説明

車両用駆動装置の潤滑機構

【課題】車両走行時の第1回転軸を支持する軸受の潤滑不足を抑制することができる車両用駆動装置の潤滑機構を提供する。
【解決手段】第1空間84と第2空間86との接続口の下端88が、軸受47の外輪47bの内周下端よりも鉛直方向において高い位置に形成されているため、車両走行時においても第1空間84の下部に接続口の下端88と同じ高さまで潤滑油が貯留される。そして、この接続口の下端88が軸受47の外輪47bの内周下端よりも鉛直方向において高い位置にあるので、軸受47を構成するボール47cの少なくとも一部がその貯留された潤滑油によって浸漬されて軸受47の潤滑不足が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動装置の潤滑機構に係り、潤滑不足を抑制する構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1ギヤが形成されている第1回転軸およびその第1回転軸を回転可能に支持する軸受を収容するケースによって囲まれた第1空間と、前記第1ギヤと噛み合う第2ギヤが形成されている第2回転軸を収容する前記ケースによって囲まれた第2空間とを備える車両用駆動装置が知られている。特許文献1の車両用電動式駆動装置がそれである。特許文献1の車両用電動式駆動装置では、カウンタドライブギヤ48(第1ギヤ)が形成されている電動機22の出力軸30(第1回転軸)および出力軸30を回転可能に支持する軸受46を収容するトランスアクスルケース44(ケース)によって囲まれた第1空間と、カウンタドライブギヤ48と噛み合うカウンタドリブンギヤ50(第2ギヤ)が形成されているカウンタ軸32(第2回転軸)を収容するトランスアクスルケース44によって囲まれた第2空間とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−223376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の車両用電動式駆動装置において、カウンタドライブギヤ48は、それと噛み合うカウンタドリブンギヤ50と比べても外径が小さく、ケースの底面からも離れている。従って、走行時においてトランスアクスルケース44の底に貯留される潤滑油がカウンタドリブンギヤ50等によって掻き上げられ、そのトランスアクスルケース44の底に貯留される潤滑油の油面の高さが下がると、カウンタドライブギヤ48が形成されている出力軸30を回転可能に支持する軸受46が潤滑不足となる可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、第1ギヤおよびその第1ギヤが形成されている第1回転軸の一端側を回転可能に支持する軸受を収容するケースによって囲まれた第1空間と、前記第1ギヤと噛み合う第2ギヤが形成されている第2回転軸を収容する前記ケースによって囲まれた第2空間とを備える車両用駆動装置において、車両走行中においても第1ギヤが形成されている第1回転軸を支持する軸受の潤滑不足を抑制することができる車両用駆動装置の潤滑機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、第1発明にかかる発明の要旨とするところは、(a)第1ギヤおよびその第1ギヤが形成されている第1回転軸の一端側を回転可能に支持する軸受を収容するケースによって形成される第1空間と、前記第1ギヤと噛み合う第2ギヤが形成されている第2回転軸を収容する前記ケースによって形成される第2空間とを備える車両用駆動装置の潤滑機構であって、(b)前記第1空間と前記第2空間との接続口の下端が、鉛直方向において前記軸受の外輪の内周下端よりも高い位置にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、前記第1空間と前記第2空間との接続口の下端が、鉛直方向において前記軸受の外輪の内周下端よりも高い位置に形成されているため、車両走行時においても第1空間の下部に前記接続口の下端と同じ高さまで潤滑油が貯留される。そして、この接続口の下端が軸受の外輪の内周下端よりも鉛直方向において高い位置にあるので、軸受を構成する転動子の少なくとも一部がその貯留された潤滑油によって浸漬されて軸受の潤滑不足が抑制される。
