車載型漏洩ガス検知システムおよび方法
【課題】走行する車両からの漏洩ガス検知を実現可能とする車載型漏洩ガス検知システムおよび方法の提供。
【解決手段】走行中の車両から背景画像を撮像装置により撮像し、撮像データを連続的に表示および記憶すると共に、レーザ式ガスセンサにより非舗装面に特定波長のレーザ光を照射し、非舗装面からの反射光を受光し、受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定を行い、ガス検知時刻に対応する撮像データのフレームを取得し、該フレームのガス検知位置を含む領域を着色し、該フレームを表示することを特徴とする漏洩ガス検知方法およびシステム。
【解決手段】走行中の車両から背景画像を撮像装置により撮像し、撮像データを連続的に表示および記憶すると共に、レーザ式ガスセンサにより非舗装面に特定波長のレーザ光を照射し、非舗装面からの反射光を受光し、受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定を行い、ガス検知時刻に対応する撮像データのフレームを取得し、該フレームのガス検知位置を含む領域を着色し、該フレームを表示することを特徴とする漏洩ガス検知方法およびシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載型漏洩ガス検知システムおよび方法に関し、より具体的には、走行中の車両から非舗装面に特定波長のレーザ光を照射し、非舗装面からの反射光に基づき漏洩ガスを検知するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地中に埋設した都市ガス管や化学プラントからの漏洩ガスの検知は、水素炎イオン化式等のガス検知器を手押し車に載せるなどして、歩行速度で実施しているのが実情である。しかしながら、歩行速度での漏洩ガスの検知は、作業効率が著しく悪いことから、近年、車載型のガス検知器の開発が活発に行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、測定車両の外側部(バンパ部分)に、発光部および受光部を備えたガス導入機構を取付け、測定車両の走行中において道路上に漏出したガスが発光部と受光部との間で出射されるレーザ光の光路に達するとガス漏洩が検出されるものが開示され、特許文献2には、測定対象の気体中にレーザビームを通過させ、該通過させたレーザビームの強度の変化に基づいて前記気体中の所定のガスを検出する半導体レーザ分光ガス検出装置と、現在位置を測定する測位装置と、前記半導体レーザ分光ガス検出装置によって前記所定のガスを検出した場所を、前記測位装置の出力に基づいて表示する表示制御装置とを移動体に搭載して成ることを特徴とするものが開示される。
しかしながら、これらのガス検知器は、漏洩ガスを検知器内に取り込む方式(仮に「赤外透過方式」という。)であるため、高速で移動する車両による漏洩ガスの検知には必ずしも適しているとは言えなかった。
【0004】
ところで、特定波長のレーザ光がある種の気体に吸収されることを利用して、気体の有無を検出するレーザ式のガスセンサが知られている。例えば、都市ガスの主成分であるメタンの場合には、1.6μm、3μm、7μm帯に吸収帯を有することが知られている。
反射された赤外レーザ光により漏洩ガスを検知する方式(仮に「赤外反射方式」という。)のガス検知器としては、例えば、特許文献3には、レーザモジュールと、前記レーザモジュールから出射されたレーザ光をシート状レーザ光に変換する手段と、被測定ガスに向けて前記シート状レーザ光を出射するレーザ出射部と、前記被測定ガス通過後の反射光を受光する受光部とを備えたことを特徴とするものが開示される。
【0005】
携帯型の赤外反射式ガスセンサとしては、被測定ガスに向けてレーザ光を出射する光源部と、前記光源部から出射され前記被測定ガス通過後の反射体による反射光を集光する凹面鏡と、前記凹面鏡による反射光の集光位置に配置され該反射光を検出する受光器と、を備えたことを特徴とするガス検出装置がある(特許文献4)。
【0006】
【特許文献1】特許第3411783号公報
【特許文献2】特開平11−72411号公報
【特許文献3】特開2003−254856号公報
【特許文献4】特開2002−228582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
赤外透過方式では、漏洩ガスを検知器内に取り込む必要があるため、高速で移動する車両による漏洩ガスの検知には必ずしも適しているとは言えなかった。
赤外反射方式では、人手による遠隔検知の実績はあるが、既存の装置を車両に搭載しただけでは、車両の速度や風の影響等の問題があり殆ど満足に機能しない。特許文献3には車両に搭載することが可能である旨の記載はあるが、具体的な実現のための手段は開示されていない。工業的に満足の得られるレベルで漏洩ガスを検知できる車載型ガス検知器のニーズは高かった。
【0008】
本発明は、走行する車両からの漏洩ガス検知を実現可能とする車載型漏洩ガス検知システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、発明者は、赤外反射方式のガスセンサを車両に搭載し、工業的に満足の得られるレベルで漏洩ガスを検知できる条件を鋭意研究した。その結果、非舗装面(路肩部分)をラインスキャンすることにより、工業的に満足の得られるレベルで漏洩ガスを検知できることの知見を得て、本発明を創作した。
【0010】
すなわち、第1の発明は、背景画像を撮像し、撮像データを処理部に送信する撮像装置と、地面に特定波長のレーザ光を照射するレーザ光源および地面からの反射光を受光する受光器を有し、受光データを処理部に送信するレーザ式ガスセンサと、撮像装置およびレーザ式ガスセンサを車両に取り付ける取付具と、記憶手段、時刻計測手段およびプログラムを有する処理部と、処理部に接続される表示部を備える車載型漏洩ガス検知システムであって、前記プログラムは、撮像装置およびレーザ式ガスセンサから受信したデータを時刻計測手段から取得した時刻情報と関連付けて記憶手段に記憶すると共に、前記表示部に背景画像を連続的に表示する測定工程と、前記受光データにおける受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定をし、ガス検知時刻に対応する撮像データのフレームを取得し、該フレームのガス検知位置を含む領域を着色し、該フレームを前記表示部に表示する履歴工程と、を備えることを特徴とする車載型漏洩ガス検知システムである。
第2の発明は、第1の発明において、前記取付具は、撮像装置およびレーザ式ガスセンサを地面に対して15〜40度の角度となるよう取り付け可能であることを特徴とする。
第3の発明は、第1または2の発明において、さらに、位置情報取得手段を有し、前記記憶手段は、予め地図情報を記憶しており、前記プログラムは、履歴工程において、ガス検知時刻に対応する位置情報を位置情報取得手段から取得し、前記表示部にガス検知位置をプロットした地図情報を表示する工程を備えることを特徴とする。
