説明

車両用眼疲労回復支援装置

【課題】種々の疲労原因により運転者が眼の疲労を生じた場合に、疲労原因に応じて効果的な回復支援動作を行なうことが可能な車両用眼疲労回復支援装置を提供すること。
【解決手段】運転者の眼の状態を検知するための状態検知手段(10、18、20)と、該状態検知手段の出力に基づいて、運転者の眼の疲労程度を疲労原因毎に推定する推定手段(74)と、運転者の眼の疲労を回復させるための支援動作を行なう回復支援手段(20、30)と、該推定手段により推定された疲労原因毎の眼の疲労程度に基づいて、前記回復支援手段を作動させる作動制御手段(76)と、を備える車両用眼疲労回復支援装置(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の眼の疲労を回復するための支援制御を行なう車両用眼疲労回復支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の眼を撮像した撮像画像を解析し、白目部分の状態や所定時間内の瞬き回数に基づいて運転者の眼が乾いていると判定した場合に、警告を発したり、高湿度の空気を運転者の眼に向けて吹き出したりする眼乾燥防止装置についての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−189082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の装置は、運転者の眼の乾きを防止することのみを目的とするものであるが、運転者の眼の疲労を生じさせる原因は眼の乾きに限らず、他にも種々の原因が存在する。上記従来の装置では、こうした種々の原因を解消することができない。
【0004】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、種々の疲労原因により運転者が眼の疲労を生じた場合に、疲労原因に応じて効果的な回復支援動作を行なうことが可能な車両用眼疲労回復支援装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、
運転者の眼の状態を検知するための状態検知手段と、
該状態検知手段の出力に基づいて、運転者の眼の疲労程度を疲労原因毎に推定する推定手段と、
運転者の眼の疲労を回復させるための支援動作を行なう回復支援手段と、
該推定手段により推定された疲労原因毎の眼の疲労程度に基づいて、前記回復支援手段を作動させる作動制御手段と、
を備える車両用眼疲労回復支援装置である。
【0006】
この本発明の一態様によれば、状態検知手段により検知された運転者の眼の状態に基づいて運転者の眼の疲労程度を疲労原因毎に推定し、推定された疲労原因毎の眼の疲労程度に基づいて回復支援手段を作動させるため、種々の疲労原因により運転者が眼の疲労を生じた場合に、疲労原因に応じて効果的な回復支援動作を行なうことができる。
【0007】
なお、推定手段は、例えば、状態検知手段の出力に基づいて運転者の眼の状態を検知し、検知結果に基づいて運転者の眼の疲労程度を疲労原因毎に推定する手段であってよい。
【0008】
本発明の一態様において、
前記状態検知手段は、例えば、運転者の所定時間における瞬き回数を、運転者の眼の状態として検知するための手段を含む。
【0009】
また、本発明の一態様において、
前記状態検知手段は、例えば、運転者の眼の涙膜安定性を、運転者の眼の状態として検知するための手段を含む。
【0010】
また、本発明の一態様において、
前記状態検知手段は、例えば、運転者の眼の遠近調節時間を、運転者の眼の状態として検知するための手段を含む。
【0011】
また、本発明の一態様において、
前記状態検知手段は、例えば、運転者の自己申告に係る官能評価値を、運転者の眼の状態として検知するための手段を含む。
【0012】
また、本発明の一態様において、
前記推定手段は、
前記状態検知手段の出力に基づいて、運転者の眼の状態を示す複数の評価値を設定し、
所定の記憶媒体に記憶され、前記設定した評価値と疲労原因毎の運転者の眼の疲労程度との関係を規定した疲労原因推定用マトリクスを用いて運転者の眼の疲労程度を疲労原因毎に推定する手段であるものとしてもよい。
【0013】
ここで、「運転者の眼の状態を示す複数の評価値」とは、運転者の所定時間における瞬き回数に基づく評価値、運転者の眼の涙膜安定性に基づく評価値、運転者の眼の遠近調節時間に基づく評価値、運転者の自己申告に係る官能評価値に基づく評価値のうち少なくとも一つを含む。
【0014】
また、本発明の一態様において、
前記推定手段は、少なくとも眼の乾きに起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、運転者の眼に加湿された空気を供給可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された眼の乾きに起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、運転者の眼に加湿された空気を供給するように前記回復支援手段を作動させる手段であるものとしてもよい。
【0015】
