を検出するセンサ等を必要とすることなく、暖房装置全体を簡易かつ安価な構成にすることができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、ヒータコア側循環路から切換えバルブに流入する冷却水が、導入通路によって、サーモバルブの切換えに拘わらずエンジン側循環路へ導入されるので、エンジンを通過しないヒータコア側循環路が形成された場合に、このヒータコア側循環路を循環する冷却水が温度上昇して膨脹したとしても、導入通路を通ってエンジン側循環路に導入され、ヒータコア側循環路からの水漏れを防止することができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、エンジン側循環路から流入する冷却水を、ヒータコア側循環路に流入させる流路が形成された場合に、ポンプが停止すると、導入通路の冷却水の流圧が弱まり、このエンジン側循環路から流入する冷却水の一部が、分岐配設されたバイパス通路を通じて導入通路に流入し、エンジン側循環路に戻されるようになる。したがって、車両冷房時にポンプを停止した際は、ヒータコア側循環路の冷却水の循環が抑制され、冷却水の熱がヒータコアから排出されることが抑制され、冷房性能の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用暖房装置の概略構成図である。
【図2】切換バルブの詳細な構成を示す内部構造図であり、(A)が冷却水の低温時、(B)が冷却水の高温時での状態を示す。
【図3】切換バルブ内の構造を模式的に図示した車両用暖房装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用暖房装置の概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態では、エンジン1の冷却水循環路2には、冷却水の流通方向の順番に、電気ヒータ3(加熱手段)、ヒータコア4及び電動ポンプ5が備えられている。
【0014】
電気ヒータ3は、エンジン1が停止した状態でも作動可能であって、冷却水循環路2内の冷却水を加熱する機能を有する。ヒータコア4は、冷却水の熱エネルギーを取り出して、車両の室内へ供給する空気と熱交換して暖める機能を有する。電動ポンプ5は、冷却水循環路2内の冷却水を循環させる機能を有する。
また、冷却水循環路2には切換バルブ10が備えられている。切換バルブ10は、2つの流入口11、12と2つの排出口13、14とを備え、冷却水循環路2を切換える機能を有する。切換バルブ10の2つの流入口11、12のうち、第1の流入口11はエンジン1の冷却水出口に接続され、第2の流入口12は電動ポンプ5の排出口に接続されている。切換バルブ10の2つの排出口13、14のうち、第1の排出口13は電気ヒータ3の流入口に接続され、第2の排出口14はエンジン1の冷却水入口に接続されている。
【0015】
図2は、切換バルブ10の詳細な構成を示す内部構造図であり、(A)が冷却水の低温時、(B)が冷却水の高温時での状態を示す。
切換バルブ10は、冷却水の温度に応じて開閉するサーモバルブ20を備えている。図2に示すように、サーモバルブ20には、内部に略円柱状の空間を有するケース21と、当該ケース21内に軸線方向(図中上下方向)に移動可能なシャフト22を備えている。シャフト22には、上部に第1の弁体23と下端に第2の弁体24が設けられている。ケース21内の空間は、第1の弁体23により上部側の空間25と下部側の空間26との2つに仕切られるように構成されている。図2(A)に示すように、シャフト22が上方に移動した状態では第1の弁体23によって上部側の空間25と下部側の空間26とが遮断される。図2(B)に示すように、シャフト22が下方に移動した状態では上部側の空間25と下部側の空間26とが連通するように構成されている。
【0016】
ケース21の周壁には下部側の空間26と連通する第1の流入口11が設けられているとともに、ケース21の上部には上部側の空間25と連通する第1の排出口13が設けられている。また、ケース21の下部には、第2の排出口14と連通する弁口27が設けられている。弁口27は、第2の弁体24により開閉される。
シャフト22は、図示しない感温体が内蔵され、下部側の空間26に貯留する冷却水の温度に応じて軸線方向に移動し、低温時には図中上方に、高温時には図中下方に移動する。
【0017】
更に、切換バルブ10には、第2の流入口12と第2の排出口14とを連通する導入通路28が設けられている。また、切換バルブ10には、第2の流入口12と上部側の空間と25を連通するバイパス路29が設けられている。
図2(A)に示すように、冷却水の温度が低下してシャフト22が図中上方に移動すると、第2の弁体24が弁口27から離間して弁口27が開放されて第1の流入口11と第2の排出口14とが連通するとともに、第1の弁体23によってケース21内の上部側の空間25と下部側の空間26とが遮断されて第1の流入口11と第1の排出口13とが遮断される。
【0018】
図2(B)に示すように、冷却水の温度が上昇してシャフト22が図中下方に移動すると、第2の弁体24により弁口27が遮断されるとともに、第1の弁体23は開放してケース21内の上部側の空間25と下部側の空間26とが連通し第1の流入口11と第1の排出口13とが連通する。
図3は、切換バルブ10内の構造を模式的に図示した車両用暖房装置の構成図である。
【0019】
上記のように、切換バルブ10を構成することで、本実施形態では、エンジン1から第1の流入口11に流入した冷却水が、サーモバルブ20によって、第1の排出口13側、即ち電気ヒータ3への流入と、第2の排出口14側、即ちエンジン1への戻りとで切換えられる。
また、第2の流入口12から流入した冷却水は、導入通路28を通過して第2の排出口14から排出され、エンジン1の冷却水入り口に戻されるように構成されている。
【0020】
