説明

車両用空調装置

【課題】フィルタの交換作業時の作業性を良好にするとともに、フィルタの振動を低コストで抑制して異音の発生を防止する。
【解決手段】空調装置1のケーシングの空気流路には、空気を濾過するフィルタ30が配置されている。ケーシングの壁部21bには、フィルタ30を脱着するための脱着孔21eが形成されるとともに、脱着孔21eを開閉する蓋部材45が取り付けられている。フィルタ30は、濾過材Aを有するフィルタ本体31と、フィルタ本体31を脱着孔21eからケーシングの外部へ出る方向に付勢するためのバネ部32とを備えている。フィルタ30は、ケーシング内において蓋部材45に接した状態で保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気を濾過するフィルタを備えた車両用空調装置に関し、特に、フィルタを交換可能にする構造の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用空調装置は、送風ファンや熱交換器を収容するケーシングを備えており、このケーシング内には、空調用空気を濾過するためのフィルタが収容されている(例えば、特許文献1、2参照)。ケーシングには、フィルタを交換する際に使用する脱着孔が形成され、脱着孔を利用して古いフィルタをケーシングから取り出し、新しいフィルタをケーシング内に挿入するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−247142号公報
【特許文献2】特開2004−189059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、車両には助手席用エアバッグ装置やナビゲーション装置等の様々な装置が搭載されるようになってきている。そのような装置が空調装置の周囲に存在することがあり、この場合には、フィルタを交換する際に作業者は脱着孔を視認できなくなる。また、空調装置の周囲に各種装置等が存在していると、フィルタを交換するためのスペースを十分に確保するのが困難になる。つまり、フィルタを交換する作業者は、見えないところにあるフィルタを十分なスペースの無いところから取り出さなければならず、作業性が悪い。
【0005】
また、空調装置の運転時には、フィルタが振動して異音の発生原因となることがあるので、フィルタには、異音防止用の緩衝材を設けなければならず、部品点数が増加してコスト高の原因となっていた。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、フィルタの交換作業時の作業性を良好にするとともに、フィルタの振動を低コストで抑制して異音の発生を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、空調用機器を収容するとともに、空調用空気が導入される空気流路を有するケーシングと、上記ケーシング内の空気流路に収容され、該空気流路を流れる空気を濾過するフィルタとを備えた車両用空調装置において、上記ケーシングの壁部には、上記フィルタを脱着するための脱着孔が形成されるとともに、該脱着孔を開閉する蓋部材が取り付けられ、上記フィルタは、濾過材を有するフィルタ本体と、該フィルタ本体を上記脱着孔から上記ケーシングの外部へ出る方向に付勢するための付勢部とを備え、上記フィルタは、上記ケーシング内において上記蓋部材に接した状態で保持されることを特徴とするものである。
【0008】
従って、使用時のフィルタは、ケーシング内に収容された状態で蓋部材に接して保持される。このとき、フィルタは、付勢部の付勢力により脱着孔からケーシングの外部へ出る方向に付勢されているので、蓋部材の裏側に圧接することになる。これにより、空調装置の運転時における異音の発生原因となるフィルタのがたつきが無くなる。
【0009】
そして、フィルタの交換時には、蓋部材をケーシングから取り外して脱着孔を開放すると、付勢部の付勢力によってフィルタが脱着孔からケーシングの外部へ出てくる。従って、脱着孔が視認できないところにある場合や、フィルタの交換作業用のスペースが十分でない場合であっても、フィルタを脱着孔から容易に取り出すことが可能になり、交換作業性が良好になる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、フィルタの付勢部は、フィルタ本体から離れる側へ突出してケーシングの内面に圧接するバネ部で構成され、上記フィルタには、上記バネ部を、上記ケーシングの内面に圧接する状態と、該ケーシングの内面から離れる状態とに切り替える切替部が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
