説明

車両用窓ガラスの製造方法

【課題】本発明は車両用窓ガラスの好適な熱線反射膜の除去方法を得ることを目的とした。
【解決手段】真空成膜法を用いて熱線反射膜が形成された車両用窓ガラスの製造方法において、基材上の成膜面に剥離材を塗布する工程、該剥離材が塗布された基材上に熱線反射膜を形成する工程、該熱線反射膜形成後に該剥離材を除去する工程、を有することを特徴とし、前記剥離材が水溶性高分子化合物であることを特徴とする車両用窓ガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用窓ガラスの製造方法に関するものであり、特にガラス基材上に形成される熱線反射膜の除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷房負荷の低減に代表される省エネルギーの観点から、赤外線の影響を極力小さくしようとする傾向にある。この傾向により、近年、車両用ガラスにおいて、車内に通入する太陽輻射エネルギーを遮蔽し、車内の温度上昇を抑え、冷房負荷を低減させる目的から赤外線反射性を有する熱線遮蔽ガラスの採用が求められつつある。
【0003】
熱線遮蔽ガラスはガラス上に熱線を反射する熱線反射膜が形成されたものであり、熱線反射膜としては金属酸化物や金属窒化物等が用いられている。しかし一方で、前述したような熱線反射膜は、広い波長範囲で光や電磁波等を反射してしまうことから、熱線遮蔽ガラスを車両用ガラスとして用いた場合には、携帯電話による通信、あるいは車両の窓ガラスに設けられたガラスアンテナの利得を低下させるなど、電波障害が生じ易いという問題があった。このような事情から、現在、熱線遮蔽ガラスの熱線反射膜を一部取り除くことで、電波の反射を低減させ、好適な電波透過性を獲得する方法が用いられている。
【0004】
熱線反射膜を部分的に除去する方法として、ガラス基板表面上に、インクによるパターニング膜を形成し、該パターニング膜形成側の表面に、機能性膜を被覆成膜した後、該機能性膜面を少なくとも洗浄することで前記パターニング膜とともに機能性膜をも取り去ることで膜抜きパターンを形成する方法(特許文献1)、成膜前に各種のテープ、各種の光レジスト等をマスキング材として基材上に設置する方法(特許文献2)、金属ワイヤーやナイロンワイヤー等の紐状の材料で編まれた網や、アルミ板等に格子状に多数の穴を開けた板状の部材をマスキング材として用いる方法(特許文献3)、等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−175848号公報
【特許文献2】特開平6−40252号公報
【特許文献3】特開平9−110471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したような熱線反射膜は、工業的な観点からスパッタリング等の真空成膜法を用いて成膜する方法が期待されている。真空成膜法の成膜工程において、装置内の空気を排気して真空状態(又は低圧状態)とする過程を経るため、使用されるマスキング材等の剥離材は真空状態を経ても剥離可能であり、蒸発せず、熱による変形を伴わない剥離材が求められていた。
【0007】
マスキングテープや光レジスト等をマスキング材として用いる場合、マスキングテープは成膜後に剥がれなくなることや粘着剤が基板に残ってしまうことがあり、また、光レジストは光レジストを除去する薬剤によっては、熱線反射膜を損傷することがあった。
【0008】
また、ある程度剛性のある材料をマスキング材として用いる場合、成膜後の除去は容易であるが、マスキング材として厚みが極薄いものを用いない場合、非被膜部と被膜部との境界で薄膜が部分的に薄くなり、光の干渉や薄膜の光吸収の違い等で、反射色の色調が被覆部と異なったり、薄膜の乱反射や不透明の原因となることがあり、一方で、極薄いマスキング材は熱によって変形してしまうことがあり、非被膜部と被膜部との境界が不明瞭となることがあった。
【0009】
また、油性インクを剥離材として用いる場合は、剥離材を薄くすることが可能なため有効な方法であるが、除去を行う際にアルコール等の有機溶剤を使用しなくてはならず、排気設備等が必要となる。また、油性インクはガラス上に塗布した後、乾燥する過程でインクの膜がはじき、膜抜けが起きやすいことがあった。
【0010】
以上により、本発明は車両用窓ガラスの好適な熱線反射膜の除去方法を得ることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、真空成膜法を用いて熱線反射膜が形成された車両用窓ガラスの製造方法において、基材上の成膜面に剥離材を塗布する工程、該剥離材が塗布された基材上に熱線反射膜を形成する工程、該熱線反射膜形成後に該剥離材を除去する工程、を有することを特徴とする車両用窓ガラスの製造方法である。
【0012】
また本出願は、前記剥離材が水溶性高分子化合物であることを特徴とする。
【0013】
また本出願は、剥離材を除去する工程が、水を用いて剥離材を溶解させる工程、剥離材の溶解後にブラシ洗浄する工程、であることを特徴とする。
【0014】
