説明

車両用空調装置

【課題】空調ケース内の冷却用熱交換器を吸熱器として用いたヒートポンプにより原動機の冷却水を加熱する場合に、冷却用熱交換器通過後の冷風が車室内に供給されて室内の快適性が損なわれるのを回避する。
【解決手段】ヒートポンプ運転時では、通常空調時に使用される冷却用熱交換器14を吸熱器として使用し、水−冷媒熱交換器を放熱器として使用することで、水−冷媒熱交換器で原動機の冷却水を加熱する。このとき、空調ユニット20では、外気導入口25とデフロスタ開口部28とを開き、エアミックスドア23を通常空調時の最大冷房位置として、送風機22を逆回転させることで、通常空調時とは逆方向の空気流れを作り出す。これにより、デフロスタ開口部28から空調ケース21内に吸い込まれた車室内空気の全てが、冷却用熱交換器14のみを通過して冷却された後、外気導入口25から車外へ排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機の冷却水をヒートポンプにより加熱する車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような車両用空調装置として特許文献1に記載のものがある。これは、空調ケース内に収容される冷却用熱交換器と、車室外に配置される室外熱交換器と、原動機の冷却水と冷媒とを熱交換させる水−冷媒熱交換器と、冷媒流れ方向を変更させるための四方弁とを備え、この四方弁によって冷媒流れ方向を変更させることで、車室内に向かって流れる空気を冷却用熱交換器で冷却する冷却運転(冷房運転)と、原動機の冷却水を水−冷媒熱交換器で加熱するヒートポンプ運転とを切り替えている。
【0003】
具体的には、冷却運転時では、室外熱交換器で冷媒を放熱させ、冷却用熱交換器で冷媒を吸熱させる冷媒流れとしており、ヒートポンプ運転時では、四方弁によって冷媒流れ方向を冷却運転時とは逆の方向に変更して、室外熱交換器で冷媒を吸熱させ、水−冷媒熱交換器で冷媒を放熱させる冷媒流れとしている。
【0004】
ところで、室内に異臭を吹き出すことを防止した車両用空調装置が特許文献2に開示されている。これは、送風機および圧縮機の停止条件のときに、送風機を逆回転させることにより、吹出口から吸入した車室内空気をヒータコアで加熱し、加熱した空気を冷却用熱交換器としての蒸発器に送風し、蒸発器を通過した後の空気を外気吸込口から放出することで、蒸発器に付着した凝縮水から異臭が発生する前に、蒸発器を乾かすものである。
【特許文献1】特開2005−306300号公報
【特許文献2】特開2002−67668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車両用空調装置によれば、原動機の運転開始直後のように、原動機の温度が低い場合に、ヒートポンプ運転によって原動機の冷却水を早く暖めて、早期に原動機の温度をエネルギー効率が良い温度とすることが可能である。
【0006】
しかし、この車両用空調装置では、ヒートポンプ運転時に、冷却運転時と異なり、冷却用熱交換器を吸熱器として使用せず、室外熱交換器を吸熱器として使用するために、冷媒流れ方向を冷却運転時とは逆の方向に変更するための四方弁が必要となり、冷媒回路の構成が複雑化するという問題がある。
【0007】
この問題を回避する方法としては、ヒートポンプ運転時においても冷却運転時と同様に、冷却用熱交換器を吸熱器として使うことが考えられる。これによれば、ヒートポンプ運転時の冷媒流れ方向を冷却運転時と同じ方向にできるので、四方弁を用いる必要が無くなり、特許文献1と比較して、冷媒回路の構成の複雑化を抑制できる。
【0008】
しかし、ヒートポンプ運転時に冷却用熱交換器を吸熱器として使う場合、別の問題が生じる。すなわち、この場合、送風機を作動させて冷却用熱交換器通過後の空気を車室内に供給すると、冷却用熱交換器通過後の空気は外気温以下の低い温度であるため、車室内の快適性が損なわれてしまう。
【0009】
そこで、ヒートポンプ運転時に冷却用熱交換器を吸熱器として使う場合では、ヒートポンプ運転時に、特許文献2のように、送風機の送風方向を反転させ、冷却用熱交換器通過後の空気を外気吸込口から放出することが考えられる。
【0010】
