説明

車両用空気調和システム

【課題】ヒートポンプ式冷房装置を用いて暖房と冷房を行うシステムにあって、ヒートポンプ式冷房装置の構成を簡略化する。
【解決手段】第1の冷媒が循環する第1循環経路1を有するヒートポンプ式冷房装置Aと、第2の冷媒が循環する第2循環経路8を有する暖房用循環装置Bと、第3の冷媒が循環する第3循環経路20を有する冷房用循環装置Cとを備え、第1循環経路1には、コンプレッサ2と、第2循環経路8内に配置された水冷コンデンサ3と、膨張手段5と、第3循環経路20内に配置された水冷エバポレータ6とが設けられ、第2循環経路8には、ポンプ9と、送風を加熱するヒータコア12と、放熱器10とが設けられ、第3循環経路20には、ポンプ21と、送風を冷却する冷却器23とが設けられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房と冷房を行うことができる車両用空気調和システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の車両用空気調和システムとしては、特許文献1(第4実施形態等)に開示されたものがある。この車両用空気調和システムは、第1の冷媒が循環する第1循環流路を有するヒートポンプ式冷房装置と、第2の冷媒が循環する第2循環流路を有する暖房用循環装置とを備えている。
【0003】
ヒートポンプ式冷房装置の第1循環流路中には、コンプレッサと内部熱交換部の放熱部と室内用熱交換器と膨脹弁と室外用熱交換器とが設けられている。室内熱交換器は、車室に開口する空調ダクト内に配置されている。第1循環流路は、種々のバイパス経路と第1冷媒の経路を切り換えるための多数の切換弁を有する。
【0004】
暖房運転時にあっては、内部熱交換部と室内用熱交換器が第1の冷媒に放熱させるコンデンサとして機能し、室外用熱交換器が第1の冷媒に吸熱させるエバポレータとして機能し、冷房運転時にあっては、室外用熱交換器が第1の冷媒に放熱させるコンデンサとして機能し、室内用熱交換器が第1の冷媒に吸熱させるエバポレータとして機能するように経路が切り換えられる。
【0005】
暖房用循環装置の第2循環流路には、第2の冷媒を循環させるポンプと内部熱交換部の受熱部とヒータコアが設けられている。ヒータコアは、車室に開口する空調ダクト内に配置されている。
【0006】
暖房運転時には、ヒートポンプ式冷房装置の室内用熱交換器とヒータコアを熱源とし、冷房運転時にはヒートポンプ式冷房装置の室内用熱交換器を冷却源として車室内を暖房し、又、冷房する。
【特許文献1】特開2002−98430号公報(図1、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来例のようにヒートポンプ式冷房装置を暖房用と冷房用の併用とすると、第1の冷媒の流路を切り換えるために、多数のバイパス流路及び切換弁などが必要となるため、ヒートポンプ式冷房装置の構成が複雑になるという問題がある。
【0008】
また、前記従来公報の図1には、第1の冷媒が循環する第1循環流路を有するヒートポンプ式暖房装置と、第2の冷媒が循環する第2循環流路を有する暖房用給湯水循環装置とを備えたシステムが開示されている。ヒートポンプ式暖房装置の第1循環流路中には、コンプレッサと内部熱交換部の放熱部と高圧側熱交換器と膨張弁と低圧側熱交換器とが設けられている。暖房用給湯水循環装置の第2循環流路中には、ポンプと内部熱交換部の受熱部と暖房用ヒータとが設けられている。このシステムは、ヒートポンプ式暖房装置で得られる熱を高圧側熱交換器を介して、又は、暖房用給湯水循環装置を介して利用するものであり、第1の冷媒の流路を切り換えする必要がないため構成が簡単である。しかし、このシステムでは、冷房を行うことができない。又、このシステムは、家庭用の暖房システムであり、車両用ではない。
【0009】
