説明

車両用空調装置

【課題】車室内コンデンサやブロアの容量を大きくすることなく、充分な暖房能力を発揮させることができるようにする。
【解決手段】暖房用冷媒回路6bに、電動コンプレッサ8とサブコンデンサ4と電子膨張弁12とエバポレータ3とが順次接続されており、エアコン制御装置21は暖房運転においては、電子膨張弁12を全開とし、冷媒を断熱膨張させることなく電子膨張弁12から流出させる。その結果冷媒がエバポレータ3を通過する際に、空調用空気ダクト2内の空気を冷却することが無く、電動コンプレッサ8の圧縮仕事を熱源として車室内を効率よく暖房することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動コンプレッサの圧縮仕事を熱源として車室内の暖房を行う車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、電気自動車や燃料電池車等のような電気をエネルギ源とする車両に搭載されている空調装置は、冷房時においては、冷凍サイクル内を循環するヘリウム等の冷媒を媒介として車室内の熱を受熱し、受熱した熱を車室外へ廃熱するようにしている。
【0003】
一方、暖房に際しては、電気をエネルギー源としてる車両には、エンジン搭載車のように、エンジンの発熱を熱源とすることができないため、PTCヒータ等の発熱手段を別途確保する必要がある。例えば特許文献1(特開平8−91041号公報)には、空調用空気ダクトに、発熱手段として複数のPTCヒータを配設し、この各PTCヒータを選択的に発熱させることで、空気の加熱温度を調整するようにした空調装置が開示されている。
【0004】
又、特許文献2(特開2000−33816号公報)には、発熱手段として燃焼ヒータを採用し、この燃焼ヒータ内で燃焼させた際に発生した燃焼ガスにて温水を加熱することで、この温水が流通するヒータコアを通過する空気を加熱するようにした空調装置が開示されている。
【特許文献1】特開平8−91041号公報
【特許文献2】特開2000−33816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した各文献に開示されている技術では、発熱手段のみで暖房時の熱源を確保しようとしているため、容量の大きな発熱手段が必要となり、電力消費量が増すばかりでなく、容量が増加した分の発熱手段を設置するスペースを確保する必要があり、装置全体が大型化してしまう問題がある。
【0006】
又、ヒートポンプ式空調装置を採用する車両では、四方弁を用いて、冷媒の流れを切換えることで、冷房運転と暖房運転とを選択的に実行させる技術が知られている。
【0007】
ところで、ヒートポンプ式空調装置を暖房運転させるに際しては、暖房性能が車室内熱交換器の容量で決定されるため、コンプレッサの容量が同じ場合は、車室内熱交換器(暖房運転ではコンデンサとして機能するもの)の容量を大きくするか、この車室内熱交換器を通過する空気の単位時間あたりの通風量を増やす必要がある。
【0008】
しかし、車室内熱交換器は、予め容積の決められた空調用空気ダクト内に配設されているため、この車室内熱交換器の容量を大きくすると、空調用空気ダクト内の空気流量が車室内熱交換器によって絞られてしまうため、空気流量を確保するにはブロアの容量を大きくする必要があり、電力消費量や騒音が増大してしまう不都合がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、発熱手段や車室内熱交換器、及びブロアの容量を大きくすることなく、充分な暖房能力を発揮させることのできる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明による車両用空調装置は、少なくとも電動コンプレッサと車室内コンデンサと電子膨張弁と車室内エバポレータとが順次接続された冷媒回路と、前記電子膨張弁の開度を制御する制御手段とを有し、前記制御手段は、暖房運転時に前記電子膨張弁を全開させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、冷媒回路に設けた電子膨張弁の開度を、暖房運転時は全開させるようにしたので、電動コンプレッサの圧縮仕事により発生した熱を、そのまま車室内コンデンサへ導いて熱交換させることができると共に、電子膨張弁を通過する際に冷媒が断熱膨張することがないため、冷媒が車室内エバポレータを通過する際に空気を冷却することがなく、更に、車室内エバポレータを通過する冷媒が高温の場合は、この車室内エバポレータがコンデンサとして機能するため、車室内をより効率よく暖房することができる。