第4の発明は、第3の発明において、前記プログラムは、履歴工程において、前記地図情報のプロット箇所が指定された際に、該プロット箇所に対応する前記着色された背景画像を表示することを特徴とする請求項3に記載の車載型漏洩ガス検知システム。
第5の発明は、第1ないし4のいずれかの発明において、前記プログラムは、前記測定工程において、前記表示部に受光データを連続的に表示することを特徴とする。
【0011】
第6の発明は、走行中の車両から背景画像を撮像装置により撮像し、撮像データを連続的に表示および記憶すると共に、レーザ式ガスセンサにより非舗装面に特定波長のレーザ光を照射し、非舗装面からの反射光を受光し、受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定を行い、ガス検知時刻に対応する撮像データのフレームを取得し、該フレームのガス検知位置を含む領域を着色し、該フレームを表示することを特徴とする漏洩ガス検知方法である。
第7の発明は、第6の発明において、前記撮像装置およびレーザ式ガスセンサが、地面に対して15〜40度の角度となるよう車両に取り付けることを特徴とする。
第6または7の発明において、走行中の車両の位置情報を取得し、ガス検知の判定時には予め記憶した地図情報にガス検知位置をプロットし、該地図情報を表示する工程を備えることを特徴とする。
第6、7または8の発明において、前記レーザ式ガスセンサの受光データを、連続的に表示する工程を備えることを特徴とする。
第10の発明は、第6ないし9のいずれかの発明において、前記ガスが、メタンガスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、走行する車両からの漏洩ガス検知が可能となる。
また、ガスの漏洩箇所を車両用地図情報と関連づけられた背景画像において視認することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
最良の形態の車載型漏洩ガス検知システムは、背景画像を撮像し、撮像データを処理部に送信する撮像装置と、地面に特定波長のレーザ光を照射するレーザ光源および地面からの反射光を受光する受光器を有し、受光データを処理部に送信するレーザ式ガスセンサと、撮像装置およびレーザ式ガスセンサを車両に取り付ける取付具と、記憶手段、時刻計測手段およびプログラムを有する処理部と、処理部に接続される表示部と、位置情報取得手段を備え、レーザ式ガスセンサにより非舗装面に特定波長のレーザ光を照射し、非舗装面からの反射光を受光し、受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定を行う。
ここで、「受光強度が所定値以下である場合」とは、ガス濃度の上昇に応じて特定波長の吸収量が増加し、それに伴って受光強度が所定値以下に下がった場合のことをいい、例えば、ガスがCH4の場合、特定波長とは1650nmを中心とする波長となる。
【0014】
図1に示すごとく、撮像装置とレーザ式ガスセンサは、取付具により非舗装面(路肩部分)を測定する角度に取り付けられる。すなわち、検知対象領域は道路側方の非舗装面である。
非舗装面を測定することの技術的意義は、漏洩ガスの挙動に起因する。すなわち、アスファルト舗装の下方で漏出したガスは、アスファルトを伝って路肩部分に漏出するという漏洩ガスの挙動を利用した。図2は、アスファルト舗装の下方で漏出した天然ガス(CNG)の挙動を検証するための濃度分布図である。天然ガスボンベに鋼管を接続して、アスファルト舗装面の下方1.2m地点で5L/分の流量で漏洩させた際のメタンガス(CH4)の濃度分布を、レーザ式ガスセンサおよび携帯型ガスセンサ(接触燃焼式)で測定した結果、アスファルトの側方の路肩部分で最高濃度が計測され、アスファルト舗装の箇所では殆どメタンガスが存在しないことが確認できた。
このことから、漏洩ガスを検知するためには、路面上ではなく路肩上を走査するのが最も効果的であることが分かる。
【0015】
レーザ式ガスセンサは、車両の走行により走査(ラインスキャン)を行う仕様である。レーザ式ガスセンサ自体を首振りしてスキャンする方式も考えられるが、処理速度の観点から実現は難しい。
レーザ式ガスセンサは、感度が10ppm・m程度の市販の携帯型ガスセンサを用いることができる。これまでの実験の結果、外乱(背景反射)の最大レベルは100ppm・m程度であることが分かっているので、感度が10ppm・m程度であれば問題なく使用することができる。但し、高速移動する車両からの測定が可能なように一定以上のデータ処理速度が要求されるため、改良が必要な場合がある。車両走行中の検知を可能とするためには、データ転送周期が短い方が好ましく、少なくとも0.5秒程度、好ましくは0.1秒以下とする。処理速度の点で問題が無ければ、複数の波長により複数のガスを測定可能なものを使用してもよい。
【0016】
いわゆる路肩照射方式を採用する場合、撮像装置およびレーザ式ガスセンサは、できるだけ高い位置に設置するのが好ましい。風雨等の影響をさけるためには車内に設置するのが好ましいが、かかる場合には車内の最も高い位置に取り付けるのが好適である。好ましい一態様としては、フロントガラスに吸盤で取り付ける取付具が開示される。なお、車外に設置した場合、陸運局への車両改造申請が必要となるため、かかる観点からも車内に設置するのが簡便である。
【0017】
撮像装置は、路肩部分を含む背景画像を連続的に撮像するためのものであり、高速移動する車両からの撮像が可能なように一定以上のフレームレートを有するものが好ましい。車両走行に耐えるフレームレートとしては30fpsが例示されるが、60fps程度あることが好ましい。撮像装置は90度以上の広角であることが好ましく、必要に応じて広角レンズを装着する。
【0018】
位置情報取得手段は、市販のGPS(グローバル・ポジショニング・システム)を利用することができる。測位精度の観点からは、精度が10m程度の単独測位方式の機種よりも、精度が1m程度の相対側位方式の機種が好ましい。GPSも一定以上のデータ処理速度を有するものを使用する。車両走行中の検知を可能とするためには、GPSの測定周期が1秒程度であることが好ましく、0.25秒以下であればより好ましい。
【0019】
表示部および処理部は、市販のノート型パーソナルコンピュータ(ノートPC)を使用することができる。撮像装置やレーザ式ガスセンサとUSB等のインタフェースケーブルで接続することが例示される。処理部が有するプログラムは、漏洩ガス検知のための専用プログラムであり、時刻計測手段から取得した時刻情報と関連づけてHDD等の記憶手段にデータを記憶する。処理部に記憶させる地図情報は、市販の地図ソフトやカーナビゲーションシステム用のものを使用することができる。
【0020】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
本実施例はメタンガスを主成分とするガス(LNG等)を検知するための車載型漏洩ガス検知システムに関する。LNG基地等の埋設配管からのガス漏洩を点検するためのシステムである。