そこで、本発明は、ヒートポンプ式冷房装置を用いて暖房と冷房を行うシステムにあって、ヒートポンプ式冷房装置の構成を簡略化できると共に空調システム全体としても簡単な構成である車両用空気調和システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する請求項1の発明は、潜熱変化によって熱交換を行う第1の冷媒が循環する第1循環経路を有するヒートポンプ式冷房装置と、流体で、且つ、顕熱変化によって熱交換を行う第2の冷媒が循環する第2循環経路を有する暖房用循環装置と、流体で、且つ、顕熱変化によって熱交換を行う第3の冷媒が循環する第3循環経路を有する冷房用循環装置とを備え、第1循環経路には、第1の冷媒を圧縮するコンプレッサと、第2循環経路内に配置され、第1の冷媒の熱を第2の冷媒へ放熱させるコンデンサと、第1の冷媒を膨張させる膨張手段と、前記第3循環経路内に配置され、前記膨張手段で膨張された第1の冷媒が第3の冷媒の熱を吸熱するエバポレータとが設けられ、第2循環経路には、第2の冷媒を循環させるポンプと、第2の冷媒と車室内に導く送風との間で熱交換させて送風を加熱するヒータコアと、第2の冷媒の熱を放熱させる放熱器とが設けられ、第3循環経路には、第3の冷媒を循環させるポンプと、第3の冷媒と車室内に導く送風との間で熱交換させて送風を冷却する冷却器とが設けられたことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用空気調和システムであって、放熱器をバイパスする放熱器バイパス流路と、第2の冷媒を放熱器又は放熱器バイパス流路へと流すように流路を切り換える流路切換弁とが設けられたことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用空気調和システムであって、第2循環経路に、第2の冷媒を加熱するヒータが設けられたことを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の車両用空気調和システムであって、コンプレッサは、電動コンプレッサであることを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の車両用空気調和システムであって、第1の冷媒は、二酸化炭素若しくは可燃性冷媒であることを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の車両用空気調和システムであって、冷房モードでは、アイドルストップ時には前記第3循環経路のポンプを作動させたことを特徴とする。
【0016】
請求項7の発明は、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の車両用空気調和システムであって、暖房モードでは、アイドルストップ時には第2循環経路のポンプを作動させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、ヒートポンプ式冷房装置の第1の冷媒は、暖房運転と冷房運転に係わらず第1循環経路を一定の経路で循環させれば良いため、ヒートポンプ式冷房装置の構成が簡単で良い。又、暖房用循環装置もコンデンサから熱を受ける第2の冷媒をヒータコアと放熱器を通る経路で循環させる構成であれば良い。冷房用循環装置もエバポレータで吸熱された第3の冷媒を冷却器を通る経路で循環させる構成であれば良い。そして、冷房モードでは、ヒートポンプ式冷房装置のコンデンサの熱は、暖房用循環装置の放熱器で車室外空気に放熱し、ヒートポンプ式冷房装置のエバポレータによって第3の冷媒を冷却して冷房用循環装置の冷却器で冷風を作り、暖房モードでは、ヒートポンプ式冷房装置のコンデンサの熱によって第2の冷媒を加熱して暖房用循環装置のヒータコアで温風を作ることができ、冷房と暖房ができる。以上より、ヒートポンプ式冷房装置を用いて暖房と冷房を行うシステムにあって、ヒートポンプ式冷房装置の構成を簡略化できると共に空調システム全体としても簡単な構成で済む。
【0018】
また、高圧となる第1の冷媒が通るコンデンサ及びエバポレータは、車室内への送風路内に配置する必要がなく、車室内への送風路には顕熱変化のみする第2及び第3の冷媒が通るヒータコア及び冷却器を配置するため、安全性が向上する。
【0019】
また、コンデンサ及びエバポレータは水冷式であるため、空冷式に比べて熱伝達効率が高いためにコンパクト化でき、第1の冷媒の通路抵抗を減少させることができる。よって、通路抵抗が減少した分だけコンプレッサの所要動力が小さくなり、コンプレッサの駆動力を省力化できるとともにコンプレッサ2を小型化することができる。