この構成によれば、フィルタをケーシングに挿入する前に、バネ部をケーシングの内面から離れる状態にしておくことで、挿入時にバネ部による付勢力が作用せず、挿入時の作業性が良好になる。そして、フィルタをケーシングに挿入した状態で切替部によってバネ部をケーシングの内面に圧接する状態に切り替えることで、上述した付勢力が得られる。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、ケーシングの内部には、フィルタの切替部に対向する部位に、該切替部を操作するケーシング側操作部が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
この構成によれば、フィルタをケーシングに挿入すると、ケーシング側操作部によりフィルタの切替部が操作される。これにより、付勢部がケーシングの内面に圧接する状態に切り替えられる。
【0014】
第4の発明は、第2の発明において、バネ部は、長尺状をなすとともに、ケーシングの内面に圧接する方向に湾曲した状態と、該ケーシングの内面から離れる方向に湾曲した状態とに切り替えられるように形成され、フィルタ本体には、上記ケーシングの内面から離れる方向に湾曲した状態にあるバネ部を、該ケーシングの内面に圧接する方向に湾曲するように押圧して該バネ部の湾曲方向を切り替える切替用押圧部が設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
この構成によれば、フィルタのバネ部を、ケーシングの内面から離れる方向に湾曲させておくことで、フィルタの挿入時にバネ部による付勢力が作用せず、挿入時の作業性が良好になる。そして、フィルタをケーシングに挿入した状態で、切替用押圧部によりバネ部を押圧することで、バネ部がケーシングの内面に圧接する方向に湾曲した状態となり、上述した付勢力が得られる。
【0016】
第5の発明は、第4の発明において、蓋部材のフィルタに対向する部位には、切替用押圧部を操作する蓋部材側操作部が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
この構成によれば、蓋部材をケーシングに取り付けることで、蓋部材側操作部によりフィルタの切替用押圧部が操作される。これにより、バネ部がケーシングの内面に圧接する方向に湾曲する。
【0018】
第6の発明は、第1から5のいずれか1つの発明において、フィルタ本体は、濾過材の周縁部を囲むように形成された弾性を有する樹脂材からなる枠部を有し、付勢部は上記枠部に一体成形されていることを特徴とするものである。
【0019】
この構成によれば、フィルタ本体の枠部を構成する樹脂材が有する弾性を利用して付勢力が得られる。
【発明の効果】
【0020】
第1の発明によれば、フィルタに付勢部を設けてフィルタ本体をケーシングの脱着孔から外部へ出る方向に付勢するようにしたので、フィルタの交換作業性を良好にできる。さらに、フィルタを、ケーシング内において蓋部材に接した状態で保持するようにしたことで、付勢部を用いてフィルタの振動を抑制でき、よって、低コストで異音の発生を防止できる。
【0021】
第2の発明によれば、バネ部を、ケーシングの内面に圧接する状態と、ケーシングの内面から離れる状態とに切り替え可能にしたので、フィルタの挿入作業性を良好にできる。
【0022】
第3の発明によれば、フィルタをケーシングに挿入する作業を行うだけで、フィルタの付勢部をケーシングの内面に圧接する状態に切り替えることができ、交換時の作業性をより一層良好にできる。
【0023】
第4の発明によれば、バネ部を、ケーシングの内面に圧接する方向に湾曲した状態と、ケーシングの内面から離れる方向に湾曲した状態とに切り替え可能にし、フィルタ本体に設けた切替用押圧部よってバネ部の湾曲方向を切り替えるようにしたので、交換時の作業性をより一層良好にできる。
【0024】
第5の発明によれば、蓋部材のフィルタに対向する部位に、切替用押圧部を操作する蓋部材側操作部を設けたので、蓋部材を取り付けるだけで、バネ部の湾曲方向を変えることができ、交換時の作業性をより一層良好にできる。
【0025】
第6の発明によれば、フィルタ本体の樹脂材からなる枠部に付勢部を一体成形したので、部品点数を削減できるとともに、付勢部の付勢力を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態1に係る車両用空調装置を後側から見た図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】図2におけるIII−III線断面図である。
【図4】取付前状態にあるフィルタの平面図である。
【図5】フィルタをフィルタ収容部へ収容する途中の状態を示す図3相当図である。
