説明

車両用衝撃吸収体

【課題】ロアアブソーバーなどの車両用衝撃吸収体において、軽量化を行っても、所要の耐荷重性能を確保することができる構造を提供する。
【解決手段】長手方向である第1の方向Wが車両幅方向と平行になるように、車両前方の下部領域に設置されるとともに、車両前後方向と車両幅方向とを含む平面に実質的に平行に配置される板状の車両用衝撃吸収体1であって、車両用衝撃吸収体1の板面から突出し、それぞれが板面内で第1の方向Wと直交する第2の方向Lに延びる複数の補強リブ6を有し、互いに隣接する補強リブ6の少なくとも一方が、補強リブ6の端部に形成され、端部から分岐して延びる分岐リブ7を有し、互いに隣接する補強リブ6が、分岐リブ7を介して互いに一体的に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前方の下部領域に設置される車両用衝撃吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両前方には、車両が歩行者と衝突した際に歩行者への傷害を低減し、歩行者の安全を確保するための保護装置が設置されている。
【0003】
フロントバンパーにおいては、バンパーリンフォースとバンパーフェイシアとの間に配設され、衝撃吸収性能を有する樹脂発泡体などからなるバンパーアブソーバーや、バンパー下部に配設された平板状のロアアブソーバーが知られている。このうち、平板状のロアアブソーバーは、所要の剛性を付与されており、車両が歩行者に衝突した際には歩行者の脚部に接触し、いわゆる脚払い材として作用する。すなわち、ロアアブソーバーは、歩行者の脚部を払って歩行者を車両(自動車)のボンネット上に跳ね上げることで、歩行者が車両の下部に巻き込まれることを防止する機能を担っている。それと同時に、ロアアブソーバーには、歩行者への衝撃を吸収する機能も付与されていることが好ましい。
【0004】
このような機能を確保するために、ロアアブソーバーは、歩行者と衝突した際に脚部(主に膝部)への傷害を抑制しながら歩行者の脚部を確実に跳ね上げる必要があり、このためには、歩行者の脚部の下側にのみ高い荷重を与えることが必要となる。そのため、ロアアブソーバーは、車両前後方向と車両幅方向とを含む水平面に実質的に平行に配置される平板状の成形体であって、この成形体の車両前方側の側面と歩行者の脚部とが交差して接触するようにバンパー下部に設置される平板状の成形体として構成されている。したがって、このような平板状のロアアブソーバーでは、ロアアブソーバーと歩行者の脚部との接触面積が必然的に小さくなる。その結果、局所的な圧縮でも歩行者の脚を払ってボンネットへ跳ね上げるだけの高荷重を得るために、ロアアブソーバーの重量が大きくなることが避けられず、その軽量化が課題となっている。
【0005】
特許文献1には、ポリプロピレンやポリフェニレンオキサイド(PPO)樹脂等の熱可塑性樹脂の射出成形品であり、車両前後方向に沿った平板状のベースプレートによって構成された下段衝撃吸収体(ロアアブソーバー)が開示されている。ベースプレートの上面には、それそれが車両前後方向に延び、所定の間隔を空けて突出する複数の縦リブが設けられており、これらの縦リブは、車両幅方向に延びる横リブによって互いに連結されている。こうして、上述の下段衝撃吸収体は、板状の成形品とすることにより軽量化を図りつつ、縦リブおよび横リブによってベースプレートを補強することで、歩行者と接触した際に歩行者の脚部を払うのに必要な剛性を確保している。
【0006】
しかしながら、この下段衝撃吸収体では、所要の剛性を確保するために縦リブの高さが必要となるため、軽量化には限度がある。
【0007】
それに対して、特許文献2には、車両前後方向に延びるように配設される平板状のプレート部を有する脚払い装置(ロアアブソーバー)が開示されている。プレート部の前側部分には、それぞれ車両前後方向に延び、車両幅方向に交互に配置された2種類の補強ビードが一体的に形成されている。第1の補強ビードは、車両上方に突出し、車両前後方向から見て下方に開口するコ字状の断面を有しており、第2の補強ビードは、車両下方に突出し、車両前後方向から見て上方に開口するコ字状の断面を有している。すなわち、第1および第2の補強ビードは、車両前後方向と直交する断面が矩形波状に形成されている。このような補強ビードの構造によって、上述の脚払い装置では、特許文献1の下段衝撃吸収体と比べて、同程度の剛性を確保するのに補強ビードの高さを低く抑えることができ、それにより、軽量化が達成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−274298号公報
