説明

車両走行制御装置および最適走行軌跡生成方法

【課題】車両の制限速度への到達が既知でない区間を含む制限速度条件や、コーナー部分において道路境界に接する領域であるクリッピングポイントが既知でない区間を含む道路境界条件等の制御条件が与えられた場合に、車両走行の最適走行軌跡を共役勾配法を用いて求めることができる車両走行制御装置および最適走行軌跡生成方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、車両の制御条件を含む評価関数を用いて車両の走行軌跡を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両走行制御装置および最適走行軌跡生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コーナーを最短時間で通過するため、通過時間を評価関数として設定し、最適化手法を用いて理想軌跡の演算を行う方法が開発されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、人工衛星やシャトルなどの最適軌跡演算に使用されているSCGRA(Sequential Conjugate Gradient−Restoration Algorithm)を自動車の運動計算に応用することにより、自動車の運動性状や運転制御方法について考察し、前後輪ともに独立に制御できる自動車が、ヘアピンカーブを最短時間で通過する際の最適軌跡を最適化手法(共役勾配法)を用いて求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】藤岡健彦,江守大昌,「最適時間コーナリング法に関する理論的研究−第4報 状態量不等式拘束を用いた道路条件の導入−」,自動車技術会論文集,Vol.24,No.3,July 1993,p.106−111.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1記載の従来の最適化方法による数値計算を用いた最適軌跡生成方法においては、レーシングコースを想定して最速軌跡を求めており、制限速度の条件を設定しておらず、車両が制限速度以下で走行するような条件設定について考慮されていないため、法定速度の遵守が必須である一般道での車両走行への適用は難しいという問題点を有していた。
【0006】
また、非特許文献1記載の従来の最適軌跡生成方法においては、コーナー部分において道路境界に接するいわゆるクリッピングポイント(C/P)が既知の場合、道路境界条件を拘束条件として与え、C/P部分で区間を分割することで、最適走行軌跡を求めることができるが、一般道には様々な道路形状があり、C/Pが既知でないコーナーが存在するような場合、数値計算の途中で反復解が道路境界に接する部分でゼロ割(0による割り算)が発生し、計算が収束せず、解が得られなくなる場合があるという問題点を有していた。
【0007】
また、一般道では場所ごとに道路幅員や制限速度はそれぞれ異なっているため、従来の最適軌跡生成方法においては、道路幅員や制限速度など車両を制御する際に検討すべき制御条件が同一の区間ごとに区切ってそれぞれの区間で解を求める必要があり、演算に時間がかかるという問題点を有していた。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、制限速度への到達が既知でない区間を含む制限速度条件や、C/Pが既知でない区間を含む道路境界条件等の制御条件が与えられた場合に、車両走行の最適走行軌跡を共役勾配法を用いて求めることができる車両走行制御装置および最適走行軌跡生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するため、本発明の車両走行制御装置は、評価関数を用いて車両の走行軌跡を演算する、制御部を少なくとも備えた車両走行制御装置であって、上記評価関数は、上記車両の制御条件を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の車両走行制御装置は、上記記載の装置において、上記制御条件は、上記車両の速度に関する速度制御条件であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の車両走行制御装置は、上記記載の装置において、上記速度制御条件は、上記車両の制限速度であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の車両走行制御装置は、上記記載の装置において、上記制御条件は、上記車両の前後方向および/または左右方向への移動に関する移動制御条件であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の車両走行制御装置は、上記記載の装置において、上記移動制御条件は、道路幅員内における上記車両の左右方向への移動であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の車両走行制御装置は、上記記載の装置において、上記評価関数は、上記制御条件を表す項を含む多項式であり、上記制御条件を満たす場合、上記制御条件を表す項の値が1以下の値となることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の車両走行制御装置は、上記記載の装置において、上記評価関数は、上記制御条件を表す項を含む多項式であり、上記制御条件を満たさない場合、上記制御条件を表す項の値が1より大きい値となることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の車両走行制御装置は、上記記載の装置において、上記評価関数は、共役勾配法による演算に用いられることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の最適走行軌跡生成方法は、制御部を少なくとも備えた車両走行制御装置において実行される、評価関数を用いて車両の走行軌跡を演算する最適走行軌跡生成方法であって、上記評価関数は、上記車両の制御条件を含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の最適走行軌跡生成方法は、上記記載の方法において、上記制御条件は、上記車両の速度に関する速度制御条件であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の最適走行軌跡生成方法は、上記記載の方法において、上記速度制御条件は、上記車両の制限速度であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の最適走行軌跡生成方法は、上記記載の方法において、上記制御条件は、上記車両の前後方向および/または左右方向への移動に関する移動制御条件であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の最適走行軌跡生成方法は、上記記載の方法において、上記移動制御条件は、道路幅員内における上記車両の左右方向への移動であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の最適走行軌跡生成方法は、上記記載の方法において、上記評価関数は、上記制御条件を表す項を含む多項式であり、上記制御条件を満たす場合、上記制御条件を表す項の値が1以下の値となることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の最適走行軌跡生成方法は、上記記載の方法において、上記評価関数は、上記制御条件を表す項を含む多項式であり、上記制御条件を満たさない場合、上記制御条件を表す項の値が1より大きい値となることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の最適走行軌跡生成方法は、上記記載の方法において、上記評価関数は、共役勾配法による演算に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、評価関数を用いて車両の走行軌跡を演算し、当該評価関数は、車両の制御条件を含むことができる。これにより、本発明は、制御開始から制御終了までを一つの区間として扱えるため、計算が簡略化されるとともに精度のよい解が求まるという効果を奏する。
【0026】
また、この発明によれば、制御条件は、車両の速度に関する速度制御条件とすることができる。これにより、本発明は、最適走行軌跡を求める際に、速度制御条件を評価関数に反映することで、速度に関する拘束条件を用いなくてもよいため、制限速度内での走行軌跡を短い時間で演算できるという効果を奏する。
【0027】
また、この発明によれば、速度制御条件は、車両の制限速度とすることができる。これにより、本発明は、制限速度内であるという条件を拘束条件ではなく評価関数に含め、状態量不等式拘束による条件数の悪化を避けることができるという効果を奏する。
【0028】
また、この発明によれば、制御条件は、車両の前後方向および/または左右方向への移動に関する移動制御条件とすることができる。これにより、本発明は、最適走行軌跡を求める際に、道路境界条件を評価関数に反映することで、様々な形状の道路において最適走行軌跡を計算することができるという効果を奏する。
【0029】
また、この発明によれば、移動制御条件は、道路幅員内における車両の左右方向への移動とすることができる。これにより、本発明は、道路の幅員内に位置しているという条件を拘束条件ではなく評価関数に含め、状態量不等式拘束による条件数の悪化を避けることができるため、道路幅員内に収まる走行軌跡を短い時間で演算できるという効果を奏する。
【0030】
