説明

車載用制御装置

【課題】サージ発生時にもMOSFETの保護が可能な電源入力部の回路構成を提供する。
【解決手段】pチャネルMOSFET1、nチャネルMOSFET2、ツェナーダイオード3、ツェナーダイオード4、電流の逆流を抑制するコイル5、pチャネルMOSFET1のソースとnチャネルMOSFET2のドレイン間電圧差を保持する抵抗6、pチャネルMOSFET1のショート破壊時に回路を保護する抵抗7、nチャネルMOSFET2のショート破壊時に回路を保護する抵抗8、電源ICへの入力電圧の変動を抑制する電解コンデンサ9、ECUへ電圧を供給するバッテリー10、ECU内部のICを動作させる電圧を生成する電源IC11から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車載用制御装置にかかり、特に車載用制御装置の電源ICへの電源入力部の回路に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用制御装置(ECU)を動作させる場合、バッテリーのプラス端子とECU電源入力端子を接続し、バッテリーのマイナス端子をGNDに接続することで、ECUに電源を供給して動作させる方法が一般的である。しかし、人為的ミスでバッテリーの端子を逆に接続してしまうことがあり、逆接続の対策を施していないECUでは、内部回路が破壊されてしまう。そのため、ECU電源入力部に逆接保護回路を構成する必要がある。
【0003】
従来逆接保護回路として電源入力部にダイオードを接続する方法が用いられてきた。バッテリーを逆接続した場合、ダイオードの整流作用で電源ICからバッテリーへ流れる電流の経路を遮断されるため、電源ICに印加される電圧はほぼ0Vとなる。
【0004】
しかし、この方式では正常にバッテリーを接続した場合、ダイオードの順方向電圧分の電圧降下が発生してしまうため、バッテリー電圧が例えばECUの動作可能電圧程度まで低下した場合、ECUが動作するための電圧が足りず、ECUリセットが発生する可能性がある。
【0005】
また特許文献1では、ダイオードの代わりにMOSFETを用いて、電圧降下が発生しない逆接防止回路の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−244584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ダイオードを用いた従来の逆接保護回路では、バッテリー電圧が低下した場合、電源ICの動作に必要な電圧を供給できなくなり、ECUが動作不良となる可能性がある。また特許文献1の逆接防止回路では、入力端子からサージが発生した場合、FETの保護についての着想や開示がないため、サージ発生時にFETが破壊してしまい、電源から異常電流が流れるなどの問題が発生する。
【0008】
そこで本発明では、ダイオードの代わりにMOSFETを用い、サージ発生時にもMOSFETの保護が可能な電源入力部の回路構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明では、車載バッテリーと前記車載バッテリーからの出力電圧を所定値まで降下する電源ICとの間に接続された第1のFETと、前記第1のFETのON/OFFを制御する第2のFETと、前記第2のFETのゲートと前記車載バッテリーの+端子の間に直列に接続された第1の抵抗と、前記第2のFETのゲートとグラウンドの間に接続された第1のサージ電圧保護素子と、前記第1のFETのソースと前記電源ICとの間に直列に接続されたコイルと、前記第1のFETのソースと前記第2のFETのドレイン間に接続された第2の抵抗と、前記電源ICの入力側に接続されたコンデンサと、前記第1のFETのゲートと前記第2のFETとの間に直列に接続された第3の抵抗と、前記電源ICの入力側に接続された第2のサージ電圧保護素子とを有するよう構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両に搭載されたバッテリーの電圧がECUの動作可能電圧付近まで低下してしまったときでも、ECUの動作保証が可能となり、また、バッテリー端子を逆接続した場合にも、ECU内部回路を保護可能である。さらに、サージ発生時にECU内部回路の保護やECUリセットの防止が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ダイオードを使用した逆接保護回路。