本実施例の車載型漏洩ガス検知システムは、図3に開示される如く構成される。
符号「1」は、検知対象領域の背景画像を撮影するための撮像装置であって、本実施例では一般的なTNSC仕様のCCDカメラを使用した。フレームレートは最大で30fpsであるが、フィールド取込みをすれば擬似的に60fpsとすることも可能である。なお、デジタル出力機能を備えたカメラを採用し、さらにフレームレートを上げてもよい。
符号「2」は、照射したレーザ光の反射光によりガスの存在を検知するレーザ式ガスセンサであって、本実施例ではコラム密度が測定可能なレーザ式ガスセンサ(アンリツ製SA3C15A)を使用した。データ転送周期は0.5秒である。
なお、コラム密度とは、レーザの光路に沿ったガス濃度の積分値(光路長×光路中の平均ガス濃度)のことであり、単位は「ppm・m」である。
符号「3」は、撮像装置1およびレーザ式ガスセンサ2からの信号を受信し、情報処理する制御プログラムが内蔵された処理部であって、本実施例では市販のノートPCを使用した。処理部3には、表示部4とGPS5が接続されており、表示部4には撮像装置1からの背景画像と、GPS5からの位置情報がリアルタイムで表示される。GPSの測定周期は1秒で、精度は±10mのものを使用した。
電源は、車内の電源ソケットから得たDC12VをAC100Vに変換して供給している。
【0022】
撮像装置1とレーザ式ガスセンサ2は、図示しない取付具7(カメラ用吸着マウント)によりフロントガラスに取り付けられ、窓の開口部から撮像および漏洩ガスの測定が行われる(図4参照)。
撮像装置1とレーザ式ガスセンサ2を窓の開口部に向けて取り付けるのは、窓ガラスの影響により測定精度が劣化することを防ぐためである。因みに、フロントガラス越しに漏洩ガスの測定を行ったところ、満足の行く測定結果は得られなかった。
取付具7によるフロントガラスへの取り付けは、車両改造申請が不要であり、公道での利用にも適していること、撮像装置1およびレーザ式ガスセンサ2が外部に露出しないため、特別な防雨・防滴対策が不要であるというメリットもある。
【0023】
《車両速度》
漏洩ガスの検知は、車両10の走行に伴うラインスキャンにより行う。時速20kmで走行しながら、ガス袋(CH4濃度1%:約500ppm・m)の検知を行ったところ、問題なく検知可能であることが確認できた。
車両10の測定許容最高速度は、撮像装置1、レーザ式ガスセンサ2、およびGPS5等の転送速度により決まる設計事項であるが、本実施例の構成においては、時速30kmまで漏洩ガスを検知できることが確認できた。
【0024】
《検知可能濃度》
レーザ式ガスセンサ2に用いたレーザ式ガスセンサの検知下限は10ppm・mである。また、車両走行中における反射ノイズは50〜60ppm・m以下に安定していることから、ガス検知の濃度しきい値を70ppm・m以上、好ましくは80〜90ppm・m以上、より好ましくは100ppm・m以上とすることで、工業的に満足の行くレベルでの検知を実現することが可能である。
【0025】
《照射角度特性》
レーザ式ガスセンサ2を検知対象となる路面から1.6mの高さに設置し、照射角度(取付角度)を変えて測定を行ったところ、表1のとおりの結果となった。表1からレーザ式ガスセンサ2の照射角度は、15〜40度の範囲とすることが好ましいことが分かる。
図7〜図9は、舗装面および非舗装面について、照射角度を15度、20度、30度、40度とした場合の照射角度特性を示したものである。図8および図9から、非舗装面における受信強度は、照射角40度が最も強く、続いて30度、20度、15度の順で受信強度は弱くなり、30度以上に設定すれば非常にノイズの少ない安定した状態で測定できることが確認できた。車両10と非舗装面との間に歩道等が設けられている場合もあるため、どの程度の水平距離が実用的かにも影響されるが、好ましい照射角度は概ね20〜40度であり、より好ましくは30〜40度であるということができる。
なお、中央分離帯が土である場合には、歩道側ではなく中央分離帯側を測定してもよいことはいうまでもない。
【0026】
【表1】
【0027】
《漏洩領域の可視化》
図5は、測定モードにおける本実施例のシステムによる表示画面である。車両10を走行しての測定時には、画面の左側に撮像装置1からの背景画像情報がリアルタイムで表示される。画面の右側には地図およびGPS5からの情報に基づく車両10の位置が表示されるのは、通常のカーナビゲーションシステムと同様であるが、ガス漏洩地点に「×」が表示される点が本実施例のシステム特有の仕様である。地図上の「×」を押下すると、後述するように、当該地点における背景画像が表示される。
画面右下の測定開始ボタンを押下すると、ガスの測定が開始され、画面下部にコラム密度と受光強度がリアルタイムで表示される。ガスが検知されると、警報が発せられ、ガスの検知をユーザーに知らせる。
また、画面下方には、当該地点のコラム濃度および受光強度の測定値が表示される。
【0028】
図6は、履歴モードにおける本実施例のシステムの表示画面である。画面右下の「測定停止」を押下すると、履歴モードに切り替わる。履歴モードでは、地図上の「×」の地点に対応する背景画像が、画面左側に表示される。この際、背景画像上には、コラム濃度が100ppm・m以上の箇所が属する領域が矩形に着色表示される。背景画像上の矩形領域の幅は約20cmに相当する。
本実施例のシステムでは、背景画像中に表示する矩形領域の位置は、画面中央としているが、より標定精度を高めるべく、濃度ピーク発生時刻(漏洩箇所)とフレーム間隔(画像の水平移動)を考慮して、画像中の矩形領域を水平移動させるなどの処理をしてもよい。
【0029】
本実施例のシステムによれば、時速30km/hで走行した場合、理論上は±15cmの精度でガスの検知箇所を特定することが可能である。すなわち、時速30km/hで走行すると、1秒間に約8.3mの速度で進むこととなるが、60fpsで画像を取込んだ場合、フレーム間の距離(画像の水平移動距離)は約15cm(≒8.3m/60)となる。
位置標定の精度は、メタンガス濃度の測定波形(近似曲線)に生じたピークを抽出し、その時刻にどれだけ近いフレームを選択できるかにより決定される。位置標定の精度は、撮像範囲に収まる程度の精度(±2m程度)が得られれば、実用に耐えうると考えられ、車速および撮像装置2のフレームレートと併せて適宜設計することができる。
【0030】
本実施例では、レーザ式ガスセンサ2の測定周期が位置標定精度を制約しないようにするため、処理部3でのデータ補間により連続曲線とし、濃度ピークを抽出して漏洩時刻を特定している。すなわち、測定周期ごとの濃度測定値を最小二乗法等により曲線近似して連続曲線とみなし、濃度ピークが生じている時点を漏洩検知時刻として特定している。
また、当該時刻における車両位置を算出して地図上にプロットし、かつ、当該時刻に最も近い時刻の画像フレームを選択して漏洩領域を着色する。
【0031】
以上の構成を備える本実施例のシステムによれば、走行する車両からのメタンガスを含む漏洩ガスの検知が可能となる。
