説明

車載用の電源線重畳通信システム

【課題】直流電源に悪影響を及ぼすことなく所要の通信ユニット間のみで電源線重畳通信を行い、かつ、通信経路を短くして信号の減衰とノイズによる悪影響を低減する。
【解決手段】車両に搭載する通信ユニット相互間の通信信号を、該通信ユニットおよび他の非通信機器に電源を供給している電源線に重畳して行う電源線重畳通信システムにおいて、前記電源線から分岐して前記通信ユニットに接続される分岐線の間にコンデンサを介在させ、該コンデンサを介して前記通信ユニット間で通信信号が送受される構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用の電源線重畳通信システムに関し、詳しくは、自動車に搭載されたバッテリーからの電力を通信ユニットや他の非通信機器に供給する電源線に通信信号を重畳して行う電源線重畳通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車における電装品等の増加や複雑化に伴いワイヤハーネスが増大しており、このワイヤハーネスを省線化するものとして、通信信号を電源線に重畳させて行う電源線重畳通信がある。
しかしながら、前記電源線重畳通信では、電源線に重畳させた信号が通信に関係のない電源線にまで流れ、通信に関係のない機器に悪影響を及ぼし誤動作を誘発するおそれがある。また、前記のように信号が通信に関係のない電源線にまで流れると、信号が減衰しやすく、大きな信号が必要となる問題もある。さらに、前記機器の電源オン・オフ動作で電源線上に発生するノイズで通信信号が妨害を受ける場合もある。
【0003】
前記問題を解消するため、特開2003−218751号公報(特許文献1)において、図9に示す通信システムが提供されている。特許文献1で提供されている通信システムでは、各ECU1A〜1E間の通信を電源線2A〜2Gを介して行っているが、これらの通信と関係のない電源線3と電源線2A〜2Gとの間にコイルLを介設し、該コイルLによりECU1A〜1E間で送受される信号を遮断して、この信号が電源線3側へ流れないようにしている。
これにより、前記通信に関係のない電源線3に接続された機器に悪影響が及ぶのを防止することができ、かつ、信号も機器側からのノイズの影響を遮断できると共に信号減衰を低減することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1で提供されている通信システムではコイルLのみで信号を遮断しているため、電源線間に大きなコイルLを介設する必要があり、負荷のON/OFF時に電圧変動が発生してしまい、安定した直流電流を供給することができなくなる問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−218751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、直流電源に悪影響を及ぼすことなく所要の通信ユニット間のみで電源線重畳通信を行い、かつ、通信経路を短くして信号の減衰とノイズによる悪影響を低減することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、車両に搭載する通信ユニット相互間の通信信号を、
該通信ユニットおよび他の非通信機器に電源を供給している電源線に重畳して行う電源線重畳通信システムにおいて、
前記電源線から分岐して前記通信ユニットに接続される分岐線の間にコンデンサを介在させ、該コンデンサを介して前記通信ユニット間で通信信号が送受される構成としていることを特徴とする車載用の電源線重畳通信システムを提供している。
【0008】
前記構成からなる電源線重畳通信システムでは、通信信号が送受される通信ユニットに接続された分岐線間にコンデンサを介在させており、高周波である通信信号に対するコンデンサのインピーダンスは小さいため、一方の電源線である分岐線に重畳された信号はコンデンサを通って他方の分岐線に伝達されることとなる。よって、前記コンデンサにより通信ユニット間の通信経路を短くすることができ、信号の減衰および電源線で発生するノイズの影響を低減することができる。
また、前記のように通信信号はコンデンサ側に流れるため、分岐線とコンデンサとの接続点よりも上流側の分岐線に信号はほとんど流れず、通信に関係のない機器に悪影響が及ぶのを防止でき、かつ、信号の減衰をさらに低減することができる。
さらに、前記特許文献1のように信号を遮断するための大きなコイルを設けていないため、直流電源への悪影響もない。