また、この発明によれば、評価関数は、制御条件を表す項を含む多項式であり、制御条件を満たす場合、制御条件を表す項の値が1以下の値とすることができる。これにより、本発明は、本来の目的の評価関数(例えば、通過時間等)に、制御条件を満たす場合(例えば、制限速度未満、道路幅員内に車両が存在等)においては1以下の値(すなわち、0に近い値)を返すため、評価関数の値に大きな影響を与えず、本来の目的に合致した精度の良い走行軌跡を算出することができるという効果を奏する。
【0031】
また、この発明によれば、評価関数は、制御条件を表す項を含む多項式であり、制御条件を満たさない場合、制御条件を表す項の値が1より大きい値とすることができる。これにより、本発明は、本来の目的の評価関数(例えば、通過時間等)に、制御条件を満たさない場合(例えば、制限速度超過、道路幅員外に車両が存在等)においてはきわめて大きい値(すなわち、解となりえないような値)を返すため、制御条件を満たさない場合には最適解が算出されないようにできるという効果を奏する。
【0032】
また、この発明によれば、評価関数は、共役勾配法による演算に用いられることができる。これにより、本発明は、解を速く収束させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本システムの構成の一例を示すブロック図である。
【図2】図2は、本システムが行う最適走行軌跡演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本システムが行う最適走行軌跡演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、本実施の形態における車両の制御条件を表す関数fの値の変化の一例を示す図である。
【図5】図5は、従来技術における最適走行軌跡演算の計算区分の一例を示す図である。
【図6】図6は、本実施の形態における最適走行軌跡演算の計算区分の一例を示す図である。
【図7】図7は、本システムが行う最適走行軌跡演算処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】図8は、本実施の形態における最適走行軌跡の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明にかかる車両走行制御装置および最適走行軌跡生成方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0035】
[1.構成]
まず、本発明にかかる最適走行軌跡生成方法を実施するための電子制御装置および本発明にかかる車両走行制御装置を包含する本実施の形態のシステム(以下では本システムと記載する場合がある。)の構成について図1を参照して説明する。図1は、本システムの構成の一例を示すブロック図である。
【0036】
本システムは、道路を走行する際の車両の最適走行軌跡を走行時間や車両安定性や燃費等を指標として最適化手法に基づいて演算し、演算した目標走行軌跡に基づいて車両の走行を制御するためのシステムである。なお、本実施の形態における「走行軌跡」とは、車両が通過するラインと、通過するラインにおける速度との両者を含む概念である。本システムは、図1に示すように、概略的に車両ECU100と入力装置200とを通信可能に接続して構成されている。
【0037】
入力装置200は、道路区間の情報(例えば、制限速度、道路の幅員等)を外部から入力する装置である。ここで、入力装置200は、一例として、ユーザが情報を入力するキー入力部、タッチパネル、キーボード、マウス、マイク、ジョイスティック等であってもよい。また、入力装置200は、ネットワークを介して当該情報を受信し、自動的に入力する受信装置等であってもよい。
【0038】
車両ECU100は電子制御装置であり、概略的に制御部102と記憶部106とを備えている。制御部102および記憶部106は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。
【0039】
記憶部106はストレージ手段であり、例えば、RAM・ROM等のメモリ装置や、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等を用いることができる。記憶部106には、OS(Operating System)と協働してCPUに命令を与え各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。記憶部106は、概略的に道路情報ファイル106aを備えている。
【0040】
道路情報ファイル106aは、道路情報を記憶する道路情報記憶手段である。道路情報ファイル106aには、最適化手法に基づく演算に使用される道路の形状(直線、曲線等)や道路の区間距離(区間の長さ)等に関する道路情報を記憶している。
【0041】