【図6】蓋部材をケーシングから取り外した状態を示す図3相当図である。
【図7】フィルタ収容部へ収容される途中のフィルタの付勢部及びその近傍を拡大して示す図である。
【図8】フィルタをフィルタ収容部に完全に収容した状態の図7相当図である。
【図9】実施形態2に係る図4相当図である。
【図10】実施形態2に係り、新しいフィルタをフィルタ収容部に収容した直後の状態を示す図3相当図である。
【図11】実施形態2に係る図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
《実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係る車両用空調装置1を車両後側から見た図を示す。この空調装置1が配設される自動車は、運転席及び助手席がそれぞれ車両右側及び左側に設けられた、いわゆる右ハンドル車である。この実施形態の説明では、説明の便宜を図るため、車幅方向左側を単に「左」といい、また、車幅方向右側を単に「右」というものとする。
【0029】
上記空調装置1は、空調用空気を送風する送風ユニット3と、この送風ユニット3から送風された空気を導入して調和空気とする空調ユニット4と、この空調ユニット4に送風ユニット3から送風された空調用空気を送るための中間ダクト5とを備えている。
【0030】
上記空調ユニット4は、上記インストルメントパネル(図示せず)内の左右方向略中央部に配置されている一方、上記送風ユニット3は空調ユニット4に対して左側へ離間して助手席の前方に配置されている。
【0031】
上記送風ユニット3は、ケーシング6を備えている。このケーシング6の上側部分は、送風ユニット3へ空調用空気を取り入れるための空気取入部7とされている一方、下側部分は、その取り入れた空気を上記空調ユニット4へ送風するための送風部8とされている。また、ケーシング6の空気取入部7と送風部8との間の部分は、フィルタ30を収容するためのフィルタ収容部21とされている。
【0032】
図2に示すように、ケーシング6内には、空気取入部7から送風部8へ延びる空気流路Sが設けられており、空気取入部7から導入された空調用空気が空気流路Sを流通するようになっている。
【0033】
空気取入部7の上部の車両前側には、車室外の空気を取り入れるための外気取入口10が形成され、車両後側には、車室内の空気を取り入れるための内気取入口11が形成されている。これら両取入口10、11は、空気流路Sの上流端に接続され、内外気切替ダンパ9によって選択的に開閉されるようになっている。内外気切替ダンパ9は、空気流路S内に配設されており、車幅方向に延びる回動軸12と、板状の閉塞部13とを備えている。回動軸12は、ケーシング6の左右両側壁に回動可能に支持されている。回動軸12の右端部は、ケーシング6の右側壁部を貫通している。
【0034】
図1に示すように、ケーシング6の右側壁部には、内外気切替ダンパ9を回動させるための内外気切替用モータアクチュエータ15及び内外気切替用リンク機構16が配設されている。
【0035】
上記内外気切替用モータアクチュエータ15は、ケーシング6の右側壁部に突設されたボス(図示せず)に締結固定されている。また、上記内外気切替用リンク機構16は、内外気切替用モータアクチュエータ15の出力軸が連結される駆動リンク17と、内外気切替用ダンパ9の回動軸12が連結される駆動アーム18とで構成されており、これらは互いに係合している。駆動リンク17及び駆動アーム18は、例えばポリプロピレン等の樹脂材を成形してなるものである。
【0036】
上記内外気切替用モータアクチュエータ15による操作力が駆動リンク17及び駆動アーム18を介して内外気切替ダンパ9に伝達されると、内外気切替ダンパ9が回動軸12周りに回動し、上記外気取入口10と内気取入口11との一方は、上記内外気切替ダンパ9により閉状態とされる一方、他方は開状態とされるようになっている。すなわち、内外気切替ダンパ9により外気取入口10が全開状態とされると内気取入口11が全閉状態となって、車室外の空気のみを取り入れる外気取入モードとなる。一方、外気取入口10が全閉状態とされると内気取入口11が全開状態となって、車室内の空気のみを取り入れる内気循環モードとなる。尚、内気取入口11には、格子状のグリル14が設けられている。
【0037】
また、図3に示すように、フィルタ収容部21の水平断面は、略矩形状とされている。フィルタ収容部12の内部は、空気流路Sの一部を構成する中空状となっており、フィルタ30の収容空間である。フィルタ収容部21の前壁部21aと後壁部21bとは互いに略平行に左右方向に延び、また、フィルタ収容部21の左壁部21cと右壁部21dとは互いに略平行に前後方向に延びている。フィルタ収容部21の後壁部21bには、フィルタ30の交換時に使用する脱着孔21eがフィルタ収容部21の内部に連通するように形成されている。脱着孔21eは、フィルタ30の形状に対応して、左右方向に長い矩形状に開口している。
