説明

車両用照明灯具

【課題】発光素子を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具において、ロービーム用配光パターンにおけるカットオフラインの上方近傍に、色収差による分光色が現れてしまうのを効果的に抑制する。
【解決手段】投影レンズ12が配置された光軸Axの上方において該光軸Axと平行に延びる第2光軸Ax2上に、第2投影レンズ22を配置する。また、リフレクタ16の反射面16aにおける前部領域16a1´を切り欠いて、このリフレクタ16の上方に、その反射面16aにおける前部領域16a1´に入射すべき発光素子14からの光を第2投影レンズ22へ向けて反射させる第2リフレクタ26を配置する。さらに、この第2リフレクタ26からの反射光の一部を遮蔽するための第2シェード28を、その上端縁28aが第2投影レンズ22の後側焦点を通るようにして配置する。これにより、色収差による分光現象の発生を抑制した上で、遠方視認性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、いわゆるプロジェクタ型の車両用照明灯具に関するものであり、特に、発光素子を光源とする車両用照明灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用照明灯具においても、光源として発光ダイオード等の発光素子が採用されるようになってきている。
【0003】
例えば「特許文献1」には、発光素子を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具が記載されている。
【0004】
この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具は、車両前後方向に延びる光軸上に配置された投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側において上向きに配置された発光素子と、この発光素子を上方側から覆うように配置され、該発光素子からの光を投影レンズへ向けて反射させるリフレクタとを備えた構成となっている。また、この車両用照明灯具においては、そのリフレクタからの反射光の一部を遮蔽するためのシェードが、該シェードの上端縁が投影レンズの後側焦点近傍を通るようにして配置された構成となっている。
【0005】
そして、この「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、そのリフレクタからの反射光によって投影レンズの後側焦点面に形成される光源像の反転投影像としてロービーム用配光パターンを形成し、その際、シェードの上端縁の反転投影像としてカットオフラインを形成するようになっている。
【0006】
なお「特許文献2」には、シェードを備えたプロジェクタ型の車両用照明灯具ではないが、1つの発光素子に対してリフレクタおよびレンズが複数組配置された車両用照明灯具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−317513号公報
【特許文献2】特開2002−184212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記「特許文献1」に記載された車両用照明灯具においては、ロービーム用配光パターンのカットオフラインが、シェードの上端縁の反転投影像として形成されるので、これを鮮明なカットオフラインとして形成することができる。
【0009】
しかしながら、ロービーム用配光パターンを形成するための車両用照明灯具において、その光源として用いられる発光素子は複数のピーク波長を有している。このため、リフレクタで反射した発光素子からの光が投影レンズを透過する際、色収差による分光現象が不可避的に生じてしまう。そしてこれにより、カットオフラインの上方近傍に分光色が現れてしまうので、対向車ドライバに無用な違和感を与えてしまうおそれがある、という問題がある。
【0010】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、発光素子を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具において、ロービーム用配光パターンにおけるカットオフラインの上方近傍に、色収差による分光色が現れてしまうのを効果的に抑制することができる車両用照明灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、通常のプロジェクタ型の車両用照明灯具に対して、その構成を一部変更した上で、第2投影レンズ、第2リフレクタおよび第2シェードが追加配置された構成とすることにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0012】
すなわち、本願発明に係る車両用照明灯具は、
車両前後方向に延びる光軸上に配置された投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側において上向きに配置された発光素子と、この発光素子を上方側から覆うように配置され、該発光素子からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、このリフレクタからの反射光の一部を遮蔽するために、上端縁が上記投影レンズの後側焦点近傍を通るようにして配置されたシェードと、を備えてなる車両用照明灯具において、