【特許文献2】特開2007−331455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、車両(自動車)の燃費低減への要求は依然として高く、さらなる軽量化が求められており、特許文献2の脚払い装置では、十分な軽量化が達成されているとは言えなかった。加えて、特許文献2の脚払い装置は、補強ビードが車両の上方および下方にそれぞれ突出する形状であるため、車両上下方向の高さが大きくなってしまい、車両スペースの制約上、採用できない可能性があることも問題となっていた。
【0010】
そこで、本発明の目的は、ロアアブソーバーなどの車両用衝撃吸収体において、軽量化を行っても、所要の耐荷重性能を確保することができる構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明の車両用衝撃吸収体は、長手方向である第1の方向が車両幅方向と平行になるように、車両前方の下部領域に設置されるとともに、車両前後方向と車両幅方向とを含む平面に実質的に平行に配置される板状の車両用衝撃吸収体であって、車両用衝撃吸収体の板面から突出し、それぞれが板面内で第1の方向と直交する第2の方向に延びる複数の補強リブを有し、互いに隣接する補強リブの少なくとも一方が、補強リブの端部に形成され、端部から分岐して延びる分岐リブを有し、互いに隣接する補強リブが、分岐リブを介して互いに一体的に連結されている。
【0012】
このような車両用衝撃吸収体では、車両幅方向(第1の方向)に並置された複数の補強リブが、各補強リブの端部に設けられた分岐リブによって互いに連結されているため、車両幅方向に荷重が伝播しやすい構造となっている。したがって、歩行者の脚部との衝突などの局部的な圧縮であっても、車両幅方向の広い範囲から反発荷重を発生させることができ、衝撃吸収体全体を効率的に機能させることが可能となる。そのため、板厚を薄くするなどして、さらなる軽量化を行っても、所要の耐荷重性能を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、ロアアブソーバーなどの車両用衝撃吸収体において、軽量化を行っても、所要の耐荷重性能を確保することができる構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態における車両用衝撃吸収体としてのロアアブソーバーを示す概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態における車両用衝撃吸収体としてのロアアブソーバーを示す概略平面図である。
【図3】本発明の一実施形態における車両用衝撃吸収体としてのロアアブソーバーの補強リブの変形例を示す概略平面図である。
【図4】衝突解析を説明するための図である。
【図5】衝突解析に用いた実施例の試験サンプル(ロアアブソーバー)を示す概略斜視図である。
【図6】衝突解析に用いた実施例の試験サンプル(ロアアブソーバー)を示す概略平面図である。
【図7】衝突解析に用いた実施例の試験サンプル(ロアアブソーバー)を示す概略平面図である。
【図8】衝突解析に用いた比較例の試験サンプル(ロアアブソーバー)を示す概略斜視図である。
【図9】衝突解析によって得られた実施例および比較例の荷重−変位曲線を示す図である。
【図10】衝突解析によって得られた実施例および比較例の変形・応力分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態における車両用衝撃吸収体としてのロアアブソーバーを概略的に示す斜視図である。図2(a)は、図1に示すロアアブソーバーの概略平面図であり、図2(b)は、図2(a)に示すロアアブソーバーの一部拡大図である。
【0017】
本実施形態のロアアブソーバーは、平面形状が細長の板状部材であって、車両に対して、車両前後方向と車両幅方向とを含む平面(水平面)に平行に配置されるとともに、その長手方向が車両幅方向と平行になるように設置されることを前提としている。そのため、以下の説明では、ロアアブソーバーの板面内での各方向を、車両に設置された状態での対応する車両の各方向とする。すなわち、図1に示すように、ロアアブソーバーの長手方向(第1の方向)を車両幅方向W、長手方向と直交する方向(第2の方向)を車両前後方向Lとする。なお、図1の斜視図および図2の平面図は共に、車両上方側から見たロアアブソーバーを示している。