【0038】
フィルタ収容部21には、脱着孔21eを開閉する蓋部材45が取り付けられている。蓋部材45は、脱着孔21eと同様に左右方向に長い矩形板で構成されている。蓋部材45の周縁部には、脱着孔21eの周縁部に係合する爪(図示せず)が設けられている。
【0039】
図2に示すように、フィルタ収容部21には、フィルタ30を下方から支持する支持部19と、フィルタ30を上方から押さえる押さえ部22とが形成されている。支持部19は、フィルタ収容部21の内面から内方へ突出してフィルタ収容部21の内周面に沿って環状に延びる板で構成されている。押さえ部22も支持部19と同様に延びる板で構成されている。支持部19がフィルタ30の下面の周縁部に当接し、押さえ部22がフィルタ30の上面の周縁部に当接する。
【0040】
図4に示すように、フィルタ30は、厚肉板状のフィルタ本体31と、フィルタ本体31を脱着孔21eからケーシング6の外部へ出る方向に付勢するためのバネ部32と、バネ部32を後述する2つの状態に切り替えるための切替部33とを備えている。
【0041】
フィルタ本体31は、濾過材Aと、濾過材Aの周縁部を囲むように形成された枠部34とを有している。濾過材Aは、濾紙を細かい波型に折り曲げ成形してなるものであり、空気の通過方向(フィルタ収容部21に収容された状態で上下方向)に見て矩形状となっている。
【0042】
枠部34は、弾性を有する樹脂材で構成されている。枠部34を構成する樹脂材としては、例えば、ポリプロピレン等が挙げられるが、これに限られるものではなく、各種の弾性樹脂材を用いることができる。
【0043】
枠部34は、濾過材Aの前端面に沿って延びる前板部34aと、前板部34aの左右両端からそれぞれ濾過材Aの左端面及び右端面に沿って延びる左板部34b及び右板部34cと、左板部34b及び右板部34cの後端部同士を連結するように濾過材Aの後端面に沿って延びる後板部34dとを一体成形してなる。枠部34の左板部34bの前部には、前板部34aよりも前方へ突出する左側突出部34eが形成されている。左側突出部34eの突出方向先端部には、右側へ向けて突出する係合片34fが形成されている。この係合片34fには、バネ部32が係合するようになっている。
【0044】
枠部34の右板部34cの前部にも、前板部34aよりも前方へ突出する右側突出部34gが形成されている。左側突出部34e及び右側突出部34gは、板状に形成されている。図3に示すように、左側突出部34e及び右側突出部34gの先端部は、フィルタ30をフィルタ収容部21に完全に挿入したときに前壁部21aの内面に当接してフィルタ30の挿入位置を設定するストッパとなっている。
【0045】
バネ部32は、樹脂材の有する弾性によってバネ力が得られるようになっており、左右方向に延びる長尺板状に形成され、その厚み方向に湾曲自在となっている。バネ部32の向きは、その厚み方向が前後方向となり、かつ、幅方向が上下方向となるように設定されており、従って、湾曲方向は前後方向となる。
【0046】
バネ部32の右端部は、詳細は後述するが、切替部33を介して枠部34に一体成形されている。また、バネ部32の左端部は、枠部34から切り離された状態で左側突出部34eに当たるようになっており、左側突出部34eに対して変位可能となっている。
【0047】
バネ部32の全長は、枠部34の左側突出部34eと右側突出部34gとの離間寸法よりも長く設定されている。よって、バネ部32は、左側突出部34eと右側突出部34gとの間で、前後方向の一方に湾曲することになる。バネ部32は、該バネ部32が有する弾性により、後方へ湾曲して枠部34の前板部34aに圧接する取付前状態(図4及び図5に示す)と、前方へ湾曲して前板部34aから離れる取付後状態(図3及び図6に示す)との2つの状態の一方を選択的にとるように構成されている。取付前状態とは、フィルタ収容部21に収容する前の状態であり、取付後状態とは、フィルタ収容部21に収容した後の状態のことである。
【0048】
図4に示すように、バネ部32が取付前状態にあるときには、バネ部32の右端部は枠部34の前板部34aから前方へ離れるように突出しており、左端部も前板部34aから前方へ離れるように突出して係合片34fに係合している。また、取付前状態にあるバネ部32の右端部と左端部との間の部分は、前板部34aに圧接して該前板部34aに沿って真っ直ぐに延びる形状となっている。
【0049】