また、ガスの漏洩箇所を車両用地図情報と関連づけられた背景画像において視認することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、CH4、CO等を検知可能なレーザ式ガスセンサを選択して組み合わせることにより、LNGやCOG等の種々のガスの漏洩を検知することを可能とするものである。
環境計測の分野における温室効果ガス濃度の広域的・長期的な観測手段としても、本発明に対する潜在的なニーズは高いと考えられる。例えば、CH4の単位濃度当りの温室効果はCO2の約20倍と言われており、大気中の濃度はCO2の200分の1程度であるが、CH4が地球に与えている温室効果はCO2の約1割に相当することが知られている(「農業と環境No.78」2006.10 農業環境技術研究所)。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の車載型漏洩ガス検知システムによる測定態様の説明図である。
【図2】アスファルト舗装の下方で漏出したメタンガスの濃度分布図である。
【図3】実施例1に係るシステムの概要構成図である。
【図4】実施例1に係るシステムの接続態様の説明図である。
【図5】実施例1に係るシステムの表示画面(測定モード)である。
【図6】実施例1に係るシステムの表示画面(履歴モード)である。
【図7a】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(舗装面:アスファルト、照射角:15度)を示すグラフである。
【図7b】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(舗装面:アスファルト、照射角:20度)を示すグラフである。
【図7c】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(舗装面:アスファルト、照射角:30度)を示すグラフである。
【図7d】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(舗装面:アスファルト、照射角:40度)を示すグラフである。
【図8a】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:土、照射角:15度)を示すグラフである。
【図8b】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:土、照射角:20度)を示すグラフである。
【図8c】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:土、照射角:30度)を示すグラフである。
【図8d】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:土、照射角:40度)を示すグラフである。
【図9a】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:草、照射角:15度)を示すグラフである。
【図9b】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:草、照射角:20度)を示すグラフである。
【図9c】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:草、照射角:30度)を示すグラフである。
【図9d】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:草、照射角:40度)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 撮像装置
2 レーザ式ガスセンサ
3 処理部
4 表示部
5 GPS
6 アンテナ
7 取付具
10 車両
11 窓
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載型漏洩ガス検知システムおよび方法に関し、より具体的には、走行中の車両から非舗装面に特定波長のレーザ光を照射し、非舗装面からの反射光に基づき漏洩ガスを検知するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地中に埋設した都市ガス管や化学プラントからの漏洩ガスの検知は、水素炎イオン化式等のガス検知器を手押し車に載せるなどして、歩行速度で実施しているのが実情である。しかしながら、歩行速度での漏洩ガスの検知は、作業効率が著しく悪いことから、近年、車載型のガス検知器の開発が活発に行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、測定車両の外側部(バンパ部分)に、発光部および受光部を備えたガス導入機構を取付け、測定車両の走行中において道路上に漏出したガスが発光部と受光部との間で出射されるレーザ光の光路に達するとガス漏洩が検出されるものが開示され、特許文献2には、測定対象の気体中にレーザビームを通過させ、該通過させたレーザビームの強度の変化に基づいて前記気体中の所定のガスを検出する半導体レーザ分光ガス検出装置と、現在位置を測定する測位装置と、前記半導体レーザ分光ガス検出装置によって前記所定のガスを検出した場所を、前記測位装置の出力に基づいて表示する表示制御装置とを移動体に搭載して成ることを特徴とするものが開示される。
しかしながら、これらのガス検知器は、漏洩ガスを検知器内に取り込む方式(仮に「赤外透過方式」という。)であるため、高速で移動する車両による漏洩ガスの検知には必ずしも適しているとは言えなかった。
【0004】
ところで、特定波長のレーザ光がある種の気体に吸収されることを利用して、気体の有無を検出するレーザ式のガスセンサが知られている。例えば、都市ガスの主成分であるメタンの場合には、1.6μm、3μm、7μm帯に吸収帯を有することが知られている。
反射された赤外レーザ光により漏洩ガスを検知する方式(仮に「赤外反射方式」という。)のガス検知器としては、例えば、特許文献3には、レーザモジュールと、前記レーザモジュールから出射されたレーザ光をシート状レーザ光に変換する手段と、被測定ガスに向けて前記シート状レーザ光を出射するレーザ出射部と、前記被測定ガス通過後の反射光を受光する受光部とを備えたことを特徴とするものが開示される。
【0005】
携帯型の赤外反射式ガスセンサとしては、被測定ガスに向けてレーザ光を出射する光源部と、前記光源部から出射され前記被測定ガス通過後の反射体による反射光を集光する凹面鏡と、前記凹面鏡による反射光の集光位置に配置され該反射光を検出する受光器と、を備えたことを特徴とするガス検出装置がある(特許文献4)。
【0006】
【特許文献1】特許第3411783号公報
【特許文献2】特開平11−72411号公報
【特許文献3】特開2003−254856号公報
【特許文献4】特開2002−228582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
