説明

車両用灯具および車両用灯具システム

【課題】比較的簡易な構成により、雨天走行時における車両前方路面の視認性を向上することができる車両用灯具を提供する。
【解決手段】レーンマーク照射灯10は、レーンマーク照射用の配光パターンで車両前方路面へ向けてビーム照射を行うように構成された車両用灯具である。レーンマーク照射灯10は、光軸Axbが車両前後方向を向くように配置された投影レンズ18と、光軸Axb上であって、投影レンズ18の後側焦点F2よりも後方側に配置された光源12aと、光源12aからの光を前方に向けて反射させるリフレクタ14と、投影レンズ18と光源12aとの間に設けられ、リフレクタ14からの光の一部を遮蔽してレーンマーク照射用の配光パターンを形成するシェード16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーンマークを照射するように構成された車両用灯具および車両用灯具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に車両用前照灯は、車両走行状況に応じて異なる配光パターンで前方へビーム照射を行い得るように構成されている。具体的には、ロービーム配光パターンとハイビーム配光パターンとのビーム切換えが可能な前照灯が従来より知られている。
【0003】
ところで、雨天走行時等のように路面が濡れている場合には、前照灯からの前方照射光の大半が路面で正反射してしまい、自車ドライバへの再帰反射光が少なくなるので、車両前方路面の視認性が悪くなり車両運転がしづらいものとなる。
【0004】
ただし、一般に舗装道路にはレーンマーク(すなわち車両走行レーンを仕切るための白線等)が形成されており、このレーンマークは路面が濡れている場合においても比較的視認性が良好である。したがって、前照灯からの前方照射光量を増大させるようにすれば、レーンマークに対する視認性を高めることができ、その分だけ車両運転もしやすくなる。
【0005】
しかしながら、このように前照灯からの前方照射光量を単に増大させただけでは、車両前方路面での正反射光も増大して対向車ドライバに大きなグレアを与えてしまうこととなるので、対向車ドライバは車両運転がしづらいものとなってしまう。
【0006】
そこで、特許文献1には、正反射光により対向車ドライバに大きなグレアを与えてしまうおそれのある正面近距離領域を照射することなく、正面近距離領域の左右両側に外れた領域を照射する車両用灯具が開示されている。この車両用灯具によれば、自車走行レーンのレーンマークを明るく照射することができるので、対向車ドライバに大きなグレアを与えてしまうことなく、雨天走行時等における車両前方路面の視認性向上を図ることができる。
【特許文献1】特開2001−260744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された車両用灯具は、光源からの光をリフレクタで前方へ反射させるものであるが、レーンマーク照射用の配光パターンを形成するために、リフレクタの反射面の形状が比較的複雑になってしまう。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的簡易な構成により、雨天走行時における車両前方路面の視認性を向上することができる車両用灯具および車両用灯具システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用灯具は、レーンマーク照射用の配光パターンで車両前方路面へ向けてビーム照射を行うように構成された車両用灯具であって、光軸が車両前後方向を向くように配置された投影レンズと、投影レンズの光軸上であって、投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された光源と、光源からの光を前方に向けて反射させるリフレクタと、投影レンズと光源との間に設けられ、リフレクタからの光の一部を遮蔽してレーンマーク照射用の配光パターンを形成するシェードとを備える。
【0010】
レーンマーク照射用の配光パターンとは、舗装路面におけるレーンマークを明るく照らすように、車両前方の左右両側にハ字状に形成される配光パターンである。この車両用灯具は、実際の車両においては、通常の前照灯(すなわちロービームとハイビームとのビーム切換えが可能な前照灯)等と併用されることとなるが、その使用の態様としては、前照灯と同時に点灯させて使用するようにしてもよいし、該車両用灯具のみを点灯させて使用するようにしてもよい。
【0011】
この態様によると、シェードによりレーンマーク照射用の配光パターンを形成するように構成したことにより、比較的簡易な構成で雨天走行時における車両前方路面の視認性を向上できる車両用灯具を実現できる。