上記光軸の上方において該光軸と略平行に延びる第2光軸上に、第2投影レンズが配置されており、
上記リフレクタの反射面における前部領域が切り欠かれており、
このリフレクタの上方に、該リフレクタの反射面における前部領域に入射すべき上記発光素子からの光を上記投影レンズへ向けて反射させる第2リフレクタが配置されており、
この第2リフレクタからの反射光の一部を遮蔽するための第2シェードが、該第2シェードの上端縁が上記第2投影レンズの後側焦点近傍を通るようにして配置されている、ことを特徴とするものである。
【0013】
上記「発光素子」とは、略点状に面発光する発光チップを有する素子状の光源を意味するものであって、その種類は特に限定されるものではない。また、この「発光素子」は、投影レンズの後側焦点よりも後方側において上向きに配置されていれば、その具体的な位置は特に限定されるものではなく、また、必ずしも鉛直上向きに配置されていなくてもよい。
【0014】
上記「第2投影レンズ」は、少なくとも鉛直面内において第2光軸上に焦点を結ぶように形成されたレンズであれば、その水平面に沿った断面形状は特に限定されるものではない。
【0015】
上記「該リフレクタの反射面における前部領域に入射すべき上記発光素子からの光」とは、仮に、リフレクタの反射面における前部領域が切り欠かれていなかったとしたときに、この前部領域に入射したであろう発光素子からの光を意味するものである。
【発明の効果】
【0016】
上記構成に示すように、本願発明に係る車両用照明灯具は、発光素子を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具として構成されているが、その光軸の上方において該光軸と略平行に延びる第2光軸上に第2投影レンズが配置されており、また、リフレクタの反射面における前部領域が切り欠かれており、そして、このリフレクタの上方に、その反射面における前部領域に入射すべき発光素子からの光を第2投影レンズへ向けて反射させる第2リフレクタが配置されており、さらに、この第2リフレクタからの反射光の一部を遮蔽するための第2シェードが、その上端縁が第2投影レンズの後側焦点近傍を通るようにして配置されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0017】
すなわち、本願発明に係る車両用照明灯具において、仮に、そのリフレクタの反射面の前部領域が切り欠かれていなかったとすると、この前部領域で反射した発光素子からの光は、投影レンズに対してその下端縁近傍領域に入射することとなるが、この下端縁近傍領域に入射した光は、投影レンズを透過する際に色収差による分光現象を生じてしまう。このため、この投影レンズからの出射光により形成されるロービーム用配光パターンにおいては、そのカットオフラインの上方近傍に分光色が現れてしまい、これにより対向車ドライバに無用な違和感を与えてしまうこととなる。
【0018】
この点、本願発明に係る車両用照明灯具においては、そのリフレクタの反射面における前部領域が切り欠かれているので、色収差の発生原因となる、投影レンズの下端縁近傍領域に入射する光を除去することができる。したがって、リフレクタ、シェードおよび投影レンズからなる基本的な光学系により形成される基本配光パターンにおいては、そのカットオフラインの上方近傍に分光色がほとんど現れないようにすることができる。
【0019】
その上で、本願発明に係る車両用照明灯具においては、リフレクタの反射面における前部領域に入射すべき発光素子からの光を、光軸の上方に配置された第2リフレクタ、第2シェードおよび第2投影レンズからなる光学系(以下「第2光学系」という)により制御する構成となっているので、これにより上端縁にカットオフラインを有する付加配光パターンを形成することができる。したがって、リフレクタの反射面における前部領域が切り欠かれたことにより、基本配光パターンは元々のロービーム用配光パターンよりも明るさが低下することとなるが、これに付加配光パターンが付加されることにより、元々のロービーム用配光パターンと略同様の明るさを確保することができる。
【0020】
しかも、このリフレクタの反射面における前部領域が切り欠かれたことによって基本配光パターンの明るさが低下するのは、元々のロービーム用配光パターンにおける下端領域(すなわち車両前方路面の近距離領域を照射する部分)である。したがって、このような基本配光パターンを形成することにより、車両前方路面の近距離領域が明るくなり過ぎてその遠距離領域の視認性が相対的に低下してしまうのを未然に防止することができる。一方、付加される付加配光パターンは、その上端縁にカットオフラインを有しており、車両前方路面の遠方領域を幅広く照射するのに適した配光パターンとして形成されるので、この付加配光パターンを基本配光パターンに付加してロービーム用配光パターンを形成することにより、遠方視認性を高めることができる。
【0021】