【0012】
その結果、車室内の暖房を行うための発熱手段や車室内コンデンサ及び、車室内コンデンサを通過させて車室内に空気を送り込むブロアの容量を大きくすることなく、充分な暖房能力を発揮させることができる。従って、相対的に装置全体の小型化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1に車両用空調装置の回路構成を示す。尚、本実施形態では、車両として電気自動車(EV:Electric Vehicle)を例示して説明するが、エンジン駆動系が搭載されている車両であっても、エンジンの発熱を熱源として利用することができない車両にも適用することができる。
【0014】
同図に示すように、車両用空調装置1は、インストルメントパネルの内部等に配設されて外気或いは内気を車室内へ導く空調用空気ダクト2を有している。尚、図示しないが空調用空気ダクト2の上流には、内気或いは外気を下流方向へ送り出すブロアが配設されている。
【0015】
又、この空調用空気ダクト2内の、ブロアにより内気或いは外気が吹き出される上流側に車室内エバポレータとしてのエバポレータ3が配設され、下流側に車室内コンデンサとしてのサブコンデンサ4が配設されている。このサブコンデンサ4は、後述するメインコンデンサ10よりも容量が小さく、このサブコンデンサ4による加熱不足は、その直下流に配設されている発熱手段としてのPTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータ5の発熱によって補われる。PTCヒータ5は後述するエアコン制御装置(A/C_ECU)21からの制御電圧に基づいて発熱温度が設定される。
【0016】
このエバポレータ3は冷媒配管6に介装されている。この冷媒配管6は、冷房運転時の冷凍サイクルを形成する冷房用冷媒回路6aと、暖房運転時の冷凍サイクルを形成する暖房用冷媒回路6bとを備えていると共に、両冷凍回路6a,6bの一部が共用されている。この両冷凍回路6a,6bの共用部分にエバポレータ3が介装されており、このエバポレータ3上流側にアキュムレータ7が介装され、更に、その上流に冷媒を送出する電動式エアコンコンプレッサ(以下「電動コンプレッサ」と称する)8が介装されている。又、エバポレータ3の下流側に、絞り開度を全開から予め設定されている開度まで可変可能な電子膨張弁12が介装されている。
【0017】
又、冷凍回路6a,6bの共用部分であって、電動コンプレッサ8の上流側に、流路切換手段としての流路切換弁14が介装されている。両冷凍回路6a,6bは流路切換弁14を介して、その上流側が各々独立され、この独立された各冷媒回路6a,6bが電子膨張弁12の下流側で合流されている。独立された冷房用冷媒回路6aの上流側に、クーリングファン9により送風を受ける車室外コンデンサとしてのメインコンデンサ10が介装され、その下流にレシーバ11が介装されている。更に、独立された暖房用冷媒回路6bにサブコンデンサ4が介装されている。
【0018】
上述した流路切換弁14は三方弁であり、冷房運転時は暖房用冷媒回路6b側を遮断し、電動コンプレッサ8をメインコンデンサ10側に連通させ、暖房運転時は冷房用冷媒回路6aを遮断し、電動コンプレッサ8をサブコンデンサ4側へ連通させる。従って、冷房運転時は、図1の黒塗り矢印で示すように、電動コンプレッサ8から送出された冷媒が、メインコンデンサ10、レシーバ11、ドライヤ(図示せず)、電子膨張弁12、エバポレータ3、アキュムレータ7を循環する冷房用冷凍サイクルが形成される。又、暖房運転時は、図1の白抜き矢印で示すように、電動コンプレッサ8から送出された冷媒が、サブコンデンサ4、ドライヤ(図示せず)、電子膨張弁12、エバポレータ3、アキュムレータ7を循環する暖房用冷凍サイクルが形成される。
【0019】
上述したPTCヒータ5、電動コンプレッサ8、電子膨張弁12、流路切換弁14は、A/C_ECU21からの信号に基づいて制御動作される。尚、本実施形態では、流路切換弁14は非通電(OFF)状態で、暖房用冷媒回路6b側を遮断して、電動コンプレッサ8をメインコンデンサ10に連通させ、又、通電(ON)状態でメインコンデンサ10側を遮断し、電動コンプレッサ8を暖房用冷媒回路6b側に接続するように設定されている。
