説明

車両用無段変速機のロックアップ制御装置

【課題】車両の発進時において、可及的に低い車速からロックアップクラッチの係合を開始することができ、エンジンストール或いはその直前の振動の発生を回避する。
【解決手段】車両の発進時には、無段変速機18の実際の変速比γが予め定められた変速比判定値γα以上であるときには車速Vに拘わらずロックアップクラッチ26の係合が許容されるが、実際の変速比γがその予め定められた変速比判定値γαよりも小さいときにはそのロックアップクラッチ26の係合が禁止される。車両の発進時において、可及的に低い車速からロックアップクラッチ26の係合を開始することができ、エンジンストール或いはその直前の振動の発生を回避することができる。特に、変速比γが最大値γmax に到達しないで車両が停止した急制動後に、変速比γが最大値γmax に到達しないままでの再発進時においても、ロックアップクラッチ26の係合を開始することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機と、流体伝動装置の入出力部材間を直結可能なロックアップクラッチとを備える車両用無段変速機のロックアップ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無段変速機や多段変速機等の変速機と、エンジンの動力をその変速機へ伝達する流体伝動装置(例えばトルクコンバータやフルードカップリング等)の入出力部材間を直結可能なロックアップクラッチとを備える車両が良く知られている。このようなロックアップクラッチは、燃費の向上等を目的として予め係合領域が設定された関係から車両状態に基づいてその係合・解放が判断され、例えば車両の走行状態がロックアップ領域内に入るとロックアップ制御が開始される。また、このようなロックアップクラッチの係合領域を大きくするほど車両の燃費が工場するので、車両の発進時などの極低車速において、エンジンのストールを防止しつつロックアップクラッチの係合領域の拡大して、伝達効率および燃費の向上を図るようにした車両用無段変速機のロックアップ制御装置が提案されている。たとえば、特許文献1に記載された装置がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−124979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の従来の車両用無段変速機のロックアップ制御装置は、ロックアップ禁止領域を設けて発進時などの極低車速でのエンジン停止やガクガク振動を防止しつつ、このロックアップ禁止領域を最小限に抑えてロックアップ領域の拡大を図ることにより伝達効率および燃費の向上を図るために、無段変速機の入力軸回転速度が所定値Ni(1) 以下、且つ、車速が所定の車速VSP(1) 以上、且つ、入力軸回転速度に対する出力軸回転速度の比すなわち変速比( =入力軸回転速度/出力軸回転速度)が所定値Ip(0) 以下で規定される走行条件では、ロックアップクラッチの係合領域と判定されていても、ロックアップクラッチの締結を禁止するものである。
【0005】
しかしながら、上記従来の車両用無段変速機のロックアップ制御装置によれば、特許文献1の図4に示されるように、車速が零からの所定の車速VSP(1) に到達する間の発進過程では入力軸回転速度、車速、および変速比に拘わらずロックアップクラッチの係合が許容され、車速が所定の車速VSP(1) 以上となると、入力軸回転速度が所定値Ni(1) 以下且つ変速比が所定値Ip(0) 以下の領域でロックアップクラッチの係合が禁止される。このため、車両の発進直後の極低車速領域では入力軸回転速度、車速、および変速比に拘わらずロックアップクラッチの係合が許容されるので、車両発進直後のロックアップクラッチの係合によってエンジンが高負荷且つ低回転の状態となって、エンジンストール或いはその直前の振動が発生する場合があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両の発進時において、可及的に低い車速からロックアップクラッチの係合を開始することができしかもエンジンストール或いはその直前の振動の発生を回避することができる車両用無段変速機のロックアップ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、以上の事情を背景として種々の検討を重ねた結果、零車速からの発進直後であっても、変速比が比較的低い領域に比較して変速比が比較的高い領域ではエンジン負荷が比較的軽減されるので、車速に拘わらずエンジンストール或いはその直前の振動の発生を回避することができる事実を見いだした。本発明は、この知見に基づいて為されたものである。
【0008】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、変速比を連続的に変化させることが可能な無段変速機と、エンジンの動力を該無段変速機へ伝達する流体伝動装置の入出力間を直結可能なロックアップクラッチとを備える車両用無段変速機のロックアップ制御装置であって、車両の発進時に、前記無段変速機の実際の変速比が予め定められた変速比判定値以上であるときには車速に拘わらず前記ロックアップクラッチの係合を許容するが、実際の変速比が該予め定められた変速比判定値よりも小さいときには該ロックアップクラッチの係合を禁止することにある。
【0009】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記ロックアップクラッチが係合された車両の発進時において、前記無段変速機の入力軸回転速度が予め設定された入力回転速度判定値を一旦超えた場合は、前記ロックアップクラッチを解放させることにある。
【0010】
また、第3発明の要旨とするところは、第1発明または第2発明において、前記変速比判定値は、前記無段変速機の最大変速比の70%乃至85%の値であることにある。
【0011】
また、第4発明の要旨とするところは、前記車両の発進時において、発進加速操作に応じて予め設定された目標エンジン回転速度以上にエンジン回転速度が吹け上がるのを抑制するように、前記ロックアップクラッチをスリップ係合させながらその係合に向けて制御する発進時ロックアップクラッチ制御を実行するものである。
【発明の効果】
【0012】
第1発明の車両用無段変速機のロックアップ制御装置によれば、車両の発進時に、前記無段変速機の実際の変速比が予め定められた変速比判定値以上であるときには車速に拘わらず前記ロックアップクラッチの係合が許容されるが、実際の変速比が該予め定められた変速比判定値よりも小さいときには該ロックアップクラッチの係合が禁止されることから、車両の発進時において、可及的に低い車速からロックアップクラッチの係合を開始することができ、しかもエンジンストール或いはその直前の振動の発生を回避することができる。特に、変速比が最大値に到達しないで車両が停止した急制動後に、実際の変速比が最大値に到達しないままでの再発進時においても、ロックアップクラッチの係合を開始することができる。
【0013】