図3に示すように、バネ部32が取付後状態にあるときには、バネ部32の右端部は後方へ向き、左端部は後方へ向いて前板部34aに当接し、また、バネ部32の右端部と左端部との間の部分は、図6に示す自由状態で左側突出部34e及び右側突出部34gよりも前方へ突出する。
【0050】
切替部33は、バネ部32と同様な板状をなしており、切替部33の右端部は枠部34の右側突出部34gに一体成形され、左端部はバネ部32の右端部に一体成形されている。切替部33は、その左右方向中間部が前後方向に湾曲自在となっている。また、切替部33には、バネ部32の力が加わっている。これにより、切替部33の中間部が後方へ湾曲しているとき(図4に示す)に、その中間部を前方へ押圧すると、樹脂材の弾性により、中間部が後方へ突出するように湾曲する(図3に示す)。また、切替部33の中間部が後方へ湾曲しているときに、その中間部を前方へ押圧すると、前方へ突出するように湾曲する。
【0051】
図4に示すように、切替部33が前方へ湾曲した状態では、切替部33の左側が後方へ向けて延びるようになるので、バネ部32が後方へ向けて湾曲して取付前状態となる。一方、図3に示すように、切替部33が後方へ湾曲した状態では、切替部33の左側が前方へ向けて延びるようになるので、バネ部32が前方へ向けて湾曲して取付後状態となる。つまり、切替部33の中間部に前後方向の力を加えるだけで、バネ部32を取付前状態と、取付後状態とに切り替えることが可能となっている。
【0052】
一方、フィルタ収容部21の前壁部21aの内面には、フィルタ30の切替部33を操作する操作突起40が後方へ突出するように形成されている。この操作突起40は、前壁部21bにおいて切替部33の左右方向中央部と対向する部位に位置付けられている。図7及び図8にも示すように、操作突起40の突出量は、取付前状態にあるフィルタ30がフィルタ収容部21に完全に挿入される前に切替部33に当たり、該切替部33を後方へ押して湾曲させるように設定されている。
【0053】
操作突起40の左側面から先端面は、円弧面40aで構成され、また、操作突起40の右側面は、前後方向に延びる平坦面40bで構成されている。従って、操作突起40は、その先端に近づくほど左右方向の寸法が短くなる先細形状となっている。
【0054】
また、図2に示すように、フィルタ収容部21の下方には、遠心式多翼ファン(空調用機器)23が、その回転軸を上下方向に向けて配設されており、さらに、このファン23の下方には、該ファン23を駆動するためのファン駆動モータ24が配設されている。尚、図1における矢印は空気の流れを示している。
【0055】
送風部8におけるケーシング6の右側壁部には、上記中間ダクト5の左端部が固定され、この中間ダクト5の左端部はケーシング6の右側壁部に形成された開口(図示せず)を介してケーシング6内の空気流路Sと連通している。中間ダクト5は、その左端部から空調ユニット4の下端部へ向かって斜め下方へ延びるように形成されている。中間ダクト5の右端部は、空調ユニット4のケーシング30の下端部に開口されかつ該ケーシング30内に空調用空気を導入するための導入口(図示せず)に接続されている。中間ダクト5の上壁には、上記ファン駆動モータ24の回転数を制御するための制御回路26が配設されている。
【0056】
図1に示すように、上記空調ユニット4のケーシング30は、全体として上下方向に長く、送風ユニット3のケーシング6よりも大型に形成されている。上記ケーシング30内には、上記導入口25から上方へ延びる空気流路Rが設けられている。空気流路Rには、冷却用熱交換器としてのエバポレータ(空調用機器)34と、加熱用熱交換器としてのヒータコア43とが配置されている。エバポレータ34を通過した空気と、ヒータコア43を通過した空気とを混合させることにより、調和空気が生成されるようになっている。ケーシング30には、フェイス吹出口66、フット吹出口(図示せず)及びデフロスタ吹出口(図示せず)が形成されている。これら吹出口は、ケーシング30の内部に配設された吹出方向切替ダンパ(図示せず)により開閉されるようになっている。
【0057】
次に、空調装置1の作動時について説明する。図3に示すように、フィルタ30がフィルタ収容部21に収容された状態では、バネ部32が取付後状態となっている。従って、バネ部32は、フィルタ収容部21の内面に圧接しており、フィルタ30が脱着孔21eから出る方向に付勢されてフィルタ30の後端部が蓋部材45の内面に圧接する。これにより、フィルタ30がフィルタ収容部21内でがたつかなくなるので、緩衝材を設けることなく、フィルタ30の振動を抑制できる。
【0058】