【0020】
更に、第2及び第3循環経路の冷媒が液体で相変化せずに顕熱変化するものであるため、熱伝達効率が良くより小型化が図れる。
【0021】
請求項2の発明によれば、暖房モードでは第2の冷媒を放熱器にバイパスさせて流すことにより無駄な放熱を防止でき、冷房モードでは第2の冷媒を放熱器に通すことにより不要な熱を車室外に放熱できるため、暖房性能と冷房性能の悪化を防止できる。
【0022】
請求項3の発明によれば、暖房運転時はヒートポンプ式冷房装置において生じた熱とヒータによって発生させた熱とを併用して車室内に導く送風を加熱することができるため、エンジンなどの大きな熱源を持たない車両において、外気温が極低温状態であっても十分な暖房性能を発揮することができる。
【0023】
請求項4の発明によれば、コンプレッサは、エンジンより動力を得る必要がないため、ヒートポンプ式冷房装置をエンジンの配置位置を配慮することなく自由にレイアウトできる。これにより、ヒートポンプ式冷房装置の第1循環経路がコンパクト化できるため、更に冷媒配管を短く、通路抵抗を下げることができる。また、レイアウト性が向上する。
【0024】
請求項5の発明によれば、第1の冷媒が通るコンデンサ及びエバポレータは、車室内への送風路内に配置する必要がないため、第1の冷媒として二酸化炭素や可燃性冷媒を用いても安全性を確保できる。その上、二酸化炭素は、極低温状態でも飽和圧力が高く、その分第1の冷媒の流量をより確実に確保することができる。従って、冷媒循環量の減少による暖房性能の低下を極力防止でき、コンプレッサへのオイル戻り量の減少によるコンプレッサの動作不良を防止できる。
【0025】
請求項6の発明によれば、アイドリング時になるとエンジンが停止され、コンプレッサの駆動も停止される場合でも、第3の冷媒が冷却器を流れ、第3の冷媒の熱マスによって車室内に導く送風を冷却できる。従って、アイドルストップ時でも冷房性能の低下を極力防止できる。又、エンジンとコンプレッサの双方が停止されるため、低騒音化を図りつつ冷房運転が可能である。
【0026】
請求項7の発明によれば、アイドリング時になるとエンジンが停止され、コンプレッサの駆動も停止される場合でも、第2の冷媒がヒータコアを流れ、第2の冷媒の熱マスによって車室内に導く送風を加熱できる。従って、アイドルストップ時でも暖房性能の低下を極力防止できる。又、エンジンとコンプレッサ2の双方が停止されるため、低騒音化を図りつつ暖房運転が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
(実施形態)
図1〜図6は発明の一実施形態を示し、図1は車両用空気調和システムの冷媒循環装置の構成図、図2は車両用空気調和システムの空調ユニットの詳細構成図、図3は暖房モードの冷媒循環状態を示す図、図4は冷房モードの冷媒循環状態を示す図、図5は暖房モードにおける空調ユニットの各ドア位置及び送風流れの一例を示す図、図6は冷房モードにおける空調ユニットの各ドア位置及び送風流れの一例を示す図である。
【0029】
図1に示すように、車両用空気調和システムは、ヒートポンプ式冷房装置Aと暖房用循環装置Bと冷房用循環装置Cとが組み合わされた冷媒循環装置と、暖房用循環装置Bのヒータコア12及び冷房用循環装置Cの冷却器23が収容された空調ユニット40とを備えている。
【0030】
ヒートポンプ式冷房装置Aは、第1の冷媒としての二酸化炭素が封入された第1循環経路1を有し、この第1循環経路1中に、コンプレッサ2,コンデンサである水冷コンデンサ3、膨張手段である膨張弁5、エバポレータである水冷エバポレータ6及びアキュームレータ7を順に備えて構成される。
【0031】
コンプレッサ2は、吸入した比較的低温低圧の第1の冷媒を圧縮して高温高圧の冷媒として吐出する。コンプレッサ2は、エンジンから動力を受けることによって回転し、エンジンがストップするとコンプレッサ2も停止される。そして、エンジンは、アイドリング時には停止し、アクセルを踏むと再び駆動を開始する、いわゆるアイドリングストップを行うよう構成されている。
【0032】