しかし、特許文献2のように、空気が冷却用熱交換器を通過する前に、ヒータコアを通過する構成では、空気がヒータコアを通過することで、水−冷媒熱交換器で加熱した冷却水の熱がヒータコアで奪われてしまうとともに、通風抵抗が増えて冷却用熱交換器の通過風量が減り、冷却用熱交換器の吸熱量が減ってしまう。このため、原動機の冷却水を早く暖めて、早期に原動機の温度をエネルギー効率が良い温度とするという目的を達成できない。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、原動機を早期に暖めるために、空調ケース内の冷却用熱交換器を吸熱器として用いたヒートポンプにより原動機の冷却水を加熱する構成であって、車室内の快適性を損なわない車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、送風機(22)によって車室内に向かって流れる空気を冷却用熱交換器(14)で冷却する冷却運転時では、室外熱交換器(12)で圧縮機(11)吐出後の冷媒を放熱させ、冷却用熱交換器(14)で冷媒を吸熱させ、原動機(3)を暖めるために原動機(3)の冷却水を水−冷媒熱交換器(15)で加熱するヒートポンプ運転時では、水−冷媒熱交換器(15)で圧縮機(11)吐出後の冷媒を放熱させ、冷却用熱交換器(14)で吸熱させる車両用空調装置であって、
送風機(22)は、送風方向を車室内に向かう方向とその逆の方向との間で変更可能なものであり、ヒートポンプ運転時では、送風機(22)の送風方向を冷却運転時の送風方向とは逆の方向として送風機(22)を作動させることにより、車室内連通口(28、29、30、40)から車室内空気を吸い込み、吸い込んだ空気の全てを冷却用熱交換器(14)と加熱用熱交換器(19)とのうち冷却用熱交換器(14)のみ通過させ、冷却用熱交換器(14)を通過した空気を外気導入口(25)から車室外に放出するようになっていることを特徴としている。
【0013】
このように、本発明では、ヒートポンプ運転時に、冷却用熱交換器(14)を吸熱器として使用し、水−冷媒熱交換器(15)を放熱器として使用することで、水−冷媒熱交換器(15)で原動機(3)の冷却水を加熱する構成となっている。
【0014】
そして、本発明では、このヒートポンプ運転時に、送風機(22)の送風方向を冷却運転時と逆の方向として、冷却用熱交換器(14)を通過した後の冷たい空気を外気導入口(25)から車室外に放出しているので、車室内に冷たい空気が供給されることで車室内の快適性を損なうことを回避できる。
【0015】
また、本発明では、車室内連通口(28、29、30、40)から吸い込んだ空気が、加熱用熱交換器(19)を通過せず、冷却用熱交換器(14)のみを通過するようにしているので、加熱用熱交換器(19)を通過する場合と比較して、効率良く冷却水を加熱できる。この結果、原動機の冷却水を早く暖めることができ、早期に、原動機の温度をエネルギー効率が良い温度にすることができる。
【0016】
請求項1に記載の発明においては、例えば、請求項2に記載の構成を採用できる。すなわち、ヒートポンプ運転時では、エアミックスドア(23)の位置を冷却運転時の最大冷房位置とした状態で、複数の吹出開口部(28、29、30)のいずれかから車室内空気を吸い込む構成を採用できる。
【0017】
この構成では、エアミックスドア(23)の位置を冷却運転時の最大冷房位置とすることで、加熱用熱交換器(19)に空気を通過させずに、冷却用熱交換器(14)のみに空気を通過させことができる。
【0018】
さらに、請求項2に記載の発明では、例えば、請求項3に記載の構成を採用できる。すなわち、ヒートポンプ運転時では、デフロスタ開口部(28)を開とし、デフロスタ開口部(28)を除く複数の吹出開口部(29、30)を閉とした状態で、デフロスタ開口部(28)から車室内空気を吸い込む構成を採用できる。
【0019】
ここで、車室内の吹出口から吸い込まれる空気が乗員を通過すると、乗員が冷風感を感じてしまうが、本発明のように、乗員から最も離れた位置にあるデフロスタ吹出口と連通するデフロスタ開口部のみから吸い込むようにすることで、乗員が冷風感を感じ難くすることができる。
【0020】
また、請求項1に記載の発明においては、例えば、請求項4に記載の構成を採用できる。すなわち、空調ケース(21)は、冷却運転時に車室内に空気を吹き出すための吹出開口部(28、29、30)と、車室内連通口として、冷却用熱交換器(14)と加熱用熱交換器(19)との間に設けられた内気吸込用開口部(40)とを有し、冷却運転時では、内気吸込用開口部(40)が閉じられ、ヒートポンプ運転時では、吹出開口部(28、29、30)の全てが閉じた状態で、内気吸込用開口部(40)から車室内空気を吸い込む構成を採用できる。