また、第2発明の車両用無段変速機のロックアップ制御装置によれば、ロックアップクラッチが係合された車両の発進時において、前記無段変速機の入力軸回転速度が予め設定された入力回転速度判定値を一旦超えた場合は、前記ロックアップクラッチが解放させられる。車両発進時において入力軸回転速度が予め設定された入力回転速度判定値を超える場合は、比較的アクセル操作量が大きく発進操作開始からエンジン出力トルクが大きい状態が持続しているが、入力軸回転速度が予め設定された入力回転速度判定値を一旦上回ってから下回る場合は、比較的アクセル操作量が戻されてエンジン出力トルクが減少した状態となっていてロックアップクラッチが完全係合となり易く、エンジンストールが容易な状態である。したがって、上記のようにすることにより、好適にエンジンストールが回避される。
【0014】
また、第3発明の車両用無段変速機のロックアップ制御装置によれば、前記変速比判定値は前記無段変速機の最大変速比の70%乃至85%の値であって、車両発進直後におけるロックアップクラッチの係合が許容されるのは変速比の最大値近傍の変速比が相対的に大きい領域とされているので、車両の発進時において、好適に、可及的に低い車速からロックアップクラッチの係合を開始することができしかもエンジンストール或いはその直前の振動の発生を回避することができる。
【0015】
また、第4発明の車両用無段変速機のロックアップ制御装置によれば、前記車両の発進時において、発進加速操作に応じて予め設定された目標エンジン回転速度以上にエンジン回転速度が吹け上がるのを抑制するように、前記ロックアップクラッチをスリップ係合させながらその係合に向けて制御する発進時ロックアップクラッチ制御を実行するものであることから、前記ロックアップクラッチの係合開始に伴う係合ショックを緩和できるとともに、車両発進の際にエンジン回転速度が吹け上がるのを適切に抑制することができ、燃費が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用される車両を構成する動力伝達経路の概略構成を説明する図である。
【図2】車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図3】図1の無段変速機の油圧制御回路のうちベルト挟圧力制御及び変速比制御等に関する要部を示す油圧回路図である。
【図4】図1の無段変速機の油圧制御回路のうちロックアップクラッチの作動制御等に関する要部を示す油圧回路図である。
【図5】図1の無段変速機の変速制御において目標入力回転速度を求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図6】図1の無段変速機の挟圧力制御において変速比等に応じて必要油圧を求める必要油圧マップの一例を示す図である。
【図7】スロットル弁開度をパラメータとしてエンジン回転速度とエンジントルクとの予め実験的に求められて記憶されたマップの一例を示す図である。
【図8】図2の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図9】図8の係合領域判定部において、ロックアップクラッチの係合領域であるか否かの判定のために用いられる予め記憶された関係を説明する図である。
【図10】図8の電子制御装置の制御作動の要部すなわち係合領域判定制御ルーチンの制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用される車両10を構成するエンジン12から駆動輪24までの動力伝達経路の概略構成を説明する図である。図1において、エンジン12により発生させられた動力は、流体伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、車両用無段変速機(以下、無段変速機(CVT)という)18、減速歯車装置20、差動歯車装置22等を経て、左右の駆動輪24へ伝達される。
【0019】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸13に連結されたポンプ翼車14p、トルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸30を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14t、及び一方向クラッチによって一方向の回転が阻止されているステータ翼車14sとを備えており、ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間で流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間には、それらの間すなわちトルクコンバータ14の入出力間を直結可能なロックアップクラッチ26が設けられている。また、ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したり、無段変速機18のベルト挟圧を発生させたり、ロックアップクラッチ26の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりする為の油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
【0020】
ロックアップクラッチ26は、良く知られているように、油圧制御回路100によって係合側油室14on内の油圧PONと解放側油室14off 内の油圧POFF との差圧ΔP(=PON−POFF )が制御されることによりフロントカバー14cに摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチである(図4参照)。トルクコンバータ10の運転状態としては、例えば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ26が解放される所謂ロックアップ解放、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ26が滑りを伴って半係合される所謂フレックスロックアップ状態(スリップ係合状態)、及び差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ26が完全係合される所謂ロックアップ状態(係合状態)の3状態に大別される。例えば、ロックアップクラッチ26が完全係合(ロックアップオン)させられることにより、ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tが一体回転させられてエンジン12の動力が無段変速機18側へ直接伝達される。また、所定のスリップ係合状態で係合するように差圧ΔPが制御されることにより、例えば入出力回転速度差、すなわちスリップ回転速度(スリップ量)NSLP =エンジン回転速度NE −タービン回転速度NT がフィードバック制御されることにより、車両10の駆動(パワーオン)時には所定のスリップ量でタービン軸30をクランク軸13に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には所定のスリップ量でクランク軸13をタービン軸30に対して追従回転させられる。
【0021】
前後進切換装置16は、発進クラッチとしての前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されている。トルクコンバータ14のタービン軸30はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸32はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sとは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は係合によりエンジン12の動力を駆動輪24側へ伝達する所定の摩擦係合装置としての断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0022】