水冷コンデンサ3は、下記する第2循環経路8中の機器収容室15内に配置されており、コンプレッサ2から圧送された第1の冷媒と第2の冷媒が熱交換する。水冷コンデンサ3内を流れる第1の冷媒は高温であるため、第2の冷媒との熱交換によって冷却され、第2の冷媒は第1の冷媒によって加熱される。
【0033】
膨張弁5は、水冷コンデンサ3を通過した第1の冷媒を膨張(減圧)させて低温低圧のガスとして水冷エバポレータ6へと送出する。
【0034】
水冷エバポレータ6は、下記する第3循環経路20中の機器収容室内に配置されており、膨張弁5から送出された第1の冷媒と第3の冷媒が熱交換する。水冷エバポレータ6内を流れる第1の冷媒は低圧であるため、第3の冷媒との熱交換によって吸熱し、第3の冷媒は冷却される。
【0035】
アキュームレータ7は、水冷エバポレータ6から送出された第1の冷媒を気液分離して気相状態の第1の冷媒のみをコンプレッサ2に送出し、液相状態の第1の冷媒を一時的に貯留する。
【0036】
暖房用循環装置Bは、第2の冷媒としての水や不凍液などの液体が封入された第2循環経路8を有し、この第2循環経路8中に、ポンプ9、放熱器10、機器収容室15及びヒータコア12が順に設けられている。機器収容室15は、第2循環経路8よりも大きな断面積を有するスペースであり、この内部に上記した水冷コンデンサ3と共にヒータである電気ヒータ11が収納されている。
【0037】
ポンプ9は、第2の冷媒を第2循環経路8内に循環させるため、吸入した第2の冷媒を加圧して圧送する。ポンプ9で圧送された液体の冷媒は、相変化することなく液相のまま第2循環経路8内を循環し、熱交換により顕熱変化する。
【0038】
放熱器10は、第2の冷媒の熱を外気に放熱させるものであり、電動ファンや走行風によって外気が吹き付けられ、第2の冷媒と外気との間で熱交換が行われる。
【0039】
電気ヒータ11は、水冷コンデンサ3の下流側に設けられ、通電することで発熱して第2の冷媒を加熱する。
【0040】
ヒータコア12は、下記するように空調ユニット40内に配置されている。そして、第2の冷媒とヒータコア12を通過する送風とを熱交換させることで、ヒータコア12を通過する送風を加熱する。ヒータコア12の空調ユニット40内の具体的な配置位置については、下記に詳述する。
【0041】
第2循環経路8には、放熱器10をバイパスする放熱器バイパス流路13が設けられ、放熱器バイパス流路13の上流側に設けられた流路切換弁14を切り換えることで、第2の冷媒の流れを放熱器10側又は放熱器バイパス流路13側へと切り換えることができる。
【0042】
冷房用循環装置Cは、第2の冷媒としての水や不凍液などの液体が封入された第3循環経路20を有し、この第3循環経路20中に、ポンプ21、機器収容室22及び冷却器23がこの順で設けられている。機器収容室22は、第3循環経路20よりも大きな断面積を有するスペースであり、この内部に上記した水冷エバポレータ6が収納されている。
【0043】
ポンプ21は、第3の冷媒を第3循環経路20内に循環させるため、吸入した第3の冷媒を加圧して圧送する。ポンプ21で圧送された液体の冷媒は、相変化することなく液相のまま第3循環経路20内を循環し、熱交換により顕熱変化する。
【0044】
冷却器23は、下記するように空調ユニット40内に配置されている。そして、第3の冷媒と冷却器23を通過する送風とを熱交換させることで、冷却器23を通過する送風を冷却する。冷却器23の空調ユニット40内の具体的な配置位置については、下記に詳述する。
【0045】
次に、車両用空気調和システムの空調ユニット40の構成を説明する。図2に示すように、空調ユニット40内にはブロアファン41が設けられ、内気又は外気を空調ユニット40内に取り込み、取り込んだ送風を車室内に送風する。空調ユニット40内の送風路の一部は、仕切板42によって平行する2つの流路43,44に分離され、一方の流路43には前記した冷却器23、他方の流路44にはヒータコア12が互いに並列に設けられている。これにより、空調ユニット40に吸入された送風のうち流路43へ流れる送風は冷却器23によって冷却され、流路44へ流れる送風はヒータコア12によって加熱される。
【0046】