また、本発明の一態様において、
前記推定手段は、少なくとも精神疲労に起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、所望の音楽を出力可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された精神疲労に起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、所定の音楽を出力するように前記回復支援手段を作動させる手段であるものとしてもよい。
【0016】
また、本発明の一態様において、
前記推定手段は、少なくとも肉体疲労に起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、運転者の姿勢変更を誘導可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された肉体疲労に起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、運転者の姿勢変更を誘導するように前記回復支援手段を作動させる手段であるものとしてもよい。
【0017】
また、本発明の一態様において、
前記推定手段は、少なくとも眩しさに起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、フロントガラスの光透過度を変更可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された眩しさに起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、フロントガラスの光透過度を下げるように前記回復支援手段を作動させる手段であるものとしてもよい。
【0018】
また、本発明の一態様において、
前記推定手段は、少なくとも眼の緊張に起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、運転者に情報を出力可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された眼の緊張に起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、眼の緊張に関する注意勧告を行なうように前記回復支援手段を作動させる手段であるものとしてもよい。
【0019】
また、本発明の一態様において、
前記推定手段は、少なくとも眼機能低下に起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、フロントガラスを透過する光の屈折性を変更可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された眼機能低下に起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、前記フロントガラスを透過する光の屈折性を変更するように前記回復支援手段を作動させる手段である、
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の車両用眼疲労回復支援装置。ものとしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、種々の疲労原因により運転者が眼の疲労を生じた場合に、疲労原因に応じて効果的な回復支援動作を行なうことが可能な車両用眼疲労回復支援装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の一実施例に係る車両用眼疲労回復支援装置1について説明する。図1は、車両用眼疲労回復支援装置1の全体構成の一例を示す図である。車両用眼疲労回復支援装置1は、主要な構成として、カメラ10と、入出力装置20と、回復支援用装置30と、マスター制御装置70と、を備える。
【0023】
カメラ10は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)カメラやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラであり、ステアリングコラムの上部やルームミラー周辺、車室天井とフロントガラスの接合部付近等、運転者の眼の周囲を撮像可能な任意の位置に配設される。図2は、カメラ10のハードウエア構成の一例を示す図である。カメラ10は、例えば、撮像レンズ12と、イメージセンサー14と、電子制御部16と、を備える。以下、カメラ10がCCDカメラであるものとして説明する。イメージセンサー14は、例えばインターライン型イメージセンサーであり、光電変換を行なう受光素子であるフォトダイオードと、これに対応するCCDとをそれぞれ2次元平面状に配列し、フォトダイオードとCCDの間にアナログスイッチとして機能するトランスファゲートを有する。各フォトダイオードの前側(撮像レンズ12側)には、集光のためのマイクロレンズが取り付けられている。なお、こうした構造は、あくまでイメージセンサー14の機能を簡易に説明するために模式的に例示したものであり、機能性向上等のための如何なる設計変更も許容される。また、インターライン型イメージセンサーに限らず、CCD自体が受光素子として機能するフルフレームトランスファ型やフレームトランスファ型のイメージセンサーを用いてもよい。電子制御部16は、例えば、マイクロコンピューターや電子回路等が用いられ、イメージセンサー14が有するトランスファゲートの開閉タイミングを制御することによりカメラ10のシャッタースピードや撮像周期(例えば、1秒間に数十回程度)を調節する。そして、電子制御部16は、イメージセンサー14の出力回路から出力されるデータに対して所定のゲインによる増幅等を行なって、画像データとしてマスター制御装置70に出力する。