【0018】
図1および図2に示すように、本実施形態のロアアブソーバー1は、板状に形成されており、全体として細長矩形状の平面形状を有している。ロアアブソーバー1は、ポリプロピレンやポリエチレン等の熱可塑性樹脂を射出成形することによって形成されている。なお、ロアアブソーバー1の材料としては、このような単一の熱可塑性樹脂に限定されることはなく、熱可塑性樹脂に、タルクなどの無機フィラーやゴム成分が添加されたものや、ガラス繊維などの合成繊維やセルロース繊維などの天然繊維が強化繊維として添加されたものであってもよい。あるいは、熱硬化性樹脂や金属材料からなるロアアブソーバーであってもよい。
【0019】
ロアアブソーバー1の車両後方側および車両幅方向端部には、それぞれプレート状のフランジ部2が形成されている。フランジ部2には、複数の取付孔3が形成されており、ロアアブソーバー1は、車両に設置される際には、この取付孔3を介して、ビス止めなど公知の締結手段によって車体に固定されることになる。また、車両後方側のフランジ部2には、固定される車体の形状に合わせて、切欠部4が設けられている。
【0020】
ロアアブソーバー1のフランジ部2に囲まれた領域には、フランジ部2よりも車両下方側に一段低くなった凹陥部5が形成されている。この凹陥部5には、凹陥部5の底面から車両上方に突出し、それぞれが車両前後方向Lに延びる複数の補強リブ6が形成されている。
【0021】
補強リブ6は、平板状に形成されたロアアブソーバー1の剛性を高めるために設けられており、本実施形態では、それぞれが同じ厚みを有し、車両幅方向Wに一定の間隔をあけて配置されている。そのため、本実施形態では、ロアアブソーバー1の剛性は車両幅方向Wで一定となっているが、補強リブ6の構成はこれに限定されず、補強リブ6の厚みや補強リブ6間の間隔は、車両幅方向Wの位置に応じて変更することもできる。すなわち、ロアアブソーバー1の剛性を、例えば、車両幅方向Wの端部から中央に近づくにつれて徐々に高くなるようにすることも可能である。
【0022】
ロアアブソーバー1の各補強リブ6は、車両前方側の端部(以下、「前端部」という)に形成され、その端部から2つに分岐して延びる分岐リブ7を備えている。分岐リブ7は、図2(b)に示すように、隣接する補強リブ6の分岐リブ7と、それぞれの先端同士が接するように一体的に連結されている。これにより、車両幅方向Wで互いに隣接する補強リブ6は、それぞれに形成された分岐リブ7を介して互いに一体的に連結され、したがって、車両幅方向Wに並置された複数の補強リブ6は、互いに一体的に連結されることになる。このような構成によって、本実施形態のロアアブソーバー1では、車両幅方向Wにおける荷重の伝播性が格段に向上することになる。すなわち、歩行者の脚部との接触のような局部的な圧縮の場合にも、ロアアブソーバー1の車両幅方向Wに荷重が伝播しやくなる。そのため、ロアアブソーバー1は車両幅方向W全体で反発荷重を発生させることができ、ロアアブソーバー1全体で効率的に耐荷重性能を発揮できるようになる。その結果、ロアアブソーバーの板厚を低減するなどして全体の重量を減少させても、所要の耐荷重性能を確保することができるため、より軽量化されたロアアブソーバーを実現することが可能となる。
【0023】
また、分岐リブ7は、図2(b)に示すように、ロアアブソーバー1の車両上方側から見て、補強リブ6の前端部からY字状に分岐して延びている。すなわち、1つの補強リブ6から2つに分岐した分岐リブ7は、補強リブ6が延びる方向(車両前後方向L)に対して対称となるように形成されている。これにより、分岐リブ7は、衝撃荷重を受けて拡開して座屈する際に、衝撃荷重を吸収することも可能となるため、ロアアブソーバー1の衝撃吸収性能を高めるという効果ももたらすことになる。
【0024】
ここで、分岐リブ7は、ロアアブソーバー1の車両上方側から見て、分岐リブ7が延びる方向と車両前後方向Lとのなす角度が20°〜60°の範囲にあるように形成されていることが好ましく、30°〜50°の範囲にあるように形成されていることがより好ましい。上述した下限値以上であれば、補強リブ6の車両前後方向Lの長さが短くなりすぎて、ロアアブソーバー1の脚払い性能が低下したり、互いに隣接する補強リブ6間の間隔が狭くなりすぎて、ロアアブソーバー1の重量が増加したりすることが抑制される。また、上述した上限値以下であれば、互いに隣接する補強リブ6間の間隔が広くなりすぎることなく、ロアアブソーバー1の脚払い性能を確保するための十分な剛性が得られるとともに、分岐リブ7による衝撃吸収性能を高める効果も得られる。