制御部102は車両ECU100の全体を統括的に制御するCPU等である。制御部102は、OS(Operating System)等の制御プログラムや各種の処理手順等を規定したプログラム、所要データなどを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の情報処理を実行する。制御部102は、機能概念的に目的評価関数設定部102aと制御条件関数設定部102bと最終評価関数設定部102cと最適走行軌跡演算部102dと車両走行制御部102eを備えている。
【0042】
目的評価関数設定部102aは、車両走行制御における最適の目的(すなわち、本来の目的)に関する評価関数を設定する目的評価関数設定手段である。ここで、最適の目的とは、例えば、通過時間の最短となる走行、車両の振動が最も少ない走行、燃費が最もよい走行等であってもよい。
【0043】
制御条件関数設定部102bは、入力装置200を介して入力された道路区間の情報(例えば、制限速度、道路の幅員等)に基づいて、車両の制御条件を表す関数を設定する制御条件関数設定手段である。ここで、制御条件とは、車両の速度に関する速度制御条件や車両の前後方向(縦方向)および/または左右方向(横方向)への移動に関する移動制御条件であってもよい。また、速度制御条件は、車両の制限速度であってもよい。また、移動制御条件は、道路幅員内における車両の左右方向への移動であってもよい。また、車両の制御条件を表す関数は、制御条件を満たす場合、1以下の値となってもよい。また、車両の制御条件を表す関数は、1より大きい値となってもよい。
【0044】
最終評価関数設定部102cは、目的評価関数設定部102aにより設定される最適の目的に関する評価関数に、制御条件関数設定部102bにより設定された車両の制御条件を表す関数を当該評価関数の項として加えることにより、最終的な評価関数(すなわち、車両の制御条件を表す項を含む評価関数)を設定する最終評価関数設定手段である。ここで、最終的な評価関数は、多項式であってもよい。
【0045】
最適走行軌跡演算部102dは、最終評価関数設定部102cにより設定された最終的な評価関数に基づき、最適走行軌跡を最適化手法を用いて演算する最適走行軌跡演算手段である。具体的には、最適走行軌跡演算部102dは、最適化手法に基づく演算の対象となる道路区間の形状(直線、曲線等)や道路区間の区間距離(区間の長さ)等に関する道路情報を道路情報ファイル106aから取得して設定された車両の運動方程式、拘束条件、初端条件、終端条件、制御式等に基づき初期解を求め、最終的な評価関数について共役勾配法等の最適化手法に基づく収束演算を行うことにより、最適解を演算してもよい。また、評価関数は、最急降下法、Newton法、準Newton法等により演算してもよい。
【0046】
車両走行制御部102eは、最適走行軌跡演算部102dにより演算された最適走行軌跡に基づいて車両の走行を制御する。
【0047】
[2.処理]
次に、上述のように構成された本システムが行う最適走行軌跡演算処理の一例について、以下に図2〜図8を参照して詳細に説明する。
【0048】
[2−1.最適走行軌跡演算処理1]
車両の最適走行軌跡演算処理の詳細について図2を参照して説明する。図2は、本システムが行う最適走行軌跡演算処理の一例を示すフローチャートである。
【0049】
図2に示すように、まず、目的評価関数設定部102aは、車両走行制御における最適の目的に関する評価関数を設定する(ステップSA−1)。
【0050】
そして、制御条件関数設定部102bは、入力装置200を介して入力された道路区間の情報(例えば、制限速度、道路の幅員等)に基づいて、車両の制御条件を表す関数を設定する(ステップSA−2)。ここで、制御条件とは、車両の速度に関する速度制御条件や車両の前後方向(縦方向)および/または左右方向(横方向)への移動に関する移動制御条件であってもよい。
【0051】
そして、最終評価関数設定部102cは、目的評価関数設定部102aにより設定される最適の目的に関する評価関数に、制御条件関数設定部102bにより設定された車両の制御条件を表す関数を当該評価関数の項として加えることにより、最終的な評価関数(すなわち、車両の制御条件を表す項を含む評価関数)を設定する(ステップSA−3)。
【0052】
そして、最適走行軌跡演算部102dは、最終評価関数設定部102cにより設定された最終的な評価関数に基づき、最適走行軌跡を最適化手法を用いて演算する(ステップSA−4)。ここで、評価関数は、共役勾配法による解の演算に用いられてもよい。
【0053】
そして、最適走行軌跡演算部102dは、最適化演算の収束条件等が満たされたと判断した場合、最適走行軌跡演算処理を終了する(ステップSA−5)。
【0054】
[2−2.最適走行軌跡演算処理2]