そして、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
【0023】
エンジン12の吸気配管36には、スロットルアクチュエータ38を用いてエンジン12の吸入空気量QAIR を電気的に制御する為の電子スロットル弁40が備えられている。
【0024】
無段変速機18は、入力軸32に設けられた入力側部材である有効径が可変の駆動側プーリ(プライマリプーリ、プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の従動側プーリ(セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)46と、それ等の両可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、両可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われるベルト式の無段変速機である。
【0025】
両可変プーリ42及び46は、入力軸32及び出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42a及び46aと、入力軸32及び出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能且つ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42b及び46bと、それらの間のV溝幅を変更する推力を付与する油圧アクチュエータとしての駆動側油圧シリンダ(プライマリプーリ側油圧シリンダ)42c及び従動側油圧シリンダ(セカンダリプーリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されている。そして、駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路100によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT )が連続的に変化させられる。また、従動側油圧シリンダ46cの油圧であるセカンダリプーリ圧(以下、ベルト挟圧という)Pd が油圧制御回路100によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないようにベルト挟圧力が制御される。このような制御の結果として、駆動側油圧シリンダ42cの油圧であるプライマリプーリ圧(以下、変速制御圧という)Pinが生じるのである。
【0026】
図2は、エンジン12や前後進切換装置16や無段変速機18などを制御する為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図2において、車両10には、例えば無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御などに関連する油圧制御の為の車両用無段変速機のロックアップ制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御及びベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18及びロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
【0027】
電子制御装置50には、例えばクランク軸回転速度センサ52により検出されたクランク軸13の回転角度(位置)ACR及びクランク軸13の回転速度(すなわちエンジン回転速度)NE に対応するクランク軸回転速度を表す信号、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸30の回転速度(タービン回転速度)NT を表す信号、入力軸回転速度センサ56により検出された無段変速機18の入力回転速度である入力軸32の回転速度(入力軸回転速度)NINを表す信号、出力軸回転速度センサ58により検出された無段変速機18の出力回転速度である出力軸44の回転速度(出力軸回転速度)NOUT すなわち出力軸回転速度NOUT に対応する車速Vを表す信号、スロットルセンサ60により検出されたエンジン12の吸気配管36(図1参照)に備えられた電子スロットル弁40のスロットル弁開度θTHを表す信号、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温TW を表す信号、CVT油温センサ64により検出された無段変速機18等の油圧制御回路100内の作動油の油温TCVT を表す信号、アクセル開度センサ66により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダル68の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、吸入空気量センサ70により検出されたエンジン12の吸入空気量QAIR を表す信号、フットブレーキスイッチ72により検出された常用ブレーキであるフットブレーキが操作されたブレーキオンBONを表す信号、レバーポジションセンサ74により検出されたシフトレバー76の操作ポジション(操作位置)PSHを表す信号などが供給されている。
【0028】
また、電子制御装置50からは、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE として、電子スロットル弁40の開閉を制御する為のスロットルアクチュエータ38への駆動信号や燃料噴射装置78から噴射される燃料の量を制御する為の噴射信号や点火装置80によるエンジン12の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号ST 例えば駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御するソレノイド弁DS1及びソレノイド弁DS2を駆動するための油圧指令信号、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号SB 例えばベルト挟圧Pd を調圧するリニアソレノイド弁SLSを駆動する為の油圧指令信号、ロックアップクラッチ26の係合、解放、スリップ量NSLP を制御する為のロックアップ制御指令信号SL 例えば油圧制御回路100内のロックアップリレーバルブ124の弁位置を切り換えるリニアソレノイド弁SLUを駆動する為の油圧指令信号やロックアップクラッチ26のトルク容量を調節するリニアソレノイド弁SLUを駆動する為の油圧指令信号、ライン油圧PL を調圧するリニアソレノイド弁を駆動する為の油圧指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
【0029】