【0025】
なお、本実施形態では、すべての補強リブ6(分岐リブ7)は、そのリブ高さが、凹陥部5の深さ、すなわち凹陥部5の底面からフランジ部2までの高さと実質的に同じとなるように形成されている。しかしながら、補強リブ6のリブ高さはこれに限定されず、むしろフランジ部2までの高さよりも低くなるように形成されていることが好ましい。このような構成にすることで、補強リブ6自体を保護することができ、ロアアブソーバー1の成形後の輸送時などにロアアブソーバー1を積み重ねた場合に、補強リブ6が変形したり、破損したりする虞を可及的に低減することが可能となる。
【0026】
ロアアブソーバー1の前端部には、凹陥部5の底面から車両上方に突出し、車両幅方向Wに延びる前側壁(横断リブ)8が形成されている。前側壁8は、図2(b)に示すように、各分岐リブ7の互いに連結した先端と接するように、各分岐リブ7に一体的に連結されており、すなわち、互いに隣接する補強リブ6の分岐リブ7と前側壁8とは、一つの接続点Xで互いに連結されている。これにより、本実施形態では、ロアアブソーバー1の車両前方側の剛性を、ロアアブソーバー1の重量の増加を抑制しつつ、効果的に高めることが可能となる。そのため、前側壁8または後述する補強部9に入力された衝撃荷重に対して、衝突初期の反発荷重を高めることができ、それにより、本実施形態のロアアブソーバー1には、良好な脚払い性能が付与されることになる。さらに、ロアアブソーバー1の上面側(車両上方側)に一定の間隔で並置された補強リブ6は、上述した分岐リブ7を介してだけでなく、前側壁8をも介して互いに一体的に連結されている。そのため、本実施形態では、車両前方側から局所的に入力された衝撃荷重の車両幅方向Wへの伝播性がより一層向上することになり、これにより、ロアアブソーバー1全体を効率的に利用して反発荷重を発生させることが可能となる。その結果、ロアアブソーバーの脚払い性能が格段に高められることで、従来からの脚払い性能を低下させることなく、すなわち良好な脚払い性能を維持しながら、ロアアブソーバー1を軽量化することが可能となる。
【0027】
さらに、ロアアブソーバー1の前側壁8には、この前側壁8から車両前方に向かって突出するように、衝撃の入力面となる補強壁9aと、前側壁8と補強壁9aとの間で車両前後方向Lに延びる架橋リブ9bとを備えた補強部9が形成されている。ロアアブソーバー1の車両前方側は、上述した前側壁8に加えて、この補強部9によっても補強され、車両後方側と比べて剛性が高められることで、衝突初期の反発荷重が高められ、歩行者の脚部に対する脚払い性能がさらに向上することになる。
【0028】
なお、ロアアブソーバー1の凹陥部5には、隣接する補強リブ6に囲まれた領域、および分岐リブ7と前側壁8とに囲まれた領域のそれぞれの底面に、主に水抜き用の孔として機能する貫通孔10が形成されている。これにより、本実施形態のロアアブソーバー1では、雨天走行時などに、凹陥部5の上述の領域に溜まった水が貫通孔10から排出されることで、車両重量が増加して、燃費が悪化することを抑制することができる。これに関連して、凹陥部5の上述の領域は、水の排出性を高めるために、貫通孔10に向かって車両下方に傾斜するように形成されていることが好ましい。
【0029】
以上、本実施形態では、補強リブ6(分岐リブ7)がロアアブソーバー1の上面側(車両上方側)に形成された場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、補強リブは、ロアアブソーバーの下面側(車両下方側)に形成されていてもよい。また、補強リブは、ロアアブソーバーの上面側および下面側の両方に形成されていてもよい。このようなロアアブソーバーでは、補強リブが一方にのみ形成された場合と同等の剛性を得るために、両面合計のリブ高さを、一方にのみ形成された場合のリブ高さと比べて低くすることができる。そのため、ロアアブソーバーをより一層軽量化することが可能となる。また、本実施形態では、分岐リブ7は、補強リブ6の前端部にのみ形成されていたが、以下に示す変形例のように、補強リブの車両後方側の端部や中間領域に形成されていてもよく、1つの補強リブに複数形成されていてもよい。
【0030】
図3(a)から図3(f)は、本実施形態のロアアブソーバーにおいて補強リブの構成を変更した変形例を示す概略平面図であり、車両上方側から見たロアアブソーバーの一部を拡大して示している。
【0031】