混合手段であるミックスドア45は、仕切板42の下流端に設けられている。ミックスドア45は、冷却器23側の流路43又はヒータコア12側の流路44を閉塞可能なドアである。空調ユニット40の側面の一部には、空調ユニット40と車室外、例えばエンジンルームとを連通させる排気ドア46が設けられ、ミックスドア45が冷却器23側の流路43を閉塞するとき、排気ドア46が開いて冷却器23によって冷却された送風を車室外へ排出させる。空調ユニット40の下流端には空調ユニット40と車室内とを連通させる複数の吹出しドア47a〜47cが設けられ、開放する吹出しドア47a〜47cの組み合わせを変えることで送風を車室内の所望の位置へ吹き出させることができる。
【0047】
次に、本実施形態における車両用空調システムの暖房運転及び冷房運転における動作について説明する。
【0048】
暖房モードが選択されると、図3に示すように、アイドリング時でないことを条件として、ヒートポンプ式冷房装置Aのコンプレッサ2、暖房用循環装置Bのポンプ9、冷房用循環装置Cのポンプ21が共に駆動される。流路切換弁14は第2の冷媒が放熱器バイパス流路13側に流れる切替え位置とされる。
【0049】
第1の冷媒は、第1循環経路1を一定の経路で循環し、水冷コンデンサ3を流れる高温の第1の冷媒によって第2の冷媒は加熱される。水冷コンデンサ3によって加熱されて高温となった第2の冷媒がヒータコア12内を流れることでヒータコア12を通過する送風が加熱される。また、水冷エバポレータ6内を流れる第1の冷媒によって第3の冷媒は冷却される。水冷エバポレータ6で冷却されて低温となった第3の冷媒が冷却器23内を流れることで冷却器23を通過する送風が冷却される。
【0050】
空調ユニット40は、図5に示すように、ミックスドア45が第1の流路43を閉塞する位置に、排気ドア46が開放位置に、複数の吹出しドア47a〜47cの少なくとも1つ、例えばフットドア47cが開放位置に位置される。従って、第1の流路43を流れる送風は、冷却器23を通過する際に冷風とされるが、この冷風は車室内には流入せずエンジンルームに排出される。第2の流路44を流れる送風は、ヒータコア12を通過する際に温風とされ、この温風がフットドア47cより車室内に吹き出される。これによって、車室内が暖房される。
【0051】
この暖房運転時にあって、アイドルストップ時には、第1循環経路1のコンプレッサ2が停止されると共に第3循環経路20のポンプ21も停止されるが、第2循環経路8のポンプ9は停止されることなく駆動し続けられる。そのため、アイドルストップ時でも、第2の冷媒はヒータコア12を流れ、第2の冷媒の熱マスによって車室内に導く送風が加熱される。従って、アイドルストップ時でも暖房性能の低下を極力防止できる。
【0052】
この暖房運転時にあって、電気ヒータ11をオンすれば、水冷コンデンサ3によって加熱された第2の冷媒は更に加熱されるため、強力な暖房性能が得られる。
【0053】
冷房モードが選択されると、図4に示すように、アイドリング時でないことを条件として、ヒートポンプ式冷房装置Aのコンプレッサ2、暖房用循環装置Bのポンプ9、冷房用循環装置Cのポンプ21が共に駆動される。流路切換弁14は、第2の冷媒が放熱器10側に流れる切替位置とされる。
【0054】
第1の冷媒は、第1循環経路1を一定の経路で循環し、水冷コンデンサ3を流れる高温の第1の冷媒によって第2の冷媒は加熱される。水冷コンデンサ3によって加熱されて高温となった第2の冷媒が放熱器10内を流れることで車室外に放熱される。第2の冷媒は、ヒータコア12内も流れるが、ヒータコア12では下記する理由によってほとんど放熱されない。また、水冷エバポレータ6内を流れる第1の冷媒によって第3の冷媒は冷却される。水冷エバポレータ6で冷却されて低温となった第3の冷媒が冷却器23内を流れることで冷却器23を通過する送風が冷却される。
【0055】
空調ユニット40は、図6に示すように、ミックスドア45が第2の流路44を閉塞する位置に、排気ドア46が閉塞位置に、複数の吹出しドア47a〜47cの少なくとも1つ、例えばデフドア47aが開放位置に位置される。従って、第2の流路44を流れる送風は、ミックスドア45で流れが停止されるため、ヒータコア12は加熱器として機能せず、温風が得られない。第1の流路43を流れる送風は、冷却器23を通過する際に冷風とされ、この冷風がデフドア47aより車室内に吹き出される。これによって、車室内が冷房される。