赤外透過方式では、漏洩ガスを検知器内に取り込む必要があるため、高速で移動する車両による漏洩ガスの検知には必ずしも適しているとは言えなかった。
赤外反射方式では、人手による遠隔検知の実績はあるが、既存の装置を車両に搭載しただけでは、車両の速度や風の影響等の問題があり殆ど満足に機能しない。特許文献3には車両に搭載することが可能である旨の記載はあるが、具体的な実現のための手段は開示されていない。工業的に満足の得られるレベルで漏洩ガスを検知できる車載型ガス検知器のニーズは高かった。
【0008】
本発明は、走行する車両からの漏洩ガス検知を実現可能とする車載型漏洩ガス検知システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、発明者は、赤外反射方式のガスセンサを車両に搭載し、工業的に満足の得られるレベルで漏洩ガスを検知できる条件を鋭意研究した。その結果、非舗装面(路肩部分)をラインスキャンすることにより、工業的に満足の得られるレベルで漏洩ガスを検知できることの知見を得て、本発明を創作した。
【0010】
すなわち、第1の発明は、背景画像を撮像し、撮像データを処理部に送信する撮像装置と、地面に特定波長のレーザ光を照射するレーザ光源および地面からの反射光を受光する受光器を有し、受光データを処理部に送信するレーザ式ガスセンサと、撮像装置およびレーザ式ガスセンサを車両に取り付ける取付具と、記憶手段、時刻計測手段およびプログラムを有する処理部と、処理部に接続される表示部を備える車載型漏洩ガス検知システムであって、前記プログラムは、撮像装置およびレーザ式ガスセンサから受信したデータを時刻計測手段から取得した時刻情報と関連付けて記憶手段に記憶すると共に、前記表示部に背景画像を連続的に表示する測定工程と、前記受光データにおける受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定をし、ガス検知時刻に対応する撮像データのフレームを取得し、該フレームのガス検知位置を含む領域を着色し、該フレームを前記表示部に表示する履歴工程と、を備えることを特徴とする車載型漏洩ガス検知システムである。
第2の発明は、第1の発明において、前記取付具は、撮像装置およびレーザ式ガスセンサを地面に対して15〜40度の角度となるよう取り付け可能であることを特徴とする。
第3の発明は、第1または2の発明において、さらに、位置情報取得手段を有し、前記記憶手段は、予め地図情報を記憶しており、前記プログラムは、履歴工程において、ガス検知時刻に対応する位置情報を位置情報取得手段から取得し、前記表示部にガス検知位置をプロットした地図情報を表示する工程を備えることを特徴とする。
第4の発明は、第3の発明において、前記プログラムは、履歴工程において、前記地図情報のプロット箇所が指定された際に、該プロット箇所に対応する前記着色された背景画像を表示することを特徴とする請求項3に記載の車載型漏洩ガス検知システム。
第5の発明は、第1ないし4のいずれかの発明において、前記プログラムは、前記測定工程において、前記表示部に受光データを連続的に表示することを特徴とする。
【0011】
第6の発明は、走行中の車両から背景画像を撮像装置により撮像し、撮像データを連続的に表示および記憶すると共に、レーザ式ガスセンサにより非舗装面に特定波長のレーザ光を照射し、非舗装面からの反射光を受光し、受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定を行い、ガス検知時刻に対応する撮像データのフレームを取得し、該フレームのガス検知位置を含む領域を着色し、該フレームを表示することを特徴とする漏洩ガス検知方法である。
第7の発明は、第6の発明において、前記撮像装置およびレーザ式ガスセンサが、地面に対して15〜40度の角度となるよう車両に取り付けることを特徴とする。
第6または7の発明において、走行中の車両の位置情報を取得し、ガス検知の判定時には予め記憶した地図情報にガス検知位置をプロットし、該地図情報を表示する工程を備えることを特徴とする。
第6、7または8の発明において、前記レーザ式ガスセンサの受光データを、連続的に表示する工程を備えることを特徴とする。
第10の発明は、第6ないし9のいずれかの発明において、前記ガスが、メタンガスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、走行する車両からの漏洩ガス検知が可能となる。
また、ガスの漏洩箇所を車両用地図情報と関連づけられた背景画像において視認することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
最良の形態の車載型漏洩ガス検知システムは、背景画像を撮像し、撮像データを処理部に送信する撮像装置と、地面に特定波長のレーザ光を照射するレーザ光源および地面からの反射光を受光する受光器を有し、受光データを処理部に送信するレーザ式ガスセンサと、撮像装置およびレーザ式ガスセンサを車両に取り付ける取付具と、記憶手段、時刻計測手段およびプログラムを有する処理部と、処理部に接続される表示部と、位置情報取得手段を備え、レーザ式ガスセンサにより非舗装面に特定波長のレーザ光を照射し、非舗装面からの反射光を受光し、受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定を行う。
ここで、「受光強度が所定値以下である場合」とは、ガス濃度の上昇に応じて特定波長の吸収量が増加し、それに伴って受光強度が所定値以下に下がった場合のことをいい、例えば、ガスがCH4の場合、特定波長とは1650nmを中心とする波長となる。
【0014】
図1に示すごとく、撮像装置とレーザ式ガスセンサは、取付具により非舗装面(路肩部分)を測定する角度に取り付けられる。すなわち、検知対象領域は道路側方の非舗装面である。
非舗装面を測定することの技術的意義は、漏洩ガスの挙動に起因する。すなわち、アスファルト舗装の下方で漏出したガスは、アスファルトを伝って路肩部分に漏出するという漏洩ガスの挙動を利用した。図2は、アスファルト舗装の下方で漏出した天然ガス(CNG)の挙動を検証するための濃度分布図である。天然ガスボンベに鋼管を接続して、アスファルト舗装面の下方1.2m地点で5L/分の流量で漏洩させた際のメタンガス(CH4)の濃度分布を、レーザ式ガスセンサおよび携帯型ガスセンサ(接触燃焼式)で測定した結果、アスファルトの側方の路肩部分で最高濃度が計測され、アスファルト舗装の箇所では殆どメタンガスが存在しないことが確認できた。
このことから、漏洩ガスを検知するためには、路面上ではなく路肩上を走査するのが最も効果的であることが分かる。
【0015】
レーザ式ガスセンサは、車両の走行により走査(ラインスキャン)を行う仕様である。レーザ式ガスセンサ自体を首振りしてスキャンする方式も考えられるが、処理速度の観点から実現は難しい。