その際、ロービーム用配光パターンの主要部は、基本配光パターンにより形成されているので、付加配光パターンについては、その形状自由度を高めることができる。したがって、この付加配光パターンを形成するための第2光学系においては、その第2リフレクタで反射した発光素子からの光を、第2投影レンズの周縁領域には入射させない構成とすることが容易に可能となり、これにより分光現象の発生を効果的に抑制することができる。このため、付加配光パターンにおけるカットオフラインの上方近傍に分光色が現れてしまうのを効果的に抑制することができる。
【0022】
このように本願発明によれば、発光素子を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具において、ロービーム用配光パターンにおけるカットオフラインの上方近傍に、色収差による分光色が現れてしまうのを効果的に抑制することができる。そしてこれにより、対向車ドライバに無用な違和感を与えてしまうおそれを効果的に低減することができる。しかも、このような作用効果を、光源光束の有効利用を図った上で得ることができる。
【0023】
上記構成において、シェードを、その上端縁から後方へ延びる上向き鏡面を有するミラー部材として構成されたものとすれば、このシェードで遮蔽されるべきリフレクタからの反射光を、ミラー部材の上向き鏡面で上向きに反射させて投影レンズに入射させることができる。同様に、第2シェードについても、その上端縁から後方へ延びる上向き鏡面を有する第2ミラー部材として構成されたものとすれば、この第2シェードで遮蔽されるべき第2リフレクタからの反射光を、第2ミラー部材の上向き鏡面で上向きに反射させて第2投影レンズに入射させることができる。そしてこれにより、光源光束のさらなる有効利用を図ることができる。また、基本配光パターンおよび付加配光パターンの各々におけるカットオフラインの下方近傍領域の明るさを増大させることができるので、これにより遠方視認性をさらに向上させることができる。
【0024】
上記構成において、第2投影レンズの焦点距離が、投影レンズの焦点距離よりも小さい値に設定されたものとすれば、付加配光パターンを大きめの配光パターンとして形成することが容易に可能となる。そして、この付加配光パターンを基本配光パターンに付加することにより、ロービーム用配光パターンを全体として配光ムラの少ない配光パターンとして形成することができる。
【0025】
また、このように第2投影レンズの焦点距離が投影レンズの焦点距離よりも小さい値に設定されたものとした場合には、第2投影レンズを小型化することが容易に可能となり、かつ、投影レンズに対して後方側へ変位した位置に配置することも容易に可能となる。したがって、投影レンズの前方側に、透光カバーが後方へ向けて大きく傾斜した状態で配置されるような灯具構成となっている場合においても、投影レンズや第2投影レンズを透光カバーと干渉させないようにすることが容易に可能となる。
【0026】
上記構成において、投影レンズを、灯具正面視において円形の外形形状を有する非球面レンズの上下両端部が切除されたレンズとして構成されたものとすれば、車両用照明灯具として、その光軸よりも下方側に位置する部分の上下方向の占有スペースを小さくすることができ、これによりレイアウトの自由度を高めることができる。なお、このような構成を採用した場合においても、リフレクタは、その反射面における前部領域が切り欠かれており、投影レンズの上下両端部にはリフレクタからの反射光が入射しないので、灯具配光性能に影響が及んでしまうことはない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具を示す正面図
【図2】図1のII−II線断面図
【図3】図2のIII 方向矢視図
【図4】上記車両用照明灯具から前方へ照射される光により灯具前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンを示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0029】
図1は、本願発明の一実施形態に係る車両用照明灯具10を示す正面図である。また、図2は、図1のII−II線断面図であり、図3は、図2のIII
方向矢視図である。
【0030】
これらの図に示すように、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、ロービーム用配光パターンを形成するための光照射を行うプロジェクタ型の灯具ユニットとして構成されており、ヘッドランプの一部として図示しないランプボディ等に傾動可能に支持された状態で用いられるようになっている。
【0031】
この車両用照明灯具10は、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置された投影レンズ12と、この投影レンズ12の後側焦点Fよりも後方側に配置された発光素子14と、この発光素子14からの光を投影レンズ12へ向けて反射させるリフレクタ16と、このリフレクタ16からの反射光の一部を遮蔽するシェード18と、これらを支持するホルダ20と、第2投影レンズ22、第2リフレクタ26および第2シェード28と、を備えた構成となっている。
【0032】