なお、分岐線とコンデンサとの接続点に近接する上流側に、直流電源に影響がない程度の小さなコイルを介設してもよいし、分岐線をフェライトに貫通させてもよい。これにより、通信信号の分散をより低減できる。
【0009】
前記コンデンサは、前記分岐線が平行配線されている領域で、かつ、前記通信ユニットに近接した位置に配置されていることが好ましい。
前記構成によれば、分岐線が平行配線されている箇所では分岐線間にコンデンサを介設しやすく、かつ、コンデンサの介設位置が通信ユニットに近接した位置とすると通信信号の経路を大幅に短縮することができ、信号の減衰およびノイズによる悪影響を大幅に低減することができる。
【0010】
前記コンデンサは、前記電源に接続されたヒューズボックス内に配置してもよい。
前記構成によれば、コンデンサの設置が容易であると共に、電源線同士が近接配置されているため、確実に電源線間にコンデンサを介設することができる。
【0011】
前記コンデンサの取付部では、前記各電源線の絶縁被覆を皮剥ぎして露出させた芯線と前記コンデンサの端子とが半田接続され、または前記芯線に接続した圧着端子とコンデンサの端子とが嵌合接続され、または前記各電源線に夫々圧接端子が接続され、前記圧接端子間に前記コンデンサの端子が半田接続され、
前記接続部が絶縁テープで被覆され、あるいは樹脂製のケース内に収容されている構成としてもよい。
前記構成によれば、電源線の任意の箇所に容易にコンデンサを取り付けることができる。
【発明の効果】
【0012】
前述したように、本発明によれば、通信信号が送受される通信ユニットに接続された分岐線間に、高周波である通信信号に対するインピーダンスが小さいコンデンサを介在させているため、一方の電源線である分岐線に重畳された信号はコンデンサを通って他方の分岐線に伝達されることとなる。よって、前記コンデンサにより通信ユニット間の通信経路を短くすることができ、信号の減衰および電源線で発生するノイズの影響を低減することができる。
また、前記のように通信信号はコンデンサ側に流れるため、分岐線とコンデンサとの接続点よりも上流側の分岐線に信号はほとんど流れず、通信に関係のない機器に悪影響が及ぶのを防止でき、かつ、信号の減衰をさらに低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1及び図2に、本発明の第1実施形態を示す。
本実施形態の車載用の電源線重畳通信システム10は、自動車に搭載された各種負荷やスイッチに接続された通信ユニット20間の通信を電源線を介して行うものである。
本実施形態では、スイッチ21に接続された通信ユニット20Aと、該スイッチ21によりON/OFFされるランプ22に接続された通信ユニット20B間の通信について代表して説明する。
【0014】
自動車に搭載されたバッテリー11には、電源線12を介してヒューズボックス13が接続されている。該ヒューズボックス13は、導電性金属板を所要形状に打ち抜いて形成したバスバーからなる内部回路を備え、該内部回路において、電源回路を複数に分岐させると共に、この分岐回路にヒューズ14を介設している。これら分岐回路にはヒューズ14の下流側に分岐線15の一端が接続され、該分岐線15の他端には各通信ユニット20が接続されている。即ち、各通信ユニット20は自動車の所要箇所に配置され、前記ヒューズボックス13と各通信ユニット20間に分岐線15が配索されている。
【0015】
前記通信ユニット20は、信号重畳回路と信号分離回路を備え、送信側の通信ユニット20の信号重畳回路において、送信する信号を電源線に重畳する一方、受信側の通信ユニと20の信号分離回路において、受信する信号を電源線より分離することにより、電源線を利用して通信信号を送受する構成としている。
【0016】
前記通信ユニット20Aに接続された分岐線15Aと、通信ユニット20Bに接続された分岐線15Bはヒューズボックス13の近傍において近接させて配索されており、このヒューズボックス13の近傍において分岐線15Aと15B間にコンデンサ16を介設している。コンデンサ16は高周波信号に対しては低インピーダンスであるため、高周波信号は通すが、バッテリー11から供給される直流電流は通さないため、電源回路に影響を及ぼすことはない。本実施形態では、前記通信信号の周波数を10MHz、コンデンサの容量を1000pF〜0.1μFとしている。
【0017】
前記コンデンサ16の取付部では、図2(A)に示すように、分岐線15A、15Bの絶縁被覆17を皮剥ぎして芯線18を引き出し、引き出した芯線18とコンデンサ16の端子16aとを半田Hにより接続している。分岐線15A、15B間にコンデンサ16を接続した後、図2(B)に示すように、コンデンサの取付部にテープTを巻き付け、絶縁保護している。