次に、車両が直線道路で発進・停止をする場合に、制限速度(上限速度)を制御条件とする車両の最適走行軌跡演算処理の詳細について図3から図6を参照して説明する。図3は、本システムが行う最適走行軌跡演算処理の一例を示すフローチャートである。図4は、本実施の形態における車両の制御条件を表す関数fの値の変化の一例を示す図である。図5は、従来技術における最適走行軌跡演算の計算区分の一例を示す図である。図6は、本実施の形態における最適走行軌跡演算の計算区分の一例を示す図である。
【0055】
図3に示すように、目的評価関数設定部102aは、通過時間tの最短化を車両走行制御における最適の目的とする評価関数fを設定する(ステップSB−1)。以下に、評価関数fの一例を示す。
=t
【0056】
そして、制御部102は、入力装置200を介して入力された車両の走行区間の制限速度情報を取り込む(ステップSB−2)。
【0057】
そして、制御条件関数設定部102bは、ステップSB−2にて、制御部102により取り込まれた制限速度情報に基づいて、車両の制御条件を表す関数fを設定する(ステップSB−3)。以下に、車両の制御条件を表す関数fの一例を示す。
=10×(V/VLMT)^60
(ここで、Vは速度の状態変数であり、VLMTは制限速度である。)
【0058】
ここで、図4を参照して、本実施の形態における車両の制御条件を表す関数fの値の変化を説明する。車両は、一般道において制限速度に近い速度での走行を頻繁に行うため、本システムにおいては、速度の状態変数Vを制限速度VLMTで割った値(V/VLMT)のべき乗を、例えば、60等の大きな値とし、係数を、例えば、10等の小さい値とすることで、図4に示すように、|V/VLMT|<1の場合、関数fの値は0に近い値となり、|V/VLMT|≧1の場合、関数fの値は10以上の大きな値となる。つまり、速度に関する制御条件が後述する最終的な評価関数Fに含まれることで、制限速度を超える速度領域では解(最適解)となりえない値を返すことができる。これにより、車両走行制御部102eは、制限速度内での走行という条件を満たすような車両の走行制御をすることができる。
【0059】
次に、再び図3に戻り、最終評価関数設定部102cは、目的評価関数設定部102aにより設定される最適の目的(通過時間tの最短化)に関する評価関数fに、制御条件関数設定部102bにより設定された車両の制御条件(制限速度)を表す関数fを評価関数fの項として加えることにより、最終的な評価関数Fを設定する(ステップSB−4)。以下に、最終的な評価関数Fの一例を示す。
F=t+10×(V/VLMT)^60
【0060】
そして、最適走行軌跡演算部102dは、最終評価関数設定部102cにより設定された最終的な評価関数Fに基づき、最適走行軌跡を最適化手法を用いて演算する(ステップSB−5)。ここで、評価関数Fは、共役勾配法による解の演算に用いられてもよい。
【0061】
そして、最適走行軌跡演算部102dは、最適化演算の収束条件等が満たされたと判断した場合、演算を終了する(ステップSB−6)。
【0062】
ここで、図5および図6を参照し、従来技術および本システムにおける最適走行軌跡演算の差異について説明する。
【0063】
従来技術(例えば、非特許文献1)においては、一例として、通過時間tに関する評価関数F=tを設定し、速度の状態変数Vが制限速度VLMT以下であることを、ダミー変数Uを用いて、S=V−VLMT+Udと表し、S=0を拘束条件1として設定し、拘束条件2として加減速度Axおよび横加速度Ayの制約条件をダミー変数Uaを用いて、S=Ax+Ay+U−9と設定し、車両の進行方向に対するスタートからの位置座標X、道路中心から進行方向に垂直な方向(左右方向)への位置座標Y、速度Vx、横速度Vyを用いて、初端条件として(X=0,Y=0,Vx=0,Vy=0)、終端条件として(X=100,Y=0,Vx=0,Vy=0)を設定し、運動方程式の条件を下記数式(1)のように設定している。
【数1】

一方、本システムにおいては、拘束条件2、初端条件、終端条件、運動方程式の条件は同一であるが、拘束条件1を設定せずに、制御条件を含む評価関数F=t+10×(V/VLMT)^60を設定する。これにより、従来技術においては、走行区間において速度が常に制限速度未満の場合は最適走行軌跡が求まるが、速度が制限速度上限にかかる場合には条件数が悪化し、精度の良い解が得られない場合があった。この理由としては、速度条件を拘束条件として式で与える従来技術において、共役勾配法を用いて最適走行軌跡を求める際、拘束条件1を制御変数Udで偏微分したSuを求め、(S・Su)の逆行列を計算途中で用いるが、制限速度部分に反復解が接する場合、(S・Su)の行列式≒0となり、条件数が悪化してしまい、収束性が悪化し、解が求まらなくなることがあるからである。一方、本システムにおいては、車両の制限速度内での走行という条件を評価関数Fに含めることで、状態量不等式拘束による条件数の悪化を避けている。また、図5に示すように、従来技術においては、あらかじめ車両が制限速度に達することが判明している場合、車両の走行する区間を、制限速度に達する区間(すなわち、制限速度に引っかかっている区間:区間2)とその他の区間(区間1および区間3)とに分割して演算することで、最適走行軌跡を得られるが、走行時に車両が常に制限速度まで加速するわけではなく、得られた解が真に最適でない可能性があった。一方、図6に示すように、本システムにおいては、車両の発進から停止までの走行区間を一つの区間として扱えるため、計算が簡略化されるとともに精度のよい解を得ることができる。