【0024】
光照射装置18は、例えば、カメラ10の付近に配設され、格子状の光を運転者の眼に短時間、照射する。
【0025】
入出力装置20は、ユーザー(運転者)の入力を受け付けると共に、種々の情報提供を行なうための装置であり、音声入出力のためのマイク、スピーカー、ブザー、及びディスプレイ装置(タッチパネル機能を有すると好適である)、HUD(Head Up Display)、スイッチ等を含む。
【0026】
回復支援用装置30は、運転者の眼の疲労を回復させるための支援動作を行なう装置であり、例えば、加湿送風装置32、瞬き喚起装置34、オーディオ装置40、芳香剤噴射装置42、電動シート44、フロントガラス遮光装置50、ヘッドランプ装置52、フロントガラスレンズ化装置54等を含む。なお、本実施例では、入出力装置20及び回復支援用装置30が、特許請求の範囲における「回復支援手段」として機能する。
【0027】
加湿送風装置32は、運転者の眼の乾きを解消するために適切に湿度が設定された空気を運転者の眼に供給する。具体的には、例えばステアリングボス部等に送風口(径25[mm]程度)を備え、湿度50[%]以上に維持された空気を風速2.0[m/s]以下で発する。また、これに限らず、顔全体を覆う透明なバイザーを備え、運転者の面前の湿度をコントロールしてもよい。なお、本装置は、既存の空調装置と一体として構成されてよい。
【0028】
瞬き喚起装置34は、例えば、運転者の眼に軽い光を照射したり、人体に無害な霧状の物質(水でもよい)を噴射したりして、運転者に瞬きをさせるための装置である。加湿送風装置32が部分的に共用されてもよい。
【0029】
オーディオ装置40は、CD(Compact Disc)再生機、DVD(Digital Versatile Disk)再生機、HDD(Hard Disk Drive)、FM/AMアンテナ、チューナー、アンプ、スピーカーシステム等を備える周知のカーオーディオ装置である。
【0030】
芳香剤噴射装置42は、例えば、運転者をリラックスさせる香りを有する芳香剤を複数種類用意し、これらのうち適切なものを選択して、車室内に噴霧する。
【0031】
電動シート44は、例えば、シート全体を前後に駆動するパワースライド機構、シート座面の前端部を上下方向に駆動するパワーフロントバーティカル機構、シート全体を上下に駆動するパワーリフター機構、リクライニング角度を変更するパワーリクライニング機構、シートバック下部において着座者の腰部を支持するランバーサポートを駆動するパワーランバーサポート機構、ヘッドレストの角度を変更するパワーヘッドレスト機構等を含む。また、シートバックにマッサージ装置を内蔵してもよい。
【0032】
フロントガラス遮光装置50は、グレア(眩しさ)による影響を軽減するための装置であり、例えば、フロントガラスの光透過度を任意にする機構を有する。より具体的には、フロントガラスを中空構造として、電圧や磁力、熱等により透明度が変化する液体やフィルム等を配置する。また、LED(Light Emitting Diode)付きワイパー装置であり、ワイパーを駆動することによりLEDの残像光を運転者に視認させてグレアによる影響を軽減するものとしてもよい。なお、本発明において、「ガラス」に代えて透明な樹脂等を用いてもよい。
【0033】
ヘッドランプ装置52は、例えばHID(High Intensity Discharged lamp)バルブを光源とするディスチャージャーヘッドランプとして構成されるそれぞれ一対のロービームヘッドランプとハイビームヘッドランプ、これらの光軸角度を上下方向に調節可能なレべリングアクチュエーター、左右方向に調節可能なスイブルアクチュエーター、照射光の強度及び光軸角度を制御するコントローラー等を含む。
【0034】
フロントガラスレンズ化装置54は、例えば、電導性水溶液56と非電導性油58の2種類の液体をフロントガラスにまざらないように充填したものとして構成される。図7は、フロントガラスレンズ化装置54の作動原理を示す図である。図示する如く、所定の位置に設置された電極60に電圧がかけられると、電導性水溶液56が電極60の付近に集まろうとし、結果的に非電導性油58が膨張・変形することによりフロントガラスを透過する光の屈折率を変化させる。なお、図7の通常時において運転者が見やすい屈折率となるように、予め視力等を入力しておくと好適である。なお、これに限らず、カメラの絞り機構の如く、2つのレンズの間隔をアクチュエーターで調節する機構等を有してもよい。