【0021】
この構成では、空調ケースのうち冷却用熱交換器(14)と加熱用熱交換器(19)との間に設けられた開口部(40)から車室内空気を吸い込むようにしているので、加熱用熱交換器(19)を通過させずに、冷却用熱交換器(14)に空気を通過させことができる。
【0022】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態における車両用空調装置1の全体構成を示す。図1に示すように、車両用空調装置1は、蒸気圧縮式冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)を構成する冷媒回路2と、原動機としてのエンジン3を冷却する冷却水回路4とを備えている。
【0024】
冷媒回路2は、圧縮機11と、室外熱交換器12と、第1の膨張弁13と、蒸発器14とが順に直列接続され、圧縮機11と室外熱交換器12との間に、水−冷媒熱交換器15および第2の膨張弁16が順に直列接続されている。さらに、冷媒回路2は、水−冷媒熱交換器15および第2の膨張弁16をバイパスして冷媒が流れるバイパス通路17と、バイパス通路17を開閉する開閉手段としての第1の電磁弁18とを有している。
【0025】
この冷媒回路2では、冷媒としてフロン系冷媒を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成する。なお、冷凍サイクルを構成する各機能部11〜16は、冷媒配管等によって接続されている。
【0026】
各機能部11〜16について説明すると、圧縮機11は冷媒を圧縮して吐出するものであり、室外熱交換器12は冷媒と車室外空気とを熱交換させる熱交換器であり、第1の膨張弁13は、冷媒を減圧膨張させる第1の減圧手段である。
【0027】
また、蒸発器14は、冷媒と空気との熱交換により、液相の冷媒が吸熱して蒸発することで、空気を冷却する冷却用熱交換器(冷房用熱交換器)である。蒸発器14は、車室内最前部の図示しない車両計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置される空調ユニット20の空調ケース21の内部に収容されている。
【0028】
水−冷媒熱交換器15は、冷却水が流れる冷却水通路15aと、圧縮機11から吐出された高温高圧冷媒が流れる冷媒通路15bとを有し、冷却水と冷媒とを熱交換させて、冷媒から冷却水への放熱により、冷却水を加熱する熱交換器である。
【0029】
第2の膨張弁16は、冷媒を減圧膨張させる第2の減圧手段であり、後述するように、ヒートポンプ運転時に室外熱交換器12を吸熱器として使用するために用いている。
【0030】
一方、冷却水回路4は、エンジン3と、ヒータコア19と、水−冷媒熱交換器15とが接続されており、図示しないウォータポンプによって、エンジン3を冷却する冷却水が循環するように構成されている。
【0031】
ヒータコア19は、エンジンによって加熱された冷却水と空気とを熱交換させて、空気を加熱する加熱用熱交換器(暖房用熱交換器)である。ヒータコア19は、空調ユニット20の空調ケース21の内部に収容されている。
【0032】
本実施形態では、オートエアコン時に、図示しない制御装置(エアコンECU)が第1の電磁弁18の開閉を切り替えることで、冷凍サイクルの運転モードが、冷却運転とヒートポンプ運転との間で切り替えられるようになっている。
【0033】
冷却運転は、送風機の作動によって車室内に向かって流れる空気を蒸発器14で冷却することを目的とした運転モードであり、車室内の冷房、除湿、暖房を行う通常の空調時に実行される運転モードである。
【0034】
この冷却運転時では、第1の電磁弁18が開状態となることで、図1中の破線矢印で示すように、圧縮機11→バイパス通路17→室外熱交換器12→第1の膨張弁13→蒸発器14→圧縮機11の順に冷媒が循環する冷凍サイクルが構成される。
【0035】
すなわち、圧縮機11吐出後の高温高圧の冷媒は、室外熱交換器12で車室外空気と熱交換することで放熱して凝縮し、第1の膨張弁13で減圧膨張された後、蒸発器14で車室内に向かって流れる空気から吸熱して蒸発する。これにより、蒸発器14を通過する空気が冷却される。そして、蒸発器14で吸熱した冷媒は、圧縮機11に吸入されて圧縮される。
【0036】
一方、ヒートポンプ運転は、冷却水を水−冷媒熱交換器15で加熱することでエンジン3を早く暖めることを目的とした運転モードである。ただし、本実施形態のヒートポンプ運転は、車室内暖房を目的としたものではない。