【0008】
また、好適には、第2発明の要旨とするところは、第1発明の車両用駆動装置の潤滑機構において、前記第1空間と前記第2空間との接続口の下端は、鉛直方向において前記第1ギヤの下端よりも低い位置にある。このようにすれば、第1ギヤが前記第1空間の下部に貯留される潤滑油に浸漬されることもないので、第1ギヤの攪拌抵抗を抑制することができる。
【0009】
また、好適には、第3発明の要旨とするところは、第1発明または第2発明の車両用駆動装置の潤滑機構において、前記第1空間に貯留される潤滑油の油面の高さおよび前記第2空間に貯留される潤滑油の油面の高さは、車両停止時において前記接続口の下端以上の高さで一致し、車両走行時では、前記第2空間の前記油面の高さが前記接続口の下端よりも低くなり、且つ、前記第1空間の前記油面の高さと前記接続口の下端の鉛直方向の高さとが一致する。このようにすれば、走行時において第1空間の下部に貯留される潤滑油の量が増加しても第2空間側に流れ出るので、第1空間の下部に貯留される潤滑油の油面の高さが接続口の下端を越えることがなく、第1ギヤが第1空間の潤滑油に浸漬されることが抑制されるとともに、軸受を構成する転動子の少なくとも一部が第1空間の潤滑油に浸漬される。従って、軸受の潤滑不足が抑制されるとともに、第1ギヤの攪拌抵抗も抑制される。
【0010】
また、好適には、第4発明の要旨とするところは、第1発明乃至第3発明のいずれか1の車両用駆動装置の潤滑機構において、(a)前記車両用駆動装置は、駆動源としての電動機と、その電動機の出力軸とそれに平行なカウンタ軸と間に設けられた第1減速ギヤ対と、そのカウンタ軸とそれに平行なデファレンシャルケースとの間に設けられた第2減速ギヤ対と、そのデファレンシャルケースおよびそのデファレンシャルケース内に設けられた差動機構からなるデファレンシャル装置と、前記第1減速ギヤ対および前記第2減速ギヤ対の少なくとも一方によって前記ケースの底部から掻き上げられた潤滑油の一部が貯留されるリザーバタンクとを前記ケース内に備え、(b)前記第1ギヤは前記第1減速ギヤ対の一方であるカウンタドライブギヤであり、前記第2ギヤはその第1減速ギヤ対の他方であるそのカウンタドライブギヤと噛み合うカウンタドリブンギヤであり、(c)前記第1回転軸は前記電動機の出力軸であり、前記第2回転軸は前記カウンタ軸である。このようにすれば、高回転で回転し潤滑の必要性が高いカウンタドライブギヤが形成されている前記出力軸を支持する軸受の潤滑不足が効果的に抑制される。また、カウンタドライブギヤが第1空間に貯留される潤滑油に浸漬されることによる攪拌抵抗も抑制され実用的な駆動装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1のリアトランスアクスルの構成を説明する骨子図である。
【図3】図2の切断線Aで切断した断面の一部を簡略的に示す斜視図である。
【図4】図3を矢印B方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、好適には、本明細書において下端とは、いずれも鉛直方向の下端に対応しているものとする。
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の概略構成を示す図である。図1において、この車両用駆動装置は、燃料を燃焼させて動力を出力するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関により構成されるエンジン12と、電動機14を内蔵し、上記エンジン12および電動機14のいずれか1または両方の動力を選択的に出力して左右一対の前方車軸16および前輪18を回転駆動するフロントトランスアクスル20と、電動機22を内蔵し、その電動機22の動力により左右一対の後方車軸(車軸)24および後輪26を回転駆動するリアトランスアクスル28とを備える電気式4輪駆動装置である。
【0015】