レーザ式ガスセンサは、感度が10ppm・m程度の市販の携帯型ガスセンサを用いることができる。これまでの実験の結果、外乱(背景反射)の最大レベルは100ppm・m程度であることが分かっているので、感度が10ppm・m程度であれば問題なく使用することができる。但し、高速移動する車両からの測定が可能なように一定以上のデータ処理速度が要求されるため、改良が必要な場合がある。車両走行中の検知を可能とするためには、データ転送周期が短い方が好ましく、少なくとも0.5秒程度、好ましくは0.1秒以下とする。処理速度の点で問題が無ければ、複数の波長により複数のガスを測定可能なものを使用してもよい。
【0016】
いわゆる路肩照射方式を採用する場合、撮像装置およびレーザ式ガスセンサは、できるだけ高い位置に設置するのが好ましい。風雨等の影響をさけるためには車内に設置するのが好ましいが、かかる場合には車内の最も高い位置に取り付けるのが好適である。好ましい一態様としては、フロントガラスに吸盤で取り付ける取付具が開示される。なお、車外に設置した場合、陸運局への車両改造申請が必要となるため、かかる観点からも車内に設置するのが簡便である。
【0017】
撮像装置は、路肩部分を含む背景画像を連続的に撮像するためのものであり、高速移動する車両からの撮像が可能なように一定以上のフレームレートを有するものが好ましい。車両走行に耐えるフレームレートとしては30fpsが例示されるが、60fps程度あることが好ましい。撮像装置は90度以上の広角であることが好ましく、必要に応じて広角レンズを装着する。
【0018】
位置情報取得手段は、市販のGPS(グローバル・ポジショニング・システム)を利用することができる。測位精度の観点からは、精度が10m程度の単独測位方式の機種よりも、精度が1m程度の相対側位方式の機種が好ましい。GPSも一定以上のデータ処理速度を有するものを使用する。車両走行中の検知を可能とするためには、GPSの測定周期が1秒程度であることが好ましく、0.25秒以下であればより好ましい。
【0019】
表示部および処理部は、市販のノート型パーソナルコンピュータ(ノートPC)を使用することができる。撮像装置やレーザ式ガスセンサとUSB等のインタフェースケーブルで接続することが例示される。処理部が有するプログラムは、漏洩ガス検知のための専用プログラムであり、時刻計測手段から取得した時刻情報と関連づけてHDD等の記憶手段にデータを記憶する。処理部に記憶させる地図情報は、市販の地図ソフトやカーナビゲーションシステム用のものを使用することができる。
【0020】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
本実施例はメタンガスを主成分とするガス(LNG等)を検知するための車載型漏洩ガス検知システムに関する。LNG基地等の埋設配管からのガス漏洩を点検するためのシステムである。
本実施例の車載型漏洩ガス検知システムは、図3に開示される如く構成される。
符号「1」は、検知対象領域の背景画像を撮影するための撮像装置であって、本実施例では一般的なTNSC仕様のCCDカメラを使用した。フレームレートは最大で30fpsであるが、フィールド取込みをすれば擬似的に60fpsとすることも可能である。なお、デジタル出力機能を備えたカメラを採用し、さらにフレームレートを上げてもよい。
符号「2」は、照射したレーザ光の反射光によりガスの存在を検知するレーザ式ガスセンサであって、本実施例ではコラム密度が測定可能なレーザ式ガスセンサ(アンリツ製SA3C15A)を使用した。データ転送周期は0.5秒である。
なお、コラム密度とは、レーザの光路に沿ったガス濃度の積分値(光路長×光路中の平均ガス濃度)のことであり、単位は「ppm・m」である。
符号「3」は、撮像装置1およびレーザ式ガスセンサ2からの信号を受信し、情報処理する制御プログラムが内蔵された処理部であって、本実施例では市販のノートPCを使用した。処理部3には、表示部4とGPS5が接続されており、表示部4には撮像装置1からの背景画像と、GPS5からの位置情報がリアルタイムで表示される。GPSの測定周期は1秒で、精度は±10mのものを使用した。
電源は、車内の電源ソケットから得たDC12VをAC100Vに変換して供給している。
【0022】
撮像装置1とレーザ式ガスセンサ2は、図示しない取付具7(カメラ用吸着マウント)によりフロントガラスに取り付けられ、窓の開口部から撮像および漏洩ガスの測定が行われる(図4参照)。
撮像装置1とレーザ式ガスセンサ2を窓の開口部に向けて取り付けるのは、窓ガラスの影響により測定精度が劣化することを防ぐためである。因みに、フロントガラス越しに漏洩ガスの測定を行ったところ、満足の行く測定結果は得られなかった。
取付具7によるフロントガラスへの取り付けは、車両改造申請が不要であり、公道での利用にも適していること、撮像装置1およびレーザ式ガスセンサ2が外部に露出しないため、特別な防雨・防滴対策が不要であるというメリットもある。
【0023】
《車両速度》
漏洩ガスの検知は、車両10の走行に伴うラインスキャンにより行う。時速20kmで走行しながら、ガス袋(CH4濃度1%:約500ppm・m)の検知を行ったところ、問題なく検知可能であることが確認できた。
車両10の測定許容最高速度は、撮像装置1、レーザ式ガスセンサ2、およびGPS5等の転送速度により決まる設計事項であるが、本実施例の構成においては、時速30kmまで漏洩ガスを検知できることが確認できた。
【0024】
《検知可能濃度》
レーザ式ガスセンサ2に用いたレーザ式ガスセンサの検知下限は10ppm・mである。また、車両走行中における反射ノイズは50〜60ppm・m以下に安定していることから、ガス検知の濃度しきい値を70ppm・m以上、好ましくは80〜90ppm・m以上、より好ましくは100ppm・m以上とすることで、工業的に満足の行くレベルでの検知を実現することが可能である。
【0025】
《照射角度特性》
レーザ式ガスセンサ2を検知対象となる路面から1.6mの高さに設置し、照射角度(取付角度)を変えて測定を行ったところ、表1のとおりの結果となった。表1からレーザ式ガスセンサ2の照射角度は、15〜40度の範囲とすることが好ましいことが分かる。
図7〜図9は、舗装面および非舗装面について、照射角度を15度、20度、30度、40度とした場合の照射角度特性を示したものである。図8および図9から、非舗装面における受信強度は、照射角40度が最も強く、続いて30度、20度、15度の順で受信強度は弱くなり、30度以上に設定すれば非常にノイズの少ない安定した状態で測定できることが確認できた。車両10と非舗装面との間に歩道等が設けられている場合もあるため、どの程度の水平距離が実用的かにも影響されるが、好ましい照射角度は概ね20〜40度であり、より好ましくは30〜40度であるということができる。
なお、中央分離帯が土である場合には、歩道側ではなく中央分離帯側を測定してもよいことはいうまでもない。
【0026】
【表1】
【0027】
《漏洩領域の可視化》
図5は、測定モードにおける本実施例のシステムによる表示画面である。車両10を走行しての測定時には、画面の左側に撮像装置1からの背景画像情報がリアルタイムで表示される。画面の右側には地図およびGPS5からの情報に基づく車両10の位置が表示されるのは、通常のカーナビゲーションシステムと同様であるが、ガス漏洩地点に「×」が表示される点が本実施例のシステム特有の仕様である。地図上の「×」を押下すると、後述するように、当該地点における背景画像が表示される。