図3(a)から図3(f)は、ロアアブソーバーの車両後方側の端部(以下、「後端部」という)に、前側壁8と同様の構成の後側壁(横断リブ)11が形成され、複数の補強リブ6がこれらの間に形成されている変形例を示している。これらの変形例において、各補強リブ6が車両前後方向Lに沿って形成されている点、および、分岐リブ7が補強リブの端部から分岐して延びている点については、上述した実施形態と同様である。また、図3(a)から図3(f)には、各分岐リブ7について、分岐リブ7が延びる方向と補強リブ6が延びる方向(車両前後方向L)とのなす角度が45°である場合が示されている。なお、図3(a)から図3(f)では、簡単のために、ロアアブソーバーの凹陥部に形成された貫通孔は図示されていない。
【0032】
ロアアブソーバーにおける車両幅方向への荷重の伝播性を向上させ、それにより、ロアアブソーバーの軽量化を実現するには、図1および図2に示す実施形態のように、必ずしも各補強リブに分岐リブが形成されている必要はない。すなわち、図3(a)および図3(b)に示すように、互いに隣接する補強リブの少なくとも一方が分岐リブを備え、その分岐リブを介して、互いに隣接する補強リブが一体的に連結されていればよい。
【0033】
図3(a)に示す変形例は、図2(b)に示す実施形態の複数の補強リブ6の間に、分岐リブが形成されていない補強リブ16を追加した変形例である。すなわち、分岐リブ7が形成された補強リブ6と分岐リブが形成されていない補強リブ16とは、車両幅方向Wに交互に配置されている。
【0034】
この変形例では、互いに隣接する補強リブ6,16は、それぞれの先端同士、すなわち、分岐リブが形成されていない補強リブ16の前端部と、補強リブ6の分岐リブ7の先端とが、互いに一体的に連結されている。これにより、分岐リブが形成されていない補強リブ16は、隣接する補強リブ6の分岐リブ7と前側壁8とが連結する接続点Xにおいて、前側壁8に一体的に連結されることになる。したがって、前側壁8は、分岐リブ7によってだけでなく、分岐リブが形成されていない補強リブ16によっても補強されることで、その剛性がより高められる。そのため、この変形例では、ロアアブソーバーに入力した衝突荷重に対して、衝突初期の反発荷重がより一層高められるという効果も得ることができる。
【0035】
図3(b)に示す変形例は、図3(a)に示す変形例に対して、分岐リブが形成されていない補強リブ16に隣接する補強リブ6のうちの一方において、分岐リブ7’を形成する端部を前端部から後端部に変更した変形例である。すなわち、分岐リブが形成されていない補強リブ16は、前端部および後端部で、それぞれ前側壁8および後側壁11に一体的に連結されているとともに、隣接する補強リブ6の分岐リブ7,7’の先端にそれぞれ一体的に連結されている。したがって、この変形例では、前端部に分岐リブ7が形成された補強リブ6と、分岐リブが形成されていない補強リブ16と、後端部に分岐リブ7’が形成された補強リブ6と、分岐リブが形成されていない補強リブ16とが、車両幅方向Wにこの順で配置されることになる。このような構成によって、ロアアブソーバーの前端部において、車両幅方向Wへの荷重伝播性能を低下させることなく、車両幅方向Wに剛性差を設けることが可能となる。これにより、ロアアブソーバーの変形性能を高めることで、その衝撃吸収性能を向上させることが可能となる。
【0036】
図3(c)は、図2(b)に示す実施形態に対して、各補強リブ6’の後端部にも分岐リブ7’を形成した変形例を示している。この場合、後端部に形成された分岐リブ7’は、前端部に形成された分岐リブ7と同様に、それぞれの先端同士が互いに一体的に連結されているとともに、互いに連結した先端が後側壁11に接するように、後側壁11に一体的に連結されている。これにより、ロアアブソーバーの車両幅方向Wへの荷重伝播性能をより一層高めることが可能となる。
【0037】
図3(d)は、図2(b)に示す実施形態に対して、補強リブ6間の距離を、例えば図の左側から右側に向かうにつれて狭くした変形例を示している。このような形状により、ロアアブソーバーの車両幅方向Wに剛性差を付与することが可能となり、すなわち、図の右側でのロアアブソーバーの剛性を、図の左側に比べて高くすることが可能となる。
【0038】
