説明

車載用立体音場再生装置

【課題】精度の良い音場を再現する車載用立体音場再生装置を提供する。
【解決手段】着座した受聴者1の左右外耳2L,2Rに対応して、背もたれ8上面のヘッドレスト9に設けた少なくとも2つ以上のスピーカ3と、音源4からの出力信号を立体音場信号に変換して、前記のスピーカ3のそれぞれに供給する立体信号処理手段6とを備え、受聴者1の外耳2L,2R近傍に精度の良い立体音場を再現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車室内の受聴者の頭部に近い位置にスピーカを配置し、受聴者の外耳近傍の音場を制御することによって、受聴者に臨場感豊かな立体音場を知覚させることのできる車載用立体音場再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来はヘッドホンを用いて受聴者に立体音場を聞かせる方式が多数提案されている。この方式は主に鼓膜の音を制御して、原音場を作り出すものである。また、部屋のスピーカや車室内のスピーカを利用して、スピーカから受聴者までの音波の到達時間をそろえて音像の位置を制御したり、スピーカへの入力信号に伝達特性を畳み込んで音場を制御する方法が考案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の車載用立体音場再生装置は以上のように構成されているので、ヘッドホンを用いる方式では外耳から鼓膜までの個人差が非常に大きいため、前に定位すべき音場が後ろにきてしまい、距離感が希薄といった難点があった。また、スピーカを用いる方法では効果の得られる受聴範囲が狭く、車内であれば狙った座席(以下、シートとも称する)に座る一人の受聴者にしか効果がない。さらに車の中では他の受聴者がいる場合といない場合とで効果が大きく変わってしまうといった難点があった。
【0004】
この発明は、上記のような課題を解消するためになされたもので、
a.ヘッドホンを装着することなく、受聴者の外耳近傍に精度の良い音場を再現する
b.片方の外耳近傍の音場を作り出すために少なくとも2つ以上(両耳で4つ以上)のスピーカを用いるため、片耳当たり一つのスピーカを持つ従来のヘッドホンに比べて精度の良い音場を再現する
という車載用立体音場再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る車載用立体音場再生装置は、着座した受聴者の頭部を取り囲むように天井面に該受聴者の左右外耳に対応して設けた少なくとも2つ以上のスピーカと、音源からの出力信号を立体音場信号に変換して、前記のスピーカのそれぞれに供給する立体信号処理手段とを備え、左右外耳に対応してそれぞれ設けた少なくとも2つ以上のスピーカの間にクロストーク防止用の仕切り板を設けたものである。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、着座した受聴者の頭部を取り囲むように天井面に該受聴者の左右外耳に対応して設けた少なくとも2つ以上のスピーカと、音源からの出力信号を立体音場信号に変換して、前記のスピーカのそれぞれに供給する立体信号処理手段とを備え、左右外耳に対応してそれぞれ設けた少なくとも2つ以上のスピーカの間にクロストーク防止用の仕切り板を設けるように構成したので、スピーカと受聴者の頭部との距離が近く、受聴者の外耳近傍に精度の良い立体音場を形成できるとともに、スピーカの設置位置に自由度が得られる。また、クロストークを確実に低減することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明をより詳細に説明するために、この発明を実施するための最良の形態について、添付の図面に従って説明する。
実施の形態1.