このような電気式4輪駆動車両は、例えば、車両発進時には電動機14および電動機22の動力により走行し、また、エンジン12の運転効率のよい走行領域の場合にはエンジン12の動力により走行するようになっている。また、低速走行時あるいは緩やかな坂を下っているとき等のエンジン12の運転効率の悪い場合には、エンジン12の運転を停止して電動機14の動力により走行するようになっている。また、加速走行時にはエンジン12の動力により走行するとともに電動機14および電動機22の動力を補助的に用いるようになっている。また、減速時(アクセルオフ時も含む)には、電動機14および電動機22を発電機として作動させることで運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収するようになっている。また、低摩擦路での走行時などにフロントタイヤがスリップした場合には、電動機14を発電機として作動させることでエンジン動力を吸収して前輪18の駆動力を低下させると同時に、電動機14で発電した電力を利用して電動機22を作動させて4輪駆動状態とすることにより車両の安定性を確保するようになっている。
【0016】
上記リアトランスアクスル28は、本発明の要部である車両用駆動装置に相当するものである。以下、このリアトランスアクスル28について詳しく説明する。
【0017】
図2は、図1のリアトランスアクスル28の構成を説明する骨子図であって、車両を鉛直上方から見た図である。図2において、リアトランスアクスル28は、駆動源としての電動機22と、その電動機22の出力軸30とそれに平行なカウンタ軸32との間に設けられた第1減速ギヤ対34と、カウンタ軸32とそのカウンタ軸に平行且つ電動機22の出力軸30と同軸心のデファレンシャルケース36との間に設けられた第2減速ギヤ対38と、デファレンシャルケース36およびそのデファレンシャルケース36内に設けられた差動機構40から成るデファレンシャル装置42とを有し、電動機22から第1減速ギヤ対34および第2減速ギヤ対38を介して伝達されたトルクにより一対の後方車軸24を回転駆動する2軸型の車両用駆動装置である。本実施例では、リアトランスアクスル28の各構成要素は、トランスアクスルケース44内において車両左側から電動機22、第1減速ギヤ対34、および第2減速ギヤ対38(デファレンシャル装置42)の順に配置されている。以下、車両左側と記載するときは、第2減速ギヤ対38に対して電動機22側を指し、また、車両右側と記載するときは、電動機22に対して第2減速ギヤ対38側を指すものとする。本実施例において、出力軸30が本発明の第1回転軸に対応し、カウンタ軸32が本発明の第2回転軸に対応し、トランスアクスルケース44が本発明のケースに対応している。
【0018】
電動機22の出力軸30は、その一端部(車両右側)が中央部および他端部(車両左側)に比べて大径化された段付中空円筒状部材である。この出力軸30の長手方向の中央部には電動機22のローター22aが接続され、一端部の拡径されている部位と他端部とには軸受(出力軸用軸受)46、47が嵌め着けられている。出力軸30は、それら軸受46、47を介してトランスアクスルケース44によって回転可能に支持されている。
【0019】
第1減速ギヤ対34は、小径側のカウンタドライブギヤ48と、それと噛み合う大径側のカウンタドリブンギヤ50とから成る。カウンタドライブギヤ48は、出力軸30の一端部の先端側に一体的に固定されている。また、カウンタドリブンギヤ50は、カウンタドライブギヤ48と噛み合う状態でカウンタ軸32の一端部(車両左側)に一体的に固定されている。なお、カウンタドライブギヤ48が本発明の第1ギヤに対応し、カウンタドリブンギヤ50が本発明の第2ギヤに対応している。
【0020】
カウンタ軸32は、出力軸30、デファレンシャルケース36、カウンタドライブギヤ48、および後述のファイナルドリブンギヤ56よりも車両前方側に設けられている。これにより、カウンタドリブンギヤ50は、トランスアクスルケース44内の最前方側に配置される。このカウンタ軸32の一端部および他端部には、一対の軸受(カウンタ軸用軸受)52が嵌め着けられている。このカウンタ軸32は、これら一対の軸受52を介してトランスアクスルケース44によって回転可能に支持されている。
【0021】