そして、この車両用照明灯具10は、ヘッドランプの一部として組み込まれた状態では、その光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びた状態で配置されるようになっている。
【0033】
その際、この車両用照明灯具10が組み込まれるヘッドランプは、その透光カバー50が、車体前端部の上部表面の意匠ラインに沿って、後方側へ向けて上向きに大きく傾斜して延びるように形成されている。
【0034】
この車両用照明灯具10においては、投影レンズ12、リフレクタ16およびシェード18が、プロジェクタ型の灯具ユニットとしての基本的な光学系を構成しており、第2投影レンズ22、第2リフレクタ26および第2シェード28が、この基本的な光学系に付加される第2光学系を構成している。
【0035】
まず、基本的な光学系について説明する。
【0036】
投影レンズ12は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズで構成されている。その際、この投影レンズ12は、灯具正面視において円形の外形形状を有する平凸非球面レンズ12´(図2において2点鎖線で示すレンズ)の上下両端部が水平に切除された形状を有している。そして、この投影レンズ12は、その後側焦点面(すなわち投影レンズ12の後側焦点Fを含む焦点面)上に形成される光源像を、灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に反転投影像として形成するようになっている。この投影レンズ12は、その下端面および外周縁下半部においてホルダ20に固定されている。
【0037】
発光素子14は、白色発光ダイオードであって、横長矩形状の発光面を有する発光チップ14aが基板14bに支持されてなり、その発光チップ14aの発光面を光軸Ax上において鉛直上向きにした状態で、ホルダ20に固定されている。 なお、図3においては、この発光素子14における発光チップ14aの発光中心からの出射光の光路を示しており、図2においては、その発光チップ14aの前端縁および後端縁からの出射光の光路を示している。
【0038】
リフレクタ16は、発光チップ14aを上方側から略半ドーム状に覆うようにして配置されており、その下端縁においてホルダ20に固定されている。
【0039】
このリフレクタ16の反射面16aは、光軸Axと同軸の長軸を有するとともに発光チップ14aの発光中心を第1焦点とする略楕円面状の曲面で構成されており、その離心率が鉛直断面から水平断面へ向けて徐々に大きくなるように設定されている。そして、この反射面16aは、発光チップ14aからの光を、鉛直断面内においては投影レンズ12の後側焦点Fよりもやや前方側の位置において略収束させるとともに、水平断面内においてはその収束位置をさらに前方へ変位させるように構成されている。
【0040】
このリフレクタ16は、その反射面16aの前部領域16a1´(図2において2点鎖線で示す領域)が切り欠かれている。その際、この前部領域16a1´は、光軸Axから上方側に所定距離離れた位置の水平面よりも上方側に位置する領域として設定されている。
【0041】
シェード18は、その上端縁18aが後側焦点Fを通るように配置されている。その際、この上端縁18aは、光軸Ax上の位置から左右両側へ向けて前方側へ湾曲するように形成されている。そして、この上端縁18aは、光軸Axよりも左側に位置する左側領域が光軸Axを含む水平面内において延びており、また、光軸Axよりも右側に位置する右側領域が、短い斜面を介して左側領域よりも一段低い水平面内において延びている。
【0042】
このシェード18は、その上端縁18aから後方へ延びる上向き鏡面18bを有するミラー部材として構成されており、ホルダ20と一体的に形成されている。その際、この上向き鏡面18bは、左右段違いの上端縁18aの形状のまま、光軸Axと平行に延びるように形成されている。そしてこれにより、このシェード18は、リフレクタ16からの反射光の一部を、該シェード18によって遮蔽する代わりに、その上向き鏡面18bにおいて上向きに正反射させて投影レンズ12に入射させるようになっている。
【0043】
リフレクタ16の反射面16aは、その前部領域16a1´が切り欠かれているので、この反射面16aからの反射光が光軸Axとなす角度は、上下方向に関しては比較的小さいものとなる。このため、図2に示すように、この反射面16aからの反射光は、そのまま投影レンズ12に入射する光も、また、上向き鏡面18bで正反射してから投影レンズ12に入射する光も、光軸Axから上下方向にあまり離れていない位置において投影レンズ12に入射することとなる。
【0044】
なお、仮に、リフレクタ16の反射面16aにおける前部領域16a1´が切り欠かれていないとした場合には、図2に2点鎖線で光路を示すように、この前部領域16a1´からの反射光は、投影レンズ12の下端部またはその下方に外れた位置(すなわち図2において2点鎖線で示す平凸非球面レンズ12´の下端部)へ向かうこととなる。
【0045】
図3に示すように、リフレクタ16からの反射光は、水平方向に関しては、光軸Axから左右方向にあまり離れていない位置において投影レンズ12に入射するようになっている。