【0012】
シェードは、レーンマーク照射用の配光パターンの水平カットオフラインを形成する第1遮蔽部と、第1遮蔽部の上方に配置された逆台形状の第2遮蔽部を有してもよい。この場合、好適にレーンマーク照射用配光パターンを形成するシェードを構成できる。
【0013】
第2遮蔽部は、車両前方路面における所定の正面近距離領域の照度が所定の基準照度以下となるように形成されてもよい。対向車のドライバにグレアを与えるのを防止するために、所定の正面近距離領域における照度は、各国の法規によって最大値が定められている。正面近距離領域の照度が所定の基準照度以下となるように第2遮蔽部を形成することにより、正面近距離領域における照度を法規により定められた最大値以下にでき、対向車のドライバにグレアを与えるのを防止できる。基準照度は、車両用灯具をロービームやハイビームを照射する前照灯と同時に点灯させた場合に、正面近距離領域における照度が法規により定められた最大値以下となるような値に設定される。
【0014】
本発明の別の態様は、車両用灯具システムである。この車両用灯具システムは、車両の左右前端部に上述の車両用灯具を一対に備える車両用灯具システムであって、車両の左側に設けられる左側車両用灯具は、該左側車両用灯具の光軸の左側に照度のピークが位置する配光パターンを照射するように構成されており、車両の右側に設けられる右側車両用灯具は、該右側車両用灯具の光軸の右側に照度のピークが位置する配光パターンを照射するように構成されている。
【0015】
この態様によると、左側車両用灯具により車両遠方の左側のレーンマークを明るく照射でき、右側車両用灯具により車両遠方の右側のレーンマークを明るく照射できる。光軸上に照度のピークが位置する配光パターンを照射するように構成した場合と比較して、遠方のレーンマークを明るく照射できるので、遠方のレーンマークの視認性をより向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比較的簡易な構成により、雨天走行時における車両前方路面の視認性を向上することができる車両用灯具および車両用灯具システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態に係るレーンマーク照射灯10が組み込まれたコンビネーションヘッドランプ100を示す正面図である。レーンマーク照射灯10は、レーンマーク照射用の配光パターンで車両前方路面へ向けてビーム照射を行うように構成された車両用灯具であって、図示のように、前照灯30と共にコンビネーションヘッドランプ100を構成している。
【0019】
このコンビネーションヘッドランプ100は、車両右前端部に設けられる灯具であって、ランプボディ102の前端開口部に素通しの透明カバー104が取り付けられてなり、その灯室には、レーンマーク照射灯10と前照灯30とが並列に配置されている。
【0020】
前照灯30は、光源バルブ34と、この光源バルブ34を支持するリフレクタ36と、光源バルブ34から前方へ照射される直射光を遮蔽するシェード38とを備えてなっている。
【0021】
光源バルブ34は、その灯具中心を通る光軸Axaに沿って延びるロービーム用フィラメントおよびハイビーム用フィラメントを有するH4タイプのハロゲンバルブである。また、リフレクタ36は、複数の反射素子36sからなる反射面36aを有しており、該反射面36aにより光源バルブ34からの光を前方へ拡散偏向反射させることにより、所定の配光パターンで車両前方へビーム照射を行うようになっている。
【0022】
すなわち、光源バルブ34のロービーム用フィラメントを点灯することにより、所定のカットオフライン(明暗境界線)を有するロービーム配光パターンでビーム照射を行い、また、ハイビーム用フィラメントへの点灯切換えを行うことにより、所定のハイビーム配光パターンでビーム照射を行うようになっている。
【0023】
レーンマーク照射灯10は、投影レンズ18を備える所謂プロジェクタ型の車両用灯具であり、レーンマーク照射用の配光パターンで車両前方路面へ向けてビーム照射を行うようになっている。レーンマーク照射灯10の具体的な構造については後述する。レーンマーク照射灯10は、投影レンズ18の光軸Axbが車両前後方向を向くように配置されている。
【0024】
コンビネーションヘッドランプ100においては、前照灯30の点灯および消灯とレーンマーク照射灯10の点灯および消灯とが独立して行い得るように構成されている。
【0025】