第2減速ギヤ対38は、小径側のファイナルドライブギヤ54と、それと噛み合う大径側のファイナルドリブンギヤ56とから成る。ファイナルドライブギヤ54は、カウンタ軸32の他端部に一体的に固定されている。また、ファイナルドリブンギヤ56は、ファイナルドライブギヤ54と噛み合う状態でデファレンシャルケース36の外周部に嵌め着けられて一体的に固定されている。
【0022】
前記デファレンシャルケース36は、差動機構40を収容する本体部36aと、その本体部36aの軸方向の両側から軸心を中心として軸方向へそれぞれ突き出す円筒状の一対の円筒状端部36bとを備えている。これら一対の円筒状端部36bの外周面には、一対の軸受(デファレンシャルケース用軸受)60が嵌め着けられている。デファレンシャルケース36は、これら一対の軸受60を介してトランスアクスルケース44により回転可能に支持されている。
【0023】
差動機構40は、良く知られた所謂傘歯車式のものである。すなわち、デファレンシャルケース36の本体部36a内においてその回転軸心上で相対向する一対のサイドギヤ62と、それら一対のサイドギヤ16間においてデファレンシャルケース36の回転軸心に直交する状態でそのデファレンシャルケース36に固設されたピニオンシャフト64により回転可能に支持されるとともに、上記一対のサイドギヤ62とそれぞれ噛み合う一対のピニオンギヤ66とを備えている。前記一対の後方車軸24は、一対のサイドギヤ62に一体的に連結されている。上記デファレンシャルケース36と差動機構40とを備えて構成されるデファレンシャル装置42は、電動機22から第1減速ギヤ対34および第2減速ギヤ対38を介して伝達されたトルクにより、一対の後方車軸24の回転速度差を許容しつつそれら一対の後方車軸24を回転駆動するものである。なお、上記一対の後方車軸24の車両左側の一方は、中空円筒状に形成された出力軸30を挿通して一対の後輪26の車両左側の一方に連結されている。
【0024】
前記トランスアクスルケース44は、後方車軸24の軸方向において3分割された複数の分割ケース部、具体的には、主として第1減速ギヤ対34を収容する筒状の第1分割ケース部68と、主として電動機22を収容する蓋状の第2分割ケース部70と、主として第2減速ギヤ対38およびデファレンシャル装置42を収容する蓋状の第3分割ケース部72とが図示しないボルトによって相互に締着されることにより油密に構成されている。本実施例のトランスアクスルケース44は、第1分割ケース部68が車両の幅方向の中央付近に位置され、第2分割ケース部70が第1分割ケース部68の車両左側に連結され、第3分割ケース部72が第1分割ケース部68の車両右側すなわち第1分割ケース部68の第2分割ケース部70とは反対側に連結された3分割式のものである。これらの分割ケース部は、いずれも鋳造軽合金例えばアルミダイカスト等により形成されている。
【0025】
第1分割ケース68は、第1減速ギヤ対34の外周側において筒状に形成された外周壁68aと、その外周壁68aの車両左側の開口を塞ぐように一体的に設けられた第1支持壁68bとを備えている。この第1支持壁68bには、前記出力軸30の一端部における電動機22とカウンタドライブギヤ48との間を軸受47を介して支持する第1支持部74と、デファレンシャルケース36の一端部すなわち一対の円筒状端部36bの車両左側の一方を軸受60を介して支持する第2支持部76と、カウンタ軸32の一端部を軸受52を介して支持する第3支持部78とが設けられている。ここで、第2支持部76は、第1支持部74の開口縁からデファレンシャルケース36側に向けて突設される一部円筒状のケース円筒部82を介して連結されている。
【0026】
第2分割ケース70は、電動機22の外周側において筒状に形成された外周壁70aと、その外周壁70aの車両左側の開口を塞ぐように一体的に設けられた第2支持壁70bとを備えている。この第2支持壁70bは、電動機22の車両左側の他端部を軸受46を介して回転可能に支持している。
【0027】
第3分割ケース72は、デファレンシャル装置42および第2減速ギヤ対38の外周側において筒状に形成された外周壁72aと、その外周壁72aの車両右側の開口を塞ぐように一体的に設けられた第3支持壁72bとを備えている。この第3支持壁72bは、デファレンシャルケース36の他端部すなわち一対の円筒状端部36bの車両右側の他方を軸受60を介して回転可能に支持している。