【0046】
次に、第2光学系について説明する。
【0047】
第2投影レンズ22は、光軸Axの上方において該光軸Axと平行に延びる第2光軸Ax2上に配置されている。
【0048】
この第2投影レンズ22は、前方側表面が凸状円筒面で後方側表面が平面のシリンドリカルレンズで構成されており、その後側焦線FLは光軸Axと直交するようにして水平方向に延びている。
【0049】
この第2投影レンズ22は、その鉛直面内における焦点距離が、投影レンズ12の焦点距離よりも小さい値(具体的には1/2以下の値(例えば1/3程度の値))に設定されている。また、この第2投影レンズ22は、その上下両端部が水平に切除された形状を有している。その際、この第2投影レンズ22の上下幅は、投影レンズ12の上下幅よりも小さい値(具体的には2/3以下の値(例えば1/2程度の値))に設定されている。
【0050】
そして、この第2投影レンズ22は、投影レンズ12に対して後方側に変位するようにして配置されており、投影レンズ12と一体的に形成されている。その際、この第2投影レンズ22は、その下端部から前方へ向けて庇状に延びる連結部22aを介して、投影レンズ12の上端部と連結されている。
【0051】
第2リフレクタ26は、リフレクタ16の上方に配置されており、該リフレクタ16の反射面16aにおける前部領域16a´に入射すべき発光素子14からの光(すなわち、仮に、リフレクタ16の反射面16aにおける前部領域16a´が切り欠かれていなかったとしたときに、この前部領域16a´に入射したであろう発光素子14からの光)を、第2投影レンズ22へ向けて反射させるように構成されている。
【0052】
この第2リフレクタ26の反射面26aは、発光チップ14aの発光中心を第1焦点とする略楕円面状の曲面で構成されており、発光チップ14aからの光を、鉛直断面内においては第2投影レンズ22の後方側表面近傍の第2光軸Ax2のやや下方位置に略収束させるとともに、水平断面内においてはその収束位置をやや前方へ変位させるように構成されている。その際、この第2リフレクタ26の反射面26aは、第2光軸Ax2を含む水平面よりも上方側に位置するようにして、リフレクタ16の反射面16aよりも大きい反射面として形成されている。
【0053】
この第2リフレクタ26は、リフレクタ16と一体的に形成されている。その際、この第2リフレクタ26は、その下端部から斜め下方へ略円錐状に延びる連結部26bを介して、リフレクタ16における反射面16aの前部領域16a´の周縁部と連結されている。
【0054】
第2シェード28は、その上端縁28aが 第2投影レンズ22の鉛直面内における後側焦点(すなわち後側焦線FLと光軸Axとの交点)を通るように配置されている。その際、この上端縁28aは、後側焦線FLに沿って直線状に延びるように形成されている。そして、この第2シェード28は、その左右両端部においてホルダ20に固定されている。
【0055】
この第2シェード28は、その上端縁28aから後方へ延びる上向き鏡面28bを有するミラー部材として構成されている。その際、この上向き鏡面28bは、第2光軸Ax2を含む水平面に沿って形成されている。そしてこれにより、この第2シェード28は、第2リフレクタ26からの反射光の一部を、該第2シェード28によって遮蔽する代わりに、その上向き鏡面28bにおいて上向きに正反射させて第2投影レンズ22に入射させるようになっている。
【0056】
上述したしように、第2リフレクタ26からの反射光は、鉛直断面内において、第2投影レンズ22の後方側表面近傍の第2光軸Ax2のやや下方位置に略収束するようになっているので、その大半は光軸Axから上下方向にあまり離れていない位置において直接第2投影レンズ22に入射し、その一部が第2シェード28の上向き鏡面28bで正反射してから光軸Axから上下方向にあまり離れていない位置において第2投影レンズ22に入射することとなる。
【0057】
また、第2リフレクタ26からの反射光は、水平方向に関しては、その反射光の左右拡がり角度で第2投影レンズ22に入射し、このときの入射角度と同じ角度で第2投影レンズ22から前方へ出射することとなる。
【0058】
図4は、本実施形態に係る車両用照明灯具10から前方へ照射される光により、車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成されるロービーム用配光パターンPLを透視的に示す図である。
【0059】
同図に示すように、このロービーム用配光パターンPLは、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端縁に左右段違いのカットオフラインCL1、CL2を有している。
【0060】
このロービーム用配光パターンPLは、基本配光パターンP0と付加配光パターンPAとの合成配光パターンとして形成されている。
【0061】
基本配光パターンP0は、基本的な光学系により形成される配光パターン、すなわち、リフレクタ16の反射面16aで反射した後、投影レンズ12を介して前方へ照射された発光チップ14aからの光によって形成される配光パターンである。
【0062】