また本出願は、前記熱線反射膜が導電性薄膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、熱線反射膜を見映えよく除去することが可能となる。また、水溶性高分子化合物を用いた場合、水を用いて洗浄することで剥離材を除去することが可能であるため、熱線反射膜が損傷するのを抑制することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に使用されるガラスは、好適な可視光線透過性を示すものであれば特に限定されるものではないが、例えば、通常使用されているフロ−ト板ガラス、又はロ−ルアウト法で製造されたソーダ石灰ガラス等無機質の透明性がある板ガラスを使用できる。当該板ガラスには、クリアガラス、高透過ガラス等の無色のもの、熱線吸収ガラス等の緑等に着色されたもの共に使用可能で、ガラスの形状等に特に限定されるものではないが、可視光透過率を考慮すると、クリアガラス、高透過ガラス等の無色ガラスを使用することが好ましい。また、平板ガラス、曲げ板ガラスはもちろん風冷強化ガラス、化学強化ガラス等の各種強化ガラスも使用できる。さらには、ホウケイ酸塩ガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス、低膨張結晶化ガラス、ゼロ膨張結晶化ガラス等の各種ガラス基材を用いることができる。また、ガラスの厚みは1.6〜5mm程度とするのが好ましい。
【0017】
また、ガラスに熱線反射膜が形成された膜付きガラスは、単板、合わせガラス、複層ガラス等として用いてもよい。車両用窓ガラスとしては、例えば自動車のフロントウインドー、リヤウインドーあるいはサイドウインドーまたはサンルーフ、シェードバンド等に、ことに風防用ガラスにも充分適用することが可能である。特に車両のフロントガラスとして使用する場合は合わせガラスとして使用される。
【0018】
使用される剥離材としては、基材との密着性が良く、成膜時に蒸発や収縮、膨張等が生じず、また水溶性高分子化合物がガラスから剥離することがなく、なおかつ成膜後の剥離が容易であればよく、例えば水溶性高分子化合物等が好ましい。
【0019】
水溶性高分子化合物は、製造工程における水洗浄の工程で剥離材を除去することが可能であり、特別な薬剤等を使用しなくともよいため好適に用いることが可能である。該水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、水溶性ポリウレタン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子化合物が挙げられ、好適な吸水性を有する点からポリビニルアルコールが好適に使用される。水溶性高分子化合物の分子量としては、一般に10000〜100000(GPCによる数平均分子量)、特に29000〜40000が好ましい。特に、ポリビニルアルコールを用いる場合、その重合度は一般に300〜1500、特に500〜1000であることが好ましい。
【0020】
剥離材は、基材上に非被膜部の形状に形成(以下パターン化と記載することもある)される。基材上に剥離材をパターン化する方法は、例えば凸版印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷やインクジェット等の印刷法、フィルム上にあらかじめ剥離材をパターン化し、該剥離材をガラスに転写させる方法等が挙げられ、剥離材の粘度はにじみや液ダレが発生しないのであれば、塗布方法によって適宜決定されればよい。さらに剥離材は、1種以上を混合して用いても差し支えなく、また、赤外線反射膜の成膜に支障が出ない範囲であれば、他の第三成分を混合してもよい。
【0021】
剥離材を基材上に形成する際、剥離材がはじき難くする為に、塗布に用いる溶液に界面活性剤を添加してもよい。また、ガラス表面の汚れは、剥離材を形成する際に汚れ表面で剥離材をはじく原因となるため、ガラスの洗浄を行う事が好ましい。洗浄方法としては、酸化セリウム粉末、アルミナ粉末等の研磨剤を用いた洗浄、ブラシ洗浄、超音波洗浄等が挙げられる。この際、洗浄に用いる水に界面活性剤を添加して使用してもよい。また、オゾン処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理等を加味してもよい。
【0022】
熱線反射膜は赤外線反射性を有し、好適な可視光透過性を示すものであればよく、赤外線反射性を有する膜と他の誘電体薄膜や保護膜等の薄膜とを積層した積層膜が好適に用いられる。該熱線反射膜を構成する主成分として、例えば、Zn、Ti、Sn、Cr、Nb、Ta、Al、In、ステンレス等の酸化物、窒化物、酸窒化物、Ag、Al等の金属、前述した酸化物、窒化物、酸窒化物、金属に異種金属を添加した合金、金属に異種金属を添加した金属の酸化物(例えばITO、AZO、GZO等)、酸窒化物などが挙げられる。特に、赤外線反射性能を有する膜として、TiNx、TiOx、SST(ステンレス)、SSTNx、SSTNxOy、CrNx、SnOx、Ag、NiCrx、ZnAlx、ZnSnx、SiNx等(x、yは正の有理数)の膜は好適に用いられ、熱線反射膜が積層膜である場合、1種類以上を積層するものでもよい。
【0023】
また、特に好適な熱線反射膜として、ガラス/ZnOx/Ag/ZnAlx/ZnOx、あるいはガラス/ZnOx/Ag/ZnAlx/ZnOx/Ag/ZnAlx/ZnOxの膜構成を有する低放射膜が挙げられる。また、上記ZnOxは、SnOx、TiOx、SiNx、ZnAlxOy、ZnSnxOy等を用いるものでもよく、数種類を積層するものでもよい(前記x、yは正の有理数)。また、ZnAlxの代わりに、Ti、NiCrxを使用してもよい。