【0056】
この冷房運転時にあって、アイドルストップ時には、第1循環経路1のコンプレッサ2が停止されると共に第2循環経路8のポンプ9も停止されるが、第3循環経路20のポンプ21は停止されることなく駆動し続けられる。そのため、アイドルストップ時でも、第3の冷媒は冷却器23を流れ、第3の冷媒の熱マスによって車室内に導く送風が冷却される。従って、アイドルストップ時でも冷房性能の低下を極力防止できる。
【0057】
以上、説明したように、ヒートポンプ式冷房装置Aの第1の冷媒は、暖房運転と冷房運転に係わらず第1循環経路1を一定の経路で循環させれば良いため、ヒートポンプ式冷房装置Aの構成が簡単で良い。又、暖房用循環装置Bも水冷コンデンサ3から熱を受ける第2の冷媒をヒータコア12と放熱器10を通る経路で循環させる構成であれば良い。冷房用循環装置Cも水冷エバポレータ6で吸熱された第3の冷媒を冷却器23を通る経路で循環させる構成であれば良い。そして、冷房モードでは、ヒートポンプ式冷房装置Aの水冷コンデンサ3の熱は、暖房用循環装置Bの放熱器10で車室外空気に放熱し、ヒートポンプ式冷房装置Aの水冷エバポレータ6によって第3の冷媒を冷却して冷房用循環装置Cの冷却器23で冷風を作り、暖房モードでは、ヒートポンプ式冷房装置Aの水冷コンデンサ3の熱によって第2の冷媒を加熱して暖房用循環装置Bのヒータコア12で温風を作ることができ、冷房と暖房ができる。以上より、ヒートポンプ式冷房装置Aを用いて暖房と冷房を行うシステムにあって、ヒートポンプ式冷房装置Aの構成を簡略化できると共に空調システム全体としても簡単な構成で済む。
【0058】
また、高圧となる第1の冷媒が通る水冷コンデンサ3及び水冷エバポレータ6は、車室内への送風路内に配置する必要がなく、空調ユニット40内には顕熱変化のみする第2及び第3の冷媒が通るヒータコア12及び冷却器23を配置するため、安全性が向上する。
【0059】
また、水冷コンデンサ3及び水冷エバポレータ6は水冷式であるため、空冷式に比べて熱伝達効率が高いためにコンパクト化でき、第1の冷媒の通路抵抗を減少させることができる。よって、通路抵抗が減少した分だけコンプレッサ2の所要動力が小さくなり、コンプレッサ2の駆動力を省力化できるとともにコンプレッサ2を小型化することができる。
【0060】
更に、第2循環経路8及び第3循環経路20の冷媒が液体で相変化せずに顕熱変化するものであるため、熱伝達効率が良くより小型化が図れる。
【0061】
この実施形態では、放熱器10をバイパスする放熱器バイパス流路13と、第2の冷媒を放熱器10又は放熱器バイパス流路13へと流すように流路を切り換える流路切換弁14とが設けられている。従って、暖房モードでは第2の冷媒を放熱器10にバイパスさせて流すことにより無駄な放熱を防止でき、冷房モードでは第2の冷媒を放熱器10に通すことにより不要な熱を車室外に放熱できるため、暖房性能と冷房性能の悪化を防止できる。
【0062】
この実施形態では、第2循環経路8に、第2の冷媒を加熱する電気ヒータ11が設けられている。従って、暖房運転時はヒートポンプ式冷房装置Aにおいて生じた熱と電気ヒータ11によって発生させた熱とを併用して車室内に導く送風を加熱することができるため、エンジンなどの大きな熱源を持たない車両において、外気温が極低温状態であっても十分な暖房性能を発揮することができる。
【0063】
また、第1の冷媒が通る水冷コンデンサ3及び水冷エバポレータ6は、車室内への送風路内に配置する必要がないため、第1の冷媒として二酸化炭素や可燃性冷媒を用いても安全性を確保できる。その上、二酸化炭素は、極低温状態でも飽和圧力が高く、その分第1の冷媒の流量をより確実に確保することができる。従って、冷媒循環量の減少による暖房性能の低下を極力防止でき、コンプレッサ2へのオイル戻り量の減少によるコンプレッサ2の動作不良を防止できる。
【0064】
この実施形態では、冷房モードでは、アイドルストップ時には第3循環経路20のポンプ21を作動するよう構成されている。従って、アイドリング時になるとエンジンが停止され、コンプレッサ2も駆動が停止される場合でも、第3の冷媒が冷却器23内を流れ、第3の冷媒の熱マスによって車室内に導く送風を冷却できる。従って、アイドルストップ時でも冷房性能の低下を極力防止できる。又、エンジンとコンプレッサ2の双方が停止されるため、低騒音化を図りつつ冷房運転が可能である。