画面右下の測定開始ボタンを押下すると、ガスの測定が開始され、画面下部にコラム密度と受光強度がリアルタイムで表示される。ガスが検知されると、警報が発せられ、ガスの検知をユーザーに知らせる。
また、画面下方には、当該地点のコラム濃度および受光強度の測定値が表示される。
【0028】
図6は、履歴モードにおける本実施例のシステムの表示画面である。画面右下の「測定停止」を押下すると、履歴モードに切り替わる。履歴モードでは、地図上の「×」の地点に対応する背景画像が、画面左側に表示される。この際、背景画像上には、コラム濃度が100ppm・m以上の箇所が属する領域が矩形に着色表示される。背景画像上の矩形領域の幅は約20cmに相当する。
本実施例のシステムでは、背景画像中に表示する矩形領域の位置は、画面中央としているが、より標定精度を高めるべく、濃度ピーク発生時刻(漏洩箇所)とフレーム間隔(画像の水平移動)を考慮して、画像中の矩形領域を水平移動させるなどの処理をしてもよい。
【0029】
本実施例のシステムによれば、時速30km/hで走行した場合、理論上は±15cmの精度でガスの検知箇所を特定することが可能である。すなわち、時速30km/hで走行すると、1秒間に約8.3mの速度で進むこととなるが、60fpsで画像を取込んだ場合、フレーム間の距離(画像の水平移動距離)は約15cm(≒8.3m/60)となる。
位置標定の精度は、メタンガス濃度の測定波形(近似曲線)に生じたピークを抽出し、その時刻にどれだけ近いフレームを選択できるかにより決定される。位置標定の精度は、撮像範囲に収まる程度の精度(±2m程度)が得られれば、実用に耐えうると考えられ、車速および撮像装置2のフレームレートと併せて適宜設計することができる。
【0030】
本実施例では、レーザ式ガスセンサ2の測定周期が位置標定精度を制約しないようにするため、処理部3でのデータ補間により連続曲線とし、濃度ピークを抽出して漏洩時刻を特定している。すなわち、測定周期ごとの濃度測定値を最小二乗法等により曲線近似して連続曲線とみなし、濃度ピークが生じている時点を漏洩検知時刻として特定している。
また、当該時刻における車両位置を算出して地図上にプロットし、かつ、当該時刻に最も近い時刻の画像フレームを選択して漏洩領域を着色する。
【0031】
以上の構成を備える本実施例のシステムによれば、走行する車両からのメタンガスを含む漏洩ガスの検知が可能となる。
また、ガスの漏洩箇所を車両用地図情報と関連づけられた背景画像において視認することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、CH4、CO等を検知可能なレーザ式ガスセンサを選択して組み合わせることにより、LNGやCOG等の種々のガスの漏洩を検知することを可能とするものである。
環境計測の分野における温室効果ガス濃度の広域的・長期的な観測手段としても、本発明に対する潜在的なニーズは高いと考えられる。例えば、CH4の単位濃度当りの温室効果はCO2の約20倍と言われており、大気中の濃度はCO2の200分の1程度であるが、CH4が地球に与えている温室効果はCO2の約1割に相当することが知られている(「農業と環境No.78」2006.10 農業環境技術研究所)。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の車載型漏洩ガス検知システムによる測定態様の説明図である。
【図2】アスファルト舗装の下方で漏出したメタンガスの濃度分布図である。
【図3】実施例1に係るシステムの概要構成図である。
【図4】実施例1に係るシステムの接続態様の説明図である。
【図5】実施例1に係るシステムの表示画面(測定モード)である。
【図6】実施例1に係るシステムの表示画面(履歴モード)である。
【図7a】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(舗装面:アスファルト、照射角:15度)を示すグラフである。
【図7b】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(舗装面:アスファルト、照射角:20度)を示すグラフである。
【図7c】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(舗装面:アスファルト、照射角:30度)を示すグラフである。
【図7d】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(舗装面:アスファルト、照射角:40度)を示すグラフである。
【図8a】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:土、照射角:15度)を示すグラフである。
【図8b】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:土、照射角:20度)を示すグラフである。
【図8c】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:土、照射角:30度)を示すグラフである。
【図8d】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:土、照射角:40度)を示すグラフである。
【図9a】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:草、照射角:15度)を示すグラフである。
【図9b】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:草、照射角:20度)を示すグラフである。
【図9c】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:草、照射角:30度)を示すグラフである。
【図9d】実施例1に係るレーザ式ガスセンサの照射角度特性(非舗装面:草、照射角:40度)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 撮像装置
2 レーザ式ガスセンサ
3 処理部
4 表示部
5 GPS
6 アンテナ
7 取付具
10 車両
11 窓
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背景画像を撮像し、撮像データを処理部に送信する撮像装置と、地面に特定波長のレーザ光を照射するレーザ光源および地面からの反射光を受光する受光器を有し、受光データを処理部に送信するレーザ式ガスセンサと、撮像装置およびレーザ式ガスセンサを車両に取り付ける取付具と、記憶手段、時刻計測手段およびプログラムを有する処理部と、処理部に接続される表示部を備える車載型漏洩ガス検知システムであって、