【0028】
図3は、図2に示す切断線Aで切断した断面の一部を簡略的に示す斜視図である。なお、図3においては、軸受52によって支持されるカウンタ軸32およびカウンタドライブギヤ48と噛み合うカウンタドリブンギヤ50が省略されている。図3にも示されるように、中空円筒状の出力軸30の内周を後輪車軸24が貫通しており、出力軸30の外周側にはカウンタドライブギヤ48が一体的に形成されている。この出力軸30は、第1分割ケース部68の第1支持壁60bの第1支持部74に嵌め着けられている軸受47によって回転可能に支持されている。
【0029】
第1分割ケース部68内には、主に後輪車軸24、出力軸30、カウンタドライブギヤ48、およびカウンタドライブギヤ48が形成されている出力軸30の一端側を回転可能に支持する軸受47を収容するケース円筒部82によって囲まれた第1空間84、および主にカウンタ軸32(図3では図示せず)、カウンタドリブンギヤ50(図3では図示せず)、および軸受52を収容する外周壁68aによって囲まれた第2空間86が形成されている。第1空間84は、トランスアクスルケース44の一部である一部円筒状のケース円筒部82によって囲まれることで形成される円筒状の空間である。第2空間86は、主にトランスアクスルケース44の一部である外周壁68aによって囲まれることで形成される空間である。第1空間84と第2空間86とは互いに連続的に繋がれた空間であり、第1空間の鉛直方向の下端84aが、第2空間の鉛直方向の下端86aよりも高い位置に形成されている。また、第1空間84と第2空間86との間には、これらを繋ぐ一点鎖線で示す接続口88が形成されている。この接続口88は、鉛直方向の上端88aと下端88bとがトランスアクスルケース44によって規定され、接続口88の鉛直方向の下端88bは、第1空間84および第2空間86の鉛直方向の下端84a、86aよりも鉛直方向において高い位置に形成されている。
【0030】
図4は、図3を矢印B方向から見た図、すなわち、図3を軸心Cと平行に見た図である。なお、図4において上方が車両の鉛直上方に対応している。図4に示すように、カウンタドライブギヤ48がカウンタドリブンギヤ50に噛み合わされており、そのカウンタドライブギヤ48が形成されている出力軸30が軸受47によって回転可能に支持されている。軸受47は、出力軸30の外周に嵌め着けられている内輪47aと、ケース円筒部82の内周に嵌め着けられている外輪47bと、内輪47aと外輪47bとの間に自転および公転可能に介挿されてそれら内輪47aおよび外輪47bの相対回転を許容する複数個のボール47cとから構成されている。
【0031】
上述したように、前記接続口88の下端88bの位置が、第1空間84の鉛直方向の下端84aよりも高い位置に形成されている。さらに具体的には、接続口88の下端88bが、軸受47を構成する外輪47bの内周下端49よりも鉛直方向において高い位置に形成されている。或いは、前記接続口88の下端88bは、出力軸30の回転に伴って公転するボール47cが鉛直方向において最も低い位置にあるとき、そのボール47の少なくとも一部よりも鉛直方向において高い位置に形成されている。また、接続口88の下端88bは、鉛直方向においてカウンタドライブギヤ48の下端48aよりも低い位置に形成されている。これより、第1空間84の下部(底部)には、接続口88の下端88bの高さを上限とする斜線で示す潤滑油の貯留空間90が形成される。
【0032】
本実施例では、車両停止時において、トランスアクスルケース44の下部(底部)に貯留される潤滑油の油面の高さが、前記接続口88の下端88b以上の高さとなるようにトランスアクスルケース44内の潤滑油量が調整されている。このとき、第1空間84に貯留される潤滑油と第2空間86に貯留される潤滑油とが合流し、第1空間84の油面の高さと第2空間86の油面の高さとが、前記接続口88の下端88b以上の高さで一致する。本実施例では、車両停止時において油面の高さが図4の破線で示す高さH1となり、カウンタドライブギヤ48、カウンタドリブンギヤ50、およびファイナルドリブンギヤ56の少なくとも一部がトランスアクスルケース44の底部に貯溜される潤滑油に浸漬される。
【0033】