【0037】
なお、運転モードの切替は、冷却水温度を検出する図示しない水温センサからの入力結果に基づいて、制御装置が実行するようになっている。例えば、冷却水の温度が60℃以下のとき、ヒートポンプ運転が実行される。
【0038】
このヒートポンプ運転時では、第1の電磁弁18が閉状態となることで、図1中の実線矢印で示すように、圧縮機11→水−冷媒熱交換器15→第2の膨張弁16→室外熱交換器12→第1の膨張弁13→蒸発器14→圧縮機11の順に冷媒が循環する冷凍サイクルが構成される。
【0039】
すなわち、圧縮機11吐出後の高温高圧の冷媒が、水−冷媒熱交換器15で冷却水と熱交換して放熱することで、冷却水が加熱される。そして、水−冷媒熱交換器15を通過した冷媒は、第2の膨張弁16で減圧膨張された後、室外熱交換器12で車室外空気から吸熱する。さらに、室外熱交換器12を通過した冷媒は、第1の膨張弁13で減圧膨張された後、蒸発器14で車室内に向かって流れる空気から吸熱して蒸発する。これにより、蒸発器14を通過する空気が冷却される。そして、蒸発器14で吸熱した冷媒は、圧縮機11に吸入されて圧縮される。
【0040】
このように、本実施形態では、冷却運転では、室外熱交換器12を放熱器として使用し、蒸発器14を吸熱器として使用しているのに対して、ヒートポンプ運転では、室外熱交換器12および蒸発器14を吸熱器として使用し、水−冷媒熱交換器15を放熱器として使用している。
【0041】
そして、本実施形態では、ヒートポンプ運転時に、室外熱交換器12と蒸発器14の2つを吸熱器として使用することで、蒸発器14のみを吸熱器として使用する場合と比較して、冷媒の吸熱量を増大させることを図っている。
【0042】
次に、空調ユニット20について説明する。図2、3に、空調ユニット20の断面図を示す。図2は、冷凍サイクルの運転モードが冷却運転の場合を示しており、図3は、冷凍サイクルの運転モードがヒートポンプ運転の場合を示している。なお、図2、3の上下方向が空調ユニット20の車両搭載状態での上下方向である。
【0043】
図2に示すように、空調ユニット20は空調ケース21を備えており、この空調ケース21の内部には、冷却運転時の空気流れ(空調風流れ)の上流側から順に、送風機22、蒸発器14、エアミックスドア23、ヒータコア19が配置されている。
【0044】
空調ケース21は、冷却運転時に車室内に向かって空気が流れる空気通路を内部に形成するものであり、樹脂製である。空調ケース21は、図2、3では区別していないが、送風機22を収容する送風機ユニットケース部と、蒸発器14およびヒータコア19を収容する空調本体ケース部とを有している。空調本体ケース部では、蒸発器14、エアミックスドア23およびヒータコア19は、例えば、車両搭載状態で、車両の前から後に向かって順に並んで配置される。
【0045】
エアミックスドア23は、冷却運転時に蒸発器14を通過する空気量とヒータコア19を通過する空気量とを調整するものであり、板ドアによって構成される。なお、エアミックスドア23をスライドドア等の他のドアによって構成しても良い。
【0046】
また、図2、3では区別していないが、空調ケース21は、蒸発器14およびヒータコア19よりも空調風流れ上流側に内外気切替部を有しており、この内外気切替部には、車室内空気(内気)を吸い込むための内気吸込口24と、車室外空気(外気)を吸い込むための外気吸込口25と、これらの両吸込口24、25を開閉する開閉ドア26、27とが設けられている。
【0047】
また、空調ケース21は、蒸発器14およびヒータコア19よりも空調風流れ下流側に、複数の吹出開口部28、29、30と、これらを選択して開閉する吹出モードドア31、32、33とを有している。複数の吹出開口部28、29、30は、車室内に空調風を吹き出すための開口部であり、それぞれ、車室内に設けられている各吹出口と連通している。複数の吹出開口部は、例えば、デフロスタ開口部28、フェイス開口部29およびフット開口部30であり、それぞれに、吹出モードドアとして、デフロスタ用ドア31、フェイス用ドア32およびフット用ドア33が設けられている。
【0048】
本実施形態の送風機22は、送風方向を正方向(内気導入口24もしくは外気導入口25から複数の吹出開口部28、29、30に向かう方向)とその逆の方向との間で変更可能なものであり、例えば、正回転と逆回転との切替が可能な軸流ファンが用いられている。