前記プログラムは、撮像装置およびレーザ式ガスセンサから受信したデータを時刻計測手段から取得した時刻情報と関連付けて記憶手段に記憶すると共に、前記表示部に背景画像を連続的に表示する測定工程と、前記受光データにおける受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定をし、ガス検知時刻に対応する撮像データのフレームを取得し、該フレームのガス検知位置を含む領域を着色し、該フレームを前記表示部に表示する履歴工程と、を備えることを特徴とする車載型漏洩ガス検知システム。
【請求項2】
前記取付具は、撮像装置およびレーザ式ガスセンサを地面に対して15〜40度の角度となるよう取り付け可能であることを特徴とする請求項1に記載の車載型漏洩ガス検知システム。
【請求項3】
さらに、位置情報取得手段を有し、
前記記憶手段は、予め地図情報を記憶しており、
前記プログラムは、履歴工程において、ガス検知時刻に対応する位置情報を位置情報取得手段から取得し、前記表示部にガス検知位置をプロットした地図情報を表示する工程を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の車載型漏洩ガス検知システム。
【請求項4】
前記プログラムは、履歴工程において、前記地図情報のプロット箇所が指定された際に、該プロット箇所に対応する前記着色された背景画像を表示することを特徴とする請求項3に記載の車載型漏洩ガス検知システム。
【請求項5】
前記プログラムは、前記測定工程において、前記表示部に受光データを連続的に表示することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の車載型漏洩ガス検知システム。
【請求項6】
走行中の車両から背景画像を撮像装置により撮像し、撮像データを連続的に表示および記憶すると共に、レーザ式ガスセンサにより非舗装面に特定波長のレーザ光を照射し、非舗装面からの反射光を受光し、受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定を行い、ガス検知時刻に対応する撮像データのフレームを取得し、該フレームのガス検知位置を含む領域を着色し、該フレームを表示することを特徴とする漏洩ガス検知方法。
【請求項7】
前記撮像装置およびレーザ式ガスセンサが、地面に対して15〜40度の角度となるよう車両に取り付けることを特徴とする請求項6に記載の漏洩ガス検知方法。
【請求項8】
走行中の車両の位置情報を取得し、ガス検知の判定時には予め記憶した地図情報にガス検知位置をプロットし、該地図情報を表示する工程を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の漏洩ガス検知方法。
【請求項9】
前記レーザ式ガスセンサの受光データを、連続的に表示する工程を備えることを特徴とする請求項6、7または8に記載の漏洩ガス検知方法。
【請求項10】
前記ガスが、メタンガスであることを特徴とする請求項6ないし9のいずれか一項に記載の車載型漏洩ガス検知方法。
【請求項1】
背景画像を撮像し、撮像データを処理部に送信する撮像装置と、地面に特定波長のレーザ光を照射するレーザ光源および地面からの反射光を受光する受光器を有し、受光データを処理部に送信するレーザ式ガスセンサと、撮像装置およびレーザ式ガスセンサを車両に取り付ける取付具と、記憶手段、時刻計測手段およびプログラムを有する処理部と、処理部に接続される表示部を備える車載型漏洩ガス検知システムであって、
前記プログラムは、撮像装置およびレーザ式ガスセンサから受信したデータを時刻計測手段から取得した時刻情報と関連付けて記憶手段に記憶すると共に、前記表示部に背景画像を連続的に表示する測定工程と、前記受光データにおける受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定をし、ガス検知時刻に対応する撮像データのフレームを取得し、該フレームのガス検知位置を含む領域を着色し、該フレームを前記表示部に表示する履歴工程と、を備えることを特徴とする車載型漏洩ガス検知システム。
【請求項2】
前記取付具は、撮像装置およびレーザ式ガスセンサを地面に対して15〜40度の角度となるよう取り付け可能であることを特徴とする請求項1に記載の車載型漏洩ガス検知システム。
【請求項3】
さらに、位置情報取得手段を有し、
前記記憶手段は、予め地図情報を記憶しており、
前記プログラムは、履歴工程において、ガス検知時刻に対応する位置情報を位置情報取得手段から取得し、前記表示部にガス検知位置をプロットした地図情報を表示する工程を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の車載型漏洩ガス検知システム。
【請求項4】
前記プログラムは、履歴工程において、前記地図情報のプロット箇所が指定された際に、該プロット箇所に対応する前記着色された背景画像を表示することを特徴とする請求項3に記載の車載型漏洩ガス検知システム。
【請求項5】
前記プログラムは、前記測定工程において、前記表示部に受光データを連続的に表示することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の車載型漏洩ガス検知システム。
【請求項6】
走行中の車両から背景画像を撮像装置により撮像し、撮像データを連続的に表示および記憶すると共に、レーザ式ガスセンサにより非舗装面に特定波長のレーザ光を照射し、非舗装面からの反射光を受光し、受光強度が所定値以下である場合にはガス検知の判定を行い、ガス検知時刻に対応する撮像データのフレームを取得し、該フレームのガス検知位置を含む領域を着色し、該フレームを表示することを特徴とする漏洩ガス検知方法。
【請求項7】
前記撮像装置およびレーザ式ガスセンサが、地面に対して15〜40度の角度となるよう車両に取り付けることを特徴とする請求項6に記載の漏洩ガス検知方法。
【請求項8】
走行中の車両の位置情報を取得し、ガス検知の判定時には予め記憶した地図情報にガス検知位置をプロットし、該地図情報を表示する工程を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の漏洩ガス検知方法。
【請求項9】
前記レーザ式ガスセンサの受光データを、連続的に表示する工程を備えることを特徴とする請求項6、7または8に記載の漏洩ガス検知方法。
【請求項10】
前記ガスが、メタンガスであることを特徴とする請求項6ないし9のいずれか一項に記載の車載型漏洩ガス検知方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図9d】
【公開番号】特開2009−42965(P2009−42965A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206341(P2007−206341)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
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