図1は立体音場再生装置の配置構成を示す概略図であり、受聴者1の両耳2L,2Rの近傍に3つずつスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3を配置し、各スピーカに対する供給信号によって外耳付近の音場Oを制御する。
【0008】
図2は上記各スピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3に再生信号を供給する再生回路を示すもので、4は各種の音源、5は音源4の出力を切り換える音源選択手段、6は立体信号処理手段、7は6つのスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3に再生信号を出力する6ch(チャネル)増幅器である。音源4は2chのCD、5.1chのDVD、AM,FM音源、ゲーム用の立体効果のある音源、カーナビゲーションの音声案内等である。
【0009】
立体信号処理手段6は図示しないディジタル入力部、アナログ入力部、A/D変換部、ディジタル信号処理部、D/A変換部等から成り、音源選択手段5からの出力信号を立体音場信号に変換するための信号処理を行うものである。図示例は左右外耳に3つずつスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3を配置した場合を示したが、このような配置が望ましい理由について説明する。この場合、制御点(目的とする音波の状態を再現する空間の点)は外耳付近の3点である。
【0010】
第一の理由
制御点に原音場と同じ音圧を作り出すことが可能である。これを実現するためにはスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3から制御点までの伝達関数(時間成分で表現するとインパルス応答)が必要である。この伝達関数は時間長が短いほど、信号処理を行うハードウエアの規模が少なくてすむため、時間長をできる限り短くできるようなスピーカの配置を選択すべきである。一般的な部屋や車室内ではスピーカと制御点の距離を短くすればするほど、伝達関数の時間長が短くなるといえる。
【0011】
つまり、スピーカと制御点が離れれば離れるほど、スピーカから直接制御点に到来する直接音に比べて、部屋や車室内のあらゆる方向から制御点に到達する反射音の割合が増えるからである。逆にスピーカと制御点の距離が近い場合、スピーカから制御点に直接届く直接音の比率が室内の反射音に比ベて大きくなる。伝達関数の振幅はほとんどが直接音で占められることになり、反射音の振幅成分は直接音に比べて極めて小さい。したがって、伝達関数の時間長は直接音の収束する時間と見なすことができる。
【0012】
第二の理由
受聴者の頭部1の左右に配置されたスピーカを外耳の傍に近づけることによって、両耳間のクロストークの割合を減らすことができる。右スピーカを右耳に近づければ近づけるほど、右スピーカから直接右耳に入る音と反対側の左耳にもれる音との比率が大きくなり、結果としてクロストークが減少する。
【0013】
この左右のクロストーク分が少なければ、外耳近傍の音場Oを制御する際に左右の音場の信号処理をそれぞれ独立に行うことが可能になる。この最大の利点は演算規模が1/2にまで軽減されることである。この立体音場再生装置で行われる信号処理はスピーカの数と制御点の数の積に比例する。
【0014】
いま、スピーカの数が左右にNずつ、制御点も左右にNずつある場合を考える。クロストーク分が少なく左右の信号処理が独立に行える場合、演算量は片耳あたりN×N、左右で2×(N×N)である。一方クロストーク分が大きい場合は左右をまとめて処理する必要があるため、2N×2N、すなわち4×(N×N)となる。クロストークが無い場合は演算量が1/2になる。
【0015】
また、この発明の車載用立体音場再生装置は、左右のスピーカは3つである必要はない。スピーカの数に対応して制御点が増えるため、理論的にはスピーカの数が多いほど正確に原音場を模擬することができる。しかし、信号処理量はスピーカの個数の二乗に比例するため、一般的なオーディオ装置のチャンネル数や演算処理能力を考えるとあまり個数の多いものは実用的ではない。
【0016】
一方で模擬の精度といった観点から考察すると、左右一つずつ配置する方法は従来のヘッドホン方式と何らの差異がなくなるため、少なくとも片耳あたり2つからということになる。しかし、片耳2つ用いる手法では2つ制御点を結んだ線上でしか、音場の再現が行えないため、精度としては不充分である。
【0017】
次に3つ用いた場合は、3つの制御点結ぶ3角形の領域内で音場の再現が行える。この場合、制御点で音圧が再現されることにより領域内での音波の進行方向まで再現することが可能である。立体(3次元)音場を知覚するためには音波の進行方向が再現されることがきわめて重要である。このような音波の伝播方向まで考えると、精度の良い音場再現が得られ、かつ実用上大規模にならないというスピーカの個数は左右3つ合計6つということになる。
【0018】
図3は一般的な車の助手席に車載用立体音場再生装置を配置した構成図、図4はその助手席のヘッドレスト部分を拡大した側面図、図5は正面図であり、背もたれ8の上面に突設させたヘッドレスト9にスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3を配置した構成図である。
【0019】
図3、図4において、音源4より出力した信号は、音源選択手段5によって選択され、立体信号処理手段6によって音源4に応じた信号処理がなされ、スピーカの本数分のアナログ信号を出力する(図4では6チャンネルの例)。立体信号処理手段6より出力された信号は、6ch増幅器7によって聴取に必要なレベルまで増幅され、ヘッドレスト9に組み込まれた6つのスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3のそれぞれに入力される。スピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3は受聴者1の頭部をはさんでそれぞれ左右に分けて配置され、スピーカ3L1,3L2,3L3は受聴者1の左耳付近の音場を、スピーカ3R1,3R2,3R3は右耳付近の音場を作り出す。
【0020】
以上のように、この実施の形態1によれば、受聴者の頭部1や外耳に最も近い場所にある背もたれ8の上のヘッドレスト9に、スピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3を配置するように構成したので、受聴者の頭部1が左右のスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3の間に位置し、制御点との距離を小さくできることにより、理想的な受聴領域が左右スピーカ間に形成され、クロストークを低減することができる。
【0021】
実施の形態2.