【0064】
[2−3.最適走行軌跡演算処理3]
続いて、車両が幅員2Lの直線道路で発進・停止をする場合に、道路境界条件(すなわち、道路幅員内における車両の左右方向への移動)を制御条件とする車両の最適走行軌跡演算処理の詳細について図7および図8を参照して説明する。図7は、本システムが行う最適走行軌跡演算処理の一例を示すフローチャートである。図8は、本実施の形態における最適走行軌跡の一例を示す模式図である。
【0065】
図7に示すように、目的評価関数設定部102aは、通過時間tの最短化を車両走行制御における最適の目的とする評価関数fを設定する(ステップSC−1)。以下に、評価関数fの一例を示す。
=t
【0066】
そして、制御部102は、入力装置200を介して入力された車両の走行区間の道路幅情報を取り込む(ステップSC−2)。
【0067】
そして、制御条件関数設定部102bは、ステップSC−2にて、制御部102により取り込まれた道路幅情報に基づいて、車両の制御条件(道路境界条件)を表す関数fを設定する(ステップSC−3)。以下に、車両の制御条件を表す関数fの一例を示す。
=1000×(Y/L)^10
すなわち、本システムにおいては、道路中心から車両位置までの距離Yを道路の幅員の半分の距離Lで割った値(V/L)のべき乗を、例えば、10等の値とし、係数を、例えば、60等の大きな値とすることで、|Y/L|<1の場合、関数fの値は0に近い値となり、|Y/L|≧1の場合、関数fの値は1000以上の大きな値となる。つまり、車両の左右方向(すなわち、道路に対しての横方向位置)への移動に関する制御条件が後述する最終的な評価関数Fに含まれることで、道路境界に接する車両位置(すなわち、道路外に車両が位置する領域)では解(最適解)となりえない値を返すことができる。これにより、車両走行制御部102eは、道路幅員内での走行という条件を満たすような車両の走行制御をすることができる。
【0068】
そして、最終評価関数設定部102cは、目的評価関数設定部102aにより設定される最適の目的(通過時間tの最短化)に関する評価関数fに、制御条件関数設定部102bにより設定された車両の制御条件(道路境界条件)を表す関数fを評価関数fの項として加えることにより、最終的な評価関数Fを設定する(ステップSC−4)。以下に、最終的な評価関数Fの一例を示す。
F=t+1000×(Y/L)^10
【0069】
そして、最適走行軌跡演算部102dは、最終評価関数設定部102cにより設定された最終的な評価関数Fに基づき、最適走行軌跡を最適化手法を用いて演算する(ステップSC−5)。ここで、評価関数Fは、共役勾配法による解の演算に用いられてもよい。
【0070】
ここで、図8を参照して、本実施の形態における最適走行軌跡の一例を説明する。図8に示すように、白丸は、幅員2Lの直線道路における、スタートからゴールまでの車両の最適走行軌跡を示している。
【0071】
そして、最適走行軌跡演算部102dは、最適化演算の収束条件等が満たされたと判断した場合、演算を終了する(ステップSC−6)。
【0072】
ここで、従来技術および本システムにおける最適走行軌跡演算の差異について説明する。
【0073】
従来技術(例えば、非特許文献1)においては、一例として、通過時間tに関する評価関数F=tを設定し、道路中心から車両位置までの距離Yが道路の幅員2L内に収まることを、ダミー変数Uを用いて、S=Y/L−sin(Ud)と表し、S=0を拘束条件1として設定し、拘束条件2として加減速度Axおよび横加速度Ayの制約条件をダミー変数Uaを用いて、S=Ax+Ay+U−9と設定し、車両の進行方向に対するスタートからの位置座標X、道路中心から進行方向に垂直な方向(左右方向)への位置座標Y、速度Vx、横速度Vyを用いて、初端条件として(X=0,Y=0,Vx=0,Vy=0)、終端条件として(X=100,Y=0,Vx=0,Vy=0)を設定し、運動方程式の条件を下記数式(1)のように設定している。
【数2】