【0035】
マスター制御装置70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を中心としてROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等がバスを介して相互に接続されたコンピューターユニットであり、その他、HDD(Hard Disc Drive)やDVD(Digital Versatile Disk)ドライブ、CD(Compact Disc)ドライブ、フラッシュメモリ等の記憶装置72やI/Oポート、タイマー、カウンター等を備える。ROMには、CPUが実行するプログラムやデータが格納されている。
【0036】
また、マスター制御装置70は、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することにより機能する主要な機能ブロックとして、疲労原因推定部74と、作動制御部76と、を備える。なお、これらの機能ブロックが明確に別のプログラムに基づくものである必要はなく、同一プログラムの中に各機能ブロックを実現する複数の部分が含まれていてもよい。
【0037】
疲労原因推定部74は、カメラ10の撮像画像解析、及び入出力装置20に対してなされた運転者の自己申告(官能評価値)等に基づいて、運転者の眼の疲労程度を疲労原因毎に推定する。
【0038】
まず、運転者の眼の状態を示す事象である(A)瞬き回数、(B)涙膜安定性、(C)遠近調節時間、及び(D)官能評価値のそれぞれについて、例えば値−1、値0、値1、値2、値3の5段階評価を行ない、評価値をCPU内のレジスタ等に格納する。
【0039】
瞬き回数については、一定期間、カメラ10の撮像画像解析を行い、瞬き回数が当該運転者の平均瞬き回数や統計値等を基準として少ない場合に値−1の評価値を設定し、多くなるのに応じて値0、値1…と評価値を設定する。
【0040】
涙膜安定性については、例えば、光照射装置18により格子状の光を運転者の眼に照射し、その時のカメラ10の撮像画像において眼に写る格子の歪みの程度を計測する。そして、涙膜安定性が高い場合に値−1の評価値を設定し、低くなるのに応じて値0、値1…と評価値を設定する。
【0041】
遠近調節時間については、入出力装置20等を利用した簡易アコモドポリレコーダによって計測する。そして、遠近調節時間が短い場合に値−1の評価値を設定し、長くなるのに応じて値0、値1…と評価値を設定する。アコモドポリレコーダとは、全反射ミラーやハーフミラーを用いて被験者の視認する目標物(ランドルト環)までの距離を増減変更し、距離が変更されてからピントが合うまでの時間を被験者の申告によって測定する装置である(図8参照)。ハーフミラーは、目標物が光りに照らされている場合のみ、光を透過させる性質を有する。これを利用し、近点を被験者に見せるときは近点用目標物に光を照射し、遠点を被験者に見せるときは遠点目標物に光を照射することにより、被験者の視認する目標物までの距離を変更する。車載装置においてこれを簡易に実現するためには、例えば遠点と近点の2箇所で目標物を表示可能なディスプレイ装置(或いは固定表示物)等を備え、視認対象の変更タイミングを音声等で運転者に知らせると共に、視認対象の変更後にピントが合ったタイミングでスイッチ操作等を行なわせる。そして、音声で通知したタイミングとスイッチ操作タイミングの間の時間を計測することにより、運転者の遠近調節時間を計測することができる。
【0042】
官能評価値については、入出力装置20に対して、運転者が下記の疲労原因毎に申告する。なお、運転者の申告は評価値をそのまま回答するのではなく、質問に対する回答例と評価値を予め対応付けしておき(例えば、質問「眼の乾きを感じますか」に対して、「全く感じない」→値−1、「特に感じない」→値0、「少し感じる」→値1、「感じる」→値2、「とても感じる」→値3など)、回答に応じた評価値を設定するものとしてよい。
【0043】
「疲労原因」は、例えば、(1)眼の乾き、(2)精神疲労、(3)肉体疲労、(4)グレア(眩しさ)、(5)眼の緊張、(6)眼機能低下に分類する。そして、図3に示す如き疲労原因推定用マトリクス72Aを用いて、各疲労原因について評価値に応じたポイントを加算し、合計値を算出する。こうした算出された合計値が、「疲労原因毎の眼の疲労程度」に該当する。疲労原因推定用マトリクス72Aは、予め記憶装置72やROM等に記憶されている。
【0044】
例えば、図4に示す如く、前述したカメラ10の撮像画像解析等により瞬き回数の評価値が値1、涙膜安定性の評価値が値2、遠近調節時間の評価値が値1と設定され、官能評価値により、眼の乾きについて値2、精神疲労について値1、肉体疲労について値0、グレア(眩しさ)について値0、眼の緊張について値2、眼機能低下について値1がそれぞれ申告された場合、眼の乾きに起因する眼の疲労程度は値7、精神疲労に起因する眼の疲労程度は値4、肉体疲労に起因する眼の疲労程度は値3、グレア(眩しさ)に起因する眼の疲労程度は値4、眼の緊張に起因する眼の疲労程度は値7、眼機能低下に起因する眼の疲労程度は値4となる。
【0045】