図7は左右スピーカ間のクロストークの低減を図った構成を示す実施例で、ヘッドレスト9の前面に左右1対の凹部9L,9Rを設け、この凹部9L,9R内の表面より奥まった位置にスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3をヘッドレスト9に深く埋め込んで構成したものである。
【0022】
このように構成すると、図4、図5に示すように、ヘッドレスト8の表面にスピーカを配置した場合は、スピーカからの放射音分布は図6に示すように広くなり、クロストークが強く発生する領域が生じるが、実施の形態2のようにスピーカをヘッドレスト9に深く埋め込むと、スピーカからの放射音部分布は図8に示すようになり、クロストークが強く発生する領域が図6の配置より少なくすることができる。
【0023】
以上のように、この実施の形態2によれば、左右のスピーカのクロストーク発生を確実に低減することができる。
【0024】
実施の形態3.
図9はこの実施の形態3の構成を示す図であり、(a)は側面図、(b)はスピーカを使用状態にした側面図、(c)はその状態の平面図、(d)はその状態の斜視図である。図示のようにヘッドレスト9にスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3を収納し、必要なときに取り出す構成としたもので、左右それぞれのスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3は小さなボックス10L,10Rに収め、このボックス10L,10Rをヘッドレスト9の凹部9L,9Rに出し入れ可能に構成したもので、不使用時はヘッドレスト9の凹部9L,9Rに収納し、使用時にはヘッドレスト9の凹部9L,9Rからボックス10L、10Rを引き出すものである。
【0025】
以上のように、この実施の形態3によれば、ヘッドレスト9に凹部9L,9Rに出し入れ可能に構成したボックス10L,10Rにスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3を収納したことにより、外耳に近い位置にスピーカを配置することができ、理想的なヘッドホン装着に近い受聴状態が得られるとともに、不使用時はボックス10L、10Rを凹部9L,9Rに収納することにより邪魔にならない利点がある。
【0026】
実施の形態4.
図10は車の天井面11にスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3を埋め込んだ実施の形態を示す平面図、図11はその正面図であり、車の天井面11に頭部1を取り囲むようにしてスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3を配置したものである。
【0027】
以上のように、この実施の形態4によれば、車の天井面11は受聴者の頭部1からの距離も近く、また、ヘッドレスト9に比べてスピーカの設置する位置に自由度が得られる。
【0028】
実施の形態5.
前記図10、図11に示すように、車の天井面11にスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3を配置したのみでは、左右のスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3のクロストークレベルが高くなるおそれがある。これを解消するために、実施の形態5では、図12の斜視図、図13の正面図に示すように、頭部1を挟むように、左右に配置されたスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3の間に仕切り板12を設けた構成である。
【0029】
以上のように、実施の形態5によれば、図12、図13に示すように、仕切り板12により左右のスピーカ間におけるクロストークの低減を実現することが可能である。
【0030】
実施の形態6.
図14はクロストークをより低減させるようにした構成図であり、左右両側のスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3を仕切り板12に接近させて配置し、かつ、各スピーカの放射音方向をそれぞれの耳に向けるようにしたものである。
【0031】
以上のように、実施の形態6によれば、右側のスピーカ3R1,3R2,3R3からの直接音が左耳に入るレベルが、また、左側のスピーカ3L1,3L2,3L3からの直接音が右耳に入るレベルがそれぞれ減少し、クロストークの低減がより可能となる。
【0032】
実施の形態7.