【0049】
そして、冷却運転時(空調時)では、図示しない制御装置が、図2に示すように、送風機22を正回転で作動させることで、一般的な空調時と同様に、空調ケース21内に車室内に向かう空気流れが作り出される。
【0050】
このとき、図示しない制御装置によって、外気導入口25の開閉ドア27の位置と、内気導入口24の開閉ドア26の位置とが所望の空気導入モードに応じた位置とされ、吹出モードドア31、32、33の位置が所望の吹出モードに応じた位置とされる。例えば、空気導入モードが外気導入モードでの最大暖房時では、図2中の矢印のように、外気導入口25から導入された空気は、蒸発器14を通過した後、ヒータコア19を通過することで所望温度の空調風となって、デフロスタ開口部28およびフット開口部30から車室内に吹き出される。
【0051】
一方、ヒートポンプ運転時では、図示しない制御装置が、図3に示すように、送風機22を逆回転で作動させることで、冷却運転時とは逆の方向の空気流れが作り出される。このとき、制御装置によって、内気導入口24の開閉ドア26は閉の位置とされ、外気導入口25の開閉ドア27は開の位置とされ、エアミックスドア23は冷却運転時の最大冷房位置とされ、デフロスタ用ドア31は開の位置とされ、フェイス用ドア32およびフット用ドア33は閉の位置とされる。
【0052】
これにより、図3中の矢印のように、送風機22と蒸発器14の両方の車両後方側に位置するデフロスタ開口部28から空調ケース21内に吸い込まれた車室内空気は、蒸発器14を通過して冷却された後、外気導入口25から車外へ排出される。このとき、吹出開口部の1つであるデフロスタ開口部28から内気を吸入しており、フェイス用ドア32およびフット用ドア33は閉の位置であるため、車室内への送風は無い。
【0053】
このように、本実施形態では、ヒートポンプ運転時に、送風機22による送風方向を冷却運転時と逆の方向として、デフロスタ開口部28から内気を吸い込み、吸い込んだ空気の全てを蒸発器14を通過させ、蒸発器14を通過した後の冷風を外気導入口25から車室外に放出しているので、車室内に冷風が供給されることで車室内の快適性を損なうことを回避できる。
【0054】
また、本実施形態では、このヒートポンプ運転時に、エアミックスドア23の位置を最大冷房位置としているので、デフロスタ開口部28から吸い込んだ空気は、ヒータコア19を通過せず、蒸発器14のみを通過する。
【0055】
ここで、本実施形態と異なり、デフロスタ開口部28から吸い込んだ空気がヒータコア19を通過した後に、蒸発器14を通過する場合では水−冷媒熱交換器15で加熱した冷却水の熱が奪われたり、通風抵抗が増えて蒸発器14の通過風量が減って蒸発器14の吸熱量が減少したりしてしまう。
【0056】
これに対して、本実施形態では、デフロスタ開口部28から吸い込んだ空気はヒータコア19を通過しないので、空気がヒータコア19を通過する場合と比較して、効率良く冷却水を加熱できるので、温水を早く温めてエンジン効率を上げることができる。
【0057】
また、車室内の吹出口から車室内空気を吸い込む場合では、乗員の周囲に風が生じることで乗員が冷風感を感じてしまうが、本実施形態では、複数の吹出開口部28、29、30のうち、乗員から最も離れているデフロスタ吹出口と連通するデフロスタ開口部28のみから吸い込むようにしているので、乗員が冷風感を感じ難くすることができる。
【0058】
また、本実施形態の冷媒回路2は、圧縮機11、水−冷媒熱交換器15、第2の膨張弁16、室外熱交換器12、第1の膨張弁13、蒸発器14の順に直列接続される冷媒回路に対して、水−冷媒熱交換器15、第2の膨張弁16をバイパスするバイパス通路17と、バイパス通路17を開閉する第1の電磁弁18とを設けた簡素な構成である。そして、冷却運転時とヒートポンプ運転時では、ともに、圧縮機11→・・・→室外熱交換器12→第1の膨張弁13→蒸発器14→圧縮機11の順に冷媒が流れるようになっている。
【0059】
このように、本実施形態では、ヒートポンプ運転時に蒸発器14を吸熱器として使用することから、冷媒回路2の冷媒流れ方向を冷却運転時と同じ方向にすることができる。この結果、本実施形態によれば、特許文献1に記載の冷媒流れを反転させるための四方弁が不要となり、特許文献1に記載の冷媒回路と比較して、回路構成を簡略化できる。
【0060】
(第2実施形態)