シフトレバー76は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている5つの操作ポジション「P」、「R」、「N」、「D」、及び「L」のうちの何れかへ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは車両10の動力伝達経路を解放しすなわち車両10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力軸44の回転を阻止(ロック)するための駐車ポジション(位置)であり、「R」ポジションは出力軸44の回転方向を逆回転とする為の後進走行ポジション(位置)であり、「N」ポジションは車両10の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とする為の中立ポジション(位置)であり、「D」ポジションは無段変速機18の変速を許容する変速範囲で自動変速モードを成立させて自動変速制御を実行させる為の前進走行ポジション(位置)であり、「L」ポジションは強いエンジンブレーキが作用させる為のエンジンブレーキポジション(位置)である。このように、「P」ポジション及び「N」ポジションは動力伝達経路をニュートラル状態とし車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジション、及び「L」ポジションは動力伝達経路を動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態とし車両10を走行させるときに選択される走行ポジションである。
【0030】
図3は、油圧制御回路100のうち無段変速機18のベルト挟圧力制御及び変速比制御等に関する要部を示す油圧回路図である。また、図4は、油圧制御回路100のうちロックアップクラッチ26の作動制御等に関する要部を示す油圧回路図である。
【0031】
図3において、油圧制御回路100は、変速比γが連続的に変化させられるように駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御する変速制御弁として機能する変速比コントロールバルブUP116及び変速比コントロールバルブDN118、伝動ベルト48が滑りを生じないように従動側油圧シリンダ46cの油圧であるベルト挟圧Pd を調圧する挟圧力コントロールバルブ120、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が係合或いは解放されるようにシフトレバー76の操作に従って油路が機械的に切り換えられるマニュアルバルブ122等を備えている。
【0032】
ここで、油圧制御回路100内の第1ライン油圧PL1は、例えばエンジン12により回転駆動される機械式のオイルポンプ28から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(第1ライン油圧調圧弁)110によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて無段変速機18への入力トルクTIN等に応じた値に調圧されるようになっている。また、第2ライン油圧PL2は、例えばプライマリレギュレータバルブ110による第1ライン油圧PL1の調圧の為にプライマリレギュレータバルブ110から排出される油圧を元圧として、例えばリリーフ型のセカンダリレギュレータバルブ(第2ライン油圧調圧弁)112によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて調圧されるようになっている。また、モジュレータ油圧PM は、例えば第1ライン油圧PL1を元圧としてモジュレータバルブ114によりリニアソレノイド弁の出力油圧である制御油圧に基づいて一定油圧に調圧されるようになっている。
【0033】
変速比コントロールバルブUP116は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート116t及び入出力ポート116iを開閉するスプール弁子116aと、そのスプール弁子116aを入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング116bと、そのスプリング116bを収容し且つスプール弁子116aに入出力ポート116tと入出力ポート116iとが連通する方向の推力を付与する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS2の出力油圧である制御油圧PS2を受け入れる油室116cと、スプール弁子116aに入出力ポート116iを閉弁する方向の推力を付与する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるソレノイド弁DS1の出力油圧である制御油圧PS1を受け入れる油室116dとを備えている。また、変速比コントロールバルブDN118は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入出力ポート118tを開閉するスプール弁子118aと、そのスプール弁子118aを閉弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング118bと、そのスプリング118bを収容し且つスプール弁子118aに閉弁方向の推力を付与する為に制御油圧PS1を受け入れる油室118cと、スプール弁子118aに開弁方向の推力を付与する為に制御油圧PS2を受け入れる油室118dとを備えている。
【0034】
ソレノイド弁DS1は、駆動側油圧シリンダ42cへ作動油を供給してその油圧を高め駆動側プーリ42のV溝幅を小さくして変速比γを小さくする側すなわちアップシフト側へ制御する為に制御油圧PS1を出力する。また、ソレノイド弁DS2は、駆動側油圧シリンダ42cの作動油を排出してその油圧を低め駆動側プーリ42のV溝幅を大きくして変速比γを大きくする側すなわちダウンシフト側へ制御するために制御油圧PS2を出力する。具体的には、制御油圧PS1が出力されると変速比コントロールバルブUP116の供給ポート116sに入力された第1ライン油圧PL1が入出力ポート116tを経て駆動側油圧シリンダ42cへ供給されて結果的に変速制御圧Pinが連続的に制御される。また、制御油圧PS2が出力されると駆動側油圧シリンダ42cの作動油が入出力ポート116t、入出力ポート116iさらに入出力ポート118tを経て排出ポート118xから排出されて結果的に変速制御圧Pinが連続的に制御される。例えば、図5に示すような運転者の加速要求量に対応するアクセル操作量Accをパラメータとして予め実験的に求められて記憶された車速Vと目標入力軸回転速度NIN* との関係(変速マップ)に従って算出された目標入力軸回転速度NIN* に実際の入力軸回転速度NINが一致するように、それ等の偏差に応じて無段変速機18が変速制御され、すなわち駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の供給、排出によって変速制御圧Pinが制御され、変速比γが連続的に変化させられる。図5の変速マップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル開度Accが大きい程大きな変速比γになる目標入力軸回転速度NIN* が設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUT に対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標入力軸回転速度NIN* は目標変速比に対応し、無段変速機18の最小変速比γmin と最大変速比γmax の範囲内で定められている。