すなわち、上述したように、前照灯30はロービームとハイビームとのビーム切換えが可能な構成となっているので、レーンマーク照射灯10を前照灯30と同時点灯させることにより、ロービーム配光パターンまたはハイビーム配光パターンに、レーンマーク照射用配光パターンを重畳させた配光パターンを得ることができるが、レーンマーク照射灯10のみを点灯させてレーンマーク照射用配光パターンのみを形成することも可能である。
【0026】
図2は、本実施の形態に係るレーンマーク照射灯10の断面図である。レーンマーク照射灯10は、光軸Axbが車両前後方向に延びるように配置された投影レンズ18と、光軸Axb上であって、投影レンズ18の後側焦点F2よりも後方側に配置された光源12aと、この光源12aからの光を前方に向けて光軸Axb寄りに反射させるリフレクタ14と、投影レンズ18と光源12aとの間に設けられ、リフレクタ14からの光の一部を遮蔽してレーンマーク照射用の配光パターンを形成するシェード16とを備える。
【0027】
光源12aは、光源バルブ12の発光部(フィラメント)である。光源バルブ12は、いわゆるH7ハロゲンバルブであって、光源12aの中心が光軸Axbと同軸上に配置されるようにしてリフレクタ14に取り付けられている。光軸Axbは、投影レンズ18に垂直に、投影レンズ18の中心を通る軸である。
【0028】
リフレクタ14は、光軸Axbを中心軸とする略楕円球面状の反射面14aを有している。この反射面14aは、光軸Axbを含む断面形状が楕円で形成されており、その離心率が鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設計されている。リフレクタ14は、光源12aの位置を第1焦点F1とし、且つ、投影レンズ18の後側焦点F2を第2焦点とする楕円形に形成されている。これにより、反射面14aは、光源12aからの光を前方へ向けて光軸Axb寄りに反射させるようになっており、その際、光軸Axbを含む鉛直断面内においては上記楕円の第2焦点である後側焦点F2に略収束させる。
【0029】
リフレクタ14の前方には、リフレクタ14の前端開口部を塞ぐようにしてシェード16が設けられている。このシェード16は、リフレクタ14の前端下面から鉛直上方に延びる第1遮蔽部21と、第1遮蔽部21と鉛直上方に所定距離離間して設けられた第2遮蔽部22と、第1遮蔽部21と第2遮蔽部22との間に形成された開口部20とを有する。リフレクタ14からの光の一部は、第1遮蔽部21および第2遮蔽部22により遮蔽され、開口部20を通過した光によりレーンマーク照射用の配光パターンが形成される。
【0030】
シェード16の前方には、ホルダ15を介して、投影レンズ18が結合されている。ホルダ15は、リフレクタ14の前端開口部から前方へ向けて延びる筒状に形成されており、その後端部の複数箇所においてリフレクタ14にネジ締め固定されている。
【0031】
投影レンズ18は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸レンズからなり、その後側焦点F2がリフレクタ14の反射面14aの第2焦点にほぼ一致するように配置されている。そして、これにより投影レンズ18は、リフレクタ14の反射面14aからの反射光のうち、シェード16の開口部20を通過した光を光軸Axb寄りに集光させるようにして透過させる。
【0032】
図3は、シェード16を示す図である。図3は、シェード16を光源12a側から見た様子を示している。シェード16は、レーンマーク照射用配光パターンの水平カットオフラインを形成する第1遮蔽部21と、第1遮蔽部21の上方に配置された逆台形状の第2遮蔽部22と、第1遮蔽部21の上方に第2遮蔽部22を支持する支持部23と、第1遮蔽部21、第2遮蔽部22および支持部23の間に形成された開口部20とを有する。シェード16は、金属板に打ち抜き加工を施すことにより形成されている。
【0033】
第1遮蔽部21は、略長方形状に形成されており、その上端部は、リフレクタ14の反射面14aからの反射光の一部を遮蔽してレーンマーク照射用配光パターンの水平カットオフラインを形成する水平カットオフライン形成部21aとなっている。本実施の形態において、レーンマーク照射用配光パターンの水平カットオフラインは左右段違いの段付き水平カットオフラインで、このカットオフラインの段差部を形成するために、水平カットオフライン形成部21aの中央部には、傾斜した段差部21bが形成されている。第1遮蔽部21は、段差部21bの上端部が光軸Axbよりも上方に位置するように配置される。
【0034】