図4、5に、本実施形態における空調ユニット20の断面図を示す。図4は、冷凍サイクルの運転モードが冷却運転の場合を示しており、図5は、冷凍サイクルの運転モードがヒートポンプ運転の場合を示している。なお、図4、5では、図2、3と同一の構成部に同一の符号を付している。
【0061】
図4、5に示すように、本実施形態では、空調ケース21に、ヒートポンプ運転時に車室内空気を吸い込むための内気吸込用開口部40と、この内気吸込用開口部40を開閉する開閉ドア41とが設けられている。
【0062】
この内気吸込用開口部40は、内気導入口24、外気導入口25および複数の吹出開口部28、29、30とは別に設けられており、蒸発器14とヒータコア19との間に配置されている。なお、蒸発器14とヒータコア19との間とは、冷却運転時の空気流れ方向での間であり、空調ユニット20の車両搭載状態では車両前後方向での間である。
【0063】
そして、冷却運転時(空調時)では、図示しない制御装置によって、図4に示すように、内気吸込用開口部40の開閉ドア41は閉の位置とされ、送風機22が正回転で作動することで、空調ケース21内に車室内に向かう空気流れが作り出される。このとき、図示しない制御装置によって、外気導入口25の開閉ドア27の位置と、内気導入口24の開閉ドア26の位置とが所望の空気導入モードに応じた位置とされ、吹出モードドア31、32、33の位置が所望の吹出モードに応じた位置とされる。
【0064】
例えば、空気導入モードが外気導入モードでの最大暖房時では、図4中の矢印のように、外気導入口25から導入された空気は、蒸発器14を通過した後、ヒータコア19を通過することで所望温度の空調風となって、デフロスタ開口部28およびフット開口部30から車室内に吹き出される。
【0065】
一方、ヒートポンプ運転時では、図示しない制御装置によって、図5に示すように、内気吸込用開口部40のドア41および外気導入口25の開閉ドア27は開の位置とされ、送風機22が逆回転で作動することで、冷却運転時(空調時)とは逆方向の空気流れが作り出される。このとき、図示しない制御装置によって、内気導入口24の開閉ドア26は閉の位置とされ、エアミックスドア23は冷却運転時(空調時)の最大暖房位置とされ、デフロスタ用ドア31、フェイス用ドア32およびフット用ドア33は閉の位置とされる。
【0066】
これにより、図5中の矢印のように、内気吸込用開口部40から車室内空気が吸い込まれ、吸い込まれた車室内空気の全てが、蒸発器14を通過して冷却された後、外気導入口25から車外へ排出される。
【0067】
このように、本実施形態では、ヒートポンプ運転時では、複数の吹出開口部28、29、30を閉じた状態で、蒸発器14とヒータコア19との間に設けられた内気吸込用開口部40から車室内空気を吸い込むようにしているので、ヒータコア19を通過させずに、蒸発器14のみに空気を通過させことができる。
【0068】
このため、本実施形態によれば、第1実施形態のように、エアミックスドア23の位置を最大冷房位置に設定する必要が無いので、エアミックスドア23の位置を最大暖房位置に設定することが可能となり、このようにエアミックスドア23の位置を最大暖房位置に設定しておくことで、ヒートポンプ運転の終了後、すぐに車室内暖房へ移行することができる。
【0069】
また、本実施形態によれば、内気吸込用開口部40から車両計器盤(インストルメントパネル)の内側の車室内空気を吸い込むようにしており、乗員が存在する空間と車両計器盤で隔てられた空間の空気を吸い込むので、乗員が存在する空間の空気をデフロスタ開口部28から直接吸い込む第1実施形態と比較して、乗員が感じる冷風感をより抑制できる。
【0070】
また、本実施形態によれば、デフロスタ開口部28よりも蒸発器14に近い内気吸込用開口部40から空気を吸い込むようにすることで、第1実施形態と比較して、空調ケース21内を流れる空気の距離を短くでき、通風抵抗を減少させることができるので、蒸発器14の吸熱量を増加させることができ、冷却水を早く暖めることができる。
【0071】
(第3実施形態)
図6に、本実施形態における車両用空調装置1の全体構成を示す。図6では、図1と同一の構成部に同一の符号を付している。
【0072】
本実施形態では、図1に示される冷媒回路2に対して、第2の膨張弁16、バイパス通路17および第1の電磁弁18を省略している。このため、本実施形態の冷媒回路2は、圧縮機11、水−冷媒熱交換器15、室外熱交換器12、第1の膨張弁13、蒸発器14の順に直列接続された構成であり、第1実施形態と比較してより簡素な構成となっている。