【0018】
次に、前記車載用の電源線重畳通信システム10による通信方法について説明する。
前記バッテリー11より電源線12および電源線の分岐線15を介して各通信ユニット20やランプ22等の各種機器に12Vの直流電源を供給した状態で、スイッチ21を操作すると、該スイッチ21に接続された通信ユニット20Aの信号重畳回路において所要の信号が電源回路に重畳される。
電源回路に重畳された信号は高周波信号であるため、該信号は高周波に対して低インピーダンスとなるコンデンサ16を通る。よって、前記信号は、図1の破線で示すように、通信ユニット20Aの電源回路→分岐線15A→コンデンサ16→分岐線15B→通信ユニット20Bの電源回路の順に伝達される。
次いで、通信ユニット20Bの信号分離回路において前記信号が電源回路より分離され、該信号により通信ユニット20Bに接続されたランプ22が制御される。
【0019】
前記構成によれば、通信信号が送受される通信ユニット20A、20Bに接続された分岐線15Aと15B間にコンデンサ16を介在させて、分岐線15A→コンデンサ16→分岐線15Bを介して所要の信号を通信ユニット20Aから通信ユニット20Bに伝達している。これにより、コンデンサ16により通信ユニット20A、20B間の通信経路を短くすることができ、信号の減衰および電源線で発生するノイズの影響を低減することができる。
また、前記のように通信信号はコンデンサ16側に流れるため、分岐線15Aとコンデンサ16との接続点よりも上流側の分岐線に信号はほとんど流れず、通信に関係のない機器に悪影響が及ぶのを防止でき、かつ、信号の減衰をさらに低減することができる。
なお、本実施形態では、コンデンサの取付部にテープを巻きつけて絶縁保護しているが、コンデンサの取付部を樹脂製のケースに収容してもよい。
また、本実施形態では、ヒューズボックス13の下流側近傍にコンデンサ16を設けているが、ヒューズボックス13内にコンデンサ16を収容して分岐線間に接続してもよい。
【0020】
図3に、第1実施形態の第1変形例を示す。
本変形例では、分岐線15A、15Bの絶縁被覆17を皮剥ぎして芯線18を引き出し、引き出した芯線18とコンデンサ16の端子16aとを、基板部30aの両側より圧着バレル30bを突設した圧着端子30により圧着接続している。本変形例でも第1実施形態と同様、接続部分を含む所要領域にテープを巻き付けて絶縁保護している。
なお、分岐線15A、15Bの芯線を引き出さず、絶縁被覆17を皮剥ぎして露出させた芯線18にコンデンサ16の端子16aを直接半田付けあるいは圧着接続してもよい。
また、他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0021】
図4に、第1実施形態の第2変形例を示す。
本変形例では、各分岐線15A、15Bに夫々圧接端子31が接続され、これら圧接端子31間にコンデンサ16の端子16aが半田Hにより接続されている。
詳細には、樹脂製のケース32のケース本体32aに前記圧接端子31が並列配置で取り付けられており、該圧接端子31の圧接スロット31a上に分岐線15A、15Bを配線し、ケース本体32aに薄肉ヒンジ部32bを介して設けられたカバー32cを、薄肉ヒンジ部32bを支点としてケース本体32a側に回動させると、カバー32cにより分岐線15A、15Bがそれぞれ圧接スロット31aに押し込まれて芯線に圧接端子31が接続される。また、該カバー32cでコンデンサの取付部を覆って絶縁保護している。
なお、他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
図5に、本発明の第2実施形態を示す。
本実施形態では、コンデンサ16の取付位置を第1実施形態と相違させており、コンデンサ16を、分岐線15A、15Bが平行配線されている領域で、かつ、通信ユニット20A、20Bに近接した位置に取り付けて配置している。
【0023】
前記構成によれば、分岐線15A、15Bが平行配線されている箇所では分岐線15A、15B間にコンデンサ16を介設しやすく、かつ、コンデンサ16の取付位置が通信ユニット20A、20Bに近接した位置としているため通信信号の経路を大幅に短縮することができ、信号の減衰およびノイズによる悪影響を大幅に低減することができる。
【0024】
図6に、本発明の第3実施形態を示す。
本実施形態では、分岐線15Aと分岐線15Bの間および分岐線15Aと分岐線15Cの間にそれぞれコンデンサ16を介設している。2つのコンデンサ16は分岐線15Aの同一箇所に取り付けている。