この基本配光パターンP0は、ロービーム用配光パターンPLの基本形状をなす配光パターンであって、カットオフラインCL1、CL2は、この基本配光パターンP0において形成されるようになっている。
【0063】
このカットオフラインCL1、CL2は、灯具正面方向の消点であるH−Vを通る鉛直線であるV−V線を境にして左右段違いで水平方向に延びており、V−V線よりも右側が、対向車線側カットオフラインCL1として水平方向に延びるようにして形成されるとともに、V−V線よりも左側が、自車線側カットオフラインCL2として対向車線側カットオフラインCL1よりも段上がりで水平方向に延びるようにして形成されている。
【0064】
この基本配光パターンP0において、下段カットオフラインCL1とV−V線との交点であるエルボ点Eは、H−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置している。これは光軸Axが車両前後方向に対して0.5〜0.6°程度下向きの方向に延びていることによるものである。
【0065】
この基本配光パターンP0は、リフレクタ16からの反射光によって投影レンズ12の後側焦点面上に形成される光源像を、投影レンズ12により上記仮想鉛直スクリーン上に反転投影像として投影することにより形成され、そのカットオフラインCL1、CL2は、シェード18の上端縁18aの反転投影像として形成されるようになっている。
【0066】
なお、同図において2点鎖線で示す配光パターンPL´は、仮に、リフレクタ16の反射面16aにおける前部領域16a´が切り欠かれていなかったとしたときに、リフレクタ16の反射面16aで反射した後、投影レンズ12を介して前方へ照射された発光チップ14aからの光によって形成される元々のロービーム用配光パターンである。基本配光パターンP0は、この元々のロービーム用配光パターンPL´に対して、その下端領域が切除されたような形状を有しているが、この下端領域が前部領域16a´からの反射により形成される部分である。
【0067】
付加配光パターンPAは、第2光学系により形成される配光パターン、すなわち、第2リフレクタ26の反射面26aで反射した後、第2投影レンズ12を介して前方へ照射された発光チップ14aからの光によって形成される配光パターンである。
【0068】
この付加配光パターンPAは、カットオフラインCL1、CL2の下方において、基本配光パターンP0と部分的に重複するようにしてV−V線から左右両側に細長く延びる横長の配光パターンとして形成されている。その際、この付加配光パターンPAは、基本配光パターンP0よりも大きい左右拡散角を有しているおり、下方側にも基本配光パターンP0よりもやや大きく拡散している。そして、この付加配光パターンPAの上端縁には、対向車線側カットオフラインCL1と略同じ高さ位置において水平方向に延びる水平カットオフラインCL3が形成されている。
【0069】
この付加配光パターンPAが、横長の配光パターンとして形成されるのは、第2リフレクタ26からの反射光が、水平方向に関しては、その反射光の左右拡がり角度のまま、第2投影レンズ22から前方へ出射することによるものである。
【0070】
この付加配光パターンPAが基本配光パターンP0に重畳されることにより、ロービーム用配光パターンPLは、車両前方路面を広範囲にわたって照射する配光パターンとなっている。
【0071】
しかも、基本配光パターンP0は、元々のロービーム用配光パターンPL´の下端領域が切除された形状となっており、一方、付加配光パターンPAは、その上端縁に水平カットオフラインCL3を有しており、この水平カットオフラインCL3が基本配光パターンP0の対向車線側カットオフラインCL1と略同じ高さ位置に形成されているので、ロービーム用配光パターンPLは、車両前方路面の近距離領域を明るくしすぎることなく、その遠距離領域を幅広く照射する配光パターンとなっている。
【0072】
以上詳述したように、本実施形態に係る車両用照明灯具10は、発光素子14を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具として構成されているが、その光軸Axの上方において該光軸Axと略平行に延びる第2光軸Ax2上に第2投影レンズ22が配置されており、また、リフレクタ16の反射面16aにおける前部領域16a1´が切り欠かれており、そして、このリフレクタ16の上方に、その反射面16aにおける前部領域16a1´に入射すべき発光素子14からの光を第2投影レンズ22へ向けて反射させる第2リフレクタ26が配置されており、さらに、この第2リフレクタ26からの反射光の一部を遮蔽するための第2シェード28が、その上端縁28aが第2投影レンズ22の後側焦点近傍を通るようにして配置されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0073】
すなわち、本実施形態に係る車両用照明灯具10において、仮に、そのリフレクタ16の反射面16aに前部領域16a1´が切り欠かれていなかったとすると、この前部領域16a1´で反射した発光素子14からの光は、投影レンズ12に対してその下端縁近傍領域に入射することとなるが、この下端縁近傍領域に入射した光は、投影レンズ12を透過する際に色収差による分光現象を生じてしまう。このため、この投影レンズ12からの出射光により形成されるロービーム用配光パターンPLにおいては、そのカットオフラインCL1、CL2の上方近傍に分光色が現れてしまい、これにより対向車ドライバに無用な違和感を与えてしまうこととなる。