一方、本システムにおいては、拘束条件2、初端条件、終端条件、運動方程式の条件は同一であるが、拘束条件1を設定せずに、制御条件を含む評価関数F=t+1000×(Y/L)^10を設定する。これにより、従来技術においては、走行区間において車両位置が道路幅員内の場合は最適走行軌跡が求まるが、車両位置が道路幅員外の場合には条件数が悪化し、精度の良い解が得られない場合があった。この理由としては、道路条件を拘束条件として式で与える従来技術において、共役勾配法を用いて最適走行軌跡を求める際、拘束条件1を制御変数Udで偏微分したSuを求め、(S・Su)の逆行列を計算途中で用いるが、道路境界部分に反復解が接する場合、(S・Su)の行列式≒0となり、条件数が悪化してしまい、収束性が悪化し、解が求まらなくなることがあるからである。一方、本システムにおいては、車両が道路の幅員内に位置しているという条件を評価関数Fに含めることで、状態量不等式拘束による条件数の悪化を避けている。また、従来技術においては、あらかじめ車両が道路境界に達することが判明している場合、車両の走行する区間を、道路境界に達する区間とその他の区間とに分割して演算することで、最適走行軌跡を得られるが、車両が走行時に必ずしも道路幅員外を走行するわけではなく、得られた解が真に最適でない可能性があった。一方、本システムにおいては、車両の発進から停止までの走行区間を一つの区間として扱えるため、計算が簡略化されるとともに精度のよい解を得ることができる。
【0074】
[3.本実施の形態のまとめ、および他の実施の形態]
本実施の形態によれば、車両走行制御における最適の目的に関する評価関数を設定し、入力された道路区間の情報に基づいて、車両の制御条件を表す関数を設定し、設定された最適の目的に関する評価関数に、設定された車両の制御条件を表す関数を当該評価関数の項として加えることにより、最終的な評価関数(すなわち、車両の制御条件を表す項を含む評価関数)を設定し、設定された最終的な評価関数に基づき、最適走行軌跡を最適化手法を用いて演算し、最適化演算の収束条件等が満たされたと判断した場合、最適走行軌跡演算処理を終了する。これにより、制御開始から制御終了までを一つの区間として扱えるため、計算が簡略化されるとともに精度のよい解を求めることができる。
【0075】
また、本実施の形態によれば、通過時間tの最短化を車両走行制御における最適の目的とする評価関数fを設定し、入力された車両の走行区間の制限速度情報を取り込み、取り込まれた制限速度情報に基づいて、車両の制御条件を表す関数fを設定し、設定される最適の目的(通過時間tの最短化)に関する評価関数fに、設定された車両の制御条件(制限速度)を表す関数fを評価関数fの項として加えることにより、最終的な評価関数Fを設定し、設定された最終的な評価関数Fに基づき、最適走行軌跡を最適化手法を用いて演算し、最適化演算の収束条件等が満たされたと判断した場合、演算を終了する。これにより、制限速度条件を評価関数に反映させることができ、制限速度への到達が既知でない区間を含む制限速度条件が与えられた場合の最適走行軌跡を共役勾配法を用いて求める問題において、最適解を得ることができる。
【0076】
また、本実施の形態によれば、通過時間tの最短化を車両走行制御における最適の目的とする評価関数fを設定し、入力された車両の走行区間の道路幅情報を取り込み、取り込まれた道路幅情報に基づいて、車両の制御条件を表す関数fを設定し、設定される最適の目的(通過時間tの最短化)に関する評価関数fに、設定された車両の制御条件(道路境界条件)を表す関数fを評価関数fの項として加えることにより、最終的な評価関数Fを設定し、設定された最終的な評価関数Fに基づき、最適走行軌跡を最適化手法を用いて演算し、最適化演算の収束条件等が満たされたと判断した場合、演算を終了する。これにより、道路境界条件を評価関数に反映させることができ、様々な形状の道路において最適走行軌跡を計算することができる。
【0077】
最後に、本発明にかかる車両走行制御装置および最適走行軌跡生成方法は、上述した実施の形態以外にも、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施の形態にて実施されてよいものである。例えば、実施の形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。また、本明細書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。また、車両ECU100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。また、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて又は機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。また、上述した実施の形態では車両ECU100がスタンドアローンの形態で処理を行う場合を一例に説明したが、車両ECU100が、当該車両ECU100とは別筐体で構成されるECUからの要求に応じて情報処理を行い、その処理結果を当該ECUに返却するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明にかかる車両走行制御装置および最適走行軌跡生成方法は、特に自動車製造産業で好適に実施することができ、極めて有用である。
【符号の説明】
【0079】
100 車両ECU