第2遮蔽部22は、逆台形状に形成されており、第1遮蔽部21の上方に配置されている。第2遮蔽部22は、下底22aと、右側斜辺22bと、左側斜辺22cとを有する。第2遮蔽部22は、下底22aが水平カットオフライン形成部21aの上端縁から所定距離dだけ離間するように配置されている。所定距離dは、車両前方路面における所定の正面近距離領域の照度が所定の基準照度以下となるように設定される。所定距離dは、たとえば1mm程度である。また、下底22aの長さ、並びに右側斜辺22bおよび左側斜辺22cの傾きなどの第2遮蔽部22の形状も、車両前方路面における所定の正面近距離領域の照度が所定の基準照度以下となるように設定される。この所定距離dおよび第2遮蔽部22の形状については後述する。
【0035】
支持部23は、第1遮蔽部21の両側部から上方に延設されており、第2遮蔽部22の上底の両側部に接続されることにより、第2遮蔽部22を第1遮蔽部21の上方に支持している。
【0036】
上述のように形成された第1遮蔽部21、第2遮蔽部22および支持部23により挟まれた領域に、開口部20が形成される。開口部20は、光軸Axbの左側に位置する直角三角形状の開口領域である左側開口部20aと、光軸Axbの右側に位置する直角三角形状の開口領域である右側開口部20bと、左側開口部20aと右側開口部20bとの間に形成された段差部を有する略横長長方形状の開口領域である中央開口部20cとを有する。
【0037】
このように形成されたレーンマーク照射灯10において、光源バルブ12の光源12aから出射された光は、リフレクタ14の反射面14aにより前方に反射される。反射面14aにより反射された光は、一部がシェード16の開口部20を通過する。この開口部20を通過した光は、投影レンズ18を透過することにより光軸Axbに対して反転されて車両前方に投影され、レーンマーク照射用配光パターンを形成する。
【0038】
図4は、本実施の形態に係るレーンマーク照射灯10により形成されるレーンマーク照射用配光パターンを説明するための図である。図4は、車両が片側1車線(両側2車線)の直線舗装道路を走行している場合において、車両右側に配置されたコンビネーションヘッドランプ100の位置(正確にはレーンマーク照射灯10の灯具中心)から車両前方路面を透視的に見て示す図に、レーンマーク照射灯10から照射される光により車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるレーンマーク照射用配光パターンPLMを重ねて示す図である。
【0039】
図4に示すように、レーンマーク照射用配光パターンPLMは、透視図の消点であるH−V点(H−H線とV−V線との交点)の下方の領域に形成された略横長長方形状の遠方配光パターンPDと、遠方配光パターンPDの左端から左下方向に延びる左レーンマーク照射用配光パターンPLM1と、遠方配光パターンPDの右端から右下方向に延びる右レーンマーク照射用配光パターンPLM2とを含む。また、図4には、前照灯30を点灯させることによって形成されるロービーム配光パターンPLも図示されている。
【0040】
図4に示すように、車両前方路面には、その中央に位置するセンタラインLMcと、その両側に位置する左サイドラインLMs1、右サイドラインLMs2とが、車両走行レーンを仕切るレーンマークとして形成されている。センタラインLMcは、間欠的なレーンマークとして形成されており、左サイドラインLMs1、右サイドラインLMs2は、連続的なレーンマークとして形成されている。左サイドラインLMs1は、H−V点から左下方向に延びており、センタラインLMcおよび右サイドラインLMs2は、H−V点から右下方向に延びている。
【0041】
晴天の夜間走行時やトンネル内走行時等のように路面が乾いている場合には、前照灯30のみを点灯すれば十分であり、その際、走行状況(対向車の有無等)に応じて適宜ビーム切換えを行い、ロービーム配光パターンとハイビーム配光パターンとのいずれかでビーム照射を行うようにすればよい。
【0042】
一方、雨天の夜間走行時等のように路面が濡れている場合には、前照灯30からの前方照射光はその大半が路面で正反射してしまい、自車ドライバへの再帰反射光が少なくなるので、車両前方路面の視認性が悪くなり車両運転がしづらいものとなる。ただし、自車線レーンを仕切る1対のレーンマーク(すなわち左サイドラインLMs1およびセンタラインLMc)は、路面が濡れている場合においても比較的視認性が良好であるので、仮に前照灯30からの前方照射光量を増大させるようにすれば、左サイドラインLMs1、センタラインLMcに対する視認性を高めることができ、その分だけ車両運転もしやすくなる。しかしながら、このようにした場合には、車両前方路面での正反射光も増大して対向車ドライバに大きなグレアを与えてしまうこととなるので、対向車ドライバは車両運転がしづらいものとなってしまう。