また、カウンタドリブンギヤ50とファイナルドリブンギヤ56とは、回転することによりそのトランスアクスルケース44の底部に貯溜された潤滑油を掻き上げて各潤滑部位に供給するようになっている。すなわち、本実施例のリアトランスアクスル28には、トランスアクスルケース44内の底部に貯溜される潤滑油を掻き上げて各潤滑部位に供給する掻き上げ潤滑方式が採用されている。上記潤滑部位は、例えば第1減速ギヤ対34および第2減速ギヤ対38の噛合部、差動機構40のギヤ噛合部や回転摺動部、および各軸受などが相当する。なお、第1分割ケース部68の第1支持壁68bは、カウンタドリブンギヤ50やファイナルドリブンギヤ56により掻き上げられた潤滑油が電動機22に向けて飛散しないようにその電動機22と第1減速ギヤ34および第2減速ギヤ対38との間を仕切るための仕切り壁としても機能する。
【0034】
図2にもどり、トランスアクスルケース44には、車速Vが上がるにつれて上昇するカウンタドリブンギヤ50による潤滑油の攪拌抵抗を低減することを目的として、トランスアクスルケース44内の底部に貯溜される潤滑油の油面位置を下げるために、前記掻き上げられる潤滑油の一部を貯溜するためのリザーバタンク92が設けられている。このリザーバタンク92は、トランスアクスルケース44の底部の油面位置よりも高い位置で潤滑油が貯溜できるように、各分割ケース部68、70、および72の外周壁68a、70a、および72aの内周面から上方に向けて延設された板状のタンク壁68c、70c、および72cを備えて構成されている。本実施例では、リザーバタンク92は、トランスアクスルケース44の最後方側(クランク軸32を含む第1減速ギヤ対34および第2減速ギヤ対38よりも車両後方側)に配置されている。カウンタドリブンギヤ50により掻き上げられる潤滑油の多くが上方且つ後方へ飛ばされるようになっているため、リザーバタンク92は、上記飛ばされる潤滑油を効率的に収容可能な位置すなわちトランスアクスルケース44の最後方側に配設されている。これにより、ファイナルドリブンギヤ56に比較して回転速度が速くて潤滑油の掻き上げ能力に優れる(掻き上げ量が多い)カウンタドリブンギヤ50の潤滑油の掻き上げ作動が円滑に行われるようになっている。なお、リザーバタンク92に貯溜された潤滑油は、そのリザーバタンク92に設けられた図示しない潤滑油供給口から他の潤滑部位へ供給されるか、所定量以上溜まることでリザーバタンク92からオーバーフローされることによって、トランスアクスルケース44内の底部に戻されるようになっている。なお、本発明の潤滑機構は、第1減速ギヤ対34、第2減速ギヤ対38、トランスアクスルケース44、リザーバタンク92等を含んで構成されている。
【0035】
上記のように構成される車両用駆動装置10の一部であるリアトランスアクスル28の潤滑機構について説明する。車両停止時においては、トランスアクスルケース44の底部に貯留される潤滑油の油面の高さが、破線で示す高さH1となるように潤滑油量が設定されている。このとき、カウンタドリブンギヤ50、およびファイナルドリブンギヤ56の一部が、トランスアクスルケース44の底部に貯溜される潤滑油に浸漬される。一方、車両走行時では、カウンタドリブンギヤ50およびファイナルドリブンギヤ56によってトランスアクスルケース44の底部に貯留される潤滑油が掻き上げられ、各潤滑部位やリザーバタンク92に供給されるなどして油面の高さが低下し、第1空間84においては、貯留空間90に貯留される潤滑油の油面の高さが一点鎖線で示す接続口88の下端88bの高さH2と等しくなる。また、第2空間86においては、潤滑油の油面の高さが接続口88の下端88bの高さH2よりも低くなり、第1空間84に貯留される潤滑油が油面の高さH2(接続口88の下端88bの高さH2)を越える貯留量となると第2空間86側に流下する。なお、走行中の貯留空間90には、カウンタドライブギヤ48等によって掻き上げられた油等が供給される。
【0036】