図15はスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3と仕切り板12を一枚の板状のボード13に取り付けて一体化し、車の天井面11に前後左右に図示しないレール構造によって移動可能の設けたものである。
【0033】
以上のように、実施の形態7によれば、シートの前後移動や受聴者1の頭の移動が生じても、最適な位置にスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3と仕切り板12を配置することが可能で、常に理想の音響効果が得られる。
【0034】
実施の形態8.
図16は車のフロント座席のようにシート自体が前後に移動する場合、受聴者1の頭部の左右に設けたスピーカ取り付け部14L,14Rを位置調節可能に支持し、かつ、スライド構造を有し互いに屈曲自在に連結されたポール部15〜17、ポール部17の基端を支持する土台部18からなるモジュールをシートと一体化させたものである。ポール部17の基端を支持する土台部18はポール部17を任意の方向に傾斜させることが可能な構造である。
【0035】
以上のように、実施の形態8によれば、シートの前後移動が生じてもスピーカ取り付け部14L,14Rと受聴者1の頭部の位置関係を保持できる。また、ポール部15は左右のスピーカ取り付け部14L,14Rを結合する部分にスライド構造を有し、受聴者1の頭部のサイズに対応して、左右のスピーカ取り付け部間の距離を調整することが可能である。ポール部16、17は、前後および上下にスライド構造を有し、スピーカ取り付け部14L,14Rと頭部の位置関係を細かく調整することが可能である。
【0036】
実施の形態9.
図17は左右スピーカ間のクロストークを低減する目的を持つ仕切り板12を、左右のスピーカ取り付け部14L,14Rを支持するポール部15の中間に回動可能に設けたものである。
【0037】
以上のように、この実施の形態9によれば、仕切り板12によってクロストークを効率よく低減できるとともに、必要のないときは仕切り板12を邪魔にならない後方に回動できるものである。
【0038】
実施の形態10.
図18はリアシート19のようにシートが前後に移動しない場合において、そのリアシート19上のリアトレイあるいはリアセエルフ20に前記図16に示したスライド構造の土台部18を固定したものである。
【0039】
以上のように、この実施の形態10によれば、ポール部15〜17のスライド構造により、シート19が前後に移動しない場合でも、スピーカ取り付け部14L,14Rと頭部の位置関係を細かく調整できる。
【0040】
実施の形態11.
図19は前後車室内のほぼ前後中央にあるピラーにスピーカ3L1,3L2,3L3を、隣席シートの側面にスピーカ3R1,3R2,3R3を配置した実施の形態11を示す平面図、図20は図19におけるスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3の配置を、車輌前方から見た正面図である。
【0041】
図19、図20において、21はドライバー用シート、22はフロント同乗者用シート、23は車室左側のほぼ前後中央にあるピラーであり、前記図2に示すものと同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。なお、音源4として、CDプレーヤなどのオーディオ再生機器を例示するもので、特に音源4の切換を必要としないので、図2で示した音源選択手段5は図19、図20では省略している。
【0042】
立体信号処理手段6は、左chスピーカの逆伝達特性Hsp1、左chスピーカから左耳近傍に置かれたスピーカ3L1,3L2,3L3位置までの頭部伝達関数Hl1,Hl2,Hl3、スピーカ3L1からスピーカ3L2,3L2から3L3,3L3から3L1間のクロストーク信号を打ち消す信号処理部としてのクロストークキャンセル部24、右chスピーカの逆伝達特性Hspr、右chスピーカから右耳近傍に置かれたスピーカ3R1,3R2,3R3位置までの頭部伝達関数Hr1,Hr2,Hr3、スピーカ3R1からスピーカ3R2,3R2から3R3,3R3から3R1間のクロストーク信号を打ち消す信号処理部としてのクロストークキャンセル部25を備えている。
【0043】