【0073】
そして、冷却運転時では、図6中の破線矢印で示すように、圧縮機11→水−冷媒熱交換器15→室外熱交換器12→第1の膨張弁13→蒸発器14→圧縮機11の順に冷媒が循環する冷凍サイクルが構成される。
【0074】
一方、ヒートポンプ運転時では、図6中の実線矢印で示すように、圧縮機11→水−冷媒熱交換器15→室外熱交換器12→第1の膨張弁13→蒸発器14→圧縮機11の順に冷媒が循環する冷凍サイクルが構成される。本実施形態では、第1実施形態と異なり、室外熱交換器12と蒸発器14のうち蒸発器14のみを吸熱器として使用している。
【0075】
(第4実施形態)
図7に、本実施形態における車両用空調装置1の全体構成を示す。図7では、図1と同一の構成部に同一の符号を付している。
【0076】
本実施形態の冷媒回路2は、図6の冷媒回路2に対して圧縮機11の冷媒吐出側である圧縮機11と第1の膨張弁13との間の接続関係を変更したものである。具体的には、圧縮機11と第1の膨張弁13との間に、室外熱交換器12と水−冷媒熱交換器15とを並列に接続している。そして、室外熱交換器12を流れる冷媒の通路を開閉する第2の電磁弁51と、水−冷媒熱交換器15を流れる冷媒の通路を開閉する第3の電磁弁52とを設けている。
【0077】
本実施形態では、冷却運転時では、第2の電磁弁51が開状態となり、第3の電磁弁52が閉状態となることで、図7中の破線矢印で示すように、圧縮機11→室外熱交換器12→第1の膨張弁13→蒸発器14→圧縮機11の順に冷媒が循環する冷凍サイクルが構成される。
【0078】
一方、ヒートポンプ運転時では、第2の電磁弁51が閉状態となり、第3の電磁弁52が開状態となることで、図7中の実線矢印で示すように、圧縮機11→水−冷媒熱交換器15→第1の膨張弁13→蒸発器14→圧縮機11の順に冷媒が循環する冷凍サイクルが構成される。
【0079】
(他の実施形態)
(1)第1実施形態では、送風機22の位置を、蒸発器14よりも冷却運転時における空気流れの上流側の位置としたが、蒸発器14とヒータコア19との間の位置や、ヒータコア19よりも下流側の位置等に変更しても良い。
【0080】
同様に、第2実施形態では、送風機22の位置を、蒸発器14よりも冷却運転時における空気流れの上流側の位置としたが、内気吸込用開口部40から外気導入口25までの範囲内であれば、他の位置に変更しても良い。
【0081】
(2)第1実施形態では、ヒートポンプ運転時に、複数の吹出開口部28、29、30のうちデフロスタ開口部28のみから吸い込むようにしていたが、蒸発器14を通過した空気を車外に排出するという観点では、複数の吹出開口部28、29、30のいずれか1つもしくは複数から吸い込むようにしても良い。
【0082】
(3)上述の各実施形態では、エアミックスドア23の位置を、ヒータコア19よりも冷却運転時における空気流れの上流側の位置としたが、ヒータコア19の下流側の位置としても良い。
【0083】
(4)上述の各実施形態では、空調ケース21は、送風機22を収容する送風機ユニットケース部と、蒸発器14およびヒータコア19を収容する空調本体ケース部とを有していたが、1つの空調ケースの内部に送風機22、蒸発器14およびヒータコア19を収容する構成としても良い。
【0084】
(5)上述の各実施形態では、原動機がエンジンである場合を説明したが、原動機は、例えば、燃料電池等のエンジン以外のものでも良い。
【0085】
(6)上述の各実施形態では、フロン系冷媒を用いていたが、他の冷媒を用いても良く、二酸化炭素(CO2)のように高圧圧力が臨界圧力を超える冷媒を用いても良い。
【0086】
(7)上述の各実施形態を組み合わせ可能な範囲で任意に組み合わせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1実施形態における車両用空調装置1の全体構成を示す図である。
【図2】冷却運転時の図1中の空調ユニット20の断面図である。
【図3】ヒートポンプ運転時の図1中の空調ユニット20の断面図である。
【図4】冷却運転時の第2実施形態の空調ユニット20の断面図である。
【図5】ヒートポンプ運転時の第2実施形態の空調ユニット20の断面図である。
【図6】第3実施形態における車両用空調装置1の全体構成を示す図である。
【図7】第4実施形態における車両用空調装置1の全体構成を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