【図2】特開平1−177865号公報のスイッチング電源回路。
【図3】本発明のバッテリー電圧6V動作保証可能な逆接保護回路。
【図4】診断機能付き逆接保護回路。
【図5】実施例2におけるpチャネルMOSFETのON抵抗増加故障時の診断マップ。
【図6】実施例2におけるpチャネルMOSFETのショート故障時の診断マップ。
【図7】電源入力部を電源ICと一体化した回路。
【図8】nチャネルMOSFETのゲート保護にバリスタを使用した回路。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を用いてダイオードを用いた逆接保護回路について説明する。図1に示すような、ECUの電源入力部にダイオードを接続する方法によれば、ECUにバッテリーを逆接続した場合でも、ダイオードの整流作用でECU内の電源ICからバッテリーへ流れる電流の経路が遮断されるため、電源ICに印加される電圧はほぼ0Vとなる。
【0013】
上記の通り、逆接保護回路として図1の回路は理想的であるが、正常にバッテリー端子を接続した場合、ダイオードの順方向電圧分の電圧降下が発生してしまう。バッテリー電圧が例えばECUの動作可能電圧(例えば、6V)程度まで低下した場合、ECUが動作するための電圧が足りず、ECUリセットが発生する可能性がある。
【0014】
図2を用いて、ダイオードの代わりにMOSFETを用いた、電圧降下が発生しない逆接防止回路について説明する。
【0015】
図2の回路は、入力端子と出力端子間に実装した逆接保護用FETと、このFETのスイッチングを行うスイッチング用FETと、二つのFETの間に実装された抵抗およびダイオードと、ゲート電圧を分圧するための抵抗で構成されている。このような構成では、サージ発生時にスイッチング用FETが破損し、入力端子から異常電流が流れてしまう。本発明では、スイッチング用FETに対して、そのゲートにツェナーダイオードを使用することで、サージ発生時のFET破壊防止を実現する。以下図に従い、本発明の実施例について説明を加える。
【実施例1】
【0016】
図3はバッテリー電圧がECUの動作可能電圧である6V程度まで低下したときでもECU動作保証が可能な逆接保護回路の本発明の一実施例である。
【0017】
図3の実施例では、pチャネルMOSFET1、nチャネルMOSFET2、ツェナーダイオード3、ツェナーダイオード4、電流の逆流を抑制するコイル5、pチャネルMOSFET1のソースとnチャネルMOSFET2のドレイン間電圧差を保持する抵抗6、pチャネルMOSFET1のショート破壊時に回路を保護する抵抗7、nチャネルMOSFET2のショート破壊時に回路を保護する抵抗8、電源ICへの入力電圧の変動を抑制する電解コンデンサ9、ECUへ電圧を供給するバッテリー10、ECU内部のICを動作させる電圧を生成する電源IC11から構成される。
【0018】
図3において、バッテリー10の端子を正常接続した場合、pチャネルMOSFET1の寄生ダイオードを通して、電源IC11に電圧が供給される。また、nチャネルMOSFET2がONとなり、pチャネルMOSFET1のゲートをLowとすることで、pチャネルMOSFET1のゲート−ソース間で電位差が発生する。そして、pチャネルMOSFET1がONとなるため、バッテリー10と電源IC11の間で図1の回路の様に電圧降下が発生しないことから、バッテリー10電圧がECU動作可能電圧6V程度まで低下した場合でもECUの動作保証が可能となる。
【0019】
一方で、図3において、バッテリー10の端子を逆接続した場合、nチャネルMOSFET2がOFF状態となり、pチャネルMOSFET1もOFF状態であるため、電源IC11からバッテリー10へ流れる電流の経路を遮断する。そのため、電源IC11の破損を防ぐことが可能となる。
【0020】
図3において、ECUの通常動作時に、バッテリー10端子に接続した負荷からマイナスサージが発生した場合、nチャネルMOSFET2がOFF状態となり、pチャネルMOSFET1のゲート−ソース間の電位差をなくしてOFF状態となるため、電源IC11からバッテリー10へ流れる電流の経路を遮断する。そのため、電源IC11に供給される電圧が保持され、バッテリー電圧低下に起因するECUリセットを防止する。また、マイナスサージが発生してからpチャネルMOSFET1がOFFになる間に、電源IC11からバッテリー10方向への電流の引き抜きが発生するが、コイル5が引き抜かれる電流の位相を遅れさせ、さらに、電解コンデンサ9が電源IC11に供給される電圧を保持する役割を担っている。