所定の左ch用スピーカの逆伝達関数HsPlは、音源4としてのオーディオ再生機器の左ch信号に対して畳み込み演算されて、所定スピーカの特性補正する。所定の右ch用スピーカの逆伝達関数HsPrは、オーディオ再生機器の右ch信号に対して畳み込み演算されて、所定スピーカの特性補正する。
図21はクロストークキャンセル部24(25)の構成を示す回路図である。
【0044】
次に動作について説明する。
ある空間内であたかも音楽を聞いているような印象を抱かせる方法として、左右の耳近傍の音圧、位相、粒子速度をその空間内と同じ状態に保つ方法がある。両耳近傍にスピーカを配置し、スピーカから所定の信号処理をした再生信号を再生すると、空間全体の音響特性に影響されずに、両耳近傍に限定して音圧、位相、粒子速度が再現できる。
【0045】
スピーカ3L1から放射された信号は、左耳近傍空間の音圧成分、位相成分を形成する。スピーカ3L2から放射された音波はスピーカ3L1に影響を与え、その音波を乱す。そのため、左耳近傍空間の音圧成分、位相成分、粒子速度が所定の状態とならない。
【0046】
クロストークキャンセル部24のCL12はスピーカ3L2によって乱される成分の逆特性を予め、スピーカ3L2の信号に加えることにより、スピーカ3L1の信号乱れを防ぐ。スピーカ3L1と3L3間の乱れは、クロストークCL13によって補正される。左chの他のスピーカ3L2、3L3の信号に関して以下同様である。また、右ch信号の関しても、同一構成であるクロストークキャンセル部25によっては同様に信号補正が行われる。
【0047】
以上のように、この実施の形態によれば、ピラーと隣席とにスピーカを取り付けるため、スピーカ取り付けに大きな容積を確保することができ、スピーカの使用種類に自由度が得られ、低音まで再生できる再生領域を確保できる。
【0048】
実施の形態12.
図22は着座席の位置が図19の場合より前方に調整された場合、或いは着座席が後方、上下に、あるいは背もたれ角度が調整されて、スピーカから受聴者1の耳までの距離が遠くなった場合、距離差による時間遅れを遅延処理部で補正する構成であり、図22において、De1ayLは左スピーカ列の距離差により時間遅れを補正する時間遅延部・De1ayRは右chスピーカ列の距離差による時間遅れを補正する時間遅延部である。他の構成は前記図19に示した実施の形態10と同一であるから、同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0049】
上記の構成により、受聴者1の頭部と左右のスピーカ3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3の位置がずれると、頭部伝達関数及びクロストークキャンセル成分が異なってくるが、時間遅延部により幾何学的距離差による時間遅れの影響を補正する。
【0050】
以上のように、この実施の形態によれば、スピーカと外耳との間の距離変化を時間遅延部De1ayL、De1ayRにより補正することができ、クロストークキャンセルを適切に行うことができる。
【0051】
実施の形態13.
実施の形態13は、図23に示すように、着座席位置に連動して、着座位置メモリ26から着座位置情報を読み出す座席位置制御部27と、この座席位置制御部27の出力に基づいて畳み込み係数メモリ28から畳み込み係数を読み出し、立体信号処理手段6に送る畳み込み係数制御部29を備えたもので、他の構成は前記図19に示した実施の形態10と同一であるから、同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0052】
次の動作について説明する。
畳み込み係数メモリ28内には、着座シートの所定の位置ごとに、予め頭部伝達関数とクロストークキャンセル成分を測定した畳み込み係数をメモリしておき、着座席の位置に最も近い位置の係数を読み出し、立体信号処理手段6に供給するもので、立体信号処理手段6からは着座シートの位置に対応した頭部伝達関数とクロストークキャンセル成分を考量した出力信号を6ch増幅器7を介してスピーカに供給することができる。
【0053】
以上のように、この実施の形態13によれば、着座シートの位置に適したクロストーク低減効果が得られる。
【0054】
実施の形態14.