【0074】
この点、本実施形態に係る車両用照明灯具10においては、そのリフレクタ16の反射面16aにおける前部領域16a1´が切り欠かれているので、色収差の発生原因となる、投影レンズ12の下端縁近傍領域に入射する光を除去することができる。したがって、リフレクタ16、シェード18および投影レンズ12からなる基本的な光学系により形成される基本配光パターンP0においては、そのカットオフラインCL1、CL2の上方近傍に分光色がほとんど現れないようにすることができる。
【0075】
その上で、本実施形態に係る車両用照明灯具10においては、リフレクタ16の反射面16aにおける前部領域16a1´に入射すべき発光素子14からの光を、光軸Axの上方に配置された第2リフレクタ26、第2シェード28および第2投影レンズ22からなる第2光学系により制御する構成となっているので、これにより上端縁18aに水平カットオフラインCL3を有する付加配光パターンPAを形成することができる。したがって、リフレクタ16の反射面16aにおける前部領域16a1´が切り欠かれたことにより、基本配光パターンP0は元々のロービーム用配光パターンPL´よりも明るさが低下することとなるが、これに付加配光パターンPAが付加されることにより、元々のロービーム用配光パターンPL´と略同様の明るさを確保することができる。
【0076】
しかも、このリフレクタ16の反射面16aにおける前部領域16a1´が切り欠かれたことによって基本配光パターンP0の明るさが低下するのは、元々のロービーム用配光パターンPL´における下端領域(すなわち車両前方路面の近距離領域を照射する部分)である。したがって、このような基本配光パターンP0を形成することにより、車両前方路面の近距離領域が明るくなり過ぎてその遠距離領域の視認性が相対的に低下してしまうのを未然に防止することができる。一方、付加される付加配光パターンPAは、その上端縁18aに水平カットオフラインCL3を有しており、車両前方路面の遠方領域を幅広く照射するのに適した配光パターンとして形成されるので、この付加配光パターンPAを基本配光パターンP0に付加してロービーム用配光パターンPLを形成することにより、車両前方路面の近距離領域が明るくなり過ぎないようにした上で遠方視認性を高めることができる。
【0077】
その際、ロービーム用配光パターンPLの主要部は、基本配光パターンP0により形成されているので、付加配光パターンPAについては、その形状自由度を高めることができる。したがって、この付加配光パターンPAを形成するための第2光学系においては、その第2リフレクタ26で反射した発光素子14からの光を、第2投影レンズ22の周縁領域には入射させない構成とすることが容易に可能となり、これにより分光現象の発生を効果的に抑制することができる。このため、付加配光パターンPAにおける水平カットオフラインCL3の上方近傍に分光色が現れてしまうのを効果的に抑制することができる。
【0078】
このように本実施形態によれば、発光素子14を光源とするプロジェクタ型の車両用照明灯具において、ロービーム用配光パターンPLにおけるカットオフラインCL1、CL2の上方近傍に、色収差による分光色が現れてしまうのを効果的に抑制することができる。そしてこれにより、対向車ドライバに無用な違和感を与えてしまうおそれを効果的に低減することができる。しかも、このような作用効果を、光源光束の有効利用を図った上で得ることができる。
【0079】
しかも本実施形態においては、シェード18が、その上端縁18aから後方へ延びる上向き鏡面を有するミラー部材として構成されているので、このシェード18で遮蔽されるべきリフレクタ16からの反射光を、ミラー部材の上向き鏡面18bで上向きに反射させて投影レンズ12に入射させることができる。同様に、第2シェード28についても、その上端縁18aから後方へ延びる上向き鏡面28bを有する第2ミラー部材として構成されているので、この第2シェード28で遮蔽されるべき第2リフレクタ26からの反射光を、第2ミラー部材の上向き鏡面18bで上向きに反射させて第2投影レンズ22に入射させることができる。そしてこれにより、光源光束のさらなる有効利用を図ることができる。また、基本配光パターンP0におけるカットオフラインCL1、CL2の下方近傍領域および付加配光パターンPAにおけるカットオフラインCL3の下方近傍領域の明るさをそれぞれ増大させることができるので、これにより遠方視認性をさらに向上させることができる。
【0080】
そして本実施形態においては、第2投影レンズ22の焦点距離が、投影レンズ12の焦点距離よりも小さい値に設定されているので、付加配光パターンPAを大きめの配光パターンとして形成することが容易に可能となる。そして、この付加配光パターンPAを基本配光パターンP0に付加することにより、ロービーム用配光パターンPLを全体として配光ムラの少ない配光パターンとして形成することができる。
【0081】