102 制御部
102a 目的評価関数設定部
102b 制御条件関数設定部
102c 最終評価関数設定部
102d 最適走行軌跡演算部
102e 車両走行制御部
106 記憶部
106a 道路情報ファイル
200 入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(装置メイン)
評価関数を用いて車両の走行軌跡を演算する、制御部を少なくとも備えた車両走行制御装置であって、
上記評価関数は、上記車両の制御条件を含むことを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項2】
(速度制御条件)
請求項1に記載の車両走行制御装置において、
上記制御条件は、上記車両の速度に関する速度制御条件であることを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項3】
(速度制御条件)
請求項2に記載の車両走行制御装置において、
上記速度制御条件は、上記車両の制限速度であることを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項4】
(移動制御条件)
請求項1に記載の車両走行制御装置において、
上記制御条件は、上記車両の前後方向および/または左右方向への移動に関する移動制御条件であることを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項5】
(移動制御条件)
請求項4に記載の車両走行制御装置において、
上記移動制御条件は、道路幅員内における上記車両の左右方向への移動であることを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の車両走行制御装置において、
上記評価関数は、上記制御条件を表す項を含む多項式であり、
上記制御条件を満たす場合、上記制御条件を表す項の値が1以下の値となることを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1つに記載の車両走行制御装置において、
上記評価関数は、上記制御条件を表す項を含む多項式であり、
上記制御条件を満たさない場合、上記制御条件を表す項の値が1より大きい値となることを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項8】
(共役勾配法)
請求項1から7のいずれか1つに記載の車両走行制御装置において、
上記評価関数は、共役勾配法による演算に用いられることを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項9】
(方法メイン)
制御部を少なくとも備えた車両走行制御装置において実行される、評価関数を用いて車両の走行軌跡を演算する最適走行軌跡生成方法であって、
上記評価関数は、上記車両の制御条件を含むことを特徴とする最適走行軌跡生成方法。
【請求項10】
(速度制御条件)
請求項9に記載の最適走行軌跡生成方法において、
上記制御条件は、上記車両の速度に関する速度制御条件であることを特徴とする最適走行軌跡生成方法。
【請求項11】
(速度制御条件)
請求項10に記載の最適走行軌跡生成方法において、
上記速度制御条件は、上記車両の制限速度であることを特徴とする最適走行軌跡生成方法。
【請求項12】
(移動制御条件)
請求項9に記載の最適走行軌跡生成方法において、
上記制御条件は、上記車両の前後方向および/または左右方向への移動に関する移動制御条件であることを特徴とする最適走行軌跡生成方法。
【請求項13】
(移動制御条件)
請求項12に記載の最適走行軌跡生成方法において、
上記移動制御条件は、道路幅員内における上記車両の左右方向への移動であることを特徴とする最適走行軌跡生成方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか1つに記載の最適走行軌跡生成方法において、
上記評価関数は、上記制御条件を表す項を含む多項式であり、
上記制御条件を満たす場合、上記制御条件を表す項の値が1以下の値となることを特徴とする最適走行軌跡生成方法。
【請求項15】
請求項9から13のいずれか1つに記載の最適走行軌跡生成方法において、
上記評価関数は、上記制御条件を表す項を含む多項式であり、
上記制御条件を満たさない場合、上記制御条件を表す項の値が1より大きい値となることを特徴とする最適走行軌跡生成方法。
【請求項16】
(共役勾配法)
請求項9から15のいずれか1つに記載の最適走行軌跡生成方法において、
上記評価関数は、共役勾配法による演算に用いられることを特徴とする最適走行軌跡生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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