【0043】
この場合において、対向車ドライバに対して大きなグレアとなる正反射光は、図4に示すように、車両前方路面におけるV−V線近傍の正面近距離領域Nにおいて正反射した光である。
【0044】
すなわち、この正面近距離領域Nで正反射した光は、対向車ドライバの目への到達光量が多く、しかもその正反射の方向が対向車ドライバの視線方向(通常は車両前方を注視している)に近いため、対向車ドライバに大きなグレアを与えてしまうこととなる。これに対し、正面近距離領域Nの左右両側に外れた領域で正反射した光は、対向車ドライバの目に到達しないかあるいはその正反射の方向が対向車ドライバの視線方向から外れるので、対向車ドライバに大きなグレアを与えてしまうことはない。
【0045】
そこで本実施の形態においては、レーンマーク照射灯10により、正面近距離領域Nの左右両側に外れた領域に1対の左レーンマーク照射用配光パターンPLM1、右レーンマーク照射用配光パターンPLM2を形成することにより、対向車ドライバに大きなグレアを与えてしまうことなく、車両前方路面の視認性向上を図るようにしている。
【0046】
その際、車両前方路面において、自車走行レーンを仕切る左サイドラインLMs1、センタラインLMcは、それぞれH−V点から左下、右下へ向けて放射状(ハ字状)に延びるものであるので、左レーンマーク照射用配光パターンPLM1は、左サイドラインLMs1に沿ってH−V点から左下へ向けて延びる形状に形成され、右レーンマーク照射用配光パターンPLM2は、センタラインLMcに沿ってH−V点から右下へ向けて延びる形状に形成されている。本実施の形態では、図3に示す開口部20を光軸Axbに対して反転した像が車両前方に投影される。従って、左レーンマーク照射用配光パターンPLM1は、開口部20の右側開口部20bを通過した光により形成され、右レーンマーク照射用配光パターンPLM2は、開口部20の左側開口部20aを通過した光により形成される。
【0047】
また、本実施の形態においては、車両前方路面における正面近距離領域Nの左右両側のみならず、正面近距離領域Nよりも遠方の領域に長方形状の遠方配光パターンPDが形成されている。正面近距離領域Nよりもさらに遠方の領域で正反射した光は、対向車ドライバの目に到達することがあっても、光源12aからの距離が十分離れているので、その到達光量はあまり多くない。したがって遠方配光パターンPDを形成しても、対向車ドライバに大きなグレアを与えてしまうことはない。遠方配光パターンPDを形成することにより、対向車ドライバに大きなグレアを与えることなく、車両遠方の視認性を高めることができる。この遠方配光パターンPDは、図3に示す開口部20の中央開口部20cを通過した光により形成される。
【0048】
遠方配光パターンPDは、その上端縁に左右段違いのカットオフラインCL1、CL2を有している。このカットオフラインCL1、CL2は、H−V点を鉛直方向に通るV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延びており、V−V線よりも右側の対向車線側部分が下段カットオフラインCL1として形成されるとともに、V−V線よりも左側の自車線側部分が、下段カットオフラインCL1から傾斜部を介して段上がりになった上段カットオフラインCL2として形成されている。このカットオフラインCL1、CL2は、図3に示す水平カットオフライン形成部21aの反転投影像として形成されている。
【0049】
遠方配光パターンPDにおいて、下段カットオフラインCL1とV−V線との交点であるエルボ点Eは、H−V点の0.5〜0.6°程度下方に位置している。これは、レーンマーク照射灯10が、仮想鉛直スクリーン上における光軸Axbの前方延長点がH−V点と一致するように配置されることによるものである。
【0050】
正面近距離領域Nの照度は、各国の法規によってその最大値が定められている。たとえばある国の法規では、ハロゲンバルブを光源として用いた場合には、車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上におけるH−V点から下向き2°且つ右向き0〜3.5°の範囲(両矢印Ar1で表される範囲)での最大照度が20ルクス、H−V点から下向き4°且つ左向き2°〜右向き4.5°の範囲(両矢印Ar2で表される範囲)での最大照度が8ルクスと規定されている。
【0051】
図4に示す正面近距離領域Nは、両矢印Ar1およびAr2を含む台形状の領域である。本実施の形態において、この正面近距離領域Nの配光パターンを規定するのは、図3において説明した所定距離dと、シェード16における第2遮蔽部22の形状である。従って、対向車ドライバに対して大きなグレアとなる正反射光を防止するためには、所定距離dと、第2遮蔽部22の形状が重要となる。