次に、フィルタ30を交換する場合について説明する。まず、送風ユニット3の蓋部材45をケーシング6から取り外して脱着孔21bを開放する。すると、フィルタ30はバネ部32により脱着孔21eから出る方向に付勢されているので、図6に示すように、脱着孔21eの開放と同時に、フィルタ30の後部が脱着孔21eから後方へ飛び出す。これにより、脱着孔21eが視認できないところにある場合や、フィルタ30の交換作業用のスペースが十分でない場合であっても、フィルタ30の後部を手探りで掴んでフィルタ30を脱着孔21eから容易に取り出すことが可能になる。
【0059】
その後、新しいフィルタ30をフィルタ収容部21に収容する場合には、まず、図4に示すように、バネ部32を取付前状態としておく。そして、フィルタ30を脱着孔21eからフィルタ収容部21へ挿入していく。このとき、図5に示すように、バネ部32が取付前状態となっていることにより、フィルタ30を挿入する途中では、バネ部32の付勢力がフィルタ30の挿入作業の邪魔になることはなく、挿入作業性は良好である。
【0060】
そして、フィルタ30を完全に挿入する直前で、蓋部材45をフィルタ30の後端面に当てて該フィルタ30を挿入していく。フィルタ30を挿入していくと、フィルタ収容部21の操作突起40がフィルタ30の切替部33に当たり、該切替部33を後方へ押圧する。操作突起40により押圧された切替部33は、図3に示すように、後方へ突出するように湾曲し、これにより、バネ部32が取付後状態となり、フィルタ収容部21の内面に圧接する。フィルタ30を完全に挿入したときに蓋部材45の爪が脱着孔21eの周縁部に係合して蓋部材45がケーシング6に取り付けられる。これにより、新しいフィルタ30が脱着孔21eから飛び出すことはない。
【0061】
以上説明したように、この実施形態1によれば、フィルタ30にバネ部32を設けてフィルタ本体31をケーシング6の脱着孔21eから外部へ出る方向に付勢するようにしたので、フィルタ30の交換作業性を良好にできる。さらに、バネ部32の付勢力によってフィルタ30をケーシング6内で蓋部材45に圧接させることができるので、緩衝材を設けることなく低コストでフィルタ30の振動を抑制して異音の発生を防止できる。
【0062】
また、バネ部32を、ケーシング6の内面に圧接する取付後状態と、ケーシング6の内面から離れる取付前状態とに切り替え可能にしたので、フィルタ30の挿入作業性を良好にできる。
【0063】
また、ケーシング6に操作突起40を設けたので、フィルタ30をフィルタ収容部21に挿入する作業を行うだけで、フィルタ30の付勢部33を取付後状態に切り替えることができ、交換時の作業性をより一層良好にできる。
【0064】
《実施形態2》
図9は、本発明の実施形態2に係るフィルタ30を示すものである。実施形態2の空調装置は、実施形態1のものと比べて、フィルタ30の構造と、ケーシング6のフィルタ収容部21及び蓋部材45の構造が異なるだけで、他の部分は同一であるため、以下、実施形態1と異なる部分について詳細に説明する。
【0065】
フィルタ30の枠部34には、前板部34aと後板部34dとを連結する連結板部34hと、バネ部32の湾曲方向を切り替えるための切替用押圧部34iとが設けられている。連結板部34hは、前板部34aの左右方向中央部から左板部34b及び右板部34cと略平行に後板部34dの左右方向中央部まで真っ直ぐに延びている。
【0066】
切替用押圧部34iは、前板部34aにおいて連結板部34hの形成部分から前方へ突出する突起で構成されている。取付前状態にあるバネ部32の左右方向中央部近傍は、切替用押圧部34iの先端に当接している。
【0067】
図10及び図11に示すように、蓋部材45のフィルタ30に対向する部位には、切替用押圧部34iを操作する操作部45aが設けられている。この操作部45aは、後方へ突出する突起で構成されており、連結板部34hに対応するように蓋部材45の左右方向中央部に位置付けられている。
【0068】
この実施形態2では、フィルタ30をフィルタ収容部21に収容する際には、図10に示すように、フィルタ30をフィルタ収容部21に挿入した後、図11に示すように、蓋部材45をフィルタ30に押し付けると、蓋部材45の操作部45aが、枠部34の後板部34dにおける連結板部34hに対応する部分を前方へ押す。すると、連結板部34hが前板部34aと後板部34dとの間で突っ張り、連結板部34hにより前板部34aが前方へ押される。これにより、切替用押圧部34iがバネ部32を前方へ押し、バネ部32の湾曲方向が切り替わり、バネ部32は取付後状態となる。つまり、蓋部材45でフィルタ30を押すだけで、バネ部32を取付後状態に切り替えることが可能である。
【0069】
フィルタ30をフィルタ収容部21に収容した状態では、実施形態1と同様にバネ部32が内面に圧接することでフィルタ30のがたつきが無くなる。
【0070】
また、フィルタ30の交換作業時にフィルタ30を取り出す際には、実施形態1と同様にバネ部32の付勢力によって容易に取り出すことが可能になる。