3 エンジン
11 圧縮機
12 室外熱交換器
14 冷却用熱交換器
15 水−冷媒熱交換器
19 ヒータコア
21 空調ケース
22 送風機
23 エアミックスドア
28 デフロスタ開口部
29 フェイス開口部
30 フット開口部
40 内気吸込用開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)と、
冷媒と車室外空気とを熱交換させる室外熱交換器(12)と、
冷媒と空気とを熱交換させて、空気を冷却する冷却用熱交換器(14)と、
冷媒と原動機(3)を冷却する冷却水とを熱交換させて、冷却水を加熱する水−冷媒熱交換器(15)と、
車室内に向かって空気が流れる空気通路を内部に形成するとともに、前記冷却用熱交換器(14)を収容する空調ケース(21)と、
前記空調ケース(21)に収容され、車室内に向かって送風する送風機(22)と、
前記空調ケース(21)の前記冷却用熱交換器(14)よりも車室内に向かう空気流れ下流側に収容され、前記原動機(3)の冷却水と空気との熱交換により、前記冷却用熱交換器(14)を通過した空気を加熱する加熱用熱交換器(19)とを備え、
前記送風機(22)によって車室内に向かって流れる空気を前記冷却用熱交換器(14)で冷却する冷却運転時では、前記室外熱交換器(12)で前記圧縮機(11)吐出後の冷媒を放熱させ、前記冷却用熱交換器(14)で冷媒を吸熱させ、
前記原動機(3)を暖めるために、前記原動機(3)の冷却水を前記水−冷媒熱交換器(15)で加熱するヒートポンプ運転時では、前記水−冷媒熱交換器(15)で前記圧縮機(11)吐出後の冷媒を放熱させ、前記冷却用熱交換器(14)で吸熱させる車両用空調装置であって、
前記送風機(22)は、送風方向を車室内に向かう方向とその逆の方向との間で変更可能なものであり、
前記空調ケース(21)は、前記冷却運転時に車室外空気を吸い込むための外気導入口(25)と、前記冷却用熱交換器(14)を挟んだ前記前記外気導入口(25)の反対側で車室内と連通する車室内連通口(28、29、30、40)とを有し、
前記ヒートポンプ運転時では、前記送風機(22)の送風方向を前記冷却運転時の送風方向とは逆の方向として前記送風機(22)を作動させることにより、前記車室内連通口(28、29、30、40)から車室内空気を吸い込み、吸い込んだ空気の全てを前記冷却用熱交換器(14)と前記加熱用熱交換器(19)とのうち前記冷却用熱交換器(14)のみ通過させ、前記冷却用熱交換器(14)を通過した空気を前記外気導入口(25)から車室外に放出するようになっていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記空調ケース(21)は、前記車室内連通口として、前記冷却運転時に車室内に空気を吹き出すための複数の吹出開口部(28、29、30)を有し、
前記空調ケース(21)の内部に、前記冷却運転時に前記冷却用熱交換器(14)を通過する空気量と前記加熱用熱交換器(19)を通過する空気量とを調整するエアミックスドア(23)が設けられており、
前記ヒートポンプ運転時では、前記エアミックスドア(23)の位置を前記冷却運転時の最大冷房位置とした状態で、前記複数の吹出開口部(28、29、30)のいずれかから車室内空気を吸い込むようになっていることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記ヒートポンプ運転時では、前記複数の吹出開口部のうちデフロスタ開口部(28)を開とし、前記デフロスタ開口部(28)を除く前記複数の吹出開口部(29、30)を閉とした状態で、前記デフロスタ開口部(28)から車室内空気を吸い込むようになっていることを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記空調ケース(21)は、
前記冷却運転時に車室内に空気を吹き出すための吹出開口部(28、29、30)と、
前記車室内連通口として、前記冷却用熱交換器(14)と前記加熱用熱交換器(19)との間に設けられた内気吸込用開口部(40)とを有し、
前記冷却運転時では、前記内気吸込用開口部(40)は閉じた状態とされ、
前記ヒートポンプ運転時では、前記吹出開口部(28、29、30)の全てが閉じた状態で、前記内気吸込用開口部(40)から車室内空気を吸い込むようになっていることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate