説明

車体前部構造

【課題】車両の外観デザインの自由度を増大させることが出来る車体前部構造を提供する。
【解決手段】車両前部1に形成された車体前部空間2内の車幅方向左,右両側に、車両前後方向に長手方向を沿わせて、フロントサイドメンバ部材3,3が、一対設けられている。
また、車体前部空間2よりも車両後方に位置する乗員室空間6及び、車体前部空間2との間を画成するダッシュパネル部材7が設けられている。
そして、各フロントサイドメンバ部材3,3と、ダッシュパネル部材7との間には、車体前部空間2を、車両の上方の空間部13及び下方の空間部14として上下方向に分割する水平パネル部材10が接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエアーコンディショナー装置に形成されたエアコン吸気口に、外気を導く空気導入路が設けられた車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車体のダッシュパネル上部には、エアボックスと呼ばれるエアコン外気導入用閉断面構造が設定されている(例えば、特許文献1,特許文献2等参照)。
【0003】
このようなエアボックスでは、雨水混じりの外気を上面に取り付けたメッシュ状の部品から、取り入れ、エアボックス内で重力により雨水を落とし、かつエンジンルーム方向からの被水を防いでいる。
【0004】
そして、エアーコンディショナー装置(以下、エアコンユニットと記す。)のエアコン吸気口に空気だけを取り入れることが出来るように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−203169号
【特許文献2】特開2006−7982号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の車体前部構造では、前記エアボックスが、外気を導入可能とするためには、エアコンユニット近傍で、かつ車室内,外の境界部に、このエアボックスを位置させる必要があった。
【0007】
このため、車体前部フード部材等の開閉リッド部材を回避して、前記車体のダッシュパネル上部に、車幅方向へ長手方向を有して、車両前後方向閉断面形状を略箱状となるように、構成されている。
【0008】
このダッシュパネルの上部には、ブレーキ倍力装置が存在する為、それらの上方にエアボックスを設定する必要が生じる。
【0009】
従って、車両の外観デザインの制約になり、形状によっては運転者の下方視界の妨げになる虞があった。
【0010】
そこで、この発明は、車両の外観デザインの自由度を増大させることが出来る車体前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の車体前部構造では、車両前部に形成された車体前部空間内の車幅方向左,右両側に、車両前後方向に長手方向を沿わせて、フロントサイドメンバ部材が、一対設けられている。
【0012】
また、該車体前部空間よりも車両後方に位置する乗員室空間及び、該車体前部空間との間を画成するダッシュパネル部材が設けられている。
【0013】
そして、前記各フロントサイドメンバ部材と、該ダッシュパネル部材との間には、前記車体前部空間を車両上下方向に分割する水平パネル部材が接合されている車体前部構造を特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車体前部構造では、水平パネル部材が、前記各フロントサイドメンバ部材と、該ダッシュパネル部材との間に接合されて、前記車体前部空間が車両上下方向に分割されている。
【0015】
このため、例えば、エアコンユニットのエアコン吸気口を、該車体前部空間の上方空間に設けることにより、前記車体前部空間の下方から、該エアコン吸気口への被水等が防止される。
【0016】
従って、従来のようなエアボックスを省略しても、外気から空気だけを取り入れることが出来、車両の外観デザインの自由度を増大させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の車体前部構造で、全体の構成を説明し、左右略対称の車体前部のうち、フードリッド部材を装着していない状態での車幅方向右部の一部縦断面斜視図である。
【図2】実施の形態の実施例の車体前部構造で、全体の構成を説明し車体前部のうちフードリッド部材を装着していない状態での車幅方向右部の一部縦断面分解斜視図である。
【図3】実施の形態の実施例2の車体前部構造で、(a)は、一般的な車両の模式的な車両前後方向に沿った位置での縦断面図、(b)は、実施例2の構成を説明する模式的な車両前後方向に沿った位置での縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態の車体前部構造を、図面に基づいて説明する。
【0019】
まず、図1乃至図3を用いて、全体の構成から説明すると、この実施の形態の車体前部構造では、車両前部1に形成された車体前部空間2内には、車幅方向左,右両側に、一対のフロントサイドメンバ部材3,3が設けられている。
【0020】
このフロントサイドメンバ部材3,3は、前記車体前部空間2の左,右両側に設けられたホイールハウジング部4及びストラットタワー部5の下縁に、車両前後方向に長手方向を沿わせて、各々接続されて設けられている。
【0021】
また、この車体前部空間2と、車体前部空間2よりも車両後方に位置する乗員室空間6との間には、ダッシュパネル部材7が設けられて、これらの車体前部空間2及び乗員室空間6間が画成されるように構成されている。
【0022】
このダッシュパネル部材7の下側縁近傍には、車幅方向に長手方向を沿わせて、縦断面略ハット形を呈するダッシュクロス部材8が、接合されて設けられている。
【0023】
更に、このダッシュパネル部材7の前記車体前部空間2側の側面7aには、ブレーキ倍力装置9が、この側面7aの上縁部7b近傍に設けられている。
【0024】
そして、これらの各フロントサイドメンバ部材3,3と、このダッシュパネル部材7のダッシュクロス部材8との間には、前記車体前部空間2を車両上下方向に、分割する平板状の水平パネル部材10が接合されている。
【0025】
この実施の形態の車体前部構造では、図1に示す様に、この水平パネル部材10の車幅方向左右各側辺部10a,10aが、前記フロントサイドメンバ部材3,3の上面部3a,3aに各々跨るように載置されて、各々剛接合されている。
【0026】
また、この水平パネル部材10の車両後方側辺部10bは、前記ダッシュクロス部材8の上棚部8aに載置されて、剛接合されている。
【0027】
更に、この水平パネル部材10の車幅方向左右各側辺部10a,10aは、前記フロントサイドメンバ部材3,3の上面部のうち、ストラットタワー部5,5の車両前後方向配設位置よりも、車両前側まで、前記ダッシュパネル部材7の前側の側面7a位置から、延設されて接合されている。
【0028】
そして、前記水平パネル部材10の車両上下方向高さ位置は、車両の冠水路侵入時の最高水位まで下げられた位置に配置されている。
【0029】
次に、この実施の形態の車体前部構造の作用効果について説明する。
【0030】
この実施の形態の車体前部構造では、図1に示す様に、前記水平パネル部材10が、前記各フロントサイドメンバ部材3,3と、前記ダッシュクロス部材8を介して、前記ダッシュパネル部材7との間で接合されて、前記車体前部空間2が車両上下方向に二分割されている。
【0031】
このため、例えば、図1中二点鎖線で示す様に、エアコンユニット11のエアコン吸気口12を、車体前部空間2の上方の空間部13に臨むように設けることにより、前記車体前部空間2の下方の空間部14から、このエアコン吸気口12への被水等が防止される。
【0032】
従って、従来のようなエアボックスを省略しても、外気から空気だけを取り入れることが出来、車両の外観デザインの自由度を増大させることが出来る。
【0033】
このように、車両の外観デザインの制約が緩和されることにより、運転者の前方及び下方への視界を広げることに寄与することが出来る。
【0034】
また、この実施の形態では、図1に示す様に、この水平パネル部材10の車幅方向左右各側辺部10a,10aが、前記フロントサイドメンバ部材3,3の上面部3a,3aに各々跨るように載置されて、各々剛接合されている。
【0035】
この為、前記ストラットタワー部5に設けられた図示省略のサスペンション装置に加わった荷重入力による前記フロントサイドメンバ部材3,3の車幅方向変形を減少させることが出来る。
【0036】
しかも、この実施の形態では、前記フロントサイドメンバ部材3,3の上面部3a,3aに、この水平パネル部材10の車幅方向左右各側辺部10a,10aが、剛接合されているので、荷重入力による前記フロントサイドメンバ部材3,3の車両上下方向への変形も減少させることが出来る。
【0037】
よって、サスペンションジオメトリー変化抑制効果が得られ、操縦安定性を向上させることが出来る。
【0038】
更に、この水平パネル部材10の車幅方向左右各側辺部10a,10aは、前記フロントサイドメンバ部材3,3の上面部のうち、ストラットタワー部5,5の車両前後方向配設位置よりも、車両前側まで、前記ダッシュパネル部材7の前側の側面7a位置から、延設されて接合されている。
【0039】
このため、図1に示す様に、水平パネル部材10の前側辺部10cは、前記ストラットタワー部5,5の車両前後方向位置で、前方に位置されて、この水平パネル部材10の前記ストラットタワー部5,5に対する車両前後方向への重複寸法を、これらのストラットタワー部5,5の車両前後方向寸法と、略同じとすることが出来る。
【0040】
従って、更に、確実に前記ストラットタワー部5,5の荷重入力を確実に受け止め、更に操縦安定性を向上させることが出来る。
【0041】
更に、この実施の形態では、前記水平パネル部材10の前側辺部10cの前記ストラットタワー部5,5に対する車両前後方向位置が、車両前方からの荷重入力で、圧縮変形する前記ストラットタワー部5と略同一位置、若しくは車両後方位置とすることにより、この車両前方からの荷重入力で、ダッシュパネルの後退量に悪影響が与えられないように調整することも出来る。
【0042】
また、この実施の形態では、前記水平パネル部材10の車両上下方向高さ位置が、車両の冠水路侵入時の最高水位まで下げられた位置に配置されているので、前記車体前部空間2のうち、前記上方の空間部13の容積を増大させて、この車体前部空間2の中で占有する比率を増大させることが出来る。
【0043】
よって、上方の空間部13のユニットレイアウトを行えるスペース空間を確保出来ると共に、整備性を向上させることができる。
【実施例】
【0044】
図2及び図3は、この発明の実施の形態の実施例の車体前部構造を示すものである。なお、前記実施の形態と同一乃至均等な部分については、同一符号を付して説明する。
【0045】
まず、前記実施の形態の車体前部構造との構成上の相違点を中心として説明すると、この実施例では、前記水平パネル部材10に相当する水平パネル部材20が、車両前後方向で、前側水平パネル部材21,中央水平パネル部材22及び後側水平パネル部材23の3つの部材に大きく分割されて構成されている。
【0046】
このうち、前記後側水平パネル部材23を構成する薄板状金属板材の周縁部23a,23b…が、車体側の前記ダッシュクロス部材8の上棚部8a及び前記フロントサイドメンバ部材3,3の上面部3a,3a等の周辺部品に溶接等によって接合されている。
【0047】
そして、前記前側水平パネル部材21と、この後側水平パネル部材23との車両上下方向高さ位置は、車両の冠水路侵入時の最高水位まで下げられた位置に配置されている。
【0048】
また、前記中央水平パネル部材22及び前側水平パネル部材21の周縁部22a,21aは、車体側の前記フロントサイドメンバ部材3,3の上面部3a,3a等の周辺部品や、前記中央水平パネル部材22と後側水平パネル部材23との間に介装されるステアリングコラム部材24のフランジ部24a等の各部品及び、隣接配置される他の前側水平パネル部材21,中央水平パネル部材22及び後側水平パネル部材23の接合辺部23d等との間に、ペイントシールが施されて、水の浸入が防止されるように構成されている。
【0049】
更に、この実施例では、図2に示される様に、前記中央水平パネル部材22には、車幅方向に長手方向を沿わせて、断面形状略凹状の気液分離ドリップチャネル部25が凹設されている。
【0050】
この気液分離ドリップチャネル部25の底部26には、前記車体前部空間2内の上下に位置する上方の空間部13及び下方の空間部14間を連通する排水孔27が、最も低い位置に開口形成されている。
【0051】
また、この実施例では、三分割された前記水平パネル部材20のうち、後側水平パネル部材23の接合辺部23dの少なくとも何れか一箇所に、周辺部品としてのステアリングコラム部材24…等を各々係合して介在させる切欠部23e…が、平面視略コ字状に形成されている。
【0052】
そして、図3中(b)に示す様に、この気液分離ドリップチャネル部25の裏側で、中央水平パネル部材22の下側から、前記下方の空間部14方向へ膨出するリップ部60が、ラジエータファン装置70の車両後方位置に凸設形成されている。
【0053】
また、この実施例では、前記前側水平パネル部材21の前側縁の車幅方向略中央部近傍には、上方に向けて凸状に膨出形成された凸状ドーム部21bが設けられている。
【0054】
更に、図3中(b)に示す様に、この前側水平パネル部材21の車両上下方向の位置が、ラジエータ装置90の上面部91の位置に近接される配置となるように構成されている。
【0055】
そして、この前側水平パネル部材21が、前記バンパ部材に溶着されて一体となる接合部分21eを、図3(b)に示すこの車体前部空間2の上部開口部2aに開閉可能に設けられたフードパーティング部材92の装着される位置よりも、車両上下方向で下方となるように設定している。
【0056】
また、前記ダッシュパネル部材7を貫通させる必要のある部品、配管、配線類は、上方の空間部13からの貫通とすると共に、前記ラジエータファン装置70及びエアコンコンプレッサ等の音を発生する部品を下方の空間部14内に載置するように構成している。
【0057】
更に、この実施例の図3中(b)の実線で示すエアコンユニット11では、エアコン吸気口12が、前記ダッシュパネル部材7側で、下方に向けて開口するように形成されている。
【0058】
次に、この実施例の車体前部構造の作用効果について説明する。
【0059】
このように構成された実施例に記載されたものは、前記実施の形態の作用効果に加えて、更に、前記中央水平パネル部材22には、車幅方向に長手方向を沿わせて形成された断面形状略凹状の気液分離ドリップチャネル部25によって、前記水平パネル部材20の上方の空間部13に取り込まれた外気から、水分が分離されて、この気液分離ドリップチャネル部25の底部26の最も低い位置に開口形成された排水孔27を介して、車両下方へ排水される。
【0060】
また、前記車体前部空間2内の上下に位置する空間部13,14を連通する排水孔27が、最も低い位置に開口形成されている。
【0061】
しかも、前記中央水平パネル部材22及び前側水平パネル部材21の周縁部22a,21aは、車体側の前記フロントサイドメンバ部材3,3の上面部3a,3a等の周辺部品及び隣接配置される他の前側水平パネル部材21,中央水平パネル部材22及び後側水平パネル部材23との間に、ペイントシールが施されているので、下方の空間部14からの水や泥、熱等の侵入を防止することが出来る。
【0062】
このため、更に、例えば、図3(a)に示す比較例の一般的な車両のインストルメントパネル部材40の上面部40aの位置に比して、図3(b)に示すこの車体前部構造では、インストルメントパネル部材50の上面部50aの車体上下方向の位置を、高さ方向寸法h1、下げて設定することが出来る。
【0063】
よって、従来必要とされていたエアボックスを無くしても、所望のエアコン性能を得ることが出来、外観デザインの自由度を向上させると共に、乗員室空間6内の運転者の前方及び下方視界を拡大させて、視認性を向上させることが出来る。
【0064】
また、図2に示す様に、この実施例では、前記ペイントシールに加えて、前記後側水平パネル部材23を構成する薄板状金属板材の周縁部23a,23b…が、車体側の前記ダッシュクロス部材8の上棚部8a及び前記フロントサイドメンバ部材3,3の上面部3a,3a等の周辺部品に溶接等によって接合されている。
【0065】
このため、更に車両が、冠水路等に進入して、下方の空間部14側から、前記水平パネル部材20に、車両上方へ向けて高水圧が加わっても、前記上方の空間部13側に、水が浸入する虞が減少する。
【0066】
また、この実施例では、三分割された前記水平パネル部材20のうち、後側水平パネル部材23の接合辺部23dの少なくとも何れか一箇所に、平面視略コ字状に形成された切欠部23eによって、ステアリングコラム部材24…等の貫通配置される周辺部品が、各々係合されて、前記中央水平パネル部材22の周縁部22aとの間に容易に装着出来る。
【0067】
このため、難作業である組付時の貫通作業が無くなり、取付後も所望のステアリングコラム部材24等の支持剛性を確保することが出来る。
【0068】
更に、この実施例では、前記後側水平パネル部材23の接合辺部23dの前記ストラットタワー部5,5に対する車両前後方向位置が、車両前方からの荷重入力で、圧縮変形する前記ストラットタワー部5と略同一位置、若しくは車両後方位置とすることにより、この車両前方からの荷重入力で、ダッシュパネルの後退量に悪影響が与えられないように調整されている。
【0069】
しかも、この後側水平パネル部材23の周縁部23b,23bは、車幅方向に一対設けられた車体側剛性部材としてのフロントサイドメンバ部材3,3の上面部3a,3a間に橋渡しされるように接合されている。
【0070】
このため、車両の走行中、高速レーンチェンジ等に加わる車体前部空間2への横曲げ入力に対して、前記後側水平パネル部材23が、パネル面内引張り方向で、受け止めることにより、応答性、収斂性を向上させることが出来ると共に、良好な部材効率で構成出来るので、高剛性を有する構造としながら、軽量化することが出来る。
【0071】
また、この実施例の車体前部構造では、前記後側水平パネル部材23の周縁部23aが、前記ダッシュクロス部材8を介して、前記ダッシュパネル部材7に溶接により接続されて結合されている。
【0072】
この結合により、このダッシュパネル部材7の車両前後方向(面内外方向)の面剛性を向上させることが出来、膜振動に相当する面内外方向への振動を抑制して、ロードノイズ及びこもり音を低減させることが出来る。
【0073】
また、前記三分割された水平パネル部材20のうち、前記前側水平パネル部材21又は中央水平パネル部材22の少なくとも何れか一枚が、装脱着可能な状態で配設されている。
【0074】
このため、前記前側水平パネル部材21又は中央水平パネル部材22を取り外すことにより、下方の空間部14へのアクセス性を向上させて、整備性を更に良好なものとすることが出来る。
【0075】
更に、前記三分割された水平パネル部材20のうち、装脱着可能な前記前側水平パネル部材21又は中央水平パネル部材22の少なくとも何れか一枚が、他の後側水平パネル部材23等に比して軽量な樹脂材料で構成されている。
【0076】
このため、車体を更に軽量構造化出来ると共に、更に、整備時の取り扱い性を良好なものとすることが出来る。
【0077】
また、この実施例では、組立作業時に、まず、前記三分割された水平パネル部材20のうち前側水平パネル部材21及び後側水平パネル部材23を、前記車体前部空間2内に装着してから、貫通部品であるステアリングコラム部材24等の貫通部品を取り付けて、前記切欠部23eにフランジ部24aを係合させると共に、ペイントシール等で防水処理を行いつつ、前記中央水平パネル部材22を最後に取り付けるように構成している。
【0078】
この作業工程順序により、取付作業性を更に良好なものとすることができる。
【0079】
更に、この実施例では、前記中央水平パネル部材22に開口形成された排水孔27が、気液分離ドリップチャネル部25の底部26の最も低い位置に設定されているので、車両下方へ排水性が良好である。
【0080】
また、排水路を形成するため、別部材を用いる必要も無く、前記凹状の気液分離ドリップチャネル部25を、この中央水平パネル部材22に一体に設けることにより、更に、軽量化を図り、製造コストの増大が抑制される。
【0081】
そして、図3中(b)に示す様に、この気液分離ドリップチャネル部25の裏側で、中央水平パネル部材22の下側から、前記下方の空間部14方向へ膨出するリップ部60が、ラジエータファン装置70の車両後方位置に凸設形成されている。
【0082】
このため、ラジエータファン装置70の車両後方で車外から導入された空気eの風流れを整流することが出来、Cd値向上や或いは、ラジエータ効率を向上させることが出来、図3中に示すバンパ部材80に開口形成された外部空間と連通された空気取入口81の開口面積を縮小させることが可能となる。
【0083】
また、図3中(b)に示す様に、三分割された前記水平パネル部材20のうち、前側水平パネル部材21を、他の後側水平パネル部材23等に比して軽量な樹脂材料で構成することも出来、樹脂製のバンパ部材80と、一体化することが可能となる。
【0084】
この場合、前記バンパ部材80の製造工程とは、別途、別体で、この前側水平パネル部材21を、成型製造した後、組み合わせて、溶着及び一体化することにより、バンパ部材80と同時に、この前側水平パネル部材21を一体成形する際に生じやすい表面のヒケ等の成型不具合を防止することができる。
【0085】
また、この実施例では、前記前側水平パネル部材21の前側縁の車幅方向略中央部近傍に設けられた凸状ドーム部21bが、上方に向けて凸状に膨出形成されているので、図示省略のライセンスプレートを取り付けるライセンスプレート装着部の周縁の剛性向上に寄与させることが出来ると共に、導入される空気e及び水分を避けるように形成して、車両後方へ導き、排水速度を速めることが出来る。
【0086】
更に、図3中(b)に示す様に、この前側水平パネル部材21の車両上下方向の位置が、ラジエータ装置90の上面部91の位置に近接されて配置されている。
【0087】
このため、更に、前記バンパ部材80に形成された空気取入口81から導入される空気eを、円滑に効率よく、ラジエータ装置90へ導入して通過させることが出来る。
【0088】
そして、図3(b)に示すように、この前側水平パネル部材21が、前記バンパ部材に溶着されて一体となる接合部分21eが、この車体前部空間2の上部開口部2aに開閉可能に設けられたフードパーティング部材92が装着されている位置よりも、車両上下方向で下方となるように設定されている。
【0089】
このため、更に、このフードパーティング部材92が開放された状態では、前記上部開口部2aを介して、外部から、前記車体前部空間2内へアクセスしやすく、点検及び整備等のメンテナンス作業性が良好である。
【0090】
また、ダッシュパネル部材7を貫通させる必要のある部品、配管、配線類は、上方の空間部13からの貫通とすると共に、前記ラジエータファン装置70及びエアコンコンプレッサ等の音を発生する部品を下方の空間部14内に載置するように構成されている。
【0091】
このため、前記水平パネル部材20が、前記ラジエータファン装置70等の音源と、前記ダッシュパネル部材7に貫通形成された貫通孔との間に位置して、二重隔壁効果により、更に乗員室空間6内の静粛性を向上させることが出来る。
【0092】
更に、この実施例では、図3中(b)に示す二点鎖線の様に、前記インストルメントパネル部材50の内部に存在していたエアコンユニット11を、実線で示すように、この車体前部空間2の上方の空間部13に設けるレイアウトを採用することが出来る。
【0093】
このため、前記車両上下方向寸法h1に加えて、更に、インストルメントパネル部材50の形状を寸法h2変更する等、乗員室空間6のインテリアの造形の自由度が向上すると共に、乗員室空間6のスペースを拡張することができる。
【0094】
しかも、図3中(a)の比較例に示す様な従来の一般的なエアボックス100断面が存在しないように構成出来る。このため、この水平パネル部材20によって、車体前部空間2の上方の空間部11を準乗員室内環境とすることができるので、この点においても、レイアウトの自由度が向上する。
【0095】
また、前記水平パネル部材20によって、前記バンパ部材80に形成された空気取入口81から導入される空気eと共に、侵入する雪が干渉されて、前記上方の空間部13に到達出来ない。 従って、エアコンユニット11への雪積もりや、凍結等の虞が無い。
【0096】
更に、この実施例のように図3中(b)の実線で示すエアコンユニット11では、エアコン吸気口12が、前記ダッシュパネル部材7側で、下方に向けて開口されて形成されている。
【0097】
このため、更に、不要な雨水や雪が、エアコンユニット11の内部に、このエアコン吸気口12から、浸入する虞が減少する。
【0098】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例の車体前部構造に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0099】
即ち、前記実施の形態及び実施例の車体前部構造では、前記水平パネル部材10,20が、単数枚、又は3枚に分割された構成を示して説明してきたが、特にこれに限らず、例えば、2枚もしくは、4枚以上の複数枚で構成されていても良く、各車幅方向左右フロントサイドメンバ部材3,3と、ダッシュパネル部材7との間を接合する者であれば、水平パネル部材10,20等の形状、数量及び材質が特に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0100】
前記実施の形態では、この発明の車体前部構造として、前記フードパーティング部材92で画成された車体前部空間2を有する車両に適用したものを用いて説明してきたが、例えば、車両1の駆動源が、内燃機関によるものに限定されるものではなく、電気自動車或いは、ハイブリッドカー等であってもよいことは当然である。
【符号の説明】
【0101】
1 車両前部
2 車体前部空間
3,3 フロントサイドメンバ部材
6 乗員室空間
7 ダッシュパネル部材
10,20 水平パネル部材
13 上方の空間部
14 下方の空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に形成された車体前部空間内の車幅方向左,右両側に、車両前後方向に長手方向を沿わせて、一対設けられたフロントサイドメンバ部材と、該車体前部空間よりも車両後方に位置する乗員室空間及び、該車体前部空間との間を画成するダッシュパネル部材とを有し、前記各フロントサイドメンバ部材と、該ダッシュパネル部材との間には、前記車体前部空間を車両上下方向に分割する水平パネル部材が接合されていることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記水平パネル部材の車幅方向左右各側辺部が、前記フロントサイドメンバ部材の上面部に各々載置されて、接合されていることを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記水平パネル部材の車幅方向左右各側辺部は、前記フロントサイドメンバ部材の上面部のうち、ストラットタワー部の車両前後方向配設位置よりも、車両前側まで、前記ダッシュパネル部材から、延設されて接合されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記水平パネル部材の車両上下方向高さ位置が、車両の冠水路侵入時の最高水位まで下げられた位置に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のうち、何れか一項記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記水平パネル部材が、車両前後方向で、前側水平パネル部材,中央水平パネル部材及び後側水平パネル部材の3つの部材に大きく分割されて構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のうち、何れか一項記載の車体前部構造。
【請求項6】
前記中央水平パネル部材には、凹状の気液分離ドリップチャネル部が凹設されていて、該気液分離ドリップチャネル部の底部には、前記車体前部空間内の上下に位置する空間を連通する排水孔が開口形成されていることを特徴とする請求項5記載の車体前部構造。
【請求項7】
前記水平パネル部材と、周辺部品との間には、ペイントシールが施されていることを特徴とする請求項1乃至6のうち、何れか一項記載の車体前部構造。
【請求項8】
前記水平パネル部材のうち、少なくとも何れか一箇所に、周辺部品を介在させる切欠部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のうち、何れか一項記載の車体前部構造。
【請求項9】
前記後側水平パネル部材の周縁部は、車体側剛性部材間に橋渡しされるように接合されていることを特徴とする請求項5乃至8のうち、何れか一項記載の車体前部構造。
【請求項10】
前記分割された水平パネル部材のうち、少なくとも一の水平パネル部材は、装脱着可能な状態で配設されていることを特徴とする請求項5乃至9のうち、何れか一項記載の車体前部構造。
【請求項11】
前記分割された水平パネル部材のうち、少なくとも一の水平パネル部材は、他の水平パネル部材に比して軽量な樹脂材料で構成されていることを特徴とする請求項5乃至10のうち、何れか一項記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−162163(P2012−162163A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23517(P2011−23517)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】