更に、バイパス路29によって、第2の流入口12と第1の排出口13とが連通しているので、第1の流入口11と第1の排出口13とが遮断されていても、第2の流入口12から流入した冷却水がバイパス路29を通過して第1の排出口13へ供給可能となっている。
したがって、エンジン1からの冷却水が低温状態である場合には、サーモバルブ20によりエンジン1からの冷却水がヒータコア4を通過せずにエンジン1に戻される循環路30(エンジン側循環路)が形成されるとともに、電気ヒータ3、ヒータコア4、電動ポンプ5を備えた、エンジン1を通過しない冷却水の循環路31(ヒータコア側循環路)が形成される。よって、始動直後のようにエンジン1からの冷却水の温度が低下している場合には、電気ヒータ3により加熱された冷却水がエンジン1を通過せず、温度低下が抑えられてヒータコア4に導入されることになり、ヒータコア4から熱を取り出して迅速に温度上昇させることが可能となる。
【0021】
エンジン1からの冷却水が高温状態である場合には、サーモバルブ20によりエンジン1からの冷却水がヒータコア4側に流入するので、エンジン1から排出された冷却水の熱をヒータコア4から取り出すことが可能となり、エンジン1の熱を利用した暖房効果を得ることができる。
そして、冷却水温度に基づく冷却水循環路2の切換えは、サーモバルブ20によって行なわれるので、電磁ソレノイドやモータ等、バルブを切換えるための駆動手段を必要とすることなく、切換バルブ10を安価な構成にすることができる。また、これに伴い、バルブを切換えるための駆動手段を制御する制御装置や温度を検出するセンサ等を必要とすることなく、暖房装置全体を簡易かつ安価な構成にすることができる。
【0022】
また、ヒータコア4を通過し第2の流入口12に流入した冷却水が、導入通路28を通過して第2の排出口14に排出され、サーモバルブ20の切換えに拘わらずエンジン側へ導入される。よって、サーモバルブ20のシャフト22が上方に移動してエンジン1を通過しない冷却水の循環路31が形成された場合に、この循環路31を循環する冷却水の温度が電気ヒータ3による加熱等により上昇して膨脹したとしても、導入通路28を通ってエンジン1側に導入されることで、循環路31からの水漏れを防止することができる。
【0023】
また、本実施形態では、車両暖房時に電動ポンプ5を作動させるとともに、車両冷房時に電動ポンプ5を停止するようにしている。
本実施形態では、バイパス通路29によって、第1の排出口13と第2の流入口12とが常時連通しているので、冷却水温度が上昇してシャフト22が下方に移動したときに、電動ポンプ5が停止している場合は、導入通路28の冷却水の流圧が小さくなり、第1の流入口11から流入した冷却水の一部がバイパス通路29、及び導入通路28を通過してエンジン1に戻ってしまい、ヒータコア4を通過する冷却水の流量が低下して暖房効率が低下する虞がある。しかしながら、上記のように暖房時に電動ポンプ5を作動させることで、ヒータコア4を通過する冷却水の流量を十分に確保することができ、暖房効率を確保することができる。
【0024】
一方、車両冷房時には、冷却水温度が上昇してシャフト22が下方に移動したときに、電動ポンプ5を停止させ、導入通路28の冷却水の流圧を低下させることで、第1の流入口11から流入した冷却水をバイパス通路29によってエンジン1に積極的に戻すことができるので、高温の冷却水がヒータコア4を通過することが抑制され、ヒータコア4からの熱気の発生が抑えられ、冷房性能の低下を防止することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 エンジン
2 冷却水循環路
3 電気ヒータ
4 ヒータコア
5 電動ポンプ
10 切換バルブ
20 サーモバルブ
28 導入通路
29 バイパス路
30 エンジン側循環路
31 ヒータコア側循環路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとヒータコアとの間で冷却水を循環させる冷却水循環路に、冷却水を加熱する加熱手段と、冷却水循環用のポンプ及び切換バルブを備え、前記切換バルブにより前記冷却水の循環を、前記ヒータコア、前記ポンプ及び前記加熱手段の間で冷却水を循環させるヒータコア側循環路と、前記エンジンに冷却水を循環させるエンジン側循環路とに分割切換可能な車両用暖房装置であって、
前記切換バルブは、前記エンジン側循環路から流入する冷却水を、当該冷却水の温度に応じて、前記ヒータコア側循環路と前記エンジン側循環路とのいずれかに流入させるように流路を切り換えるサーモバルブと、前記ヒータコア側循環路から流入する冷却水を前記ヒータコア側循環路に戻すバイパス路とを有し、
前記サーモバルブは、前記エンジン側循環路から流入する冷却水を、前記エンジン側循環路に流入させるように流路を切り換える際に、前記エンジン側循環路から流入する冷却水が前記ヒータコア側循環路に流入するのを遮断するように構成されていることを特徴とする車両用暖房装置。
【請求項2】
前記切換バルブは、前記サーモバルブの切換えに拘わらず、前記ヒータコア側循環路から流入する冷却水を前記エンジン側循環路へ導入する導入通路を有していることを特徴とする請求項1に記載の車両用暖房装置。
【請求項3】
前記バイパス路は、前記導入通路から分岐し、
前記サーモバルブにより前記エンジン側循環路から流入する冷却水を、前記ヒータコア側循環路に流入させるように流路を切り換えられている場合に、前記エンジン側循環路から流入する冷却水が前記バイパス路と前記導入通路を通って、前記エンジン側循環路に戻されるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用暖房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126157(P2012−126157A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276877(P2010−276877)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】