【0035】
挟圧力コントロールバルブ120は、例えば軸方向へ移動可能に設けられることにより出力ポート120tを開閉するスプール弁子120aと、そのスプール弁子120aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング120bと、そのスプリング120bを収容し、スプール弁子120aに開弁方向の推力を付与する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLSの出力油圧である制御油圧PSLS を受け入れる油室120cと、スプール弁子120aに閉弁方向の推力を付与する為に出力したベルト挟圧Pd を受け入れるフィードバック油室120dとを備えている。そして、挟圧力コントロールバルブ120は、リニアソレノイド弁SLSからの制御油圧PSLS をパイロット圧として第1ライン油圧PL1を連続的に調圧制御してベルト挟圧Pd を出力するようになっている。例えば、図6に示すような伝達トルクに対応する無段変速機18の入力トルクTINをパラメータとしてベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された変速比γと必要油圧(目標ベルト挟圧に相当)Pd * との関係(ベルト挟圧マップ)に従って従動側油圧シリンダ46cへのベルト挟圧Pd が調圧され、このベルト挟圧Pd に応じてベルト挟圧力すなわち両可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力が増減させられる。また、この挟圧力コントロールバルブ120の出力油圧である従動側油圧シリンダ46c内のベルト挟圧Pd は、油圧センサ120sにより検出されるようになっている。
【0036】
また、無段変速機18の入力トルクTINは、例えばエンジントルクTE にトルクコンバータ14のトルク比tを乗じたトルク(=TE ×t)として電子制御装置50により算出される。このエンジントルクTE は、例えばスロットル弁開度θTH(或いはそれに相当する吸入空気量QAIR 等)をパラメータとしてエンジン回転速度NE とエンジントルクTE との予め実験的に求められて記憶された図7に示すような関係(マップ、エンジントルク特性図)からスロットル弁開度θTH及びエンジン回転速度NE に基づいて推定エンジントルクTE esとして電子制御装置50により算出される。或いは、エンジントルクTE は、例えばトルクセンサなどにより検出されるエンジン12の実出力トルク(実エンジントルク)TE などが用いられても良い。また、上記トルク比tは、トルクコンバータ14の速度比e(=タービン回転速度NT /ポンプ回転速度NP (エンジン回転速度NE ))の関数であり、例えば速度比eとトルク比tとの予め実験的に求められて記憶された不図示の関係(マップ)から実際の速度比eに基づいて電子制御装置50により算出される。尚、推定エンジントルクTE esは、実エンジントルクTE そのものを表すように算出されるものであり、特に実エンジントルクTE と区別する場合を除き、推定エンジントルクTE esを実エンジントルクTE としての取り扱うものとする。従って、推定エンジントルクTE esには実エンジントルクTE も含むものとする。
【0037】
マニュアルバルブ122において、入力ポート122aには例えばモジュレータバルブ114により一定油圧に調圧されたモジュレータ油圧PM が供給される。そして、シフトレバー76が「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、モジュレータ油圧PM が前進走行用出力圧として前進用出力ポート122fを経て前進用クラッチC1に供給され且つ後進用ブレーキB1内の作動油が後進用出力ポート122rから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ122の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。
【0038】
また、シフトレバー76が「R」ポジションに操作されると、モジュレータ油圧PM が後進走行用出力圧として後進用出力ポート122rを経て後進用ブレーキB1に供給され且つ前進用クラッチC1内の作動油が前進用出力ポート122fから排出ポートEXを経て例えば大気圧にドレーン(排出)されるようにマニュアルバルブ122の油路が切り換えられ、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。
【0039】
また、シフトレバー76が「P」ポジション或いは「N」ポジションに操作されると、入力ポート122aから前進用出力ポート122fへの油路及び入力ポート122aから後進用出力ポート122rへの油路がいずれも遮断され且つ前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1内の作動油が何れもマニュアルバルブ122からドレーンされるようにマニュアルバルブ122の油路が切り換えられ、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放させられる。
【0040】
図4において、油圧制御回路100は、ロックアップクラッチ26の解放状態と係合或いはスリップ状態とを切り換える為のロックアップリレーバルブ124と、ロックアップリレーバルブ124が係合側位置にあるときに制御油圧PSLU に従ってロックアップクラッチ26のスリップ量NSLP を制御したりロックアップクラッチ26を係合させる為のロックアップコントロールバルブ126等を備えている。
【0041】
ロックアップリレーバルブ124は、互いに当接可能で且つ両者間にスプリング128が介在させられた第1スプール弁子130及び第2スプール弁子132と、その第1スプール弁子130の軸端側に設けられ、第1スプール弁子130及び第2スプール弁子132を係合(ON)側の位置へ付勢する為に電子制御装置50によってデューティ制御されるリニアソレノイド弁SLUの出力油圧である制御油圧PSLU を受け入れる油室134と、第1スプール弁子130及び第2スプール弁子132を解放(OFF)側位置へ付勢する為に第1ライン油圧PL1を受け入れる油室136とを備えている。第1スプール弁子130がその解放側位置に位置すると、入力ポート138に供給された第2ライン油圧PL2が解放側ポート140からトルクコンバータ14の解放側油室14off へ供給されると同時に、トルクコンバータ14の係合側油室14on内の作動油が係合側ポート142から排出ポート144を経てクーラバイパス弁146或いはオイルクーラ148へ排出させられて、ロックアップクラッチ26の係合圧すなわち差圧ΔP(=PON−POFF )が低められる。反対に、第1スプール弁子130がその係合側位置に位置すると、入力ポート138に供給された第2ライン油圧PL2が係合側ポート142からトルクコンバータ14の係合側油室14onへ供給されると同時に、トルクコンバータ14の解放側油室14off 内の作動油が解放側ポート140から排出ポート150、ロックアップコントロールバルブ126の制御ポート152、排出ポート154を経て排出されて、ロックアップクラッチ26の係合圧が高められる。
【0042】