【0065】
この実施形態では、暖房モードでは、アイドルストップ時には第2循環経路8のポンプ9を作動するよう構成されている。従って、アイドリング時になるとエンジンが停止され、コンプレッサ2の駆動も停止される場合でも、第2の冷媒がヒータコア12を流れ、第2の冷媒の熱マスによって車室内に導く送風を加熱できる。従って、アイドルストップ時でも暖房性能の低下を極力防止できる。又、エンジンとコンプレッサ2の双方が停止されるため、低騒音化を図りつつ暖房運転が可能である。
【0066】
本実施形態では、水冷コンデンサ3は電気ヒータ11の上流側に配置されるので、表面温度が電気ヒータ11より低い水冷コンデンサ3が電気ヒータ11より先に第2の冷媒と熱交換を行うこととなり、水冷コンデンサ3と第2の冷媒との温度差を極力大きくとることができ、水冷コンデンサ3における熱交換効率を向上させることができる。
【0067】
本実施形態では、暖房運転時、ミックスドア45によってエバポレータ6側の流路43を閉塞して排気ドア46を開放することで冷却器23を通過した冷風を空調ユニット40から車室外へと排出するので、冷風がヒータコア12によって加熱された温風と混ざることを防止して暖房性能をさらに向上させることができる。
【0068】
本実施形態では、冷却器23を通過した冷風とヒータコア12を通過した温風とをミックスドア45の開度を変えることで所定の割合で混合させることができるので、搭乗者の設定温度や外気に基づいて空調風の吹き出し温度を所望の温度に設定することができる。
【0069】
(変形例)
前記実施形態では、コンプレッサ2は、エンジンからの動力によって駆動するものであったが、変形例としてコンプレッサ2を電動コンプレッサにて構成しても良い。他の構成は前期実施形態と同様である。
【0070】
コンプレッサを電動コンプレッサとした場合には、エンジンより動力を得る必要がないため、ヒートポンプ式冷房装置Aをエンジンの配置位置を配慮することなく自由にレイアウトできる。これにより、ヒートポンプ式冷房装置Aの第1循環経路1がコンパクト化できるため、レイアウト性が向上する。又、通路抵抗の低減にも寄与する。
【0071】
また、エンジンがアイドリング時に停止するものにあって、アイドリング時に省電力化のために電動コンプレッサの駆動も停止する構成とする場合が考えられる。この場合にも、前記実施形態と同様に、冷房モードには第3循環経路20のポンプ21を作動させ、暖房モードには第2循環経路8のポンプ9を作動させるよう構成する。このように構成することによって、アイドルストップ時でも冷房性能及び暖房性能の低下を極力防止できる。
【0072】
(その他)
前記実施形態では、ヒータとして電気ヒータ11を使用しているが、燃焼ヒータなどを用いても同様の作用・効果を得ることができる。
【0073】
前記実施形態では、第1の冷媒として二酸化炭素を、第2の冷媒として水や不凍液などの液体をそれぞれ使用しているが、これら以外を冷媒として使用しても良いことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態を示し、車両用空気調和システムの冷媒循環装置の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、車両用空気調和システムの空調ユニットの詳細構成図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、暖房モードの冷媒循環状態を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態を示し、冷房モードの冷媒循環状態を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態を示し、暖房モードにおける空調ユニットの各ドア位置及び送風流れの一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態を示し、冷房モードにおける空調ユニットの各ドア位置及び送風流れの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