なお、こうしたマトリクスを用いた疲労原因毎の眼の疲労程度の推定は、あくまで推定手法の一例であり、他の手法を用いても構わない。
【0046】
作動制御部76は、疲労原因推定部74により推定された疲労原因毎の眼の疲労程度に基づいて、入出力装置20及び回復支援用装置30を作動させる。図5は、疲労原因毎の眼の疲労程度と、回復支援動作との対応表である。
【0047】
図示する如く、眼の乾きに起因する眼の疲労程度が値0〜値6であれば眼の乾きについての回復支援動作を行なわず、値7〜値10であれば加湿送風装置32に指示して加湿された空気を運転者の眼に供給する。これにより、運転者の眼からの水分蒸発を抑制し、眼の疲労の防止、緩和、回復に寄与することができる。そして、値11以上であれば更に瞬き喚起装置34に指示して運転者に瞬きをさせる。これにより、運転者の眼の乾きを更に抑制すすることができる。
【0048】
また、精神疲労に起因する眼の疲労程度が値0〜値6であれば精神疲労についての回復支援動作を行なわず、値7〜値10であればオーディオ装置40に指示して運転者がリラックスできる音楽(普段聞いている音楽、又は予め選択された音楽)を出力し、値11以上であれば更に芳香剤噴射装置42に指示して芳香剤を噴霧する。これらにより、運転者を精神的にリラックスさせ、精神疲労から回復させることができる。従って、眼の疲労の防止、緩和、回復に寄与することができる。
【0049】
また、肉体疲労に起因する眼の疲労程度が値0〜値6であれば肉体疲労についての回復支援動作を行なわず、値7〜値10であれば電動シート44に指示してリラックスできる姿勢に運転者を誘導する。例えば、普段のシート位置からリクライニング角度を若干大きくする等の制御を行なう。また、電動シート44のマッサージ機能を作動させてもよいし、音声又は表示により楽な姿勢をとるように誘導してもよい。そして、値11以上であれば更に入出力装置20に指示して音声又は表示により運転者に休息を促す。これらにより、運転者を肉体疲労から回復させ、眼の疲労の防止、緩和、回復に寄与することができる。
【0050】
また、グレア(眩しさ)に起因する眼の疲労程度が値0〜値6であればグレア(眩しさ)についての回復支援動作を行なわず、値7〜値10であればフロントガラス遮光装置50に指示してフロントガラスの光透過度を小さくし、値11以上であれば更にヘッドランプ装置52に指示してヘッドランプの光軸を下げたり照射光の強度を下げたりする制御を行なう。これらにより、グレア(眩しさ)を抑制することができ、眼の疲労の防止、緩和、回復に寄与することができる。
【0051】
また、眼の緊張に起因する眼の疲労程度が値0〜値6であれば眼の緊張についての回復支援動作を行なわず、値7〜値10であれば入出力装置20に指示して音声又は表示により眼が緊張状態であることを運転者に伝え、値11以上であれば更に瞬き喚起装置34に指示して運転者に瞬きをさせる。これにより、運転者の眼の緊張を和らげることができる。従って、眼の疲労の防止、緩和、回復に寄与することができる。
【0052】
なお、速度に対する緊張を和らげるため、HUD等によって速度に関する情報提供を行なってもよい。この場合、法定速度を基準に、青(法定速度−55[km/h]以下)、緑(法定速度±5[km/h]以内)、黄(法定速度+5[km/h]以上)等の色彩表示を行なうと好適である。これにより、運転者の目線の移動量を小さくし、運転者の眼の緊張を和らげることができる。従って、眼の疲労の防止、緩和、回復に寄与することができる。
【0053】
また、眼機能低下に起因する眼の疲労程度が値0〜値6であれば眼機能低下についての回復支援動作を行なわず、値7〜値10であればフロントガラスレンズ化装置54に指示してフロントガラスにレンズ機能を付与し、値11以上であれば更に入出力装置20に指示して音声又は表示により運転者に休息を促す。これにより、運転者の眼の調節機能を補助することができる。従って、眼の疲労の防止、緩和、回復に寄与することができる。
【0054】
なお、これらの回復支援動作は、複数種類のものを同時に行なってもよいし、同時に行なうのが適切でない場合は、適切な順序で順を追って行なってよい。
【0055】
以下、マスター制御部70が実行する処理の流れについて説明する。図6は、マスター制御部70が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、例えば、所定時間毎に繰り返し実行開始される。
【0056】
まず、瞬き回数、涙膜安定性、遠近調節時間、及び官能評価値の元データを取得する(S100)。これらのうち、官能評価値の情報取得は、例えば入出力装置20により運転者に質問を発し、これに対する回答を認識して取得する。
【0057】
次に、取得した元データから評価値を設定し、CPU内のレジスタ等に格納する(S102)。
【0058】
続いて、疲労原因推定用マトリクス72Aを用いて運転者の眼の疲労程度を疲労原因毎に推定する(S104)。
【0059】
そして、上記説明した疲労原因毎の眼の疲労程度と回復支援動作との対応表を参照し(S106)、回復支援動作が必要か否かを判定する(S108)。回復支援動作が不要であるとは、例えば全ての疲労原因について眼の疲労程度が値6以下であることである。回復支援動作が不要である場合には、本フローの1ルーチンを終了する。