【0052】
所定距離dおよび第2遮蔽部22の形状は、正面近距離領域Nの照度が所定の基準照度以下となるように設定される。上述したように、レーンマーク照射灯10は前照灯30と同時に点灯可能である。レーンマーク照射灯10と前照灯30を同時点灯させた場合、たとえば図4に示すロービーム配光パターンPLのように、正面近距離領域Nは、前照灯30から光の照射を受けている。従って、上記基準照度は、レーンマーク照射灯10をロービームやハイビームを照射する前照灯30と同時に点灯させた場合に、正面近距離領域Nにおける照度が法規により定められた最大値以下となるように定められる。通常、正面近距離領域Nの照度は、前照灯30からの光だけで法規により定められた最大値近くに達するので、上記基準照度は0ルクスに近い値、たとえば0〜1ルクス程度である。
【0053】
正面近距離領域Nの照度を所定の基準照度以下とするためには、遠方配光パターンPDの下端のカットオフラインCL3、左レーンマーク照射用配光パターンPLM1における正面近距離領域N側の斜めカットオフラインCL4、および右レーンマーク照射用配光パターンPLM2における正面近距離領域N側の斜めカットオフラインCL5が正面近距離領域Nの外側に位置するように、所定距離dと、第2遮蔽部22を設定すればよい。
【0054】
上述の法規の場合であれば、所定距離dは、カットオフラインCL3が、下向き2°よりも上方に位置するように設定される。また、第2遮蔽部22の下底22aの長さは、カットオフラインCL3が右向き0〜3.5°の範囲よりも大きくなるように設定される。また、第2遮蔽部22の右側斜辺22bの傾きは、斜めカットオフラインCL4の傾きが、両矢印Ar1の左端と両矢印Ar2の左端とを結んだ直線の傾き以上になるように設定される。また、第2遮蔽部22の左側斜辺22cの傾きは、斜めカットオフラインCL5の傾きが、両矢印Ar1の右端と両矢印Ar2の右端とを結んだ直線の傾き以上になるように設定される。なお、ここでいう斜めカットオフラインCL4、CL5などの傾きとは、V−V線に対する傾きである。
【0055】
このように所定距離dと第2遮蔽部22の形状を設定することにより、正面近距離領域Nの外側にカットオフラインCL3、斜めカットオフラインCL4、CL5が位置するようになるので、レーンマーク照射灯10からの光は正面近距離領域Nには殆ど照射されなくなり、レーンマーク照射灯10を前照灯30と同時に点灯させた場合であっても、正面近距離領域Nにおける照度を法規により定められた最大値以下とすることができる。これにより、対向車ドライバに大きなグレアを与えることなく、レーンマーク照射用配光パターンを形成できる。
【0056】
なお本実施の形態においては、レーンマーク照射灯10が、車両右側のコンビネーションヘッドランプ100に組み込まれている場合について説明したが、車両左側のコンビネーションヘッドランプに組み込まれる場合においても、本実施の形態と同様の構成を採用することにより本実施の形態と同様のレーンマーク照射用配光パターンを得ることができる。車両の左右両前端部に設けられた2つのレーンマーク照射灯により、車両用灯具システムが構成される。
【0057】
ここで、左右のレーンマーク照射灯は、それぞれの光軸の前方延長点が共にH−V点に一致するように設けられるが、レーンマーク照射用配光パターンにおける照度のピーク位置は、左右のレーンマーク照射灯で光軸からずらした位置とすることが望ましい。すなわち、車両の左側に設けられる左側レーンマーク照射灯は、図4に示すように、左側レーンマーク照射灯の光軸の左側の位置ILmaxに照度のピークが位置するレーンマーク照射用配光パターンを照射するように構成され、一方車両の右側に設けられる右側レーンマーク照射灯は、右側レーンマーク照射灯の光軸の右側の位置IRmaxに照度のピークが位置するレーンマーク照射用配光パターンを照射するように構成されることが望ましい。
【0058】