図24は着座席の位置により頭部伝達関数の違いを、ヘッドレストに配置したマイクロホンML1〜ML3,MR1〜MR3により測定して畳み込み係数を求めメモリする実施の形態14を示す構成図であり、着座位置に応じて畳み込み係数メモリ31から畳み込み係数を読み出し、畳み込み係数制御部32に供給する伝達特性測定部33を備えたもので、他の構成は前記図19に示した実施の形態11と同一であるから、同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0055】
図25は畳み込み係数の求め方を示す説明図であり、ML3はヘッドレスト左側に取り付けた前方のマイクロホン、ML1は同じくヘッドレスト左側に取り付けた後方のマイクロホン、ML2はML1とML3の間に位置するマイクロホン。同様にMR1,MR2,MR3はヘッドレスト右側の取り付けたマイクロホン。ML1A〜ML3A,MR1A〜MR3Aは各々、マイクロホンML1〜ML3,MR1〜MR3の前置増幅器。3L1〜3L3、3R1〜3R3は各々前述のスピーカである。
【0056】
Gl1−ml1はスピーカ3L1とマイクロホンML1間の伝達関数、Gl1−ml2はスピーカ3L1とマイクロホンML2間の伝達関数、Gl1−ml3はスピーカ3L1とマイクロホンML3間の伝達関数、Gr1−mr1は右のスピーカ3R1とマイクロホンMR1間の伝達関数、Gr1−mr2は右のスピーカ3R1とマイクロホンMR2間の伝達関数、Gr1−mr3は右のスピーカ3R1とマイクロホンMR3間の伝達関数である。
【0057】
次に図26のフローチャートについて、畳み込み係数を測定する動作について説明する。測定開始スイッチ34をONすると、6ch増幅器7から白色雑音信号が発生され、スピーカ3L1から放射される。放射された白色雑音の音波はマイクロホンML1,ML2,ML3で収音され、前置増幅器ML1A,ML2A,ML3Aを通って、伝達特性測定部33に入る(ステップST1)。
【0058】
伝達特性測定部33では、元の白色雑音信号とマイクロホンML1で収音した信号から伝達関数を求める。例えば、白色雑音信号とマイクロホン信号をディスクリートフーリエ変換し、その比から伝達関数を求める。その伝達関数の逆伝達関教がクロストークキャンセル部24のCL11となる(ステップST2)。
【0059】
白色雑音信号とマイクロホンML2の収音信号からCL21、白色雑音信号とマイクロホンML3の収音信号からCL31が求まる。スピーカ3L2から白色雑音を再生し、マイクロホンML1で収音した信号からCL12、マイクロホンML2で収音した信号からCL22、ML3が収音した信号からCL32が求まる。スピーカ3L3についても同様。右スピーカR1からR31についても同様に測定する(ステップST3)。測定した逆伝達関数は、畳み込み係数として、畳み込み係数メモリ31に格納する(ステップST4)。
【0060】
再生時には、畳み込み係数メモリ31から畳み込み係数を読み出し、畳み込み係数制御部32を介して立体信号処理手段6に転送し(ステップST5)、音源4からのオーディオ信号に係数を畳み込み演算し(ステップST6)、D/A変換して6ch増幅器7へ送る(ステップST7)。
【0061】
以上のように、この実施の形態14によれば、着座席の位置により頭部伝達関数の違いをヘッドレスト9に配置したマイクロホンML1〜ML3,MR1〜MR3により測定し、畳み込み係数を求めて畳み込み係数メモリ31に格納し、再生時には畳み込み係数メモリ31から畳み込み係数を読み出し、立体信号処理手段6に送って再生するので、常に受聴者の頭部位置に適した立体音場再生空間を形成することができる。
【0062】
実施例13及び14は図19の前列左席の乗員について述べたが、前列右席の運転者に関しては車室右側ピラーと前列左シート側面にスピーカ列を配置することにより、同様の効果が得られる。
【0063】
また、図11に示す天井配置のスピーカについても、着座シートの変化に対応して同様の効果が得られる。
【0064】
以上のように、この発明に係る立体音場再生装置は、受聴者に臨場感豊かな立体音場を知覚させるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】立体音場を再生するスピーカの配置状態を示す概要図である。
【図2】音源からの出力信号を立体音場信号としてスピーカに再生信号を供給する再生回路のブロック図である。
【図3】スピーカを助手席のヘッドレストに配置した状態を示す概要図である。
【図4】図3のヘッドレスト部分の拡大側面図である。
【図5】図3のスピーカに対する再生信号供給回路のブロック図である。
【図6】図4のスピーカからの放射音分布図である。
【図7】ヘッドレストに対するスピーカの他の配置状態を示す図であり、(a)は側面図,(b)は斜面図である。