【0060】
一方、回復支援動作が必要である場合は、上記対応表に従って入出力装置や回復支援用装置30を作動させる(S110)。この際に、昼夜の別、天候等の外部環境や、眼鏡やコンタクトレンズ使用の有無、瞳孔径からの年齢把握等の運転者状態を加味し、回復支援動作を修正してもよい。
【0061】
例えば、雨天時や夜間は外部の視界が悪く、眼が緊張状態に陥りやすいため、注意勧告をより具体的なものにする(眼の酷使を伝えると共に、「瞬きをして下さい」、「スピードを下げてゆったりと運転して下さい」等のメッセージを伝える)。
【0062】
また、運転者が眼鏡を着用している場合、加湿された空気が眼鏡に遮られるので、空気の噴射位置を変更して、眼鏡を着用していない場合に比して上側又は下側から、加湿された空気を供給する(こうした機構を有するものとする)。また、運転者がコンタクトレンズを着用している場合は普段より眼が乾きやすくなるので、加湿送風装置32が供給する空気の湿度を高めに設定する。
【0063】
入出力装置20や回復支援用装置30を作動させると、一定時間経過するのを待って(S112)、再度S100以下の処理を実行する。これにより、運転者の眼の状態変化に対して回復支援動作の影響をフィードバックさせることとなり、最適な回復支援動作を実現することができる。
【0064】
なお、S100〜S112を繰り返し実行する中で、2回目以降に実行されるS100の元データ取得において、官能評価値の情報取得を省略する、或いは間引く(何回かに1回のみ質問を発する)ものとしてもよい。
【0065】
本実施例の車両用眼疲労回復支援装置1によれば、種々の回復支援動作を行なう装置を備え、疲労原因に応じた態様により回復支援動作を行なうため、種々の疲労原因により運転者が眼の疲労を生じた場合に、疲労原因に応じて効果的な回復支援動作を行なうことができる。
【0066】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0067】
例えば、評価値を設定する瞬き回数、涙膜安定性、遠近調節時間、及び官能評価値については、いずれか1つ又は複数を省略してもよいし、更に他の推定材料を加えてもよい。
【0068】
また、疲労原因についても、眼の乾き、精神疲労、肉体疲労、グレア(眩しさ)、眼の緊張、眼機能低下に分類するものとしたが、これらのうちいずれか1つ又は複数を省略してもよいし、更に他の疲労原因を加えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】車両用眼疲労回復支援装置1の全体構成の一例を示す図である。
【図2】カメラ10のハードウエア構成の一例を示す図である。
【図3】疲労原因推定用マトリクス72Aの一例である。
【図4】設定値に基づき疲労原因毎の眼の疲労程度が推定される様子を示す図である。
【図5】疲労原因毎の眼の疲労程度と、回復支援動作との対応表である。
【図6】マスター制御部70が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】フロントガラスレンズ化装置54の作動原理を示す図である。
【図8】アコモドポリレコーダの構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 車両用眼疲労回復支援装置
10 カメラ
12 撮像レンズ
14 イメージセンサー
16 電子制御部
18 光照射装置
20 入出力装置
30 回復支援用装置
32 加湿送風装置
34 瞬き喚起装置
40 オーディオ装置
42 芳香剤噴射装置
44 電動シート
50 フロントガラス遮光装置
52 ヘッドランプ装置
54 フロントガラスレンズ化装置
56 電導性水溶液
58 非電導性油
60 電極
70 マスター制御装置
72 記憶装置
72A 疲労原因推定用マトリクス
74 疲労原因推定部
76 作動制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の眼の状態を検知するための状態検知手段と、
該状態検知手段の出力に基づいて、運転者の眼の疲労程度を疲労原因毎に推定する推定手段と、
運転者の眼の疲労を回復させるための支援動作を行なう回復支援手段と、
該推定手段により推定された疲労原因毎の眼の疲労程度に基づいて、前記回復支援手段を作動させる作動制御手段と、
を備える車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項2】
前記状態検知手段は、運転者の所定時間における瞬き回数を、運転者の眼の状態として検知するための手段を含む、
請求項1に記載の車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項3】
前記状態検知手段は、運転者の眼の涙膜安定性を、運転者の眼の状態として検知するための手段を含む、
請求項1又は2に記載の車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項4】