【0021】
図3において、ECUが通常動作時にバッテリー10電圧入力部でプラスサージが発生した場合、ツェナーダイオード3によりnチャネルMOSFET2のゲート電圧がツェナー電圧に固定されるため、nチャネルMOSFET2が保護される。また、抵抗8により、nチャネルMOSFET2がショート故障となった場合、バッテリー10とグラウンドの短絡の防止が実現できる。また、ツェナーダイオード4が電源IC11を保護することで、ECUの通常動作の継続が可能となる。
【0022】
本実施例によれば、サージが発生した場合にもnチャネルMOSFET2が保護されるため、pチャネルMOSFET1のゲートをスイッチングする機能が保証される。これにより、電源ICへ異常電流が流れないようにできるので、サージ発生時にもECUの動作保証が可能となる。
【実施例2】
【0023】
図4は、pチャネルMOSFET1の故障診断を設けた実施例である。
【0024】
図4の実施例では、図3の回路に加えて、pチャネルMOSFET1のソース−ドレイン間の電圧差を検出する差動増幅回路12、抵抗7の電圧差を検出する差動増幅回路13、差動増幅回路12の基準電圧14、MPU15、から構成される。MPU15へは、電源IC11から電圧が供給されてよく、ECUが制御対象機器を制御するための演算を行うMPUとMPU15とを兼ねてよい。
【0025】
pチャネルMOSFET1が正常な場合、差動増幅回路12の差動増幅率α、pチャネルMOSFET1のON抵抗をRon、pチャネルMOSFETのドレイン−ソース間電流をIds、基準電圧をXとすると、差動増幅回路12の出力Aは式(1)
A=α・Ron・Ids+X ・・・・(1)
の通りに演算できる。
【0026】
pチャネルMOSFET1がON抵抗増加故障となった場合、ドレイン−ソース間電圧が上昇し、差動増幅回路12の出力Aが一定値を超えると、MPU15がpチャネルMOSFET1が故障であると判定する。
【0027】
pチャネルMOSFET1がショート故障した場合、ドレイン−ソース間で電圧差が生じないため、差動増幅回路12の出力Aは、基準電圧Xとなる。
【0028】
バッテリー10電圧入力部で瞬断、またはマイナスサージが発生した場合、ECUが正常動作に復帰するまで、瞬間的に差動増幅回路12の出力が基準電圧以下となる。
【0029】
よって、pチャネルMOSFET1の状態変化に伴い、差動増幅回路12の出力Aは、図5のような診断マップを作成できる。図5の縦軸は差動増幅回路12の出力Aを表し、横軸はpチャネルMOSFET1の状態変化を表す。
【0030】
また、pチャネルMOSFET1が正常な場合、抵抗7に電流は流れないため、差動増幅回路13の出力Bは、オペアンプのオフセット電圧となる。
【0031】
pチャネルMOSFET1がショート故障の場合、抵抗7の抵抗値R7、抵抗7に流れる電流値をI7、差動増幅回路13の差動増幅率をβとすると、差動増幅回路13の出力Bは、式(2)
B=β・R7・I7 ・・・・(2)
の通りに演算できる。
【0032】
よって、pチャネルMOSFET1の状態変化に伴い、差動増幅回路13の出力Bは、図6のような診断マップを作成できる。図6の縦軸は差動増幅回路12の出力Bを表し、横軸はpチャネルMOSFET1の状態変化を表す。
【0033】
このように、MPU15は差動増幅回路12,13からの出力A,Bと、基準電圧14や予めECU内のROMに格納された判定値などと比較することによってpチャネルMOSFET1の故障を判定できる。
【0034】
以上の方法によって、MPU15がpチャネルFET1の故障を判定した場合、ECUから信号を出力し、警告灯を点灯させることで、ドライバーに異常を知らせる、また所定のフェールセーフ制御を行うことが可能となる。
【実施例3】
【0035】
図7は、図3のpチャネルMOSFET1とnチャネルMOSFET2を電源IC11内に一つのパッケージとして集約した場合の実施例である。電源IC11の内部にpチャネルMOSEFT1とnチャネルMOSFET2を集約化することで、実装面積を低減可能である。また、pチャネルMOSEFT1とnチャネルMOSFET2とをASICとして実装することもできる。
【実施例4】
【0036】