図3(e)に示す変形例は、前側壁8と後側壁11との間に、前側壁8および後側壁11と同様の構成の中間壁(横断リブ)12を形成し、前側壁8と中間壁12との間、および中間壁12と後側壁11との間に、図2(b)に示すロアアブソーバーと同様の構成をそれぞれ配置したような変形例である。言い換えれば、図3(e)に示す変形例は、図2(b)に示すロアアブソーバーを、車両前後方向Lに2つ並べたような構成を有している。したがって、この変形例では、車両幅方向Wへの荷重伝播性能を高めることができる構成、すなわち、分岐リブ7,7”と前側壁8または中間壁12とを介して互いに隣接する補強リブ6,6”を一体的に連結する構成が、車両前後方向Lに複数形成されている。そのため、ロアアブソーバー全体として、車両幅方向Wへの荷重伝播性能をより一層高めることが可能となる。
【0039】
図3(f)は、図3(e)に示す変形例に対して、前側壁8と中間壁12との間に配置された補強リブ6の構成を変更した変形例を示している。この変形例では、前側壁8と中間壁12との間に配置された補強リブ6間の間隔が、中間壁12と後側壁11との間に配置された補強リブ6”間の間隔よりも狭くなっている。すなわち、車両後方側の補強リブ6”が、車両前方側の補強リブ6よりも少なくなることで、車両後方側の領域におけるロアアブソーバーの剛性が、車両前方側の領域と比べて低くなるように構成されている。これにより、荷重の入力側である車両前方側の領域と比べて伝播する荷重が少なくなる車両後方側の領域において、ロアアブソーバーの荷重伝播性能を高めることができ、ロアアブソーバー全体をより効率的に利用して反発荷重を発生させることが可能となる。
【0040】
以上のように、本実施形態のロアアブソーバーは、車両幅方向に荷重が伝播しやすい構成を有しているため、歩行者との接触のような局所的な衝突であっても、より広い領域で反発荷重を発生させることができる。このため、板厚を軽減するなどして軽量化を行っても、所要の耐荷重性能を確保することが可能となる。
【0041】
(実施例)
本発明によるロアアブソーバーの降伏荷重(最大荷重)および荷重の伝播性について、CAE(Computer Aided Engineering)解析による評価を行った。具体的には、CAE解析ソフトLS−Dyna(登録商標、米国LSTC社製)を使用して、図4に示すように、歩行者の脚部を模したインパクター21を試験サンプル22に衝突させる衝突解析をおこなった。
【0042】
試験サンプルとしては、図5から図7に示すロアアブソーバー(実施例)と、図8に示すロアアブソーバー(比較例)とを用いた。
【0043】
図5は、実施例のロアアブソーバーを車両上方側から見た概略斜視図であり、図6および図7はそれぞれ、図5に示すロアアブソーバーを車両上方側および車両下方側から見た概略平面図である。また、図8は、比較例のロアアブソーバーを車両上方側から見た概略斜視図である。
【0044】
実施例におけるロアアブソーバー101は、上述した実施形態と実質的に同様の構成を、矩形平板状のプレート部102の上面側(車両上方側)および下面側(車両下方側)にそれぞれ備えている。具体的には、以下の通りである。
【0045】
プレート部102の前端部には、車両上方および下方に突出する一体的な前側壁108が形成されている。プレート部102の上面側には、この前側壁108に一体的に連結するように、図2(b)に示す実施形態と同様の構成の補強リブ106が形成されている(図6参照)。すなわち、補強リブ106の前端部に、それぞれの先端同士が互いに一体的に連結されているとともに、互いに連結した先端が前側壁108に接するように、前側壁108に一体的に連結された分岐リブ107が形成されている。なお、補強リブ106は、プレート部102の前端部から後端部の途中まで形成されており、すなわちプレート部102の後端部までは到達していない。このため、プレート部102の上面側は、分岐リブ107が形成された車両前方側の領域からプレート部102のみの車両後方側の領域にかけて、剛性が段階的に低下するように構成されている。
【0046】
一方、プレート部102の下面側には、車両上方にも突出する前側壁108の他に、図7に示すように、後側壁111および中間壁112が形成されており、前側壁108と中間壁112との間に、図3(c)に示す実施形態と同様の構成の補強リブ106’が形成されている。すなわち、プレート部102の下面側の補強リブ106’は、前側壁108に一体的に連結された分岐リブ107に加えて、後端部にも、中間壁112に一体的に連結された分岐リブ107’を備えている。また、中間壁112と後側壁111との間には、それぞれが車両前後方向Lに延びる複数の補助リブ115が形成されており、補助リブ115は、中間壁112を通過して、補助リブ106’の後端部の分岐リブ107’に一体的に連結されている。
【0047】
なお、プレート部102の上面側および下面側に設けられた各分岐リブ107,107’は、補強リブ106,106’が延びる方向とのなす角度が約45°となるように形成されている。
【0048】
一方、比較例におけるロアアブソーバー201は、特許文献2に記載のロアアブソーバーと実質的に同様の構成とした。すなわち、比較例では、プレート部202の車両前方側に、それぞれが車両前後方向Lに延び、車両幅方向Wに交互に配置された凸部203および凹部204であって、車両前後方向Lと直交する断面が矩形波状に形成された凸部203および凹部204が形成されている。
【0049】
衝突解析の条件として、上記試験サンプルの外形寸法を、実施例および比較例共に、車両幅方向Wで600mm、車両前後方向Lで270mmとする一方、試験サンプルの重量は、比較例に対して実施例を13%軽量とした。また、解析に用いたインパクター21は、厚さ25mmのウレタンフォーム23が巻かれた、Φ70mm、質量7.1gの円筒形の鉄製剛体とした。このインパクター21を、40km/hの速度で試験サンプル22の中央付近に衝突させ(図4参照)、インパクター侵入量とインパクターにかかる荷重を測定した。このような衝突解析によって得られた実施例および比較例の荷重−変位曲線を図9に示す。
【0050】
実施例では、比較例よりも13%軽量化したにもかかわらず、6.0kN近くまで最大荷重が得られており、比較例と比べて耐荷重性能(脚払い性能)が向上していることが確認された。
【0051】
図10は、衝突解析によって得られた変形・応力分布図を、実施例および比較例に対してそれぞれ変形の進行度合いごとにまとめたものである。
【0052】
図10から、実施例では、比較例と比べて、車両幅方向Wおよび車両前後方向Lへの応力分布の範囲が広く、車両幅方向Wおよび車両前後方向Lへより多くの荷重が伝播していることがわかる。特に、変形の中期・後期の応力分布における両者の差は大きく、比較例では、衝突箇所の周辺領域のみで反発荷重を発生させているのに対して、実施例では、荷重をより広い範囲まで伝播させて、車両幅方向Wおよび車両前後方向Lの広い領域で反発荷重を発生させていることが確認された。
【符号の説明】
【0053】
1 ロアアブソーバー
6,6’,6”,16 補強リブ
7,7’ 分岐リブ
8 前側壁
11 後側壁
12 中間壁
W 車両幅方向
L 車両前後方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向である第1の方向が車両幅方向と平行になるように、車両前方の下部領域に設置されるとともに、車両前後方向と車両幅方向とを含む平面に実質的に平行に配置される板状の車両用衝撃吸収体であって、
前記車両用衝撃吸収体の板面から突出し、それぞれが前記板面内で前記第1の方向と直交する第2の方向に延びる複数の補強リブを有し、
互いに隣接する前記補強リブの少なくとも一方が、該補強リブの端部に形成され、該端部から分岐して延びる分岐リブを有し、
前記互いに隣接する補強リブが、前記分岐リブを介して互いに一体的に連結されている、車両用衝撃吸収体。
【請求項2】
前記各補強リブが、前記分岐リブを有し、
前記互いに隣接する補強リブは、前記分岐リブ同士が互いに一体的に連結されている、請求項1に記載の車両用衝撃吸収体。
【請求項3】
前記互いに隣接する補強リブは、それぞれの先端同士が互いに一体的に連結されている、請求項1または2に記載の車両用衝撃吸収体。
【請求項4】
前記車両用衝撃吸収体の前記板面から突出し、前記第1の方向に延びる横断リブを有し、
前記分岐リブと前記横断リブとが互いに一体的に連結されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収体。
【請求項5】
前記分岐リブと前記横断リブとは、該分岐リブの先端が該横断リブに接するように、互いに一体的に連結されている、請求項4に記載の車両用衝撃吸収体。
【請求項6】
前記横断リブが、前記第2の方向に沿って複数形成されている、請求項4または5に記載の車両用衝撃吸収体。
【請求項7】
前記分岐リブが、前記補強リブの端部からY字状に分岐して延びている、請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用衝撃吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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