前記状態検知手段は、運転者の眼の遠近調節時間を、運転者の眼の状態として検知するための手段を含む、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項5】
前記状態検知手段は、運転者の自己申告に係る官能評価値を、運転者の眼の状態として検知するための手段を含む、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項6】
前記推定手段は、
前記状態検知手段の出力に基づいて、運転者の眼の状態を示す複数の評価値を設定し、
所定の記憶媒体に記憶され、前記設定した評価値と疲労原因毎の運転者の眼の疲労程度との関係を規定した疲労原因推定用マトリクスを用いて、運転者の眼の疲労程度を疲労原因毎に推定する手段である、
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項7】
前記推定手段は、少なくとも眼の乾きに起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、運転者の眼に加湿された空気を供給可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された眼の乾きに起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、運転者の眼に加湿された空気を供給するように前記回復支援手段を作動させる手段である、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項8】
前記推定手段は、少なくとも精神疲労に起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、所望の音楽を出力可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された精神疲労に起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、所定の音楽を出力するように前記回復支援手段を作動させる手段である、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項9】
前記推定手段は、少なくとも肉体疲労に起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、運転者の姿勢変更を誘導可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された肉体疲労に起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、運転者の姿勢変更を誘導するように前記回復支援手段を作動させる手段である、
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項10】
前記推定手段は、少なくとも眩しさに起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、フロントガラスの光透過度を変更可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された眩しさに起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、フロントガラスの光透過度を下げるように前記回復支援手段を作動させる手段である、
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項11】
前記推定手段は、少なくとも眼の緊張に起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、運転者に情報を出力可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された眼の緊張に起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、眼の緊張に関する注意勧告を行なうように前記回復支援手段を作動させる手段である、
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の車両用眼疲労回復支援装置。
【請求項12】
前記推定手段は、少なくとも眼機能低下に起因する運転者の眼の疲労程度を推定する手段であり、
前記回復支援手段は、フロントガラスを透過する光の屈折性を変更可能な手段であり、
前記作動制御手段は、前記推定手段により推定された眼機能低下に起因する運転者の眼の疲労程度が所定程度以上である場合に、前記フロントガラスを透過する光の屈折性を変更するように前記回復支援手段を作動させる手段である、
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の車両用眼疲労回復支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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