図8は、図3のツェナーダイオード3の代わりに、バリスタ16を使用した場合の実施例である。バリスタ16は、両端子間の電圧が低い場合は電気抵抗が高く、所定以上に端子間の電圧が高い場合には電気抵抗が低くなる。したがって、ツェナーダイオード3の代わりにバリスタ16を用いても、バッテリー1電源入力部からサージが発生した場合、nチャネルMOSFET2のゲート保護が可能となる。
【0037】
同様に、ツェナーダイオード4の代わりにバリスタを用いてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 pチャネルMOSFET
2 nチャネルMOSFET
3,4 ツェナーダイオード
5 コイル
6,7,8 抵抗
9 電解コンデンサ
10 バッテリー
11 電源IC
12,13 差動増幅回路
14 基準電圧
15 MPU
16 バリスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載バッテリーと前記車載バッテリーからの出力電圧を所定値まで降下する電源ICとの間に接続された第1のFETと、前記第1のFETのON/OFFを制御する第2のFETと、前記第2のFETのゲートと前記車載バッテリーの+端子の間に直列に接続された第1の抵抗と、前記第2のFETのゲートとグラウンドの間に接続された第1のサージ電圧保護素子と、前記第1のFETのソースと前記電源ICとの間に直列に接続されたコイルと、前記第1のFETのソースと前記第2のFETのドレイン間に接続された第2の抵抗と、前記電源ICの入力側に接続されたコンデンサと、前記第1のFETのゲートと前記第2のFETとの間に直列に接続された第3の抵抗と、前記電源ICの入力側に接続された第2のサージ電圧保護素子とを有する車載用制御装置。
【請求項2】
前記第1のFETのソースとドレインの間の電圧差を検出する第1の差動増幅回路と、前記第3の抵抗両端の電圧差を検出する第2の差動増幅回路と、を備え、前記第1の差動増幅回路の出力と前記第2の差動増幅回路の出力とに基づき前記第1のFETの故障を診断することを特徴とする請求項1に記載の車載用制御装置。
【請求項3】
前記第1のFETと前記第2のFETは、それぞれに並列に寄生ダイオードが設けられていることを特徴とする請求項2に記載の車載用制御装置。
【請求項4】
前記バッテリーの端子が逆接続されたときに、前記第2のFETがOFFとなることで、前記第1のFETがOFF状態となることを特徴とする請求項2に記載の車載用制御装置。
【請求項5】
前記車載バッテリー端子に接続した負荷からマイナスサージが発生したときに、前記電源ICから前記車載バッテリーへ流れる電流の経路を遮断することを特徴とする請求項4記載の車載用制御装置。
【請求項6】
前記バッテリー端子からプラスサージが発生した場合、前記第2のサージ電圧保護素子が前記第2のFETを保護することを特徴とする請求項2に記載の車載用制御装置。
【請求項7】
前記バッテリー端子から適正な電圧が印加された場合、前記第1のFETと前記第2のFETがON状態となり、前記電源ICに電圧が入力されることを特徴とする請求項2に記載の車載用制御装置。
【請求項8】
車載バッテリーと前記車載バッテリーからの出力電圧を所定値まで降下する電源ICとの間に接続された第1のFETと、前記第1のFETのON/OFFを制御する第2のFETと、前記第2のFETのゲートとグラウンドの間に直列に接続された第1の抵抗と、前記第2のFETのゲートとグラウンドの間に接続された第1のサージ電圧保護素子と、前記第1のFETのソースと前記電源ICとの間に直列に接続されたコイルと、前記第1のFETのソースと前記第2のFETのドレイン間に接続された第2の抵抗と、前記電源ICの入力側に接続されたコンデンサと、前記第1のFETのゲートと前記第2のFETとの間に直列に接続された第3の抵抗と、前記電源ICの入力側に接続された第2のサージ電圧保護素子と、前記第1のFETのソースとドレインの間の電圧差を検出する第1の差動増幅回路と、前記第3の抵抗両端の電圧差を検出する第2の差動増幅回路と、を備える車載用制御装置用保護回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−66321(P2013−66321A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204065(P2011−204065)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】