このように、車両走行中においても第1空間84の貯留空間90に潤滑油が貯留される。ここで、車両の走行中のその第1空間84に貯留される潤滑油の油面が、接続口88の下端88bの高さH2となり、走行中において軸受47のボール47cの一部が潤滑油に浸漬されるため、軸受47の潤滑不足が抑制される。なお、出力軸30は比較的高回転で回転させられるためこれを支持する軸受47の潤滑の必要性が高いが、上記構成によってその軸受47が効果的に潤滑されることとなる。また、接続口88の下端88bの高さH2は、鉛直方向においてカウンタドライブギヤ48の下端48aよりも低い位置にあるので、カウンタドライブギヤ48は貯留された潤滑油に浸漬されない。従って、カウンタドライブギヤ48が浸漬されることで生じる攪拌抵抗も生じない。このように、走行中においても軸受47に適度な潤滑油が供給されることによる潤滑不足の抑制、およびカウンタドライブギヤ48の攪拌抵抗抑制が両立されることとなる。
【0037】
上述のように、本実施例によれば、第1空間84と第2空間86との接続口88の下端88bが、軸受47の外輪47bの内周下端49よりも鉛直方向において高い位置に形成されているため、車両走行時においても第1空間84の下部に接続口88の下端88bと同じ高さまで潤滑油が貯留される。そして、この接続口88の下端88bが軸受47の外輪47bの内周下端49よりも鉛直方向において高い位置にあるので、軸受47を構成するボール47cの少なくとも一部がその貯留された潤滑油によって浸漬されて軸受47の潤滑不足が抑制される。
【0038】
また、本実施例によれば、第1空間84と第2空間86との接続口88の下端88bは、鉛直方向においてカウンタドライブギヤ48の下端48aよりも低い位置にあるため、カウンタドライブギヤ48が第1空間84の下部に貯留される潤滑油に浸漬されることもないので、カウンタドライブギヤ48の攪拌抵抗を抑制することができる。
【0039】
また、本実施例によれば、第1空間84に貯留される潤滑油の油面の高さおよび第2空間86に貯留される潤滑油の油面の高さは、車両停止時において接続口88の下端88b以上の高さで一致し、車両走行時では、第2空間86の油面の高さが接続口88の下端88bよりも低くなり、且つ、第1空間84の油面の高さと接続口88の下端88bの鉛直方向の高さとが一致する。このようにすれば、走行時において第1空間84の下部に貯留される潤滑油の量が増加しても第2空間86側に流れ出るので、第1空間84の下部に貯留される潤滑油の油面の高さが接続口88の下端88bを越えることがなく、カウンタドライブギヤ48が第1空間84の潤滑油に浸漬されることが抑制されるとともに、軸受47を構成するボール47cの少なくとも一部が第1空間47の潤滑油に浸漬される。従って、軸受47の潤滑不足が抑制されるとともに、カウンタドライブギヤ48の攪拌抵抗も抑制される。
【0040】
また、本実施例によれば、車両用駆動装置10は、駆動源としての電動機22と、その電動機22の出力軸30とそれに平行なカウンタ軸32と間に設けられた第1減速ギヤ対34と、そのカウンタ軸32とそれに平行なデファレンシャルケース36との間に設けられた第2減速ギヤ対38と、そのデファレンシャルケース36およびそのデファレンシャルケース36内に設けられた差動機構40からなるデファレンシャル装置42と、第1減速ギヤ対34および第2減速ギヤ対38の少なくとも一方によってトランスアクスルケース44の底部から掻き上げられた潤滑油の一部が貯留されるリザーバタンク92とをトランスアクスルケース44内に備え、第1減速ギヤ対34は、カウンタドライブギヤ48およびカウンタドリブンギヤ50で構成される。このようにすれば、高回転で回転し潤滑の必要性が高いカウンタドライブギヤ48が形成されているの出力軸30を支持する軸受47の潤滑不足が効果的に抑制される。また、カウンタドライブギヤ48が第1空間86に貯留される潤滑油に浸漬されることによる攪拌抵抗も抑制され実用的な車両用駆動装置10となる。
【0041】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0042】
例えば、前述の実施例では、車両用駆動装置10のリアトランスアクスル28は、電動機22の動力により左右一対の後輪車軸24および後輪26を回転駆動するものであったが、本発明は上記駆動装置に限定されず、例えばエンジンを備えたハイブリッド形式の駆動装置に適用されても構わない。
【0043】