【0020】
図2に示すように、A/C_ECU21は、マイクロコンピュータを主体に構成され、周知のCPU、ROM、RAM等を有している。このA/C_ECU21の入力側に、エアコンスイッチ26、車外温度を検出する外気温センサ27、車室内温度を検出する内気温センサ28等が接続されている。又、出力側に、上述したPTCヒータ5、電動コンプレッサ8、電子膨張弁12及び流路切換弁14等が接続されている。尚、本実施形態で採用する車両用空調装置1は、いわゆるオートエアコンであり、操作者がエアコンスイッチ26をONした場合、予めセットした目標空調温度と車室内温度及び車外温度とに応じて冷房運転と暖房運転と除湿運転とが自動的に設定される。ただし、この車両用空調装置1は、エアコンスイッチ26の操作により、冷房と暖房との何れかをを選択すると共に目標空調温度を設定する、いわゆるマニュアルエアコンであっても良い。
【0021】
A/C_ECU21で実行される空調運転は、具体的には、図3に示す空調制御ルーチンに従って処理される。
【0022】
このルーチンは、エアコンスイッチ26がONされた後、所定演算周期毎に実行され、先ず、ステップS1で、運転者等がセットした温度である目標空調温度と内気温センサ28で検出した車室内温度との差温に基づき、暖房運転と冷房運転との何れを行うかを判定する。そして、暖房運転実行と判定された場合、ステップS2へ進み、冷房運転実行と判定された場合、ステップS3へ進む。
【0023】
以下においては、先ず、暖房運転について説明し、次いで冷房運転について説明する。暖房運転実行と判定されて、ステップS2へ進むと、流路切換弁14に対して通電(ON)し、ステップS4へ進む。ステップS4では、外気温センサ27で検出した車外温度と内気温センサ28で検出した車室内温度との差温に基づき、除湿運転を行うか否かを調べ、除湿運転が不要と判定した場合は、ステップS5へ進み、除湿運転が必要と判定した場合はステップS6へ進む。そして、ステップS5で電子膨張弁12を全開として、ルーチンを抜ける。
【0024】
一方、冷房運転実行と判定してステップS3へ進むと、流路切換弁14を非通電(OFF)とし、ステップS6へ進む。ステップS3或いはステップS4からステップS6へ進むと、電子膨張弁12を設定開度まで絞り、ルーチンを抜ける。
【0025】
A/C_ECU21において、暖房運転を実行すべく、流路切換弁14をONさせると共に、電子膨張弁12を全開にすると、図1に白抜き矢印で示すように、電動コンプレッサ8で圧縮されて送出された高圧高温のガス冷媒は、流路切換弁14から暖房用冷媒回路6bを通り、空調用空気ダクト2の下流に配設されているサブコンデンサ4に流入される。そして、このサブコンデンサ4を通過する際に、このサブコンデンサ4を流れる空気と熱交換し、空気を加熱すると共に、冷媒が凝縮されて液体となり、この液体冷媒がドライヤ(図示せず)を経て電子膨張弁12を通り、その上流側に配設されているエバポレータ3を通り、アキュムレータ7を経て電動コンプレッサ8に吸い込まれて循環される。
【0026】
その際、電子膨張弁12は全開状態にあるため、冷媒が電子膨張弁12を通過する際に、断熱膨張することはなく、従って、この冷媒がエバポレータ3を通過しても、空気を冷却することはない。逆に、エバポレータ3を通過する冷媒が高温の場合、このエバポレータ3がコンデンサとして機能し、このエバポレータ3を通過する空気が冷媒にて加熱される。
【0027】
エバポレータ3をコンデンサとして機能させることで、サブコンデンサ4の容量を増やすことなく、効率の良い暖房を行うことができる。更に、冷媒がメインコンデンサ10をバイパスしてサブコンデンサ4に送出されるため、外気への熱損失がほとんど無く、内気循環のままでの暖房が可能となり、車室内をより効率よく暖房することができる。
【0028】
尚、A/C_ECU21は、車外温度が低い等の影響で、サブコンデンサ4及びコンデンサとして機能するエバポレータ3の熱量では、車室内へ供給する空気を充分に昇温させることが困難と判定した場合、PTCヒータ5を発熱させて発熱量の不足分を補う。このPTCヒータ5は従来と同様であるため、説明を省略する。
【0029】
又、暖房運転中に除湿運転が必要と判定して、電子膨張弁12の開度を絞ると、この電子膨張弁12に流入する冷媒は、この電子膨張弁12にて断熱膨張されて、低圧・低温化されて吐出される。そして、この冷媒がエバポレータ3を流れることで、このエバポレータ3を通過する空気を除湿する。従って、除湿された空気がサブコンデンサ4を通過する際に加熱されて車室内へ供給される。