つまり、上記制御油圧PSLU が例えば所定値β以下の場合には、第1スプール弁子130はスプリング128及び第2ライン油圧PL2に基づく推力に従って図4の中心線より左側に示す解放側(OFF)位置に位置させられてロックアップクラッチ26が解放される。一方、制御油圧PSLU が例えば上記所定値βよりも高い所定値αを超えると、第1スプール弁子130は制御油圧PSLU に基づく推力に従って図4の中心線より右側に示す係合側(ON)位置に位置させられてロックアップクラッチ26が係合或いはスリップ状態とされる。第1スプール弁子130及び第2スプール弁子132の受圧面積、スプリング128の付勢力はこのように設定されているのである。そして、ロックアップリレーバルブ124が係合側に切り換えられたときのロックアップクラッチ26の係合或いはスリップ状態は、制御油圧PSLU の大きさに従って作動するロックアップコントロールバルブ126により制御される。
【0043】
ロックアップコントロールバルブ126は、スプール弁子156と、このスプール弁子156に当接して図4の中心線より左側に示す排出側位置へ向かう推力を付与するプランジャ158と、スプール弁子156に図4の中心線より右側に示す供給側位置へ向かう推力を付与するスプリング160と、スプリング160を収容し且つスプール弁子156を供給側位置へ向かって付勢する為にトルクコンバータ14の係合側油室14on内の油圧PONを受け入れる油室162と、スプール弁子156の軸端側に設けられ、スプール弁子156を排出側位置へ向かって付勢する為にトルクコンバータ14の解放側油室14off 内の油圧POFF を受け入れる油室164と、プランジャ158の軸端側に設けられ、制御油圧PSLU を受け入れる油室166とを備えている。
【0044】
このため、上記スプール弁子156がその排出側位置に位置させられると、制御ポート152と排出ポート154との間が連通させられるので係合圧が高められてロックアップクラッチ26の係合トルクが増加させられるが、反対に供給側位置に位置させられると、第1ライン油圧PL1が供給されている供給ポート168と制御ポート152とが連通させられるので、第1ライン油圧PL1がトルクコンバータ14の解放側油室14off 内へ供給されて係合圧が低められてロックアップクラッチ26の係合トルクが減少させられる。
【0045】
ロックアップクラッチ26を解放させる場合には、制御油圧PSLU が前記所定値βよりも小さい値となるようにリニアソレノイド弁SLUが電子制御装置50により駆動される。反対に、ロックアップクラッチ26を係合させる場合には、制御油圧PSLU が最大値となるようにリニアソレノイド弁SLUが電子制御装置50により駆動され、ロックアップクラッチ26がスリップさせられる場合には、制御油圧PSLU が前記所定値βと最大値との間となるようにリニアソレノイド弁SLUが電子制御装置50により駆動される。すなわち、ロックアップコントロールバルブ126では、トルクコンバータ14の係合側油室14on内の油圧PONと解放側油室14off 内の油圧POFF とが制御油圧PSLU に従って変化させられるので、係合圧すなわちそれら油圧PON及び油圧POFF の差圧ΔPに対応するロックアップクラッチ26の係合トルクも制御油圧PSLU に従って変化させられてスリップ量NSLP が制御されるのである。
【0046】
ここで、本実施例では、電子制御装置50により、車両の発進時に、例えば燃費や動力性能を両立させる為のアクセル開度Accに応じて予め設定された目標エンジン回転速度NE * に制御するときにその目標エンジン回転速度NE * 以上にエンジン回転速度NE が吹け上がるのを可及的に抑制して燃料消費を抑制するとともに、ロックアップクラッチ26を係合させて燃料消費を抑制する為に、エンジンストール或いはその直前の振動を防止しつつ、発進時からロックアップクラッチ26を係合に向けて作動させるロックアップクラッチ制御を実行する。このようなロックアップクラッチ制御では、領域判定に従って、エンジンストール或いはその直前の振動が予想される場合には、ロックアップクラッチの係合開始が禁止される。
【0047】
図8は、電子制御装置50によるロックアップ制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図8において、エンジン出力制御部82は、要求出力を示すアクセル開度Accに応じたエンジン出力を得るために、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号SE 、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ38や燃料噴射装置78や点火装置80へ出力する。例えば、エンジン出力制御部82は、目標スロットル弁開度θTH* をアクセル開度Accに応じた目標エンジントルクTE * が得られる為のスロットル開度θTHとし、目標エンジントルクTE * が得られるようにスロットルアクチュエータ38により電子スロットル弁40を開閉制御する他、燃料噴射装置78により燃料噴射量を制御したり、点火装置80により点火時期を制御する。
【0048】
変速制御部84は、例えば図5に示すような変速マップから実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて入力軸回転速度NINの目標入力軸回転速度NIN* を設定する。そして、変速制御部84は、実入力軸回転速度NINがその目標入力軸回転速度NIN* と一致するように、例えば実入力軸回転速度NINと目標入力軸回転速度NIN* との回転偏差ΔNIN(=NIN* −NIN)に基づいて無段変速機18の変速を調節するフィードバック制御により実行する。つまり、変速制御部84は、回転偏差ΔNINが解消されるようにその回転偏差ΔNINに基づいて駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量を制御することにより両可変プーリ42、46のV溝幅を変化させる為の変速制御指令信号(油圧指令)ST を決定し、その変速制御指令信号ST を油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。油圧制御回路100は、変速制御部84からの変速制御指令信号ST に従って無段変速機18の変速が実行されるようにソレノイド弁DS1及びソレノイド弁DS2を作動させて駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給・排出により変速制御圧Pinを調圧する。
【0049】
ベルト挟圧力制御部86は、例えば図6に示すようなベルト挟圧マップから無段変速機18の入力トルクTIN(=エンジントルクTE ×トルク比t:TE は例えば推定エンジントルクTE es)及び実変速比γ(=NIN/NOUT )で示される車両状態に基づいて目標ベルト挟圧Pd * を設定する。そして、ベルト挟圧力制御部86は、その目標ベルト挟圧Pd * が得られるように従動側油圧シリンダ46cのベルト挟圧Pd を調圧する為の挟圧力制御指令信号SB を油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、ベルト挟圧力制御部86からの挟圧力制御指令信号SB に従ってベルト挟圧Pd が増減されるようにリニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pd を調圧する。このように、ベルト挟圧力制御部86は、無段変速機18の入力トルクTINに応じてリニアソレノイド弁SLSを作動させてベルト挟圧Pd を制御することにより、ベルト滑りが発生しない範囲で燃費向上の為出来るだけ低い値になるようにベルト挟圧力を制御する。
【0050】
ロックアップクラッチ制御部88は、発進加速走行時には、エンジンストールやそれに先立つ振動の発生を回避しつつ可及的にロックアップクラッチ26を係合( スリップ含む)させてトルクコンバータ14の回転損失を低下させるために、実際の車両状態に基づいてロックアップクラッチ26の係合状態を制御する。ロックアップクラッチ制御部88は、このロックアップクラッチ26を当初はスリップさせつつ係合させる為のロックアップ制御指令信号SL を油圧制御回路100へ出力する。また、ロックアップクラッチ制御部88は、また、減速走行時或いは惰行後送時には、エンジン回転速度NE がエンジン12のフューエルカット回転速度以上となる区間を可及的に長くするためにロックアップクラッチ26をスリップ係合させ、フューエルカットによる燃費向上を図る。ロックアップクラッチ制御部88は、このロックアップクラッチ26をスリップ係合させる為に、ロックアップクラッチ26の実際のスリップ量NSLP を逐次算出し、その実際のスリップ量NSLP が目標スリップ量NSLP * となるように差圧ΔPを制御する為のロックアップ制御指令信号SL を油圧制御回路100へ出力する。
【0051】
係合領域判定部90は、たとえば図9に示す予め記憶された関係から、実際の車速V或いは出力軸回転速度NOUT と入力軸回転速度NINとに基づいてロックアップクラッチ26の係合領域であるか否かを領域判定する。図9では、出力軸回転速度NOUT を示す横軸と入力軸回転速度NINを示す縦軸との二次元座標において、無段変速機18の最大変速比γmax を示す1点鎖線と無段変速機18の最小変速比γmin を示す1点鎖線との間の変速可能領域内に、最大変速比γmax より若干小さい値に設定された変速比判定値γαが1点鎖線で示されているとともに、入力回転速度判定値NINβが横軸に平行な破線で示されており、それら変速比判定値γαを示す1点鎖線と最小変速比γmin を示す1点鎖線と入力回転速度判定値NINβを示す破線とで囲まれた領域に、斜線で示すロックアップクラッチ係合禁止領域が設定されている。
【0052】
上記変速比判定値γαは、アクセルペダル68の踏込み操作によってエンジン出力トルクが比較的大きい車両の発進時においてエンジンストール或いはその直前の振動の発生が生じない領域のうちの下限値となるように予め実験的に定められた値であって、たとえば最大変速比γmax の70%乃至85%の値である。また、上記入力回転速度判定値NINβは、アクセルペダル68の踏込みの戻し操作によってエンジン出力トルクが比較的小さくされた車両の減速操作時においてエンジンストール或いはその直前の振動の発生が生じない領域のうちの下限値となるように予め実験的に設定された値である。
【0053】
上記ロックアップクラッチ制御部88は、車両の発進時においてロックアップクラッチ制御を実行する発進時ロックアップクラッチ制御部として機能している。ロックアップクラッチ制御部88は、係合領域判定部90によりロックアップクラッチ26の係合領域であると判定された場合は、車両発進に際して、ロックアップクラッチ26の係合を開始させる為のロックアップ制御指令信号SL を油圧制御回路100へ出力するが、ロックアップクラッチ26の係合禁止領域であると判定した場合は、ロックアップ制御指令信号SL を出力せずロックアップクラッチ26の係合を禁止する。これにより、ロックアップクラッチ制御部88は、車両の零発進時においても、無段変速機18の変速比γが変速比判定値γα以上となる場合には入力回転速度判定値NINに関わらすロックアップクラッチ26の係合を開始させる。また、無段変速機18の変速比γが変速比判定値γαより小さくても、入力回転速度判定値NINが入力回転速度判定値NINβ以上となると、ロックアップクラッチ26の係合を開始させる。ロックアップクラッチ制御部88は、一旦、ロックアップクラッチ26の係合が開始させられた後は、入力回転速度判定値NINが入力回転速度判定値NINβを下回ると、変速比γに拘わらずロックアップクラッチ26の係合を禁止する。
【0054】
上記ロックアップクラッチ制御部88は、車両の発進時におけるロックアップクラッチ26の係合開始時には、その完全係合に先立ってたとえばアクセルオンに応じて予め設定された目標エンジン回転速度NE * 以上にエンジン回転速度NE が吹け上がるのを抑制すると共にその目標エンジン回転速度NE * にエンジン回転速度NE が維持されるように、ロックアップクラッチ26をスリップ係合させつつその係合に向けて制御する。つまり、ロックアップクラッチ制御部88は、実際のエンジン回転速度NE を目標エンジン回転速度NE * に維持するように、目標エンジン回転速度NE * と車速Vと共に変化する入力軸回転速度NIN(=タービン回転速度NT )との間の回転差であるスリップ量NSLP を制御しつつ、ロックアップクラッチ26を係合させ、エンジン回転速度NE の吹け上がりを抑制する。上記の発進時ロックアップクラッチ制御は、アクセルオンの車両発進に際して、アクセルオンに伴ってエンジン回転速度NE が目標エンジン回転速度NE * 以上に一時的に上昇してしまうことを抑制するように、ロックアップクラッチ26をスリップ係合させながら係合に向けて制御することである。ロックアップクラッチ制御部88は、上記発進フレックス制御に続いて加速フレックス制御を実行し、車速V或いはエンジン回転速度NE が所定値まで上昇するとロックアップクラッチ26を完全係合させる。
【0055】
目標回転速度設定部92は、車両の発進時に、例えば燃費や動力性能を両立させる為に、アクセル開度Accが増加するに伴って目標エンジン回転速度NE * が増加するようにたとえば図7に示す予め記憶された関係から実際のアクセル開度Acc或いはスロットル弁開度θTHに基づいて上記目標エンジン回転速度NE * を設定する。この目標エンジン回転速度NE * は、実際のアクセル開度Accに示される運転者の要求出力を得るためのエンジン12の出力トルクTE を発生させるエンジン回転速度NE である。
【0056】
図10は、電子制御装置50のロックアップ制御作動の要部すなわちロックアップクラッチ26の係合領域を判定するための領域判定制御ルーチンの制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec 乃至数十msec 程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0057】
図10において、先ず、ステップS1( 以下、ステップを省略する) において、無段変速機18の実際の変速比γが予め設定された変速比判定値γα以上であるか否かが判断される。このS1の判断が否定された場合は、S2において、無段変速機18の実際の入力軸回転速度NINが予め設定された入力軸回転速度判定値NINβ以上であるか否かが判断される。このS2の判断が否定された場合は、図9の斜線に示す禁止領域内にあるので、S3においてロックアップクラッチ26の係合が禁止される。
【0058】
無段変速機18の実際の変速比γが予め設定された変速比判定値γα以上である場合は上記S1またはS2の判断が肯定されるので、S4において、実際の入力軸回転速度NINが予め設定された入力軸回転速度判定値NINβ以上であるか否かが判断される。このS4の判断が否定された場合は、S5において、実際の入力軸回転速度NINが一旦予め設定された入力軸回転速度判定値NINβ以上となったことを示すフラグFの内容が「1」であるか否かが判断される。車両の発進当初はフラグFの内容が車両の発進当初の「0」であるままであるのでそのS5の判断が否定され、S6において、ロックアップクラッチ26の係合が許可される。このような制御サイクルが繰り返し実行されるうち、実際の入力軸回転速度NINが予め設定された入力軸回転速度判定値NINβ以上となるとS4の判断が肯定されるので、S7においてフラグFの内容が「1」にセットされる。このため、次の制御サイクルでは、S5の判断が肯定されるので、S3においてロックアップクラッチ26の係合が禁止される。すなわち、一旦、実際の入力軸回転速度NINが予め設定された入力軸回転速度判定値NINβ以上となってロックアップクラッチ26の係合が許可された後では、変速比γが変速比判定値γα以上であっても、ロックアップクラッチ26の係合が禁止される。
【0059】
上述のように、本実施例の電子制御装置50によれば、車両の発進時には、無段変速機18の実際の変速比γが予め定められた変速比判定値γα以上であるときには車速Vに拘わらずロックアップクラッチ26の係合が許容されるが、実際の変速比γがその予め定められた変速比判定値γαよりも小さいときにはそのロックアップクラッチ26の係合が禁止されることから、車両の発進時において、可及的に低い車速からロックアップクラッチ26の係合を開始することができ、しかもエンジンストール或いはその直前の振動の発生を回避することができる。特に、変速比γが最大値γmax に到達しないで車両が停止した急制動後に、変速比γが最大値γmax に到達しないままでの再発進時においても、ロックアップクラッチ26の係合を開始することができる。
【0060】
また、本実施例の電子制御装置50によれば、ロックアップクラッチ26が係合された車両の発進時において、無段変速機18の入力軸回転速度NINが予め設定された入力回転速度判定値NINβを一旦超えた場合は、ロックアップクラッチ26の係合が禁止されてそれが解放させられる。車両発進時において入力軸回転速度NINが予め設定された入力回転速度判定値NINβを超える場合は、比較的アクセル操作量が大きく発進操作開始からエンジン出力トルクTE が大きい状態が持続しているが、入力軸回転速度NINが予め設定された入力回転速度判定値NINβを一旦上回ってから下回る場合は、比較的アクセル操作量が戻されてエンジン出力トルクTE が減少した状態となっていてロックアップクラッチ26が完全係合となり易く、エンジンストールが容易な状態であることから、上記のようにすることにより、好適にエンジンストールが回避される。
【0061】
また、本実施例の電子制御装置50によれば、変速比判定値γαは無段変速機16の最大変速比γmax の70%乃至85%の値であって、車両発進直後におけるロックアップクラッチ26の係合が許容されるのは変速比γの最大値γmax 近傍の変速比γが相対的に大きい領域とされているので、車両の発進時において、好適に、可及的に低い車速からロックアップクラッチの係合を開始することができしかもエンジンストール或いはその直前の振動の発生を回避することができる。
【0062】
また、本実施例の電子制御装置50によれば、アクセルオンに応じて予め設定された目標エンジン回転速度NE * 以上にエンジン回転速度NE が吹け上がるのを抑制するように、ロックアップクラッチ26をスリップ係合させながら係合に向けて制御する発進時ロックアップクラッチ制御を実行するので、ロックアップクラッチ26の係合開始に伴う係合ショックを緩和できるとともに、車両発進の際にエンジン回転速度NE が吹け上がるのを適切に抑制することができ、燃費が向上される。
【0063】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0064】
例えば、前述の実施例の電子制御装置50では、車両の車速零からの発進時でのロックアップクラッチ26の係合制御について説明されていたが、ある程度の車速が出た後の発進であっても差し支えない。
【0065】
また、前述の実施例の電子制御装置50では、車両の発進直後において、アクセルオンに応じて予め設定された目標エンジン回転速度NE * 以上にエンジン回転速度NE が吹け上がるのを抑制するように、ロックアップクラッチ26をスリップ係合させながらその係合に向けて制御する発進時ロックアップクラッチ制御を実行するものであったが、必ずしもその発進時ロックアップクラッチ制御が実行されなくてもよい。
【0066】
また、前述の実施例の無段変速機18は、入出力軸にそれぞれ連結され有効径が可変の一対の可変プーリ42、46に伝動ベルト48が捲き掛けられて構成されたベルト式無段変速機であったが、入出力軸にそれぞれ連結された一対のコーンの間にローラが挟持されたトラクション式無段変速機であってもよい。
【0067】
また、前述の実施例では、流体伝動装置としてロックアップクラッチ26を備えているトルクコンバータ14が用いられていたが、ロックアップクラッチ26を備えるがトルク増幅作用のないフルードカップリングが用いられてもよい。
【0068】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0069】
12:エンジン
14:トルクコンバータ(流体伝動装置)
18:無段変速機(車両用無段変速機)
26:ロックアップクラッチ
50:電子制御装置(ロックアップ制御装置)
γα:変速比判定値
INβ:入力回転速度判定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速比を連続的に変化させることが可能な無段変速機と、エンジンの動力を該無段変速機へ伝達する流体伝動装置の入出力間を直結可能なロックアップクラッチとを備える車両用無段変速機のロックアップ制御装置であって、
車両の発進時に、前記無段変速機の実際の変速比が予め定められた変速比判定値以上であるときには車速に拘わらず前記ロックアップクラッチの係合を許容するが、実際の変速比が該予め定められた変速よりも小さいときには該ロックアップクラッチの係合を禁止することを特徴とする車両用無段変速機のロックアップ制御装置。
【請求項2】
前記ロックアップクラッチが係合された車両の発進時において、前記無段変速機の入力軸回転速度が予め設定された入力回転速度判定値を一旦超えた場合は、前記ロックアップクラッチを解放させることを特徴とする請求項1の車両用無段変速機のロックアップ制御装置。
【請求項3】
前記変速比判定値は、前記無段変速機の最大変速比の70%乃至85%の値である請求項1または2の車両用無段変速機のロックアップ制御装置。
【請求項4】
前記車両の発進時において、発進加速操作に応じて予め設定された目標エンジン回転速度以上にエンジン回転速度が吹け上がるのを抑制するように、前記ロックアップクラッチをスリップ係合させながらその係合に向けて制御する発進時ロックアップクラッチ制御を実行するものである請求項1乃至3のいずれか1の車両用無段変速機のロックアップ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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