また、前述の実施例では、カウンタドライブギヤ48およびカウンタドリブンギヤ50においてカウンタドライブギヤ48の潤滑不足を抑制するとともにカウンタドライブギヤ48の攪拌抵抗を抑制するものであったが、本発明はこれらカウンタドライブギヤ48およびカウンタドリブンギヤ50に限定されない。例えば第2減速ギヤ対38を構成するファイナルドライブギヤ54およびファイナルドリブンギヤ56に本発明を適用することもできる。このような場合、ファイナルドライブギヤ54を支持する軸受52の潤滑不足を抑制するとともに、ファイナルドライブギヤ54の攪拌抵抗が抑制される。
【0044】
また、前述の実施例では、円筒状に形成されるケース円筒部82によって円筒形状の第1空間84が形成されているが、第1空間84の構造は必ずしも円筒形状に限定されない。第1空間84に接続口88の下端88bよりも鉛直方向に低い部位が形成されて潤滑油が貯留可能な貯留空間90が形成される範囲において適宜変更することができる。
【0045】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0046】
10:車両用駆動装置
22:電動機
30:出力軸(第1回転軸)
32:カウンタ軸(第2回転軸)
34:第1減速ギヤ対
36:デファレンシャルケース
38:第2減速ギヤ対
40:差動機構
42:デファレンシャル装置
44:トランスアクスルケース(ケース)
47:軸受
47b:外輪
48:カウンタドライブギヤ(第1ギヤ)
50:カウンタドリブンギヤ(第2ギヤ)
84:第1空間
86:第2空間
88:接続口
88b:接続口の下端
92:リザーバタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ギヤおよび該第1ギヤが形成されている第1回転軸の一端側を回転可能に支持する軸受を収容するケースによって囲まれた第1空間と、前記第1ギヤと噛み合う第2ギヤが形成されている第2回転軸を収容する前記ケースによって囲まれた第2空間とを備える車両用駆動装置の潤滑機構であって、
前記第1空間と前記第2空間との接続口の下端が、鉛直方向において前記軸受の外輪の内周下端よりも高い位置にあることを特徴とする車両用駆動装置の潤滑機構。
【請求項2】
前記第1空間と前記第2空間との接続口の下端は、鉛直方向において前記第1ギヤの下端よりも低い位置にあることを特徴とする請求項1の車両用駆動装置の潤滑機構。
【請求項3】
前記第1空間に貯留される潤滑油の油面の高さおよび前記第2空間に貯留される潤滑油の油面の高さは、車両停止時において前記接続口の下端以上の高さで一致し、
車両走行時では、前記第2空間の前記油面の高さが前記接続口の下端よりも低くなり、且つ、前記第1空間の前記油面の高さと前記接続口の下端の鉛直方向の高さとが一致することを特徴とする請求項1または2の車両用駆動装置の潤滑機構。
【請求項4】
前記車両用駆動装置は、駆動源としての電動機と、該電動機の出力軸とそれに平行なカウンタ軸との間に設けられた第1減速ギヤ対と、該カウンタ軸とそれに平行なデファレンシャルケースとの間に設けられた第2減速ギヤ対と、該デファレンシャルケースおよび該デファレンシャルケース内に設けられた差動機構からなるデファレンシャル装置と、前記第1減速ギヤ対および前記第2減速ギヤ対の少なくとも一方によって前記ケースの底部から掻き上げられた潤滑油の一部が貯留されるリザーバタンクとを前記ケース内に備え、
前記第1ギヤは前記第1減速ギヤ対の一方であるカウンタドライブギヤであり、前記第2ギヤは該第1減速ギヤ対の他方である該カウンタドライブギヤと噛み合うカウンタドリブンギヤであり、
前記第1回転軸は前記電動機の出力軸であり、前記第2回転軸は前記カウンタ軸であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用駆動装置の潤滑機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−96541(P2013−96541A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242166(P2011−242166)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】