このようにレーンマーク照射用配光パターンにおける照度のピーク位置を、左右のレーンマーク照射灯において光軸からずらすことにより、左側レーンマーク照射灯により車両遠方(たとえば40m前方)のサイドラインLMs1を明るく照射でき、右側レーンマーク照射灯により車両遠方の右側のセンタラインLMcを明るく照射できる。光軸上に照度のピークが位置する配光パターンを照射するように構成した場合と比較して、遠方のレーンマークを明るく照射できるので、遠方のレーンマークの視認性をより向上することができる。このような照度のピーク位置を光軸からずらしたレーンマーク照射用配光パターンは、リフレクタの反射面の形状を適宜設計することにより実現できる。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態に係るレーンマーク照射灯10によれば、車両前方路面における正面近距離領域Nへの照射光量を抑えた上で、その左右領域への照射光量を増大させることができるので、雨天走行時等のように車両前方路面が濡れている場合において、正面近距離領域Nでの正反射光により対向車ドライバに大きなグレアを与えてしまうのを防止した上で、その左右領域に存在するレーンマークである左サイドラインLMs1、センタラインLMcを明るく照射することができる。これにより、雨天走行時等における車両前方路面の視認性向上を図ることができる。
【0060】
ここで、本実施の形態に係るレーンマーク照射灯10では、シェード16に図3に示すような開口部20を設けることにより、レーンマーク照射用配光パターンを形成する構成としている。上述したように、開口部20は金属板に打ち抜き加工を施すことにより容易に形成でき、また灯具の構成は従来のプロジェクタ型を用いることができるので、比較的簡易な構成でレーンマーク照射灯10を実現できる。
【0061】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0062】
たとえば、光源バルブとしては、上述の実施の形態において用いたハロゲンバルブの代わりに、ディスチャージバルブを用いてもよい。また、光源としてLEDを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施の形態に係るレーンマーク照射灯が組み込まれたコンビネーションヘッドランプを示す正面図である。
【図2】本実施の形態に係るレーンマーク照射灯の断面図である。
【図3】本実施の形体に係るシェードを示す図である。
【図4】本実施の形態に係るレーンマーク照射灯により形成されるレーンマーク照射用配光パターンを説明するための図である。
【符号の説明】
【0064】
10 レーンマーク照射灯、 12 光源バルブ、 14 リフレクタ、 16 シェード、 18 投影レンズ、 20 開口部、 21 第1遮蔽部、 22 第2遮蔽部、 23 支持部、 30 前照灯、 34 光源バルブ、 100 コンビネーションヘッドランプ、 102 ランプボディ、 104 透明カバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーンマーク照射用の配光パターンで車両前方路面へ向けてビーム照射を行うように構成された車両用灯具であって、
光軸が車両前後方向を向くように配置された投影レンズと、
前記投影レンズの光軸上であって、前記投影レンズの後側焦点よりも後方側に配置された光源と、
前記光源からの光を前方に向けて反射させるリフレクタと、
前記投影レンズと前記光源との間に設けられ、前記リフレクタからの光の一部を遮蔽して前記レーンマーク照射用の配光パターンを形成するシェードと、
を備えることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記シェードは、前記レーンマーク照射用の配光パターンの水平カットオフラインを形成する第1遮蔽部と、前記第1遮蔽部の上方に配置された逆台形状の第2遮蔽部を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記第2遮蔽部は、車両前方路面における所定の正面近距離領域の照度が所定の基準照度以下となるように形成されることを特徴とする請求項2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
車両の左右前端部に請求項1から3のいずれかに記載の車両用灯具を一対に備える車両用灯具システムであって、
車両の左側に設けられる左側車両用灯具は、該左側車両用灯具の光軸の左側に照度のピークが位置する配光パターンを照射するように構成されており、
車両の右側に設けられる右側車両用灯具は、該右側車両用灯具の光軸の右側に照度のピークが位置する配光パターンを照射するように構成されていることを特徴とする車両用灯具システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−27469(P2010−27469A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189177(P2008−189177)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】