【0071】
以上説明したように、この実施形態2によれば、フィルタ30にバネ部32を設けたので、フィルタ30の交換作業性を良好にでき、また、緩衝材を設けることなく低コストでフィルタ30の振動を抑制して異音の発生を防止できる。
【0072】
尚、バネ部32の形状は、板に限られるものではなく、例えば、棒状であってもよい。また、バネ部32は、1つのフィルタ30に2つ以上設けてもよい。
【0073】
また、上記実施形態1、2では、フィルタ30の空気通過面が略水平である場合について説明したが、これに限らず、例えば、フィルタ30の空気通過面が略鉛直である場合や、傾斜している場合にも本発明を適用することが可能である。
【0074】
また、上記実施形態1、2では、空調装置1が送風ユニット3と空調ユニット4とに分割されたセミセンタタイプに本発明を適用した場合について説明したが、これに限らず、例えば、送風ファン及び熱交換器を1つのケーシングに収容したフルセンタタイプにも本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したように、本発明にかかる車両用空調装置は、例えば、インストルメントパネル内に配設するのに適している。
【符号の説明】
【0076】
1 車両用空調装置
6 ケーシング
21 フィルタ収容部
21e 脱着孔
23 ファン(空調用機器)
30 フィルタ
31 フィルタ本体
32 バネ部
33 切替部
34 枠部
34i 切替用押圧部
40 操作突起(ケーシング側操作部)
45 蓋部材
45a 操作部(蓋部材側操作部)
S 空気流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調用機器を収容するとともに、空調用空気が導入される空気流路を有するケーシングと、
上記ケーシング内の空気流路に収容され、該空気流路を流れる空気を濾過するフィルタとを備えた車両用空調装置において、
上記ケーシングの壁部には、上記フィルタを脱着するための脱着孔が形成されるとともに、該脱着孔を開閉する蓋部材が取り付けられ、
上記フィルタは、濾過材を有するフィルタ本体と、該フィルタ本体を上記脱着孔から上記ケーシングの外部へ出る方向に付勢するための付勢部とを備え、
上記フィルタは、上記ケーシング内において上記蓋部材に接した状態で保持されることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用空調装置において、
フィルタの付勢部は、フィルタ本体から離れる側へ突出してケーシングの内面に圧接するバネ部で構成され、
上記フィルタには、上記バネ部を、上記ケーシングの内面に圧接する状態と、該ケーシングの内面から離れる状態とに切り替える切替部が設けられていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用空調装置において、
ケーシングの内部には、フィルタの切替部に対向する部位に、該切替部を操作するケーシング側操作部が設けられていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用空調装置において、
バネ部は、長尺状をなすとともに、ケーシングの内面に圧接する方向に湾曲した状態と、該ケーシングの内面から離れる方向に湾曲した状態とに切り替えられるように形成され、
フィルタ本体には、上記ケーシングの内面から離れる方向に湾曲した状態にあるバネ部を、該ケーシングの内面に圧接する方向に湾曲するように押圧して該バネ部の湾曲方向を切り替える切替用押圧部が設けられていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用空調装置において、
蓋部材のフィルタに対向する部位には、切替用押圧部を操作する蓋部材側操作部が設けられていることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の車両用空調装置において、
フィルタ本体は、濾過材の周縁部を囲むように形成された弾性を有する樹脂材からなる枠部を有し、
付勢部は上記枠部に一体成形されていることを特徴とする車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−260508(P2010−260508A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114652(P2009−114652)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000152826)株式会社日本クライメイトシステムズ (154)
【Fターム(参考)】