【0030】
一方、A/C_ECU21が、冷房運転実行と判定して、流路切換弁14を非通電(OFF)すると共に、電子膨張弁12の開度を絞ると、図1に黒塗り矢印で示すように、電動コンプレッサ8から送出された高圧冷媒は、メインコンデンサ10を通過する際に冷却されて凝縮液化される。そして、凝縮液化された冷媒がレシーバ11、及びドライヤ(図示せず)を経て、電子膨張弁12へ送られ、この電子膨張弁12を通過する際に断熱膨張された後、エバポレータ3へ送られる。このエバポレータ3は空調用空気ダクト2の上流に臨まされており、このエバポレータ3を通過する空気を冷却し、車室内に冷風を送り込む。又、エバポレータ3にて熱交換されて昇温された冷媒は、アキュムレータ7を経て電動コンプレッサ8に吸い込まれて循環される。
【0031】
このように、本実施形態によれば、車両用空調装置1の膨張弁として電子膨張弁12を採用し、暖房運転時は、この電子膨張弁12を全開にしたので、この電子膨張弁12の下流側に配設されているエバポレータ3もコンデンサとして機能させることができ、サブコンデンサ4とエバポレータ3との双方で、車室内へ送られる空気を効率よく加熱して、車室内温度を早期に昇温させることができる。エバポレータ3をコンデンサとして機能させるので、コンデンサの容量を実施的に増加させることができる。
【0032】
更に、暖房運転時は、電動コンプレッサ8から送出された冷媒を、メインコンデンサ10を通過させることなく、暖房用冷媒回路6bを通りサブコンデンサ4へ直接送り込むことができるので、この暖房用冷媒回路6bを車室内で配管することが可能となり、外気への熱流失をより一層防止することができる。その結果、PTCヒータ5やサブコンデンサ4、及びブロアの容量を大きくすることなく、電動コンプレッサ8の圧縮仕事を熱源として、車室内をより効率よく昇温させることができる。従って、相対的に装置全体の小型化も実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】車両用空調装置の回路構成図
【図2】エアコン制御装置の構成図
【図3】空調制御ルーチンを示すフローチャート
【符号の説明】
【0034】
1…車両用空調装置、
2…空調用空気ダクト、
3…エバポレータ、
4…サブコンデンサ、
5…PTCヒータ、
6…冷媒配管、
6a…冷房用冷媒回路、
6b…暖房用冷媒回路、
8…電動コンプレッサ、
12…電子膨張弁、
14…流路切換弁、
21…エアコン制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも電動コンプレッサと車室内コンデンサと電子膨張弁と車室内エバポレータとが順次接続された冷媒回路と、
前記電子膨張弁の開度を制御する制御手段と
を有し、
前記制御手段は、暖房運転時に前記電子膨張弁を全開させる
ことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御手段は、暖房運転時に除湿運転を行う場合、前記電子膨張弁を設定開度に絞る
ことを特徴とする請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記冷媒回路の前記電動コンプレッサと前記サブコンデンサとの間に流路切換手段を介装し、
前記流路切換手段を介して冷房用冷媒回路を分岐すると共に、該冷房用冷媒回路の下流を前記サブコンデンサと前記電子膨張弁との間に接続して、該冷房用冷媒回路に車室外コンデンサを介装し、
前記制御手段は、前記流路切換手段を切換え動作させて、暖房運転時は前記車室外コンデンサ側を遮断して前記電動コンプレッサを前記車室内コンデンサ側へ接続させ、又冷房運転時は前記車室内コンデンサ側を遮断して前記電動コンプレッサを前記車室外コンデンサ側へ接続させる
ことを特徴とする請求項1或いは2記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−143533(P2010−143533A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326006(P2008−326006)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】