前記構成によれば、通信ユニット20Aからコンデンサ16を介して2つの通信ユニット20B、20Cへ信号を送信でき、複数のランプ22、23を制御することができる。
なお、コンデンサ16を3つ以上設けて、これらコンデンサ16を介してさらに多数の通信ユニットに信号を送信する構成としてもよい。
【0025】
図7に、本発明の第4実施形態を示す。
本実施形態では、分岐線15A、15Bとコンデンサ16との接続点に近接する上流側に、信号を遮断するコイル33を設けている。
本実施形態では、通信ユニット20Aから送信された信号はコンデンサ16を通り、コンデンサの取付部よりも上流側の分岐線15A、15Bにはほとんど信号が流れないため、コイル33を直流電源に影響がない程度の小さなコイルとしている。
【0026】
前記構成によれば、分岐線15A、15Bに設けたコイル33により通信ユニット20Aから送信された信号を遮断しているため、該信号が関係のない範囲へ分散するのをより確実に防止することができる。
また、コイル33はコンデンサの取付部よりも上流側に設けており、コンデンサ16の取付部よりも上流側の分岐線15A、15Bに流れる小さな信号を遮断するだけであるため小さなコイルでよい。よって、バッテリーに接続された各種機器のON/OFF時にも電圧変動がほとんどなく、直流電源に悪影響を及ぼすこともない。
なお、他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0027】
図8に、第4実施形態の変形例を示す。
本変形例では、コイル33に替えて、分岐線15A、15Bを円筒状の磁性体からなるフェライト34に貫通させ、分岐線15A、15Bとコンデンサ16との接続点に近接する上流側に前記フェライト34を設けている。
前記構成によっても、通信ユニット20Aから送信された信号をフェライト34で減衰できるため、該信号が通信に関係のない範囲へ分散するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態の車載用の電源線重畳通信システムを示す図面である。
【図2】(A)(B)はコンデンサの取付部を示す図面である。
【図3】(A)(B)は第1実施形態の第1変形例を示す図面である。
【図4】第1実施形態の第2変形例を示す図面である。
【図5】第2実施形態の車載用の電源線重畳通信システムを示す図面である。
【図6】第3実施形態の車載用の電源線重畳通信システムを示す図面である。
【図7】第4実施形態の車載用の電源線重畳通信システムを示す要部拡大図である。
【図8】第4実施形態の変形例を示す図面である。
【図9】従来例を示す図面である。
【符号の説明】
【0029】
10 車載用の電源線重畳通信システム
11 バッテリー
12 電源線
15 電源線の分岐線
16 コンデンサ
17 絶縁被覆
18 芯線
20 通信ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載する通信ユニット相互間の通信信号を、該通信ユニットおよび他の非通信機器に電源を供給している電源線に重畳して行う電源線重畳通信システムにおいて、
前記電源線から分岐して前記通信ユニットに接続される分岐線の間にコンデンサを介在させ、該コンデンサを介して前記通信ユニット間で通信信号が送受される構成としていることを特徴とする車載用の電源線重畳通信システム。
【請求項2】
前記コンデンサは、前記分岐線が平行配線されている領域で、かつ、前記通信ユニットに近接した位置に配置されている請求項1に記載の車載用の電源線重畳通信システム。
【請求項3】
前記コンデンサの取付部では、前記各電源線の絶縁被覆を皮剥ぎして露出させた芯線と前記コンデンサの端子とが半田接続され、または前記芯線に接続した圧着端子とコンデンサの端子とが嵌合接続され、または前記各電源線に夫々圧接端子が接続され、前記圧接端子間に前記コンデンサの端子が半田接続され、
前記接続部が絶縁テープで被覆され、あるいは樹脂製のケース内に収容されている請求項1または請求項2に記載の車載用の電源線重畳通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−227736(P2008−227736A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60579(P2007−60579)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】