【0024】
また、形成される熱線反射膜は、赤外線反射性や可視光透過性を損なわず、薄膜に欠陥が発生しない程度の厚みであればよく、積層膜の層数や薄膜の種類によって異なる。
【0025】
熱線反射膜の表面抵抗値が小さいとプラズマ振動により振動数が低い電磁波を反射することから、好適な赤外線反射性を持つという点で好ましい。また、特に低放射膜は表面抵抗値が2〜20Ω/□程度であり、15Ω/□以下である場合、優れた熱線遮蔽性能を有するため好適に用いられる。また、上記赤外線反射性は、波長900nmから1400nmの波長領域で50%を越える反射の極大値を有することが望ましい。
【0026】
本発明の車両用窓ガラスは真空成膜法を用いて形成されるものであり、例えばスパッタリング法、電子ビーム蒸着法、イオンビームデポジション法、イオンプレーティング法等が挙げられるが、均一性を確保しやすいスパッタリング法は好適に用いられる。スパッタリング法は、例えば、DC(直流)スパッタリング方式、AC(交流)スパッタリング方式、高周波スパッタリング方式、マグネトロンスパッタリング方式が挙げられる。中でも、プロセスが安定しており、大面積への成膜が容易であるという利点があることから、DCマグネトロンスパッタリング法、ACマグネトロンスパッタリング法が好ましい。
【0027】
剥離材の除去は、水を用いウエスや不織布によって拭取る方法や、水、温水等のシャワーや、ブラシ洗浄、超音波洗浄等によって除去するのが好ましい。また、上記した洗浄方法等を複数組み合わせて洗浄してもよい。使用するブラシの材質としては、ナイロンやポリアミド、ポリウレタン等が挙げられ、ブラシの線径が0.15〜0.35mmであることが好ましい。線径が0.15mm未満の場合、薄膜表面と接触する際に十分な圧力を与えることが出来ないため、薄膜表面を十分に洗浄することが出来ない傾向がある。一方、線径が0.35mm超の場合、薄膜表面と接触する際に過剰な圧力を与えて薄膜表面に傷や剥離が発生する傾向がある。
【0028】
また、ブラシのロールの回転速度は、100〜300RPMであることが好ましい。該回転速度が100RPM未満の場合、膜表面と接触する際に十分な摩擦力を与えることが出来ないため、薄膜表面を十分に洗浄することが出来ない傾向がある。一方、該回転速度が300RPM超の場合、薄膜表面と接触する際に過剰な衝撃力を与えて薄膜表面に傷や剥離が発生する傾向がある。
【0029】
以下に本発明の好適な実施の形態を示す。なお、本発明は以下に限定されるものではない。
【0030】
まず、大きさ約760mm×540mmで厚み約3mmのクリアガラス基板をアルミナ洗浄、洗剤を用いたブラシ洗浄、リンス洗浄を順次行い、乾燥する。
【0031】
次に、スクリーン印刷機を用い、ポリビニルアルコールを主成分とする剥離材を塗布し、ガラス基板表面上にパターニング膜(矩形150mm×150mm)を形成する。
【0032】
次に、パターニング膜が形成されたガラス基板の膜付き側を上にしてDCマグネトロンスパッタリング装置の基材ホルダーに設置し、該装置の真空チャンバー内を真空ポンプで約5×10−4Paまで脱気した後、スパッタガスを導入し、真空チャンバー内の圧力を0.1〜1Paの間で保持し、スパッタターゲットに電力を印加し、該パターニング膜付きガラス基板を搬送させながら、低放射膜(ガラス/ZnOx/Ag/ZnAlx/ZnOx)を全面に成膜する。
【0033】
次に、上記膜付きガラスの膜面を上にして、約50℃程度の温水で、約170RPM程度の回転にあるナイロンブラシを4対(ブラシ線径約0.15〜0.16mm)備える洗浄機に投入し、約15〜45秒程度の通過時間で温水シャワーとブラッシングで温水ブラシ洗浄を行う。
【0034】
その結果、ガラス上のパターニング膜の部分のみ、パターニング膜と熱線反射膜とが同時に剥がされ、パターニング膜とともに赤外線反射膜を除去することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空成膜法を用いて熱線反射膜が形成された車両用窓ガラスの製造方法において、基材上の成膜面に剥離材を塗布する工程、該剥離材が塗布された基材上に熱線反射膜を形成する工程、該熱線反射膜形成後に該剥離材を除去する工程、を有することを特徴とする車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記剥離材が水溶性高分子化合物であることを特徴とする請求項1に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項3】
剥離材を除去する工程が、水を用いて剥離材を溶解させる工程、剥離材の溶解後にブラシ洗浄する工程、であることを特徴とする請求項2に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記熱線反射膜が導電性薄膜であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の車両用窓ガラスの製造方法。


【公開番号】特開2011−153035(P2011−153035A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13710(P2010−13710)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】