また、このように第2投影レンズ22の焦点距離が投影レンズ12の焦点距離よりも小さい値に設定されたものとした場合には、第2投影レンズ22を小型化することが容易に可能となり、かつ、投影レンズ12に対して後方側へ変位した位置に配置することも容易に可能となる。したがって、本実施形態に係る車両用照明灯具10のように、投影レンズ12の前方側に、透光カバー50が後方へ向けて大きく傾斜した状態で配置されるような灯具構成となっている場合においても、投影レンズ12や第2投影レンズ22を透光カバー50と干渉させないようにすることが容易に可能となる。
【0082】
さらに本実施形態においては、投影レンズ12が、灯具正面視において円形の外形形状を有する非球面レンズの上下両端部が切除されたレンズとして構成されているので、車両用照明灯具10として、その光軸Axよりも下方側に位置する部分の上下方向の占有スペースを小さくすることができ、これによりレイアウトの自由度を高めることができる。なお、このような構成を採用した場合においても、リフレクタ16は、その反射面16aにおける前部領域16a1´が切り欠かれており、投影レンズ12の上下両端部にはリフレクタ16からの反射光が入射しないので、灯具配光性能に影響が及んでしまうことはない。
【0083】
上記実施形態においては、第2投影レンズ22が、シリンドリカルレンズで構成されているものとして説明したが、これ以外の構成(例えば、平凸非球面レンズや、左右両側へ向けて後方側に円弧状に湾曲するように形成されたトロイダルレンズや、平面視において前方側表面が自由曲線に沿って延びるように形成されたレンズ等)を採用することも可能である。
【0084】
上記実施形態においては、車両用照明灯具10が、ロービーム用配光パターンPLとして、左配光のロービーム用配光パターンを形成するように構成されているが、右配光のロービーム用配光パターンを形成するように構成されている場合においても、上記実施形態と同様の構成を採用することにより同様の作用効果を得ることができる。
【0085】
なお、上記実施形態において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0086】
10 車両用照明灯具
12 投影レンズ
12´ 平凸非球面レンズ
14 発光素子
14a 発光チップ
14b 基板
16 リフレクタ
16a、26a 反射面
16a1´ 前部領域
18 シェード
18a、28a 上端縁
18b、28b 上向き鏡面
20 ホルダ
22 第2投影レンズ
22a、26b 連結部
26 第2リフレクタ
28 第2シェード
50 透光カバー
Ax 光軸
Ax2 第2光軸
CL1 対向車線側カットオフライン
CL2 自車線側カットオフライン
CL3 水平カットオフライン
E エルボ点
F 後側焦点
FL 後側焦線
PA 付加配光パターン
PL ロービーム用配光パターン
PL´ 元々のロービーム用配光パターン
P0 基本配光パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びる光軸上に配置された投影レンズと、この投影レンズの後側焦点よりも後方側において上向きに配置された発光素子と、この発光素子を上方側から覆うように配置され、該発光素子からの光を上記投影レンズへ向けて反射させるリフレクタと、このリフレクタからの反射光の一部を遮蔽するために、上端縁が上記投影レンズの後側焦点近傍を通るようにして配置されたシェードと、を備えてなる車両用照明灯具において、
上記光軸の上方において該光軸と略平行に延びる第2光軸上に、第2投影レンズが配置されており、
上記リフレクタの反射面における前部領域が切り欠かれており、
このリフレクタの上方に、該リフレクタの反射面における前部領域に入射すべき上記発光素子からの光を上記投影レンズへ向けて反射させる第2リフレクタが配置されており、
この第2リフレクタからの反射光の一部を遮蔽するための第2シェードが、該第2シェードの上端縁が上記第2投影レンズの後側焦点近傍を通るようにして配置されている、ことを特徴とする車両用照明灯具。
【請求項2】
上記シェードが、該シェードの上端縁から後方へ延びる上向き鏡面を有するミラー部材として構成されており、
上記第2シェードが、該第2シェードの上端縁から後方へ延びる上向き鏡面を有する第2ミラー部材として構成されている、ことを特徴とする請求項1記載の車両用照明灯具。
【請求項3】
上記第2投影レンズの焦点距離が、上記投影レンズの焦点距離よりも小さい値に設定されている、ことを特徴とする請求項1または2記載の車両用照明灯具。
【請求項4】
上記投影レンズが、灯具正面視において円形の外形形状を有する非球面レンズにおける上下両端部が切除されたレンズとして構成されている、ことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の車両用照明灯具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−243474(P2011−243474A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115966(P2010−115966)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】