A ヒートポンプ式冷房装置
B 暖房用循環装置
C 冷房用循環装置
1 第1循環経路
2 コンプレッサ
3 水冷コンデンサ(コンデンサ)
5 膨張弁(膨張手段)
6 水冷エバポレータ(エバポレータ)
8 第2循環経路
9 ポンプ
10 放熱器
11 電気ヒータ(ヒータ)
12 ヒータコア
13 放熱器バイパス流路
14 流路切換弁
20 第3循環経路
21 ポンプ
23 冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜熱変化によって熱交換を行う第1の冷媒が循環する第1循環経路(1)を有するヒートポンプ式冷房装置(A)と、流体で、且つ、顕熱変化によって熱交換を行う第2の冷媒が循環する第2循環経路(8)を有する暖房用循環装置(B)と、流体で、且つ、顕熱変化によって熱交換を行う第3の冷媒が循環する第3循環経路(20)を有する冷房用循環装置(C)とを備え、
前記第1循環経路(1)には、第1の冷媒を圧縮するコンプレッサ(2)と、前記第2循環経路(8)内に配置され、第1の冷媒の熱を第2の冷媒へ放熱させるコンデンサ(3)と、第1の冷媒を膨張させる膨張手段(5)と、前記第3循環経路(20)内に配置され、前記膨張手段(5)で膨張された第1の冷媒が第3の冷媒の熱を吸熱するエバポレータ(6)とが設けられ、
前記第2循環経路(8)には、第2の冷媒を循環させるポンプ(9)と、第2の冷媒と車室内に導く送風との間で熱交換させて送風を加熱するヒータコア(12)と、第2の冷媒の熱を放熱させる放熱器(10)とが設けられ、
前記第3循環経路(20)には、第3の冷媒を循環させるポンプ(21)と、第3の冷媒と車室内に導く送風との間で熱交換させて送風を冷却する冷却器(23)とが設けられたことを特徴とする車両用空気調和システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空気調和システムであって、
前記放熱器(10)をバイパスする放熱器バイパス流路(13)と、第2の冷媒を前記放熱器(10)又は前記放熱器バイパス流路(13)へと流すように流路を切り換える流路切換弁(14)とが設けられたことを特徴とする車両用空気調和システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用空気調和システムであって、
前記第2循環経路(8)に、第2の冷媒を加熱するヒータ(11)が設けられたことを特徴とする車両用空気調和システム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の車両用空気調和システムであって、
前記コンプレッサ(2)は、電動コンプレッサであることを特徴とする車両用空気調和システム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の車両用空気調和システムであって、
第1の冷媒は、二酸化炭素若しくは可燃性冷媒であることを特徴とする車両用空気調和システム。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の車両用空気調和システムであって、
冷房モードでは、アイドルストップ時には前記第3循環経路(20)の前記ポンプ(21)を作動させたことを特徴とする車両用空気調和システム。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の車両用空気調和システムであって、
暖房モードでは、アイドルストップ時には前記第2循環経路(8)の前記ポンプ(9)を作動させたことを特徴とする車両用空気調和システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−12949(P2010−12949A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175021(P2008−175021)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】