【図8】図7のスピーカからの放射音分布図である。
【図9】ヘッドレストに対するスピーカの他の配置状態を示す図であり、(a)は不使用状態図、(b)は使用状態図、(c)は使用状態の平面図、(d)は使用状態における斜視図である。
【図10】着座した受聴者の頭部を取り囲むように天井に該受聴者の左右外耳に対応してスピーカを配置した平面図である。
【図11】着座した受聴者の正面図である。
【図12】左右のスピーカの間に仕切り板を配置した斜視図である。
【図13】図12の正面図である。
【図14】左右のスピーカを仕切り板近傍に配置した正面図である。
【図15】スピーカ、仕切り板を一体化したボードを天井面に左右前後移動可能に設けた斜視図である。
【図16】スピーカをポールで支持した構成を示す斜視図である。
【図17】スピーカの間にクロストーク低減用仕切り板を設けた斜視図である。
【図18】スピーカをリアシート上のルーフに取り付けた状態を示す斜視図である。
【図19】スピーカをセンターピラーと隣座席の側面に取り付けた平面図である。
【図20】図19の正面図である。
【図21】クロストークキャンセル部の回路構成を示すブロック図である。
【図22】時間遅延部を有する構成のブロック図である。
【図23】着座位置の変化に応じてメモリから着座位置を読み出す構成を示すブロック図である。
【図24】伝達特性測定部を有する構成のブロック図である。
【図25】伝達特性測定の説明図である。
【図26】伝達特性測定動作および再生動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 受聴者、2L,2R 両耳、3L1,3L2,3L3、3R1,3R2,3R3 スピーカ、4 音源、5 音源選択手段、6 立体信号処理手段、7 6ch増幅器、8 背もたれ、9 ヘッドレスト、9L,9R 凹部、10L,10R ボックス、11 天井面、12 仕切り板、13 ボード、14L,14R スピーカ取り付け部、 15,16,17 ポール部、18 土台部、19 リアシート、20 リアセエルフ、21 ドライバー用シート、22 フロント同乗者用シート、23 ピラー、24,25 クロストークキャンセル部、26 着座位置メモリ、27 座席位置制御部、28,31 畳み込み係数メモリ、29,32 畳み込み係数制御部、33 伝達特性測定部、34 測定開始スイッチ、ML1,ML2,ML3,MR1,MR2,MR3 マイクロホン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座した受聴者の頭部を取り囲むように天井面に該受聴者の左右外耳に対応して設けた少なくとも2つ以上のスピーカと、音源からの出力信号を立体音場信号に変換して、前記のスピーカのそれぞれに供給する立体信号処理手段とを備え、左右外耳に対応してそれぞれ設けた少なくとも2つ以上のスピーカの間にクロストーク防止用の仕切り板を設けたことを特徴とする立体音場再生装置。
【請求項2】
左右外耳に対応してそれぞれ設けた少なくとも2つ以上のスピーカを仕切り板に接近させて配置し、放射音の向きをそれぞれ外耳に向けたことを特徴とする請求項1記載の立体音場再生装置。
【請求項3】
左右外耳に対応してそれぞれ設けた少なくとも2つ以上のスピーカと、そのスピーカの間に設けた仕切り板をボードに一体的に組み付け、このボードを天井面に対し前後、左右移動可能に設けたことを特徴とする請求項1記載の立体音場再生装置。
【請求項4】
着座した受聴者の頭部を挟むように左右にスライド可能な第1のポールの両端部に設けたボックスに設けたそれぞれ少なくとも2つ以上のスピーカと、一端に前記第1のポールを取り付け、前後にスライド可能な第2のポールと、支持部に傾動自在に支持し、先端を前記第2のポールの他端と連結した上下にスライド可能な第3のポールとを備え、前記第1のポールにクロストーク低減用の仕切り板を左右のスピーカ間に出し入れ自在に設けたことを特徴とする立体音場再生装置。
【請求項5】
支持部をリアシート上のルーフに固定したことを特徴とする請求項4記載の立体音場再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2008−271600(P2008−271600A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175713(P2008−175713)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【分割の表示】特願2003−501230(P2003−501230)の分割
【原出願日】平成13年5月28日(2001.5.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】